シャーレ活動備忘録   作:遊園市街

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その名はアリス

 

 ミレニアムサイエンススクール、ゲーム開発部の部室。そこには廃墟の探索から帰って来たモモイとミドリ、先生。そして────。

 

「────?」

 

 部室の中央、クッションを抱きしめながら興味深そうに辺りを見渡す少女がいた。廃墟で見つけた機械仕掛けの少女。空を溶かしたような青の瞳には人間的な情緒はまだ少ないが、オートマタ達よりも数段人間的だ。動きに不自然さが皆無で、滑らかに動く様は正に人間。ロストテクノロジーと呼ぶに相応しい、今のキヴォトスよりも数世紀先に進んだ科学技術の結晶だった。

 

「ねえ、ちょっと!? この子を部室にまで連れてきてどうするの!」

「うっ、首絞めないでって! 苦しっ、ゲホッ、ゲホッ!」

 

 そんな少女の背後でモモイとミドリは言い合いをしていた。その要因は件の少女。工場で眠っていた彼女をモモイは子の部室まで連れてきてしまったのだ。見つけただけならよかった。動いただけならよかった。だが、部室に連れてきたのは失敗だろう。どうやったって責任なんて取れない。

 

「し、仕方ないじゃん。そもそもあんな恐ろしいロボットたちがいる場所に置いていくわけに────」

「それ、食べ物じゃないよ。口寂しいなら飴でも食べるかい?」

「ああっ! 私のWeeリモコンを口に入れないで! ペッてして! ペッて!」

 

 先生の諭すような声音とモモイの説得が効いたのかは不明だが、少女は口に含んでいたゲームのコントローラーを吐き出した。口内の温度で温められ、唾液と歯形が付着したコントローラーをげんなりとした顔で眺め、ぽいと放り投げる。

 

 先生は空いた少女の口に飴を差し出していたが、飴玉を掴んでいた指ごと食べられていて苦笑いを浮べていた。舌で指先を舐められたり、或いは噛まれたり。先生もまさか指まで口に含まれるとは思っていなかったが、当初の目的である少女の興味を引く事には成功しているため、暫くこのままでいいだろうと判断した。

 そして、少女達も先生が気を引いている内に今後の方針を固めようとひそひそ話を再開する。

 

「……やっぱり、放っておくわけにはいかないでしょ」

「それはそうだけど……今からでも、連邦生徒会かヴァルキューレ辺りに連絡した方が良くない?」

「……それはまだ。私たちのやるべきことが終わった後にね」

「やるべきこと?」

 

 そう言って、モモイは少女の方へ向かう。その気配を感じ取ったのか、少女は先生の指先から口を離し……桃色の少女を見る。青色の、透き通った瞳。穢れを一切知らぬ無垢に射貫かれた彼女は一瞬だけたじろいで……それから、気を取り直して。

 

「さて、とりあえず名前は必要だよね。『アリス』って呼ぼうかな」

「……本機の名称、『アリス』。確認をお願いします」

「ちょ、ちょっと待って! それお姉ちゃんが勝手に読んだ名前でしょ!? 本当なら『AL-1Sちゃん』なんじゃないの?」

「そんなに長いと呼びにくいじゃん。どう、アリス? 気に入った?」

 

 モモイは自信満々な表情で少女を見る。不思議の国(廃墟の工場)で見つけた童話(機械仕掛け)のお姫様。少女の名前としてはぴったりだろう。これ以上に相応しいものは思い付きそうになかった。

 

 ────罪も穢れも知らない、何色にも染まる純白。純真無垢を体現したそのキャンバスに描く最初の一筆は、大切な名前を決めるために。

 

「……肯定」

 

 そして────その祈りは、少女までちゃんと届いた。

 

「本機、アリス」

 

 ────あぁ、透明の君に万雷の喝采と祝福を。君は今、この時……初めて『命』になった。自らの名を自らで選んだその決断に溢れんばかりの花束を。アリスとして生きる君に、愛を。

 

「あはは! ほら、見たか私のネーミングセンス!」

「うーん……本人が気に入ってるならいいけど」

 

 何処か釈然としないながらも、本人が良いなら良いか、と流す事を選んだミドリ。確かにAL-1Sよりもアリスの方が名前としては相応しいだろう。それに、此方の方が呼ぶ方も呼ばれる方も親しみを持ちやすい。

 

 ────アリス。確かに、良い名前だ。姉にしては抜群のネーミングセンスと言えなくもない。

 

「さあ、それじゃ次のステップに行ってみよっか」

「お姉ちゃん、いったい何を考えてるの……? 子猫を捨ってきたとか、そういうレベルじゃないんだからね!?」

「ミドリの方こそ、よく考えてみてよ。そもそも私たちが危険を冒してまで、G.Bibleを探してた理由は何だったっけ?」

「それは……良いゲームを作って、部活を廃部にさせないためでしょ?」

「そう、今一番大事な問題はそれ」

 

 あの探索の目標はG.Bibleを手に入れる事。そして、入手した物を使用してゲームを作成し、ミレニアムプライスで受賞する事。

 だが、それらは目的ではなく手段なのだ───部の存続の為の。

 

「良いゲームも作りたいけど、まずは部活の維持が最優先。それで、そのためには二つの条件のうち、どっちかをクリアする必要がある。ミレニアムプライスで受賞を狙うのは、あくまでその内の一つに過ぎない」

「あくまでも何も、方法は実際のところ一つしか無いでしょ? お姉ちゃんがそう言ったんじゃん。だってこれ以上部員を増やすのは無理……」

 

 そこまで口に出した所でミドリは気付いた。部員を増やす方法。確かに、ミレニアム内で新規に部員を募っても入部を引き出す事は難しいだろう。だが────今、此処にいる少女は違う。目覚めたばかりでミレニアムの生徒ではないのだ。

 しかし、その案は余りにも突拍子過ぎて。頼むから外れてくれと思いながら、オイルの切れた錻力人形のように首を動かし────姉の方を向いた。

 

「お、お姉ちゃん、まさかとは思うけど……この子をミレニアムの生徒に偽装して、うちの部に入れようとしてるんじゃ……!?」

「ああっ! 私のゲームガールズアドバンスSP、食べちゃダメっ! 8コア16スレッドカスタムCPUに8K解像度を誇る、キヴォトス唯一の16bitゲーム機なんだよ!?」

 

 そこには先のコントローラーと同じ要領でゲーム機本体を齧っているアリスと、それを何とかして吐き出させたいモモイが格闘を繰り広げていて。先生は特に手出しをする事なく微笑みながら成り行きを見守っていた。

 その光景に一人だけ頭を悩ませていることが馬鹿らしくなったミドリは大きな溜息を吐いた。

 

「ああもう……大丈夫なのかな……?」

 

 

 ▼

 

 

 アリスを部室に連れてきてから30分が経ち、今後の方針がある程度固まった頃。4人に増えたことにより若干手狭になった部室を眺めながら、ミドリは改めて「うーん……」と声を呻らせた。

 

「やっぱり心配……この子をうちの部員に偽装するなんて……本当に大丈夫?」

「『大丈夫』の意味を確認……『状態が悪くなく問題が発生していない状況』のことと推定、肯定します」

「いやいや、肯定できないって! この口調じゃ絶対疑われるよ! やめておこう!? これは無理だって!」

 

 ミドリの疑念が確信に変わるまでの時間は10秒も無かった。最初から問題じゃない箇所の方が多い位であったが、新しく口調という問題点が追加されてしまったのだ。出来立てのAIのような、ライブラリのワードをそのまま引用した言葉。誰だって怪しいと疑うだろう。少なくともミドリはこの口調のアリスを新入部員と言い張った所で、ユウカが『はい、そうですか』と認めてくれる未来は見えなかった。

 

「今やめるって選択肢の方が無理だよ。何としても、私たちのゲーム開発部を守らなきゃ。そうしないと、ユズの居場所が……寮に戻るわけにはいかないし……」

「……そう、だったね……」

 

 そう、ここで止めてしまえばゲーム開発部は廃部回避の道を1つ潰してしまう事になる。そうなると残された道はミレニアムプライスの受賞のみ。それが困難な道だというのはモモイもミドリもよく分かっている。なにせ、エンジニア部やヴェリタスといったミレニアムが誇る天才達と同じ土俵で戦う事を示すのだから。

 ゲーム開発部はゲームが好きで、ゲームの開発をしている部活だ。だが、それだけだ。時代の最先端を行く技術を持っている訳でも、類稀な知性を持っている訳でもない。同好会的な側面が強い少女達では逆立ちしても天才集う部活と真っ向勝負なんてできないだろう。

 

 故に、ミレニアムプライスで勝負するルートを回避できるなら、それに越したことはない。確率の低い道より、高い道。ゲーム開発部の存続は最優先事項だ。ユズの為にもこの部を無くしてしまう訳にはいかない。

 

「服装もある程度整ったし、あとは武器と……学生登録をして、学生証を手に入れないと」

 

 制服はスペアを使って何とかなった。私服や下着は後々増やしていけばいいだろう。あとは生活するための部屋も必要だが……これは暫くゲーム開発部の部室を使えばいい。勿論、ゆくゆくは考えなければならない事であるが、今は後回し。

 最優先は彼女をキヴォトスの、ミレニアムの生徒にする事。恐らく彼女は学籍も何も持っていないだろう。学生自治を謳うこの場所でそれは致命的だ。故に、何としてもキヴォトスの学生の象徴であるワンオフの武器と、学校に在籍する事を証明する学生証を発行しなければならない。

 

「学生証については、私と……」

 

 モモイは邪魔にならないように部屋の隅で座っている先生の方を見ると、彼女の意図を察した彼は立ち上がった。同伴の申し出。自分一人ではミレニアムの学生課にいるオートマタ達の首を縦に振らせるのは難しいと考えたモモイは、先生という名のシャーレの権威を使う事を選んだ。

 そして、特に断る理由が無い彼も了承。『この時間で学生課、空いてるかな』と思いながらハンガーに掛けたコートを羽織る。

 

「私と先生の方で何とかするから、ミドリはユズと2人でアリスに「話し方」を教えてあげて」

「は、話し方?」

「今のままだとミドリが言った通り、疑われちゃうかもしれないから。唯でさえ『友達もいない貴方達に新しい部員の募集なんて出来るはすないでしょ』って言われてるし……もし、何かの拍子にユウカに『本当にゲーム開発部なのか』って聞かれたとして」

 

 モモイは軽く咳ばらいをして。

 

「『肯定、あなたの質問に対し、アリスの回答を提示。私はゲーム開発部の部員』……なんて言っちゃった暁には、全部台無しになりかねない」

「いや、それはそうだけど……」

 

 微妙に似ているようで似ていない、30%くらいのアリスを再現したモモイ。溌剌とした彼女には機械的な、平坦な口調は難しかったのだろう。彼女自身、『あんまり似てなかったな……』と内心思っている。

 

 先程の発言を鑑みるに普通に言いそうだった。というか、絶対に言う。確かにこの口調でユウカの前に立ったらゲーム開発部は少女誘拐を真っ先に疑われるだろう。そして、それが事実だと発覚したら廃部どころの話ではなくなってしまう。確実にヴァルキューレのお世話になるはずだ。元カイザー理事が生徒誘拐未遂の疑いで連日報道されていたことは記憶に新しい。アリスをここに連れてきた時点でもう逃げ道は失われてしまったのだ。

 

 ミドリはモモイとアリス、それから先生を交互に見て……それから観念したように「はぁ」と大きなため息を吐いて覚悟を決めた。

 

「仕方ない、やれるだけやってみるよ」

「よし、じゃあ任せた!」

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 ミドリから了承の言葉を引き出すや否や、先生を連れて部室を飛び出したモモイ。引き止める言葉と手は何もない空中を切った。置いてきぼりにされた彼女は本日何度目かの溜息を吐いて、青い瞳で見つめるアリスを視界に収めた。

 

「……?」

 

 ────綺麗だ。改めて見ても、そう思う。完成された芸術品のような無駄を削ぎ落したような美そのもの。同性であるからこそ、その美しさを否が応でも知覚してしまう。

 彼女が作り出した雰囲気に吞まれないように、ミドリは頬を掻きながら口を開く。

 

「え、えっと……アリス、ちゃん?」

「肯定。本機の名称、アリスです」

「うん、じゃあアリスちゃんって呼ぶね。それにしても話し方かあ……よく考えると、どうやって習得するんだろ。普通は動画を見たり、周りの言葉を真似していくうちに自然に、って感じだと思うけど……子供用の教育プログラムってインターネットに落ちてるかな……」

 

 うーん、と声を呻らせながら悩むミドリ。通常、話し方の習得と言語の習得はワンセットだ。だが、彼女は違う。話し方がまるで辞書を引いているようなものなのだ。根本的な意思疎通に問題は無い事が問題点。無機質な口調から情緒のあるものへと何とか変えたいのだが……如何せん、その方法が思い当たらない。

 

「────?」

 

 そんなミドリを尻目にアリスは部室の探索を始める。物珍しいのだろう。あの時、目覚めるまで彼女はずっとあそこで眠っていたのだろうから。初めての目覚め、初めての外界。興味を惹かれない方が不思議だ。彼女の眼にはきっと全てが新鮮に映っているだろう。彼女は知的好奇心の赴くままきょろきょろと周囲を見渡し……その瞳が、あるものを捉えた。

 

「正体不明の物を発見、確認を行います」

「あっ、そ、それは……っ!?」

 

 彼女が手に取ったのは何の変哲もない一冊の書籍だった。ゲーム雑誌。上に飛び出ているのはあるページを指す付箋。

 

「えっと。ちょっと恥ずかしいけど、実はその中に、私たちが作ったゲームが載ってるの。まあ、凄い酷評されちゃったんだけどね」

 

 そう言い、苦笑いするミドリ。それから2人の間に気まずい沈黙が流れるが……ミドリが何かを思いついたように「あ、そうだ!」と声を上げた。

 

「クソゲーランキングでは1位になっちゃったし、アリスちゃんがどう思うかは分からないけど……アリスちゃん、私たちのゲーム……やってみない? 『会話』をしながら進められるから、ゲームをやってみるのも勉強になるかも」

「……ここまでの言動の意図、完璧には把握しかねます」

 

 その言葉にミドリは肩を落とす。分かっていた事だった。クソゲー1位のゲームを好んでやりたがる人は希少種だ。それをやるくらいなら、もっと他の……名作をやった方が良い学習にはなるだろう。

 だが、それでも、少しだけ悲しい……そう思った彼女の心に立ち込めた暗雲を払ったのは、アリスの「しかし」という言葉で。

 

「……肯定、アリスはゲームをします」

「ほ、本当に!? ちょ、ちょっと待ってて、すぐにセッティングするから!」

 

 顔を明るくしたミドリは床に乱雑に転がっているクッションや衣類を蹴飛ばし、部屋の端に追いやりながらゲーム機本体とモニター、そしてアリスがプレイする場所と自身が観戦する場所を確保する。ものの5分弱でゲームをやるためのセッティングを終えた彼女は今日一日を通して最も明るい顔でアリスの方を振り返った。

 

「よし、準備完了!」

「……アリス、ゲームを開始します」

 

 ────コスモス世紀2354年、人類は劫火の炎に包まれた。

 

「タイトルから分かるかもしれないけど、このゲームは童話テイストで、色彩豊かな王道ファンタジーRPGなの。王道とは言っても、色々な要素を混ぜてたりするんだけどね。トレンドそのままでもダメだけど、王道に拘りすぎても古くなるからってことで」

 

 劫火の炎ってなんか頭痛が痛いみたい、なんて事を思い浮かべる。姉はかっこいい言い回しをしようとして空回りする事が多い。次回作はもう少しその性を抑えさせないと────と。だが、今は関係のない事だから、頭の片隅に記すだけに留める。

 

 再び画面の方を見ると、プロローグを全て読み終えたアリスはチュートリアルの入り口に差し掛かっていた。

 

「……ボタンを押します……」

 

 そして、画面のチュートリアルの指示に従いボタンを押し込んだ途端────。

 

Game Over

 

「!?!?」

 

 爆発音と共に即死した。

 

「あははははっ!」

 

 頭の中がエラーで一杯になったアリスを笑う声。その声の主は学生証を発行しに学生課へ向かったはずのモモイだった。笑う彼女の隣には苦笑いを浮べた先生が立っている。

 

「予想できる展開ほどつまらないものはないよね! 本当はここで指示通りじゃなくて、Aボタンを押さなきゃいけないの!」

「お姉ちゃん……? 学生証を作りに行くって言ってなかった?」

「行ってきたんだけど、遅い時間だったからか誰もいなかったの。また明日行く」

「それはさておき、改めて見てもこの部分はちょっと酷いと思う」

 

 チュートリアルで死ぬゲームは珍しいが、それでも世の中に皆無なわけではない。所謂、硬派なゲームや死にゲーと呼ばれるもの。一切の妥協なくプレイヤーに世界観や難易度を楽しんでもらうために敢えて敷居を高くしているのだ。突破した達成感を味わってもらうために。

 

 だが、それでも────チュートリアルに従いボタン一つ押した瞬間爆死するゲームは無いだろう。かなり悪質な初見殺し。チュートリアルに見放されたらプレイヤーは何を信じたらいいのか分からなくなってしまう。正気が足りない、と言われるにはそれ相応の理由があるのだ。

 過去にこのゲームのリアルタイムアタックをやった先生は苦笑いしながら、エラーで一杯になったアリスの応答再開を待つ。

 

 尚、先生の記録はゲーム部の部長が参戦したことにより一瞬で破られたのだが、これは完全な余談である。

 

「も、もう一度始めます……」

「再開。テキストでは説明不可能な感情が発生しています」

「あっ、私それ分かるかも! きっと『興味』とか『期待』とか、そういう感情だと思う!」

「どう考えても『怒り』か『困惑』だと思うけど……というかこれ、一種の虐待なんじゃ……」

 

 モモイの言葉に従い、チュートリアルに逆らいBボタンではなくAボタンを押し武器を装備したアリス。爆発も起きずにきちんと装備できた事に安堵しながら、彼女は道なりに進んでいく。

 

「お、良い感じ。そのまま進めば、RPGの花である戦闘が……」

 

 言うや否や、緊迫した音と共に画面が切り替わった。エネミーとのエンカウント。王道RPGの花形である戦闘────それが、開始した。

 BGMが戦闘専用のものへとシフトし、モニターには古き良きRPGの戦闘画面が表示される。先ほどとは打って変わったその光景にアリスは目を輝かせながら。

 

「緊張、高揚、興味」

「Aボタンを押して! 今度は嘘じゃないから!」

「Aボタン。『秘剣つばめ返し:敵に対して2回攻撃をする』」

 

 そのコマンドを確認したアリスは意気揚々とAボタンを叩く。

 

「行きます、プニプニに対して……秘剣! つばめ────!」

 

 だが、アリスの攻撃は叶わない。先手は敵が取った。敵性生物の攻撃はアリスの操作キャラに命中し──────。

 

「!?!?」

 

 即死した。ゲーム開始数分で2回目のゲームオーバーである。因みにプニプニなる敵の得物は銃だ。合理性と機能美を突き詰めたハンドガンは剣よりも射程が長く、誰でも使える。それを鑑みると確かに合理的であるが、剣と魔法で戦うファンタジー世界に現代兵器は色々とミスマッチな気がする。

 あと、プニプニはそのスライム状の体でどうやって銃を握り、トリガーを引いているのだろうか。謎は深まるばかりであった。

 

「うーん、やっぱりプニプニが『ふっ』って言うのは不自然かな」

「……ツッコみどころはそこじゃないと思う」

「思考停止、電算処理が追いつきません」

「あ、アリスちゃん? 大丈夫?」

 

 沈黙したアリスを心配した表情で見つめる2人。思考停止、電算処理が追い付かない────というエラー文。度重なる理解不能な現象を前にアリスの脳がオーバーヒートを起こしてしまったのだ。前期の知生体が遺した彼女を一時的に機能停止に追い込んだこのゲームは結構恐ろしいものではないのだろうか。

 暫くすると、アリスの体に生命の息吹が宿った。再起動が完了したのだ。そして数秒後、彼女は目を開く。

 

「リブート、再開します」

「今度は銃の射程距離把握に努めながら、接近しすぎないようにプニプニを排除します」

「そう、まさにそれ! 諦めずに繰り返し挑戦して、試行錯の末に答えを見つける! それがレトロチックなゲームのロマンだよ!」

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