シャーレ活動備忘録   作:遊園市街

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約束された勝利(ダブルオー)

 セミナーとC&C、ドローンの苛烈な攻撃を掻い潜り、何とか部室を脱出したゲーム開発部の4名の少女達。全力疾走をするうちに彼女達は旧校舎の廊下まで辿り着いていた。カリンの射程範囲外。ポジション変更の時間を考えると、ここが狙撃のリスクに晒されないのは約10分弱。それまでに新しい場所に行かなければならないが……恐らく、今も尚ドローンが追ってきているだろう。

 

 物量で負けている以上、真面に相手なんかしていられない。前回は鏡の奪取という目的があったため引けなかったが、今回は特にないのだ。故に取るのは逃げの一手。既にミレニアムプライスへの提出は終わっているため、発表の時間まで一心不乱に逃げる事も可能。最悪、ミレニアムの外部に出てしまってもいい。

 

 そう思っていた少女達の希望的観測を。

 

「────逃げ切れる、とでも思ったか?」

 

 粉々に打ち砕いた。

 

「ッ!?」

 

 その声に一番早く反応したのはミドリだった。恐れていた人の声。前回の作戦に於いて、最大の障害だった彼女。脳髄に刻み込まれた恐怖の赴くまま、過去最高の冴えと速度で銃を構えてトリガーを引いたが────。

 

「遅ぇ」

 

 ミドリの最速よりも、相手の普段の方が圧倒的に速かった。無造作に構えられたSMGから吐き出される弾丸、圧倒的な神秘に裏打ちされた鋼はミドリを貫こうとするが、先生のシールドにより阻まれる。それを見て僅かに眉を顰めたのち、トリガーを引く手を緩めた。効果が薄い事を悟ったのだろう。

 

 勿論、彼女の実力ならばあと数秒掛ければ貫ける。先生のシールドも強力ではあるが、無敵ではないのだから。だが、その数秒間の内にアリスに狙われても面倒だと彼女は判断した。非常に冷静で、クレバーだ。

 

 小柄な姿とメイド服、龍があしらわれたスカジャン。手に持つはMPX(ツイン・ドラゴン)。アリスの恐怖を呼び起こす、その姿。

 あの日見た、ミレニアム最強。C&Cのリーダー。

 

 そのコールサインは────約束された勝利(ダブルオー)

 

 美甘ネルが、彼女達の行く先を遮る巨大な壁として立っていた。

 

「……成程な」

 

 ネルは全員を一瞥し……少女達の奥に立つ、先生を睨みつける。

 

「道理でいちいち良い判断だと思ったぜ。さっきこのチビ達を指揮したのも、ミレニアムの差押品保管所を襲撃したのも……アンタが一枚噛んでたのか、先生」

「彼女達をどうしても放っておけなくてね……初めまして、ネル」

「……噂は聞いてる。その実力もな。最初は眉唾物の噂だと思ってたが……どうやら違うみたいだ」

「お褒めに預かり恐縮……と言いたいけど、私の力なんて大した事ないさ。いつだって頑張ってるのは、生徒達だよ」

「ハッ! 大した事ない奴がアスナ達を手玉に取れるかよ」

 

 先生の自虐とも取れる謙遜にネルは顔を歪める。

 確かに、生徒も頑張っただろう。だが、頑張っただけで唯の生徒がC&Cのエージェント3名を相手にして勝てる訳がないのだ。彼女達の輝かしい勝利には何か本人達の頑張りや運以外の何かがあった。そして、その要因が先生であるとネルは見抜いている。

 

「それで、ネルはどんな用事かな? 見た所、私じゃなくて彼女達に用事があるっぽいけど……」

「も、もしかして……リベンジ、とか……?」

「そんな下らない理由で来る訳ねぇだろうが」

 

 モモイの言葉を笑いながらネルは否定する。そうだ、リベンジなんて下らない、報復も逆襲も不要だ。そもそも、そんな事にかまけていられる程、C&Cは暇じゃない。ネルが此処に来たのは、ゲーム開発部にC&Cを嗾けたのはもっと別の理由がある。

 

「強いて言うならまずは……そこの、でこ出してるアンタ」

 

 ネルはでこを出している少女……ユズに指を刺す。

 

 ────ただ、指先を向けられただけ。ただそれだけなのに、ユズは体の震えが止まらなかった。呼吸が浅くなる。冷や汗が止まらない。数日前に振り絞った勇気が己を嘲笑する。浅はかだ、身の程を弁えろ、と。彼女が挑んだのは文字通りの最強、キヴォトスのピラミッドの頂点に座す存在。

 それに挑戦するという事がどういう意味なのか……数日後の答え合わせが始まった。

 

「あの時は、よくもアタシを騙してくれたな……」

「ひッ……! す、すみません!」

 

 ネルの凄んだ声を聴いた刹那、全速力で頭を下げるユズ。もう半分以上彼女は涙目であった。身体全体で『どうか命だけは』と懇願する彼女であったが……聞こえたのは、予想外の声。

 

「やるじゃねぇか、褒めてやるぜ」

「……え?」

 

 怒られたり怒鳴られたりすることは想定内で、弾丸1マガジン分くらいは覚悟していたのだが……聞こえたのは、予想外の賞賛の言葉。見ればモモイもミドリも同様に鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていて、ネルの真意を測りかねている。

 そんな彼女達の内心を置き去りにしてネルは紡いでいく。己を退けたユズへの賞賛を。

 

「怯えた振りをしてブルブル震えながら、アタシを騙すなんてな。大した演技力だ。ま、実際は演技じゃなかったとしても変わらねえ。アンタは勇気を出して、アタシを退けた。あの日アンタに言った言葉を、アタシは間違いとは思わねぇ」

 

 ネルは最強だ。それは個人の武力という意味でもそうであるが、統率力や指揮能力も非常に優れている。そんな彼女に、死角に隠れるなんて子ども騙しは通用しない。先生を含む4名があの場に隠れていた事は当然分かっていて、保管所にいる事から侵入者の類であるとも判断していた。

 

 故に、彼女はあの部屋ごと4人を纏めてスクラップにするつもりであったのだ。だが、ユズが来て、あの場に隠れている4人の為に精一杯の勇気を振り絞り己に声を掛けた。セミナーの生徒だと、身分を偽って。

 

 勿論、ネルは彼女が嘘を吐いている事を知っていた。仕事で何度も顔を合わせるセミナー生徒、新入りとはいえ顔も名前も知らないなんてありえない。初めから己を騙し、ここから遠ざけるための茶番だと分かっていた。

 だが、それでも乗ったのは、偏にユズの振り絞った勇気に魅せられたからだ。友人の為に立ち上がった彼女の勇気に免じて、ネルはあの4人と彼女自身を見逃した。

 

 その判断を、ユズを評価した事をネルは間違いだったと思っていない。

 

「まあ、それは良いとして……そっちの、バカみたいにデケぇ武器を持ってるアンタ」

「アリスの事ですか?」

「あぁ、テメェには用がある」

 

 そう言って、ネルは再び銃を構える。先ほどの様な1丁ではなく、2丁。ネルのフル装備状態。唇を好戦的に歪め、極上の獲物を鋭い目つきで射貫く。

 

アスナ(C&C)に一発食らわせてくれたらしいじゃねえか……ちっと面貸せや」

「あ、アリス、このパターンは知っています。『私にあんな事をしたのは、あなたが初めてよ……ッ』、告白イベントですね。チビメイド様はアリスに惚れていると。スチル獲得です」

「いや、アリス……多分これは告白じゃなくてカツアゲ……」

「ふ、ふっざけんなこの野郎! 告白もカツアゲもしねぇ! ってか、誰がチビメイド様だ! ぶっ殺されてぇのか!?」

 

 話の腰を木端微塵にへし折られたネルはその激高のまま声を張り上げる。桁違いの膂力で握られたグリップが軋む音を立てて、肉体から無意識に放出された神秘が窓ガラスに亀裂を入れた。

 

「ひッ……」

「怖……」

 

 ────だが、『怖い人なだけでノリも良いし、結構いい人なのでは?』とモモイは内心で思った。

 

 

 ▼

 

 

「ったくよぉ……中々にイラつかせてくれるじゃねぇか」

 

 頭を掻き、溜息混じりの声を吐くネル。話が予想外の方向に逸れたせいで、よく分からない内に体力を損耗してしまった。これも作戦の内なら大したものであるが……多分、あれは素なのだろう。だからこそ、厄介なのであるが。

 そして、アスナ、カリン、アカネの3名も合流し……C&Cは、此処にフルメンバーとなった。

 

「まあ良い。誤解してるかもしれねぇから一応言っとくが、別にC&Cに一発食らわせた分の復讐ってわけじゃねぇ。怪しい部分なんて掃いて捨てるほどあったが、こっちとしては正当な依頼の中での出来事だった。んで、そっちはそっちで、アタシらを相手に目標を達成しただけだ。別にそこに恨みはねぇが……俄然、興味が湧いてきてな」

「興味……?」

「ま、確認って言った方が良いかもしれねぇが……」

 

 そう言って、ネルは構え直す。依頼は確かに怪しい部分は多かった。考えれば考えるほど裏があるような気がして、予測は立てれたが確信には至っていない。当て馬として利用されたのは癪だが……今は、()()()()()()()()()()()()

 彼女が興味を向ける相手は、ただ1人。

 

「さあ、ちょっくら相手してもらおうか。アタシと戦って勝てたら、このまま大人しく引き下がってやる。お互いを理解するにはこれが一番手っ取り早いからな。どうだ、難しい話じゃねぇだろ?」

 

 単純明快、勝った方が正義。四の五の詭弁を宣ったり、策を弄する事のないシンプルなルール。少なくとも、以前の作戦よりも随分と分かりやすい勝ち負けの線引きだ。

 

「────分かりました」

「お、やる気満々と来たか。いいぜ、話の早いヤツは嫌いじゃない」

「一騎打ちのイベント戦闘……みたいなものですね、理解しました」

「イベ……なんつった?」

「あの時は狭かったですし、『鏡』を持って帰るという使命がありましたが、今なら……!」

 

 重厚な音を立てて、レールガンが展開する。各部位のランプやラインが点灯し待機状態から戦闘出力へ遷移。一撃で相手を葬り去る、対艦想定の過剰出力がネルに向けられた。

 

「行きます、魔力充填、100%……!」

「へぇ……!」

「────光よ!」

 

 青褪めた光が爆発的に広がり、周囲を破壊の嵐で包み込む。余波だけでも壁に亀裂を入れるほどの出力。射線上にあったものは一切合切薙ぎ払われ跡形も残さない。そして、全てを呑み込んだ光の奔流は威力を減衰させる事なく校舎の壁まで着弾し、破壊。銃撃戦を想定し、強度の高い素材で作られているはずの壁に巨大な風穴を空けた。

 

「わぉ!」

「くッ」

「何という威力……!」

 

 その驚異的な出力を前に、流石のC&Cも固唾を呑む。先日相対した時よりも更に高い攻撃力は、アリスの言う通りの最大出力なのだろう。これを真面に食らえば、キヴォトス最上位の生徒……否、神話や権能に足を踏み入れている存在が相手でも有効打に成り得るだろう。

 

 粉塵と煙舞う廊下、排熱するレールガンを下ろしアリスは呟く。

 

「……やったか?」

「アリスちゃん! その台詞は無暗に言っちゃダメ!」

「あ、ネル先輩は3年生でした。言い直します」

 

 アリスは愛らしい咳払いを1つして。

 

「や、やっつけられましたか……」

「いや、敬語の問題じゃなくて……」

「────アリス、来るよ」

 

 先生の言葉が聞こえた途端、煙が尾を引いた。獣の様な低姿勢で疾走するのは傷一つ見当たらないネル。その姿を見るや否や、アリスは驚愕を顔に張り付かせ咄嗟にレールガンを盾代わりにする。それと同時に、ネルもトリガー。吐き出される弾丸が甲高い金属音を奏でて弾かれる。

 

 だが、これはあくまでもブラフ。本命は。

 

「こっちだ」

 

 最低限の動きでターンし、ネルはアリスの防御を掻い潜る。彼我の距離は1m、遮る物はない。

 死神に目を向けられたような感覚を覚えたアリスは我武者羅にレールガンを振り回し、なんとかネルとの間に挟ませようとするが……速さは相手が圧倒的に上だった。

 超至近距離で叩きこまれる9x19mmパラベラム弾。先生が付与したシールドを真正面から踏み潰し、アリスの体にダメージを与える。

 

 しかし、アリスもやられているばかりではない。途中まで動かしていたレールガンをネルとの間に挟ませて弾丸をシャットアウト。このままシールドバッシュの要領でネルを弾こうと思ったが────咄嗟の判断はまたしてもネルの方が上で。

 

「オラァッ!」

 

 華奢な足から繰り出されたとは思えない程の轟音と、金属の軋む音。圧倒的な膂力で以って盾にされたレールガンごとアリスを吹き飛ばした。

 

「うぁッ!」

 

 その勢いのまま壁に激突したアリスは苦悶の声を上げて項垂れる。体感的には時速100kmオーバーの大型トラックと正面激突したようなインパクト。アリスや防御力に秀でた生徒以外は、この時点で戦闘不能になるほどの威力であった。

 

「確かに、並大抵の火力じゃねぇが……それだけだ」

「も、もう一度、魔力を充填……!」

「言っただろ────遅ぇって」

 

 瞬き数回分の時間。文字通り目を開いたら、アリスの目の前にネルがいた。その唇は獰猛に吊り上がっている。

 

「あっ……」

 

 光が集束するレールガンをかち上げ、銃口を明後日の方向に逸らして回避。無防備になったアリスの体に2丁のSMGで火力を叩き込みながら、都度アリスの反撃を片手間にあしらう。

 一方的が過ぎる展開。いつしか反撃する隙すらなくなったのか、アリスはレールガンを使用しての防御に専念。時折距離を放そうとするが、ネルはそれを許すような甘い相手ではない。その行動を的確に阻害しながら、銃撃と打撃のフルコースを奏でる。

 

「確かに、テメェの武器は強い。個人携行の中じゃ最高だろうよ。だが、引き金を引いた後、発射までに最低でもコンマ数秒は掛かる。その上、その高すぎる火力のせいで相手にある程度の距離まで潜り込まれたら撃てねぇ。爆圧に自分(テメェ)まで巻き込まれるからな。そして、この間合いでアタシに勝てる奴なんざ、キヴォトス全体でもそう多くは────いや、一人も居ねぇ」

 

 ネルはアカネが集めたデータと先の一射で、アリスの武器の特性を完全に見抜いていた。

 高い火力。真っ直ぐ飛んでいく素直な射撃。トリガーから発射までのタイムラグ。得意とする距離。大振りな武器本体。次弾までの時間。弾自体の弾速。

 

 それらの変数を全て組込み、その場で最適解を構築。それがこの戦法だ。付かず離れず、反撃も逃避も許さない攻撃の嵐。ネルの最も得意なクロスレンジでの銃撃戦。キヴォトス最強の暴力がその片鱗を見せた。

 

「うぅ……」

「……がっかりだな。この程度でアイツ等がやられたとは到底……」

 

 勿論、ネルとてアリスに負けるとは全く思っていなかった。戦えば順当に、予定調和の如く勝つ。勝敗の天秤は覆らない。

 だが、期待はしていたのだ。セミナーとC&Cの3人を掻い潜り、目的をきっちりと達成させたその実力に。

 それがこのザマだ。アリスはネルの攻撃を前に何をする事もできていない。これでは他の有象無象に毛が生えた程度だ。

 

 溜息を吐き、酷く残念そうな声を漏らす。そして、早々にこの遊戯に決着を付けようと更に攻撃を苛烈しようとしたが……アリスは突然、レールガンを振り回した。140kg以上ある本体を活かした質量攻撃。咄嗟の気転、意表を突く形の攻撃ではあったが……ネルには通用しない。空中で身を捩り一撃、二撃を回避。続く三撃目はレールガン本体を踵落としで迎撃。

 

「はッ、寄られた時の判断としては悪くねえ。だが、どうする? このレンジじゃアタシの方が強い。質量攻撃じゃ有効打にならねえ。発射しようにも、その武器の特性上、アタシに照準を合わせられねぇ」

「……照準は、必要ありません」

「あん?」

「────行きます!」

 

 レールガンに再び光が集束する。一切合切を薙ぎ払う超火力。ネルであっても最大出力で食らえば有効打になりうる規格外。

 だが、その銃口はネルを狙っていなかった。アリスが狙うのは────足場。

 

「まさか、テメェッ!」

「────光よッ!」

 

 光が、爆発した。

 

 

 

 ▼

 

 

 先の一射。速射を優先したため、最大出力と比べて大きく威力は落ちるが……それでも、元は戦艦の主砲。ミレニアムの床を粉砕するのには充分すぎる威力であった。崩落に巻き込まれたのはアリスとネルの2名。他の生徒達はギリギリ巻き込まれずに済んだ。

 

 瓦礫の山が降り注いだ下の階層、其処に飛び降りるはゲーム開発部の3名と先生。あの崩落に巻き込まれたとなれば万が一があっても不思議ではないのだ。

 

「アリスちゃん! どこにいるの!?」

「け、煙で視界が……」

「あ、見つけた! アリス! 大丈夫!?」

 

 モモイの言葉。それが聞こえた全員は弾かれたように指差す方向に駆け寄った。形成された瓦礫の山に横たわるアリスを見つけた彼女達は胸を撫で下ろした後……すぐに気を引き締めて、アリスの状態を見る。

 

 先ず、ヘイローはちゃんと廻っている。身体も銃撃の傷こそあるが、あの崩落に巻き込まれたとは思えない程綺麗だ。服は汚れているが、クリーニングでどうにかなりそうなレベル。

 ────一先ず、危惧していた事態はなさそうだ。その事実に安堵の息を吐いた。

 

 そうしている内にアリスは目を開いた。立ち込める煙と粉塵に咳込んで、彼女は一番近くに立っていた先生の袖を掴んで。

 

「うぅ……撤退を望みます!」

「アリスは私が。3人はレールガンをお願いできる?」

「はい! 皆、急いで!」

 

 

 ▼

 

 

 先生とゲーム開発部がアリスを連れて撤退する少し前。大きな瓦礫の山を挟んで反対側にC&Cの3人は降り立っていた。

 

「リーダー!」

「だ、大丈夫でしょうか……まさか、崩落に巻き込まれて……」

「うーん、うちの小っちゃいリーダーも潰されて更に小っちゃくぺっちゃんこに……」

「────誰が小っちゃいって!?」

 

 小さい、というワードに過剰反応して瓦礫の山から這い出てきたのは、アリスと同じように傷一つないネルだった。顔を真っ赤にしながら怒る彼女は全く以ていつも通りで、どう見ても崩落に巻き込まれたとは思えない。

 

「あっ」

「わーお、流石うちのリーダー! 全然ピンピンしてるじゃん!」

「ったく、テメェは一体どっちの味方なんだよ……」

「ネル先輩……それは?」

「あん?」

 

 良く目を凝らせば、ネルの周りには薄い膜の様な何か展開されていた。否、何かではない。あれはシールドだ。キヴォトスではよく見る技能。身近な例としてはユウカだろうか。勿論、それ以外にも使い手は何人もいる、キヴォトスではさして珍しくない能力だ。しかし、ネルがそういった類のものを使える話は今まで聞いたことが無い。無論、ネルの出鱈目さを考えれば土壇場で使えるようになったとしても全くおかしくない話であるが……今回は違ったようで。

 

「あぁ、これか。先生だよ、恐らくな。この程度の崩落、巻き込まれても痛くも痒くもねぇってのに……話に聞いていた通りのお人好しだ。ま、この分にはアリス(あのチビ)も無傷だろうな」

 

 ────崩落の直前、先生はアリスとネルの2名と、念のため他の全員にシールドを付与していた。結果としてアリスは大きな傷なく逃げる事ができて、ネルは無傷だ。借りが出来ちまったな、とネルは内心で息を吐く。

 

「目的は概ね達成した。リオがゲーム開発部に興味を持つ理由も分かったし……先生の事も知れた。戦果としては上々。撤収だ、帰るぞ」

 

 こうして、ゲーム開発部とC&Cの再戦は双方痛み分けのような形で決着が付いた。

 

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