シャーレ活動備忘録 作:遊園市街
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強さとは何だろうか。
例えば、頭がいい人。例えば、腕っぷしが強い人。例えば、権力を持つ人。これらはとても分かりやすい、視覚的に捉えられる強弱だ。数値として計測でき、自身とも比較がし易いことから古来より重んじられてきた。
では、キヴォトスにおける普遍的な強さとはなんだろうか。その問いの答えは千差万別だろう。頭が良ければ、力が強ければ、権力があれば……と。置かれている環境、求められている役割によって、自身が何を尊ぶかによって変わるだろう。
故に、追及を諦めたのだ。普遍的な、絶対的な強者の条件を探求することを。代わりに相対的な、偏差値的な価値と強弱を計数し、比較し……社会を形成してきた。
そして、このキヴォトスに────探求者が現れた。そして彼は、この問いに一つの解を出したのだ。
「私はこれを、『神秘の量と質』と定義しました」
生徒が持つ神秘……これこそがキヴォトスを測るスケールであると。
「もっと言ってしまえば、特権階級にアクセスできるだけの神秘を所有しているか……これこそが、キヴォトスにおける強者の条件です」
「……ふーん」
「ホシノさんは類稀なる神秘の持ち主です。総量も質も、共に最高水準。比類しうる存在はキヴォトスに10名といないでしょう」
黒服は「ですが」と言って、目を伏せる。
「貴方には出力が足りないのです。無意識下に抑えているのでしょう。最も古く、最も偉大で、最も多様化した天空神……それを再現するには、貴方のストッパーは邪魔でしかありません」
ホシノは酷く不愉快そうな顔で、黒服を見る。月と太陽を象徴するオッドアイに射貫かれた彼は歓喜し、愉快そうに喉を鳴らす。
「ですから、見学をしてほしいのです。枷の外し方を、
何処かで生命が流動する。鳴動する。殺すべき存在を捉えて、悪意にほくそ笑む。
完全ではない。全能ではない。本来の出力の僅か1割程度しか取り戻せていない。その上、狐面の生徒に片っ端から復活させるための触媒を破壊されている関係で、本命は稼働すらできない。
だが────それでも、誰かを殺すのには充分な殺意であり、力だ。
「特権階級……『権能』に足を踏み入れた、崇高なる神意の代行者を」
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────
────
端末作成────完了。
権能譲渡────完了。
神秘転移────完了。
────滅びろ、出来損ないの
彼方にいる敵を殺すため、悪意の白翼が飛翔した。
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「いっただきまーす!」
「ひ、1人につき一杯なんて……こんな贅沢しても良いのですか?」
「良いってことよ、セリカちゃん達のお友達だろ? 替え玉が欲しけりゃ言いな、サービスするぜ」
「……別に、友達ってわけじゃないけど……」
そう言って、ラーメンを啜る便利屋の少女達。シャーレからの依頼を受けた彼女達であったが、あれから特別変わったことはなく普段通りの毎日を送っている。今日、こうしてアビドスに足を運んでいるのは単純に柴関のラーメンを食べたくなったからであり、それ以外の理由は特にない。
「こんなに美味しいのにお客さんが居ないなんて変な感じだね~」
「立地が悪いんじゃないかしら? 交通網はガタガタだし、近くには廃校寸前のアビドスしか学校がないし……それに、この近くには住宅街もないし」
アルの言葉に、『来てる時間帯も関係がありそうだけど』と心の中で思ってカヨコはラーメンを口に運ぶ。時刻は午前10時を少し回った頃、昼食としては随分早い時間であった。
「……まあ、人が少ない方が私達に都合がいいし、美味しいからいいんだけど────」
カヨコがそう言った刹那、入口のドアが不意に開いた。入店を知らせるベルと共に店内に入ってきたのは、真っ白なコートと制服に身を包んだ青年。彼は人好きのする笑みを浮べながらひらひらと大将に向けて手を振っていた。
「大将、今は大丈夫かな?」
「あぁ、今日も元気に営業中さ。好きな席にどうぞ」
そう言い残し、厨房の奥へとお冷を注ぎに行く大将。何処に座ろうか、と考えながら先生は店内を見渡し────便利屋の少女達と目が合った。
「せんせ~、こっちこっちー!」
「……シャーレの先生」
「あら、先生」
「せ、先生、お、おはようございます……」
元気そうに笑顔で手を振るムツキに、先生もまた微笑みを返して手を振り返し、彼女達の方に足を進める。
「おはよう、皆。今日はどうして此処に?」
「此処のラーメンをリピートしたくなったのよ」
「そっか、柴関、美味しいもんね」
そう言って、彼ははにかむように笑った。微笑みや苦笑いとはまた異なる種類の笑顔は乙女心を刺激する劇薬だ。よく似合う、とは思う。見てるこっちが恥ずかしくなってしまうくらいだ。
掻き乱された感情を隠すように、ムツキは彼の方を見る。彼女が浮かべている表情はいつもの悪戯っぽい、小悪魔のような愛らしい笑顔。
「ね、先生! 私達と一緒に食べよ!」
「いいのかい?」
「うん! 勿論! ね? アルちゃん!」
唐突に話を振られたアルは丁度ラーメンを口に含んでいる最中であり────急いで咀嚼して飲み込み言葉を発する。アウトローを自称しているとは思えない行儀の良さだった。
「え、えぇ。勿論良いけど……」
「先生はどうなの?」
「君達さえ良ければ、ご一緒したいな」
「ほらほら、先生が座るから詰めて詰めて〜!」
ムツキは隣に座ってるアルを軽く押して、壁側の方へと誘導する。アルは「ちょ、ちょっとムツキ!」と言いながら、ラーメンのスープが溢れないように器と自身を横にスライドさせて────1人座れる程度のスペースを確保した。
4人席に座っている関係上、3人が座るアル達側は少々手狭だが、ムツキはどうやらこの状況を楽しんでいるようで。
「くふふっ」
と、このように鈴が転がるような笑い声を奏でている。
それを先生は何処か懐かしむような、慈しむような……思い出を摘むような目で眺めている。ムツキだけではない。アルも、カヨコも、ハルカも、彼は全員をそんな目で眺めていた。
何処か、遠くを見るような。世界そのものを見渡しているような。或いは、未来を夢想している瞳。蜃気楼の如く、実態を持たない儚さは1回の瞬きの刹那で消えてしまいそう。
勿論、そんな事はない。彼の存在は連続性を保ったまま此処に在る。だが、ふと目を離した瞬間にいなくなってしまいそう……そんな、不吉な予感は消えてくれない。
「そういえば、先生も朝食かしら?」
「そうだね。今日の朝食兼昼食、って感じかな」
アビドスの会議後、欠席していたホシノを除く面々で女子会を開催しようとしていたため、空気を読んだ先生は静かに退散し……『そういえばご飯食べてなかった』と思い、今に至る。
正直、朝からラーメンは中々に辛い気がするが、あっさりした物を頼めば大丈夫であると信じている。この体はまだ若いのだ。お兄さんを自称するつもりはないが、まだおじさんではない……と思いたい。
そうしている内に、先ほど注文したメニューが届いた。塩ラーメン、麵少なめ。良い香りが鼻孔を擽り、食欲を無性に駆り立てる。先生は「いただきます」と言って箸を手に取り、麺を口元に運ぶ。
────うん、やっぱり美味しい。
「……先生って、この後暇?」
5人でラーメンに舌鼓を打っていると、ふとカヨコが問いかけてきた。先生は「うん、暇だよ」と笑って答える。
実際、暇なのだ。この後に控えているタスクはシャーレの仕事だけ。夜は別行動中のワカモに会いに行くつもりのため空いていないが……それより前であれば予定に融通は効く。
そもそも、生徒のお願い以上に優先すべき事柄なんてない。断るつもりなんて全くなかった。
「そう。それなら、先生に聞きたいことがあって」
「聞きたいこと、ね」
カヨコ「うん」と言って────身を乗り出して対面に座る先生の耳に口を近づけ、語る。
「先生を含む私達が、この先相対する敵……それが、
「……鋭いね。あぁ、じゃあその辺りの話をしようか。場所は……私が泊ってるホテルでいいかい?」
先生がそう言うと、カヨコは黙って頷いた。
────アビドスに伝わる怪談。それに関する情報はあまりにも少ない。今から数十年前に初めて目撃された、と云うのがアビドスの上層部や連邦生徒会に保存されている情報であるが……実際は異なる。
その存在は、ずっと前からキヴォトスに牙を剝いているのだ。それが分からなかったのは時代に応じて姿が変化しているから。ソフト自体はずっと前から……それこそ、キヴォトス成立と同時期に『発生』しているだろう。
ソフトはそのままにハードを変えながら今も尚砂漠の下で目覚めを待つ莫大な神秘……それこそが、アビドスに伝わる怪談の正体だ。
「ん~? 2人とも何の話してるの?」
「ここで話すような内容じゃないから、詳しくは後で皆に話すよ。カヨコが知っていることも、知らない事も────あぁ、全部話すさ。それよりも、皆は他に食べたいものはないかい? 私が持つから好きに頼んでいいよ」
「そ、そんな……悪いですよぅ……」
「気にしないで。皆にまた会えて嬉しいんだ。だから、これくらいはやらせてよ」
朗らかに笑う先生に、真剣な表情をしていたカヨコは毒気を抜かれたように溜息を吐く。先ほどまで、真面目な話をしていたとは思えないくらい、雰囲気が緩かった。
そして、先生の「好きに頼んでいいよ」という言葉を受けた便利屋の少女達は暫くの逡巡後────メニュー表を手に取り、吟味を開始する。
「……それじゃあ、この────」
刹那────ラーメン屋は一瞬で圧壊した。