シャーレ活動備忘録 作:遊園市街
感想評価お気に入り登録誤字報告が私の生きる糧でございます。
「いやぁー! ゴチでしたー、先生!」
「ご馳走様でした」
「うん。お陰様でお腹いっぱい」
先生が6人分の会計を済ませた頃には、既に太陽は地平線に沈んでいた。茜色から藍色に変わり始めた空の下、食事によって少々膨らんだお腹を摩ってホシノは先生にお礼を言う。シロコもホシノと同じ程度に膨らんだ腹部を満足そうに撫でる。
ノノミとアヤネは2人より食べる量は少なかった為、ボディラインに大きな変化はない。だが、彼女達は先生と共に食事をできた事に大きな充足感を覚えていた。
律儀にも6人を出入り口まで見送りに来たセリカは顔を真っ赤にして、忌々しそうに顔を歪める。その後、気丈に睨みつけて。
「早く出てって! 二度と来ないで! 仕事の邪魔だから!」
「あはは……セリカちゃん、また明日ね……」
「ホント嫌い! 皆死んじゃえー!」
「あはは、元気そうで何よりだねぇ〜」
そう言って笑うホシノの表情は心底楽しそうだ。悪戯が成功したような、思惑が上手くいったような。
先生はセリカの方を向いて──────ふわり、と笑う。まるで天使の羽が落ちた様なそれを浮かべて。
「また来るね」
「もう来るな!」
そう吐き捨てたセリカは引き戸を勢いよく閉めて、この傍迷惑な客達をシャットアウトした。最後まで怒っていたセリカを思い──────少し揶揄いすぎたかな、と先生は反省する。
「随分と嫌われてしまったよ」
「んー、そうでもないと思うよ? ただ、心が追いついていないだけ。それにあの言葉は全部照れ隠しだし……頑張ってる姿を見られるのが恥ずかしいんだ」
優しい目で語るホシノ。後輩を心の底から慈しんでいる事がよく分かる、彼女らしい瞳と声音は夜空になりかけた空に響いた。
よく似ていると思った。セリカとホシノは性質の一部が酷似している。努力を見られたくない所、多くを抱え込む所、責任を重く受け止めている所。セリカがホシノの背を見続けてきた事──────それがよく分かる類似点。
この事を言うと、きっとホシノは照れながら笑うんだろうな──────そう思った先生はくすり、と笑って。
「あぁ、分かっているさ」
彼の返答に満足したのか、ホシノはいつもの弛んだ笑みを浮かべて──────「ねぇ」とワンテンポ置いて話題を切り替えた。
「先生。ずっと気になってたんだけどさ〜」
ホシノは金銀妖目で、彼の隣に陣取っているワカモを見た。視線に気づいたワカモもまた、仮面に隠された煌びやかな金眼でホシノを見る。交差する視線はあまり友好的とは言えない温度。銃こそ抜かないものの、込められた敵意は弾丸の代わりになり得る。
ワカモは自身を鋭い視線で射抜いている彼女が『暁のホルス』だと気づいていた。アビドスにまだ残っているとは思わなかったが──────随分丸くなった。堕落した、と言えるほど。だが、それは表面だけで皮一枚剥がせば冷徹な少女が覗くだろう。
彼は「あぁ、紹介してなかったね」と言って、ワカモの目を見る。こくり、と彼女が頷いたのを確認して──────先生は紹介を始めた。
「彼女はワカモ。狐坂ワカモ。私の大切な生徒だよ」
──────そして先生と秘密を共有している現状唯一の生徒。更に、彼の計画とその真意まで知っているのだ。間違いなくキヴォトスの中で最も彼を深く知る人物であると言える。彼女に及ぶのは聖園ミカ、空崎ヒナ程度であろう。
アヤネはその名前を聞いて、少し考えるような素振りをする。何処かで聞いたことがある名前だと思ったのだろう。脳内のライブラリを検索し──────ヒットした。そして、サッと引く血の気。彼女は愕然とした表情で、先生の隣にいる少女を見た。
「狐坂ワカモ……!? まさか、災──────」
「それ以上はよして下さいな。この方の前で、あまり物騒な名前を呼ばないで頂きたいですわ」
牙を隠し、冷えた温度の言葉で釘を刺す。彼の面前であるため撃つ真似はしない。そんな事をすれば、彼が悲しんでしまうから。その脅しが効いたのか、アヤネは黙って首肯し──────ワカモは微笑んだ。聞き分けのいい人は嫌いじゃない。
「ワカモはシャーレ所属予定の生徒で、こうして私の側で護衛とかやってくれているんだ。今日は彼女と会う用事があったから、午後は席を外していたんだよ」
便利屋との面会を終えた彼はワカモと落ち合ったのだ。数日振りの再会をワカモは心待ちにしていて、彼もまた同様に会える事を喜んだ。お互いの近況報告を行いながらシャーレへ向かい……
全ては、全能の一端と対峙する運命にあるため。コートの内ポケットに数本汎用性に優れた薬剤を忍ばせているが、彼は足りないと判断した。彼女達と共に前線上に立って命を張るには。
「狐坂ワカモですわ。アビドスの皆様の事は、先生から伺っております」
それ以上の自己紹介は不要、と言わんばかりにワカモは口を噤む。彼女は先生以外に多くを語るつもりはないのだろう。彼女が此処へ来た目的は、アビドスの生徒と友達になるためではないのだから。
「まぁ、よろしくね〜」
「えぇ……」
互いに『妙な真似をしたら撃ち抜いてやる』と思って簡易的な挨拶を交わす。銃口を喉元に突きつけ合っている様な最悪の雰囲気。
先生はこの段階でワカモとアビドスを引き合わせた事に後悔した。最低でもワカモの指名手配が解除されたと公になるまでは──────彼女の存在を伏せるべきであった。
だが、もう後の祭りだ。せめて此処から更に状況が悪化しない様にしなければならない。ワカモに殺意を収めるようにアイコンタクトしつつ、彼は「そういえば」と切り出した。
「今日はこれでお開きかい?」
「ん〜、ま、そうだね。ご飯も食べたし、今日はもう帰ろっか? おじさんも眠くなってきたし〜」
ホシノは可愛らしい欠伸をして、目尻に浮かんだ小粒の涙を指で拭う。ワカモに続いてホシノが矛を収めてくれた事により、場の殺意が和らいだ。先生はそっと胸を撫で下ろす。
尚、先生はホシノが一日何時間寝ているのか気になったが、またの機会に聞こうと思った。今聞いても適当にはぐらかされるだろうから。
「ん、じゃあ私は先生を送ってく」
「は? 私がいるので必要ありませんが?」
「私もご一緒しますね!」
「ご一緒しないでくださいますか?」
涼しい顔で先生を見るシロコ。楽しそうな顔のノノミ。彼女達を忌々しそうに見つめるワカモ。一度収まった筈の火種が割とくだらない理由で再燃し、戦場になりかけているのを見て先生は。
「……きれいなそらだなぁ」
「先生!?」
現実逃避をした。
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「お疲れ様でしたー!」
何時もの制服姿に着替えたセリカは頭を下げて、挨拶をして店を出る。アルバイトを終えた時間は午後10時を過ぎた頃。帰路の街灯は疎らであまり見通しは良いといえない。人通りは全くなく、シャッターがされた店舗が点在しているだけ。
春といえど夜は冷え込む。確実に気温は一桁だろう。制服だけではさすがに寒く、アウターを持ってくればよかったとセリカは後悔した。
「はぁ……やっと終わった。目まぐるしい一日だったわ」
誰の耳にも届くことはない呟きは疲労に塗れていた。1週間という時間はバイト先に慣れるには短く、セリカ自身が自覚できていない負担になっている。環境が変化したことによるストレス。特に、学校生活での変化は彼女が望まない変化であり、タイミングも急であった。
「皆で来るなんて……騒がしいったらありゃしない。人が働いているのに、先生先生ってチヤホヤしちゃって。ホント迷惑。なんなのアレ。先生だって流されっぱなしで……」
バイトの愚痴を言いながら足早に進む。先生をチヤホヤするアビドスの面々にも、それに流されっぱなしの先生にも苛立ちを覚えている。今日なんて見るからにヤバそうな着物の生徒を連れていたのに、何故あそこまで信頼しているのだろうか。
「……ふざけないで。私がそう簡単に認めると思ったら大間違いなんだから」
虚空をキッと睨みつけて、宣言する。
そう、まだ認めない。認められない。まだ、認められるような段階まで……心が追い付いていないのだ。
それから彼女は大きな溜息を吐いて、再び自宅に向けて歩を進めた。
「……」
それを見つめる、影2つ。
「あいつか?」
「そうです。アビドス対策委員会のメンバー、黒見セリカ」
フルフェイスのヘルメットに学校指定の制服という奇妙ないでたちをした彼女達は、つい先日アビドス対策委員会が撃退したカタカタヘルメット団の一員。
「準備はいいか? 次のブロックで捕獲するぞ」
アビドスの夜闇の中で、
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「……ふぅ……」
溜まった疲れを吐き出すように息を吐くと、セリカは足を止めた。過疎化が進んでいるアビドスは郊外から少し離れるだけで廃墟が点在するゴーストタウンに切り替わる。セリカが佇んでいるこの通りもゴーストタウンの一部で、砂漠化の煽りを受けて無人になっていた。聞こえる音は虫の鳴き声と砂が流れる音だけで、人々の生活音は皆無。世界から取り残されたような街をセリカは眺めていた。
「……そういえば、この辺も随分人がいなくなったなぁ。前はここまでじゃなかったのに」
テナントビル、店舗、民家、マンション。数年前までこの場所で人々が生活を営んでいた証。その残滓を砂漠が飲み込み喰らっていく。人は天に勝てない、そんな当たり前の話。
「治安も悪くなったみたいだし……」
ビルの看板等にはスプレー缶で落書きが施されている。縄張りの主張なのか、自己顕示欲によるものなのかは分からない。セリカは不良の生態には詳しくないのだ。
「このままじゃ駄目。私達が、私が頑張らないと……そして、学校を立て直さないと……」
この惨状の原因は天災に加えて、アビドスの力が弱まったことが挙げられる。如何に神秘を持つキヴォトスの生徒であっても砂漠そのものはどうしようもない。だから、学校に力を取り戻させて散り散りになったアビドスの生徒達を学校に呼び戻せば──────また、この場所が活気に溢れると信じている。
「取り敢えずバイト代が入ったら利息の返済に充てて──────」
「おい」
不意に、声を掛けられた。
声の主を視認するため慌てて振り向こうとして──────高速で飛来する弾丸で撃たれた。
「……ッ!」
痛みで蹲るセリカ。使用された弾丸は対物ライフルなどに使用される.50BMG弾。不意打ちを食らい、膝を突きながらも──────視線に込められた戦意は燃えている。
「カタカタ、ヘルメット団……!」
咄嗟に銃を引き抜き、
最悪、とセリカは心の中で吐き捨てた。
「黒見セリカだな」
「……だったら何よ。あれだけボコボコにされて、まだこの辺りをうろついてるの? もしかして馬鹿?」
「……」
ヘルメット団は何も答えない。セリカを押さえつける力が僅かに強くなった程度で、それ以外の変化はない。
セリカは視線を必死になって動かして、状況理解に努める。先ほど彼女を撃ち抜いた狙撃手の姿は当然見えない。彼女の後方には8人の気配。そして……闇夜に鈍く光る鋼鉄の兵器が見えた。
それはFlak41改。88mmの対空砲。用意している、という事は使う気だったのだろう。こんな場所で砲撃するつもりだったなんて正気の沙汰じゃない。
狙撃手を含めて最低でも11人、それに加えて対空砲。あまりの過剰戦力に絶句していたセリカは、眼前の不良を睨みつける。
「何が目的なの」
「お前が知る必要はない……落とせ」
その号令に従い、セリカを組み伏せていた不良は彼女の顔にスプレーを噴射する。咄嗟に目を閉じ、呼吸を止めたが僅かに吸い込んでしまったようでヘイローが点滅する。
──────不味い、意識が……。
スプレーの中身が空になった頃、そこには倒れ伏したセリカがいた。ヘイローが消えているため意識はない。呼吸に伴い僅かに上下するだけで、それ以外の動きの一切を見せない。
「続けますか?」
「いや、生かさなければ意味がない。この程度でいいだろう。車に乗せろ。ランデブーポイントへ──────」
「少し待ってほしいな」
まるで友人に声を掛かるような声音が、不良達の背から響いた。靴底がひび割れたコンクリートを叩く音が闇夜に反響して、不良達は息を呑む。
脅威はない。殺意はない。悪意はない。敵意はない。凡ゆるマイナス感情が皆無なのが逆に恐ろしかった。
連邦生徒会を示す純白のコートと施された青い刺繍、腕章。中に着ているスーツは一部の隙も無い黒一色。瞳は蒼穹色。発光するような青は闇夜によく映えている。
「こんばんわ、良い夜だね」
先生はヘルメット団の生徒達に微笑んだ。
感想へのリンク
以下、拙作のプロットに関する作者の戯言が記載されています。興味がある方以外は読み飛ばしてくださいませ。
プロットは浜で死にました。享年2ヶ月くらいでした。一応齟齬なく組み込める範囲ではあったものの、考えていた細かい設定が死んだので、折角ならとプロットを組み直してきました。まだ詳細を詰めていないためここから微調整は入ると思いますが大まかな流れとしては、
アビドス対策委員会1章
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アビドス対策委員会2章
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幕間(ゲヘナ、アビドス、ミレニアム)
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パヴァーヌ後編(前編はダイジェスト的な感じで)
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幕間(トリニティ)
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エデン条約編1章
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エデン条約編2章
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アビドス、トリニティ、ゲヘナの夏休み
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エデン条約編最終章(3章、4章複合)
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カルバノグの兎編1章
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百鬼夜行、レッドウィンター、山海経のイベストを幾つか
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あまねく奇跡の始発点1章
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あまねく奇跡の始発点2章前編
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F.SCT攻略戦
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あまねく奇跡の始発点2章前編
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最終章 其は、
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エピローグ あの空で逢えるから
多分こんな感じで進みます。来年で終わるか、これ……と頭を抱えていますが何とか頑張って終わらせます。
ブルアカのメインストーリーは終わらないと思っているため、拙作における「だいたいコイツのせい」枠は今後のことも考えて未登場のまま残しておくか……? と考えましたが、最終章で元凶ぶん殴らないでいつ殴るんだ? となったので出します。
2章の後半を読んで、更に変更の必要があった場合は似たような話を今後のお話の後書きに乗せると思います。これ以上プロット破壊されたら死んじゃう^〜。