シャーレ活動備忘録 作:遊園市街
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炸裂音が断続的に鳴り響く。薬莢が地面へ向かい落下するよりも早くリロードを済ませ、照準の先に立ち塞がる絶大な脅威を前にユウカは一切臆することなく立ち向かう。
『モモイ! ミドリ! ユウカとタイミングを合わせてッ!』
「分かったよ!」
「了解、行きます!」
それぞれ左翼と右翼に展開するモモイとミドリ。更に、その後ろにはカリンが構えており────その弾丸が発射される。完璧な射撃タイミング、弾道。的確に逃げ道を防ぐ……正に神業と呼べる凄まじい狙撃。それはトキに詰みを突き付けたと思われたが。
「回避行動。補正0.012……誤差修正」
まるでワルツを踊る様な優雅かつ滑らかな動きで難なく回避。まるで弾丸の方が避けたような、或いはすり抜けたような挙動。そのまま彼女は流れるように攻勢に打って出る。狙いは突撃する3名、全員。その内の1人を選ぶことすらなく、3人纏めて────その全てを、叩き潰す。
全身に装備された姿勢制御用のバーニアを巧みに動かし、体勢を整え、両腕のガトリングを構える。特徴的なモーター音が聞こえてきたと同時に
カタログスペック上の単純な威力だけでも人体に向けるのは過剰な火力を持つそれは、トキの神秘とエリドゥのバックアップにより破壊力が底上げされている。幾ら対人用のリミッターが掛けられているとはいえ、数発の直撃が致命打になり得てしまう。
事実、先生が展開したシールドが音を立てて削れている。今トキに向かっている3名に付与した3層に及ぶシールド。アロナが居ないためフルスペックには及ばないが、それでも戦闘機の爆撃程度であれば無傷で流せる障壁はたった数秒銃弾を受け止めただけで第一層が半壊した。出鱈目が過ぎる火力。枷が掛かっているとは到底思えない。
「この距離なら……ッ!」
勝ち誇ったようなユウカの声。3人は無傷で懐に飛び込んでいた。付与した3枚の障壁、そのうち2枚は全損し、1枚は半壊。見るも無残な成れ果てだが、確りと守る役目を果たし切っている。
完全なクロスレンジ、正面はユウカ、右にはミドリ、左にはモモイ。3方向から同時に責められればトキと雖も確かに少々面倒だ。だが、面倒なだけで対処自体は容易い。
「甘いですよ」
左右に展開する双子の挟み込み攻撃を限界まで引き付ける。そして、ギリギリまで近寄らせてからトキは思いっ切り前に踏み込んだ。スラスター等をフルに使った神速の踏み込み。先ほどまで開けていた距離が一気にゼロになってしまい、ユウカに僅かな隙が生まれる。まさか逆に距離を詰められるとは思わなかったのだろう。
モモイとミドリの驚愕はユウカよりも大きかった。何せ、先ほどまで確かに狙っていたはずの相手が急に消えてしまったのだ。だが、そこまで長距離を移動したわけではない。だから、構え直してカバーを……。
「させません」
当然、トキがそんな猶予を与えてくれる訳が無かった。彼女は小回りの利き辛そうな巨大な機体を器用に動かし、左脚部を軸にしてぐるりと回転させる。それにより生じた遠心力を利用し右腕をまるでハンマーのように見立てて────ミドリとモモイに思いっきりぶつけた。
音を立てて砕け散るシールド。打撃の威力全てと衝撃の9割以上を吸収したが、残りは少女達の体まで通してしまう。身体には軽くぶつかられた様な衝撃しかないのに随分派手に吹き飛ばされてしまった。この高さから落ちたらちょっと痛いな、なんて思っていたら……視界の隅に走る白い影を見つけた。
「ごめん、私のミスだ……怪我はないかい?」
完璧な落下地点予測。そこに陣取り、落ちてくる2人を優しく受け止めたのは先生。優しく、心配そうに微笑む彼を見て、少女達はその不安を払拭すような笑みを浮べる。
「勿論! まだまだやれるよ!」
「私もまだ頑張れます!」
彼の手から下された2人はそれぞれ銃を構え、油断なくトキを見る。彼女は今、攻撃の嵐の中にいた。正面からユウカとノア、背後からコユキ、左右からそれぞれカリンとアカネ。余人なら30秒も持たないであろう極限状態であっても、彼女の余裕は崩せない。涼やかな顔で、最低限かつ最高効率で全ての攻撃を回避し続けている。
拮抗に近い状況不利。それが崩されたきっかけはユウカがトキのサマーソルトキックにより大きく後方に吹き飛ばされた事だった。
トキ自身の膂力と、レッグパーツのパワーアシスト。それに加わったレッグパーツ自体の質量。その相乗効果により生まれた馬鹿げた威力は防御力に秀でたユウカを容易く吹き飛ばす。
いつの間にか効果時間が切れていた自身のシールド。既に半壊状態だった先生の障壁。当然、トキの攻撃を受け止められる訳がなく、ユウカは脳を直接殴られた様な衝撃を叩きつけられた。
揺さぶられ、白飛びする視界。喰いしばった歯。激痛。口の中が切れたのか唇の縁から赤が流れる。普通に日常生活を送るだけではまず経験する事が無い鮮烈な痛覚は思わずユウカですら恐怖を覚えてしまうものだった。
痛みとは傷つくこと。そして、数多の傷を重ねた先に暗い死がある。ユウカはイメージしてしまったのだ。この攻撃を受けた先、受け続けた先に待っている……どうしようもない終わりを。根源的な恐怖心、死を恐れる人間の本能。土壇場で身に纏わりついてきたそれを────彼女は振り払った。
死ぬのが怖いのは皆一緒だ。その恐怖に抗って誰もが此処に立っている。
アリスは泣きながらその恐怖を押し殺して、断頭台に向かった。友達の幸福な未来を願って。
先生は死も痛みも何もかもを飲み干して、誰かの為に成そうとしている。誰よりも痛くて、怖いだろうに。
────2人が味わっているものに比べたらこの程度の恐怖も痛みも、なんて事はないだろう。
だから前を見ろ。敵を見ろ。眼を逸らすな。相手が強い事は分かっていたはずだ。そうだ────ここまでは読めている。元々、ノアと2人掛りとはいえ自身が真正面からトキを相手に出来るほど強いとは自惚れていない。だから、ユウカとノアは本命から目を逸らさせるための存在であり、あくまでブラフ。その真打は────。
「アスナ先輩ッ!」
「はーい! 任せて!」
反動を利用し飛び退いたユウカの背後、スライディングをするような低姿勢で飛び込んで来たのはアスナ。彼女は低姿勢のまま見上げるような形で視線と銃口を突き付けた。
「────」
見上げるアスナと、見下ろすトキ。視線が交錯した時間は1秒にも満たない僅かな時間。アスナもトキも余裕そうな表情であったが盤面有利は依然としてトキ。アスナがその直感をフルで活かして防戦に徹すれば今のトキが相手でも何とか食らいつくことが可能であったかもしれないが……それは逃げの姿勢だ。逃げるだけでは、守るだけでは敵を倒せない。勝ちたいなら、掴み取りたいなら────前に出て、戦え。
「これは躱せる?」
「えぇ、当然です」
アスナがトリガーを引くタイミング。トキが回避するタイミング。先手を取っていたのはアスナのはずなのに、その初動はトキの方が速かった。後手が先手を追い抜く不条理。行動の先読み、という生易しい次元ではない。もっと異質な……例えるなら、先生の指揮や彼との接続状態と同質のものを感じてしまった。
アスナが射出した弾丸はトキが数瞬前までいたはずの場所を穴だらけにするだけに留まり、余裕を持って回避したトキは悠々とガトリングガンを構える。しかし、弾丸が発射されるよりも前に状況不利を悟ったアスナがユウカとノアを抱えながら大きく後退。
それを見てトキはアスナに対する評価を更に上方修正する。戦闘力もさることながら、戦い方もクレバーだ。分かっていたつもりではあったが、あの猛者犇めくC&Cの中でネルに次ぐナンバーツーと言われるだけのことはある。攻めに転じる判断だけでなく引き際の判断まで上手いのは明確な強みだ。
しかし、先ほどの一瞬の攻防で────対アスナの大体の感覚は掴めた。あとは彼女の具合から逆算して2回程度攻防を重ねれば解析が完了する。現状の戦力のおける唯一の不明点を暴けばトキの勝ちは揺るがない。先生も不明点ではあるが、彼は別に戦う存在ではない。幾ら彼が未知でも、彼の指揮を実際に出力する生徒が既知であれば関係ないだろう。
「こんなに攻撃が当たらないなんて生まれて初めてかも!」
「お褒めに預かり光栄です。私も、こんなにやり難いのはアスナ先輩が初めてです」
「そっかそっか……それは、部長よりも?」
細められたアスナの瞳。人懐っこく、負の感情からは凡そ最も離れているであろう彼女から放たれたとは思えない温度の言葉と視線。恐らくは無意識なのだろう。隠していた、という訳ではなく彼女自身ですら気付かなかったそれが偶々眼で見える形で露出しただけ。
詰まる所、アスナは人一倍、ネルが撃破された事に内心で怒っている。もしこの場にネルが居れば『お前、そんな顔もできるのかよ』と多少驚いていただろう。
ネルのような周囲を圧倒する暴風のような怒りではなく、少しずつ周囲を侵食する異質な空気。それに当てられたトキは、それでも尚涼しい顔のままで。
「……さぁ、どうでしょうか?」
「え~、意地悪~。答えてくれないなら……無理矢理聞き出しちゃおっか!」
アスナが纏っていた異質な雰囲気は霧散し、何時もの楽しそうな口調と空気に戻る。それと同時に駆けだした彼女が狙う先はトキ、唯一人。
その単騎突撃に追走する者は居ない。アスナの接近戦に於ける力量は、今この場のメンバーの誰と比較しても圧倒的に高い。開きすぎている力量差で下手に追走しても足手纏いにしかならないのは分かり切っている。故に、残された少女達と先生がやるべき仕事は。
「え、援護しますッ!」
その突撃の露払い、援護に徹する。カリンの狙撃、アカネの爆撃で動きを制限。モモイとミドリ、ノアの射撃で回避を牽制。ユウカがシールドを付与し、先生が各種強化を齎す。最後にユズがアタッチメントを付け替えた
「目晦ましなど……ッ!」
「ナイス援護、皆大好きッ!」
通常、視界が大きく制限された煙幕の中では真面な戦闘行動はできない。人間の認知は大きく視界に偏っているのだ。世界を見るための眼を奪われたともなれば、頼れるのは味覚を除外した聴覚と嗅覚、触覚。それだけで戦闘するのは不可能であろう。だが、アスナは異常と言うべき直感……第六感がある。例え視覚を奪われようと……否、五感全てを奪われようとも第六感だけで戦闘を成り立たせることができてしまうのだ。
それに今は直感が冴え渡っている。まるで雲一つないような晴天。眼を奪われようと、何を奪われようと────アスナにはトキの全てが見えている。
アスナとトキが完全なクロスレンジに入ったと思われる頃、幾重にも鳴り響く銃声が聞こえた。超至近距離での撃ち合いがが始まったのだ。手数と制圧力、威力に優れるトキと取り回しが優れているアスナ。どちらに勝利の女神が微笑むかは分からない。だが、少女達には確信があった。この攻防を終えた先に立っているのは唯一人であろう、と。
しかし。
「視えていますよ、アスナ先輩」
煙が晴れた先、未来に立っていたのはアスナとトキの両名。少女達の想定は早くも裏切られる形となる。両者とも共に全くの無傷。あの最悪の視界で互いが銃弾を全力でばら撒いたのにも関わらず、両者とも一発も当たっていないのだ。辺りに散らばった薬莢の数から使われた弾丸の数が見て取れる。
そう、五感を奪われようと戦えるのはアスナだけではない。エリドゥのバックアップがあるトキは世界の認知を拡大させている。アスナのようなロジックもクソも無い類希なる直感ではなく、論理で裏打ちされた純然たる科学と知性の世界認識。見つめる世界の時間軸を数歩先に進ませる知覚。それはアスナと同じ土俵でトキを戦わせることが可能であった。
「すっごいねー!」
心底楽しそうなアスナの声は相手を賞賛する言葉。確実に勝てたと思った。勝利はできなくとも、有効打を数発与えられるだろうと確信していた。だが、そうならなかった。アスナにとっては初めての経験。自身の手札や引き出しが全く通用しない、というのは通常であれば絶望しかないのだが……彼女はこの状況を、心の底から楽しんでいる。
対するトキは、『彼女は本当に人間なのですか?』と内心で疑問符を浮べていた。あの悪視界の中、自身の直感だけを信じて突っ込んでくるなんてイカれている。しかも直感は在り得ない位に鋭く、突き動かされる彼女に寸毫の迷いもない。ネルと先生、ヒマリを最も警戒しなければならないのは確かだが、その次位にはアスナを警戒した方が良かった。彼女は孤立させて潰すべき戦力であるし、間違っても部隊として運用させていい人材ではない。
一旦距離を離したトキは両腕のガトリングガンを構える。そのまま対応したトリガーを押し込み、発射する姿勢を取った。だが事前に察知したアスナは既に回避行動を作っている。射線から外れるのではなく、発射される弾丸を最低限の動きで躱すのだ。何が何でもこの距離を詰めるという気概。
ガトリングガンの発射レートを考えるとアスナの行為は自殺同然であるが、彼女ならば直撃コースのみを的確に避けれるだろう。神に祝福された如くの直感が彼女を突き動かすから。
────トキがアスナを攻略するためには、彼女の持つ第六感をどうにかする必要がある。つまりは機能を停止させるか上回るか。この内、前者は除外できる。そもそもどんな理屈で彼女が直感を行使しているのか分からないのに、それを機能停止させる事なんて出来ない。であれば必然的に取るべき手段は後者……アスナの直感を凌駕する他ないだろう。
アビ・エシュフを装着して以降、アスナと競り合ったのは2回。どれもクロスレンジからミドルレンジ、アサルトライフルの間合い。その攻防である程度の具合は推測できている。此方が攻撃するタイミングよりも前、構える前の思考段階から彼女は回避或いは攻撃行動を装填している。まるで読めているかのように。
────直感で掴んでいるのは思考か?
トキはアビ・エシュフの操縦をマニュアルからオートに切り替え、操縦桿から手を離し機体内部に格納していたアサルトライフルを構える。
「さぁ、どう出ますか」
言葉と同時、発射される弾丸。圧倒的な弾幕量は忽ち万象を穴だらけにしてしまう殺傷能力を秘めており、それに晒されたアスナは今までのような回避に加えて防御も選択。シールドに弾かれた弾丸が明後日の方向に逸れて跳弾。ビルの看板を撃ち落とした。
────シールドを信頼して避け切れないものは敢えて受け止める。今までのような全弾回避ができないとなれば、実現できる最善を選び取る事が出来るんですね。
つまり、不可能を可能にする類のものではない。あくまで可能性を拡張するものであり、最善をそのまま出力できる才能。非常に厄介であるが……攻略は可能だ。だが、まだデータが必要。取捨選択の基準、最善の基準。自身の安全が最優先なのか、作戦の達成が最優先なのか。
それを確かめるためにトキは敢えてアビ・エシュフをパージ。機体をアスナの前に残し、トキ自身はモモイとミドリ、先生がいる場所目指して駆け出した。流石にこの行動はアスナも予想できていなかったのか面食らったような顔をしていて……。
「ご主人様ッ! そっちにトキちゃんが!」
「────あぁ」
────どちらを優先しますか。作戦の要であるゲーム開発部と先生。若しくはアスナ先輩自身か。
その解を欲していたトキの前、彼を守らんと立ち塞がったミドリとモモイを雑踏を抜けるようにスルー。彼とトキを遮るものはなくなった。勿論、トキとて彼を傷つけるつもりは皆無だ。誰に頼まれようとも首を縦に振るつもりはない。事実、トキの手には武器の類は一切握られていないし、あくまでアスナの出方を伺うための判断材料以外にするつもりはなかった。
────彼を人質にでも取った方がスムーズに事が運ぶだろうと分かっていながら。そこまで外道に堕ちたくなかったのだ。仕えているリオの為にも、自分自身のためにも。
さて、この状況でどう出るのか。そう思っていたトキの耳に届いたのはアスナの声ではなく────優しい、男の声。
「優秀な眼を持っているのは君だけじゃないよ、トキ」
「……ッ!」
そう呟いた彼の側面、いつの間にか銃を構えていたユズ。それを見たトキは少しだけ表情を驚愕に染める。何せ、彼が言うまで一切気付かなかったのだ。周囲には気を配っていた筈なのに、五感全てを研ぎ澄ませていたはずなのに。それなのに今の今まで……銃のトリガーが引かれる直前のこのタイミングまで一切分からなかった。
────トキの知る所ではないが、このからくりには当然の如く彼の手が及んでいる。シッテムの箱の機能を用いてユズの気配を消し、存在を世界と同化させていたのだ。全ては、このタイミングの為に。
「アスナを測るつもりだったんだろうけど……それは読めていたよ」
「浅慮、という事ですか。元よりこの手の事柄で先生に勝てるとは思っておりませんでしたが……」
背後に感じる気配。ちらりと後ろを見ると先ほどスルーした双子が銃を構えていた。先生がトキの後ろにいる手前、実際に発砲する訳にはいかなため射撃体勢を取るだけだが威圧程度にはなっている。
目的は果たせず、囲まれて。彼が絡むといつもこうなってしまう。頭脳戦が苦手な訳ではないが、それに特化している彼みたいな手合いと真っ向勝負するのは不利極まる。
溜息を吐いたトキは筋肉をばねのようにしならせ大きく跳躍。その動きに追随するように数多の銃弾がトキを撃ち落とさんと殺到するが、それらは華麗な身のこなしで回避。オートモードで稼働しアスナ達と戦っていたアビ・エシュフを遠隔操作で
「もう! ご主人様を狙うのは駄目だよ!」
「えぇ。もう狙いませんので、ご安心ください」
微笑を浮べたトキは、その笑みに似合わない暴力を装填。銃弾を射出したことにより温度を帯び、赤熱したガトリングガンの
この攻撃は打撃を防御しても熱によりダメージを負ってしまうため、無傷でやり過ごしたいなら完全な回避或いはシールドを使った防御に限られる。このうち後者の手段を実現できる装備をアスナは持っていないため、必然的に回避を取るだろう。
であれば、あとはどうやって回避するか。彼女はこの距離を維持したいはず。態々自分から距離を離したり詰めたりする選択は取らない。残された可能性は二次元平面的な回避択……左右に回り込みか、上下か。この先はヒントが無い。正解を引ける確率は4分の1だ。だが、彼女の今までの行動を統括すると……。
「わお」
短い驚嘆の声を漏らしたアスナ。彼女はまるでステップを踏むように足を運ぶ。その狙いは地面に転がる数多の空の薬莢。彼女は態とそれを踏み付けて後ろに倒れ込む形で転び、殴打を回避した。地形や物を利用した柔軟な戦闘択。流石にトキも『薬莢を態と踏んで回避』という詳細までは読み切れなかったが……下に潜り込む形で回避、という部分は的中した。
「……ユウカ、ミドリ。アスナのカバーを」
「ですが、私達ですと足手纏いに……」
「少ししたらアスナの直感がオーバーヒートする。その前にアスナを安全圏まで離脱させないと。ネルが居ない今、彼女は私達の最高戦力だ。失う訳にはいかない」
「了解しました。ミドリ、行ける?」
「……うん、頑張る」
「タイミングは私が調整する……頼むよ」
彼の言葉に確りと頷くユウカとミドリ。シールドを持つユウカがアスナを守り、撤退行動をミドリが援護する。本当ならトキを釘付けにするために引き切るまでの間、彼女と正面から戦うのがベストであるが、そんな離れ業ができる人間はアスナを除いてこの場に居ない。ならば徹底した引き撃ちしかないだろう。突出した個ではなく、数にものを言わせた制圧戦。尤も、これはかなり分が悪いのだが。しかし時間稼ぎ程度にはなるだろう。ヒマリが行動を取り、それがヴェリタスのハッキングと重なるタイミング……勝機が訪れるまでの。
「私達は!?」
「
「任せて!」
「元気だねぇ」
此処が戦場だという事を忘れそうになってしまうほど溌溂としたモモイの声。いつも通りの笑顔で、いつも通りの想いで誰かを救いに行く。誰かの涙を己の笑顔で打ち消すが如く、彼女の芯はいつだってブレなかった。
「────その元気な声に、姿に、私は何度も助けられたよ」
「何か言った、先生?」
「ふふっ、さあね」
「えー! 教えてよー!」
「この戦いが終ったらね」
「絶対だよ! 約束破ったらゲーム買ってもらうからね! 4人分!」
日常へ帰る口約束を交わし、彼女達はその手に銃を取る。
────彼らの最後の戦いは、第二幕へと突入しようとしていた。