シャーレ活動備忘録   作:遊園市街

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閑話/預言の大天使

「君と先生はどういう関係なんだい?」

 

 とある昼下がり。シャーレが設立し、先生が赴任して数日が経った頃。ナギサが席を外している時間帯、ミカと2人になったセイアは嫋やかな所作でティーカップをソーサーの上に置き、真正面に座っている少女に徐に問いかけた。

 疑問を投げかけられた当の本人たる少女は口に運ぼうとしていたマカロンを取り皿の上に置き、眼をぱちぱちと瞬かせながら疑問符を浮べて。

 

「え、何? 突然どうしたの、セイアちゃん?」

「突然でもないだろう。シャーレの設立と先生の赴任が決定してから、君の口から零れる話題はそればかりだ。君と彼の間に何かあったのではないのか、と勘繰るのは自然の事と思わないかい?」

「そ、そうかな……?」

「そうとも。ナギサも呆れていたよ。『最近のミカさんからは先生の話題しか聞かない』と」

 

 セイアの脳内で再生される何時かの光景。正面に座っている少女がナギサに変わっただけの、今と同じような状況で対面の少女が零した愚痴混じりの呆れはセイアの頭の中に残っていた。あの時はまだセイアもミカのそれは有名人に対する羨望や憧憬だと切って捨てていたのだが……今はそう思わない。それほどまでにミカの彼に対する入れ込みは強かった。

 

「それで、どうなんだい?」

「うーんと……会った事はあると言えばあるけど、無いとも言えるし……私は知っているけど、先生は知らない……と言うか、覚えていないと言うか……」

 

 その歯切れの悪い解答にセイアはミカに聞こえないように小さく一つ溜息を零す。意味のある情報が得られたわけではなく、却って疑問は増えるばかり。ミカの言葉を額面通り受け取ると、面識はあるともないとも取れて、ミカは知っているが彼は知らず、それは単に覚えていないだけとも言い換える事ができる。

 

 それを踏まえると────考えられる現実的な回答としては。

 

「ふむ……彼がミカとの面識を忘れている、という事かい? 記憶に残らないような幼少期に限った面会であれば、君の解答も意味が通る。まさかとは思うが、幼い頃に将来を誓い合った仲なのかい? それこそ、世に有り触れている書籍のような」

「……セイアちゃん、そんなベタな少女漫画読むんだね。すっごい意外」

「君が押し付けてきたんだろう、ミカ」

 

 今度はミカにも聞こえるほどの溜息。少し前にミカに無理矢理押し付けられた漫画達は公務と公務の間に生まれた隙間時間を埋める手慰み程度にはなったが……セイアの肌には少々合わなかった。それでも、きちんと最後まで読み切りミカに返却しているため彼女の几帳面さと律儀さが伺える。

 一応、返却した日に軽い感想も伝えたはずなのだが……それを貸した当の本人が忘れているのは何事だろうか。彼女は抗議の意志を視線に乗せてミカを見ると、彼女はバツの悪そうな顔をして視線を逸らし、ティーカップを口に運んだ。

 

「まぁ、でも……うん、幼馴染って訳じゃないよ。私の幼馴染はナギちゃんだけだし」

「……そうかい。よく分かったよ」

 

 言い、セイアは空へ手を伸ばす。すると、空を飛んでいた鳥……彼女のペットであるシマエナガが袖の上に留まった。だが、少しするとまた空へ飛び立ち、また少女達は2人きりになる。妙な沈黙が場を支配する傍ら、セイアは頭の片隅で考える。

 

 ────今までの話はあくまで単なる世間話。ミカ風に言うならアイスブレイクだ。本題は此処から。セイアは紅茶で喉を潤して……再びミカを見つめた。

 

「……では、君が計画している事も彼に関連するのかい?」

 

 静かな言葉。それは場を支配していた沈黙を切り裂くのに充分すぎるインパクトを持っていた。友人とのお茶会を楽しんでいたミカの纏う雰囲気が変貌し、ティーパーティーが一角たるパテル分派の長に相応しいものとなる。それに伴い、セイアも自身の意識、或いはスイッチを切り替えた。今までは友人としての壇上、此処からは……権力闘争の本拠地(ティーパーティー)らしい互いの腹の探り合いだ。

 かちゃり、とカップをソーサーに下す音がやけに響き、高い空に溶けるように吸い込まれてく。音はそれだけ、2人は何の言葉も発さない。再度の沈黙が場を支配した数秒の後、ミカは少し乾いた笑みを零して。

 

「……何の事かな、セイアちゃん。私、バカだからよく分かんないや」

「嘘は止めたまえ。私にその手の虚飾が通用しない事は君もよく知っているだろう? それに、君は君自身が思っているほど賢くない訳ではない」

 

 セイアが色濃く引き継いだ神秘、その原型……予知と預言の大天使。それは真実を映す訳ではなく、嘘偽りを看破するものでもない。ただ、少し先の状況や可能性そのものを少女に見せる。未来視や過去視、現在視はお手の物。他人の夢や無意識に入り込む事や可能性の認識すらできる神秘は『知る事』に対しては他の追随を許さぬほどに隔絶している。

 

 隠し事は通用しない────分かり切っていたはずの現実を改めて突き付けられたミカは観念したような顔を浮べて。

 

「……何時から気付いてたの?」

「ティーパーティーが現在の形になった辺りだ。確信を抱いたのは今の君を見たからだよ、ミカ」

 

 それはつまり、ほぼ初対面から気付いていたという事。彼女はミカを一目見た瞬間に、将来的に行うであろう計画を見抜いていた。ミカもセイアの前では可能な限り隙を出さないように気を付けていたつもりであったが、それ以前の問題。会った瞬間に見抜かれるなら注意を払っていても何ら意味が無い。

 

 確信を抱かせたのは己が未熟だ……ミカはそう内省する。視線の動き、呼吸のリズム、発汗。それらを含む些細な律動。それらが少しでも乱れたからセイアに確証を得られてしまった。この手の事はナギサや彼女と比べて明確に劣っていると自覚的だったが、やはり付け焼刃でどうにかなるものではない。ミカは観念したように息を吐いて。

 

「……うん、降参。セイアちゃんの考えている通り。これでも少しは頑張ったつもりだけど……自信無くなっちゃったよ」

「自分を卑下するのは止めたまえ。ミカは充分上手く隠し通している。少なくとも私以外はナギサも含めて気付いていないだろう。私も以前に『視て』いなかったら間違いなく分からなかったさ」

「そうだと、いいけど……」

 

 ミカが裏で何かをしている、という事実を掴んでいるのはセイアだけ。ナギサにも他の生徒にもそれを一切悟られていない。セイアにそう太鼓判を押されたミカはちょっとだけ自信を持ち直し、だがそれでも不安の残る表情を浮かべる。

 

 尤も、不安が残るのも無理はないだろう。誰かが気付いたという事は、また別の誰かにも気づかれる余地があるという事。確かにセイアは類希なる能力を持っているが……別に人というカテゴライズから外れている訳ではない。彼女は予知ができるだけの唯の生徒であり、人類なのだ。

 

 キヴォトスは広い、その手の特殊な才能を持っている生徒は少数ながらも一定数は存在する。そして、その手の特殊な才と真っ向から勝負できるような異能も存在するのだ。

 

 セイアが前者だとするならナギサは後者。生まれ持った才能も勿論あるだろうが、それに胡坐をかかず努力と経験を積み重ねてきたからこそ今の神算鬼謀がある。彼女の努力を間近で見続けてきたミカはその恐ろしさを一番よく分かっていた。少しでも油断や隙、不自然な点を見つけられてしまえば……その瞬間に計画のほぼ全てが崩壊する。ナギサにこの詳細を知られてしまうのだけは避けたかった。

 

「……アリウス自治区の生徒とのやり取り。アリウス自治区への物資の融通。アリウス自治区からの転入生の手引きも君の手によるものだ。他にも色々とある。仔細は聞かないが……それらは全て彼のためなのかい?」

「────ううん、違うよ。勿論、先生の為でもあるけど……一番はアリウスで生きる人達の為」

 

 確かにこの計画は彼の為でもある。誰もが当たり前に憤れて、疑問を持てるような世界。誰もが笑えるような世界。それが彼の望んだ世界だ。故に今の歪んだアリウスを正す事はその世界に一歩近づく事と同義であり、彼に捧げられる為と思われても仕方のない事だろう。

 

 だが、一番はアリウスの生徒の為だ。異端と見做され、迫害され、追放されて。陽の当たらない暗い世界で息を潜めて生きる事しかできなかった。その世界は数世紀経っても閉じられたままで、彼女達の多くはきっと本当の空すら見る事もなく息を止めてしまった。

 

 その罪を赦し給え、とは思わない。過去の罪は過去の罪、今の彼女達がどうこうできるものではなく、そもそも赦しを与える人も与えられる人も今の彼女達ではないのだから。

 

 故にこれは贖罪ではない。罰でもない。義務感や憐憫から生まれるものでもなく、強迫観念に突き動かされている訳ではなく。この行為はミカがやりたいと思った事だ。

 

 ────アリウスの生徒に本当の青空を。この世界は思ったよりも簡単で、広くて、綺麗だと知ってもらうために。

 アリウスの生徒に救いを。あの日、ミカは彼の手に救われた。差し伸べられた手に明日()を見て、愛と善意と優しさを知った。

 

 どん底で、何もかも失って、唯一掌に残った何かすら復讐のために捨て去って、此処で死ぬしかないと思っていたのに……それは違うと優しく否定してくれたあの眼。彼がそう言ってくれたから、彼が手を差し伸べてくれたから、自分(ミカ)はあの時『生きていい』と思う事ができた。空っぽになって、(ゼロ)になっても、もう一度ここ(ゼロ)から始めようと歩き出す事ができた。何もかも元通りにはできないけれど、それでも残された大切なものはきっとあるはずだから。

 そう思えたから、今の自分がある。今此処に立つミカがあの日の答え。胸を張って世界に叫ぼう────私は彼の自慢の教え子(生徒)だと。

 

 だから、今度は自分(ミカ)が救う番。彼に救われた自分がアリウスの生徒に手を差し伸べる。そうすればきっと、この世界は少しずつ善い方向に向かっていくはず。

 

「それがきっと、先生の望みだから。それに、きっと先生ならそうする」

「そうかい……私個人としては、君にはあまりアリウスに関わってほしくない。アリウスの最奥には嚮導者がいるからね。彼女と真っ向から対立するのは危険極まる」

「心配してくれるの? 優しいね、セイアちゃんは」

「友人の心配をするのは当然だろう?」

 

 ミカがやろうとしている事は1つの世界の変革だ。アリウス自治区という、外界からの干渉の一切を拒んでいた場所。そこには眼を背けたくなるような悲劇が至る所に転がっていて、そこで生きる命達も同じように悲劇に魅入られ、呪いに憑かれているだろう。

 

 支配者となった嚮導者があの場で咲く命達にどの様な教育を施しているのか、その仔細はセイアも知らない。だが、どう考えても碌なものではないはずだ。あの場は憎悪と怒りを育むには充分すぎる地盤がある。誰のものか分からない憎悪と怒りを骨髄に浸透させ、自分の首ごと相手の首を捩じ切るような殺意。自分の事も、相手の事も心底どうでもいいと吐き捨てるような虚無は恐ろしいものがある。

 

 それを変えるのは困難極まるだろう。この問題は途轍もないほど根深いのだ。嚮導者を倒せばそれでお終い、という訳ではない。

 事の発端は第一回公会議後の徹底的な弾圧で、異端者として地上を追われたアリウス分派が地下に身を隠した事が全ての始まりだ。嚮導者はあくまで状況を悪化させただけで、状況そのものを作ったのは過去のトリニティ(自分達)。追い詰めたのも自分達で、その状況を打破しようとしているのも自分達。三文芝居のような酷いマッチポンプだが……それでも。

 

 ミカの計画は失敗する確率の方が遥かに高い。だが、それでも彼女はやるのだろう。失敗するから、出来ないから……そんな泣き言は諦める理由にはならない、と。

 

 その愚直さ、真っ直ぐさ。それを世界を知らない少女性と一蹴するのはとても簡単だ。だが、果たして同じことを言える者が何人いるだろうか。世界の裏側を見て、自分を顧みて、危険だと知りながらも見て見ぬ振りはできないと行動に移せる様な者が。少なくともセイアの知る限りそう言えた人はミカだけであり……彼女の友人として恥ずべき行動はしたくない。彼女に眩しさに似た様な感情を抱いて、セイアは自身の脳内で情報を整理する。

 

 推察するに、ミカ達が立てた計画は嚮導者の排除までだ。その後の事……支配から解放されたアリウス自治区の事は考えていないだろう。だが、今の内から成功した後の事も考えておかないと足元を掬われかねない。

 アリウス生徒は高度な戦闘訓練を長期間に渡り受けているため、PMCや傭兵といった事業を営む会社或いは個人から見れば喉から手が出るほど欲しい人材だろう。仮に解放できたとしても生徒達がそういった場所に流れてしまえば生徒達の手綱を握る相手が変わっただけ。根本的な解決には至らない。

 故に必要なのは衣食住の支援や適切な教育を受けれる環境の提供、アルバイト等の斡旋。生活と教育の保証を適切に行えば違法な場所への人材の流出は抑制できる。

 

 ────後に生まれる仕事と問題は私達が対処すべきだろう。この分野は私達の領域だからね。

 

 セイアは自分にタスクを一つ課し、それからミカを流し目で見る。

 

「……では、私はどう動けばいいんだい?」

「え、協力してくれないんじゃなかったの?」

「仔細を聞かないと言っただけで、協力しないとは一言も言っていないよ。さ、言ってくれたまえ。ミカ、君は私に何を望むんだい?」

 

 その真っ直ぐな、茜空を溶かしたような瞳。ミカは想定外の言葉に僅かな戸惑いを浮べ、僅かな逡巡。本当に言ってもいいのか、巻き込んでしまってもいいのか……そんな心が見え透いている。だが、迷いも終わりを告げて……少女は少し躊躇いながら言葉を紡ぎ始める。

 

「……セイアちゃんには、エデン条約が片付くまで隠れていてほしいの」

「……ふむ。隠れてほしい、か。理由を聞いてもいいかい?」

「あの女が真っ先に狙うとしたらセイアちゃんか先生、その二択」

「妥当だね。もし仮に私が相手と同じ状況に立っていたら、私も真っ先に私を狙う。予知夢で策を先回りで潰せる様な相手を放置する理由は無い」

 

 セイアはこと頭脳戦に於いては反則もいいところだ。彼女に真っ向から盤面勝負を仕掛けるなんて自殺行為同然で、策を弄したいならば彼女は真っ先に潰すべき存在。故に狙われるのは当然だと彼女自身も思っているため、ターゲットにされないように隠れる事に何ら異論はない。

 

 だが、今のセイアはティーパーティーのホストだ。何の引継ぎも無しに突然消えるわけにはいかない。最低限、ホストの権限を他のメンバーに譲渡するか、ホスト代行を立てておく必要がある。今回の場合、明日以降からエデン条約調印式後までの数か月間のため代行を立てた方が望ましい。

 

「私は体調不良で邸宅内療養しているという事にしておこう。ホスト代行はミカにやってもらっても良いかい?」

「ううん、私じゃなくてナギちゃんに」

「……ミカ、君は」

「そんなつもりじゃないよ。でも……最悪は想定しておかないと」

 

 死ぬつもりはない。必ず帰ってくるつもりだ。だが、それはそれとして最悪の場合を考えておく必要があるほどに相手は手強い。変数次第であるが計画がひっくり返される可能性すらあるのだ。帰ってこれなかった場合、死んだ場合を想定するのも道理というもの。

 もしかしたら居なくなる人物が代行とはいえホストの座に就くのは望ましいとは言えない。統率を失えばトリニティは混乱の渦中に落ち、疑心暗鬼の儘に内部崩壊してしまう事は……よく知っている。

 

「隠居中のセイアちゃんの護衛は、そうだね……ミネ団長はどう?」

「ミネかい? 勿論構わないが……彼女は万一の為に残しておいた方が良いのではないかい?」

「トリニティにはツルギちゃん筆頭の正義実現委員会が居るし、私は護衛なんて要らないし、先生は私の方で一人つけるから大丈夫だよ」

「……分かった。だが、エデン条約調印式当日は先生にミネを当ててほしい。その日に狙われるとしたら、きっと彼だ」

 

 セイアの眼にはその類の未来が視えたのだろう。忠告のような彼女の言葉には従った方が良いというのは今までの経験に裏打ちされている。無下にするつもりは皆無だった。

 

 加えて、ミカも同じ所感だったのだ。手薄になるとはいえ厳重な警備が施されているティーパーティーの邸宅に襲撃をかけるか、強者が数多く居るとはいえある程度解放されている調印式会場内に居る彼に襲撃をかけるか。その二択を突きつけられたら彼を選ぶ可能性の方が高い。

 

 ミネを彼につけられるというのもありがたい。彼女の医療知識は一流のため万一彼が怪我を負ったとしてもその場で手当てできる上に、大型のシールドを用いた防御にも秀でている。戦場になるであろう調印式会場における彼の護衛として、彼女は最適解の内の一人だ。

 

「……うん。じゃあその日は一旦ミネ団長を先生に当てて、セイアちゃんは自警団の子を護衛に付けるね」

「あぁ。頼むよ、ミカ」

 

 トリニティ自警団は正義実現委員会と似た治安維持活動を行っているが、何かに縛られていない分フットワークは軽く、活動も治安維持一辺倒ではなくボランティア等多岐に渡る。総合戦闘能力こそ有力な生徒を複数抱える正義実現委員会に及ばないものの、個人の練度では一部の例外を除けば勝るとも劣らない。セイアの護衛としては申し分ないだろう。

 

 自警団に所属している生徒……守月スズミと宇沢レイサ。彼女達2人の内、以前ミカはスズミと話した事があった。その際に連絡先も交換しているためお願いするための下地は整っている。

 

 計画を見抜かれる想定外はあったものの、セイアに協力してもらうことに成功し、調印式当日の先生の護衛も決める事ができた。理想的と言って良いほど順調だ。良い方向に動き出した状況にミカは少しだけ安堵を覚えていると、セイアから「ミカ」と呼ぶ声が聞こえて。

 

「分かっているとは思うが、気を付けてほしい。生徒同士の小競り合いとは訳が違う。相手は領域外の大人だ。何をしてきても、どんな手を使っても不思議ではない。生き残る事、他者を出し抜く事に関しては明確に相手が格上だ」

「知ってるよ。だから速攻を仕掛けるつもりだし……うん、相手に策を立てる時間なんて与えない。最速最短で全部に決着をつける」

 

 言い、対面に座るセイアの浮かない顔を見たミカは意図的に声音を明るくする。

 

「大丈夫だよ、ちゃんと帰ってくるから。だから、そんな心配そうな顔しないでよ」

「すまない。私では君の計画の最も危険な部分に関与できない。戦闘で役立たずなのがこれほど歯痒いと思った事は無いよ」

「……セイアちゃんは何も言えない私の事情を察して、協力してくれるって言ってくれて、心配までしてくれたでしょ? 私は充分、嬉しかったよ」

 

 その言葉に弾かれたように顔を上げたセイアの眼に映るのは優しい笑みを浮べたミカ。それに重なって視えたのは……少し先の未来のミカだった。視えてしまった未来に声の出し方すら一瞬忘れてしまった彼女であったが、「あ、もうこんな時間!」と言って勢い良く席を立ったミカによって現実に引き戻される。時刻は午後の3時前、ミカの予定が入っている頃合いの時間帯だった。

 

「じゃあね、セイアちゃん! 大好きだよ! ナギちゃんによろしく伝えておいて!」

 

 星のような笑みを浮べて手を振るミカは駆け足でテラスを去っていく。それを見送り、扉が閉められて……テラスにはセイア一人となった。

 

「ミカ……」

 

 ポツリと友人の名前を零すセイア。彼女が今しがた見た未来は断片的なもので、その前後は不連続。何が起きてそうなったのかは依然として不明だ。少し意識してもう一度続きを視ようと試みるが、それも失敗に終わってしまう。

 

「……」

 

 セイアが視た未来、ミカは誰かを抱えて泣いていた。

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