シャーレ活動備忘録   作:遊園市街

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掴み取った未来

「ねぇねぇアリス、見て見て~」

 

 そう言ってモモイが取り出したのはC&Cが身に纏っているものと似ているゴシックなメイド服。白と黒を基調としたフリルの付いた愛らしい衣装。本当に何の変哲もない、ただの服であるが……それを見せられたアリスは一瞬で恐怖に顔を歪めた。

 

「ひいッ!」

 

 そして駆け足で部室の隅のほうまで行き……其処で仕事をしている先生の胸に思いっきり頭を押し付けた。万一にも、メイド服が視界に入らないように。

 

「あはは! いい反応!」

「何してるの、もう! アリスちゃんが完全に怯え切ってるじゃん!」

「うぅ……先生! モモイがアリスを虐めます!」

 

 縋るようにアリスは先生のジャケットを握り締める。恐怖の感情が優先されて手加減が出来ていないのか、ジャケットの繊維が千切れている音が断続的に聞こえてきた。その内破れそうだな、なんて思いながら先生はアリスの背中に手を回し、もう片方の手で頭を撫でる。

 

「モモイ、他人の傷を無理矢理切開するのは駄目だよ」

「いや~、反応が面白くってつい……ごめんね、アリス」

「アリスちゃん、大丈夫?」

「あ、アリス、暫くメイド服は見たくありません!」

 

 それだけ言い残し、再び先生の胸へ顔を埋めるアリス。

 先の一件……ネルと真正面から戦い、その強さを脳髄に叩き込まれてしまった所為で、アリスはメイド服がトラウマになってしまった。尚、メイド服でなければC&Cのメンバーに会わせても大丈夫であったため、恐怖の対象はあくまでメイド服とネルらしい。

 

「うーん、体の方は大丈夫だけど……心の方はもうちょっとかかりそうだね」

 

 溜息を吐いてメイド服をクローゼットの奥の方に仕舞うモモイを眺める。『あれ、いつ買ったんだろう?』なんて考えながら。ゲーム開発部に無駄遣いできる部費はない。もしゲームを買うための資金やら維持費に手を出して買ったならば、暫くはおやつ抜きにしないと……なんて、思う。

 

 そんな時、部室のドアが不意に開いた。スリッパを履き、ジャケットを上まで閉めている特徴的な姿はゲーム開発部の部長、ユズ。

 彼女はゲーム開発部の代表として、C&Cとの戦闘で起きた校舎の破壊について事情聴取を受けていたのだ。それが終わって戻ってきたのだろう。以前は殆ど部室の外に出る事は無かったのだが、今では消極的とはいえ、外部との関わりを持つようになっている。それはきっと素晴らしい変化なのだろう。

 

「あ、ユズ。おかえり~。どうだった?」

「うん、ただいま。えっと……部活動中の不慮の事故として処理してもらえたよ」

「嘘ッ!? それどうやったの!? もし部が存続したとしても、弁償代として部費は諦めなくちゃって思ってたのに……!」

「私じゃなくて、C&Cの方で色々と根回しをしてくれたみたい」

 

 ユズは「それと」と言って。

 

「ネル先輩からの伝言……『また会おうぜ』って」

「ひいッ!」

「ああっ、アリスちゃん! ロッカーの中に入っちゃダメ! どうしよう、ユズちゃんを見て変な事覚えちゃったよ!」

 

 遠い日──数週間前で全然近頃なのだが──を思い出す。アリスが此処に来た最初の日、その時はユズがロッカーの中に居た。だが、今はアリスがロッカーの中に居て、完全に立場が逆転してしまっている。

 なんだかそれが可笑しくて、顔を見合わせて笑い合う。

 

 そしてユズはPCの画面を開き、ケーブルを使って外付けモニターに接続。

 

 ────今日の目玉をクリックする。

 

「ミレニアムプライス、始まったね」

「もし受賞したらクラッカー鳴らそうか。お祝いにケーキも買って、さ。でも、もしそうじゃなかったら……」

「……うん。直ぐに荷造りしないと。私達はさておき、ユズちゃんとアリスちゃんは……」

 

 ミドリの心配そうな声。それに対する言葉を、彼女達は持ち合わせていなかった。

 

 ────運命が、始まる。

 

 

 ▼

 

 

 ミレニアムプライス、会場。D.U.地区のホールを丸々貸し切って行われるミレニアムサイエンススクールの中でも有数の行事は、他の学校や企業もかなり注目している。何せキヴォトスの最先端を往く学校の研究発表なのだ。此処で大きな成果を残した有望な研究や人材には先に手を付けておきたいと思うのが道理だろう。

 

『これより、ミレニアムプライスを始めます! 司会及び進行を担当するのは、ミレニアムサイエンススクールのエンジニア部所属、豊見コトリです!』

 

 マイクを持ち、カメラを前に意気揚々と語るのは説明好きなおしゃべり少女ことコトリ。ロジックや理論、仕組みを話させたら右に出る者はいない彼女は確かに司会進行役に適任と言えるだろう。尤も、どうしても専門的な話が多くなるためお茶の間は置いてきぼりになるだろうが。

 

『今回は、これまでのミレニアムプライスの中でも最多の応募数となりました。恐らくは生徒会(セミナー)の方針変更により、部活動維持のための成果が必要となった影響かと思われます!』

 

 モニター越しでも変わらない、いつも通りの姿。この祭典を心待ちにしていたと言わんばかりの元気な声を聴いて、ゲーム開発部の4人は胸を撫で下ろした。

 

「……コトリちゃん達の方も無事だったみたいだね」

「エンジニア部は元々、ミレニアムの中でもかなり功績が認められてる部活だし……うん、でも、本当に良かった」

「そうだね……ところで、史上最多の応募って……」

「それはちょっと困るなぁ……」

 

 応募数が多くなるという事は、それだけ倍率が上がるという事。また一歩、受賞までの道が遠退いたような気がして背筋に冷や汗が流れる。

 

『昨年の優勝作品である生塩ノアさん著の『思い出の詩集』は、その形而上的な言葉の羅列がミレニアム最高の不眠症に対する治療法として評価されました。尚、これは本来の意図とは少し違ったようですが……。今回も『歯磨き粉と見せかけてモッツァレラチーズが出る持ち歩きチーズ入れ』、『ミサイルが搭載された護身用の傘』、『ネクタイ型モバイルバッテリー』、『光学迷彩下着セット』、『ちょうど缶一個なら入る筆箱型個人用冷蔵庫』……』

 

 次々と羅列されるびっくりどっきり発明品達。オリジナリティという言葉の元、開発者が好き勝手に己の作りたいものを形にしたため、有用性を彼方に置き去ったものが大半だ。

 優等生的な発明品はその他に任せ、自分達は学生らしく『好き』を形にする姿勢。有用性も利便性も知った事ではないと笑い飛ばし、唯作りたいものを興味の赴くまま作るからこそ、このお祭り(ミレニアムプライス)は面白いのだ。

 

『そして! 今キヴォトスのインターネットでセンセーションを巻き起こしている、スマホでマルチプレイが楽しめる古き良きレトロ風ゲーム、『テイルズ・サガ・クロニクル2』などなど!』

 

 そして、注目の作品として名前を出されたゲーム開発部産のゲーム。コトリの言う通り、このゲームは今キヴォトスのインターネットで大きく話題になっていた。ダウンロード数も順当に伸び、評価や感想も日に日に増加。開発者たる彼女達の知らぬ間に、この祭典のダークホース的な立ち位置に立っていた。

 

『今回出品された3桁の応募作品の内、栄光の座を手にするのはたった7作品!』

 

 数百あるうちの7。その高い倍率を改めて突き付けられた彼女達は思わず息を呑んだ。緊張で心臓が跳ねて、手汗が滲む。

 

 ────この結果次第で、全てが決まる。

 

『それでは、7位から受賞作品を発表します!』

 

 栄えある受賞作品、その最初の1つは。

 

『7位はエンジニア部、ウタハさんの『光学迷彩下着セット』です! これは身に着けていてもその下の素肌が見えてしまうため、着ているのかそうでないのか分からないというエキセントリックな作品ですが……露出症の患者さんが合法的に趣味生活を営めるようになるという点で、大変高い評価を受けています! その評価を下した審査員が一体誰なのか気になってしまいますね! とにかく7位!』

 

 初っ端からアクセル全開の作品が7位に登壇。特殊な趣味の人にアプローチした作品は、見事その趣味を持つ人に刺さったようだ。トリニティ総合学園の何処かで『エッチなのはダメ! 死刑!』と聞こえた気がしたが、多分気のせいだろう。

 

「ふぃー……ま、私達のゲームは7位に相応しくないよね」

 

 息を吐き、続く受賞作品を眺める。6位、5位。テイルズ・サガ・クロニクル2は受賞作品の名前に上がらない。

 

「私達の名前、呼ばれないね……」

 

 そして4位の発表。残るはベスト3のみだというのに、ここでもゲーム開発部の名前は呼ばれなかった。

 

「うぅ、そろそろお願い……!」

『さぁ、ここからはベスト3の発表です! 3位は……!』

 

 第3位でも、ゲーム開発部の名前は聞こえない。

 

「も、もう心臓がもたない!」

「お願い、お願い……!」

『僅差で2位を受賞したのは……!』

 

 いつの間にかロッカーから出ていたアリスは先生の膝の上に座り、他の少女達と同じように結果を眺める。

 

「お願いします、私達の名前を……!」

 

 ────だが、その願いは届かなかった。

 

 そして、残るは1位のみ。

 

「2位でもない……って事は……」

「も、もしかして……!」

『最後に! 今回のミレニアムプライスで、最高の栄誉を受賞した作品です!』

 

 3桁を超える応募作品の、栄えある頂点。

 

「ドキドキ……!」

『1位を受賞した作品は……』

 

 其処に君臨する、成果の名前は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『────CMの後でッ!』

「……アリスッ!」

「充電完了、何時でも撃てます! 目標、ミレニアムプライス会場……!」

「気持ちは分かるけど落ち着いてッ!」

 

 盛大な肩透かしを食らった彼女達はミレニアムプライスの会場ごと吹き飛ばそうと構えるが、ミドリとユズ、先生の3人掛かりで何とか宥める。全員、モモイとアリスの気持ちは痛いほど分かるが、それでも会場を吹き飛ばすのは不味いのだ。

 

 そして、そうこうしているうちにCMも終わって。

 

『さぁ! それでは発表します!』

 

 その刹那が永遠にも感じられて。

 

『待望の1位は……』

 

 本当に、ミレニアムプライスの頂点に……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『新素材────』

 

 直後、モニターが穴だらけになった。

 

「きゃあっ! ほ、本当にディスプレイに撃ってどうするの!?」

「どうせ全部持って行かれちゃうんだし、もう関係ない!」

 

 ミレニアムプライスの受賞作品、その7つの内にゲーム開発部の名前は入っていない。それはつまり。

 

「うえぇぇん! 今度こそ終わりだぁぁぁぁ!」

「うぅ……結局、こうなっちゃうなんて……」

「落ち着いて、お姉ちゃん。ユズちゃんも……」

「分かってるよ! 全部が否定されたわけじゃない、へこたれる必要なんて無いって! ネットでの評判も悪くなかったし、クソゲーランキング1位のあの時から、私達はちゃんと成長した! これからも、私達は成長していける! もっと面白いゲームを作れる! 次はもっと良い結果を出して、今より立派な大きい部室だってもらえるはず!」

 

 確かに、ゲーム開発部の作品はミレニアムプライスの受賞7作に選ばれなかった。だが、それは今までの頑張りが無価値となる訳ではない。

 誰かに面白いって言ってもらえるゲームは確かに作れて、駆け抜けた達成感を味わった。

 ゲームの楽しさにもより一層触れる事が出来て、仲間との絆も更に深まった。

 次はもっと良いものを作れるはずであり、ミレニアムプライス受賞も雲を掴むような話ではなくなった。

 

 自分達は、確かに成長した。前に踏み出せたのだ。

 

 だけど────そう、だけど。

 

「ユズと、アリスは……ッ!」

 

 セミナーとの約束、ゲーム開発部が廃部になる現実は変えられない。居場所を失ったユズは寮に帰らなければなくなり、アリスに至っては帰る場所すらないのだ。

 それが、モモイもミドリも受け入れる事が出来なくて。

 傷つくと分かっている場所に、大切な友達を送り出す事なんて出来なくて。

 

 変えられなかった帰結。それを前に無力さを噛み締めている2人に……ユズは優しく微笑んで。

 

「……心配しないで、モモイ。ミドリも。私、寮に戻る」

「えっ……」

「もう私の事を、クソゲー開発者って呼ぶ人は居ないと思う。ううん、もし仮にいたとしても、大丈夫。今の私には3人と先生がいるから。もう、怖くないよ」

 

 さあ、塞ぎ込んでいた日々にさよならを。怖くても、もう大丈夫。優しく手を引いてくれる誰かが居なくても、もう歩けることを見せるから。

 

「ありがとうございました、先生」

「……お礼なんて。私は、結局君達に何もしてやれなかった。でも、まだ結果は────」

「そんな事を言わないでください。先生がこの部室に来てくれた時から、私達は大きく変わる事が出来ました。ずっと優しく見守ってくれて、信じてくれてありがとうございます。ただ、アリスちゃんは……」

 

 心配そうな視線をアリスに向ける。彼女もまた、涙目になっていて。4人が散り散りになる現実を受け入れる事が出来ないでいた。

 そして、一粒の涙と共に声を漏らす。

 

「……もう、皆とは一緒にいられないんですね」

「ッ……ごめんね……ごめんね、アリスちゃん! 私、絶対毎日会いに行くから! また一緒にゲーム作ろう!」

「ううぅ……! や、やっぱり嫌! こんなに仲良くなれたのに離れ離れになるなんて寂しいよ!」

「わ、私も……皆と一緒が良い……!」

 

 アリスの言葉をきっかけにして、堪えていた涙が零れた。

 綺麗事なんて幾らでも言える。別に今生の別れではないし、会おうと思えば幾らでも会える。でも────こうして、この場所で4人が集まれるのはこれが最後かもしれないと思うと、どうしても我慢できなくて。

 

 抱き合って、涙を流して、別れを惜しんで。ミレニアムプライスの受賞部門は終了した。

 ────大事な部分を聞き逃している事に、彼女達は気付かぬまま。

 

 そして、不意に部室のドアが開き────駆け足で、満面の笑みで部室に上がり込んできたのはユウカだった。

 

「モモイ! ミドリ! アリスちゃん! ユズ!」

「ひいッ! もうユウカが!」

「ちょ、ちょっと待って! 荷造りなんて、そんな直ぐに……!」

「鬼! 悪魔! 冷酷な算術使い! セミナーに人の心は無いわけ!?」

「────おめでとうッ!」

 

 突然投げかけられた賞賛の言葉。ずっと言いたかった事を伝えられたユウカの顔は晴れ晴れとしていて、対するゲーム開発部は全員疑問符を浮べていた。

 

 その奇妙なすれ違いが起きて────ユウカは部室の中の雰囲気が暗く澱んでいる事に気付く。よく見れば全員泣いていて、その表情は悲しみに歪んでいた。

 

「……え? 何、この反応? 結果、見てなかったの?」

「……結果?」

「……私達、7位以内に入れなくて……」

「はぁ? 何言ってるの、今も放送中なんだから、ちゃんと見なさいよ」

「お、お姉ちゃんがディスプレイを吹っ飛ばしちゃって……」

「本当に何してるのよ……ほら、スマホ貸してあげるからちゃんと見てみて」

 

 そう言って差し出されたスマホの画面には。

 

『ミレニアムプライスはこれまで、生徒達の才能と能力で作られた作品に対し、実用性を軸に据えて授賞を行ってきました。これはより良い未来を求め、実現していくという趣旨に基づいています』

 

 審査員は『しかし』と言葉を続けて。

 

『今回の作品の中には、新しい角度から実用性を感じさせてくれたものがありました。その作品は懐かしい過去を鮮明に思い出させ、未来への可能性を感じさせてくれたのです。よって、私達はこの度、異例の選択をする事にしました』

 

 ミレニアムプライスで史上初となる選択。それは実用性を突き詰めた作品ではなく、未来と過去を繋ぐ枝に与えられる唯一無二の賞────それの、設立。

 そして、その賞の栄えある第一号に選ばれたのは。

 

『特別賞、受賞作品……ゲーム開発部、『テイルズ・サガ・クロニクル2』です』

「ええっ、嘘ッ!?」

「な、何が起きてるの……」

 

 2人の至極真っ当な疑問を置き去りに、審査員はコメントを綴る。

 

『レトロ風という時代を超えたコンセプト、常識に縛られず次々と想像を超えていく展開。一見してそれらとマッチしそうにない不可思議な世界観。最初は困惑の連続でしたが、新しい世界を旅して、一つ一つ新たな絆を結びながら、魔王を倒しに行く……そういったRPGの根本的な楽しさが、しっかり込められた作品だと思います。プレイしながら、かつて初めてゲームに夢中になった幼年期の頃を鮮明に思い出す事ができました。そういった点を評価して、この作品に……今回、ミレニアムプライスの特別賞を授与します』

 

 読み上げられたコメントは以上。それを聞いても、どこか現実感が無くて。

 

「本当におめでとう! その、実は私もプレイしてみたの。決して手放しで面白かったとは言えないけど……良い作品に出合えた後の、あの独特な感覚が味わえた」

「モモ! ミド! あたしもTSC2やってみたよ! すっごい面白かった! 今ネットでも大騒ぎだよ! ヴェリタスの調べだと、有名アイドルの名前よりTSC2の検索数が多くなってるってさ!」

「ほ、ほんとに……?」

 

 部室に転がり込んできたマキから話されても、現実感は遠退いたままで。

 

「確認しました。3時間前にアップしたテイルズ・サガ・クロニクル2は、先ほどまでダウンロード7705回、計1372個のコメントが付いていましたが……ミレニアムプライスの発表以降、約26秒間でダウンロード回数が1万を超えました。コメントも約500個追加。言葉のニュアンスからして否定的・疑惑的なコメントが242件、肯定的・期待のコメントが191件。残りは不明、もしくは評価を保留にしているコメントです」

 

 肯定と否定の数を見れば後者の方が勝っている。だが、最も共感を貰っているコメントの上位2件は。

 

 ────実際にプレイするかどうか、最初は散々迷いました……でも、今はこう思っています。このゲームに出会えてよかったです。

 

 ────これまでミレニアムに対して偏見を持っていました。冷静さと合理性しかないというミレニアムの生徒達への偏見は、今回のミレニアムプライスとこのテイルズ・サガ・クロニクル2を通じて完全になくなったと断言できます。

 

 これが意味する事は、つまり。

 

「つまり、廃部にはならないんだよね!?」

「えぇ、そうよ。あ、でも、あくまで臨時の猶予だから。正式な受賞ではないし、生徒会(セミナー)としてはまた来学期まで、ゲーム開発部の部室の没収及び廃部を保留する事にしたの」

 

 セミナー側が予期した賞を授与したわけではないが、かといって後出しで特別賞を無効にするのは筋が通らない。故に折衷案として、一旦の保留という形になった。この部の存続はまた来学期の成果の有無によって変わるだろう。

 

 そしてユウカは少し言い辛そうに「えっと、それから」と呟き……ぺこりと頭を下げた。

 

「ご、ごめんなさい。此処にあるゲーム機の事、ガラクタって言って。あなた達のおかげで思い出したわ。小さい頃に遊んだゲームの事……だから、ありがとう」

 

 ユウカは踵を返して────自ら未来を掴み取ったゲーム開発部を笑顔で称えた。

 

「それじゃ、部室の延長申請とか部費の受付処理とかは必要だから、落ち着いたら生徒会室に来てね。じゃ、また後で! 本当におめでとう!」

 

 嵐のように来て、嵐のように去っていった青髪の少女。現実味のなかった一連の出来事が、彼女の言葉達で確かな実体となって。

 

「やったぁぁぁぁぁ!」

「良かった……! 本当に良かった……!」

「やった……嬉しい……!」

「……? え、えっと……?」

 

 状況をいまいち飲み込めていないアリスの手を、ミドリは涙混じりの満面の笑みを浮かべながら握って。

 

「アリスちゃん! 私達、特別賞を受賞したんだよ! この場所も、私達の部室のまま!」

「えっと、つ、つまり……アリスはこれからも……皆と一緒にいて、良いんですか……?」

「うん! 勿論!」

「これからも、よろしくね……!」

 

 少女達の瞳から、また涙が溢れる。だが、それは別れを悼む涙ではなく────これからも共に歩める幸福から流れる涙だった。

 

「アリスちゃん!」

「私達……!」

「これからも、ずっと一緒だよ!」

「……ッはい! これからも、よろしくお願いします!」

 

 少女達4人は大切な場所で生きる。知識を重ね、経験を重ね、物語を紡いで、生命として成長する。輝かしい生命の紀行を、彼女達は歩んでいく。

 

 ────願わくば。

 こんな物語が、いつまでも続いてほしい。

 

 

 ▼

 

 ────データ復旧率、98.00%。

 

 ────システム作動……準備完了。

 

 ────プログラムをセット……Divi:Sion。

 

 ────AL-1S……いえ……アリス……。

 

 ────せん、せい……先生……。

 

 ────私の、大事な……。

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