シャーレ活動備忘録   作:遊園市街

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縁を食む

 

「あ、ありがとうございました。皆さんがいなかったら、学園に迷惑を掛けちゃうところでした……それに、こっそり抜け出してきたので何か問題を起こしたら……あうう……想像しただけでも……」

「お礼は彼女達に言ってあげて。私は特に何もやってないさ」

 

 何度もペコペコと頭を下げて、早口で事情を捲し立てるヒフミ。そんな彼女に対して、先生は薄く微笑みながら手をひらひら振っている。先生は今回特に何もしていないのだ。精々、シロコとノノミにアイコンタクトを送り、先制攻撃にGOサインを出しただけ。

 

「えっとー、ヒフミちゃんだっけ? それにしても、トリニティのお嬢様がなんでこんな危ない場所に来たの?」

「あ、あはは……それはですね……実は、探し物がありまして……もう販売されてないので買うこともできない物なのですが、ブラックマーケットでは密かに取引されているらしくて……」

 

 口癖を挟み、どこか困り顔で理由を口にするヒフミ。それに対して、アビドスの面々は思うところがあったのか僅かに表情を動かした。探し物、それは既に販売されていない。そして、ブラックマーケットに態々足を運ぶほどのもの。お淑やかなお嬢様学校の生徒が欲しがるなんて、と思いながら──────。

 

「もしかして……戦車?」

「もしくは違法な火器?」

「化学兵器とかですか?」

「教典?」

「えっ!? い、いいえ……えっとですね、ペロロ様の限定グッズなんです」

 

 シロコ、ホシノ、ノノミ、先生がそれぞれ思い思いの品を羅列するが全て物騒極まりない代物だった。先生に至っては『教典』と云う訳のわからないものを挙げている。

 そんなもの危ないものじゃない、とヒフミは首を振って否定した。

 

「ペロロ?」

「限定グッズ?」

「はい! これです。ペロロ様とアイス屋さんがコラボした限定のぬいぐるみ! 限定生産で100体しか作られていないグッズなんですよ」

 

 ヒフミはそう言って鞄からぬいぐるみを取り出し──────皆に見えるようにした。

 

 そのぬいぐるみは、どう見てもアイスを無理やり口に突っ込まれている罰ゲームのような絵面のニワトリとも、ペンギンとも見える推定鳥類の人形だった。しかも、目の焦点が合っていない所為でアイスで窒息させられているようにも見える。

 可愛い、といえば可愛いのかもしれないが……キモ可愛い、というジャンルのような気がする。垂れ下がった舌と、上を向いた両眼、頬に付いているアイスが何とも言えない愛嬌を醸し出している。

 

 総じて、万人受けはしないデザインのぬいぐるみだった。

 

「ね? 可愛いでしょう?」

「……」

 

 ホシノ、シロコ、アヤネ、セリカは満面の笑みで差し出されたペロロ様のぬいぐるみを見て言葉を詰まらせ顔を見合わせた。『可愛い……のか、これ?』とか『何かの拷問場面?』と、そんな事を思っている。

 

「わあ☆ モモフレンズですね! 私も大好きです! ペロロちゃん可愛いですよねぇ! 私はミスター・ニコライが好きなんです!」

「分かります! ニコライさんも哲学的なところがカッコよくて……最近出たニコライさんの本、『善悪の彼方』も買いましたよ! それも初版で!」

「そうなんですか! あれ? 先生も『善悪の彼方』は以前読んでませんでしたっけ?」

「私が読んでたのは『善悪の彼岸』だよ」

 

 反し、ノノミはペロロ様の可愛さが理解できるようで、ヒフミと手を取り合って意気投合していた。そして、似たタイトルの本を偶々読んでいた先生を交通事故のように巻き込んで3人でモモフレンズトークを開始する。ノノミとヒフミの熱量に先生が振り回されている、という形で。

 

 そんな3人の様子を取り残されたアビドスの4人の少女達は何とも言えない微妙な表情で見守っていた。

 

「……いやぁー、なんの話だか、おじさんにはさっぱりだな〜」

「ホシノ先輩はこういうファンシー系に全く興味ないでしょ」

「ふむ、最近の若いやつにはついていけん」

「歳の差、ほぼないじゃん……」

 

 17歳、華の女子高生の自称おじさんは口調をおじさんっぽくしながら戯けて頬を掻く。

 モモフレンズ、という共通項で仲良くなり打ち解けた雰囲気となったヒフミとノノミ。そして、アビドスの面々はヒフミの事情を……何故追われたのか、その細かな経緯を聞く運びになった。

 

「──────という訳で、グッズを買いに来たのですが、先ほどの人達に絡まれて……皆さんがいなかったら今頃どうなっていたことやら……」

 

 身代金、トリニティの問題児、停学、退学──────そんなネガティブなワードが頭を過ぎる。だけど、そんな事にはならず、アビドスの少女達と先生が助けてくれたのだ。感謝の念は尽きない。

 

 そして、ヒフミは「ところで」と切り出して──────アビドス側の事情を聞く。

 

「アビドスの皆さんと先生はなぜこちらへ?」

「私達も似たようなもんだよ。探し物があるんだ〜」

「そう、今は生産されていなくて手に入れにくい物なんだけど、ここにあるって話を聞いて」

「そうなんですか、似たような感じなんですね」

 

 少女達が話す傍ら、先生は目を閉じていた。どうしたのだろうか、とノノミは思いながら彼に視線を向けると──────徐に目を開いた。幾何学的な文字列が廻る虹彩、青に染まった瞳は異界と深く接続した証。

 

「──────四方から武装集団。数は24。43秒後に接敵する。アヤネ、ドローンを飛ばして」

「ッ! はい!」

「建物を迂回しつつ交戦。真正面から闘う必要はない。私側でも幾つかデコイを用意するから、それを盾にしながら数を減らそう──────ヒフミ、協力してくれるかい?」

「えっ、あ、はい! 勿論です!」

「ありがとう、助かるよ」

 

 その返答を頼もしく思いながら、先生は量子波送受信機構(システム・メサイア)を完全に起動させる。生徒の視界が切り替わり、戦場を掌握する機構が目に映される。

 

 アビドスの面々は複数回の戦闘で慣れたが、ヒフミは初めてだ。突然、オルタナが表示されてびっくりしているが──────シロコ達がアシストとフォローをしている。この分なら問題ないだろう。

 

 凡ゆる戦場のデータが共有される。敵の数、武装構成、想定される戦闘スタイル、通るルート、残弾。戦場における全能、先生の『権能』が駆動する。

 

「アイツらだ!」

「よくもやってくれたな! 痛い目に遭わせてやるぜ!」

「先ほど撃退したチンピラの仲間のようです! 完全に敵対モードです!」

「望むところ」

「全く、なんでこんなのばっかり絡んでくるんだろうね? 私達、何か悪いことした?」

「愚痴は後にして、応戦しましょう、皆さん!」

 

 

 ▼

 

 スケバン達を片手間に撃退しながら逃走を選択した彼女達は、見事に撒くことに成功した。十数分の全力疾走をした生徒達であったが、その息に乱れはない。

 息も絶え絶えなのは先生だけであり、途中からシロコに抱えられていた。仕方のない事ではあるが、割と情けない絵面だった。

 

「……ここまで来れば大丈夫でしょう」

「ん……此処をかなり危険な場所だって認識してるんだね」

「えっ? と、当然です。連邦生徒会の手が及ばない場所の一つですから……ブラックマーケットだけでも学園数個分の規模に匹敵しますし、決して無視はできないかと……」

 

 ヒフミは「それに」と言って言葉を区切って。

 

「様々な『企業』がこの場所で違法な事柄を巡って利権争いをしていると聞きました。その上、ここ専用の金融機関や治安機関があるほどですから……」

「銀行や警察があるって事……!? そ、それって認可されていない違法な団体だよね!?」

「はい……そうです」

「スケールが桁違いですね……」

「中でも特に治安機関は、とにかく逃げるのが一番です。騒ぎを起こしたらまずは身を潜めるべきかと……」

 

 これこそが、先の戦闘で逃走を選択した主な理由だ。マーケットガードと呼ばれる治安維持機構。先生をして『できれば相手をしたくない』と言わしめるオートマタ集団は兎に角数が多く、扱う銃の火力の高さは決して無視できるものではない。無論、勝てない相手ではない。だが、勝ってもメリットがない上に、戦闘した結果、近くの無関係な人が傷つく可能性があるのだ。無駄な戦闘と流血は避けるべきだろう。

 

「ふ〜ん」

「ヒフミちゃん、此処のこと、意外に詳しいんだね〜」

「えっ? そうですか? 危険な場所なので、事前調査をしっかりしたせいでしょうか……」

 

 優等生のヒフミらしい回答だった。彼女はしっかり者で、他者の思いやりに溢れた優しい子。普通である、特徴がないと自身を卑下するが、その普通さに救われる人がいる。

 

 ────先生は、それを良く知っていた。

 

 そうやって懐かしさに浸っていた先生であったが、ホシノの「よし」という声に現実に引き戻された。

 

「決めた〜」

「……?」

「ヒフミちゃん、私達と一緒に行動してほしいんだけど、どうかな? 助けてあげたお礼ってことで」

「え? ええっ?」

 

 突然言い渡された案内のお願いにヒフミは目を白黒させながら驚いた。ブラックマーケットについて特別詳しいわけでもなく、腕っぷしが強いわけでもない自分に頼んでくるとは思わなかったのだろう。だが、アビドスの面々は『名案だ』と言わんばかりの顔をしていて。

 

「わあ☆ いいアイデアですね!」

「なるほど、誘拐だね」

「はいっ!?」

「誘拐じゃなくて案内をお願いしたいだけでしょ? 勿論、ヒフミさんが良ければだけど」

 

 アビドスの面々の真摯なお願いに、ヒフミは「あ、あうう……」と声を漏らしながら視線を右往左往。ちらり、と先生を見ると────彼はヒフミに向かってウィンクした。

 込められた意味はヒフミの意志の尊重。『君の思うままに』と言外に伝えられた彼女は意を決して口を開く。

 

「私なんかでお役に立てるか分かりませんが……アビドスの皆さんにはお世話になりましたし、喜んで引き受けます」

「ありがとう、ヒフミ。助かるよ」

「よーし、それじゃあちょっとだけ同行頼むね〜」

 

 こうしてアビドス対策委員会の5名と先生に加えて、トリニティのヒフミが同行する運びになった。

 

 

 ▼

 

 

「はあ……しんど」

「もう数時間は歩きましたよね……」

「これは流石に、おじさんも参ったな〜。腰も膝も悲鳴を上げてるよ〜」

「えっ……ホシノさんはおいくつなのですか……?」

「ほぼ同年代ッ! ほら、ホシノ先輩! ちゃんと歩いて!」

 

 セリカは項垂れているホシノの姿勢を強引に正して、ちゃんと前を向かせる。苦節数時間歩き続けたが、特筆すべき新たな有力な情報は入手できていない。強いて言えば、『隠されていること』が分かった程度だ。あまり良い収穫とは言えないだろう。

 数時間の徒歩による移動と、収穫の無さ。それによって彼女たちの精神的な疲労が加速しているようで、歩く速度は目に見えて落ちていた。

 

「ん、先生は大丈夫?」

「少しキツイけど、まだ大丈夫。心配してくれてありがとう、シロコ」

 

 生徒に甘えすぎるのは良くない。先生だって大人なのだ。故に疲労で震える足を無理矢理奮い立たせて、歩んできた。だが、自身の限界ラインを熟知している先生はこれ以上連続で歩き続けると翌日筋肉痛で動けなくなる事を分かっていたため、休憩を提案しようと口を開こうとしたが────彼よりも先にノノミが口を開いた。

 

「あら! あそこにたい焼き屋さんが!」

「あれ、ホントだ〜。こんなところに屋台があるなんてね」

 

 ノノミの指差す方角には、古き良きたい焼きの屋台が鎮座していた。風に乗って甘い香りが此方まで漂ってきて、無性に食欲を掻き立てる。先生はちらり、と腕時計を見る。時刻は昼前、軽食を挟むには丁度良い時間だった。

 

「あそこでちょっと一休みしましょうか? たい焼き、私がご馳走します!」

「えっ!? ノノミ先輩、またカード使うの!?」

「先生の『大人のカード』もあるよ〜」

「ううん、私が食べたいからいいんですよ☆ 皆で食べましょう、ねっ?」

 

 ノノミはそう言って先生の手首を優しく掴めば、皆が先生の方を見る。図らずとも決定権を持った彼は。優しい笑顔を浮べて。

 

「そうだね、少し休憩しようか」

 

 

 ▼

 

 

「まいど〜」

 

 先生のプライド的にノノミに払わせる訳にはいかなかったため、7人分のたい焼きを現金で払った彼は『またユウカに怒られる……いや、5000円以下だからセーフか……?』と思いながら街路樹を囲むブロックに座り、暫しの休憩を挟んでいた。先生の隣にいるシロコは目を輝かせながらたい焼きを頬張っている。

 

「美味しい!」

「いやぁ、丁度甘いモノが欲しかった所だったんだ〜」

「あはは……いただきます」

 

 他の少女達はベンチに腰掛けながら、両手でたい焼きを持って休憩していた。ブラックマーケットで売られている食品ということもあり最初は恐る恐る口に運んでいたが、餡子の味と生地の美味しさに驚いている。特別美味しい、という訳ではないが価格と味、量を考えると破格だろう。

 

 ────たい焼きを見ると、いつも思い出してしまう。ハルナの事を。食を疎かにする私の手を引いて色々な店を回ってくれた。彼女は元気だろうか、あの花が咲いたような笑顔を浮べてくれているだろうか。

 

 そんな事を考えていると、ふと袖を引っ張られた。顔を向けると、上目遣いで先生を見つめるシロコがいて。

 

「ほら……先生も」

「あぁ、ありがとう」

 

 シロコに促された彼はたい焼きを食べようとするが、彼女の何か言いたげな視線は消えてくれない。彼は流し目で彼女の方を見た。シロコの視線、掴んだままの袖、そして差し出されたシロコのたい焼き。

 全てを察した彼は「……なるほど」と言って、シロコの方に顔を近づけた。それに彼女は満足げな笑みを浮かべて。

 

「ん、先生。口開けて──────あーん……」

「────うん、美味しい」

「ちょ、ちょっと何やってんの!?」

「わぁ! シロコちゃん、大胆ですね~」

 

 シロコが差し出してくれたたい焼きを頬張っていると、ベンチに座っているセリカが声を荒げながら先生とシロコ(バカップル擬き)を指差した。反面、ノノミは楽しそうな笑みを浮かべたまま。

 先生は苦笑いしながら、自身のたい焼きをシロコに差し出して。

 

「うーん、食べさせ合い?」

「それは見れば分かるの!」

「シロコがやりたそうな目をしてたし……」

 

 ちらり、とシロコの方を見ると、頬を少し赤く染めながらも嬉しそうな雰囲気で彼が差し出したたい焼きを食べている。彼には生徒の頼みを断る機能がないのか、とセリカは呆れた。

 

 その後は先生にたい焼きを食べさせようとするノノミ、それを阻止せんとするシロコ。セリカはどうにかして2人の争いを止めようとしながら。いつの間にか先生の膝の上に座り、悪戯っぽい笑みを浮かべているホシノ。ヒフミとアヤネは愉快な百面相をしながら彼らの成り行きを見ている。

 

「暫しブレイクタイムだね」

 

 少女達の渦中にいる先生は、呑気にそう呟いた。

 





 感想へのリンク



 以下、本編とは全く関係ございません。



 私に『ブルアカのフレンドになりませんか?』という旨のメッセージを送ってくださった方がいらっしゃったので、折角ですので後書きの方にもコードを認めさせて頂きます。

 AYXJRKQV

 時間が確保できず半年以上プレイできなかった関係上、レベルは全然高くありません。それでも宜しければ申請して頂けますと幸いでございます。

 尚、最終編3章16話を読了したブルアカ大好き民の方はお察しではあると思いますが、先生に関する設定のほぼ全てとプロットの最終局面が死にました。終わりです。
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