シャーレ活動備忘録   作:遊園市街

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光の剣

 結局、アリスのゲームは夜通し続いた。3人に勧められるがままに平積みされたゲーム機と本体。それを1つ、また1つとクリアを重ねていき、夜が明ける頃には約半分程クリアを終えていた。それは非常に高い学習能力の賜物か、或いはアリス本人が関心を抱いたからか。

 勿論、そこにはゲーム開発部の3人のサポートがあった。だが、夜も遅くなると全員ダウンし、日付が変わってからはアリス1人しか起きていなかったのだ。尚、ゲーム開発部の部室で一夜を明かす訳にはいかない先生は午後18時頃に「また明日来るね」と言い残し、シャーレに帰った。

 

 故に、日が変わってからは先生の不在と3人が夢の世界に旅立った事によりアリスはアシストもなく1人でゲームをプレイしなければならなかかったのだが……経験を重ねた彼女はもう既に目覚めたばかりのような透明でも、純白でもない。彼女は3人が眠った後は1人で黙々と考え、クリアし、そして自らの意志で次にやりたいゲームを選んだ。

 

 ────それは自由意志の芽生え。彼女はまた一歩、命としての道を進んだ。眩く煌めく黄金の様な、生命の紀行。彼女は星を見上げた知性体の仲間入りを果たした。

 

 その輝かしい生誕の一端を担った少女達、その1人であるミドリは薄っすらと目を開いた。カーテンの隙間から差し込む光に顔を顰めて、いつの間にか掛けられていたブランケットを頭まで被ろうとするが……そこで、先ほどの光が朝日だと思い至る。寝落ちしたと気付いた彼女はブランケットを蹴飛ばす勢いで飛び起き、手元のスマホで時間を確認した。

 

「えっ、もう朝!? しまった、準備しなきゃ……」

「ようやく気が付いたか……無事に目を覚ましたようで何よりだ、君は運がいいな」

「えッ!?」

 

 未だ覚醒しきっていない頭と、聞こえた声。寝ている間にゲームの賢者の家か何かにでも迷い込んだのかと驚いた顔のまま周囲を見渡すと────ゲーム機とモニターの真正面、昨日から何も変わっていない少女が座っていた。その姿に何処かほっとしたような表情を浮かべて。

 

「あ、アリスちゃんか……調子はどう? 色々と覚えられた?」

「君の言葉を肯定しよう、必滅者よ」

「な、何か偏った台詞ばっかり覚えてない……!?」

 

 昨日から思っていた事だが、覚える言葉のレパートリーが偏りまくっている。プレイさせたゲームの多くが戦闘系だった事が祟ったのか。今度はもう少し穏やかなゲームをプレイさせた方が良いのかもしれない。これまでアリスが発してきた言葉の多くが日常生活では翻訳必須であり……これはこれで怪しまれそうな気がする。円滑、と言えば円滑だが、それでも違和感は拭えない。まるでゲームの中から飛び出してきたような……そういった類のズレ。また方針を考えなければならないだろう。今度はユズも含めて3人で。

 

「おはよう!」

「おはよう、皆」

 

 部室のドアが開くや否や朝の眠気を一切感じさせない明るい声と、それに相対するような落ち着いた優しい声音が響いた。モモイと先生の2人。ミドリとアリスは2人に澱みなく「おはよう」と返したが、ユズはまだ先生が怖いのか目を背けて何かを堪えるようにか細い声を絞り出す。すると、彼はふわりと微笑んだ。まるで天使の羽根が落ちたような笑み。思わずユズも顔が緩んでしまい……それが恥ずかしいのか、直ぐに顔を背けてしまった。

 

 少しずつ、だけど着実に距離が縮まっている2人を尻目にモモイはアリスに封筒を手渡す。本当なら昨日の内に渡したかった、彼女の所属を示す大切なものを。

 

「アリス、これ」

「……アリスは『正体不明の書類』を獲得した」

「おっ、またさらに口調が洗練されてるね。これは『学生証」だよ」

「洗練っていうか、レトロゲームの会話調そのものだけどね……」

 

 アリスは受け取った封筒の中から1枚のカードを取り出し、光に当てながら眺めていた、自分の名前、天童アリス。顔写真。ミレニアムサイエンススクール所属。裏面を見ると住所と思わしき物が書かれている。自らを示すカードを彼女は不思議そうに見て、ポツリと呟く。

 

「学生証……」

「この学生証は、私たちの学校の生徒だっていう証明書。生徒名簿にもヴェリタスがハッキ……いや、登録してくれたから、もうアリスも正式に私たちの仲間だよ!」

「仲間……なるほど、理解しました。パンパカパーン、アリスが『仲間』として合流しました!」

 

 口からセルフSEを奏でながら、RPGの合流イベントを演出する。半ば強制的な加入であったが、どうやら彼女は喜んでくれたようでその顔には笑みが浮かんでいる。所属している部活の欄もゲーム開発部と描かれており、名実ともに彼女は3人の仲間入りを果たした。

 

「ねえ、今、『ハッキング』って言わなかった……?」

「大丈夫大丈夫! さて服装と学生証、それに話し方! この辺は全部解決できたから、あとは……武器、だね。アリス、せっかくだし案内するよ」

 

 モモイはアリスの手を引いて歩く。ミドリはそれに付いて行き、ユズは部室に残る選択を。先生は3人に同伴する。「行ってきます」と言ってドアを開けると、其処はキヴォトス最先端を歩むミレニアムらしい近未来的な光景が広がっていた。アリスは内心『これがSF……!』と若干感動している。尚、彼女の方が余程SFである。

 朝早くという事もあり、廊下の人通りは疎らだった。精々、偶にすれ違う程度。道行く生徒達の目的は恐らく部活か何かの朝練だろう。雰囲気も全体的に落ち着いている。学生が集う場所らしい活気は、この時間にはまだなかった。

 

 モモイとミドリにとって、この人通りの少なさはありがたかった。何せ今はアリスという目立つ少女と、先生というキヴォトスの有名人を連れているのだ。往来が激しい時間に出歩いてしまえば針の筵となる事間違いなしだろう。視線の雨に晒される事に大きな抵抗はなくとも、何事にも限度はある。先生とアリスが居る今、その限度が易々と超えられてしまう事は想像に難くなかった。

 

「ミレニアム……ううん、キヴォトスの生徒は、みんなそれぞれ自分の武器を持ってるの。だから、アリスにも武器を見繕ってもらわないとね。調達する方法は色々あるけど、このミレニアムで一番手っ取り早く、ちゃんとした武器が手に入る場所と言えば……やっぱりエンジニア部かな」

「エンジニア、部……?」

「そうそう、分かりやすく言うと鍛冶屋みたいなものかな?」

 

 モモイがそう言うと、アリスは「なるほど」と言って手を打った。鍛冶屋、とは言い得て妙だろう。武器は至る所に転がっているし、便利な発明品も『何に使うのこれ?』と思わざるを得ないような変な作品が所狭しと並んでいる。そこならば、キヴォトスで使用されている武器の大体は入手できるだろう。

 

「機械を作ったり、修理したりする専門家たちのことを、ミレニアムでは『マイスター』って呼んでるんだけど……エンジニア部はそのマイスターがたくさん集まってる、ハードウェアに特化した部活なの」

「機械全般に精通してるのはもちろん、武器の修理とか改造なんかも担当してる部活だから。多分、使ってない武器とかが色々残ってるんじゃないかなって。というわけで、学校の案内がてら早速行ってみよっか!」

 

 

 ▼

 

 

 ミレニアムサイエンススクール、エンジニア部の部室。学校の本校舎からは少し離れた場所に在る此処は朝の喧騒から更に遠かった。聞こえてくるのは機械の駆動音と、金属の鳴る音。

 

 潤沢な予算を与えられている事が伺える広い部室と整った設備。

 そして、その広い部屋の半分以上を占めている発明品。

 至る所に示されているCAUTION(注意)のマーク。

 そして、コーヒーやエナジードリンク、カロリーバーの残骸が積まれているゴミ箱。

 

 ソフトウェアに特化したヴェリタスと対を成す、ハードウェア特化の部活。ゲーム開発部が目標としているミレニアムプライスにて毎年賞を取っている、ミレニアムにおいても有数の天才集団である。

 

「成程、大体把握できたよ。新しい仲間に、より良い武器をプレゼントしたい……と。そういうことであれば、エンジニア部に来たのは素晴らしい選択だね。先生も久しぶり」

「久しぶり、ウタハ。また会えて嬉しいよ」

 

 チェアに腰掛け、スパナを片手に機械をいじっている大人びた美人……白石ウタハはそう言って、ゲーム開発部の3人と先生を歓迎した。彼女こそがマイスター集うエンジニア部の部長だ。多種多様のロボットの製作を続けるハードウェアの申し子であり、ミレニアム随一の発明家。彼女は耳にかかった明るい紫の髪を上げて、部室の隅の方を流し目で見る。

 

「ミレニアムにおける勝敗というのは、優れた技術者の有無に大きく左右されてしまうものだ。そっちの方に、私達がこれまで作ってきた試作品が色々と置いてある。そこにあるものであれば、どれを持って行っても構わないよ」

「やった! ありがとう、先輩!」

「やあ……初めまして、アリス。1年生のヒビキだよ。良ければ私が、何か良いものを見繕ってあげる……」

 

 音もなく表れたのは、アリスやモモイ達と同じ1年の猫塚ヒビキだった。1年生と雖も、マイスター集うエンジニア部に所属する彼女は紛れもなく天才である。数多の発明品を作成している彼女であるが、その優秀な性能と全く関係ない変な機能を付ける事で有名だとか。特に付くのは自爆機能とBluetooth機能らしい。変なものだと、トランプの自動シャッフル機能が付いた事例もあるのだとか。

 

 そんな彼女は武器が乱雑に転がっている部屋の隅まで移動し、両手に取りながら吟味し……そして、1つを手渡した。

 

「……これはどう、アリス?」

「へえ、挙銃?」

「うん。見た感じ、多分だけど……これまでにあまり戦闘経験は無いはず……」

「その言葉は否定します。アリスはこれまでに人類を27回救い、魔王軍との46回に渡る戦闘を行い、三桁を超えるダンジョン探索を行ってきました。経験値はそれなりに豊富です」

「それは、すごいね……」

 

 実戦経験を聞いたらゲームの話が返ってきたヒビキは困惑しながら返す。成程、ゲーム開発部のお友達らしく彼女もゲーマーのようだ。それも、結構重度の。だが、今は剣と魔法で魔王を切り倒した経験ではなく、実際に銃を握った経験の有無が重要だ。彼女は「兎に角」と言って、話を強引に元の路線へ戻す。

 

「銃器を使用した経験は……あまり無さそう。そういう人にはやっぱり拳銃が良い。これはプラスチック製だから軽いし、反動も少ない。そういう意味でも、色々と初心者に優しいはず。それに、何より……この銃にはミレニアム史上、今まで存在しなかった機能が搭載されてる」

「な、何それ?」

「何か聞く前から凄そう……いったいどんな機能なの?」

 

 ミレニアム史上、初の機能。大体の機能や発明品が集うミレニアムのおいて『初』という言葉はそれ相応に重要な意味を持つ。ごくり、と生唾を呑んでその史上初の機能を聞こうとするが……。

 

「それはね────Bluetooth機能、だよ」

「……え?」

 

 発明者たるヒビキの口から飛び出てきたのは、余りにも馴染みのある機能であった。イヤホンやキーボード、マウス等の幅広い機器に使われている国際標準規格の無線通信技術。ゲーム開発部にも幾つも転がっているだろう。対応製品も、搭載製品も。

 どんなトンデモ技術が飛び出てくるやらと身構えていた2人にとって、この機能は拍子抜けが過ぎた。思わず気の抜けた声が口から漏れて、ぱちぱちと瞳を瞬かせる。

 だが、ヒビキはそんな2人を置いてきぼりにして己の発明品の機能を話し始めた。

 

「Bluetoothを通じて、音楽鑑賞やファイルの転送まで可能な拳銃……調べた限り、そんなものは今までに存在しなかった。もちろん、スモモ機能も搭載。乗り場のICパネルにタッチして、交通機関を利用することもできる。それにNFC機能も付いてるから、コンビニペイだって使えちゃう」

「凄いと言えば、凄い気もするけど……コンビニで『これで決済を』って拳銃を突き出したら、店員の人がびっくりしちゃうよ!」

「びっくりどころか、普通に強盗じゃんそんなの……」

 

 さしずめ、『これで決済を(対価は命だ)』だろうか。銃撃が一般化しているキヴォトスでも銀行強盗は普通に犯罪だ。そんな事をすれば間違いなくヴァルキューレの御用になるだろう。

 苦笑い混じりでミドリが言えば、モモイも同意見のようで肩を落とす。一方、ヒビキは折角の画期的な発明品に同意を得られなかった事が若干悲しいのか「便利なのに……多分……」と呟き、再びアリスの使う武器の見繕いを開始するが……そこで気付いた。アリスの姿が先ほどから見えないのだ。きょろきょろと視線を動かすと、モモイとミドリも彼女を探しているようで部室を見渡していた。

 

「あれ、そういえばアリスちゃんはどこに……? アリスちゃん、アリスちゃーん?」

「……あ、あそこに」

 

 ヒビキが指差したのは部室の隅。アリスは己の身の丈以上の大砲を眺めていた。まるで魅入られたように、視線を動かさず。

 

 ────それは、まるで武器に導かれたようであった。

 

「ふっふっふっ……お客さん、お目が高いですね」

「え、えっと……?」

「説明が必要なら、いつでもどこでも答えをご提供! エンジニア部のマイスター、コトリです!」

「……?」

 

 アリスの傍に現われたのは、エンジニア部のマイスター、1年の豊見コトリ。一度物事を語り出すと止まらない舌を持つ、解説と説明が好きな彼女は非常にハイテンションであった。その高さたるや、アリスが思わず言葉に詰まるレベル。

 その理由はやはり、アリスが先ほどまで見つめていた大砲にある。あれはエンジニア部の発明品の中でも有数の出来栄えを誇っているのだ。他の武器には目もくれず、唯一つを見つめる彼女を見て────技術者としてテンションが上がらない訳がない。彼女は本当に良いものを見抜いてくれたのだ。

 

「あなたがアリスですね。ゲーム開発部、四人目のメンバー!」

「あ、コトリちゃん久しぶり。ところで、アリスちゃんが見てるこの大きいのは何? まるで大砲みたいだけど……」

「良い質問ですね、ミドリ。これはエンジニア部の下半期の予算、その内の約70%近くをかけて作られた────エンジニア部の野心作、宇宙戦艦搭載用レールガンです!」

「宇宙戦艦、って……また何かとんでもないことを……」

 

 一気に大きくなった話のスケールにミドリは頭を抱える。だが、エンジニア部では見慣れた光景だった。彼女達は変な機能や変な発明品を頻繁に作成している。定期的にはっちゃけないと発作が起きるのだろうか。目を見張る様な素晴らしい成果の裏にはこういう己の趣味や性癖に正直になったびっくりどっきりメカが山のように積み重なっている。

 

「前にも、確かコールドスリープしようとして、『未来でまた会おう』って言いながら冬眠装置を作って大騒ぎした挙句、皆して風邪ひいてなかった?」

「その『未来直行エクスプレス』なら、今でもよく使っているよ……まあ、冷蔵庫として、だがね。食べ物をもっと先の未来にまで送れるようになったから、失敗ではないさ」

「使い道の割に、名前が大袈裟!」

 

 ウタハが指差した方向に鎮座するは、人が数人は収容できる巨大な冷蔵庫。これこそが未来直行エクスプレスだった。人をコールドスリープさせるには至らなかったが、冷蔵庫……物資を冷却する機能に関しては充分であり、こうして冷蔵庫として使用している。本来の使い方からは逸脱してしまったが、これはこれで便利なのだ。

 

「話を戻しますとエンジニア部は今、ヘリコプターや汎用作業ロボットに続いて、宇宙戦艦の開発を目標としているのです! このレールガンは、その最初の一歩です。大気圏外での戦闘を目的として開発された実弾兵器! これはミレニアム史上、明らかに類を見ない初の試みです!」

「かっこいい……聞いただけでワクワクしてくる!」

「さすがミレニアムのエンジニア部! 今回は上手く行ってるんだね!?」

「ふっふっふっ、勿論です! ……と言いたいところだったのですが、ちょっと今は中断してまして……」

「えええっ!? なんで! 期待したのに!」

「いつものことながら技術者たちの足を引っ張るのは、いつの世も想像力や情熱の欠如ではなく、予算なんです……」

 

 結論、予算オーバー。宇宙への栄えある第一歩を踏み出したのは良いが、第二歩目が続かなかった。宇宙での戦闘を想定したコストを度外視したワンオフ兵器は途轍もない金食い虫になり……そして、今はこうして部室の隅で目覚める時を待っている。

 

「このレールガンを作るだけで下半期の予算の70%もかかったのに、宇宙戦艦そのものを作るには果たして、この何千倍の予算がかかることやら……」

「そんなの計画段階で分かることじゃん! どうしてこのレールガン、完成まで持って行っちゃったのさ!?」

「愚問だね、モモイ」

 

 モモイの肩を後ろから叩いたのはウタハであり、その傍らには先生も立っていて。2人は顔を見合わせながら。

 

「……ビーム砲は────」

「ロマンだからだよ」

 

 ウタハと先生は目を見合わせてハイタッチする。そう、ビーム砲はロマンなのだ。口径は大きければ大きいほど良い。巨大ビーム砲とロボットに興奮しないエンジニアと男の子はいない。予算? 運用難易度? そんなものはこのロマンを前にしたら全て些事だ。ビーム砲とロボットからしか得られない栄養素がこの世の中には存在する。

 

「うん」

「その通りです! ビーム砲の魅力が分からないなんて、全く、これだからモモイは……」

「バカだ! 頭良いのにバカの集団がいる!」

 

 ヒビキ、コトリの2人も先生とハイタッチする。この3人と先生の間には同じロマンを共有する心があるのだ。もう、言葉は不要であった。

 

「エンジニア部の情熱が注ぎ込まれた、この武器の正式名称は────」

「『光の剣:スーパーノヴァ』です!」

「また無駄に大げさな名前を……」

「ひ、光の剣……!?」

「あ、アリスの目が輝いてる……!」

 

 キラキラとした目で光の剣を眺めるアリス。彼女の頭の中からはこれまでの武器は全て抜け落ちている。この光の剣……否、勇者の剣しか目に入らない。

 

「わぁ、うわぁ……!」

「アリスちゃんがこんなに興奮してるの、初めて見たかも」

「────これ、欲しいです」

 

 アリスそう言うと、ヒビキは「……え?」と言葉を漏らした。その茫然とした表情を前に、アリスは意味が通じてないのかと思って。

 

「偉大なる鋼鉄の職人よ、あの龍の息吹が欲しいのだ」

「うーん、そう言ってくれるのは嬉しいのだけど……」

「申し訳ないのですが、それはちょっと出来ないご相談です!」

「何で!? この部屋にあるものなら何でも持っていって良いって言ったじゃん!」

「……それは、理由があって……」

「理由? もしかして、私のレベルが足りてないから……装着可能レベルを教えてください! 

「いや……悪いが、そういった問題ではなくてだね……もっと現実的な問題なんだ」

「あー……お金かー……」

 

 呟き、モモイは自分の財布の中身を確認する。中身は心許ないが……アリスの為ならばゲーム開発部の共有財産を幾つか売り払ってでも惜しくはない。彼女は意を決して口を開く。

 

「心配しないでアリス。私が、ミドリのプライステーションを売り払ってでも……」

「お金の問題でもないよ」

「現実にお金以上の問題なんて無いでしょ!」

「まあ、製作における予算という意味では、ある程度同意はするけれど……」

 

 ウタハは「実際に宇宙戦艦も予算の問題で駄目になったからね」と苦笑いを浮べる。だが、今回はそういった……物質や資金的な問題ではなく。

 

「……この武器は、個人の火器として使うには大きくて重すぎる」

「なんと、基本重量だけで140kg以上です! さらに光学照準器とバッテリーを足した上で砲撃を行うと、瞬間的な反動は200kgを超えます!」

 

 そう────如何に身体能力に優れているキヴォトスの生徒と雖も、200kgの反動を完璧に制御するのは困難を極める。それに、元は宇宙戦艦に搭載する予定だった主砲。最初から個人が携帯する兵装ではないのだ。

 

「これをカッコいいと言ってくれただけで、私たちは嬉しいよ。ありがとう。持って行けるのならば、本当にあげたいところなのだけど……」

「────汝、その言葉に一点の曇りもないと言えるか?」

「ん? この子、また喋り方が……」

「た、多分ですが、『本当なのか』って聞いてるんだと思います」

「勿論、は言っていないが……それはつまり、あれを持ちあげるつもり、ということかい?」

 

 その問いにアリスは静かに頷いた。真っ直ぐ剣を見つめる眼差しに一切の曇りはない。彼女は踏み出し、レールガンの取っ手を掴む。

 

「この武器を抜く者……比の地の覇者になるであろう!」

「ふふふっ、なるほど。意気込みは素晴らしいですね!」

「無理は、しない方がいい……クレーンでも使わないと持ち上がらな────」

 

 ヒビキが言ったその瞬間、レールガンが床から浮いた。その余りにも非現実な光景を前に3人の目の色が変わる。

 

「……まさか」

「嘘……」

「えぇぇっ!?」

 

 完全に床から離れた光の剣、その重量を前にアリスも僅かにふらつくが、両脚で大地を踏みしめて踏ん張り────レールガンを構えるに至った。

 

「も、持ち上がりました!」

「嘘……信じられない……」

「これは、凄いね……」

 

 その細く、小さな体の何処にそんな馬鹿げた力があるのか。最初の方こそ不安定だったが、今はもう完全に制御しているのだ。どう考えても彼女は身体能力だけを考えたら、キヴォトスでも上位に位置するだろう。ともすれば、ヒナやホシノといった学園最強戦力に匹敵するレベルだ。

 

「えっと、ボタンは……これがBボタンでしょうか……」

「ま、待って……!」

「ッ……光よ!」

 

 光、一閃。空を切り裂くような極光が砲口から放たれた。その反動を前にアリスは尻餅をついてしまうが、そんな些細な事は響き渡る強烈な破壊音と舞い上がる粉塵と煙を前にしたら些事であった。

 

「あああああっ! わ、私達の部室の天井がぁっ!?」

「す、凄いです! アリス、この武器を装着します!」

 

 煙が晴れると、砲撃が直撃した部室の天井には巨大な風穴が空いていた。差し込む光と風通しの良くなった部室にコトリが膝から崩れ落ちるが、ぶっ放したアリスは光の剣をぶんぶん振り回しご満悦。その表情は新しい玩具を手に入れた無垢な子どものようであった。

 

「ほ、本当に使えるなんて……ですがそれだけは、その……予算とか諸々の問題で、できれば他のでお願いしたく……」

「いや……構わないさ、持っていってくれ」

「ウタハ先輩……本当に良いんですか?」

「あぁ。どちらにせよ、この子以外には使えないだろうからね。ヒビキ、後でアリスが持ち運びやすいように肩組と取っ手の部分を作ってあげてくれ」

「……前向きに考えると、実戦データを取れるようになったのはありがたいかも」

 

 呟き、ヒビキはタブレットを片手に取りつけるストラップの材料を身繕う。

 そう、確かに部室で死蔵するよりはデータが取れる方が何倍もありがたい。何せ、作ったは良いがあまり使っていなかったのだ。アリスが集めたデータを元にすれば、次はもっと良いものを作れるかもしてない。尤も、予算的な意味で次があるかは怪しいのだが。

 

「うわ、何だかものすごい武器をもらっちゃったね! ありがとう!」

「あ、ありがとうございます!」

「いや、お礼にはまだ早いさ」

「え?」

 

 疑問符を浮べる2人を尻目に彼女は手元の端末を操作し、危険物が仕舞われている部屋の鍵のロックを解除する。扉上部のランプが赤から緑に点灯した。

 

「さて……ヒビキ、以前に処分要請を受けたドローンとロボット、全機出してくれるかい?」

「……うん」

「えっと……ウタハ先輩? なんだか展開がおかしいような……」

「これってもしかして、『そう簡単に武器は持って行かせない!』みたいなパターンじゃない!?」

「その通りさ。その武器を本当に持って行きたいのなら……」

「私達を倒してからにしてください!」

 

 ヒビキが部屋の奥から引き連れてきたのは大量のドローンとオートマタだった。本来であれば警備用で配備される予定であったが、その過剰スペックが問題となりセミナーに処分を言い渡された問題作。

 そして、彼女達また己の武器を構える。ウタハもセントリーガン(雷ちゃん)を用意し、準備は万全だ。

 

「ッ!」

「えええっ! そんな、ウタハ先輩どうして!?」

「他の武器なら、喜んで渡しただろうけれど…… その武器に関しては確認……いや、資格と呼んだ方が相応しいかな。それを見極めさせてもらうよ」

「資格? それって……」

「前方に戦闘型ドローン及びロボットを検知、敵性反応を確認」

 

 アリスは光の剣(スーパーノヴァ)を振りかざし。

 

「我、勇者の資格を此処に示さん!」

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