シャーレ活動備忘録 作:遊園市街
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「はぁ、は……ぁ……ァ……ッ」
速く、短く、浅く脈打つ心臓。きゅっと閉まる脈、そこに流れる血液の感覚。視界が明滅して指先や足先の感覚が急速に失せ始めている。耳鳴りが響いて、全身の毛穴に針を刺されたかのような痛みが皮膚を焼く。空気を吸おうにも上手く息ができなくて、鼻と口から零れる血がただでさえ下手な呼吸の妨げになる。
6月という初夏、20度を超える気温にも関わらず、震えそうなほどに寒かった。
「く、そ……なんだってこんな時に……ッ」
エリドゥに突入する時や都市の中で過剰に投与した各種薬剤、その副作用。それが現れ始めたのだ。無論、現れるのは今回が初めてではない。寧ろ長い付き合いだ。これまでに何度も肉体を襲い、その度に死にそうなほどに苦しみ血反吐を吐いてきた。
だが、最近はそれなりに落ち着いてきたため、久し振りに外回りの仕事の片付けと、半日前にトリニティ自治区内で観測した妙な神秘の揺らぎを確認しようと思って外出したのだが……そんな時に限って来てほしくないものが来る。
彼はちらりと腕時計を見て、現在の時刻を確認。現在地であるトリニティ自治区から目的地までは徒歩で1時間半、途中まで公共交通機関を使えば1時間ほど。別に誰かと会う約束をしている訳ではないため、時間は充分ある。荒事に巻き込まれる可能性も考慮して余裕を持たせておいて良かった、なんて思う。
彼は上手く動かない体を引きずりながらメインストリートから路地裏に入る。幸い、近くに人が居なかったためこの惨状を見られることは無かった。心配されるのは別に良いが、此処はトリニティ自治区。救護騎士団が飛んでくる可能性がある。彼女達……特にセリナやミネにこの体の状態を見られたら確実にベッドに縛り付けられるだろう。そうなれば今日の予定どころか今後のスケジュール全てが狂ってしまう。唯でさえ綱渡りな現状、予定通りに出来る所は可能な限り予定通りにしたい。
メインストリートから1本奥、ビルとビルの隙間。煌びやか、華やか、優雅を体現するようなトリニティ自治区の中でも一本奥に入ればその3点も身を潜める。文字通り何処にでもあるようなビル街の狭間は室外機の唸る音で以て歓待してくれた。
そこで先生は背中を外壁に預けて地面にずり落ちる。その際に思いっきり尻餅をついてしまって尾骶骨が悲鳴を上げるが、それよりも更に強い痛みが痛覚を上書きした。自分が酷使した体、自分が使い潰した体。そんな事は分かっているが、この脆さはどうにかならないものかと思ってしまう。生徒と共に最前線で銃を担いで戦いたいと思い上がる事はないが、銃弾1発で死に絶えるような脆弱性には我ながら辟易する。
だが、そう思うだけ。自分と生徒が違う事は知っている。近づけない事も知っている。幾ら鍛えても神秘という壁を乗り越える事は叶わず、流れ弾で死ぬ現実は変えられない。鍛える事が無意味、と思わないがそれだけで何かが大きく変わる様な効果は端から期待できないだろう。先生の生物的な限界は神秘を持つこの世界の民達の最低ラインを大幅に下回る。第一、そんな自分の努力1つで変わるならとっくの昔にやっていた。そんなもので変わらないからこその現実で、世界に打ちのめされた今がある。
彼は念のため懐に忍ばせておいた鎮静剤を首筋に打ち込む。カシュ、と空気の抜ける音が鳴り注射器の中に入った透明な液体の嵩がみるみる減っていった。全ての薬剤を体内に注入した先生は手をだらんと下げて……思いっきり咳込んだ。その弾みに緩く握っていた注射器が手元から離れ、乾いた音を立てながら地面を転がる。
掠れた様な音と湿っぽい音がミックスされた咳込みは唾液や呼気と共に溜まった血を吐き出すためのもの。いつもの癖で口元に裾を当てて咳込んでしまったため白のコートは真っ赤に汚れてしまった。だが、公共の地面を汚すよりはマシだろうと思い、シャーレの腕章だけ外してジャケットの方に取りつける。その後、付着した血が見えないようにコートを畳んで……息を吸って、吐いた。今の彼にとってはそれだけでも身を削る様な重労働だった。
まるで文句を言うかのように鳴る心臓に彼は『文句を言いたいのはこっちなのに』なんて思う。だが、自分の脆弱さに文句を言っても何も変わらない事は自分が一番知っているため、呼吸を整え、一刻も早く正常に戻る事に専念する。
息を吸う、吐く。酸素を取り込む、二酸化炭素を吐き出す。一定のリズムを保つことを意識。浅い呼吸ではなく、深呼吸を。背中に走る悪寒から意識を外す。赤く明滅する視界が鬱陶しいから眼を閉じる。右腕は脈打つ心臓を服の上から握り潰すように。
────シッテムの箱を使って無理矢理動かしていた肉体。まだ完治とは言えない体の傷。
無名の守護者に首を撫で切られ、トキに成す術なく叩き潰され、ケイに腕を砕かれ。それ以外にも銃弾で撃ち抜かれたり、刻まれたり。その度にこれに縋ってきたのだ。その負荷は推して図るべきだろう。にも関わらず数日副作用が現れないから落ち着いた、なんて虫が良すぎる。数時間前の己の浅慮を嘲った。
そもそも、こうしてある程度自由意志で体を動かせる現状こそ幸運だ。最悪、今後もずっとシッテムの箱を通して動かない死体同然の肉体に稼働命令を出さなければならない可能性すらあった。まるでマリオネットのように。
そして、彼は「ふぅ……」と肺に残った雨の空気を吐き出して────
「……見えているよ」
飛来する鋼鉄の弾丸を見る事すらなく、先生は呟く。刹那、励起するシッテムの箱。瞬時に防御壁が形成され弾丸が甲高い音を立てて明後日の方向に弾かれた。先の潰れた12.7x99mm NATO弾が先生の足元に転がり落ちる。
先生を殺傷する弾丸。9mmパラベラム弾とは比較にならない殺傷能力を持つそれが先生の体に直撃すれば容易く肉が吹き飛ぶだろう。腕に当たれば腕が飛び、腹部に当たれば上半身と下半身が千切れ、頭に当たれば柘榴のような末路を迎える。こと単純な威力に於いては生徒が日常的に携帯できる武器の中でも最上位に位置する銃火器ではあるが、シッテムの箱の防御を貫通するには至らない。
初撃を危うげなく防いだ彼は張り詰めた空気を少しだけ緩め、諭すような優しい視線で────弾丸が飛来した方角を向いた。
▼
『この声が聞こえるなら、退いてくれないかな?』
展開しているドローン越しに聞こえたのは落ち着いた、穏やかな声だった。対物ライフルで狙撃された人間とは思えないほどに凪いだ声は少女の耳に嫌な緊張感を伴って入り込んで来た。まるでセイレーンのような。聞くだけで三半規管が狂う。魔性、とは言い得て妙で……背中に冷たい汗を感じた。
『基本、余程の手練れでない限り狙撃に2度目はない。やるなら一撃必殺だ。初撃で私を仕留められなかった時点で狙撃手としての君は負けている』
言われなくても分かっている事だった。基本、狙撃の成功確率が最も高いのは第一射。それで仕留められなかったら失敗同然だ。
意識の外から、視界の外から、音速を超える弾丸で感づかれる間もなく撃ち抜くからこそ狙撃は強力。だが、狙撃というカードに気付かれてしまえばターゲットは『狙撃される可能性』を頭に入れて動くことになる。そうなればもう成功しない。900m離れた場所から動体に当てるのは曲芸だ。狙撃手として鍛えられた少女であってもそれは厳しい。アリウスが誇る特殊部隊であるスクワッドに席を置く
『私が正義実現委員会を呼んで、彼女達が到着するまで……そうだね、大体10分位かな。その間に君は私を殺し切れるかい? 君の持つ対物ライフルであの防御壁を貫けるかどうか試すのも一興かもしれないけど、その遊びに時間を掛けすぎたらツルギを筆頭にした主戦力が此方に来る。そうなれば君……いや、君達も流石に分が悪いんじゃないかい?』
冗談じゃない、と少女は思う。今この場に居るのは狙撃手の少女と、少女の回収人員、直接戦闘になった場合に対処する前線部隊が4名の計6人。たった6人で正義実現委員会の相手にするのは無謀だ。戦略兵器である剣先ツルギ一人でお釣りが来る。そこに副委員長やら他の部隊の部隊長が合流すれば0に近似できる勝ち目が文字通りの0になってしまう。
何より最悪なのは、仮に正義実現委員会がこの場に到着した場合にアリウスの存在がトリニティの権力中枢に露呈する事だ。存在が知られてしまえば……今後の計画に大きな悪影響を与える。上位者から与えられた命令である彼の始末は、あくまで『可能であれば』の話。当然ながら計画の方が優先度が高い。ならば今回は彼の手札を1つ引き出せた、と考えて撤退した方がリスクは少なく済む。
位置は確実に捕捉されている。正確な人数は把握されていないだろうが、1人でない事は分かっているだろう。所属と顔はバレていない……と思う。今この場で撤退すれば彼に与える情報は最低限で済む。代わりに今後一切狙撃等の暗殺は成功しなくなるだろうが……1回目ですら成功しないのであれば、このデメリットは実質無視できる。少女にとってもアリウスにとっても、彼女に命令を下した大人にとっても、この時点での撤退はベストであった。
だが、それはあくまで少女達……先生の命を狙う者の都合だ。彼は違う。彼がこの場で少女を逃がす理由が欠片もない。それこそ彼の云う通り正義実現委員会を動員し、少女達を捕えて尋問なり拷問なりに掛けて情報を引き出した方が彼やトリニティにとってプラスになる。にも拘らず、彼は自身に何の利点が無い事を知っていながら暗に少女達に撤退を勧めている。
恐らく、彼は別に
『別に君を逃がす理由はないけど、今はまだ捕える理由もないからね。なら、お互い痛み分けって形で今日はお開きにした方が建設的だ。退くなら追わないよ。この件を誰かに言うつもりもない』
これ以上騒ぎを大きくすれば先生という立場上、少女達を捕えない訳にはいかない。トリニティ自治区で暴力沙汰が起きたなら正義実現委員会が出張ってきてしまう。先生とて自治区内の治安維持活動を止める権限を持たないし、止めるつもりも無いため少女達は抵抗虚しく捕らえられ……情報を吐かせられるはずだ。
だが、現段階なら引き返せる。狙撃を知っているのは当事者達のみ。彼がそれを誰にも言う事なく忘却すれば、この件は永遠に闇に葬られる。
失敗した後の展開としては正に理想的だ。少女達にメリットが多すぎて、彼に一切のメリットがない点に目を瞑れば。全く以て信用ならない────そう思ってドローン越しに彼を見ると、動く気配は欠片もなかった。
────正気か、この大人は。
益々不気味だ。何をしてくるか一切不明だから排除したい、と云うあの人の気持ちも理解できてしまう。キヴォトス随一の不明点にして……危険人物。この世ならざる異物、システムに近い何か。
相手にするだけ、考えるだけ無駄だと悟った少女はこれ以上特に何もする事もなく遠隔操作でドローンを自壊させ、回収員と部隊に連絡を入れて……撤退準備を開始した。
▼
「……行ってくれたかな」
呟き、彼はシッテムの箱をスリープモードにしてコートの中に仕舞う。アリウスの生徒全6名、トリニティ自治区からの離脱を確認。何とかなって良かった、と先生は内心ほっとする。あのまま戦闘になっていれば事態は確実に泥沼になっていた。それを防げただけでも上出来だろう。
「それにしても、もう動いてくるとはね。ベアトリーチェはもう少し慎重に手を打ってくると思っていたんだけど……アビドスで気でも変ったのか」
何方にせよ今後の動向に注意しないと……そう考えていると、ぽつり、と頬に水滴を感じた。顔を上げて空を仰ぐと曇天が視界に収まる。雨雲。今はまだ小雨だが、時間が経てばきっと本降りになるだろう。出る前に確認した天気予報では晴れのち曇りであったため、傘は持っていない。これからは雨雲レーダーもきちんと確認しないと、なんて毒にも薬にもならない思考。洗濯物が濡れないと良いな、なんて思っていると……少しずつ、雨脚が強まった。
打ち付ける雨が容赦なく体温を奪っていく。服が水気を帯びて重くなり、髪の毛から滴った水滴が地面に落ちる。額に張り付いた前髪を上げて視界を確保しつつ、打ち込んだ薬の効果が出るまで此処に留まる事にした。何せ、今はきっと立ち上がる事すらできない。腰から下の感覚がほぼ皆無で、動かそうにもピクリとも反応せず、下半身不随になったのかと錯覚してしまうほどだ。だから、雨宿りは満足に動けるようになってから。それまでは雨に濡れていよう。この冷たさが、寒さが、苦しさが自分をこの世界に繋ぎ止める楔だと思うから。
止まない雨はない、なんて誰かの言葉。使い古された常套文句。なら少しくらいは濡れてもいいはずだ。自分の体の中に溜まった熱を冷ましてくれることを願いながら、先生は頭上を見た。
見上げた雨雲が先生の瞳に映る。降りしきる雨の向こう側にはきっと青空が広がっているだろう。彼の瞳に施された偽装の裏側と同じ色。彼の色、彼女から譲り受けた色。純白だった彼が蒼を抱いたからこそ、今が在る。
────その『今』に、君はいないのに。
「……会いたいな」
ポツリと零れた声は呟いた彼本人ですら気付かない内に漏れ出た、押し殺し続けていた彼の本音。幾星霜、会ってないのだろう。声を聴いていないのだろう。触れていないのだろう。那由多の果てまで繰り返してきた回帰、そのうちの一回。共に居た時間なんて1年にも満たないのに。
それでも、彼女の事を片時も忘れたことはなかった。顔も声も温度も、何もかも。思い出達はきちんと脳裡に刻まれている。何もかもが満ち足りていて、何もかもを知らなかった……楽園のような鳥籠で生きた記憶。あの日々を経たからこそ、今の彼が在る。
「君は、もう一度あの日みたいな笑顔を見せてくれるのかな」
彼は知っている。皆が言うほど、彼女が立派ではない事を。彼女が超人でない事を。彼女が唯の女の子である事を。誰よりもキヴォトスとそこで生きる人々を信じていた事を。
そして、彼女も知っている。皆が言うほど、彼が立派でない事を。彼が救世主でない事を。彼が唯の青年である事を。誰よりもキヴォトスとそこで生きる人々を愛していた事を。そして、何処までも先生である事を。
アロナを彼女の代わりにすることはない。アロナを通して彼女を見ることもない。アロナはアロナで、彼女は彼女だ。とても良く似ていて、とても近い、だが決して同じではない……2つの命。
もう一度見上げた空。流れる雲の隙間に彼はその瞳を細める。そして、その姿勢のまま握っていた右腕を地面に下ろし水溜りに沈めた。跳ねた水滴が頬に当たり、まるで涙痕のように滑り落ちる。それが先生には罰にも、当てつけにも見えた。悲しくても、苦しくても、痛くても彼は涙を流す事ができない。機能が奪われた、という訳でもなく、ただ単純に摩耗し擦り切れた心の所為。自分の変化に、痛みに鈍くなっているのだ。そしてゆくゆくは自分の痛みだけではなく、他人の痛みにも鈍感になってしまう。それが、どうしようもない程恐ろしかった。
意識を手放してしまいそうな痛みを噛み締めながら、天から堕ちる雫に身を委ねる。
────雨はまだ、止まない。
▼
アリウス自治区、最奥。儀式の祭壇と呼べるような場所で深紅の女……ゲマトリアが一角、ベアトリーチェは頭部にある数多の眼球をぎょろぎょろと動かしながら言葉を紡いでいく。
「やはり、対物ライフル程度の口径ではあの防御を貫通できませんか」
あの防御を見たのは一度や二度ではない。アビドスで起きた一件で何度も見た。展開範囲は広大、最低でも200m程度。速度も速く、文字通り瞬時に展開可能。自身だけでなく他者にも付与が可能で、防御条件も細かに変更できる。当然のように概念防御まで完備していて、全力全開の防御壁を真っ向から貫こうものなら権能に片足を突っ込んでいないとまず不可能だ。
権能クラスの攻撃は流石のベアトリーチェでも簡単に用意できない。幾つかの条件、幾つかの制約、道具やらを使用すれば可能であるが……それらが整うのはもう暫く先だ。今ある手札、使ってもいいカードだけで彼を殺し切るのはほぼ不可能。使い切りのオーパーツを使ってもいいなら可能だろうが、幾つかの関門を突破できるか否かが不確定な上、1回きりの手段を使っても殺し切れなかった場合のリスクが高すぎる。
故に取るのは必然的に2択。何度でも使えるような手段で以て彼を殺すか、或いは────1回切りでも確実に殺し切れる手段を用いるか。この2択の内、ベアトリーチェは後者を選ぼうとしていた。厳密に言うならば、本命を後者にして、前者はセカンドプラン。
アビドスで眼球に焼き付いた、神殺しの罪を担う彼の姿。それを見てしまえば油断なんて出来る筈が無かった。何としても、どんな手段を使っても、何を対価にしても彼だけは確実に息の根を止める。
「事が起きる前に始末しておきたかったのですが……まぁ、仕方ありません。元より成功確率はほぼゼロでした。スクワッドを使えば結果は変ったかもしれませんが、考えるだけ無駄でしょう」
アリウススクワッドは言うまでもなくアリウス自治区に於いて最強の部隊だ。あらゆる面が他の部隊とは一線を画している文字通りの最高峰。だからこそ他の部隊で代替しにくい。失敗する事が予め予想できていた彼の暗殺に、可能なら温存しておきたいスクワッドを出撃させる事は愚策だろう。
求めたものは気軽に使えて、勝手の良いツール。スクワッド以外なら誰でもよかったのだ。偶々あの狙撃手と回収人員の手が空いていた、あの部隊の手が空いていた。だから遊び半分で彼の暗殺を命じた。結果は失敗だったが予定調和。この程度で成功するならとっくの昔に殺している。
故に、もう少し踏み込めば良かった────とベアトリーチェは自省する。単純に手緩かったのだ。
あの駒達を適当に何処かの不良か何かに変装させて、アリウスに繋がるであろう全てを抹消し、捕えられたら自害するように命令しておけば良かった。いや、命惜しさに逃げ出したり情報を売る可能性を考慮して自害の手綱は自身が握るべきだろう。
ベアトリーチェにとってアリウスは単なる手駒に過ぎない。此処に住まう生徒達が持つ憎悪も、何もかも心底どうでもよくて、ただ使えそうだから煽っているだけ。思い入れなんて皆無だ。儀式の生贄に必要なロイヤルブラッド以外、何処で何人死のうが関係ない。ベアトリーチェにとって、アリウスの生徒が死ぬ事は枯葉が落ちた事とほぼ同義。心が動く訳もない。悲しむなんて意味不明だ。駒が壊れた程度で何の感情を抱けばいい。
子どもの命、それも生まれた時点で捨てられた命なんて幾ら消費しても構わないだろう。利用し、使い潰し、更なる高みに至るための道具にする。それだけがあの掃き溜めに捨てられた命の利用価値だ。
「先生はどうでも良いですが、シッテムの箱は使えそうですね。認証方式は……虹彩か指紋か。殺したら眼球と片腕は確保するように命じましょう。それ以外は烏の餌にして捨てましょう」
報告内容を全て読み終えたベアトリーチェはそう結論付ける。先生は殺すが、殺した後に残るシッテムの箱は回収対象だ。単なるタブレットではない事は見て分かる。あれは恐らくオーパーツ、しかもキヴォトスの中で間違いなく最高のものだ。彼を殺してタブレットはそのまま、というのはあまりにも勿体無い。アレには確実に莫大な価値がある。
神秘も力もない彼が使ってもあの出力ならば、
近い未来図にベアトリーチェは笑みを浮かべる。ロイヤルブラッドだけでなく、錠前サオリも……いや、いっそのことアリウススクワッドの4人纏めて全員残らず心臓を抉り出して儀式の生贄にしてしまおうか。
「子ども達では少々戦力不足ですね。私も直々に動くとしましょう」
赤が消えた。