シャーレ活動備忘録 作:遊園市街
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忙しい日々を送っていて伝え忘れていた感謝の言葉。それを互いに言い合ってまた笑って。トリニティの裏切り者、その被疑者が集められた補習授業部。此処で関わるまで名前も顔も知らなかった人達だったが、共に過ごすうちに段々と大切なものになっていって、今では掛け替えのない友達になっていった。
補習授業部が終わるまで、なんて寂しい事は言いたくない。これからも一緒に時間を刻んで、思い出を一緒に作っていきたい……皆がそう思っている。本当に良い傾向だ。少女達の仲睦まじい姿を見ているだけでも先生は胸が暖かくなってくる。やはり、彼女達の笑っている顔がどうしようもなく好きなんだと改めて実感した。
アズサはその輪の中に彼も入れたかったようだが、それを彼はするりと抜ける。自分は部外者なのだから。間違っても彼女達と同じじゃない。それに、こうして見ているだけの方が性に合っているのだ。輪の中に入って幸福を感じてしまうと泣いている誰かの涙を見落としてしまいそうな気がするから。
先生は穏やかにその光景を眺めていると、「くしゅん」とコハルから可愛らしい音が聞こえた。其方に視線を送れば鼻を軽く啜っていて、華奢な両肩を軽く両手で擦っている。先生は普段着であるため気が付かなかったが、彼女は布面積が小さくて薄手な水着。雨で冷えた体育館の室温は少々肌寒いようだ。
「良ければ使って。何もないよりはましだと思うから」
そう言って、彼は自身のコートを脱いでコハルの肩にそっとかける。連邦生徒会とシャーレのロゴが刺繍された指定のコートを自分以外が着ているのは少しだけ不思議な感覚。連邦生徒会長にコートやジャケットが奪われ、サイズ違いのそれを楽しそうに着ていた遠い過去を思い出してしまった。その感傷をもう二度と思い出せない様に心の奥底に仕舞ってコハルを見ると、彼女はコートを驚いた表情で見た後、少しの迷いの後に……小さな手でぎゅっと握った。
「あ、ありがと……」
少し恥ずかしそうに、だけど確かな感謝と共にはにかんだコハル。彼女は立ち上がりコートに袖を通して確かめるように自分自身を見る。彼に合わせた服だという事もあり、女の子の中でも小柄で華奢な方に分類されるコハルには全くサイズが合っていなかった。肩幅は合っておらず、袖から指先すら出ていないし、裾は床に引き摺りそうなほど。だが、暖かくて、何故だかとても安心してしまう魅力があった。
「ヒフミもいるかい?」
「あぅ、えっと、その……は、はい」
「コートよりも防寒性能は落ちるけど、そこはちょっと目を瞑ってくれると嬉しいな」
コハルを羨ましそうに眺めていたヒフミにはジャケットを差し出す。すると彼女もコハルと同じように袖を通して、サイズの合わなさに苦笑い。しかし防寒性能は問題なく、肌寒さは感じなくなった。
これで寒さは大丈夫かな、と先生は息を吐くと……すぐ隣から囁くような声で。
「あら、私にはくれないんですか?」
「……シャツで良ければ」
「はい、ありがたく頂きますね♡」
何の変哲もないシャツ一枚で大きく変わるだろうか、と思うが欲しいと言われたなら差し出さない理由はない。先生はネクタイを外し、首から下げているICのストラップを襟の内側に変えて、ボタンを外していく。カットソーにスラックスという、初日の掃除と同じような格好になった彼は脱いだそれをハナコに渡すと、彼女はさらりと羽織って。
「どうです? グッときます?」
「……特には」
「あら残念。今度はまた別の格好で試してみましょうか、ふふっ♡」
悪戯っぽく笑ったハナコは袖を鼻に近づけてすんすんと匂いを嗅いでいる。ヒフミとコハルもハナコと同じく匂いを嗅いでいて、『もしかして汗臭いかな』と思うが特にその手の臭いはしない。別にいつも通りの、柔軟剤と花の香りのミックス。あと、薄っすらとしたボディソープの香り。彼女達の表情を察するに嫌な臭いがする、という訳ではなさそうだが……それはそれとして直前まで着ていたものの匂いを嗅がれると流石に羞恥が勝る。だが、勝るだけだ。別に実害は無いため満足するまでこのままでいいだろう。
「アズサちゃんは……」
「問題ない。先生、座って」
「え? いいけど……」
アズサに言われるがまま先生はその場に座る。すると彼女は一切の乱れが無い足取りで彼に近づき……彼の上にそのまま腰を下ろした。その大胆さに皆は驚き、先生もまさか座られると思っていなかったため少しだけびっくりしたかのような表情。対して、アズサは満足げだった。
「……っと」
「うん、こうすれば暖かい」
「……甘えん坊だね、アズサ」
猫がじゃれつく様に彼の胸板に頭を乗せるアズサ。その表情を見てすっかり毒気を抜かれた皆はくすりと笑って。
「暖を取る事も出来ましたし、お喋りを始めましょうか♡」
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「そういえば今、トリニティのアクアリウムで『ゴールドマグロ』という希少なお魚が展示されているらしいですね。何でも、連日大賑わいでアクアリウムのチケットを取るのも難しいとか……」
「あ、私もそれパンフレットで見ました! 『幻の魚』と呼ばれてるんですよね?」
「はい、どうやら近くの海で発見されたとか。見に行きたいのですが、チケットの争奪戦もそうですが入場料も安くないので……」
「あ、あれね。アクアリウムで展示されてるんだ」
「先生は見た事があるんですか?」
「見た事はあるけど、動いている姿は見た事ないというか……うーん……」
「海、か……」
「あら。アズサちゃん、海に行った事が無いんですか?」
「いや、行った事が無い訳ではないのだが……皆と行きたい、って」
「行きましょう、アズサちゃん! 補習授業部が終われば海開きの時期ですし、新しい水着を買って遊びに行きましょう!」
「何だかヒフミの気迫が凄いが……うん、終わったら行こう」
「はい! 勿論ハナコちゃんもコハルちゃんも、先生もです!」
「ふふっ、ではご一緒させていただきますね♡」
「わ、私も……? まぁ、別にいいけど……」
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「それで、とっくに潰れたアミューズメントパークなのにも拘らず、夜になると何やら騒がしい音が聞こえてきて……」
「そ、そんな訳ないじゃん! 聞き間違えよ!」
「まぁ、私もそういう噂として聞いただけですが……」
「嫌だッ! 絶対嘘! 誰かの悪ふざけ!」
「あはは……先生はそういう噂を何かご存じですか?」
「いやぁ、そういうちょっと背筋が冷たくなる系のお話は持ち合わせが無いかな。それこそ、ヒフミも知ってる
「あ、あはは……確かに背筋は冷たくなりますが、ちょっと趣旨が違いますね……」
「でしょ?」
「……先生は以前はアビドスにいらっしゃったんですよね?」
「あれ、そうなの? 私が聞いた噂だとミレニアムって……」
「どっちも行ったことあるよ。直近で行ったのはミレニアムだけど、その前はアビドスかな。ヒフミともアビドスの一件で知り合ったんだ。会った場所は全然アビドスとは関係ない場所だけどね」
「そうか……アビドスは砂漠と聞いたことがあるが、ミレニアムはどんな場所なの?」
「科学技術の最先端の街って感じだね。特に学校の中は見た事もない発明品とかが結構転がってるから、そういうのに興味ある子にとっては天国かもね」
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「先生は仕事で色々な所に行ってると聞くけど、お勧めの場所とかはある?」
「そうだねぇ……どこも良い場所だけど、観光目的で行くんだったら百鬼夜行はお勧めだよ。トリニティよりも暑いけど、緑は綺麗だし、夏祭りもやってるからね」
「夏祭り、いいですね……他には何かありますか?」
「割と街を歩いてるだけでも結構楽しめるけど、他だとチセの出し物とか……あ、今だと金魚のアクアリウムもやってるよ」
「金魚のアクアリウム……なにそれ?」
「平たく言えば金魚限定のアクアリウムなんだけど、水槽毎に違うコンセプトで作られてるから感覚的には美術館が近いかもね。アートアクアリウム、なんて呼ばれたりするんだけど。この前、ワカ……いや、百鬼夜行の子と一緒に行ってきたんだ。どれも綺麗だし、夏の風物詩も観れるしお勧めだよ」
「ふむ……参考になる。ありがとう、先生」
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「水着で街や学園の中を歩くのは別に、そこまで変な事じゃないですよ?」
「そんな訳ないでしょ!? 勝手に常識改変しないで!」
「ですが、これは私がシスター達から聞いた話ですが……どうやらキヴォトスの何処かの無法地帯では、水着姿で覆面を被ってる犯罪集団があるらしいですよ?」
「み、水着に覆面!? ド変態じゃん!? なにそれ!? っていうか、犯罪者集団なんじゃん! そんなの何もしてなくたって、見た目からして既に犯罪よ!」
「そういう集団があるくらいほかの地域では普通なんですよ。ですからコハルちゃんも今度一緒に……」
「嫌ッ! 何言いだすか分からないけど取り敢えず嫌ッ!」
「……」
「ヒフミ、混ざらなくて良いのかい?」
「混ざりませんよ!?」
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「先生の家事スキルはどちらで培われたんですか? お料理もそうですが、全般手際が良いですし……何か練習方法とかあれば教えていただけませんか?」
「んー……家事全般はミレニアムのC&Cの子達で、料理はゲヘナの給食部の子達かな」
「C&C……なにそれ?」
「あら、コハルちゃんはご存じないですか? 正義実現委員会の所属ならその手の話は聞いてるかと思いましたが……端的に言うとミレニアムの治安維持を担う武装集団の事です。トリニティの正義実現委員会やゲヘナの風紀委員会とポジション的には一緒ですが、この二つと違って少数精鋭を体現しているそうです。その中でもコールサイン持ち、と呼ばれる方々は一線を画すとか何とか……私もミレニアムが公開した文書をざっと流し見した程度の知識しかありませんが」
「ふ、ふーん……で、でもそれが何で家事と結びつくのよ?」
「C&Cは別名メイド部と呼ばれているので、それ関係でしょうか?」
「そうそう、あの子達、有事の際以外は学園内の色々な事をやってるからね。あとは練習方法だけど、やっぱり環境作りは大事だと思うよ。寮を離れて一人暮らしとかすると否が応でもやらなきゃいけなくなるからね。毎日やれば絶対に上達していくよ。一人だと時間の効率的な使い方も一緒に鍛えられるから、一石二鳥になるかもだし」
「なるほど……」
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「アズサちゃんはもっと、夜はきちんと眠った方が良いと思いますよ?」
「……うん。今朝は寝坊して迷惑を掛けてしまった。慣れない場所で寝坊なんて、これまでほとんどなかったのに……もうここは慣れない場所じゃないかもしれないな」
「……兎に角、もっとしっかり寝た方が良いです。深夜の見張りは減らしていただいて」
「……見張り? なにそれ?」
健康優良児ことコハルは夜に起きている事を一切把握していないため、疑問符を浮べる。アズサが見張りしているなんて初耳だし、そもそも寝てたんじゃないのかと視線を送るとアズサは頷いて。
「あぁ、毎晩夜中にちょっと見張りを……」
「ハナコ、アズサの事を凄く心配してたよ。皆の事を考えてくれるのは嬉しいけど、私はアズサも大切なんだ。だからどうか、無理はしないで」
「……ごめん。実は見張りは言い訳で、ブービートラップとかを設置していたんだ」
「ブービートラップ……何故そんなものを?」
「心配しないで。此処に悪意を持って侵入しようとするルートにだけ設置してるから。普通の生活をする上では安全面に問題はない」
アズサは思う────この気持ちは誰にも分からない、と。
皆揃って朝起きて、歯を磨いて、シャワーを浴びて、ご飯を食べて、勉強して、皆揃って就寝する日々。この日々は決して当たり前のものではない。この毎日は、この一瞬は奇跡なのだ。それも、薄氷の上にある軌跡。些細なこと一つで簡単に消え去ってしまう蜃気楼よりも儚い日々が、この心の底から笑える今日という日の本当の姿だ。
平穏は突然崩れ去る。世界というものはその残酷さを剥き出しにする時を虎視眈々と狙っているのだ。そして、争いの中で失ったものは例え平穏に再び返れても二度と戻ってくる事は無い。銃火に燃やされた大切なものも、砲撃によって崩れた思い出の場所も、教科書もお気に入りの道具も……大切な人も。
あの笑顔が、あの手が、あの眼差しが、銃火と共に赤く濁ってしまう。誰かの嘆きを背負わんとどこまでも蒼く、遠くへ歩いてしまう────怒りと憎しみと悲しみが満ちた世界へ、多くの光と希望を齎すために。
本当に大切な人を失った悲しみは、誰にも分からない。そして、そんな気持ちを誰にも知ってほしくないし、あんな気持ちをもう一度味わいたくなんて無い。だから今度こそは────そう願ったアズサを誰が責められるだろうか。
「……なるほど。ですが、それならそれで教えてくれると嬉しいです。どうしても心配しちゃいますから」
「……そうか、うん、これからは気を付ける。私の所為で先生と皆が被害を受けるのは望むところじゃないから」
「────アズサは優しいね」
「なっ……こ、子ども扱いしないで、先生。私は別に……そんなのじゃない」
「ふふっ……そうかもね。でも、アズサがどんなに大人になっても、私にとってアズサはいつまでも可愛い教え子だよ」
その声で名前を呼んでくれることが嬉しくて。優しく抱きしめてくれることが嬉しくて。そして、それをもう一度失う恐ろしさを呼び起こして……ポツリと呟く。
「この世界は……全てが無意味で、虚しいものだ。だから、もしかしたら────」
────もしかしたら、私は。
「私はいつか裏切ってしまうかもしれない……皆の事を、その信頼を、心を」
裏切りたくなんて無い。失いたくなんてない。でも、
「……」
「あ、アズサちゃん……?」
「……?」
その意味深な言葉に三人は三者三様の反応を見せる。アズサの真実の一端を掠めているハナコは真剣な表情を、アズサの事を大切な友達と思っているヒフミとコハルはそれぞれ困惑と違和感、疑問を。
皆の間に妙に居心地の悪い沈黙が横たわり、誰も二の句が継げなくなってしまった時────ふと、体育館に明かりが灯った。
「あ、電気が……」
「直ったみたいですね」
「あ、雨もいつの間に……」
窓を見れば雲の隙間から太陽の光が差し込んでいて、遠くには虹が見えている。ようやく見えた青空、雨上がり。
「そうですね。ではもう一度改めて洗濯しましょうか」
「うん、じゃあ、第一回水着パーティーはここで閉幕か。楽しかった。第二回も楽しみにしてる」
「二回戦とかないからっ! こんなの最初で最後だからッ!」
少女達はいつもの様に笑って、皆で体育館を出ていく。先ずは洗濯から始めよう、と。
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洗濯をして乾かして、水着から着替えて。それからできなかった授業を済ませて、食事を取って……気が付けば夜になっていた。なんかあっという間な一日だったと思いながら夕食等を済ませて、現在少女達はロビーで各々の時間を過ごしている最中。数時間後は就寝時間のため、今日の一日は名残惜しいがこれで終わり────。
「いいえ、まだです!」
────と、ならないのが補習授業部。
「このまま一日が終わりだなんて、そんな勿体ない事はさせません! 具体的に言うと、『皆さん、もうちょっとお時間いだだきますね♡』です!」
「は、はい……!?」
「む、まだ何かあるのか?」
「な、何!? 急に飛び上がってびっくりしたじゃん……」
ハナコは初めて見るほどに熱意と決意に満ちた表情で力強く言葉を叫ぶ。このまま寝るだなんて勿体ない。もっと楽しい事を、今日という一日を楽しみ尽くしたい……そんな思いが容易く読み取れるほどに今のハナコは勢いと欲望に溢れていた。
その余りの唐突さに皆がびっくりして彼女の方を見れば、先と同じように語り始める。
「突然の事でしたが、折角のお休みじゃないですか。皆、裸で交わったのに、このまま『はい、お休みなさい』なんて────」
「勝手に記憶を捏造しないで! 裸じゃないから!」
「それは兎も角、このまま寝てしまうのは勿体ないです。まだ火照ってるといいますか、物足りないと言いますか……」
「具体的には?」
アズサが銃をメンテナンスする手を止めてそう聞けば、ハナコは『その質問を待っていました』と言わんばかりの表情。心底楽しそうに彼女は、とっておきの『良い事』を皆に提示した。
「うふふっ♡ 合宿と言えば、やはり合宿所を抜け出す事……それも一つの醍醐味だと思いませんか?」
「え……?」
「さあ! 今から皆でこっそり外に出て、夜のお散歩をしましょう♡」
確かに天気は回復しているため外出には問題ない。午前中がほぼ雨だった事もあり人の数も疎らだろう。気温も少し涼しいくらいだろうし、散歩をするには良い条件が揃っているが……今は夜だ。だが、夜に合宿施設を抜け出すというシチュエーションそのものがハナコを燃え上がらせている。
「トリニティの商店街は夜遅くまで営業してる店も結構ありますし、食べ歩きとかショッピングとかもできます!」
「そ、そんなの校則違反じゃん! ダメッ!」
ルールを守り、違反者を取り締まる立場であるコハルはハナコを阻止しようとするが、彼女とてその反応は織り込み済。その程度の理論武装で今のハナコを止める事は不可能だ。
「細かい校則は知りませんが、結構皆さんこっそりやってると思いますよ? 意外とそういう方、周りにいませんか、ヒフミちゃん?」
「あ、あはは……そ、そう、ですね……?」
ヒフミは曖昧に笑いながら同意を零す。まさかハナコもヒフミが日常的でないとはいえ、校則で出入りを明確に禁じられているブラックマーケットに足を運んでいるとは思っていないだろう。
実際問題、寮や学校を抜け出して何処かに出かける……なんて話は時折耳に挟むのだ。ミッション系のお嬢様学校、少々固い校風と厳しい校則を持つトリニティだからこそ、そういった非日常を好む傾向が強いのかもしれない。寮に住むのも学生であれば寮を管理するのもまた学生、買ってきた限定スイーツを賄賂で渡せば目を瞑ってくれることがある……なんて事情も、そういった息抜きが起こる背景に影響があるだろう。
「で、ですが、普段であればまだしも、今は補習授業部の合宿中ですし……良いんでしょうか……?」
「遠出する訳でもありませんし、すぐそこですよ。コハルちゃん、いかがです? 楽しそうだと思いません?」
「え、えっと、きょ、興味はある、けど……」
「ちょっと行って戻ってくるだけですから大丈夫ですよ。良いですか、先生?」
4人分の視線を一身に受けた彼はタブレットを置いてふわりと笑って。
「うん、良いんじゃないかな。息抜きの一環、という事で。楽しそうだし、行ってきなよ」
「い、良いの!?」
「なら決まりですね。ありがとうございます♡」
「ほ、本当に良いんでしょうか……?」
「皆頑張ってるんだから大丈夫だよ。それに、万が一何か言われても私がいれば誤魔化しは効くし、心配はいらないさ。だから皆は目一杯楽しんで」
彼がそう言うと、ヒフミとコハルの不安そうな表情が和らぐ。彼女達の心情も参加側に傾いていて、夜のお出かけに何処か胸を躍らせている様子。だって、こんなのは絶対に楽しいやつだ。普段は見る事のないトリニティ自治区の夜を、こっそりとはいえ歩けるなんて中々経験できない。
「うん、準備はできた。何時でも出発できる」
「アズサちゃん!? いつの間に着替えて……!」
勢いよく扉を開けたアズサは先の体操服姿と打って変わって制服。あの僅かな間で着替えと準備を済ませて戻ってきた早さはそれだけ楽しみにしていた証拠。皆乗り気だという事に嬉しくなったハナコは外出用のハンドバッグを持って。
「ふふっ、ヒフミちゃんもコハルちゃんも先生も早く準備して行きましょう! 楽しくなってきましたね、深夜に裸で散歩なんて……♡」
「さりげなくすり替えないで! 服は着ろ!」
こうして、補習授業部と先生の夜のお散歩が始まった。