シャーレ活動備忘録 作:遊園市街
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目の前に聳える中央タワー。今回の作戦の終点にして最終目標。エリドゥの中心地にアリスはいる。残酷な言葉と運命を突き付けられ、皆の為にその身を消そうとした────あまりにも健気で、純粋で、透き通る青の少女が。
そしてまた、この場所にはリオもいるのだろう。ビッグシスター。テレスクリーンの監視者。ここはオーウェルが綴ったオセアニアではないけど、その徹底した管理……感情を交えない合理性を誰かが皮肉って付けたあだ名。不確定を徹底的に排除したビッグシスターの根城はまるで地獄の門のように少女達を待ち構えていた。此処からが本番だと言うように。
実際、此処からが本番だ。今までの全ては前座。この作戦はアリスの奪還を成し遂げて初めて成功と言える。気合を入れなければならないのはこれからだ。あのリオが中央タワーに何も配置していないなんてことは有り得ない。都市内部に張り巡らされた防衛機構よりも数段高性能かつ厄介な物を多数備えているだろう。それも、途轍もないほど高い確率で。100%と言い換えてもいい。
────これから起きる戦いは、今までの道中の何処よりも厳しい戦いになるだろう。
「……ここが中央タワー」
「アリスちゃんが居る場所……」
ごくり、と生唾を呑むミドリとユズ。3Dマップや伝え聞いていた情報からある程度の推察はしていたが、改めて目の当たりにするとその規模に気圧されてしまう。これと真っ向から戦わないといけない。アリスを助けるために。頼もしい戦力は多くいるけど、それでも不安になる。
ミドリは横目で先生の方を見ると、彼は何時にも増して真剣な表情をしていた。日常の優しい笑みや雰囲気は奥底に仕舞われ、不撓不屈の精神ただ一つを武器にする戦士としての顔。鋭い眼。氷漬けにされたように冷たい表情。顔に付着した赤い血と、口から零れる淡い息。瞬きの刹那に消えてしまいそうな蜃気楼のようでありながら、地に足が着いている。対立する二項を矛盾なく同時に内包する姿は妙に色っぽかった。
争いを好まない日常の象徴の彼。争いに過剰なまでに高い適性を持つ彼。大輪の花のような笑顔が一番似合うのに、今は流血と傷に塗れている。こんな場所に最もいるべきではない筈なのに、この場所に最も適していて。
もうこんな事には絶対巻き込まないと、ミドリは1人空に誓った。
そうして、ちょっとだけ湿っぽい雰囲気になった一同の空気を振り払うように────太陽のような少女が人差し指でタワーを指して。
「……よし! 此処まで来たなら一気に駆け上ろう! ラストダンジョンだよ!」
「待ちなさい、モモイ」
一目散に駆け出そうと大きな一歩を踏み出したモモイであったが、その歩みはユウカが彼女のジャケットを引っ張ることによって挫かれた。動こうとした方向とは真逆の力が加わったことにより首が若干詰まったのか、華の女子高生が出してはいけない声が鳴る。涙目になった少女は愛らしく頬を膨らませて。
「引っ張る事ないじゃん!」
「先走るのは良くないわ。最後こそ油断しないの」
ぐうの音もでない正論により何も言えなくなったモモイは「それはそうだけどさぁ」と呟きながら、早めていたペースを落とす。斯く言うユウカとてモモイの気持ちは痛いほど分かる。空に描いた空想の結実が今や目前に迫っているのだ。逸るな、という方が無茶だろう。だが、それでも心を鬼にして言わなければならないのは一時の油断が大惨事になるからで。特に、こうしたゴール前は最も気持ちが緩みやすい。手練れならば必ず手を打っている。遊びがないリオも同様だろう。故に、万全を喫する必要がある。
────つまり、別動隊として動いてくれていた彼女達との合流。エリドゥ攻略における大きなファクターを担った、最強のエージェント集団たるC&Cの3人が入り口前で待機していた。
「みんなー、待ってたよー!」
元気な声の主はアスナであり、此方に向かって大きく手を振っている。彼女の表情に疲れの類は一切見えず、傷はおろか服も殆ど汚れていない。見れば、他のメンバーも大体似たような状態であった。流石と言わざるを得ないだろう。多くのドローンや都市の防衛機構を押し付けてしまったのにも関わらず、彼女達はその全てを一蹴したのだ。
彼女達が撃破したドローンの数は凡そ2000体。都市の防衛機構も彼女達の通り道にあったものは全て破壊している。ネルに負けず劣らず、彼女達も大概災害のような奇跡を辿っていた。
「ご主人様も久しぶり!」
「うん、久しぶり……あの時はありがとう。C&Cの皆が居なかったら、私は此処に立てていなかった」
ずっと言いたかったお礼。あの時守ってくれて、助けてくれてありがとう。皆が命を繋いでくれたから、この場に立てている。こうやって大一番に自信を持って命を張れるのだと。彼女達が伝えてくれた命の温度の暖かさをどうしても言いたくて。
勿論、この言葉は通信越しに伝える事もできた。だが、どうしても面と向かって言いたくて。我儘だと知りながらもこれだけは曲げられなかった。
先生の深い感謝を受けて、少女達は誇らしそうに笑みを浮べる。今、生きている彼を見て『ちゃんと守れた』という実感が数日越しに湧き上がった。何もかもを吹き飛ばすような向日葵のような笑顔をもう一度見れて、彼女達の体に喝が入る。まだ頑張ろうと思える。アリスの為に、
アスナに至っては我慢できなかったのか、彼に思いっきり抱き着いていた。もしかしたらその奔放さの裏に人並の寂しさを感じていたのかもしれない。或いは、守れなかった負い目。その真意のほどは分からないが彼女は彼との再会をとても喜んでいた。
その抱擁を彼は優しく迎え入れる。さながら人懐っこい大型犬にじゃれつかれている気持ち。嫌な気持ちなんて持てるはずも無いが、こうやって彼女に抱き着かれていると此処が戦場だという事を忘れてしまいそうになる。それほどまでにアスナは彼にとって日常の一部だった。シャーレにふらっと現れて書類仕事を手伝ってくれたり、家事をやってくれたり。或いは気分転換に外へ連れ出してくれたり。彼女は彼の日常を鮮やかに染めていた。そして、逆もまた然り。
何時までもこうしていたいのは山々だが、今はやらなければならない事が山積みだ。会わなければならない生徒と、止めなければならない生徒。彼女達が待っている。だけども幸せそうな彼女を引き離す気にはなれなくて。押しが弱い、お人好し、と色々な生徒に口酸っぱく言われるのも納得できるほどに甘々だった。
「アスナ先輩、ご主人様が困ってます。後で幾らでも抱き着いて良いので、今は」
「はーい! じゃ、後でね、ご主人様!」
そんな彼とアスナを見かねてアカネが出した助け舟。当然の如く彼の意見を挟む余地はなかったが、別に良いだろう。生徒との交流や触れ合いはいつだって彼の原動力だ。
思い出は多い方が良い。それが思い返すたび胸が引き裂かれるような痛みを覚えるような辛い思い出でも。頬が緩むような優しい思い出も。それが生きた証になる。
終わりは避けられない。それは先生もそうだし、彼以外もそうだ。人は、生き物はいつか終わりを迎える。だから、その時まで沢山のものを重ねるのだ。喜び、悲しみ、楽しみ、怒り、憎しみ、愛。成功、失敗、達成、挫折。まだ見ていない景色を目指して、多くの刹那を。やり残しはもう無いと、胸を張れる人生。そのために今も皆が走っている。
だから、その結末はきっと────美しくあるはずだ。
「それにしても、随分遅かったね。何かに苦戦してたの?」
「長く苦しい戦いだったよ……」
「うん、強かったね……」
カリンの疑問に寄って想起される強敵のアバンギャルド君。暫く夢に出てきそうだし、これからゲームの敵キャラをデザインする時にアレに引っ張られそうだった。紛れもなくダサいのに悪夢のような強さ持つ、『なんか世界観違くない?』と思うリオ渾身の怪作。散々ボコボコにされ、銃で撃たれまくって、増援4名とエンジニア部のとっておきで漸く倒せたアレの事は暫く思い出したくない。再び口にすると若干トラウマになりかけそうだ。
それ程までに強烈なインパクトと爪痕を残したアバンギャルド君であるが……この少し後にもう一度見る事になるとは知る由も無かった。
「エンジニア部は?」
「エンジニア部は先に離脱しました。アバンギャルド君と戦う時、かなり体を酷使したようで疲労がピークに……」
「アバ……? そうか。いてくれると頼もしかったんだけど……いや、贅沢は言えないな。今この戦力が集えただけで充分だよ」
カリンは辺りを見渡す。人員は居れば居るほどいい。本来なら一人で陽動を担っているネルを除いた全メンバーで臨みたかったが、そうも言っていられないだろう。ないものねだりはできない。それに、先ほどまではC&Cの3名で突入する腹積もりだったのだ。極めて優秀な指揮官と、信頼できる戦力が追加で6名。増援としては申し分ない。彼女達はC&Cが自信と信頼を持って背中を預けるに足る戦友なのだから。
『本当にいいの?』
「うん。アレを起動した今、リオに私達を直接妨害できるリソースはもう残ってない。それに、仮に妨害されても私が持たせるさ』
『……分かったよ。先生がそう言うなら信じるよ。皆は?』
『先生の決定です。従います』
『うん、私も。マキは?』
『勿論やるよ! 先生、期待しててね!』
「頼もしいよ、本当に……現時刻を以てヴェリタスの全メンバーは中央タワーのメインコンピュータのハッキングを。乗っ取らなくてもいいから、絶えず負荷を掛け続けて」
その言葉を最後にヴェリタスとの通信を切断した彼はにこやかに笑いかけて。
「……それじゃ、情報共有と行こうか。私達に残された時間は少ないから、なるべく手短にね」
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突入からの互いの動き。それらの要点を掻い摘んで、必要と思われる情報だけを伝達する。特に重要なのはこの場に居ないネルの所在。4人で担っていたはずの陽動を今は彼女一人で担っていると知った時は全員驚いていた。どう考えても無茶であるが、不思議と彼女ならばどうにかなってしまいそうと思う。あの出鱈目さは皆が良く知る所だ。
それらを話し終え、いざタワーの内部へ足を踏み入れようとした────そのタイミングで、先生は徐に口を開いた。まるで、この先にはまだ行けないと言わんばかりに。
「さて、悪いニュースと悪いニュースがあるけど……どっちを先に聞きたい?」
「良いニュースはないんですね」
「ないよ。残念なことにね」
「……じゃあ一つ目の方から」
苦笑いを浮べながら言葉を紡いでいた先生はシームレスに表情を切り替える。ここまでも死線だった。安心して、安定して勝ちを狙えた戦いはない。必ず何処かに賭けがあった。そして、この先からは更なる死闘となる。
「単独で陽動を担っていたネルが少し前に撃破された」
「ネル先輩がッ!?」
此方の最強の戦力であるネルの撃破。その言葉の重みは思わずユウカが声を荒げてしまうほどであり、他のメンバーも似たような感情を抱いた。全員の背筋に冷たい汗が流れ、緊張と焦りが形になったように心を押し潰す。ごくり、と生唾を呑む音。銃を握り締める手に力が籠った。
「……部長を撃破したのは」
「皆の想像通りだよ」
やはり、と思いアカネは歯噛みする。ドローンではネルに傷一つ付けられない。防衛機構も同様だ。アバンギャルド君ですらネルを相手にすれば10秒も持たないだろう。であれば、ネルを倒したのは一意的に決まるというもの。
あの時、命令無視も承知で救援に向かえば良かったのか。いや、あの場では選択が最善だった。ネルが撃破されても、されなくても、結局今も昔も最優先事項はアリスの奪還である事に変わりない。だが、その為に……アリスを助けるためにネルを切り捨てたのではリオと同じでないのか。そうやって何かのために何かを捨てるやり方に異を唱えたくて、そんな簡単に割り切れないから此処まで来た。
思考が悪の坩堝に向かう。ああすれば良かった。こうすれば良かった。どうすれば良かった。その応酬。戻れない時間を想定する行為。後悔に歯止めは聞かず────いや、それは今考える事ではない。思考をクリアにして、雑念を頭から追い出す。
「では、もう一つの悪いニュースは……」
「────噂をすれば、だね」
ネルが撃破された、という事は彼女が押し留めていた最大の戦力がフリーになるという事。そして、今皆が居るのは最後の要である中央タワーの入り口前。門番が居るのは道理というものだろう。
「下がって」
彼の短い言葉と同時に、朝を告げる茜差す空に青白い閃光が奔る。それはビル数棟を瞬時に溶解、貫通せしめ威力を一切減衰させずに全員を焼き尽くさんと呑み込んだ。全てのリミッターが外された最大火力。対大型兵器、対拠点、対城を想定した殲滅武装。それは例えヘイロー持つ生徒であっても容易く屠れるほどの威力を持ち、直撃すれば灰すら残らないだろう。
「────ッ」
それを真正面から受け止めるのはシッテムの箱を持ちシールドを展開している先生だった。決して余裕とは言えない表情。これまで受け止めてきた攻撃とは訳が違う。これは紛れもなく人殺しの為の力。埒外の耐久力を持つ少女達を一切の抵抗を許さず、苦痛を感じさせる暇もなく慈悲を以て殺すために生み出されたエネルギー砲は、消耗を重ねていた先生にとっては身に余るものだった。
放出される莫大な熱量。皮膚が焼ける。髪が溶ける。服が燃える。肉が焼け、血液が沸き出す。だが、意地でも生徒に攻撃は通さない。
熱で揺らめく視界。眼球が沸騰するような環境下でも、彼は目を見開いて視線は逸らさず。膝は突かない屈さない。思考を止めず、疑問は尽きない。
────リオの性格はよく知っている。彼女は無駄な犠牲は好まない。だから、この場で全員を纏めて消し炭にするような攻撃は絶対しないのだ。トキの独断とも考えにくい。彼女も別に自ら望んで誰かを傷つけるような生徒ではないのだ。
管理しているリオにも、装備しているトキにも気づかれずに解除されたリミッター。
先生だけでなく、全員に向けられた無差別な殺意。
────
「巫山戯るなよ……ッ!」
腹の底から零れ出た本音。腸が煮え繰り返るような激情を覚えたのは久方ぶりだった。それを向ける相手はリオでも、トキでもない。彼女達の心を、善意を、希望をこんな形で踏み躙った敵だ。心の奥、誰にも見えない場所で静かに殺意を研ぎ澄ませながら彼は障壁の強度を一段階高める。それに伴い、全身の毛細血管がぷちぷちと音を立てて千切れ、皮膚の下に血が滲んだ。
永遠にも思えたが、実際に光を受け止めた時間は10秒にも満たない。閃光が途絶え、溶け爛れたアスファルトに降り立つのは────アビ・エシュフを纏う彼女。
「さっき振りだね、トキ」
「……えぇ。健在で何よりです、先生……」
先生と向かい合う彼女の顔には疑問が色濃く滲んでいた。恐らく想定にない出力であったのだろう。トキの目に映る各種パラメータは制圧用に殺傷能力が落とされている事を示しているのに、先の威力はどう見ても殲滅火力だった。先生が防いでいなければ今頃全員灰になっていただろう。苦い思いを抱えながら、彼女はシステムからではなくハードの面から物理的に威力を制限する。これで恐らく大丈夫であろうと思いながら。
そして、先生の疑念もトキの顔を見て確信に変貌した。やはり彼が根絶やしにしなければならない悪意は居る。自分達の都合と理想を傲慢にも押し付ける、反吐が出るような大人。子ども達の生き方を、選択を、尊厳を踏み躙る外道。
そんな者達の相手は大人が務めるべきだ。間違っても彼女達にやらせる訳にはいかない。
だが、それは後の話。今、向き合わなければならないのは────眼前に立つ機械仕掛けの究極。先生は眼の蒼を深めて対象の分析を行う。
両腕のガトリングガン。背部にマウントされたエネルギー砲が2門。全身に付けられたスラスター、ブースター、バーニアで機動力も高い。装甲はアバンギャルド君のものよりも更に硬度が高く、電磁シールドも高出力。図体は大きいため小回りが利き辛いように思えるが、トキの卓越した技能によりそんな隙は消されている。仮にアビ・エシュフの武装が機能しにくいクロスレンジに寄れたとしても彼女は対応してくるだろう。加えて、搭乗者を保護する目的の回復機能まで備えているのだ。ネルの攻撃によって付けられた数多の傷は驚異的なスピードで再生している。彼女に刻まれた重症はもう殆ど何処にもなく、眼で見える傷も次々と消えていた。
その他のスペックも先生が知るものと同一。エリドゥの情報処理能力を一極集中させることにより生まれる近未来予知。高い攻撃力、堅牢な防御、圧倒的な回避性能。通常の手段では攻撃を通すことはおろか指一本触れる事すらできないだろう。
成程、確かにこれであれば神に届き得る。先生がこの世界で戦った神に至る者達……即ち、ザフキエルとビナー。前者はほぼ一方的に倒せるであろうし、後者も8割程度の確率で勝利を収めることができるだろう。尤も、後者は彼やアビドス含む連合軍が相手にしたものが限度であるが。幾ら今の彼女と言えど、完全顕現は持て余す。
「一応聞いておくよ、ネルは?」
「全身の骨を砕いておきました。幾らネル先輩と謂えど、あの傷で再び戦うのは難しいと思われます」
予想はしていた解答。今も彼女はエリドゥの何処かで気を失っている。彼女の元に向かっているのはリオの回収用ドローンか。恐らく彼女をヒマリと同じような隔離施設に捕らえるつもりなのだろう。そうなってしまえば少々面倒だ。囚われの彼女の救出、というひと手間が加わってしまう。それ自体は不可能でないし、時間もかけずに達成可能であるが……やらなくていいなら、やらない方が良い。この後のスケジュールも加味すれば猶更。
無論、そうならない為にも手は打ってある。クラフトチェンバーから呼び出した医療用ドローン。それが今、全速力で彼女の元へと向かっていた。後はどちらが速いかスピード勝負だ。リオが速いか、先生が速いか────或いは、第三の選択肢か。
そして、ネルが叩きのめされたと聞くや否やC&Cのメンバーも瞳に剣呑な色を灯した。事前に彼から伝え聞いていたが、彼女の口から聞くと改めて……というやつだろう。臨戦態勢。焼け付くような熱を持ちながら、凍えるような寒さも孕む……異様な空気。慕っている部長を伸されたのだ。怒りと戦意のボルテージが際限なく上昇する。
セミナーは彼女達の行く末を固唾を呑んで見守る。恐らく戦いになるという確信を抱きながら。ユウカ、ノアは自身の銃の具合を確かめた。フォーメーションとしてはユウカとアスナが前衛を張り、中衛にノア、アカネ、ゲーム開発部。後衛にカリンとコユキ。ミドルの層が厚いため、幾らか前衛の方に回しても良いかもしれない。その辺りの事は先生が考えるため、頭の片隅の方に追いやりながら────いつでも戦闘が開始できるようにユウカは銃を構え、シールドの展開準備を済ませた。ノアも同様に銃のセーフティを外す。
先生。セミナーの2人。C&C。そのメンバー達が真剣な表情で会話を重ね、相手の出方を伺っている最中……ゲーム開発部とコユキ。1年生4人はこそこそ話をしていた。この場に於いては結構どうでもいい話を。
「あのスーツ……」
「うん……」
「は、恥ずかしくないのかな……」
「
その話題の中心は、この場のイニシアティブを握っていると思われるトキ。だが、彼女の強さや纏っているアビ・エシュフではなくその服装についてだった。例えるなら、少々……いや、かなり過激な学校指定の水着。逆に裸よりも恥ずかしいのではないのか、と言いたくなるようなボディスーツだった。
彼女の服装について誰も突っ込んでいない事がこの光景のシュールさを加速させている。全員が全員、真剣そのものな表情で話していて若干面白い。本当の最終決戦だというのに、何故だか気が引き締まらないでいた。
中々にとんでもない
「彼女が最後にして最強の切り札……その認識で間違いないかな、リオ」
『えぇ。だから、彼女を突破出来たら先生達の勝ちよ』
「トキはどうかな?」
「……この先へは行かせません」
モモイとミドリは全くの同タイミングで銃を構えた。
ユズは怯えの消えた表情で前を見据える。
「まぁ、そうだよね。リオもトキも、退けないから」
アスナは片手で銃を突きつける。
カリンは片膝を突いてスコープを覗く。
アカネは下がっていた眼鏡を上げ、爆弾のスイッチを手に持つ。
『先生もそうでしょう。貴方も退くわけにはいかない』
ユウカは二丁のMPXを持ち、決意を固く。
ノアは変らぬ笑みを浮べたまま。
コユキは緊張した面持ちで銃と爆弾を持つ。
「あぁ、私は────もう、逃げない」
トキは両手で操縦桿を固く握り締めた。
『なら、私達は争う他ないわ』
リオと先生はそれぞれタブレットを構えた。
長き作戦の終着点。要塞都市エリドゥ、中央タワー……正門前。遮蔽物が一切無い開けたこの空間こそが最終決戦の地。
多くの願いを見た。多くの意志を見た。多くの幸福を見た。
多くの挫折を見た。多くの運命を見た。多くの絶望を見た。
リオは自身とアリスの犠牲を容認した。
先生は自身以外の全てを救うと誓った。
────理想都市の咎。涙の痕。すべては、ただ誰かの未来のために。
調月リオ。先生。未来を視た人。未来を知る人。鏡映しのような2人。
2人は争う。殺意はなく。怒りはなく。憐れみはなく。ただ、1つの感情を掌に握り締めて。
『この戦いに勝って、私は私の未来を証明する』
「この戦いの果てに、私は君の犠牲を否定する」
────多くの運命を巡る最後の決戦が幕を明けた。