シャーレ活動備忘録   作:遊園市街

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 感想評価お気に入り登録誤字報告、本当にありがとうございます。例によって独自解釈、独自設定のてんこ盛りです。



断章Ⅱ
哀歌(ラメント)


「……」

 

 先生は階段を下りていく。一段降りる毎にテクスチャが変わる、キヴォトスではない異界になる。過去未来現在、古今東西あらゆる法則が混在したこの空間はおよそ生命が生存するのには適さない。オートマタを含むキヴォトスの住民は勿論、ヘイローを持つ者であったとしても内側と外側が反転して即死する。

 

 それらよりも遥かに生命としての強度が低い彼が生存できているのは偏にシッテムの箱のおかげだ。画面がひび割れ、教室が破損し、混沌領域でしかあの子が存在できなくなったとしても……それでも、その力に不足は無い。先生を守るという一点では他の追随を許さないほどに、その性能は隔絶している。

 

 刻一刻と変化していく法則に対応するかの如く、刻一刻とその性質を変えていくシッテムの箱の浄化作用。有害な法則を無害なものへ、生存に適したものへと変え、先生は最下層を目指して進んでいく。惑星の内海……マントルの更に奥、星の核に近い部分……その裏側に向けて下る。

 

 その先に在るのは生命を拒む異界常識。色彩の浸食すら跳ね除けた神域、キヴォトス原初の姿。神秘という法則が満ちる前の星が在る。

 

 整備された現代的な階段は次第に石の段になり、獣道になり、果ては坑道になる。人の手の入らない場所まで来たという証明。ここまで来たら距離は意味を成さない。シッテムの箱の権能を使用し、星の表層から一気に目的地まで向かおう。シッテムの箱を持っているとはいえ、此処に長く留まると危ないのだから。

 

 ごく限定的な空間跳躍。自身を目的地に転送するのではなく、場所と場所の距離を圧縮して0にする。それを駆使しながら1歩で数km単位を進み、最下層を目指す。

 

 吹き抜ける風は原始的な神秘に満ちており、鳴り響く重低音が鼓膜を叩く。軋むフィルターは砕ける一歩手前まで酷使されるが、あの子の意地が彼の命を守り続ける。それを頼りにして、あの子の存在を確かめて、先生は最後の一歩を踏み出した。

 

「……ッ」

 

 切り替わった風景。少し開けた場所は原始的な洞窟の様相を呈していて、辺りには無造作に何らかの結晶が生えている。壁画に書かれているのは神話、或いは虐殺の記録。散らばった人骨はほぼ全てが風化していて、どれほどの年月が経ったのかを伺い知れる。勇敢にも世界に挑んだ先達、その成れ果て。

 

 先生は目を伏せ、膝を折り、祈りを捧げる。どうか安らかに眠ってほしい、と。祈りの心に貴賤はなく、誰かに捧げる思いに本職も何も無いとシスターフッドの生徒達はよく言っていた。

 

 少し経って、先生は立ち上がる。翻る白い制服はまるで死に装束。進む一歩に乱れはなく、先生は約束の場所……この奥に向けて歩み出した。

 

 

 ▼

 

 

「来たよ、黒服」

 

 不機嫌さを隠そうともしないぶっきらぼうな声の先には黒の異形。緩慢な動作で振り返った黒服は伽藍洞の瞳を喜悦に歪めた。

 

「────定刻通りですね。いやはや、貴方らしい。お待ちしておりましたよ、思想犯(シンカー)

「その名はもう棄てたよ。今は唯の先生だ」

 

 先生は毒虫を見るような眼で吐き捨てるようにそう言った。友好的とは口が裂けても言えないような態度に隠されているのは嫌悪と憎悪と怒り。今すぐにでも飛び掛かり縊り殺したい気持ちをぐっと堪えて理性を表に出そうとしているが、隠し切れない感情が言動の節々から漏れ出る。

 

 その表情はあまりにも人間らしかった。達観しているような、凪いだ水面のような……生徒を優しい眼差しで見つめる先生らしい顔は何処にもない。怒りというプリミティブな感情を全面に出し、視線だけで生徒の害を射殺さんとする彼の姿は黒服にとって非常に好ましかった。

 

 誰かの為に怒れるという事は誰かの事を本気で思っているという証明。愛深き彼は傷ついた誰かの為に愛を剣に変え、怒りに変質させている。

 

「ベアトリーチェ、地下生活者。仏の顔も三度までって言うけど、私は短気だからね。お前達が一回でも生徒に手を出したら、その時点でゲマトリアから脱退すると再三伝えたはずだ」

「えぇ、そうですね」

 

 黒服の静かな声が癪だったのか、視線が更に鋭くなる。生徒が見れば怯えてしまうような鋭利さは、しかし黒服の表情を変えるのには至らなかった。

 

「それにも拘らず、お前達は手を出した。元々お前達を仲間と思っていなかったが……ゲマトリアは敵だよ。優先排除対象の、ね」

「随分嫌われてしまいましたね、我々も……あぁ、先の2人(ベアトリーチェと地下生活者)はどうされましたか?」

「殺したよ。この手で。残骸くらいは残ってるかもね」

「左様で」

 

 同胞2人を殺されたというのに黒服の反応は酷く淡泊だった。本が倒れたとか、ジェンガが崩れたとか、その程度の認識。一切の感情を揺さぶられていない。酷くフラットな4文字が、嘗て同胞だった2つの命の手向けだった。

 

 先生はその淡泊さに対して一切の驚きを持っていない。元より、ゲマトリアは仲間と呼称するのには些か個人間の繋がりが希薄だった。要請されれば協力する、リスクとリターンが釣り合っていれば一枚噛む、だが基本的には互いに干渉しない。その関係性は仲間というより、不可侵条約を結んでいる間柄に近かった。

 

 だからこそ、先生は2つの命を摘み取った。際限なく悪意をばら撒き地獄を増やさんとするベアトリーチェと、世界を盤面遊戯のように見ていた地下生活者を。2人をこの世から消し去っても他のゲマトリアは何もアクションを起こさないと知っていたから。

 

「それで、何が目的で私を呼び出したんだ? 生憎、今忙しいんだ。無駄話をするために呼んだのなら、その頭蓋にもう1つ風穴増やしてから帰るけど?」

「いえ、無駄話ではありませんよ。寧ろ有益な話をするために私は貴方をお呼びしました」

「有益な、ねぇ……」

「えぇ、貴方が最も欲している情報です」

 

 先生の表情が訝しむようなものに変わる。彼が最も欲している情報と一口に言っても多種多様だ。

 

 神名十文字(デカグラマトン)が一柱、マルクトが眠る場所。

 ベアトリーチェが祭壇で呼び出そうとしていた『神』の名前。

 数日前までD.U.地区で暴れ回った『何か』の正体。

 

 ぱっと思いつくだけでもこれだけ。このうちのどれを目の前の異形は入手しているのか。

 

「えぇ、怪しむのも無理ありません。キヴォトスに於いて貴方を情報収集力で上回る者は存在しません。貴方が入手できないという事はつまり、そもそもそのような情報は存在しない事を示します」

「じゃあ、お前は存在しない情報を入手したと云うのかい?」

「えぇ、正確には()()()()()()()情報ですが」

「何方でも良いよ。言葉遊びをするつもりはないからね」

 

 大方、そういう法則(ルール)だったのだろう。時に過剰な神秘は物理法則を超越する。同じ弾丸、同じ銃でも、ヒナが使うのと先生が使うのでは齎す破壊規模の次元が違うのだ。

 

 故に今回も同じことが言える。情報を後出しするという神秘(ルール)が、既存の物理法則を捩じ伏せた。

 

「それで、何を入手したんだ?」

「D.U.で暴虐の限りを尽くしたあの怪物についてです」

 

 予想はしていた。このタイミングで態々先生を呼び出すなら、この話以外はありえない。先生は乾いた唇を舐めて、唾と共に嫌な緊張感を呑み込んだ。

 

 数日前、何の前触れもなく突如としてD.U.地区に現れた謎の生命。それは彼や黒服の言う通り暴虐の限りを尽くした。最終的には先生を含むシャーレの戦力により倒されたが……その勝利も盤石なものではなく、分の悪い賭けに勝った結果に過ぎない。

 

 狐坂ワカモ、錠前サオリによるシャーレのオフィスビルを餌としたトラップ。

 剣先ツルギによる全力の足止め。

 美甘ネルによる霊的装甲の破壊。

 小鳥遊ホシノによる物理装甲の破壊。

 聖園ミカによる星落としの権能。

 空崎ヒナによる霊核への全力攻撃。

 

 キヴォトス最強の生徒達が全力を尽くした総力戦は、仮に相手が完全顕現した神であっても撃退できたはずであったが……それでも尚、足りず。

 

 完全展開した天命と天理……計2種類の礼装を使い潰した。

 未完成品ながらも極限の殺傷能力を持っていた礼装、獣殺しを自爆特攻同然の運用で使用した。

 シッテムの箱の制限解除(ナラム・シンの玉座)を稼働させた。

 世界を歪める権能(大人のカード)を計4回、起動させた。

 

 先生も生徒も、シッテムの箱のOSたるあの子も限界を超えて戦い、それで漸く倒せた。倒す未来を手繰り寄せた。薄氷の上の勝利であり、そもそも何故勝てたのか不思議なくらいだった。

 

 被害の規模はD.U.地区全体と、隣接する学園自治区の一部。サンクトゥムタワーとシャーレのオフィスビルは文字通り消滅し、それ以外の建物群もほぼ全壊。地区全体がまともに人が住める場所ではなくなってしまった。現在はリオとヒマリ、先生が連名で解放したエリドゥに移住してもらっているが……それも一時的、永住してもらう訳にはいかない。

 

 故に必ず復興させなければならないのだが、被害の全貌すら分かっていない現在では着手も何もできなかった。大きすぎる被害の把握が目下の悩みの種であり、それ以外の事……あの怪物の正体の解明には回す余力は無い。それこそ、情報が出現している事にすら気付かないほどには。

 

 ────他にも、先生を苛んでいるものはある。手に持つ割れたシッテムの箱。あの戦いで負荷を掛けすぎた結果、教室が破損してしまった。

 幸い、中にいるあの子は無事であったが、あの子の帰る場所である教室は失われてしまい……あの子は『先生をサポートするのに不足はありません』と言っていたが、そういう問題ではないのだ。

 最優先でどうにかしないといけないと思っているが……現在に至るまで補修の手立ては見つかっていない。

 

 あの子への罪悪感と自分への怒りと憎悪で内心が押し潰されそうになるが、今は目の前の異形と対峙している。自罰は後で幾らでもできるからと、思考を切り替えた。

 

「それで、アレの正体は? 大方、終末悪の出来損ないか何かだろうけれど」

「えぇ、先生の仰る通り、アレの正体は終末悪のレプリカです」

 

 やはり、と先生は息を吐く。何となくであるがそう思ったのだ。あの攻撃性……執拗と呼べるほどに生命を狙っていた。眼の前で銃を放つ相手よりも自身の背後で逃げ惑う住民に牙を剥き、多くの命がある場所を最優先。如何に早く、多くの人を殺せるかに執着していた。その性質が『世界を終わらせるもの』から生まれたものであれば色々と納得できる。

 

「……出典は」

「主となったのはゾロアスター教の経典、アヴェスター……それの()()です」

「アヴェスターの偽典?」

 

 正典、外典、偽典。それら3つはアブラハムを始祖とする教え……そこで頻出する用語だ。

 

 正典とは宗教において公式に信者が従うべき基準として確立されている文書を示している。

 外典とは正典とする主張があったが除外された文書を示している。

 そして、正典と外典は宗派や時代により入れ替わり、ある宗派で正典と扱われていても、別の宗派では外典として扱われる事がある。

 

 これに対し偽典は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を示している。或いは、異端の文書とも。

 エノク書、モーセの遺訓のようにヘレニズム文化の影響を受けた旧約文書の再解釈。

 ユダの福音書、ヨハネのアポクリフォンのようにグノーシス主義の立場から書かれた文書。

 ヤコブ原福音書、トマス幼児福音書のように当時の噂話を集めた文書。

 

 これらは正典や外典を元にして書かれた文書、聖人等の名を借りた偽作の総称であり、時代によっては異端扱いを受けたものもある。特に内容に問題があると見做されたものは教会により研究が禁止され焚書の対象となったため、現在ではそれらの元の文書は失われ過去に引用された文書のみが残っているケースもあるそうだ。

 

 このように、正典でも外典でもない……偽りの名義で書かれた聖典の創作、聖典を元に書かれたものが偽典である。

 

 尤も、エチオピア正教はヨベル書とエノク書を正典として扱い、これら以外にも偽典は一部宗派に於いて外典として扱われるものもある。そもそも、偽典という分類は成立年代の遅さ、あるいはその後の教会における異端認定などによるもの、現在まで生き残った教派における扱いによるものであり、実際には偽典に分類される書のリストは流動的だ。

 

 ────ここまでが唯一神を父とする教えの偽典の話。此処から先はアヴェスター……ゾロアスター教に於ける偽典の話だ。

 

 ゾロアスター教は古代ペルシアを起源とし、ネオペイガニズムを除くと現存する宗教の中では最長の歴史を持つとされる。善の象徴として純粋な火を尊ぶことから拝火教とも呼ばれ、その来世観や終末論はセム的一神教や仏教にも影響を与えたとされ……最古の一神教と言われる事もある。

 

 特徴的なのは善悪二元論と終末論だろうか。世界は善と悪の二項が争う場とされ、最終的には善の勝利が約束されている。世界の終末には生者も死者も改めて選別され、全ての悪性が滅ぼされた新世界で最後の救世主により永遠の命が与えられる……所謂、最後の審判。アブラハムが持つ信仰とよく似たものをゾロアスターも所有している。

 

 そして、そのゾロアスター教の聖典がアヴェスターだ。その内容は善悪二元論の神学、神話、神々への讃歌、呪文等から成り、大きく分けて以下の5部から成立している。

 

 祭儀書であるヤスナ。

 ヤスナに手を加えた補遺的小祭儀書であるウィスプ・ラト。

 除魔書であるウィーデーウ・ダート。

 21の神々に捧げられた頌神書であるヤシュト。

 日常的に使用する比較的短い祈祷文を集めたホゥワルタク・アパスターク。

 

 この5つがゾロアスター教の聖典であり、正典。この5つのみがアヴェスターだ。 

 

 故に、アヴェスターに偽典は存在しない。存在しないものが主となった、と言われれば誰だって懐疑的になるだろう。

 

「先生の疑問は最もです。アヴェスターに偽典は存在しません。偽典は勿論、外典さえも。5つの聖典のみがアヴェスターであれば、それに対する番外などありません。そもそも、アヴェスターは成立当初から一般信徒に広く権威を認められた訳ではなかったですから。記述されたペルシア州から離れた地域では一般信徒はおろか神官ですらアヴェスターを知らぬ者が居ました。偽典や外典が成立する地盤が存在しえなかったのです」

「だが、事実としてアヴェスターの偽典を用いた何かはキヴォトスに牙を剥いた。なら、あるんだろう? 無いものが元になった存在が有るなら、そもそも無いという前提が間違っていることになる」

「えぇ、その通りです。事の仔細がどうであれ、キヴォトスにはアヴェスターの偽典が存在します。確実に」

 

 面倒なことになった、と先生は内心顔を顰める。これからは存在しなかったものを探さなければならないなんて。それも、最優先で。黒服が態々時間を作り、誰にも聞かれない場所で伝えたという事はつまり、そういう事だ。再発する可能性があると、この黒い男は言っている。

 

「先生はアヴェスターの偽典がどんなものか、想像できますか?」

「さあね。でも碌でもない悪性情報の塊だってのは分かるよ。何せあの終末悪を叩き起こしたんだ。エッセンスとして黙示の四騎士や獣も含んでいたとは思うけれど、それらと反発せず融和できる時点で最悪なのは火を見るより明らかさ」

 

 その返答に満足したのか黒服はパキパキと音を立てながら笑みを深めて……背を向けて歩き出していた彼に「時に先生」と声を掛けた。帰ろうとしている最中を呼び止められ、振り返った彼は『まだ何かあるのか』と言いたげは不機嫌な表情。

 

「サンクトゥムタワーとは何かご存じですか?」

「……アレの本質は『光の柱』だ。世界の法則を縫い付けるための柱。世界の表と裏を貫く針のようなもの。簡単に言えば、アレは国産みの権能そのものだ。天逆鉾やローマの大樹と機能そのものは大きく変わらない。キヴォトスが現在の姿になっているのは、アレが世界の表と裏を縫い留めているから。アレが万が一剥がれ落ちれば、キヴォトスは原初の混沌に戻る」

 

 ────即ち、あらゆる神秘が飽和する地獄へと。

 

「では現在の……サンクトゥムタワーが破壊されている状態は少々拙いのではないですか? 今のテクスチャが剥がれ落ちるのは貴方も生徒も望まない筈です」

「そこは大丈夫だ。確かにサンクトゥムタワーは最も分かりやすくて大きい楔だけど、楔は1つじゃない。他にも幾つかあるし、シッテムの箱(世界の基準点)にも楔の機能がある。少なくとも、今すぐ修復しなければ世界が危ない訳ではない。今は放置しても問題ないさ」

 

 サンクトゥムタワーが繋ぎ止めている現在の世界法則(テクスチャ)。それが成立したのはいつ頃か不明であるが、恐らく当代の知性体が星の霊長となったタイミングだろう。

 今の知性体が活動しやすい法則、生存しやすい法則、次に続きやすい法則。過剰な神秘はアーカイブ化されるか、或いは天使の光輪(ヘイロー)に形を変えた。神秘は肉体の強度を底上げし、死に難く傷つき難い生命へと進化。キヴォトスの生命のフォーマットは神秘を前提としている。

 

 では────そもそも、神秘とは何だろうか。キヴォトスでは当たり前のものであり、キヴォトス外部には存在しないもの。キヴォトスではあって当然のものであるからこそ、誰も疑問を抱かなかった。だが、先生やゲマトリアは違う。彼等は異邦の生命であり、神秘が超常だった世界の住民。故に、その『当たり前』を疑い、疑問として提唱できる。

 

 ────それこそが、このキヴォトスを真の意味で救済するための必要条件だった。

 

「神秘とは、何だ?」

 

 神秘とはエネルギーである。神秘とは物質である。神秘とはエーテルである。どれも正解であり、異論を唱えるつもりはない。だが、()()()()()を考えるならば、それは。

 

「私は神秘を(ルート)……或いは設計図だと思っている。遺伝子の奥深く、ヘイローに刻まれた起源。神に至るために必要な経路(パス)。尤も、それを正しく認識できるか、認識できたとしても最奥に至れるかはまた別の話だけどね」

 

 例えば、トリニティ総合学園のティーパーティーの3人。彼女達は世界最大信仰を誇る神話、その聖典に名前が記されている……神に最も近き者達の神秘を保有している。

 聖園ミカは神の如き者(ミカエル)、桐藤ナギサは神の薬(ラファエル)、百合園セイアは神の力(ガブリエル)

 

 この3人の内、自身の神秘を正しく認識しているのはセイアとミカ。特にセイアは予知夢という特殊な才能を開花するのに至っており、神秘への理解度だけならミカの二枚は上を行く。

 

 だが、そんなセイアであっても神秘の最奥へアクセスできなかった。彼女達3名の内、最奥に至れるのはミカだけ。要因は色々と考えられるが、やはり最たるは神秘の総量と出力だろう。ミカにはそれを満たすだけの神秘(エネルギー)があり、他の2人にはそれが無かった。

 

 当然ではあるが、神秘はあればあるだけ良いものではない。その最たる例がセイアで、彼女は予知夢が原因で夢と現の境界線で彷徨ってしまう事があった。紆余曲折の果てでセイアは無事に戻って来れたが、その過程で予知夢を失っている。強すぎる神秘はその身を蝕んでしまうのだ。セイア然り、アスナ然り。

 

 そして……先生はセイアの選択に希望を見た。己が神秘を手放した、セイアに。

 

 彼を復活の器として消費し、この世界に生まれ堕ちる唯一神。この器に刻まれつつある神秘と経路を手放す事ができたなら。いや、自分だけではない。神秘により傷ついてきた人々は沢山いる。

 

 ────彼女達を救う事ができるなら、私は。

 

「私は、全ての神秘を……」

 

 ────ある回帰の会話より抜粋。

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