シャーレ活動備忘録   作:遊園市街

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神髄

「揺れている……のか?」

「ん~、地震?」

「地震にしては振動のパターンが単調な気がしますが……」

 

 同刻、突入部隊が地面の異常な揺れを感知した頃。陽動部隊としてエリドゥの最外周から徐々に中央へ進軍しているC&Cも同様に地面の振動を感知した。だが、感じられる振動は突入部隊とは比較にならないほど小さく、地面に立っていると『何となく揺れている気がする』と思う程度。同じ都市内で起きている事とは思えない程温度差のある影響。だが、その差異を指摘する者は此処にはいない。

 

 そして、エリドゥを襲っている異常を事前に知らされている者が一人。

 

「……リオ様、手札を1つ使われたのですね」

 

 懐刀たるトキだけは、この現象を事前に教えられていた。エリドゥが持つ数ある手札の内の1つ、防衛戦に於いて最も効力を発揮する機構。リオからすれば使っても痛くない手札であろうが、それでも使わせた事実が大事なのだ。秘密のヴェールが1つ剝ぎ取られたのは大きい。

 

 ────負けるとは思わない。現状はどう考えても此方の方が有利だ。奥の手まで含めれば盤石と言ってもいい。しかし、トキは知っている。イレギュラーがある事を。自身が交わした取引で持ち込まれた……否、持ち込まざるを得なかった、盤面を崩す特異点。それを考えると……。

 

「……可能な限り、早く対処した方が良いですね」

「余所見してんじゃねぇぞッ!」

「しておりません。見えています」

 

 弾丸のような速さで突貫するネル。頭に血が上ったような顔をしながらも頭脳の冴えと冷静さは変らない。両手に構えた銃で的確に動きを阻害しトキを仕留めんと果敢に襲い掛かるが……それらは全て見え透いている。

 トキは敢えて棒立ちで銃撃をやり過ごし、直撃コースはシールドで防御。突撃するネルを真っ向から迎え撃つ。彼我の距離がクロスレンジに移った時に、両者は共に仕掛けた。

 トキは右アームギアに仕込まれたショートブレードをポップアップ。グリップを握り締め横薙ぎの軌道を選択する。

 突然出て来たブレードに『今まで温存していたのか』と驚愕するが、まだ間に合うと判断。ネルは驚異的な反応で銃に取りつけられた鎖を手繰り寄せて迫っていたブレードを絡め取った。

 この時の為に隠していた武器が1つ奪われたトキであるが、その鉄仮面に揺るぎはない。彼女は何の躊躇もなくブレードを手放し、腕部スラスターで加速。骨を容易く砕く威力を持った手刀でネルの首をへし折らんとする。だが、その攻撃もネルには通らない。端を足で踏みしめ、ぴんと張った鎖でトキの腕を受け止めた。金属が奏でる不協和音、散る火花。ゼロ距離で睨み合う両者。

 

「ハッ……!」

「……」

 

 鎖から落下するブレードの柄をネルは蹴り上げ攻撃するがトキは顔を逸らす事で難なく回避。寧ろそれを隙とみて足払いを仕掛けてネルの体勢を崩した。だが、ネルもただで転ばない。もう一丁の銃に仕掛けられた鎖でトキの左腕を拘束し、そのまま思いっきり引っ張った。すると当然、トキもネルに釣られて地面へと倒れ込む。

 

「────」

 

 互いに向ける銃。鼻の先が触れそうな距離に銃口があって、暗闇が互いを見つめていた。当然の如く回避できないレンジ。ネルはこのまま我慢比べとしゃれこむつもりであったのだが、トキはそんな勝負に興味はない。スラスターの加速度がたっぷり乗った足でネルの体を蹴り飛ばし無理矢理距離を取った。

 吹き飛ばされた先に在ったビルに蜘蛛の巣状の罅が入り、壁が倒壊する。しかし降り注ぐ瓦礫はSMGの火力で全て粉砕されて、下に居る彼女を襲う事はない。

 

「……痛ぇな」

 

 煙が晴れた先には痛そうに顔を歪めているが、体はほぼ無傷のネルが何食わぬ顔で立っていた。彼女は僅かに赤く染まる唾を吐き出し、口元を乱暴に拭って……顔を好戦的に歪めて銃を構えた。

 

「さぁ、仕切り直しだ」

 

 

 ▼

 

 

 通常、地震や洪水、土砂崩れ等の被害が広範囲に及ぶ災害は発生と影響範囲がある程度判明され次第、即座にクロノスなどの情報機関が速報を流す。いつもは割と適当なフェイクニュースを流し、世間からの信用がお世辞にも高いとは言えないクロノススクールであるが、災害に対する動きの速さだけは認められている。

 しかし、そんなクロノススクールはおろか他の報道機関も一切エリドゥを襲っている地震について報道していないのだ。いくら秘匿されているとはいえエリドゥはキヴォトスの内部にあり、極論学園自治区やD.U.と同列だ。大半が『ここは要塞都市エリドゥである』とか『ここには何か隠されている』と思わないだけで、高い場所から見下ろせばエリドゥがある座標は望める。

 それにも関わらず、災害速報が流れてこない。これはあらゆる情報を握るヴェリタスが太鼓判を押す事実だ。

 

 いや、エリドゥの地震が報道されないのは百歩譲って良いとしよう。しかし、エリドゥだけを襲う地震なんてない。仮に震源がエリドゥ直下であっても必ず周囲に影響が出る。秘匿されているのはエリドゥだけで、近辺はオープンだ。その場所で起きている異変は掴めないとおかしい。

 

 故に、エリドゥを襲っている地面の揺れは自然現象ではないのだ。

 

 一体何が起きているのか────そう思ったハレは画面越しに奇妙なものを見る。

 突入部隊のマーカーが動いているのだ。一定の速度で、機械的に。しかもその方向は目的地たる中央タワーとは真逆。入口に戻る方角だった。

 

「皆、そっちは進行方向じゃないよ。目的地は────」

「ハレ先輩、皆が動いているんじゃない! 都市全体が動いてる! 嘘でしょ!?」

 

 ハレは弾かれたように手元のPCでエリドゥのデータを収集する。セキュリティを突破し、ファイアウォールを超え……そして、都市に仕掛けられている監視カメラの1つ、突入部隊が居るセクションを掌握した。

 

 画面いっぱいに映される監視カメラの映像、其処には────マキが言った通りの信じられない光景が映し出されていた。

 

 

 ▼

 

 

 突入部隊の眼前に映る光景は、フェイクだと思ってしまうほど現実感が無いものだった。音も聞こえている、見えてもいる。何なら自身でも体験している。しかし、そのスケールが規格外過ぎて脳が正常に理解できていない。

 

 ビルが、設備が、都市が動いている。稼働し、その配置を刻一刻と変えている。先ほどまで道だった場所は行き止まりになり、何もなかった場所にビルが建つ。吹き飛ばした隔壁も入れ替わり、迎撃システムも新調される。

 

 そして、少女達が立つ地面も例外ではない。稼働し、一歩も動いていないはずなのに座標が変わる。中央タワーから、アリスから遠ざかる。ヴェリタスが算出したルートは使い物にならなくなり、立っている場所ごと振り出しに戻される。

 

「どうなってるのこれ!?」

「……何が出てきても不思議ではないと思っていたけど……まさか都市全体にこんな大規模な仕掛けをしているとはね」

 

 簡単に言ってしまえば、この都市全体がスライドパズルの拡大版なのだ。

 正方形に区切られたセクション、碁盤の目のように理路整然とした外観。思えば、都市全体も正方形だった。それも全て、この仕掛けを円滑に動かすための用意。

 要塞都市エリドゥ、防衛戦にて最も効力を発揮する施設。仮に外敵から攻め込まれても都市の構造を変化させることにより相手を封じ込める。恐らく、完全な要塞として使うのならば隔壁を持つセクション全てを外周に移動させるのであろう。

 

 仕掛けも単純に、都市の基盤にレールと動力を仕込んでいるのだろう。それを自在に動かし、その時に応じた最適な都市の形に整える。今回は妨害。リオは彼女達を目的地に辿り着かせないために迷宮のように入り組んだ構造にエリドゥを変化させた。

 

 これは少々拙い事になった、とウタハは思考する。唯でさえタイムリミットが分からない現状、可能な限り時間は掛けずにいたい。しかし、今はこうして振り出しに近い位置に戻され、中央タワーへと至る道は迷宮の中に閉ざされた。ヴェリタスがまた一からルートを解析しても、もう一度構造を変えられてしまえばその努力も無に帰す。

 

 つまり突入部隊はいつ振り出しに戻されるか分からない状況で、リオの指先一つで姿を変える都市のゴールを探さなければならない。制限時間が明確に存在する現状、どう考えても現実的ではないだろう。

 

 ────一応、都市の迷宮を無視する方法は存在する。それは単純に空を飛ぶことだ。変化するのはあくまで陸路、この場から飛び立ち空路で一直線に中央タワーに向かえば関係ない。最速最短で辿り着けるだろう。だが、数多の最新鋭ヘリを叩き落とした対空防御を潜り抜ける事ができれば、という前提条件がある。その前提の壁が、余りにも高い。

 

 それか、超高火力兵装でビル群をぶち抜きながら一直線で進むか。しかし、これもそんな火力の武装を扱えるメンバーがこの場に居ないため現実的ではない。光の剣(スーパーノヴァ)があれば、或いは……とは思うが、扱える少女も武装自体もリオに囚われている。この方法は選択できない。

 

 そして、最後の1つ。エリドゥを動かしているシステムをハッキングして停止させる方法。だが、これも最高峰のセキュリティを突破し、かつリオとの競り合いに勝たなければならない。何方か片方ならば可能だっただろう。しかし、両方となれば流石のヴェリタスでも荷が重いと言わざるを得ない。その両方を熟せるのはヒマリか先生くらいであろう。

 

 しかし────最後の手段が最も現実的と言わざるを得ない。

 

「ヴェリタス、済まないが……」

『はい。私達でエリドゥの基幹システムに攻撃を仕掛けます。陥落は困難でしょうが、妨害はしてみせます』

「ありがとう、それで充分さ。後は私達で何とかするよ。無茶なお願いをして悪いね」

 

 その言葉を最後にヴェリタスからの通信が途切れる。現時刻を以てヴェリタスはエリドゥ基幹システムの陥落に全力を注ぐため、これまでの様な支援は期待できない。ドローンや防衛システムの妨害も、敵の探知も。彼女達は文字通り身一つで難攻不落の要塞を攻略しなければならない。

 

「ドローンを出すよ。焼け石に水だけど、ないよりはマシだから……」

 

 ヒビキの手元から離れるドローン。元は彼女の武装である迫撃砲を十全に扱うために作られた外部補助であるが、探知等の基本的な機能は大体揃っている。勿論、彼女の発明品らしくNFC機能とBluetooth機能、ついでに自爆機能も完備だ。

 

 彼女の近くにホバリングし、各種センサーとカメラが稼働する。ゴーグルに映る情報から得られたデータは、確かにこの場所はエリドゥ外端に近い場所である事と────そして、C&C迎撃の為に使われたドローンがこの先のセクションで待ち構えている事だ。隣接するセクションからもドローンを集めたのか、その数はマキが教えてくれた時よりも増加している。

 迂回路はない、故に前に進むのみ。

 

「予想外の事はありましたが、やる事は変りません! 目的は依然変わらずアリスの救出、目的地は中央タワーです!」

「うん……コトリちゃんの言う通りだね。アリスちゃんを、助けないと」

「よーし、皆、前進!」

 

 何回リスタートされようが、理不尽に打ちのめされようが決して諦めない。あらゆる障害、意図、その全てを凌駕し、目指すのはハッピーエンド。その誓いは決して揺るがず、ただ前へ進む。その先に、輝かしい未来がある事を祈って。

 

「交戦距離に入った……!」

 

 ヒビキの声に呼応し、全員が武器を構える。強い意志が籠った瞳で見据えるのは、ドローンが守るその先。

 

「皆、気を付けて……!」

 

 ユズが発射したグレネードランチャー。その一発が開戦の狼煙となり激闘が幕明けた。

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