シャーレ活動備忘録 作:遊園市街
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「いらっしゃいませ! 柴関ラーメンです!」
比較的小さめな店内に響き渡る溌剌とした声。気持ちの良い来店の挨拶をしているのは、アビドス高等学校1年の黒見セリカだった。
店指定の制服を身に纏い、三角巾を頭に付けている黒髪の少女は人好きのする笑顔を客に振り撒きながら接客をしている。
柴関ラーメンはアビドス地区内で営業している飲食店だ。その店舗名の通りラーメンや餃子、炒飯といったオーソドックスな中華料理を提供しており、地区内ではかなり珍しい、現在でも営業中の店。来店客からは『早い、安い、美味い』と評判になっており、時間によっては店内もかなりの賑わいを見せる。
そんな店で、セリカはアビドス対策委員会に内緒でバイトを行なっていた。店の看板娘の様な愛想と笑顔携えて訪れる客を歓待し、あっちへ行きこっちへ行きと忙しなく店内を駆け巡っている。
時刻は丁度夕飯時、ランチ帯と並んで飲食店が最も混雑する時間帯。その様な事情も相まって柴関の店内は混み合っており、テーブル席もカウンター席も満員一歩手前の状態だ。
アビドスに残る数少ない飲食店、近隣住民の憩いの場。思い思いに食事を楽しむ客を見て、セリカは確かなやり甲斐を感じている。
そして、不意に入り口が開く。新しいお客さんだ、と思い──────セリカは笑顔を向ける。
「いらっしゃいませ! 柴関ラーメンで──────」
「4名でお願いしま〜す☆」
店の引き戸を開けて入ってきたのはよく知った顔だった。見覚えがあるどころではなく、親友と言い切れるほど関係性が深い仲間達。その姿を視界に収めてセリカはフリーズする。目の前の光景を現実と認めたくなくて、一瞬夢の国へ旅立ちそうになるが──────なんとか持ち直して再起動する。手に持ったタブレットで顔の下半分を覆い、驚愕で目を丸くして。
「わわッ……!」
「あ、はは……セリカちゃん、お疲れ……」
「お疲れ」
セリカを労いながら入店するアビドスの面々。物珍しそうに店内を見渡す彼女達に、セリカは愕然とした表情を浮かべる。
「み、皆……どうしてここを……!?」
「うへ〜、やっぱここだと思った〜」
満を持して現れたのは、この冷やかしの案を作成した人物たる小鳥遊ホシノ。3人より若干遅れる形で入店した彼女は眠気を隠さない足取りでセリカの方に寄って行った。
「セリカちゃんのバイト先で考えられる場所っていえばここくらいしかないじゃん? だから来てみたんだけど……大当たりだったね〜」
バイトをしている事自体は気づかれているだろうとセリカ自身も思っていた。だが、まさか勤務先まで予想されているのは完全に想定外だった。そして、こうしてメンバー総出で遊びにくる事も予想外だ。
そこで、ふと思った。そういえば人を小馬鹿にした様な微笑を浮かべた白服の男──────先生がいない、と。
「先生も来ればよかったのにねぇ〜」
「ん、用事があったから仕方ない。また今度誘おう」
ホシノとシロコがそんな恐ろしい計画を組み立てていた事は露知らず、セリカはノノミとアヤネと話し、呻き声を上げていた。
それと同時に厨房の奥からこの店の店長が顔を覗かせる。その姿はまさに柴犬であるが、二足歩行を当然の様に行い人語を話す──────歴としたキヴォトスの住人だ。
「アビドスの生徒さんか! セリカちゃん、おしゃべりはそれくらいにして注文受けてくれな!」
「あ、うう……はい、大将。それでは、テーブル席にご案内します……こちらへどうぞ……」
賃金が発生している時間に友人と談笑するのは褒められた行為ではない。セリカは意気消沈しながら、とぼとぼと案内を開始する。先程までの溌剌とした笑顔は鳴りを潜め、恥ずかしい所を見られたと言わんばかりの表情だ。そんなセリカの後ろを4人は着いていく。シロコとホシノはいつも通り、ノノミは楽しそうに、アヤネは苦笑いして。
案内されたのは6人掛けのテーブル席。4人用の席は全て埋まっているため、現在案内できる場所はここしかなかったのだろう。
4人には少し広いスペースに座っている彼女達を見て、セリカは辟易とした溜息を吐く。
だが、彼女は知らなかった。この直後に、更に頭痛の種が増える事を。
「いらっしゃい!」
「2人です。席、空いていますか?」
▼
新しい来客を出迎えに店舗入り口へ向かったセリカに待っていたのは──────一番会いたくなかった人の顔だった。
「セリカ?」
僅かな驚きを交えてセリカの名前を呼んだのは、今朝エンカウントしたシャーレの先生だった。彼の傍らにはおよそラーメン店には相応しくない着物姿の美少女が佇んでいる。
「なっなんでアンタが此処に……!」
「アビドスで評判良さそうな飲食店探したら此処に辿り着いたんだけど……セリカが働いているとはね」
彼は「偶然だねぇ」なんて言って、苦笑する。先生としても偶々入った飲食店でセリカが働いていただけであり、冷やかしの目的はなかった。
元々、此処に来るつもりすらなかったのだ。シッテムの箱が捉えた
尚、ワカモは彼にだけ食事をさせるつもりで自身は食べるつもりはなかったため、手を引かれ店に連れられた時は驚いたが────彼と共に食事できる嬉しさの方が勝った。
「アンタまで来るなんて……」
「まで? ……あぁ、なるほど」
彼は奥の席で手を振るシロコ達に気づいて、手を振り返す。彼女達は純然たる冷やかし目的で来たのだろう。こんな所で会うとは、案外世界は狭いらしい。
「席は
「……貴方様の隣に座れるなら何処でも大丈夫ですわ」
「……だ、そうなので──────案内、お願いできるかな?」
今日は厄日だ──────セリカは素直にそう思った。
▼
先生とワカモがアビドスの面々が座っている席に案内され、気を遣ったアヤネが移動して──────ワカモは願った通り先生の隣にいる。
席の順番はノノミ、先生、ワカモ。その向かいにシロコ、ホシノ、アヤネが座っている。ワカモとアヤネが通路側だ。
シロコ達は和服姿の少女が誰なのか先生に聞きたかったが、後回しにした。彼と共にしているという事は、恐らく信用に足る人物なのだろうと思って。
ノノミは賑やかになったテーブルを横目に、メニューとお盆を持って待機しているセリカを見た。
「セリカちゃん、バイトのユニフォームとっても可愛いです☆」
「いやぁー、セリカちゃんってそっち系? ユニフォームでバイト先決めちゃうタイプ?」
「ち、違うって! 関係ないし! ここは行きつけのお店だったの!」
「ユニフォーム姿のセリカちゃん、写真撮っとけば一儲けできそうだね〜。どう? 1枚買わない、先生?」
彼は「うーん……」と少し考えて。
「シャーレのコルクボードに貼るのもアリか。今は殺風景で寂しいし……」
「変な副業はやめてください、先輩……あと先生も買わないでください……」
写真がないコルクボードほど寂しいものはない。それを埋められる良い機会だったが、アヤネに止められたのならば仕方ないだろう。大人しく晄輪大祭等のイベントの時を待とう。
「貴方様は写真が欲しいのですか? でしたら、この私が──────」
「私が
先生が慌てて釘を刺しても、ワカモは仮面の裏で妖艶に微笑んだまま。先生の背筋に冷たい汗が流れた。
公衆の面前でいちゃついている2人を放って、アビドスの面々はセリカに興味本位の質問をぶつける。皆、この状況を心から面白がっていた。
「バイトはいつから始めたの?」
「い、1週間ぐらい前から……」
「そうだったんですね☆ 時々姿を消していたのは、バイトだったという事ですか!」
友人からの弄りに耐えかねたのか、セリカは顔を真っ赤にしながら声を張り上げる。
「も、もういいでしょ!? ご注文はっ!?」
「『ご注文はお決まりですか?』でしょー? セリカちゃーん、お客様には親切に接客しなくちゃー? ほら、笑顔笑顔〜」
超が付くほど迷惑な客であった。だが、根が真面目なセリカは自身の対応に問題があったと思い、赤い顔のまま丁寧な所作で注文を聞いていく。ホシノとノノミはそんなセリカの様子を楽しそうに眺めている。
ノノミはチャーシュー麺。シロコは塩ラーメン。アヤネは味噌ラーメン。ホシノは特製味噌ラーメンに炙りチャーシュートッピング。
行き慣れた店なのだろうか、メニュー表も見ずに彼女達は各々食べたいものを注文した。
「先生も遠慮しないでじゃんじゃん頼んでね〜。この店、めちゃくちゃ美味しいんだよ〜! アビドス名物、柴関ラーメン!」
「……うーん、どうする?」
ワカモに問いかけると、彼女は仮面の奥から笑顔を覗かせて。
「私はこの様なお店で食事をした経験がありませんので……貴方様と同じものを。折角ですし、貴方様と同じものを食べて美味しさを共有したいですわ」
「そっか、じゃあ……醤油でいいかな?」
「えぇ、勿論ですわ、貴方様」
「という訳で、醤油ラーメンを2つ、お願いね」
全員分の注文をタブレットで取っていたセリカであったが、不意に問いを投げた。その表情は若干ジト目になっている。
「……ところで、皆はお金大丈夫なの? もしかして、またノノミ先輩に奢ってもらうつもりじゃ──────」
「私はそれでも大丈夫ですよ? カードの限度額までまだ余裕はありますし……」
ノノミが懐から取り出したのはキヴォトスゴールドエキスプレスカード。キヴォトスで戦車すら購入可能なとんでもないクレジットカードの存在感は正に格別。アヤネが「眩しい!」と目を逸らすほど煌びやかな光を放つ黄金でノノミは会計を行おうとするが──────ホシノはそれを静止した。
「いやいや、またご馳走になる訳にはいかないよ〜。きっと、先生が奢ってくれるはず──────だよね、先生?」
ホシノは真正面に座っている先生に、ニヤつきながら言う。彼としては此処で会うのは完全に予想外で、奢るのはもっと予想外だ。
「初耳なんだけどなぁ……」
先生はそう言って、スマホのアプリで決済サービスの残高を確認する。恐らく大丈夫と言い切れるだけの金額が表示されている事を視認した。
「あ、それ、ウチじゃ使えないわよ」
「……なるほど」
使えないものは仕方ない。財布を取り出して、現金を見る。つい数時間前、便利屋の生徒達に渡すお土産を買ったばかりのため、少々持ち合わせに不安が残るが──────美食研究会のアカリのような量を頼まれなければ大丈夫だろう。その代わり、先生が暫く節制をしなければならないが。そしてユウカにも怒られなければならない。先生は未来の自分と財布の中身を悼んだ。
彼は溜息を飲み込んで、財布をテーブルの上に置いて──────それをホシノは素早く引っ張って自身の手元に持っていき、中身の物色を開始した。
「お〜、大人のカードがあるじゃん。これの出番だね〜」
「人の財布の中身を勝手に見るのは宜しくないよ」
ホシノに見られて困るものは入っていないが、教育者として行為は咎めるべきだろう。先生はホシノに向かって手を伸ばして財布を取り返そうとしているが、巧みに躱し続けている。
「先生、最初からこうするつもりで一緒の席にしてくれたんですか……?」
「先生としてはカワイイ生徒達の空腹を満たしてやれる絶好のチャンスじゃーん?」
「別に奢るの自体は構わないんだけどね……あと、財布返して」
2人の不毛な攻防に掛かった時間が10秒を越えようとした所で──────ワカモがホシノの手から先生の財布を奪い取った。
「あまりこの方を困らせないでくださいな」
先生に財布を渡しながら、ワカモは悪戯っぽく言う。彼女もこれが戯れあいだと分かっているのだろう。先生を強く思うが故に、彼が絡むと暴走特急になりがちなワカモにしては──────かなり余裕のある対応だった。
尚、彼女のこの余裕は『この中で一番愛され、信頼され、見られているのは自分である』という自負から生まれているものである事を先生は知らない。
先生の意思は関係なく、ユウカに怒られる事と節制が決定したのだが──────不意に彼の隣に座っているノノミが彼の袖を引っ張った。
「先生、こっそりこれで支払ってください」
ノノミは小さな声で先生に耳打ちした。机の下、彼女の手に握られているのは一万円札が数枚。バレない様に彼のポケットに差し込もうとしている所だった。6人の食事としてはかなりの高額。これで足りないということはまず起こり得ないだろう。寧ろ一枚だけでもお釣りが帰ってくるはずだ。
だが、彼はそれを受け取らず、そっとノノミの側に押し戻した。
「先生?」
「大丈夫だよ、ありがとう。この程度の出費で痛むような浅い懐じゃないさ」
そう言って、彼は微笑む。大人として年下の少女からお金を受け取るのは色々と負けであり、彼にもそれなりにプライドは存在するのだ。
いつだって生徒の為の先生でありたい──────その誓いはこういった日常生活でこそ果たされるべきであろう。
生徒の笑顔が先生の幸せだ。こうやって食事を共にする楽しさこそが先生の何よりの報酬である。支払う金額以上に価値のある輝くものをもらっているから、と彼は笑う。
「──────あぁ、本当に楽しいよ」
万感の思いが込められた言葉。それが聞こえたワカモは──────そっと彼の手に自身の手を重ねて、握った。
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以下、2周年解禁情報についてダラダラ書いてます。
最終章pv見たぼく「これ拙作でやりたかった事(クソデカ武器を振るう生徒、シャーレの制服を着る生徒、サンクトゥムタワーとシャーレの崩壊、外宇宙へ至る道、ゲマトリア会議、クロコシロコの対峙、詠唱する先生と生徒etc)全部やってくれるのでは??????」
それはそれとして、最終章実装ですね。私はまだ読めておりませんが、随分お早いですね? 第二部とかやるのかしら? 聖園ミカをありがとう……とか言いたい事は色々あるのですが、こんなにも早く最終章が来るとは思っていなかったので、プロットが破壊される恐怖にビクビク震えています。
私はつい最近パヴァーヌを鑑みて組み直したばかりなんだ……特にアリスと関連する設定は木っ端微塵に破壊されました。俺、アリスの事をセフィラのダァトだと思ってました。全然違いました。なんならマルクトですらなさそう。
更新が止まったら必死になってプロット組み直してるんだなぁと鼻で笑ってください。