シャーレ活動備忘録   作:遊園市街

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託した者、託された者

 ヴェリタスによるアバンギャルド君の弱体化。

 殆ど消耗していないセミナー3名の参戦。

 規格外の指揮能力を持つ先生の参加。

 

 この3つの要素により先ほどまでの圧倒的な盤面振りが覆され、拮抗すら通り越して有利となった。先生により齎された各種強化とサポート、増幅された戦闘能力。彼の戦術指揮。身体の重さも消えて、思う以上に身体が動く。以前、廃墟等で彼と共に戦った際に感じた感覚を再び覚えていた。

 

 そして────ついに、アバンギャルド君のガトリング砲が根元から吹き飛んだ。更に足回りのキャタピラも右側が吹き飛び、バランスを崩した相手は姿勢制御が儘ならず地面へと崩れ落ちた。

 

 作り出された二度とない絶好のチャンスを前に、エンジニア部は準備を整えていた切り札を装填する。

 

「アバンギャルド君の動きが鈍った今がチャンスだ! 行くよ、エンジニア部!」

「はい! ラジャー!」

「分かった、アレを設置するね」

 

 駆け出す3名。それをセンサーで捉えたアバンギャルド君は走り出しの初動を潰さんとバズーカ砲を構え射出するが────その攻撃は届かない。シッテムの箱と先生の複合機能である青い障壁が少女達の眼前に展開されあらゆる攻撃を塞き止めた。乱暴に虚空を叩く銃弾は準備を進める少女達に一切の手傷を負わせる事無く、アバンギャルド君は自身を終わらせる兵器が目の前で組み立てられる様をただ眺める事しかできない。

 

 障壁の展開時間は10数秒、その間にきっちりと準備を終えたエンジニア部は先生にアイコンタクト。それに確りと頷いた彼はシステムを介した指示を送る。全員退避、確保する距離は最低50m。ヘイローを持つ少女達にとってその程度の距離は殆ど無いに等しい。身体能力を活かし、全員が一瞬で飛び退いた。

 

「自律追跡機能に加え、防水防塵も完璧」

「更に絶対零度や3000℃を超える高温下でも安定した稼働が可能な、超々安全認証を保証した……!」

「私達エンジニア部の半年分の予算をつぎ込んで作った最強の────」

 

 羅列された機能。それは宛ら、詰め込めるものを最大限詰め込んだ、子どものおもちゃ箱のよう。最早何を想定し、何処で使う事を考えたのか分からなくなるほどに追及した環境対策。下半期の予算の内70%をつぎ込んだ、アリスが持つ光の剣(スーパーノヴァ)よりもちょっとだけコストを抑えて作られた、エンジニア部の傑作とも呼べるそれは────。

 

「最新式遠隔スピーカー!」

 

 スピーカーとは名ばかりの何かだった(どこからどう見てもミサイルだった)

 

「えぇ……?」

「何、この……何……?」

「やっぱりエンジニア部ってバカの集まりなの?」

 

 ユズは脳のキャパを超えたのか困惑の声を漏らし。ミドリは形容する言葉が見つからないそれに苦笑いを浮べ。モモイは真顔で辛辣な、だが限りなく正論に近い事を言っている。

 

 スピーカーの形がどう見てもミサイルなのは百歩譲って良いとしよう。だが、底部にはノズルと操舵翼と姿勢制御部分があり、先頭部にはシーカーが搭載されている。どれもスピーカーには無用の長物だ。そして、スピーカーに最も重要である音を出すユニットが何処を見ても見当たらなかった。これは果たして世間一般のスピーカーなのか。

 

「スピーカーになんでそんな機能付けるのよ……」

「愚問だね、ユウカ」

「そもそも機能というのはですね! 付けれそうなときに────」

「目一杯つけておくのが鉄則」

「つまりはそういう事さ」

 

 ユウカは『また変なものを作って……』と言わんばかりに顔を顰めて腕を組んでいる。これが平時ならば小言の1つや2つ言うのだが、今は奇想天外なビックリメカに助けられている立場のためそれ以上何も言わずに大人しく口を噤んだ。

 エンジニア部の奇行は今に始まった事ではない。要件定義をしっかりしたのにも関わらずその穴を突くような形で好みや癖を詰め込んだものを提出してくるのだ。それでいてきちんと有用であるし、追加の技術料等も取らないため単純に機能が幾つか増えただけ……と素直に考えられないのはユウカがかっちりとした役職に就いているが故なのだろうか。

 

「それでは────発射!」

 

 ウタハは手元のリモコンの赤いボタンを押し込み、システムを起動させる。スピーカーのノズルからは赤い炎が噴き出し、次第にそれは青く色を変える。ターゲットのロックも完了し、射角も固定された。

 そしてスピーカーからは発射までのカウントダウン音声が流れる。外見からは想像できないが、名前の通り一応音を出す機能は備わっていたらしい。

 

 そして、カウントダウンの音声が0になると同時、スピーカーは白煙を虚空に描きながらアバンギャルド君目掛けて射出された。エンジニア部の半年分の予算とマイスター達の多くの時間を掛けて作られた傑作は、それ相応の高い性能を持っている。搭載された爆薬も新素材開発部から取り寄せた特注品であり、各種センサーは米粒より小さい羽虫すら正確に捕捉し撃ち落とす。最終的なミサイルの速度は一般的な長距離ミサイルの秒速6kmを大きく超える第三宇宙速度(秒速16.7km)。足回りの自由を奪われたアバンギャルド君が逃げれる訳が無かった。

 

 発射から1秒も経たずに着弾。轟音が鳴り響き、炎が立ち昇った。爆発の余波で近隣のビルに罅が入り、高温によりコンクリートが融解。黒い煙が退避した少女達の方まで届くが、いつの間にか展開された障壁により阻まれる。どうやら攻撃だけではなく煙等の有害物質すらプロテクトの範囲にあるらしい。

 

 ゲーム開発部の少女は固唾を呑んで事の行く末を見守る。彼との接続により煙に塗れていても尚視界は良好。抉り抜かれた爆心地の中に佇む巨大な機械。アレは果たしてまだ動くのか。

 

「……わ、私、あのセリフ言いたくてムズムズする……!」

「お姉ちゃん、それはちょっと我慢して!」

「……ぜ、絶対言う必要ないよ。余計なフラグが立っちゃうから……」

 

 涼やかな風が吹き、煙が晴れる。モモイのフラグ発言をミドリとユズが止めたのが功を奏したのか、苦戦を強いられたアバンギャルド君は完全に沈黙していた。

 腕は全て捥げ、足周りもキャタピラが吹き飛び、ダサくも愛らしさが滲んでいなくもない頭部は無造作に地面に転がり落ちている。消耗していたとはいえ、あの硬度のアバンギャルド君を一撃で戦闘不能に追いやったマイスター達の傑作が凄まじいというべきか、或いはあの攻撃を食らっても尚原型を留めているアバンギャルド君が凄いのか。

 

「やはり、私達が作ったスピーカーは響きが良いね!」

「そういう意味のスピーカーだったんだね」

「まぁまぁ、細かい事は置いときましょう! 兎に角これで……!」

「うん、やっと倒せたね」

 

 苦戦を強いられたアバンギャルド君の撃破は完了した。此方側も大きく消耗したが、未だ致命的ではない。戦力も戦闘力も残っている上に、切り札はまだ手の中だ。アバンギャルド君もなくなった今、残るリオの手札はトキだけ。尤も、フル装備の彼女が最も手強いのだが……そこは先生がどうにかできる範疇だ。依然として限界だが、余程何処かで足止めされない限りこの作戦終了までは持つ。

 

 ────その後、この脆弱な体がどうなるかは分からないが。

 

「やったー! 倒したよー!」

「み、皆で力を合わせたおかげで、た、倒す事ができた……」

「そうだね。その、何というか……」

「レイドボスの討伐に成功した、みたいな!」

 

 踏破不能に思えた困難を持ち得る力で乗り越えたことが余程嬉しいのだろう。ゲーム開発部の少女達はハイタッチを交わしながら喜んでいる。込み上げる達成感と充足感。確かにレイドボスを討伐した、というのはゲームで例えると正しいのかもしれない。だが、これは現実だ。ボスを倒してはいお終い、とはいかない。

 

「皆、お疲れ様。でも本番は此処からだ」

『そうだね。ネットワークを維持できているうちに移動しないと……取り敢えず、ナビするよ』

「任せても良いのかい?」

『うん。この後を考えると先生は可能な限り温存しておいた方が良いし……それに、今も結構しんどいよね?』

「……隠し事はできないな」

 

 チヒロの気遣いに彼は苦笑いを浮べた。逐一状況を報告し合っていたからか、彼女達は彼の状態をある程度は把握している。勿論ノアほどその仔細を知ってはいないが、今此処に居る彼が限界を幾つも踏み越えた結果だというのは充分すぎるほどに分かっていた。彼はこの作戦の要だ。道半ばで失う訳にはいかない。

 

 そんなチヒロと先生の会話を聞いていたモモイはハッとして。

 

「そうだ! 先生、怪我は……」

「大丈夫、とは口が裂けても言えないけど……何とかできる範疇だよ。皆の前なんだ、情けない姿は見せないさ」

 

 彼は「もう遅いかもしれないけどね」と呟き、ノアやユウカ、コユキの方を見やる。モモイにその言葉の真意は分からなかったが、彼の口振りとボロボロの姿、そして彼を見つめるセミナー3人のジト目から何となく事の一端は掴めた。恐らく、彼が無茶を通したのだろう、と、

 

 少し冷たい風が吹く。ミドリは汗を冷やすような心地の良い温度に身を預けてると、視界の隅で白が躍っていた。マフラーのように首元に巻きつけられた、マフラーよりも細い布。その下にある傷跡を彼女は見てしまった。

 首に走る一文字。その部分だけ肌色ではなく、歪に変色している。傷口を彩る赤色。よく見れば包帯も赤く滲んでいる。まだ完全に傷口が治り切っていないのか、それとも傷口が開いたのか。それは分からないが、偶々見えてしまった傷は彼女の心に昏い濁りを落とした。

 

「……ごめんなさい……私の所為で、傷……」

「ミドリの所為じゃないよ。私がやりたくて……君が大切で、守りたくてやった事だ。後悔はない。ミドリが無事なら、それだけで私は良かったんだ」

 

 ノータイムでの返答。彼の性格から容易に予想できた答え。それに少しだけミドリは心が軽くなったが……それでも、自分を許す事はできない。あの傷は必ず痕が残る。傷跡を誰かに見せたくないであろう優しい彼はもう人前で首元を晒せなくなる。彼の自由を、奪ってしまった。その現実が数日越しにミドリの背に重く圧し掛かる。あの時の彼の選択を無為にすると分かっていても、彼の思いを無駄にすると分かっていても……あの時傷ついたのが自分(ミドリ)であれば良かったのにと考えてしまう。

 

 そんな彼女の心の黒を察したのか、彼はミドリのすぐ近く……すぐに触れられる距離まで近寄って、目線を合わせる。それから、誰も聞いたことがないような一際優しい声音で。

 

「ほら、傷は男の勲章って言うだろう? 別に傷つくことを肯定するつもりはないけど、ミドリを守った結果だと思えば……うん、最高に誇らしいよ」

 

 誰もが無常の安心感を覚える、聖女のような清廉さと貞淑さを携えた笑みと、その裏に隠れた等身大の青年の顔。聖人のようでありながら、その存在を否定している彼らしい二面性。

 どの様に果てようと彼はその生涯で戦いに関する全てを肯定する事はない。そして、戦いや傷に意味を見出す事も。そんな彼の口から零れた、限定的ながらも傷ついた過程を肯定する言葉。

 

「私はミドリが、皆が無事でいてくれて心の底から嬉しいんだ」

 

 ────だから、『自分が代わりになれば』なんて思わないで。

 

 見慣れた笑みを浮べる彼。ゲーム開発部の部室で彼はよくこんな笑みを浮べていた。まるで星を見上げるような笑顔。それに毒気が抜かれたミドリも少しだけ彼に寄せた笑みを浮べた。不格好だと思うし、背伸びし過ぎだと理解している。だけど、今だけは彼と同じ景色を見たい。そんな少女らしい願い。

 明日じゃなくてもいい。今週じゃなくていい。今月じゃなくても。締め切りなんてないから、ゆっくりとミドリのペースで。いつか、ミドリがミドリ自身を許せるように。

 

 彼女の眩しさに目を細めた彼は『ミドリはもう大丈夫』と思い、優しく抱きしめてから距離を離し……アバンギャルド君撃破のMVPたるエンジニア部の方を見やった。

 

「エンジニア部の皆は行けそう?」

「勿論……と言いたい所だけど」

 

 力なく笑ったウタハは少しふらつき、地面に倒れ込みそうになったが……いつの間にか近くまで来ていた先生が咄嗟に支えて事なきを得た。

 

「……っと、済まないね」

「……うん、私達は此処までみたい」

「インドア派にはあまりにも無茶な動きをしてしまい……」

「見ての通りだ。最後まで付いて行けず面目ないが、私達は此処で戦線離脱だ」

 

 彼女達は彼女達でずっと無茶をしていたらしい。元々インドア派で、力ではなく知性を武器とする部活。発明品は兎も角として、彼女達自身がこういった真正面からの戦闘に大きく長けている訳ではない。都市内部に侵入してから戦闘に次ぐ戦闘、加えてゲーム開発部への手厚いサポート。体力はとうに限界を迎えていた。

 

「ウタハ先輩……」

 

 モモイの口から声が漏れる。惜しむような声。この先、3人が居なくとも大丈夫なのかという不安。それらは少しだけ彼女の心に影を落とすが────直ぐに満面の笑みを浮べて、握り締めた小さくとも強い拳を真正面に突き出して。

 

「ううん、大丈夫! 助けてくれてありがとう! さっきのスピーカー、凄くカッコ良かった! この先は私達でどうにか頑張るね!」

 

 その言葉を聞いてウタハは同じように笑い、拳を握る。そしてモモイの拳と自身の拳をこつんと合わせ、彼女達の勝利を祈った。ちらり、と先生を横目で見ると彼は悪戯っぽくウィンクを返答。後は任せて、だそうだ。

 

 ────全く、先生も無茶をするね。この場の誰よりも辛いだろうに。

 

 その言葉を胸の奥に仕舞い込み、ウタハは「モモイ」と名前を呼んで。

 

「ん?」

「これをあげる。いざという時に役立つはずだよ」

「……うん、分かった」

 

 ウタハから()()()()を受け取ったモモイはそれを大切に仕舞い────中央タワーに足を向けた。無論、モモイだけではない。ミドリ、ユズ、ユウカ、ノア、コユキ。そして、先生も。

 

「それでは、皆さん……この先の事、よろしくお願いします!」

「皆、頑張ってね」

 

 作戦開始からそれなりの時間が経ち、東の空には茜色の朝日が顔を覗かせていた。時刻は午前6時前。

 

 現時刻を以て────作戦は最終フェーズに移行する。

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