シャーレ活動備忘録   作:遊園市街

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神秘、証明

 ホシノとヒナ……アビドスとゲヘナ、双方の最強が戦場に舞い降りたと同時に先生もまた後方に到着していた。

 神を殺傷せしめる深い蒼の瞳は彼が本気の証であり、決意そのもの。

 量子波送受信機構(システム・メサイア)と呼ばれる数多の可能性世界を可視化する反則技……瞳の色彩を変化させる危険極まる御業は全て誰かの為に。その果てに己が他世界の神格と混ざろうとも構わない。鋼の決意を持ちながら、先生はにこやかに頑張ってくれた彼女達に手を振った。

 

「先生!」

「貴方様、お待ちしておりました」

「うん、ただいま────あとは、私に任せて」

 

 システムの範囲に全生徒を組み込む。その最中、ビナーにシステムへの侵入を試みられるが……当然、既に対策済みだ。

 即座にカウンターハックを仕掛けて逆にビナー側の基幹システムを焼き切ろうとするがファイアウォールに阻まれて失敗した。分かってはいたが、彼方も強固な攻性防御壁を持っているようだ。

 

 そもそも、こんな小手先の虚仮威しでセフィラの一角を落とせるとは先生も思っていなかった。この程度で壊せるのならば自分達は此処まで苦労していないし、対策を考えていない。神はどこまで行っても神であり、人の身とは次元が異なる領域に在るのだから。故に、神を殺すならば玉座から引き摺り落とすか同等の領域まで上り詰めるか。後者は一応手立て自体は有るが色々と制約があるため、必然的に前者の手段を取らざるを得ない。

 

 尊き者を引き摺り落とす堕天術式。神を蹂躙する罪悪の杭。それこそが先生が用意した概念武装『天命』の正体だ。

 

 故に、先生はビナーと相対した瞬間に礼装の起動をしなければならないのだが……。

 

「ワカモは気付いている?」

 

 唐突にも思えるワカモへの問い。それを聞いた彼女は首を緩く横に振って。

 

「はい……恐らく、ビナーはまだ余力を大きく残しています」

「やっぱりね。本気のビナーがこの程度の訳がない。出方を伺っているのか……いや、多分これは起動準備中なのかな」

 

 そう、本気のビナーがこの程度の訳が無いのだ。天使の眷属、オートマタ、ドローン。確かに恐ろしいが、ビナーの本気を知る彼等にとって『手緩い』としか言いようがない。

 それに、神秘質量が2億程度で停滞しているのも気になる。過去のデータを鑑みるに、ビナーの神秘質量は最低でも30億を超える。単純計算、1/15の出力しか出ていないのだ。勿論、今回は完全な目覚めにならないように色々と手を尽くしたため、30億を下回る可能性自体はあるが、それでも2億という数値は小さすぎる。

 

 故に、ビナーはまだ起動すらしていないのではないか。今までの攻撃は全て各部が問題なく動くかどうかを確かめるための動作チェックではないのか────それが、先生の見解だった。

 

 もしそうならば、アレはまだ神としての本領を発揮していないという事になる。そんな相手に神を殺す手段をぶつけてもカタログスペックは発揮できずに、貴重な切り札を1つ失う羽目になるだろう。

 勿論、切り札は使い捨てではない。だが、再装填には少々時間が掛かってしまうため、使うならば勝ちまで持っていきたいのが本音であった。

 

 そして、起動前に壊せるほど優しい相手ではない事も知っている。今までの戦況は全て聞いた。カイザーPMCのオートマタ、ドローンの乗っ取り。天使の眷属の降臨。VLSとエネルギー砲の試験運用。武装は全て終わっている。あとは内部プログラムの精査と、ビナーの動力部(しんぞう)たる核融合炉のチェックだけであろう。

 

 概算、5分。それがビナーの起動に掛かる時間だった。そんな状態で下手に攻め、敵地のド真ん中で完全起動────なんて事になったら目も当てられない。

 

 故に、まずやるべき事は────。

 

「前線を立て直す! ワカモ、ヒナ、ホシノ、皆のカバーをお願い!」

「このワカモ、貴方様の想いのままに」

『えぇ、分かったわ』

『うへ、勿論だよ』

 

 まずは崩れかけている前線を再構築する。先生という指揮官の参戦により全体指揮に固定されていたワカモがフリーになり、ホシノとヒナという頼もしすぎる戦力が参戦した。それに加えて、じきにイオリやアコ、チナツを含む風紀委員本隊とユウカ、忍術研究部が来るだろう。充分に勝算のある戦力だ。

 

 仮にビナーが眠っているのならば叩き起こすまで。全てを凌駕し、その上で明日を見るための勝利をこの手に掴もう。

 

 

 ▼

 

 

 アサルトライフルで敵を撃ち抜き、ドローンのミサイルで強引に風穴を明ける。大味な2つの武装の隙を隠すように懐に忍ばせたハンドガンと手榴弾で向かい来る敵の迎撃を行う。それがこの戦闘におけるシロコのパターンであった。開けた風穴はセリカやハルカが更に奥まで押し込んだり、大きくしていたのだが……その役に1人、頼もしい先輩が参戦している。

 

「じゃあ、突破するよ。ついて来て」

 

 言うや否や、破竹の勢いで敵陣を切り崩すホシノ。盾を使い、銃を使い、向かい来る敵全てを薙ぎ倒していく姿は正に暁のホルスの名に相応しい姿であった。セリカもハルカも彼女のフォローに回っており、その進軍をサポートする立ち位置になっている。2人の援護を受けたホシノは即座に順応し、隙潰しに回していたリソースを全て一点突破のために使用しようと判断。それに呼応するようにカヨコとシロコが並び立つ。

 

 先生の合流により一気に戦闘が最適化された彼女達はあっという間に先生達と合流するための道を拓くが────ビナーは無事に返すつもりなんてなかった。

 

 ビナーの背部のハッチが開き、VLSが発射される。ターゲットは防御手段を持つホシノ以外。どんなプログラムをしているのか、複雑な軌道を描きながら焼き尽くさんと迫るミサイルは絨毯爆撃染みている。ホシノ1人が防御したところでどうにかなるものではなかった。

 

 それと同時にビナーの口に光が収束する。シロコを蒸発させんとした浄化の光だ。その狙いはホシノ。金属の沸点を超える熱を持つエネルギー砲ならばバリスティックシールドを貫通できると踏んだのだろう。

 

 だが────そんなに事が上手く運ぶわけがないのだ。

 

『ヒナ!』

 

 先生の叫びと共に、ヒナが銃を構える。照準の先に見えるは先程発射されたVLS。先生の愛し子を根絶やしにせんと迫る悪意達。

 

「逃がさない……!」

 

 終幕:イシュ・ボシェテ。ヒナの持つ巨大なMG……MG2(終幕:デストロイヤー)から発射される数多の銃弾。空を裂くように放たれた最強の証明は全てのミサイルを空中で撃ち落とした。通常ならば唯の弾丸がミサイルを落とせる訳がないのだが、その無理を本人の莫大な神秘で強引に解決するのがキヴォトス最強クラスだ。彼女であれば放った後の弾丸の軌道操作すら可能であろう。

 

 そして、この場にいるキヴォトス最強クラスはヒナだけでない。天空神ホルスの神秘を持つホシノもまたその名を連ねる。

 

 放たれた莫大な熱量。ヒトを跡形もなく蒸発させるはずの熱線はたった一人の少女により塞き止められる、バリスティックシールドで防げる訳もない。吐き出される熱と、シールドの材質の融点、沸点。誰にも覆せない数値というステージで測ったとき、軍配が上がるのは前者なのだ。前者でなければならないのだ。

 

 それなのに。

 

「ふぅ……」

 

 傷ひとつないホシノが其処に立っていた。

 確かに、彼女だけが防いだわけではない。彼女を覆う様に先生が防御壁を重ね掛けしていたが、それでも無傷なのは世の摂理に反している。

 

 ビナー内に存在するAIと量子コンピュータが駆動する。彼女達が引き起こした事象を逆算し、原因を推定せんと高速で回転する。だがあらゆるデータが起きた結果と一致しない。全ての数値は彼女達がそのような事象を起こせないと証明しているのだ。

 

 何故────その一念がビナーを埋め尽くしていると、ヒナが無表情に告げる。

 

「新たなる神が聞いて呆れるわ。それじゃ、機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)なんて夢物語。精々、壊れかけの集積回路が良い所ね」

 

 ヒナの知る愛しい彼の皮肉。それを真似てビナーに呆れを突き付けた。

 

 物理法則? 世の摂理? 馬鹿を言え。その程度、己の神秘で捻じ曲げられなくて何がキヴォトス最強か。そんな事すら成し遂げられないのであれば、ヒナもホシノもこの場に居ない。もっと過去に野垂れ死んでいた。

 

 それに、ホシノにとっては後輩と先生を守るための大一番であり、ヒナにとっては夢にまで見た先生との再会なのだ。いつも以上に気合が入るのも道理というもの。深層で結ばれた彼との繋がりを感じて、何処までも飛べそうだ。体が軽い。思う様に、思う以上に体が動く。思考と行動の完全なシンクロ、鋭敏が過ぎる五感、溢れるアドレナリン、研ぎ澄まされた第六感とコンバットハイ。

 

 故に気付いた。あぁ、あれは罠だ────。

 

「小鳥遊ホシノ!」

「わかってるよ!」

 

 VLSとエネルギー砲という大味な技を隠れ蓑にしてビナーは砂嵐を巻き起こしていた。勿論、唯の砂嵐ではない。ビナーに起こされた砂嵐は砂塵の一粒に至るまで濃密な神秘を宿している。砂塵が当たった場所は即座に神秘により削り取られズタズタに切り裂かれるだろう。それは宛ら、無数の小さな刃物が渦を巻いているかのようだった。

 

 砂嵐という現象、砂塵という無数の凶器。防御をしてもシールドは貫通されるだろうし、VLSのように迎撃も不可能だ。

 だが────。

 

『障壁を4秒展開する! その間に範囲から脱出を!』

 

 見える視界に目立つピンが立つ。先生が指定した場所。そこに向けて全員が駆け出し、背後では砂嵐と半透明の青い障壁が衝突した。轟音が鳴り響き、衝撃で砂漠の砂が巻き上がる。パキパキと障壁に罅が入る音が聞こえるが、砂嵐は決して通さずにきっかり4秒間の役目を果たして消滅。

 遮るものが無くなった砂嵐は直線状の建物や岩場を呑み込み、抵抗すら許さずその一切を削り取った。通った痕には文字通り何も残らない、轢殺の自然現象。

 

 勿論、その間に少女達は安全地帯まで退避が終わっている。だが、万が一アレに飲み込まれていたと思うと────背筋に冷たいものが走った。ホシノやシロコ、セリカはアビドスに身を置いている関係上、自然現象の恐ろしさはよく分かっていたが……何かしらの指向性を持たせた途端、ここまで明確な脅威になるとは思ってもいなかった。そして、それはハルカとカヨコも同じ気持ちである。

 ヒナだけは異なり、神秘の砂嵐には然程心を動かされていなかった。元々何度か見ていた光景であるし、一度は当たった攻撃だ。脅威は知っているが、特別目くじらを立てるものではない。

 

 そもそも、この攻撃はビナーの中では弱い方にカテゴライズされる。神秘質量が50億を超える完全顕現のビナーを相手にした事があるヒナにとってはあの程度は児戯にも等しい。声を荒げたのはホシノ達が脅威に曝されていたからだ。

 

 一先ず、全員無事にポイントへ辿り着いた。そこには後衛部隊と先生がいて、彼のいつも通りの微笑みに誰もが安堵の表情を浮かべる中────無機質な機械音声(マシンボイス)が響いた。

 

 

 

 

『スタンバイ、スタンバイ、スタンバイ』

 

 脅威が、増大していく。

 

接続完了(スタンバイ)動力起動(スタンバイ)神秘掌握(スタンバイ)

 

 どうしようもないほどに。

 

主よ(スタンバイ)御身の愛に(スタンバイ)歓びを(スタンバイ)

 

 誰もが『滅び』を悟った。

 

『──── ()()()()

 

 ──────第三神秘統括細胞(ミスティック・セル)

 

 キヴォトスを消し去る終末装置の本領が発揮される。

 

『神に逆らう者は裁かれ』

 

 それは、アダムの代から人間を見続けてきた命の木。

 

『罪人は敬虔なる神の使徒に触れられない』

 

 知恵の実を食べた罪悪を永遠に憎み続ける神の代行者。

 

『神に逆らう者は滅びに至る』

 

 全ての時代に存在する、在りとて在るもの。

 

『我らは神の憤りを招き、道を失わぬ様に』

 

 神の喜びに歓び、神の嘆きに怒る天の被造物。

 

『主の賛美は永遠に続く。全能の神、神は栄光の王である』

 

 神を礼賛する喝采。それは、アビドスの夜明けを退けた。

 ──────暗い、黒い空が来たる。

 

『アクセス────聖四文字(テトラグラマトン)

 

 この地に生きる全ての命を『罪深い』と嘆く、原罪無き生命の至宝は神の楽園を再臨させる為に舞い降りる。

 

主よ、その御許に近づかん(モード・セフィロト)

 

 ──────それは、数多の神話と信仰を轢殺した唯一神の御許に在る樹。他宗教、多神話にて神と崇められた存在を悪魔と見做し、貶め、己が神話へと組み込んだ、世界最大の信仰。

 

 第三セフィラ、ビナー。此処に再起動を果たした。

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