シャーレ活動備忘録   作:遊園市街

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傷を数えて、痛みを指折る

 合宿施設、ロビー。必要最低限の椅子と机以外が片付けられ、代わりにベッドやら医療道具などが設置されていた場所であったが、それも大半がなくなり、今ではただの広い殺風景な空間になっていた。ぽつんと一つ残されたベッドは先生のものであり、上体を起こした彼はフレームに背を預けて窓の外を眺める。部屋には誰も居ない。セリナとマリー、ティーパーティーの少女はトリニティに戻る事になり、補習授業部の少女達はそのお見送り。窓の外から見える合宿施設の入り口では少女達が何らかの言葉を交わしている光景が見えた。

 本来ならば先生も見送りたかったのだが、セリナに釘を刺されてしまった事により敢え無く撃沈。お気持ちだけでも充分嬉しいですよ、とはにかんだ少女達に『敵わないな』と内心で呟いてから、再会を誓った。今度はゆっくり会おう、と。

 

「────」

 

 一人残された先生は少し離れた場所にあるローテーブルに置かれたシッテムの箱に視線を送る。そのまま脳波で接続し、簡易的な身体スキャンを行った。分かってはいたが、見た目が派手なだけで中身に大きな損傷はない。内臓も筋肉も骨も神経も大半が無事で、損傷している幾つかもナノマシンの働きで完治する範囲内。大体3日もあれば充分に動けるレベルまで復帰できる。体の表面の傷に関しては痕が残るかもしれないが、些末な問題だろう。こういったものであれば幾らでも誤魔化しが効く。

 

 自身の身体スキャンも程々に、彼はそのままシッテムの箱の奥まで接続を行う。彼女が持つ領域である、青い教室へと。

 

 

 ▼

 

 

 現実世界の時間とリンクしている青の教室は雲一つない晴天。くるくると回る天上のヘイローの下、先生は破壊痕の残る水没した教室を歩く。ぱしゃり、と水が跳ねる音が鳴れば机の上に座って足をぷらぷらさせていたアロナが物凄い勢いで振り返った。

 

「おはよう、アロナ」

「せ、先生!? 目が覚めたんですね! 大丈夫でしたか!?」

「大丈夫だよ。アロナが最後まで守ってくれたからね」

「よ、良かったです……一時はどうなるかと思いました……」

 

 シッテムの箱は最初の砲撃を防いだ後から機能を制限したセーフモードで起動していた。そのため、アロナにはそこまで外部の状況が分からなかったのだろう。彼女が知っているのは身体機能のサポートをしている先生の大まかの状態と、先生がシッテムの箱を介して実行した権能や機能、そして使用された権能と機能から逆算して得られる外部の状況だ。一応、先生が生きている事は知っていただろうが、それでも不安で仕方なくて、こうして姿を見せてくれたことに安堵と喜びを感じていたのだ。

 だが、少し後に「……ハッ!」と何かに気付いたような声を上げて先生を見やる。彼女に浮かび上がるヘイローは赤く、怒りを示していた。

 

「それよりも、怪我してるときは教室に来ちゃダメって言ったじゃないですか!? 此処に来るのだって負荷が掛かるんですよ!?」

「そこに関しては大丈夫だよ。今回ので負った負傷は表面的な物が大半だからね。教室へ潜行するのに足枷となる様なものは無かったさ」

「……本当ですか?」

「本当だよ。此処に入る前に身体スキャンしたからね」

 

 アロナは指先でシッテムの箱のフォルダにアクセスする。身体スキャンの結果が格納されているフォルダにはつい先程に実施したものがあって、その中身は確かに彼が『大丈夫』と言い張るに足るものが示されていた。何か偽装された形跡も無ければ隠された形跡もない。そもそも、シッテムの箱にそんなものは最初から通用しない。故にこの結果は純度100%の信用に足る結果であり、アロナはどこか不満げに「むぅ……」と息を漏らした。

 

「確かに大きな怪我が無くて良かったですが……それでも、体力は消耗してるんですからね! 特に今の先生は循環器系と呼吸器系にハンデを抱えてるんですから、無理しちゃダメです!」

「分かってるよ、アロナ」

 

 彼が苦笑い混じりの声でそう呟けば、アロナは『本当に分かってるんですか?』と言わんばかりの表情。一応、これでも分かっているつもりだ。分かった上で、必要とあれば無茶と無謀を行っているだけで。尤も、余計に質が悪い気もするが。

 

「便利屋68の子達と、ワカモ、トキはどう?」

「皆さん無事に離脱済みです。離脱後、皆さんはシャーレで小休止を取り、3時間前にそれぞれの拠点へ戻られました。ワカモさんはまだシャーレに残っていますが……」

「そっか。皆がゲヘナを離脱した時間は分かる?」

「先生達が離脱した、大体30分後です」

「……随分早いね。何があったか分かる?」

 

 不自然な早さに先生は疑問を呈する。先生の計算では最低でも1時間は掛かる計算だったのだ。道中に様々なイレギュラーはあったものの、離脱時間をそこまで大きく左右する類のものは無かった。故に、何があったのかと勘繰るのも当然の話だろう。

 

「監視カメラの映像にはなりますが、どうやら皆さんに向けられる風紀委員会の方々が少なかったようです」

「他に回していて手が足りなかった……いや、これは意図的だね。追撃の手を緩めたんだ」

「はい、アロナもそう思います。でも、一体何故……」

 

 監視カメラの映像を具に見ながら先生は観察する。意図的に追撃を緩めた理由。問題を起こしたくないから、という訳ではないだろう。あの場に居たのはゲヘナ所属の便利屋68、百鬼夜行に所属しているが停学処分中のワカモ、ミレニアムに所属している事を分からなくしているトキなのだ。捕らえた瞬間に大きな問題に発展するような分かりやすい地雷はない。そのため、態々手を緩める必要は無いはずだ────ゲヘナ学園としては。

 

 つまり、これはゲヘナ学園の都合ではなくもっと別の……個人の都合とも言うべきところに答えがある。そして、その個人なんて分かり切っている。ゲヘナ風紀委員会全体を動かせ、あの場の事情を把握していたと思われる人物なんて1人しか心当たりが無い。

 

「ヒナ……」

 

 補習授業部。シャーレ。それらの事情を察してくれたヒナは意図的に追撃の手を緩め、彼女達が脱出する隙を作ってくれたのだ。立場もあり直接大っぴらに協力するわけにはいかない。故に分かり難い方法で陰ながら支援してくれた。

 

 ────何故君はそこまでしてくれるのか。何故助けてくれるのか。私に返せるものなんて何もないのに。君に助けられてばかりだと謂うのに。

 

「ヒナさんが、助けてくださったのですか?」

「確証はないけど、多分ね。今度直接聞いてみるよ」

 

 ふわりと笑った彼の笑みにアロナも同じく屈託のない笑みを返す。こんな時間が永遠に続けばいいのに、と思うのは我儘なのだろうか。

 

「皆が戻ってきたから、私は一旦あっちに帰るよ。話の続きはまた夜にでも」

「はい! いってらっしゃい、先生!」

 

 アロナは遠ざかっていく背中を見送る。危険だらけで、傷つく事ばかりの世界へ戻る彼を。何度引き留めたいと思った事だろうか。あの世界よりもこの教室の方が。青く閉じた教室の方がきっと安全で、満ち足りているのに。あの世界に戻っても彼は擦り減ってばかりで、傷つくばかりで、幸福らしい幸福も人間らしい時間も得られないのに。最後は必ず、身を捧げてしまうのに。

 

 それでも、彼は進んでしまう。自分以外の誰かのために、誰かの笑顔のために、誰かの幸福のために。その背を手を伸ばしたい、と思ってしまうのは────我儘なのだろうか。

 

 一人となった教室で、アロナは空を見上げた。今日も快晴だった。

 

 

 ▼

 

 

「先生、ただいま戻りました────」

 

 トリニティに戻る少女達の見送りを済ませた補習授業部の4人はロビーに戻り、1人待っていた先生に声を掛ける。いつもなら直ぐに柔らかい声の「おかえり」という言葉が返ってくるのだが、今日はそれが返ってこない。少女達は『あれ?』と思いながら目を凝らすと、彼は眼を閉じていた。

 

「……寝てる?」

「うん、そうみたい」

「やっぱり無理をしていたのでしょうか……?」

「それは分かりませんが、今はゆっくり休ませてあげましょう。お話は先生が眼を覚ました後で────」

 

 こそこそと小さな声で話していると、ベッドから軋む音が聞こえた。見ると先生が薄っすらと眼を開いていて、少し影のある瞳は空虚を映している。しかし、それも一瞬。顔を上げた彼は見慣れた、優しく包むような表情を浮べていて「おかえり、皆」と出迎えた。

 

「あうぅ、起こしてしまいましたか……?」

「いや、そんな事ないよ。元々、寝ていた訳じゃないからね」

「そ、そうでしたか……」

 

 ヒフミは隣にいるハナコに助けを求めるように見つめると、ハナコも同じような歯切れの悪い表情になる。どうやって切り出せばいいのか探っているような雰囲気に先生は少しだけ可笑しくなって、助け舟を出す心境で少女達を見渡した。

 

「……聞きたい事、あるんでしょ? 今更隠したりしないから遠慮なく聞いてよ。嘘も吐かないからさ」

 

 隠す事も、嘘を吐く事も無い。此処まで知られた以上、潔く話すのが筋と謂うものだろう。いつの間にか人工皮膚やら義指やらを剥ぎ取られていた事には驚くが、これは多分セリナだろう。彼女はこういう事に関しては勘が鋭いし、眼も良い。むしろ今までバレなかった事が奇跡だ。

 

「皆知ってると思うけど、私の肉体強度はキヴォトスじゃ最底辺だ。一番小さい口径の銃弾でも致命傷になるし、対物ライフル弾が当たれば体が千切れ飛ぶ。爆弾とか戦車とか使われたら文字通り木っ端微塵さ」

「そんな……縁起でもない事を言わないでくださいッ」

「でも、これが事実なんだ。私は皆が当たり前に持ち運ぶ銃器がそのまま死因に直結する。一応自衛手段はあるけど、それも無敵でもなければ無限でもない。隙を突こうと思えば幾らでも突けるんだ」

 

 あぁ、それは良く知っている。一歩間違えばあの砲撃で先生は命を落としていたかもしれないのだ。今こうして彼が生きて、少女達と会話を交わせているのは運が良かったからに他ならない。あの光景を、血で塗れ、傷だらけの彼を忘れない。彼が全身に纏う包帯の下にはその現実が確りと刻み込まれている。

 

 だが、それでも────彼が簡単に失われてしまう現実を認めたくなかった。認めてしまえば悪夢と断じた光景がそのまま近い未来の現実になってしまう気がして。

 

「勿論、死ぬつもりはないけどね。私にはまだやるべき事が山ほど残ってるからさ」

 

 冗談めかした口調でそう言えば、幾ばくか重い雰囲気が払拭される。現実として死ぬ可能性はあるが、死ぬつもりはないと。彼は生きる意志があるのだ。自分から死にに行くような真似はきっとしないだろう────やるべき事がある限りは。

 

 裏を返せば、やるべき事さえ片付いてしまえば彼は何のためらいもなく自死を選んでしまいそうで────。

 

「シャーレも私も、荒事とは切っても離せない関係にあるからね。だから、そういうのに身を置くたびに傷とかは増えるんだ。例え無事でも痕までは消せない事が多いからね」

「えっと、じゃあ……その、首のも……」

「あぁ、これ?」

 

 コハルが指差したのはミントグリーンの患者服に隠れていない首の傷跡だった。一際目立つ上に、他の傷とは明確に毛色が違う。銃創でも打撲でも火傷でも裂傷でもない。あの傷は切り傷だ。何か鋭い刃物で首元を撫で切られた結果、残ったものだ。

 

「これは……私が傷つけてしまった子が哭いていた証だよ。私の愚かさがあの子を悲しませた」

 

 彼はそう呟いて、傷をそっと撫でた。その手には愛があって、声音には慈しみが宿る。その態度は傷に対するそれではなく、まるで懐かしい写真を眺めるような。

 

「……それでも、傷は傷。決して良い思い出ではないはずだ」

「うん、私もそれには同意。傷なんて負わないに越した事はないし、傷に意味を見出す事は痛みを必要なものだって肯定する事になる。私も痛みを『必要なもの』って切り捨てる(肯定する)ことはしたくない」

「だったら何故────」

 

 アズサに被せるように彼は「でも」と言って。

 

「これはちょっと特別なんだ。あの子なりに私を救おうとしてくれた証だからね。私はどうしても、それを悪いものと思えないし、言いたくないんだ」

 

 失う事で救われる何かなんて無い。それは悪戯に悲劇を増やすだけだ。彼は今でもそう思っているし、経験で嫌と言うほど知っている。死んだ後に残された人達の悲しみを思えば胸が張り裂けそうになるし、死の悼みを何度も誰かに押し付ける事なんてしたくない。ましてや、生徒に『人を殺す感触』を教えて堪るものか。故に彼は争いを唾棄する、忌避する。どんな理屈を捏ね繰り回そうが暴力なんて等しく最低最悪の手段、その想いに乱れはない。一生涯、あらゆる争いも流血も痛みも暴力も肯定しない事を誓っている。

 

 だが、それでも────ケイなりに考えて、考えて、考え抜いて。何度も悩んで、泣いて、悔やんで。その果てに下した決断を先生は悪と断じる事はしたくなかった。例え、それが自身の信念に反するとしても。

 

「まぁ、これが特別なだけだよ。他は……あんまり思い出したくはない類の奴だし。大体、何かの荒事に首を突っ込んで手痛いしっぺ返しを食らった結果さ」

 

 傷の理由なんてその程度。転んで擦りむいたとか、突き指したとか。皆にとって銃が当たり前ならその過程で生まれる傷も当たり前の範疇を出ない。ただ、偶々彼にとってその当たり前が生命を左右する事象だっただけで。誰が悪いとか、何が悪いとかそういう問題ではない。単純に、この世界のフォーマットと彼が合致しなかった。それだけの話だ。

 

「……あの足の指も、そうなのか?」

「うん、ちょっと無茶し過ぎちゃってね。それで取れちゃったんだ」

「脇腹の痣も……」

「概ね同じだね。痣自体には特殊な事情があるにはあるけど」

「胸の下の傷も、それ以外も……」

「一緒だよ。全部ね」

 

 まるで何でもない事のように返した彼にヒフミ、ハナコ、アズサは絶句する。強がりでもなく、彼は本当に心から自身が負った傷をそう認識していた。命の危険に関わったかもしれない傷も、もう決して消えないだろう痕も、二度と戻らない欠落も、何もかも。

 

 あぁ────見飽きたほどに、当たり前のものだ。

 

「……何よ、それ。意味分かんない」

 

 誰もが口を噤んだ空間に怒りを滲ませたコハルの声が響く。意味が分からない。分かりたくなんかない。優しくて、大きくて、暖かくて。馬鹿な自分(コハル)にも分かりやすく勉強を教えてくれて成長したら目一杯褒めてくれる彼の言葉が、今だけは一切分からなかったし分かりたくもなかった。

 

「それで死んじゃったらどうするのよ!?」

 

 綺麗で大きい桃色の瞳に涙を溜めたコハルは立ち上がり、先生の両肩を掴む。胸倉を掴まなかったのはせめてもの理性が働いた結果か。

 

「コハルちゃん!?」

「ヒフミ、止めないであげて」

 

 流石に怪我人に掴みかかるのは駄目だと思ったヒフミがコハルを静止しようとするが、逆にアズサによって止められてしまう。これをこのまま見逃してしまっても良いのか、とヒフミはハナコに視線を送るが、彼女は緩く首を振った。どうやらハナコも此処は静観するらしい。

 

「普通の喧嘩なら止めてたけど、これは違う。先生には必要な事なんだ」

「えぇ……本音でぶつかり合う事は大切です。その本音が愛であれば、猶更」

「あうぅ……」

 

 そんな3人の声すら聞こえないほどに激高したコハルは、その内心をそのまま先生にぶつけるように叫ぶ。怒ってる、悲しいし、寂しいし、辛いし。もうどれが本当の自分なのか分からなくなってしまうほど、感情的に。

 

「この傷だってそうじゃん! 本当に死んじゃうかもしれなかったのに、先生は将来この傷も『当たり前』って言っちゃうの!?」

 

 あぁ、そうだ。この傷もいずれ過去になる。元より、理由は掃いて捨てるほどあり触れたものだ。死にかける事くらいで一々騒いでいられない。今は唯、先生としての役目を全うする。彼女達の先生で在り続ける。侵略者の端末ではなく、人類として存在し続ける。それが自分の生きる道だ。

 

「先生がそんな風になって誰が喜ぶのよッ!」

 

 誰かに喜んでほしい訳じゃない。誰かに悲しんでほしい訳じゃない。これが自分のやるべき事だと思ったからやっているだけだ。彼女から託された大切な願いだから、今も抱えて歩き続けているだけだ。歩いた先に在る世界の為に、そこに在る笑顔と幸福のために。

 

「ヒフミもハナコもアズサも私もッ! 本当に心配してたのが見えないわけ!?」

 

 違う、ちゃんと見えていた。心配していてくれたことは分かっている。心配をかけてごめん、そう呟いた言葉に嘘はない。でも、自分はもうそれ以外の生き方ができないから。こうして自分の体を消耗品のように扱い、前へ走るしかない。

 

 それを憂いてくれる誰かは、確かにいたのに。

 

 ワカモ、ノア、ケイ、ミカ、ヒナ。彼女達は止めてくれた。もういいと言ってくれた。そんな風に生きなくていい、貴方にはただ笑って生きてほしいと。その声にすら自分は背を向けた。差し伸べられた手をそっと拒絶した。それを受け入れたら今までの自分を否定してしまうから。

 

 傷口が自分だった。痛みが証明だった。そんな自分を善いものだとは思えない。平和になった世界の何処にも自分の居場所はない。本来ならここに居ちゃいけないことは誰よりも分かっている。本当にどうしようもない生き方だ。

 だが、自分はきっと何度でもこの生き方を選ぶだろう。他にどんな選択肢があっても、どんな幸福な生き方があっても、自分は今の生き方以外を選ぶつもりはない。故に、この生き方を選んだ責任はきちんと果たしてみせる。もう思い出せない、先生でなかった自分の為にも。私の星(連邦生徒会長)の為にも。

 

 その時、先生はふと思い出した。コハルの事を。今目の前にいるコハルではなく、過去の世界で出会ったコハル。彼女にも似たようなことを言われた。あの時も、彼女は泣いていて────。

 

「そんな遠くを見る眼をしないでよッ! 誰を見てるのよッ!?」

 

 今までよりも一際大きい声でコハルは叫ぶ。こんな至近距離にいるのに、コハルの視界は先生で埋め尽くされているのに。彼は今この瞬間、コハルを見ていなかった。確かに視界には収めていたかもしれない、だが彼の眼にはコハルが映っていなかったのだ。コハルを通して別の誰かを見ていた。それが、何よりも許せなくて。

 

「私はッ、下江コハルは此処よッ! 私を見てよ、先生ッ!」

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