シャーレ活動備忘録 作:遊園市街
「よ、漸く終わりました……つ、疲れましたね……」
「うん、途中からは暑さとの戦いだった。夏の日差しはやはり侮れない……」
「汗でベトベト……後でシャワー浴びてこないと」
「ふふっ、私もご一緒しますね♡」
ビーチパラソルやテント、レジャーシートなどを設置し終えた少女達は額に浮かぶ汗を拭く。生徒達の身体能力なら設置自体は全く以て問題ないが、暑さについては話は別だ。暑さや寒さ……気温の受け取り方は生徒達も先生と大差ない。先生が暑ければ生徒達も暑いのだ。
無論、生徒達の極限環境への耐性は先生と比較にならない程度に高い。だが、暑いものは暑いし、暑ければその分体力も消耗する。アズサの言う通り、途中からは暑さとの戦いだった。
皆は「はぁ」と熱された息を吐く。一番大変なのは最初の準備と、最後の片付け。大仕事の内の片方が終われば、後は最終日まで楽しい時間が続く。つまり、これからが本格的なサマーバージョンというものだ。
胸の内側に走り始めた期待感と躍動を噛み締め、ヒフミはいつもよりも大きく声を上げる。今此処に居るのは補習授業部だけではないのだ。
「皆さん、ありがとうございました! 皆さんのおかげでスムーズに進みました!」
「お礼を言うのは私達の方よ、ヒフミ。ヒフミ達が先に準備してくれたお陰でテキパキやれたわ」
ぺこり、と頭を下げるヒフミにユウカは優しく笑いかける。同じ参加メンバーである以上協力するのは当然で、補習授業部が先に準備してくれた事こそお礼を言うべきなのだと。しっかり者のユウカらしい言い振りに「そ、そうでしょうか……?」とヒフミが笑みを零せば、砂浜を踏む足音が一つ近づく。
「私からもお礼を言わせて。ありがとう、ユウカ」
汗で塗れた前髪を乱雑に掻き上げた先生は両手いっぱいのスポーツドリンクの内の一本をユウカに手渡しながら軽く笑みを浮かべていた。そのまま彼はヒフミ達にも「補習授業部の皆もお疲れ様、ありがとう」と、同じ要領でドリンクを手渡す。手渡しに拘っているのは非効率的と言うべきか、先生らしいと言うべきか。
そんな彼を横目で見ながらキャップを開けて傾けると、喉元からすっと体温が下がっていく感覚がした。「ふぅ……」と息を吐き、ユウカは端的な感想を述べる。
「見てるだけで暑苦しくなる格好ですね」
「第一声がそれは酷くない?」
夏の浜辺に長袖のシャツとスラックスは流石に場違いという自覚がある先生も「まぁ、否定はしないけど」と苦笑い。確かに、こんな格好の人が近くに居ればそれだけで暑くなりそうだ。『早めに着替えて来よう』なんて一つ思えば、心配そうに覗き込むユウカと眼が合った。
「熱中症には気を付けてくださいね」
「ユウカもね」
「そんな格好の人に言われても説得力ないですよ」
ユウカはそう言い、冗談っぽく微笑んだ。水着のユウカとオフィスからそのまま出てきたかのような先生、どちらが先に熱中症になるかなんて答えは明白だ。他人の心配をするよりも先に自分の心配をしてください、と言外に正論をぶつけられた先生は微笑を浮べる。ユウカの笑顔を見たのは久しぶりだったような気がした。彼女には心配ばかりかけて、迷惑ばかりかけて、その優しさにつけ込むように甘えてばかりで……悲しませてばかりだったような気がしてならない。
「先生は水着じゃないんですか?」
「今はね。後で着替えてくるよ」
先生は「本当は着るつもりなかったんだけどね」と言う。普段は肌の露出がほぼ皆無な先生の、水着姿。気にならないと言えば噓になるし、彼に水着を着ろと言った誰かさんには最大限の賛辞を送りたい。
────と、彼の水着の話は一旦置いて。ユウカは本題に切り出そうとする。この合宿最大の勝負ポイントにして、女の子にとって至上命題とも呼べる事項。彼の返答によってこの合宿中の気分……いや、今後3週間くらいの気分が左右される。無論、避けては通れない道だ。この日の為に色々と悩んだし、体を絞ったりした。だから、その成果を彼に聞くだけ……頭ではそう思っているが、心の方はまだ追い付いていなくて。数度の深呼吸を挟んだのち、ユウカは「……それで」と後ろで手を組み、少し恥ずかしそうに呟く。
「どう、ですか?」
「どうって……あぁ。良く似合ってる、可愛いよ」
あっさり。さらりと息を吐く様に彼はそう言う。黒のビキニタイプの水着はユウカの大人っぽいイメージにぴったりで、とても良く似合っていて、可愛らしかった。虚飾も嘘もない本心からの言葉はユウカの乙女心に容易く入り込んだ。
その喜びを咀嚼できていない内に、彼はクーラーボックスを肩に掛け、踵を返した。
「じゃ、私は皆に飲み物渡してくるよ。折角の機会だし、思いっ切り羽を伸ばしてくれると嬉しいな」
「良かったですね、ユウカちゃん。可愛いって言ってもらえて。ふふっ、凄くいじらしくて、愛らしかったですよ」
「の、ノア! 揶揄わないで! もう……あー、顔熱くなってきたじゃない……」
「にはは! 顔真っ赤ですよユウカ先輩!」
嫋やかに微笑むノアと、からからと笑うコユキ。彼女達も水着を着ていて、ノアは白のパレオタイプ、コユキは白ベースにピンクの差し色が入ったワンピースタイプ。この日の為に3人一緒に選んだ水着。冷えた顔を覚ますようにペットボトルを当てながら、ユウカは彼女達をジト目で眺める。
「……ノアとコユキは先生に感想貰わなくて良かったの?」
「私は昨夜先生に写真を送ったので、その時に欲しい言葉はいただきました」
「私は着いた時に言ってもらったので大丈夫です!」
なんだかノアからとんでもない爆弾発言が聞こえた気がするが、きっと気のせいだろう。前日の夜に水着を着て、その写真を先生に送るなんて破廉恥な真似を、あのノアがやるはずがない。だから先程の発言はきっと幻聴だ。波の音や風の音が偶々そう聞こえただけに過ぎない。やはり疲れているのね、なんてユウカは自己完結をすると……ノアは海を眺めながら、ぽつりと此処に居ない人について呟く。
「……リオ会長もいらしてくれると良かったのですが、贅沢は言えないですね」
「そうね……今もまだ行方不明だし。一応、先生やネル先輩とは連絡を取っているみたいだけど」
「また来年来ればいいじゃないですか。その時はリオ会長も一緒で!」
「リオ会長は来年……いえ、そうね。また来年があるものね」
来年、リオはミレニアムから卒業する。卒業して自分の道を進む。先輩後輩という関係性ではなくなる。その時、どうなっているかは定かでない。『セミナー所属という関係性も無くなったのだから、無理に仲良くする必要は無いわ』なんて言われてしまうかもしれないが……そうでない可能性もきっとあるだろう。だから、また来年。次の夏に誘ってみよう。今度こそ、皆揃って思い出を作れるように。思い返せば、セミナーの全員が揃って遊んだことなんてなかった。コユキは反省部屋の住人で、リオは余計な交流を好まない。故に遊ぶとしてもユウカとノアの2人の事が多かった。
だが、今は変わった。コユキの問題行動も依然と比較すれば少なくなり、リオも徐々に外部との交流を増やしている。だから、もう少し時間が立てば、きっと。
将来の展望に思いを馳せていると、ノアの視界に桃色の髪が踊った。ふと見ると、そこに立っていたのは見覚えのある白いシャツを着た少女。彼女は確か、トリニティの補習授業部なる部活に所属していた────。
「生塩ノアさん、でしょうか?」
「貴女は浦和ハナコさんですね。私に何か……?」
「……」
2人の少女はこれが初対面だ。シャーレの当番で会った事も無く、当番のシフトなどで名前を見かけた程度。顔と名前、所属以外に把握している事など皆無だ。
そんな初対面のはずの少女達は互いの顔をじっと見つめ合う。まるで達人の間合いかのような、妙な緊迫感を伴う空気が数秒流れたのち……緊張が霧散し、少女達は同じタイミングで笑みを浮かべて握手を交わした。
「ふふっ。仲良くしましょう、ハナコさん。何やら、とても波長が合いそうですね」
「えぇ、こちらこそ。ノアさん。お互い、色々と積もるお話がありそうですね♡」
────この握手が交わされた瞬間、炎天直下だというのに先生は背筋に寒気を感じたらしい。過剰なまでの戦闘経験で研ぎ澄まされた第六感が窮地を知らせるかの如く、先生に何かを伝えたのだ。具体的に『何』であるかは不明なものの、悪意や敵意は全く無く、純粋な好意によって引き起こされる物らしい。
「ミチル達は忍者だと先生から聞きました! アリスも忍術を使ってみたいです!」
「ふっふっふ……忍者の道は一日にしてならず。修業は厳しいよぉ?」
「ジョブを極めるのには厳しい道が付き物です! アリス、頑張ります!」
「……ねぇ。アリスちゃん、
「ダメだよ! アリスは
純真無垢、天真爛漫を体現したかのようなアリスに一瞬で心を奪われてしまったミチルは、冗談混じりで忍術研究部に勧誘するが、当然の如くゲーム開発部がブロック。絶対に渡さない、と言わんばかりのブロックにミチルは「ダメだった~」と初めから分かっていた落胆をした。折角見つけた忍者に興味津々の子だったのに、とは思うが、興味を持ってくれただけでも嬉しかった。忍術研究部を、自分を、仲間達を笑わないでくれて本当に嬉しかった。
「初めまして、アコ行政官。お噂はかねがね」
「初めまして。ハスミさん……えぇ、本来ならばあの会談で顔を合わせるはずでしたが、既にいらっしゃらなかったので」
「……あまりにも品位が無い歓迎に加え、侮辱をされましたので。やはりゲヘナは野蛮ですね」
「此方が用意した会場で発砲したハスミさんほどではありませんよ」
和気藹々とした雰囲気が広く横たわるこのビーチの中で、此処だけが別次元のように空気が重かった。アコが皮肉交じりで破談になった会談を話題に上げれば、ハスミも同じように皮肉を交えて投げ返す。正に売り言葉に買い言葉で、会話のラリーが続くごとにどんどん坂道を転がり落ちるように雰囲気が悪化していく。いつ銃撃戦になってもおかしくないほどに最悪の空気の中、その傍らに立っていた委員長達は眼を会わせて軽く会釈する。ヒートアップしているのは副官達だけで、ヒナとツルギは至って平常運転だった。
「……ごめんなさい。後で言っておくわ」
「……いや、こちらこそ済まない。それに、あの会談を潰したのは私達だ。修繕費や賠償の請求は承る」
「構わないわ。あの程度の破壊、こちらでは日常茶飯事だもの。元を正せばハスミ副委員長を侮辱したマコトが悪いから」
「……そうか。お互い、気苦労が絶えないな」
「えぇ、本当ね……この合宿くらい、羽を伸ばしたいものだけど……」
片や混沌と自由を肯定する校風の中で、秩序の維持に心血を注ぐ風紀委員会の委員長。
片や様々な派閥が入り乱れ権力争いが絶えない学校の中で、正しさを志す委員会の委員長。
どちらも気苦労が絶えず、学内では様々な事に気を配らなければならない。現在進行形で争っている副官を含め頼れるメンバーはいるものの、何だかんだ問題の種は絶えず。その上、今後結ばれるエデン条約についても重要なポストに付いているため、現場仕事だけでなく書類仕事も絶え間なく降りかかってくる。互いに治安維持機構のトップかつ常識人という事もあり、苦労やら何やら共有できる部分が多い。端的に言って、普通に友達になれそうだった。
「アコ、そこまで。彼女達はこれから協力し合う相手よ。無意味な対立を生まないで」
「ハスミもそこまでにしておけ」
これ以上は不毛だと思った2人は頼れる副官を制止する。エデン条約でもシャーレでも協力し合う間柄なのだ。関係性を悪化させるより仲良くした方が建設的だろう。それに、見本となるべき上官がいがみ合えば、その空気感は部下にまで波及する。もし平の委員会メンバーがこのような空気になってしまえば連携も何も取れたものではないだろう。
何のための条約、協力関係なのか。何故必要なのか。そんな事はアコもハスミも分かっているため、少し息を吐いて脳をクールダウン。それ以上は何も言う事はなく、謝罪代わりの会釈を一つ送り合った。
「ん。この辺りは食用魚の回遊域。潮の満ち引きもいい感じだし、多分大漁。夕飯の確保は任せて」
「シロコ先輩、まるでサバイバルに来たかのような意気込みですね……」
「うへ~、あっつい、暑くて干からびそう~……動いてないのに暑いよ~……」
「ちょっと! ホシノ先輩が融けちゃいそうなんだけど!?」
「融けちゃうのはまずいので、あっちでお休みしましょうか☆ あ、ワカモさんも如何ですか?」
「私を巻き込まないでくださいまし」
シュノーケル、網篭、銛、釣り竿とフル装備でハンティングに向かおうとするシロコ。何だか段々と融けて流体になりかけているホシノ。そんな破天荒な先輩達にツッコミを入れる健気な後輩のアヤネとセリカ。平常運転でホシノを甘やかそうとするノノミと、それに巻き込まれそうになったワカモ。アビドス対策委員会とワカモは今日も平和であった。
▼
────連邦生徒会長失踪以後から急激に犯罪率が上昇し、キヴォトスの治安は悪化の一途を辿っています。違法な武器の流通、ブラックマーケットへの資金流出、大企業の
本合宿はその第一歩であり、キヴォトスに於ける有力な学校間で円滑な協力関係を築くことが目的です。
「────ってのが、今回の合宿の表向きの内容かな」
先程までの少し固い雰囲気は30秒も持たず、ふにゃりとしたいつも通りの笑みが少女に向けられる。白シャツ、黒のスラックスというオフィス街からそのまま飛び出して来たかのような恰好ではない。サーフパンツとラッシュガード、頭の上に乗せられたサングラス……と、一番浮かれているのではないかという出で立ちだ。
片手に持ったタブレットが辛うじて、これがシャーレの正式な催しである事を教えてくれる。
「さっきも言った通り連携強化を目的とした合宿だけど、名目上そうなっているだけで、実態は唯の交流会みたいなものだから、あんま肩肘張らず緩くやろうか。多分、皆初対面同士だよね? 取り敢えず自己紹介からやってみよう」
日差しを遮るテントの下、彼はテーブルを見渡す。
先生の投げた会話のボールを最初に受け取ったのはヒナだった。彼女は淡々とした口調で必要な事項を話し、続いてアコなどの風紀委員会のメンバーが話す。その後、正義実現委員会、セミナー、アビドス対策委員会と続いて、極めて円滑に自己紹介の時間が完了した。
あまりにも淡泊に終わったため、先生は内心で『もう少し話してくれても良かったんだけどね』と苦笑い。だが、彼女達がこれで終わらせたなら、彼女達にとってはそれだけで充分なのだろう。実際、先生が促したり、話題を振るまでも無く、メンバー間による交流が始まった。
「風紀委員長はどの様な形で風紀委員を動かしていますか? 互いに大人数を動かしている者同士、何か参考になる事があれば共有しておこうかと」
「部単位で運用しているわ。通常、空挺、砲撃、特殊、情報、工作……他にも色々と。各部には全体を統括する大隊長を置いて、大隊長の下に部隊長が居るわ。私やアコは全体の方針を決める事がメインね。そちらは?」
「此方も同じですね。やはり、大きい組織を円滑に運用しようと思えば、このような形になりますね……」
ヒナとハスミは組織の運用方式について互いの現状を聞き合うが、どうも同じような形らしい。どちらも大規模な組織であるため、効率的な運用を行おうと思えば自然と手段は画一化されるのだろう。何か画期的なスキームがあれば、と思ったが、そんなものはなく、先人達の知恵が生み出した現状の仕組みが効果的である……という身も蓋もない解だった。
非効率的だと感じる部分は地道に改善していくしかない、という結論が一旦出たが……徐にツルギが口を開く。
「……ミレニアムの治安維持機構は少数精鋭と聞くが、どのような形で運用をしているんだ?」
「ツルギ?」
「ミレニアムはトリニティ、ゲヘナと同等規模の学園だ。生徒の性格の傾向に差異はあるだろうが、大人数の生徒が所属している以上、大なり小なり問題は必ず発生する。少数精鋭だと同時多発的に事案が発生した際に手が回らなくなるはずだ」
混沌としておらず、権力争いもない。唯只管に科学技術の発展を、新規性を、千年難題を追い求める学風こそがミレニアムだ。故に、ゲヘナとトリニティに比べると問題が発生する頻度は少ないだろうし、治安維持組織……C&Cが出張らなければならない事態も少ない。それを考えればコストカットの観点から人数を減らすのは理に適っている。だが、人数を減らせば対応の幅が狭まるのだ。
「だが、恐らくそのような事案は起きていない。起きていないからこそ、少数精鋭で在り続けられる……私達が知るべきなのはそれだろう。治安維持機構に頼らなくていい仕組みがあるのか、構成員がよほど優秀なのか、それとも先回りで問題を潰しているのか。何方にせよ、得られる学びは多い」
「……それで、どうなのですか? セミナーのお二方」
「はい、ツルギ委員長の仰る通りです。AI搭載型のドローンやオートマタを使用した人に依存しない仕組み。コールサイン持ちを筆頭にした極めて優秀な構成員。スパコンを用いた事前予測。これらがミレニアムの秩序を保つ仕組みです」
「本来であれば、今の話はセミナーとC&C以外に明かせないミレニアムの防衛に関する話なので、他言無用でお願いします」
ツルギの予測は全て正解だ。ドローンやオートマタが削減した人数分を補い、日々の細やかな問題の対処を行わせる。何処かに隠されたリオ手製のスパコンが発生し得る問題を事前に予測し、それを元に何をどう動かすのか意思決定する。そして、ドローンやオートマタでは解決し得ない問題が発生した場合や、可能な限り早急に解決しなければならない場合にC&Cが対処する。機械化、自動化、最適化。ミレニアムらしい非常に合理的な管理方法を知った皆は納得するが……しかし、その管理方法を自身達に当て嵌める事は出来ないと分かった。
「……なるほど、ありがとう。良い話を聞けたわ。でも……」
「参考にするのは難しいですね。スパコンは兎も角、システムを作成する人員も保守する人員もいませんから。仮に作れたとしても真っ先に狙われて、機能不全に陥ってしまう可能性が高いと思います」
「となると、我々が導入できそうなのはドローンですが……恐らくミレニアムが使用中のものよりも性能は劣るため、大きい効果は見込めないかもしれませんね」
「そうか……」
ドローンやオートマタ、スパコンを全てミレニアムで内製しているからこそ、これらの仕組みは成立する。ミレニアム以外の学園にこれらの仕組みを作成する術は無いため、同じような仕組みを作ろうと思えば必然的に外注する事になるが……そうなれば初期コストもランニングコストも膨れ上がる。真似をしようと思っても簡単にはできないだろう。
「折角発言してもらったのにすまない」
「い、いえ! そんな……此方もシステムに頼っている現状を見つめ直す機会になったので!」
「はい。システムである以上、ハッキングやクラッキングは勿論、物理的な破損も致命傷になってしまいます。今後も弱点を突かれないとは限りませんから、ミレニアムも何らかの代替を考えなければなりません。そういった意味でも、先ほどの質問はとても意義あるものでした」
軽く頭を下げて謝罪するツルギにユウカは慌てて言葉を紡ぎつつ、内心で『ネル先輩と同じようなタイプと思っていたけど、案外違うのかも』と、毒にも薬にもならない感想を抱くが……ネルも戦闘が絡まない部分では落ち着いていて理知的だったことを思い出す。やはり似た者同士なのかもしれない。
実際、ツルギの質問は有意義だった。スタンドアローンであろうが、システムである以上はハッキングの危険性が存在する。治安維持をシステムに依存している現在、落とされれば大問題だ。システムを管理していたリオが不在の今が見つめ直すいい機会だろう。
「アビドスはちょっとミレニアムと似てるかな? 自治区内は誰かさんが寄付したドローンとかが警備してくれていて、私達は学園の近くとか危なそうな場所とかをパトロールしてる感じだよ~」
「メンバーの負担が大きそうですが、大丈夫なのですか?」
「ご心配ありがとうございます。負担が無い、とは言えませんが、かなり改善されています。以前はドローンもありませんでしたし、ホシノ先輩がほぼ全域パトロールしていましたから……」
「そゆことそゆこと、いや~ドローンをくれた誰かさんには感謝しないとねぇ?」
ホシノが「ね、先生?」と彼の脇腹を突き、上目遣いで見つめる。ホシノの言う『誰かさん』の正体は苦笑して話を戻そうとするが……それよりも先にアコからシャーレに対する質問が飛んできた。
「シャーレの組織運用方針はどうなっていますか?」
「特に決めてないよ。シャーレに所属しているからといって、毎回頼れる訳じゃないからね。状況によって頼れる子は違うし、それをパターン化して一々マニュアルにしていたら何年かかるのやらって感じだよ。だから基本アドリブかな。生徒の特徴や得手不得手は把握しているから、その場の最適解をその場でパズルみたいに組み合わせるだけさ」
「アコ、先生は参考にするだけ無駄よ。この人、キヴォトスの生徒全員の事を覚えてるから」
「えぇ、今のでよく分かりました。全く参考になりませんね、この人。思えば、以前お貸しした風紀委員の部隊も簡単に動かしていましたし」
「……なんかごめん」
何処に謝っているか分からない先生の謝罪。それを聞いた皆は顔を見合わせてくすりと笑う。学校も所属もバラバラな少女達の交流会は極めて穏やかな雰囲気のまま進んでいった。