シャーレ活動備忘録   作:遊園市街

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美食を探して三千里(Eat or die)

 

「ねぇぇぇぇ! 何でこんなとこまで来ちゃったの!? トリニティのド真ん中じゃん!? ずぶ濡れになるし、追手はしつこいし、あと生臭い!」

「仕方ありません、あのゴールドマグロと聞いて黙って見ている訳にはいきませんし☆」

「ふふっ、あの伝説のマグロをただ観賞用として扱うだなんて……そんな事、美食に対する礼儀がなっていないというものですわ」

 

 トリニティ自治区のド真ん中、メインストリートをご機嫌な速度で走り回る少女達。先頭に2、後方に2というオーソドックスなフォーメーションは別に打ち合わせしたわけでもなく、ただ何となく決まったものだった。

 

 後方側で悲痛な叫びを上げている少女は美食研究会所属の赤司ジュンコ。彼女は特徴的な赤色のツインテールとStG44(ダイナーズアウトロー)を2丁振り回し、追手を片っ端から撃ち抜いていく。彼女のすぐ隣にはぴちぴちと元気よく跳ねる金色の魚、ゴールドマグロとそれを抱える少女。2人ともずぶ濡れで、どこか魚っぽい……言い方を選ばなければ若干生臭かった。

 

 ずぶ濡れで生臭いという惨状の後方から一転、前を走る少女達に衣服の乱れは一切ない。

 

 朗らかに、だが何処か意味深に微笑む少女は鰐渕アカリ。服の上からでもはっきりと分かるほどの抜群のプロポーションを持つ彼女は長い金髪を優雅に払い、HK416にAG-HK416を装着した愛銃……ボトムレスを握った。

 そして、ゲヘナの制服を改造した衣服を纏い、長い銀色の髪を夜風に揺らす彼女が美食研究会の会長、黒舘ハルナ。彼女もまた同様にPSG1(アイテール)の感触を確かめ臨戦態勢に。

 

 彼女達こそがアクアリウムからゴールドマグロを強奪し、今も尚逃亡しているゲヘナのテロリスト集団……美食研究会だ。問題児だらけのゲヘナの中でも彼女達は特に悪名高く、その活動範囲の広さと犯行の凶悪さからたった4人しか居ないにも拘らず温泉開発部に匹敵するほどの危険度を持っている。

 

 その悪行は一つ一つ数えれば天にも届くと言われるほどで、屋台の味が気に入らないからと爆破し、店員の態度が気に入らないからと爆破し、ホテルのサービスが気に入らないからと爆破し……と、枚挙に遑がない。それ以外にも誘拐、強奪、破壊は当たり前。美食の求道者たる彼女達の活動範囲はゲヘナだけに収まらずキヴォトス全土、美食があればどこへなりとも……それこそ、ゲヘナとの関係性が最悪でエデン条約で複雑になっているトリニティ自治区にも足を運び、活動を行っている。美食の為なら艱難辛苦も何のその、あらゆる妥協も諦めも許さずに邁進するのみ。

 

 そんな彼女達の今回のターゲットがアクアリウムで展示されていたゴールドマグロだった。

 

 滅多に捕獲されず、学術的な価値も高い……幻の魚とも呼ばれるゴールドマグロ。それは一体、どのような味なのだろうか。どのような未知の美食を齎してくれるのだろうか。そう思ったのならば進むのみ。アクアリウムの場所がトリニティ自治区の中である事なんて知った事ではないと言わんばかりに彼女達は捕獲用のネットと愛銃とロープを持って生身で突撃。期待と想像に胸を膨らませつつ、あらゆる警備を掻い潜り彼女達は意気揚々と強奪を行った。

 

「美食と言うものは孤高でありながら、普遍的でなくてはなりません……ただ見世物としてお金稼ぎの手段に終わるなど、このゴールドマグロさんも望んではいないはず。私達はただ、その声に共鳴しただけ! そうですよね、フウカさん?」

「んんっ!? んーっ! んんんんんっ!?」

 

 ハルナは信頼に満ちた視線を肩に担いだ人に送る。紫に近い黒髪をツインテールにして、額から生えている角に掛けた少女はゲヘナの給食部部長、愛清フウカ。全身をロープでぐるぐる巻きにされ、口には猿轡を噛まされ、蓑虫同然の状態になった彼女に一切の抵抗は許されていない。赤い眼を涙で濡らしながら必死に意志を伝えようと首を全力で横に振るが、何を勘違いしたのかハルナは感銘したような表情を浮べた。

 

「御覧なさい。このゲヘナの給食部部長の、感涙に咽び泣くほどの同意を!」

「猿轡のせいで何を言ってるのかさっぱりですけどね☆」

「うわっ、マグロがまだビチビチ跳ねてる! ヒレでビンタされてるっ!?」

「イズミ、ちゃんと捕まえてて! それすっごい高いんだから!」

 

 ジュンコと並走し、活きの良いゴールドマグロを抱えている彼女は獅子堂イズミ。アカリに負けず劣らずのプロポーションを持つ彼女は逃がさないよう必死にゴールドマグロを抱えて走る。鱗に塗れても、魚っぽい匂いになっても気にしない方向で。だが、味は気になるのかイズミは興味津々な表情でゴールドマグロを見た。

 

「ところでこれいつ食べられるの? マグロにはビンタされるし、黒いセーラー服の子達に追いかけられるし、そろそろお腹空いたんだけど!」

「黒いセーラー服って、それ正義実現委員会じゃん! こっちの風紀委員会と同じくらいヤバいよ! どうするのハルナ、逃げ切れるの!?」

「ふふっ……逃げ切れるのかどうかなんて、大した問題ではありませんわ」

 

 徐々に増えつつある追手の対処に手いっぱいになってきたジュンコの叫びにハルナはどこまでも落ち着いた声で答える。

 

「大事なのは食べられるか、否か! つまりは『食べるか、死ぬか(eat or die)』! ただその二択のみ! それこそが、私達美食家が歩むべき孤高な道なのです!」

 

 逃げ切れるか、逃げ切れないか……ではない。そんなものはどうでも良いのだ。大事なのは食べられるか否か。この美食たるゴールドマグロを食べられるか否かこそが死活問題。それ以外の事を考えるなど、美食への冒涜そのもの────! 

 

「結局、こういうことですね☆」

「そんな高らかに喋ってないで、適度に戦って早く逃げないと!」

「さぁ、包囲網を破って退却です! 一刻も早くフウカさんに、新鮮なマグロのお造りを作っていただかなければ!」

 

 前方に展開する正義実現委員会の生徒達。その数はざっと30人ほどで、別に相手にできない事も無いが……最優先はゴールドマグロ。新鮮なうちにお造りにしてもらわなければ、ゴールドマグロに申し訳が無い。故に狙うは一点突破。これ以上展開される前に、挟み撃ちされる前に……この包囲網を貫通する。

 

 4人が銃を構えればそれが開戦の合図。ゴールドマグロを食べたい美食研究会とテロリストを捕えたい正義実現委員会、戦いの幕が切って落とされた。

 

「んんんんーッ!?」

 

 ────その渦中、ハルナに担がれたままのフウカは心の底から祈る。誰でも良いから助けて、と。

 

 

 ▼

 

 

「美食研究会……ゲヘナの要注意団体……」

『そうっす。一応、調べると軽い経歴は出てきますけど……最近だとゲヘナ自治区内で何か騒ぎを起こしたらしいっすね。で、その前がミレニアムで何かやって捕まって……あ、SNSのアカウントも持ってるんすね』

 

 ハスミは呟き、一旦スマホを耳元から退けてブラウザで『美食研究会』と検索する。すると大まかな経歴やらが出てきて、イチカの言った通り直近で事を起こしたのはゲヘナ自治区。犯行内容は店の破壊、4名で逃走していたところに空崎ヒナと遭遇しそのまま捕らえられたようだ。その前はミレニアムで騒ぎを起こしていて、これもC&Cのエージェントにより捕らえられたらしい。あと、イチカ曰く公式SNSアカウントも持っているようだが、これは見つけられなかったし、正直どうでもいい。

 

 思わず眉を顰めたくなるようなトンデモ経歴にハスミは溜息を吐く。どうしてこう、ゲヘナの問題児は頭の螺子がダース単位で外れている人が多いのだろうか。頭が痛くなってきたハスミであったが、スピーカーから『ところで』と聞こえてきたため急いでスマホを耳元に戻した。

 

『先輩、今どちらです? 外出中とのことですが、学校から近いっすか? 早くご命令を頂かないとちょっと拙い事に……』

「……それほどまでに深刻な被害なのですか?」

『いえ、ツルギ先輩の方っす。このままだと発射……飛び出ちゃいそうっすけど』

「あぁ……」

 

 ハスミから漏れた声は溜息にも納得にも似たものだった。ツルギの事を信頼していない訳ではない。正義実現委員会の委員長として彼女以上の適任者は居ないと思っているし、その個人の戦闘力も指揮能力も戦闘における心構えも何もかもが最高、ハスミは彼女の事をこれ以上ないほど信頼している。

 

 だが、それはそれとして彼女が出撃する事と被害の拡大は直結する。戦闘の余波で建物や道路が破壊されたり、捕縛対象が全治1ヶ月の怪我を負ったり。被害を広げようと動いている訳ではないと謂うのは分かっているが、結果としてそうなってしまうのだ。

 今回の捕縛対象は美食研究会の4名で、奪還しなければならない人質……いや魚質はゴールドマグロ。ツルギが出たらゴールドマグロが炭になりかねない。それは避けたかった。

 

「つ、ツルギは取り敢えず止めてください。私の位置ですが、学園からは……10分程でしょうか? それまでツルギを……」

『いやー、無理っすよ。ハスミ先輩以外じゃ早々止められな……あっ、ツルギ先輩! 行かないでください! あと、そっちはドアじゃなくて壁────』

 

 刹那、耳を塞ぎたくなるような轟音が響き渡った。航空機から爆撃を受けたのかと錯覚してしまうほどの音はツルギが動いた証拠。建物の壁を素手でぶち抜き、風穴を空けたそこから飛び出す光景を幻視したハスミは思わず眼を閉じる。

 栄えある一発目の被害は正義実現委員会棟の壁、続く被害は道路や進行方向にある物体、最後の被害は捕縛対象とゴールドマグロ。どうなっても賠償問題に発展しそうであった。

 

『あー……取り敢えず私らも一旦追いかけて、出撃しますね』

 

 何とも言えない微妙な空気が2人の間に漂ったまま通話は切断される。沈黙を返すスマホをハスミはポケットの中に仕舞い、一つ溜息を吐いた。

 さらばゴールドマグロ、君の事は忘れない。賠償問題に発展したらゲヘナに全部押し付けてしまおう。元は彼方所属の生徒だ。真に美食を追い求めているというならば大海原に出てゴールドマグロくらい釣れなければならないだろう……なんて、下らない思考を外に投げ飛ばし、どうすれば丸く収まるかハスミは考え込む。

 

「近いな。爆発音からして南東、此処から1km以内の所か」

「え、えぇッ……!?」

 

 すると再び爆発音。しかし先ほどよりも大きく鮮明な音だった。アズサはその音で大体の方角と距離を算出し、ヒフミは突然の戦闘音に驚きの声を上げる。店内にいる人達も同様に驚愕が走っていて、その視線は正義実現委員会の制服を纏っているハスミとコハルに集まっていく。

 助けてほしい、どうにかしてほしいという声なき声。それを受けて、或いは聞いて……ハスミは意志を固めた。

 

「────皆さん」

 

 何処か覚悟を決めた様なハスミの声に皆が顔を上げる。断続的に聞こえる爆発音は段々と鮮明になり、アズサは距離のカウントを縮めていく。900m、800m……恐らく目的地は自治区の境界ライン。そこを超えると正義実現委員会も迂闊に手を出せない。時間稼ぎこそが彼女達の狙い。やはり侮れない、とアズサは美食研究会への評価を上方修正した。

 

「突然の事ですみませんが、皆さんの力が必要です。お願いできますでしょうか?」

「わ、私達が、ですか!?」

 

 まさか自分達に話が回ってくるとは思っていなかったのだろう。ヒフミが驚きながら声を上げるが、ハスミは冷静沈着に「はい」と肯定を返した。

 

「今はエデン条約を目前に控えて、色々と過敏な時期です。この問題が傍から見て『トリニティの正義実現委員会とゲヘナ間の衝突』と捕らえられてしまうと、状況が不利になる事は想像に難くありません」

「つまり、私達補習授業部……いえ、シャーレ所属の生徒がこの問題に対処する、そんな構図が望ましい。そういう事でしょうか、ハスミさん?」

「えぇ、その通りです。先生、皆さん、お願いできますでしょうか……?」

 

 何処か縋る様なハスミの願いに彼はそっと微笑みながら頷く。

 

「勿論。シャーレとしてその依頼を正式に受けよう……皆も力を貸して貰ってもいいかな?」

「了解した。先生の指示に従う」

「あうぅ、い、いきなり戦闘ですか……分かりました、頑張ります!」

「ふふっ……まあ、先生がそう仰るのであれば協力しますよ♡」

「あっ、わ、私も……? 先生と……ハスミ先輩と、一緒……?」

 

 コハルが何処か困惑と嬉しさが混じった声を上げて先生とハスミを交互に見つめる。先生は頷き、ハスミは穏やかな笑みを浮べながらコハルの頭に手を置き、その髪の毛をそっと撫でた。

 

「いつかこうして肩を並べる時期が必ず来ると思っていましたが……想像よりずっと早かったですね、コハル。コハルの成長した姿、私に見せてください。期待していますよ」

「は、はい! 頑張ります……!」

 

「ひ、久しぶりに先生と一緒に戦いますね……ちゃ、ちゃんと動けるでしょうか……?」

「遠慮はいらない、先生。私を存分に役立ててくれ」

「ふふっ、先生の指揮棒に従い奏者になる……何だかちょっと楽しくなってきちゃいました♡」

「よ、よく分からないけど、私はどうすれば……?」

「取り敢えず、安全第一でお願いね」

 

 そう言い────彼は意識を戦闘用に切り替える。イメージは撃鉄が下ろされるように。或いは剣を鞘から抜くように。それだけで彼は自分を戦闘に最適化できる。戦闘の道具、システムとしての先生に成れてしまう。

 

「では、軽くブリーフィングを」

 

 シッテムの箱を取り出し皆が見える位置に置けば即座にブリーフィング用のアプリが立ち上がり、今回の戦闘において必要な情報が羅列された。先生はそれを一つ一つ丁寧に、だが冗長にならないように言葉を紡いでいく。

 

「今回の任務は美食研究会の捕縛。彼女達の現在地は此処から南東に500m直線に進んだ場所。目的地は恐らく自治区と自治区の境界、そのまま隣接しているD.U.に逃げるつもりだろうね。私達はトリニティ自治区内で、彼女達を捕まえる必要がある」

「ふむ……では失敗条件はターゲットを自治区外に取り逃がす事、或いはゴールドマグロに何らかの被害が生じる事だな」

「まぁ、そうだね。あと、ここから先は推測だけど……多分ゴールドマグロ以外にも彼女達に連れ回されている生徒がいるから、その子も助けてあげてほしい」

「連れ回されている……もしかして人質ですか?」

「いや、料理人。ゲヘナの給食部の愛清フウカって子。ゴールドマグロを食べるつもりだろうから、ほぼ確実に彼女も連れてるはずなんだけど……」

 

 そう言い、彼はシッテムの箱を操作しアプリを立ち上げる。キヴォトス全土に散布しているドローン、膨大な数の中から適切なものを一つ選べば画面にトリニティ自治区の一角が映し出される。そこには全力疾走している4人、つまり美食研究会と跳ねるゴールドマグロ。そして……。

 

「うん、やっぱり連れてるね」

「あうぅ……」

「縛られてますねぇ……」

「なるほど」

「えぇ……」

「……」

 

 ロープでぐるぐる巻きにされた上に猿轡まで噛ませられ、涙目になったフウカ。それを見て少女達は居た堪れない気持ちになり、彼女のためにも早くどうにかしてあげようと強く思う。あれは流石に可哀想だ。

 

「よし、確認事項はこんなものかな。ハスミ、もし大丈夫なら今動いてくれている正義実現委員会の子達の指揮権を貰えるかな?」

「はい、大丈夫です。指揮権を先生に譲渡します」

「ありがとう」

 

 先生は落ち着いた口調でそう言うと、両目のコンタクトレンズを外してシッテムの箱と接続する。立ち上がる戦闘用のオペレーティングシステムは戦闘の道具としての自己を定義した彼にかっちり嵌り、正確無比な道具が完成した。瞳から零れる蒼い燐光が空気に尾を引けばそれは開戦の号砲の代わり。少女達は各々の銃を確かめ、握り、立ち上がる。

 

「────じゃあ、行こうか」

 

 ゴールドマグロの場所を生簀からアクアリウムに戻す戦闘が始まった。

 

 

 ▼

 

 

「……あら?」

 

 スナイパーライフルを片手で、かつ走りながら動くターゲットに命中させるという絶技。優れた体幹と姿勢制御、これまで何度も追われている経験から培った技術を遺憾なく発揮しているハルナはふと疑問……否、違和感を覚える。

 

 追って来ている正義実現委員会の動きが違うのだ。正直に言うと今までは烏合の衆であり、ヒナもイオリもアコもいない風紀委員会と大差なく、どれほど増援が来ようと確実に逃げ切れると謂う自信があった。

 だが、今は烏合の衆などではない。全体としての統率が取れており、『相手を倒す動き』から『相手を追い詰める動き』に変わっている。人数有利でゴリ押しするのではなく、それを手札の一枚として圧をかけるように。可能な限り誰も落とされないように、落とされた場合でも即座にカバーできるように。

 

 試しにハルナは意図的に全体の速度を落とし、正義実現委員会との距離を縮める。アカリのグレネードランチャーが最も効果を発揮する距離まで近づくと……正義実現委員会は僅かに後退した。

 

「あれ、アイツ等何やってんの? 態々自分達で後退するなんて……」

「やはり、アカリさんのグレネードを警戒していますね。私達の装備ですと多数を一回の攻撃で落とせるのはアカリさんだけ。裏を返せば、アカリさんさえ警戒しておけば一気に人数が減る事は無くなります」

 

 美食研究会の武装構成はハルナがスナイパーライフル、アカリがアサルトライフルとグレネードランチャー、ジュンコがアサルトライフル、イズミが機関銃。射程で並べるとイズミ、ハルナ、アカリ、ジュンコの順。イズミはゴールドマグロを抱えている関係上、銃撃等は不可能であるため除外して、残る3名で対多数を叩ける武装はアカリのグレネードランチャーのみだ。

 

 グレネードランチャーの最大射程は400m、この圏内には絶対に立ち入らない様に正義実現委員会は立ち回っている。アサルトライフルはグレネードランチャーよりも射程が短いため、正義実現委員会が維持する距離感では有効に機能しない。

 

 すると明確な脅威となるのはハルナのスナイパーライフルのみ。スナイパーライフルは一対多に向いておらず、一回の射撃で落とせるのは一人。装填毎に一人落とされるペースであれば増援も加味すると人数有利は絶対に覆らない。

 加えて、地の利は相手にある。誘い込まれている、追い込まれている────ハルナは直感的にそう思った。ゆっくり、しかし確実に詰ませに来ている。気付いているのはハルナとアカリ、他の2人はこの4人揃っての逃亡が徐々に終幕に向かっている事も分かっていないだろう。

 

「……この戦い方は先生ですわね」

 

 ハルナは振り向きざまに一人を撃ち抜き、再び走り出す。この戦法……自分の被害も相手の被害も最低限で抑えようとする戦術は彼のものだ。戦いを嫌い、誰かを傷つくことを嫌い、しかし戦場に囚われ続けている彼をそのまま表したかのような……自傷行為に近しい何か。どういう紆余曲折があったかは知らないが、正義実現委員会のバックには彼が付いているらしい。

 

 ────となると、真面に取り合ったら捕まりますわね。

 

 正義実現委員会が相手なら委員長でも出てこない限りは逃げ遂せる事は出来た。だが、彼が戦術の糸を操っているなら話は別。時間を掛ければかけるほど人数差と土地勘の差で不利になっていく。

 

 幸い、目的地ははっきりとしている。加えて周辺は入り組んでいて、身を隠す事ができる場所は充分にある。今はメインストリートを走っているが、次か、次の交叉点で路地裏に逃げ込めば……誰か一人は自治区境界まで辿り着けるだろう。

 

 そうして速度を上げた美食研究会。特に目立った怪我を負う事はなく路地裏に逃げ込める……そんな想定は空から落ちる一発の榴弾によって粉々に吹き飛ばされた。

 

「うわッ!」

「痛ッ! ちょっ、何なのよッ!?」

「んんんーッ!?」

 

 トリニティで制式採用されたL118牽引式榴弾砲。それが少女の直上に降り注ぎ、炸裂したのだ。生徒達が個人で持つ銃火器を遥かに上回る破壊力と衝撃は4人を纏めて吹き飛ばすのに充分なもの。更に、運悪く後方に吹き飛ばされてしまったため追い縋る正義実現委員会との距離はかなり縮まってしまった。それに加えて────。

 

「マグロがーッ!」

「ぜひお造りの形でと思ったのですが、天ぷらになってしまいましたわね……」

「どっちかって言うと丸焼きじゃないこれ! 折角お刺身食べれると思ったのに……!」

 

 手に入れるためにあれほど苦心したゴールドマグロが見るも無残な丸焼きになっていた。ゴールドと名付けられるのに相応しい、夜光に煌めいていた金色の鱗は何処へやら。表面は真っ黒になっており、炭の香りと魚を焼いた時の様な香ばしい香りが鼻孔を擽る。当初は素材、姿を楽しもうとお造りにして貰おうと思っていたが、これはこれで……なんて思っていると、四方八方から正義実現委員会が飛び出して来てあっという間に囲まれてしまった。

 

「うーん、どうやら囲まれてしまったようですね☆ どうしましょう?」

 

 そう言っている内にも包囲網は着々と完成していく。美食研究会を直接取り囲む第一陣、第一陣の支援を行う第二陣、第三陣、第四陣は散開し相手を逃がさないように。これに加えて路地裏等の逃げ込みやすい場所にも当然の如く人員を配置している。人数と土地勘にものを言わせた人海戦術はたった4人の集団に極めて有効で、この時点で美食研究会は王手を掛けられていた。

 

 それに気付く少女、気付かない少女。それぞれが互いに交わらない思考と思惑を持ち、さてどうしようかと考えていたところ……いの一番に動いたのは何かに思い至ったような表情を浮べたジュンコだった。

 

「はっ! バラバラに逃げたら生存率上がるんじゃない!?」

 

 言うや否や、脱兎の様な速度で駆け出していくジュンコ。制圧力に優れるアサルトライフルを2丁持っている彼女であれば突破口を作るのは容易。マガジンを空にする勢いで掃射し、無理矢理適当な場所に穴を作った彼女はそのまま包囲網の外へ消えていく。そして、それを追って何人かの正義実現委員会がいなくなれば……残る3人も脱出しやすくなった。

 

「なるほど、良いアイデアですね、ジュンコさん☆ では足の速さ次第ですが、弱肉強食という事で♪」

「ふふふ、そうですわね。運任せとなりそうですが、それもまたスパイスの様なもの! それでは!」

「んんんッ!? んんんんー!?」

 

 次いでアカリが動き、フウカを抱えたハルナもまた動く。アカリはグレネードランチャーで纏めて吹き飛ばし、ハルナは人体急所に弾を当ててノックアウト、作った風穴を走り抜けてトリニティ自治区へと走っていく。そして、必然的に一人残されたイズミにこの場全ての銃口は向いてしまい────。

 

「えぇッ!? ちょ、ちょっと! 待って! 私だけ置いて行かないでー!?」

 

 姿すら見えなくなった同士の背に声を掛けても誰も振り返らないし、ましてや助けに来るはずもなく。同じ集団に属しているが、その辺りは割とドライなのだ。

 

 降り注ぐ硝煙弾雨の中を走るイズミ。キヴォトスに於ける規格外、というレベルではないが、平均よりもかなり頑丈な彼女は弾丸を体で受け止め、偶に痛みで縺れそうになるが……進む足に停止の文字は無い。MG3(デイリーカトラリー)を振り回しながら数名の正義実現委員会の生徒を薙ぎ倒し、突破口を作成。彼女も同じようにトリニティ自治区へと走り去る。

 

「お、置いて行かないでってばー! うわーん! もう、覚えてなさいよッ! いつか絶対仕返ししてやるんだからーッ!」

 

 美食研究会全四名、包囲網から脱出し逃走中。一連の出来事を空中に展開していたドローンから眺めていたハスミは奥歯を噛み締める。

 

「くっ、小癪な……! ですが、先生の予測通りです。各自、手筈通り分かれて追撃を! 足止めだけで構いません、発見した場合は位置情報の共有をお願いします!」

「はいっ!」

「ここはトリニティ自治区! 私達から逃げるなんてことは不可能です!」

 

 

 ▼

 

 

 包囲網から抜け出して5分も経たない頃、アカリは寝静まった夜のトリニティ自治区を息を潜めて歩く。クリアリングを確りと行い、人目に付きやすい場所を確りと避ける彼女を捕えるのは至難の業。美食研究会の中でも随一のリスク管理能力を存分に発揮し、彼女は自治区境界ラインまで最も早く近づいていた。あと数分も走れば脱出完了、と言う段階で……彼女は進行方向の先に人影を見た。

 

「……先回りされていましたか」

 

 夜闇に溶けるような黒の制服は正義実現委員会のもの。今思い返すと不自然なほどに接敵が少なかったが、それも戦術の内だろう。悪戯に人員を散らすよりも一点で待ち構えた方が良い……という合理的な思考。

 だが、これはこれでデメリットがある。山を張ったその一点を突破されると一気に取り逃してしまう危険性が跳ね上がってしまうのだ。

 

 ────必然、此処で待ち構えているのは『アカリを確実に捕らえられる』と先生が判断した生徒。

 

 そう考えると途端に旗色が悪くなる。正直に言うと真面に相手をしたくない。迂回路でもあればいいのだが……此処は一本道。先に進みたいのであればあの生徒を突破するしかない。アカリは覚悟を決めた様な表情を浮べて正義実現委員会所属の生徒の前に立った。

 

「大人しく通してくれる訳……ありませんよね?」

「────きひっ」

 

 ────赤黒い嵐が巻き起こる。

 

 

 ▼

 

 

「はぁ、はぁ……こ、ここまで来れば流石に大丈夫だよね……」

 

 それなりの長い距離を走ったジュンコは両手を膝に置いて、一先ず息を整えようと深呼吸をする。先生とは比較にならないほど頑強なキヴォトスに住まう民、その中に於いても身体の強度が他と一線を画すヘイローを持つ少女達であれば、その体力も相応のものを持っている。一般的に数kmを全力疾走した程度では息切れなんてしないが、そこに戦闘が加われば話は別だ。更に、ジュンコが走っていたのはほぼ土地勘のないトリニティ自治区で、いつ物陰から正義実現委員会が飛び出して来ても対応できるように常に周囲に気を配り、神経を研ぎ澄ませていた。全身を襲う膨大な疲労感は当然のものだろう。

 

 だが、何とか走り抜けた。目的の境界ラインは目と鼻の先。あと少し息を整えたら一気に走り抜けてしまおう。そう思い、彼女は呼吸のリズムを戻しつつ手持ちの銃火器に弾丸を詰め直していると……物音が聞こえた。こんな所まで追って来たのか、と驚愕を覚えつつ銃を構えると、そこにいたのは見知った顔。

 

「あら、ジュンコさん……」

「あ、アカリ!? ど、どうしたのそんなフラフラの状態で!? 誰にやられたの!?」

「まぁ、端的に言いますと……無理でした☆」

 

 まるで何でもない事のように朗らかに笑うアカリであったが、その声音や表情と裏腹に身体は酷い状態だった。

 長い金色の髪は煤と硝煙で黒ずみ、女性らしさと少女性が混ざった端正な顏はボコボコに殴られた様な跡があり、右腕と左足は人体の構造上あり得ない方向に折れ曲がっていて、服は所々破れて痛々しい痣が飾られた素肌が覗いている。彼女の愛銃たるボトムレスは銃身が捻じ曲がり、銃本体の外装も至る所が罅割れ、グレネードランチャーに至っては紛失していた。

 

 戦闘行為はおろか、逃げる事すら難しい彼女のコンディション。それを見たジュンコは瞠目して何があったのか聞こうとするが────それよりも先にアカリの限界が訪れる。

 

「あ、アカリッ!?」

 

 まるで電池が切れたかのように倒れ込むアカリ。受け身を取る余裕すらなく崩れ落ちた彼女の傍まで急いで駆け寄るジュンコは────影から此方を見つめる血走った眼を捉えた。

 

「くひひっ……きひひひひ……」

 

 ゆらり、ゆらり。まるで幽鬼のような足取りで向かう正義実現委員会所属と思わしき少女。近づくたびに濃くなる血の臭い、背筋を通り抜ける破滅の予感。逃げなければならないのは頭では嫌と言うほど分かっているのに、何故かその場から一歩も動く事ができない。恐怖が足の裏側にへばりついているかのような感覚。冷や汗が止まらなくて、奥歯が音を立てて、呑み込んだ唾が喉を鳴らし、自身の意志とは関係なく勝手に涙が浮かんでくる。

 

「……えっ? な、何ッ!? 鬼……!?」

 

 心を支配する恐怖のまま反射的に銃を構え、ジュンコはトリガーを引く。発射される弾丸は直撃コース、当たればそれなりに手傷を負わせられるはずであったが……そんな甘い想定は少女の無造作に振るわれた手で一切合切薙ぎ払われた。まるで体に纏わりつく虫を払うような手つきで弾丸を往なした少女を見てジュンコは思う。『自分達はとんでもないものに喧嘩を売ってしまった』と。間違いない、あの少女はゲヘナに於ける恐怖の象徴、空崎ヒナに匹敵する────。

 

「きゃはははははははぁぁッ!」

「いやあああぁぁぁぁぁッ!? ご、ごめんなさいぃぃぃぃーッ!?」

 

 ────正義実現委員会、委員長。剣先ツルギ。トリニティ総合学園の最高戦力にして、『トリニティの歩く戦略兵器』の異名を持つキヴォトス最強が一角。天災と呼ぶに相応しい暴力の片鱗がトリニティの秩序を脅かすものに振るわれた。

 

 

 ▼

 

 

 美食研究会の4人が散開し、大体8分程度経った頃。正義実現委員会が保有する護送車に投げ込まれるジュンコとアカリ。両手両足を縛られた上で銃器すらも奪われた彼女達は抵抗する手段は無い。乱雑に、まるでごみを放り投げるかの如く叩き込まれた彼女達は地面と熱烈なハグを交わす。

 先ほどからピクリとも動かないアカリはそのまま地面に伸びて、意識を取り戻したジュンコは身を器用に捩り体を仰向けにすると壁際の方に一つの人影が見えた。

 

「あら、ジュンコさんにアカリさん」

 

 優雅にそう言うのは、ジュンコやアカリよりも一足早く捕まったハルナ。彼女もジュンコやアカリと同様に両手両足を太いワイヤーで縛られ、地面に転がされている。当然銃火器や凶器になり得るものは全て没収済だ。

 

「あ、ハルナ。あんたも捕まったの?」

「ふふっ、10mくらいは頑張ったのですけれど……」

「短っ……」

 

 堂々とそう言うハルナであるが、走れた距離は3人の中でも最短。彼女は分かれた直後、ほんの数歩進んだ地点でスモークグレネードを焚かれ、頭上から降下してきた正義実現委員会の空挺部隊により呆気なく捕縛された。視界不良と空中からの強襲と謂う理不尽極まるコンボは唯でさえフウカを抱えて機動性が少々落ちているハルナを捕獲するには充分すぎるものであり、彼女は碌な抵抗さえする暇なく、逃走開始して30秒程度でお縄についてしまった。

 

 尚、この作戦を考案したのは先生であり、巻き込まれたフウカを極力傷つけないためのものだ。トリニティ自治区で悪事を起こした生徒に対する処罰や扱いを決める権利はシャーレにはないのだが『連行されただけのフウカは無傷で』とハスミとお願いしたところ最終的に納得し、フウカと彼女を担ぐハルナは武装を使わない形での捕縛が行われた……という経緯がある。

 

「では、無事脱出成功したのはイズミさんだけという事でしょうか? 良かったですね、私達の犠牲は無駄ではなかったようです」

「いや犠牲っていうか、最初はほぼ逆の構図だったけど……」

 

 逃走する寸前、ほぼスケープゴートの様にされたイズミであったがまだ逃げられているようだ。それはまだ護送車の外が若干騒がしく、忙しなく動く人が証明している。願わくば彼女だけでも……と思い、ハルナは器用に上体を起き上がらせて壁に背を預けた。

 

「正義実現委員会……なるほど、流石はトリニティきっての武力集団ですわね。凄まじい戦闘能力です」

「ビックリしたよ! あのアカリが一瞬で潰れた缶ジュースみたいに……マジでびっくりした……あたしも戦ったけど、直ぐ負けちゃったし……やられた所、まだ痛いんだけど……」

「相手が相手ですし仕方ないと思いますわ。寧ろ、アカリさんは良く耐えた方でしょう」

 

 アカリを一方的に叩き潰し、ついでにジュンコをKOした生徒は正義実現委員会の委員長、剣先ツルギだ。名実ともにトリニティ最強。神秘の総量、出力、技量、経験……どれを取っても超一級品であり、その実力は空崎ヒナや最近になって漸く表に出てきたミレニアムのコールサイン00(美甘ネル)と単独で真っ向から勝負できる……正真正銘、暴力の化身であり、化け物であり、キヴォトス最強であった。

 

 アカリがツルギと接敵してから、ジュンコに出会い意識を失うまで1分弱。その間、彼女は一方的にボコボコにされた。アカリとツルギの実力差はかなり開いているが、一撃で雌雄が決するほどに開いている訳ではない。故に彼女は一撃で意識を失う事すら許されず暴力の嵐に晒された。

 銃弾や銃床での殴打は当たり前、拳や蹴りも交えて相手に反撃する暇も防御に転じる隙すら与えない攻撃は普通の生徒であればトラウマ間違いなしだろう。

 対して、ジュンコは一撃で伸された。接敵から10秒も経たず、引き金を引く暇すらなく腹部に拳一撃でKO。猛スピードで走行するトラックと正面衝突した衝撃に等しい拳はジュンコを宛らボールの様に吹き飛ばし、その時の痛みは未だに引いていない。

 

 ジュンコは『絶対痣になってる』と確信を抱きつつ、不機嫌そうに口を尖らせて。

 

「もう、だからトリニティの本拠地まで来るなんて……いくらマグロだからって、どうしてこんな所にまで……」

「それはですねジュンコさん。つまるところ、こういう事ですわ。誰も居ない流し台で水が流しっぱなしになっていたら────」

「それ前にも聞いたから!」

 

 以前にも聞いた美食の流儀を長々と語られるより前にジュンコは言葉を被せてハルナの話をシャットアウトする。こうして呆気なく捕まった今、流儀を語られても煽られているようにしか感じられないのだ。尤も、語る本人も捕まっているため煽るも何もないのだが。

 

 そして、急に大きな声を出してしまった事により生まれた鈍い痛みにジュンコは顔を顰める。活動の関係上、痛みや傷に対しては人一倍耐性があると思っていたが……それを真正面から捩じ伏せるなんて彼女は一体どんな力で殴ったのやら。

 

「……私達、これからどうなるのかな」

「まあ順当に考えて、風紀委員会に引き渡しじゃないでしょうか?」

 

 ジュンコの口からポツリと漏れ出た不安。それに反応を返したのはハルナではなく、先ほどまでぴくりとも動かなかったアカリであった。彼女もまた器用に体を捩り、何とか体を起こして少女達の方を向く。最も苛烈な暴力の嵐に晒され続けた体は傷だらけで見るだけで痛みを覚えさせるような惨状だが、その程度でアカリの表情は揺らがない。

 

「びっくりしたぁ!? 無言で起き上がらないでよ!? というか、無事……ではなさそうだけど、目が覚めたのね、アカリ!」

「ふふ、まあそう簡単にはやられませんよ☆」

「っていうか、そっか、風紀委員会か……やだなぁ、もう考えるだけで……」

「参りましたわね……ヒナさんの手に私達の命運が託されるのは、可能なら避けたかったのですが……」

「まあ今回は無茶をし過ぎましたね☆ 仕方ないかもしれません」

 

 骨髄に沁み込んだのは恐怖と圧倒的な暴力。ゲヘナにおける戦闘能力の頂点の恐ろしさは身を以て知っている。抵抗する気さえ起きない暴の極致、理性的に力を振るう混沌の秩序。ヒナの名が出た途端に少女達の顔色が悪くなった。

 ゲヘナに引き渡されれば十中八九投獄、最悪ヒナ手ずからもう一度ボコボコにされるかもしれない。果してこの先はどうなるのだろうか、という思いを募らせる3人……その傍ら、蓑虫のように転がされたフウカは一筋の涙を零す。

 

 ────どうして私まで……。

 

 現場の正義実現委員会の協議の結果、『とりあえずこのままにしておこう』と縛られたまま護送車に放り込まれたフウカの明日はどっちだろうか。

 

 

 ▼

 

 

 ────一方その頃、イズミは。

 

「こ、ここはどこ……私はイズミ……うわーん! もう、どこに行けばいいのぉ!?」

 

 他の3人がそれぞれ理詰めの戦術と突き抜けた戦力により呆気なく囚われの身になった後。一人なんとか逃亡を続けているイズミは絶賛迷子であった。土地勘は無く、何処を見ても同じような風景で目印になりそうなものも無い。脱出経路なんて知らないし、そもそも今だって何処を目指して走っているのかも分かっていないのだ。道に迷った彼女は半ばパニック状態、スマホでマップを確認する……という選択肢は頭の中から抜け落ちていた。

 

 ────涙目で路地裏を走る少女、それを建物上から見下ろす影が4つ。

 

「……こちらアズサ、ターゲットをロックオンした。彼方は私に気付いていない様子だ。ヒフミ、コハル、準備は?」

「は、はい。出来ています……」

「う、うん……」

「よし、じゃあ手筈通りに奇襲を行う。ハナコ、奇襲後の捕縛を」

「ふふっ、任せてください♡」

 

 アズサとヒフミは各々銃を持ち、コハルは何時もの手榴弾……ではなく閃光弾(フラッシュバン)。ハナコが笑みを浮べてロープを持てば補習授業部の準備は完了する。

 

「全体指揮は先生に任せる。私達を導いてくれ」

『勿論……じゃあヒフミ、号令を。ヒフミの声が作戦開始の合図だ』

「え、えぇッ!? わ、私ですか!?」

 

 ヒフミが驚きながら声を上げれば、少女達は『何を今更』とでも言いたげな表情。補習授業部の作戦であるならば部長の彼女が号令をかけずして一体誰がかけるのか。そんな声なき声を感じ取った彼女は右往左往して……それから、掌を握り締める。

 

 ────自分(ヒフミ)の事を『補習授業部の部長』と胸を張って言えるような自信は無い。平凡で、ありふれていて、探せば何処にでもいるような生徒が自分だという現実は一番よく知っている。でも、それでも……アズサが、ハナコが、コハルが、大切な友達が信じてくれるなら。

 

「で、では……作戦開始です!」

「おーッ!」

 

 決意に満ちたヒフミの声と、そんな彼女に応える声達が夜の街に反響した。

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