シャーレ活動備忘録   作:遊園市街

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 感想評価お気に入り登録誤字報告ありがとうございます。1ヶ月ほど出張に行っていて全く投稿できませんでした。申し訳ございません。これからまたゆるーく投稿していきますので、よろしくお願いいたします。


いつかの笑い合える日を信じて

 

 邪龍に食い荒らされたバルバラが作り出した回廊、悉くの生命を呪い殺す渦、聖女の母胎。キヴォトスのルールが一切通用しない異界常識は対神秘に特化していた。神秘が強ければ強いほどそれが鎖となり、足を踏み入れた者を縊り殺す呪詛となる。もし仮にこの場に生徒がいれば10秒と持たなかっただろう。

 

 だが、先生は違う。神秘を持たないが故に対神秘……キヴォトスの常識に対する特攻にある程度の耐性を持っていた。勿論、先生が耐性を持っているのは対神秘のみで、それ以外の呪いに対する耐性は皆無。だが、それはシッテムの箱が健在であればどうとでもなる範疇だ。対神秘の異界常識も、生命に対する呪詛も、悪性情報も通用しない。ことバルバラに於いて彼は最適解であり、同時に彼以外は模範的な不正解であった。

 

 しかし、彼が最適解であったとしても、その最適解はあくまで『この環境で生存する最適解』だ。バルバラを打倒する最適解ではない。一般的なユスティナ聖徒会はおろか、ヘイローを持たない民にすら力比べで秒殺される彼が、単身でバルバラを倒すなんて夢のまた夢。羽虫のように潰されてお終いだ。

 

 生徒はいない。各種礼装はベアトリーチェ用に調整してあるため再調整に時間が掛かる。シッテムの箱の権能は混合(ミックス)された神秘には効果が薄い。であれば取れる手段は彼の特権(大人のカード)、唯一つ。

 

 それに、彼は此処がカードの切り時だと考えていた。この聖女もこの場もベアトリーチェが用意したもの。どの道、切り抜けられなければ彼女と対峙する権利すら与えられない。出し惜しみをして、我が身可愛さでリスクを抑えて勝てる相手ではないのだ。初めからフルスロットルで、全力で、リスクを承知で勝ちに行く。刺し違えてでもベアトリーチェだけは殺す気概を持って彼女の心臓に手を伸ばす。

 全ては生徒達が心の底から笑える明日の為に。そこに在ると知りながら手を伸ばす権利を与えられず見殺しにしてしまった全ての涙に報いる為に。

 

 その願いは遠い世界の()()と強く共鳴した。

 

 

 ▼

 

 

「……まあ、こんなものか」

 

 この結末を全く予期していなかった────と云えば嘘になる。だが、あまりにも拍子抜けだったのも事実だ。似た様な存在と戦った回数は数えるのも億劫になるほどあるが、これほど楽だったのは記憶にある限り初めてだった。

 

 先生はつま先で地面を軽く叩いて、下していた視線を持ち上げる。彼の眼差しの先にあるのは嘗てバルバラだったモノだった。バルバラを構成していた要素は全て邪龍と悪性情報に貪られ、今此処で死に体となっているのは人型ですらない爬虫類の成り損ない。辺りに散らばる肉片と骨、千切れた色素の抜けた髪、黒い布切れ、粘液がべったりと付いた銃火器。それだけがアレが確かにバルバラだった証明をしている。

 地面にぶちまけられた赤と紫の血は不格好なマーブルを描いて、その上には四肢も翼も尻尾も捥がれた成れ果て。首に当たる部分は三叉に別れようとして肉が蠢き、半分が消し炭になった頭部と眼窩から零れ落ちた眼球はまるで邪視かと錯覚するほどの憎悪で先生を刺し貫いている。肉体が砂になり、全ての輪郭が融け落ちる最後の一瞬まで。

 

 それを無感動に見届けた先生は「ふぅ」と張り詰めていた意識を解く様に息を吐く。それがスイッチとなったのか体にどっと疲れが押し寄せてきて、思わず壁に寄りかかってしまった。異界ではない、見慣れた合宿施設の壁。身を預け、数度深呼吸を重ねる。呼吸を整え、心臓を落ち着かせ、この世界に存在する感覚を取り戻し……そうして彼はヒフミ達の元へと歩き出す。彼女達と別れてから経過した時間は1分にも満たない。約束を違えていなくて一安心だ。一先ず、権能を行使した代償については考えない。少なくとも目に見えるものではないのだ。だから考えるのは……予想よりもずっと楽にバルバラを排除できてしまった理由について。

 

 主な理由は単純にバルバラ側の問題だろう。先生の前に現れた時点で自壊寸前で、最終的には爬虫類の成り損ないにまで堕ちたのだ。彼との戦闘中もずっと内側で鬩ぎ合いを繰り返し、悪戯にリソースを消耗していた。反撃や攻撃は殆ど条件反射で、知性など皆無。最終的に邪龍側が勝ったが、その時点で神秘は空っぽで肉体もボロボロ。だから彼も大して苦戦することなく楽に勝利する事ができた。自然で、理に適っている解。理由の9割はこれだろう。

 

 だが残り1割。バルバラの状態以外に別の要因があるとすれば、それは────。

 

「……私の問題か」

 

 大人のカードを介して行使できる権能の出力が向上している。より強い奇跡を行使できるようになっている。先生と謂う個体ができる事が多くなっている。

 勿論、これは喜ばしい事などではない。出力が向上した要因は恐らく……繋がりが強くなったから。救世主と謂う型に作り替えられ、父なる主の子という属性に染まっているから。

 

 行く所まで行けば、きっと大人のカードを使わずとも数多の奇跡を行使できるように成り下がるだろう。己の意志など何処にもなく、ただ奇跡を起こすだけの現象。或いは、神に全て塗り潰された残骸。

 

「そんなのは御免だね」

 

 そう言って、彼はいつか来るかもしれない未来を唾棄した。

 

 

 ▼

 

 

 セーフハウスを襲撃したアリウスの部隊は殆ど全滅状態だった。ハナコとアズサは先生との接続状態なのを活かし、アリウスの部隊を撃破。戦闘開始から20分が経過した時点でハナコは屋内の敵を片付け、アズサの担当である屋外も残り一人となっていた。

 

「この、裏切り者がッ!」

 

 夜を貫く怒声。何故お前が、と謂う憎しみ。

 兵士として使えるか、兵器として優れているかどうかだけが指標だったアリウスに於いてアズサは優秀だった。だから食料や水、衣類を優先的に補給されていたし、マダムからもそれなりの扱いをされていたはずだ。アズサは恵まれている。少なくとも他のアリウスの生徒達よりは。

 

 そんな恵まれているはずの彼女が、何故。

 

「何故だ、何故裏切った!?」

 

 その恵まれた立場を全てどぶに捨てるような真似をしたのか心底理解できない。彼女の立場は他の誰がどれほど望もうとも手に入らないものだ。八つ当たりで暴力を振るわれない安全。夜に凍えない暖かさ。錆びた水で腐った食べ物を流し込まなくてもいい安心。そのどれかを手に入れるだけでも難しいのに、彼女はその全てを保証されていた。

 

 だからこの憎悪の源泉は────持たざる者が持つ者に抱く嫉妬だ。

 

「絆されたのか!? 諭されたのか!? アイツらが吐く薄っぺらい希望に共感したのか!?」

 

 叫び、トリガーを引く。だが、アサルトライフルから吐き出された弾丸の全てはアズサに回避された。トリガーロック、一瞬の停止。その隙を突く様にアズサは撃ち返す。狙いは脳、首、心臓の人体急所。放たれた弾丸は狙い違わず直撃コースを描くが、少女が咄嗟に腕をクロスしてガードの態勢を取ったため意識を刈り取る事には失敗する。

 

 だが、リロードよりも防御を優先した時点でアズサの勝ちは揺るがない。アズサは最高速を維持したまま距離を詰め、ガードをすり抜けようとするが……突如、アズサと少女の間に手榴弾が現れた。ピンは抜かれている、ブラフではない。瞠目するアズサと怒りと憎しみに染まった少女、彼我の距離は1mもない。この距離で爆発すればお互いダメージを負う事は確定だ。

 

「ッ!」

 

 アズサは咄嗟に翼で急制動をかけて速度を殺す。そのままバク転をしつつ後退し、ついでに手榴弾を上空に蹴り飛ばした。数瞬後に空から聞こえる爆発音を意識の外に弾き出し、見据えるのはアサルトライフルを投げ捨て、ハンドガンとナイフを片手に距離を詰めるアリウスの部隊長。

 

「私達を裏切って、私達をずっと迫害してきたトリニティの奴等に付くのか!?」

 

 銀の軌跡が一閃、二閃と夜に溶ける。振り下ろされるナイフと後隙を消すように放たれるハンドガンを危なげなく回避。それを数回繰り返した後、アズサは少女のハンドガンを持っている方の腕を掴み……捻り壊した。肘と肩から人体の壊れる音が鳴り、破壊音に違わぬ激痛が少女を襲うが、その痛みで以ても怒りと憎悪は止まらなかった。

 

「答えろ白洲アズサァッ!」

 

 幾ら少女の怒りが強くても、憎悪が激しくても、気迫があっても、アズサとの力量の差は埋まらない。差が埋まらないから番狂わせは起きない。普段の冷静な少女であれば味方が全滅した時点で撤退するなり増援を待ちながら遅滞作戦を行ったりなどの判断は出来ていただろう。だが、脳が沸騰する程に強い感情に支配された少女にそれはできなかった。

 

 怒りを叫び、ナイフを心臓に突き立てようと走る少女。アズサはその突進をひらりと躱し、瞬時に地面に組み伏せる。脳天に銃口を定めたアズサはそっと言葉を紡いだ。己が生まれ育った場所を裏切り、苦しみを共にした同胞を裏切った理由……まだ少女には理解できない理由を。

 

「……守りたい人達がいる。私が此処に居るのは、それが全てだ」

「守りたい人だって? ふざけるな、お前にそんなものは無い! お前は私達と同じだ!」

「あぁ、そうだ。私とお前達は同じだ。それは間違いじゃない」

 

 かちゃり、とトリガーの金属音。その直後、マズルフラッシュが狂い咲いた。薬莢が落ちた後に残ったのはアズサと意識を失った少女。

 

「ただ、今回は私の勝ちだった。それだけだ」

 

 アリウスにとってアズサは裏切り者だ。立場も何もかも全てを投げ捨て、敵であるトリニティを選んだ大敵。アズサがそれを否定する事はない。先ほどの少女のように怒りを覚えるのも至極当然の反応だ。ただ、それら全てをひっくるめて────今回はアズサの勝ちだった。

 

 そして、戦闘終了のタイミングを見計らって一人の生徒が建物の影から姿を現す。

 

「……アズサちゃん」

「ごめん、ハナコ。待たせた」

「それは良いのですが……」

 

 建物の影から姿を現したハナコは何かを言おうか言うまいか、少しの間だけ口をもごもごとさせて……それから、その逡巡がまるで嘘だったかのように朗らかに笑った。

 

「いえ、何でもありません」

 

 アズサは頭の中に疑問符を浮べつつ、『ハナコが何でもないと言うなら』と気にしないで流す方向に舵を切る。

 

「では合宿施設の方に行きましょうか」

「うん……決戦だ」

 

 

 ▼

 

 

 どこかそわそわした心地。まだ時間的な猶予……相手が此方に辿り着いていないと分かってはいるものの、トリニティの命運が両肩にあるこの状況で落ち着くのは到底不可能だ。それはヒフミもコハルも同じで、スマホの画面を開いては閉じ、時間を確認する。その動作を両手の指では足りなくなる程に繰り返した辺りで、ガチャリとドアの開く音が聞こえた。

 

「あ、先生! おかえりなさい!」

 

 ドアを開けたのは2人の前から離れたあの時と何ら変わらぬ先生。彼は何時も通りにふわりと笑って2人の元に歩いて……その真横に立った。

 

「ただいま。突然離席しちゃってごめんね。状況は?」

「えっと、ハナコちゃんとアズサちゃんが此方に向かってるそうです!」

 

 その言葉に先生は少しだけ驚きを覚える。想定よりも早いのだ。アズサとハナコの目的は主にナギサの安全確保、セーフハウスに展開しているアリウスの戦闘部隊の撃破。安全確保が上手く行ったのか、部隊の撃破が楽にできたのか。その理由は分からないが、時間が早まる分には何ら問題ない。寧ろ此方側に余裕が生まれるため大歓迎だ。

 

「うん、分かった。なら私達もそろそろだね」

 

 彼がそう言うと、2人も気を引き締めて「はい!」と勢い良く返事をする。

 

 ────合宿施設、トリニティ本校舎への同時侵攻まで、残り20分。

 

 

 ▼

 

 

「ここがターゲットの居場所か」

「はい。恐らく裏切り者も此処に……」

「信憑性は」

「情報班からの情報です。ドローンで進行ルートでも割り出したのでしょう」

 

 アリウスの部隊……今回の本命とも言える彼女達は補習授業部が使用している合宿施設の前まで辿り着いた。どの部屋にも明かりは確認できず、音も聞こえてこない。だが、寝ているとは思わない。アズサが襲撃の件を共有しているはずなのだ。だから考えられる択は2つ。既に蛻の空か……若しくは待ち構えているか。

 

「報告です。トリニティ本校舎側も展開が完了したようです」

「分かった。では各員、装備を確認しろ」

 

 2人組になり、装備を確かめ合う隊員達。仕込まれた戦闘行為。子守歌よりも身近なもの。それを終えて、いつでも誰かを殺せるようになると全体の指揮を任されている少女が口を開く。

 

「私達の目標はシャーレの先生の殺害だ。あくまで最優先はシャーレ、白洲アズサ(裏切り者)の処分は目標の処理が完了した後に行う」

 

 アズサを放置すればアリウスの事が露呈してしまうため無視はできない。だが、あくまで最優先すべきはシャーレの先生だ。彼を生かしておくわけにはいかない。アズサを処分するのは彼を殺し終えてから。無論、何方も逃がすつもりはないが……優先順位をつけておかないとどこで足元を掬われるか分からないのだ。

 

「念のため、別動隊の作戦も共有しておく。トリニティ本校舎側の目標は内戦を勃発させて戦力を消耗させる事だったが、セーフハウスで桐藤ナギサを殺し損なった影響で変更された。現在の目標は桐藤ナギサの捜索及び殺害、百合園セイアの殺害だ」

 

 指揮官の少女は「だが」と言って、先ほど受け取った情報を共有する。

 

「桐藤ナギサを取り逃した影響でトリニティ本校舎側の作戦にイレギュラーが発生する場合がある。本校舎側でイレギュラーが発生した場合でも、私達のやるべき事は変わらない。桐藤ナギサよりもシャーレの先生を優先する。最悪、トリニティ本校舎側の作戦を中止してでもシャーレの先生は此処で仕留めろ、と謂うのがマダムの意向だ。私達も情報は随時流す。もしかしたらトリニティ本校舎側の部隊と合同で此処を攻め落とすケースがあるかもしれないと謂う事を頭に入れておけ」

 

 そうしていると、作戦開始まで1分となる。60を刻んだその後、アリウスの作戦────その第二段階が開始された。

 

「では作戦開始────各員、散開しろ」

 

 伝令の後、合宿施設を包囲するように音もなく駆けていくアリウスの生徒達。

 

「侵入経路を確認。場所は正面玄関。施錠はされているが、解除は容易。窓は全てシャッターが下りている」

『此方も裏口に侵入経路を確認しました。ですが、此方は扉がバリケードで塞がれています』

「バリケードは突破できるか?」

『爆発物か特殊工具を使用すれば』

「正面入り口は罠だ。裏口から侵入する。工作班は裏口に向かい、バリケードを解除しろ。可能な限り爆発物は使うな。騒ぎになるのは避けたい」

『了解。突破は5分で済ませます』

「では私達は正面から侵入し陽動を担当する」

 

 言い、少女は力ずくで施錠とチェーンロックを捩じ切ってドアノブを押し込むと────。

 

「だと思った」

 

 カチ、と機械音が鳴る。それに疑問を覚える暇もなく、扉ごと爆発で吹き飛ばされた。ワイヤートラップ。古典的な罠だが、必ず使わなければならない機構に連動させるとそれは回避不可能の必殺となる。扉の近くにいた2人を纏めてノックアウトしたが、その程度でアリウスの部隊は怯まない。即座に体勢を立て直し、お返しとばかりに手榴弾を扉の中に投げ込もうとするが────その手榴弾は狙撃で射貫かれた。そして、運悪く火薬に着火してしまい手元で爆発が起こる。これで更に人数が減る。

 

「シールド持ちはシールドを展開しろ! 内部に突入する!」

 

 爆炎を突っ切り、内部に侵入するアリウスの部隊。黒い煙が辺りに立ち込める悪視界の中、少女達は血眼になって敵を探すが────先手を打っているアズサにとって、それは隙以外の何物でもなかった。

 

「なッ……!」

 

 ロビーに足を踏み入れた少女達が黒い煙の次に見たのは猛スピードで投げつけられた3人掛けのソファーという質量兵器。認識したその時には回避不可能な詰み状態、フレームが圧し折れる音が聞こえ、頭部に直撃した一瞬で昏倒した。

 だが、これで終わりではない。衝撃で生地が破れたソファー、そこから零れたのは綿などではなく雷管と爆薬。アズサの遠隔起動によりそれは炸裂し、入口近くに陣取っていたアリウスの生徒を一網打尽にした。

 

『工作班より報告、バリケードにC4(プラスチック爆弾)が仕込まれていた! 意識不明2名、負傷3名!』

『チームⅨ、ドローンと交戦中! あぁ、クソ! なんで裏切り者がドローンなんて……!』

『クレイモアだとッ!?』

『なんだこれ、ビニール袋……? いや、違う。IED(即席爆発装置)────!』

 

 インカムから聞こえる爆発音は更に増し、対して先にいるはずの人物の物音は聞こえなくなる。全ての爆発音が止んだ後には嫌な静寂とノイズだけ。

 

「……全滅、か」

 

 相手がゲリラだと思って甘く見ていた。大した装備も無い、弾薬すら惜しまなければならない状態だと侮っていた。その慢心の結果がこれだ。相手がたった一人でも、孤立無援でも、油断するべきではなかった。何せ、彼女は元スクワッド所属。アリウスの頂点に立つ特殊部隊に居たのだ。

 

「残存している部隊は正面入口前へ集合、再編成後に再び突入する」

 

 油断も慢心も木っ端微塵に粉砕された。先ほどの醜態は甘んじて受け入れよう。だが、撤退は許されない。必ずシャーレの先生を抹殺する。

 

 

 ▼

 

 

 ロビーの柱、その陰に隠れていたアズサは一旦退くアリウスの部隊を見届けてハンドサインを送る。送り先はアズサの1つ奥の柱に隠れていた生徒────コハル。彼女は軽く周囲を確認し、駆け足でアズサの元へと駆け寄った。

 

「良い援護だった、コハル」

「と、当然でしょ! だって私は正義実現委員会のエリートだから!」

 

 先程の手榴弾を射貫いた狙撃はコハルによるものだった。悪視界をものともしない正確無比な射撃はエリートと称しても尚足りないほど。コハルがあれを撃ち抜いたからからこそ、アズサが次の一手で一網打尽にする事ができた。MVPと言っても過言ではないだろう。

 

「相手が立て直している間に此方も一旦退こう。第二段階だ」

 

 アズサとコハルは頷き合い、ロビーを飛び出し廊下を掛ける。駆け抜けた場所に仕掛けたトラップは全てアクティブにして、敵が無事に通れないように。

 

 そうして愛着の湧いた合宿施設をトラップの坩堝に変貌させつつ、コハルを体育館へ先行させる。アズサは時折足を止めて振り返り、グレネードを投擲したり銃弾をばら撒いて追手の数を減らしていった。その攻撃とお手製のトラップとの相乗効果は絶大、トラップ処理を目的とした先行部隊は全滅し、後続の本命もほぼ半壊状態となっていた。そんな状態になって漸く、アリウスの部隊はアズサとハナコの姿を見る事ができた。

 

「……成程、かなり減りましたね。流石はアズサちゃんです」

「うん、だけど……もう少し減らしたい。手伝ってくれ、ハナコ」

「ふふっ、勿論です♡」

 

 固い信頼を思わせるやり取りを交わし合い、2人は構える。ハナコの真横には闇夜に溶け込むような黒いドローン、報告にあったもの。

 

「……手こずらせてくれたな、白洲アズサ。ターゲットは何処だ」

「答えると思うか?」

「答えないなら力づくで答えさせるまでだ」

 

 言い終わるや否や、銃口を跳ね上げるアリウスの部隊員達。刹那、銃撃が開始され辺りに弾丸がばら撒かれる。その弾丸を防ぐのは電磁シールド搭載のドローン。C&C、コールサイン04(ゼロフォー)のトキが使用していたドローンの改良機であるそれは性能実験と称してヒマリが先生に渡したものだった。

 その防御性能を信頼し、2人は奥へ退きつつ頭数を減らすべく銃撃を行う。1人、2人と落としていき、2人は更に奥へ。誘い込まれている、とアリウスの少女達は考えるが……この先は体育館しかない袋小路と割れている。故に罠の危険性も十分に考慮しつつ、最大限警戒して慎重に足を進めた。

 

 重たい音を立てて開かれる扉。合宿施設の設備とは思えない広さを持つ体育館、その中央には補習授業部と────。

 

「やぁ、こんばんわ」

 

 月光を浴びる白装束。宙を映したかのような蒼い光を携える瞳でアリウスの生徒達を見つめる大人。透明で、透き通っていて、空虚。この世界の異物。間違いない、彼こそがターゲットだ。

 

「お前は、シャーレの……」

「そうだよ。君達の抹殺対象(ターゲット)さ。初めまして……でいいかな?」

「生憎、これから死ぬ人間と挨拶を交わす趣味はない……抵抗しないなら楽に殺してやる」

「優しいね。でも、まだ死ぬ訳にはいかないから遠慮しておくよ」

「……たった4人でどうにかなるとでも?」

 

 先生個人に戦闘能力が無い事は周知の事実。だから最も警戒すべきなのはアズサ、次点で補習授業部の3人だ。たった4人の戦力かつ開けた場所で、5倍以上の戦力を持つアリウスの部隊を相手にできるとは思えない。しかも、これから増援が来るのだ。まず間違いなく負けない、そう断言できるはずなのに────。

 

「それはやってみないと分からないさ」

 

 この大人ならそれを覆してしまえるかもしれない。そんな嫌な予感が脳裡に過ってならなかった。

 

「ヒフミ、ハナコ、アズサ、コハル────行こうか」

 

 その声に、その信頼に4人は強く頷き、互いに顔を見合わせる。そして、ヒフミは心の底から全身全霊で叫んだ。全ては────皆でハッピーエンドを迎えるために。

 

「補習授業部、出撃ですッ!」

「おーッ!」

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