シャーレ活動備忘録   作:遊園市街

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とある御茶会議(ティーパーティー)

 

 トリニティ総合学園、最奥。ティーパーティー所有のテラス。神殿を思わせる開けた空間に鎮座するティーテーブルにはアフタヌーンティーのセットが飾られ、色とりどりのお茶菓子が来客を歓待する。飾られた花は風に揺れ、砂糖とは違う甘い香りが鼻孔を擽った。

 

 それを取り囲むのは2人の生徒。気品と知性に溢れ、凛とした佇まいと年不相応にも思える落ち着きを持つ少女。ふわふわとして愛らしい、あどけない雰囲気をもつ桃色の少女。2人は学び舎を同じとする友人であり、異なる派閥に属する政敵であり……何より、気心の知れた幼馴染にして親友だった。

 

 自身の席から立ち上がった彼女達の視線の先には、開けた扉の前に立つ先生。連邦生徒会指定の白の制服の上にこれまた白のコートを纏った彼は、付き人に先導されるがまま歩いて行き……4つの席の内、飾り気のない1つの横に立った。

 

「こんにちは、先生。こうして直接お会いするのは初めまして、ですね」

「そうだね、何回か書類や行政官の子を通して連絡はしてたけど……面と向かって会うのは初めましてだね」

 

 このお茶会の主催者の一人たる少女は軽く頭を下げ、会釈。彼女は「どうぞ、お座りください」と言えば、彼も軽く頭を下げて着席。彼女のすぐ近くには汚れ一つないティーカップとソーサー、ティーポットが鎮座している。

 

「ティーパーティーのホスト代行、桐藤ナギサと申します」

「シャーレの先生です。気軽に先生、と」

 

 落ち着いた口調で切り出した少女────ナギサと先生は社交辞令のような、だが確かに互いに対する尊重と親しみの籠った挨拶を交わす。少し固さは感じるが、それもまぁ仕方ないだろう。この席の主催は彼女で、来客たる先生をもてなす立場にあるのだ。これはティーパーティーのあり方の問題、来客に無礼を働く事など出来る訳もない。彼が気にする事はないとはいえ、ティーパーティーのホスト代行を任されている身として、フィリウス分派の長として細心の注意を払うのは当然だった。

 

「こちらは、同じくティーパーティーのメンバー、聖園ミカさんです」

「やっほ、先生。久しぶりだね!」

「あぁ、久しぶり、ミカ。元気だった?」

「うん! 先生は?」

「私も元気だったよ」

 

 そんなナギサとは正反対。極めてフレンドリーな態度で先生を歓迎したのは同じくティーパーティーの一員、パテル分派の長たる聖園ミカ。彼女は溌溂とした、天真爛漫を体現したような笑みで先生に手を振ると……彼もそれに合わせるように手を振る。その顔は穏やかな微笑。ミカが好きだった彼の笑顔だった。

 

「そして……ティーパーティーの現ホスト、百合園セイアさんは本日体調が優れないとのことで席を外しております。ご了承ください、先生」

 

 ナギサは空いている席に視線を送る。本来ならばセイアもここに同席していたはずであり、進行も彼女が行っていた手初であるが、生憎と体調が優れないため不在となってしまった。

 尤も、体調不良と言っても『本調子ではない』程度のもので、何か深刻な不調があった訳ではない。だが、セイアは元々体が弱いため、大事を取って今回は見送る判断をした……と云うのが、今回の経緯。先生としても彼女に挨拶出来ないのは残念であるが、それは彼女の体調に憂いが無い時の楽しみに取っておけばいいだろう。

 

「改めまして、お初にお目にかかります。私達がトリニティの生徒会、ティーパーティーです」

 

 サンクトゥス分派の長、預言の大天使こと百合園セイア。

 フィリウス分派の長、ティーパーティーのホスト代行たる桐藤ナギサ。

 パテル分派の長、トリニティ有数の実力者である聖園ミカ。

 

 ────彼女達こそが、トリニティの権力中枢だった。

 

 

 ▼

 

 

「先ず、紅茶を一杯どうぞ。先日、百鬼夜行から良い茶葉を仕入れましたので。お口に合うと良いのですが……」

「ありがとう、頂くね」

 

 小さな陶器の鳴る音共に置かれたティーカップには注がれた紅茶。漂う香りは気品に溢れていて、間違いなく最高級の茶葉であると確信。先生はカップとソーサーを持ち、静かに口に運び……香りと味を舌先で転がす。

 

 注がれた紅茶は言うまでもなく絶品だった。香り、味、どれを取っても最上と断言できる。同じ茶葉を使ったとしても自分ではここまで上手に淹れる事は出来ないだろう。彼女と先生では淹れてきた数が違いすぎる。

 

 一口だけ飲んだそれを静かにテーブルに下すと、ナギサは視線で『どうでしたか?』と聞いてくる。感想なんて決まり切っている先生は微笑みを1つ返すと、彼女の表情も少しだけ綻んだ。

 

「先生は紅茶を嗜んでおられますか?」

「人並にはね。でも、ナギサほどじゃないよ」

「そうですか……いえ、先生はミレニアムのメイド部……C&Cの方々と親密とお聞きしたので伺ったまでです。お気を悪くしたら申し訳ありません」

「全然気にしてないよ。聞きたいことがあったら何でも聞いて、私が答えられる範囲だった何でも答えるからさ……それにしても凄いね。C&C、特にコールサイン持ちは表向きには秘匿されているのに」

「ふふっ、トリニティの情報網は優秀ですから」

 

 そう云い、ナギサは紅茶を口元に運ぶ。トリニティの情報網は優秀である、なんて改めて言われなくても分かり切っていた事実だ。ティーパーティー傘下の正義実現委員会はゲヘナ風紀委員会のように情報部や諜報に特化した組織がある訳ではないが、長い歴史により分散した人脈をそのまま情報網として使用できるため、伝達速度も正確性も申し分ない。流石権力闘争の中心地、と言うべきだろうか。政敵を蹴落としたり、揺さぶったり、或いは交渉を有利に進めるために発達した『弱みを握る』技術は、遂に外部に徹底的に秘匿されていたセミナーの最終兵器の情報を掴むに至った。

 

 尤も、恐らくこれはリオの想定内のはずだ。トリニティとゲヘナが手を取り合い、互いに戦力を出し合ってオープンな機構を作り出そうとしている時に、同じく三大校のミレニアムが最強戦力を秘匿している……となれば無用の軋轢を生みかねない。

 C&C、特にコールサイン持ちは全員規格外も良い所だ。鋭利が過ぎる第六感を持つアスナは勿論、アカネやカリンもそこらの平メンバーでは一切太刀打ちできない強者であり、ネルやフル装備のトキに至っては各校の最高戦力でもないと相手にすらならない。二校が和平に歩みを進める現状、そんな巨大な戦力を隠しておいてもメリットが少ないと判断したのだろう。故に掴んだ情報ではなく、掴まされた情報。恐らく、ゲヘナの万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)やゲヘナ風紀委員会も同様の情報を掴んでいるだろう。

 

 ナギサは「ですが」と言って、カップを静かに下した。

 

「ミカさんと先生が既にお会いしていたのは知りませんでした。何かミカさんが失礼なことはしませんでしたか?」

「全然。寧ろ、ミカには助けられたよ」

「そうですか……なら良いのですが……」

「もう! 信用無いな~」

 

 そう云い、可愛らしく口先を尖らせるミカ。頬杖を突いてナギサを若干恨み混じりの視線で刺せば、彼女は「行儀が悪いですよ、ミカさん」と一蹴。それが面白くなかったのかミカは立ち上がり、先生の方まで近寄り……彼の近くを歩きながら、彼の全身をまじまじと見つめる。

 

 少し伸びて、若干襟に掛かっている後の髪を触り。色白の頬を指先で突っついたり。近づいて鼻を鳴らして彼の香りを吸い込んだり。世界を映す万華鏡のような瞳を覗き込んで、通った鼻梁と唇を見て……その視線は体に映る。白地に青の刺繍が施され、シャーレの腕章が付けられたロングコート。その下には同じく刺繍の施された白のジャケット、白のシャツ、青のネクタイ、下げられたIDカード、白のスラックス、革靴。膨張色を全身に使っているにも拘らず受ける印象は細身そのもの。だが、服の下にはそれなりに鍛えられた体を確かに感じさせる。

 

 そして────ミカは先生の手をそっと取った。まるでダンスに誘うような気高さと、慈しみ。

 

「ミカ?」

「もうちょっと……」

 

 先生の心配するような声も上の空。ミカは彼の存在を確かめるようにその手を握る。指の一本一本、親指から始まり小指まで。彼女の細くて、白くて……先生のものよりも一回り以上小さな手で、彼の指先を握る。温度が伝わるように、気持ちが伝わるように。指が終われば手のひら、手の甲。それを触る彼女の表情はとても楽しそうで、水を差す気なんて起きなかった。先生は『このまま気が済むまで好きにさせよう』と思い、体をミカに委ねるが────その空間はナギサの咳払いにより崩された。

 

「ミカさん、初対面じゃないとはいえ、そのような言動は礼儀がなっておりませんよ。愛が溢れるのは結構ですが、時と場合を弁えてください。大体、ミカさんもティーパーティーの一員なら、もう少し落ち着きと気品を持った立ち振る舞いを……」

「えー、私と先生の仲だしいいじゃん? それとも嫉妬しちゃった?」

 

 頬に茜が指したミカが悪戯っぽく笑えば、ナギサに青筋が増えた。カップを持つ手は震えていて、苛立ちを必死になっていることが見て取れる。先生はその光景を『成程、これがアンガーマネジメント……』と至極どうでも良い事を考えていると、直ぐ近くから申し訳なさの混じった声が聞こえた。

 

「いきなり触っちゃってごめんね、先生。痛くなかった?」

「大丈夫だよ。心配ありがとう、ミカ」

 

 混じり気の無い微笑を受け取ったミカは心配が杞憂だと改めて知る。あぁ、そうだ。彼はこういう人だった。生徒の性格、行動……何より心を大切にして、尊重していた。彼はどんな時であろうと、その人物がどの様な立場にあろうとその心を否定する事は決してせず、自身の意志に従ってほしいと願っている。

 

 ────先生の手に触れた、ミカの掌。少しくすぐったかったが……それ以上に愛に溢れていて、泣きたいくらいに暖かかった。

 

「あの時は色々とあって、落ち着いて挨拶なんてできなかったから、改めて……よろしくね、ミカ」

「うん! よろしく先生!」

 

 固く、強く。死が二人を別つとも、繋いだ手と心は決して離れないように。されど、その力で決して傷つかないように。まるで春の木漏れ日のような彼の綻んだ顔を見て……ミカは内心で更に決意を固める。彼を二度と奪わせないと。死に惹かれ、断崖の果てを飛翔する彼を繋ぎ止めたままでいようと。

 

 解かれ、離れていく手を少しだけ名残惜しそうに見送ったミカは彼に握られた手をそっと胸の前で抱きしめる。今は、この暖かさだけで充分。この温度を思い出せる限り、どれだけでも頑張れる。

 

「ナギサもよろしくね」

「……はい、よろしくお願いします、先生」

 

 差し出された手に一瞬の戸惑いを浮べたナギサであるが、直ぐに穏やかな表情を取り戻し彼と握手を交わす。願わくば、この交わした言葉に嘘偽りがありませんように────と、彼女は自分自身すら『らしくない』と内心で苦笑いするほどの純情を抱いてしまった。

 

 締結間近の和平条約。それにより作り出される学校の垣根を超えた史上初の武力集団。そして、それを脅かす不穏な影。歯止めの効かない疑心暗鬼。誰が敵で誰が味方か。誰が有益で誰が害か。交錯する思惑と利益。自分の輪郭すら分からなくなる程の暗闇の中を必死に進み続ける今のナギサには、無条件で信頼できる味方はほぼ存在しなかった。

 だから、だろうか。この眼の前の大人を信頼したいと思った。どうにもならない時は頼りたい。力が及ばない時は助けてもらいたい。味方でいてほしい。トリニティの、ティーパーティーの、或いは────桐藤ナギサ自身の。

 

 そこまで考えて、都合が良すぎる幼い自分をナギサは嘲笑する。これから彼を利用して、彼の善意を利用して、彼が首肯せざるを得ない状況を作り出して学園の膿を吐き出させるのに────そう思うのは、余りにも身勝手だ。

 

 ナギサは感情を飲み干すように紅茶を飲む。日常に組み込まれたルーティンで失いかけた自分自身を取り戻し、仕切り直しと言わんばかりにナギサは口を開いた。

 

「トリニティの外の方がこのティーパーティーの場に招待されたのは、記録に残る限り先生が初めてです。普段はトリニティの一般生徒達はおろか、委員会の重鎮でも簡単には招待されない席でして……えぇ、この会談はティーパーティーの歴史に残るかもしれません」

「それはまた……この身に余る光栄だね」

「あー、何それナギちゃんちょっといやらしい! 恩着せがましい感じー!」

「……失礼しました、先生。そのような意図は決して無かったのですが、そう解釈する事も可能な軽率な発言をしてしまいました。申し訳ございません」

「大丈夫、気にしてないよ。それに、そんなに改まらなくて大丈夫だからね? 勿論、ナギサの立場と信条に一定の理解はしているつもりだけど……少しくらいは肩の力を抜いてくれると嬉しいな」

「お気遣い、痛み入ります……それはそれとして、ミカさん?」

「あー……ごめん、大人しくしてるね。できるだけ」

 

 ミカの『てへっ』という擬音が聞こえてきそうな、ともすれば反省していないようにも見える謝罪をナギサは溜息交じりで軽く受け流す。ナギサにとってミカが浮足立ち落ち着いていないのはいつもの事だ。

 

 特に今日は酷く、先生が来る約束の時間10分前になった途端に「変なところない!?」だの「今日の服汚れてないよね!?」だの大騒ぎ。手鏡と櫛で前髪を整えて、ちらちらと時計を見ながら時間の進みの遅さに溜息を吐いていた彼女は流石にちょっと鬱陶しかった。強硬手段で黙らせる、という選択肢が脳内で有力候補として上がるくらいには。

 今は今で浮足立っているし、落ち着きもないし、デレデレと砂糖のように甘い空気を全身から振りまいているが……先程よりはマシだろうとナギサは自分自身に言い聞かせた。というか、マシじゃないと困る。

 

 ナギサは全員のティーカップを一瞥する。中身の底が突いたカップが1つもない事を確認した後、彼女は「では、改めて」と紡ぎ、背筋を正した。

 

「こうして先生を御茶会議(ティーパーティー)にご招待したのは、少々お願いしたいことがありまして」

「お願い、ね……」

「えぇ、とても大事かつ重要な……トリニティ、ひいてはキヴォトスに影響を及ぼすほど大きなお願いです」

 

 情報を見る手段も、伝達する手段も大幅に発達している昨今。スマホやタブレット、PC一つでメールもファイルも目的の人物或いは団体に送ることができる。そんな現代、態々自身のテリトリーに呼び出してまで伝えたい事となると……その要因はインフォメーションセキュリティ。どこですっぱ抜かれるか分からない電子上のやり取りでは到底話せないようなことを、ナギサは話そうとしているのだが……そこに茶々を入れる生徒が約一名。

 

「おおッ! ナギちゃんいきなりだね! もうちょっとこう、アイスブレイクとか要らないの? ちょっとした小粋な雑談とかは? 天気が良いですねとか、昨日は何を食べたのですか、とか。そういうの挟まないの? ほら、ティーパーティーって基本は社交界なんだし? 堅苦しい話ばっかりってのも駄目じゃない?」

「はぁ……ミカさん?」

「そんな綺麗な眼で睨んでも、これはティーパーティーとしての在り方の問題なんだからダメー! きちんとしないと!」

「ミカさん、そういった事はあなたがホストになった際に追及してください。代行とはいえ、この席のホストは私ですので、私の方針にしたがってくださいね」

「もー……ナギちゃんは頭が固いんだからー……」

「えぇ、ミカさんの頭はマシュマロの如く柔らかいようで羨ましい限りです」

 

 互いに無言。淑女らしい微笑みを浮べながら、その眼は一切笑っていない。容赦が無いというべきか、遠慮が無いというべきか。兎も角、喧嘩する程仲が良いを地で行くような2人の姿は微笑ましかった。だが、先生にとっては微笑ましくても、ナギサからしてみれば招いた席で醜態を晒しているだけ。羞恥で赤くなった頬を冷ますように咳払い。再び口を開く。

 

「お客様の前でこのような論争を広げるのもまた、望ましい姿ではありませんでしたね……そうですね、ミカさんの言う通り少し話の方向を変えましょうか」

「そうそう! やっぱり何事もアイスブレイクを挟んでからじゃないとね~」

「五月蠅いですよミカさん。とは言っても、何から話すべきでしょうか……」

「じゃあ私から1ついいかな?」

「おぉ! 先生から空気を読んでくれた! ほら、ナギちゃん見た!? これが大人の話術だよ! 自然な会話への誘導! 先生、聞き上手だし話し上手だもん!」

「……」

 

 直ぐ近くから話を遮るように声を出すミカ。トリニティの生徒らしさ、スタンダードな淑女像からかけ離れた彼女の姿にナギサは頭痛の種が増えたと言わんばかりの苦い表情。それは確かに彼女らしいが、客人の前なのだからもう少し抑えてほしいと思いつつ、どうにもならないだろうと若干の諦め。溜息がいつもより長かった。

 

「えぇ、勿論です、先生。私で答えられる範囲内であれば何なりと」

「ありがとう。とは言っても、私の認識が間違っていないかの確認なんだけどね……桐藤ナギサ。聖園ミカ。そして、席を外している百合園セイア。君達3人、正確に言えば君達にそれぞれ付いている行政官も含めてトリニティの生徒会、ティーパーティー。そして、ナギサとミカ、セイアの3人がティーパーティーの長、つまりはトリニティの生徒会長……この認識で相違はないかい?」

「……えぇ。先生の仰る通り、私達がトリニティ総合学園の生徒会長()です」

 

 ナギサは視線を先生の方に滑らせながら、落ち着いた物言いで言葉を紡ぐ。ミカについては意図的に意識と視界から外した。

 

「生徒会長達、というのは耳に慣れない言葉かもしれませんが、これはトリニティ総合学園の運営体制によるものなのです。既にご存知かもしれませんが、改めて最初からご説明しましょう。まず、トリニティの生徒会長は代々複数名で担っているものなのです」

「あれ、ナギちゃん無視? 無視かなー? おーい?」

「昔、トリニティ総合学園が設立される前、各分派の代表達が紛争を解決するために『ティーパーティー』を開いたことから、この歴史は始まりました」

「えっ、酷い……ぐすん、私ちょっと傷ついた……」

「パテル、フィリウス、サンクトゥス……それら3つの学園の代表を筆頭にティーパーティーを開き、和解への流れが生み出されたのです」

「ナギちゃんが本当に無視した……嫌がらせだぁ……酷くない? 私達、一応十年来の幼馴染だよ? こんな事今までに……結構あったかもだけど……」

「……その後から、トリニティの生徒会は『ティーパーティー』という通称で呼ばれるようになり、各派閥の代表達が順番でホストを……」

「そっちがその気なら、私もナギちゃんの秘密言っちゃうからね! ナギちゃんってば、この前た────」

「ああもう五月蠅いですね!?」

 

 ナギサの口から発せられたと思えないほどの怒号。机を叩いた大きな音、次いで陶器が鳴らす音。カップに注がれた紅茶の水面が波打ち、立てられていたマカロンが数個倒れ、幾つかの御菓子にまぶされていた粉砂糖が宙を舞う。

 怒りのボルテージが上がりに上がったナギサは青筋の浮かんだ表情のまま、驚いて肩を跳ねさせたミカを睨みつけた。

 

「今、私が説明しているんですよッ!? それなのにさっきからずっと! 横でぶつぶつぶつぶつと……ッ! どうしても黙れないのでしたら、その小さな口に……!」

 

 完全に蚊帳の外に追い出された先生はカップを片手にマカロンを一口。『これ、ナギサの手作りかな?』なんて至極どうでもいい思考。

 

「ロールケーキをぶち込みますよッ!?」

 

 その怒号を真正面から受けたミカは青褪めた表情。流石におちょくりすぎたと反省しているが、それはそれとして突然の大噴火にびっくり。久しぶりにこんなに怒らせちゃった、なんて。

 ナギサは本当にロールケーキをミカの口に突っ込みそうな勢い。怒髪冠を衝く、とは正にこの事だろう。今のナギサは多分ミカですら止められない。次にミカが余計な事を言った瞬間、その小さな口にはしこたまロールケーキが詰め込まれるだろう。

 

 そして────突然部外者になった先生は世界の晴れ間に目を細めた。

 

 拝啓、連邦生徒会長へ。

 今日もキヴォトスは平和です。

 敬具。

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