桜はやはりこの時期にぴったりの花だろう。新たな門出をする人々を祝うように桜たちは咲き誇っていた。
そして、その桜を見上げ、一人たたずむ少年も例外ではなかった。彼もまた、新たな門出を今まさに迎えていた。
彼の名前は新崎奏多。この桜咲き乱れる坂道を登った先にある学校に入学することになっている。
彼は桜を見上げ、その美しさにため息をついてまた歩き出した。
彼の前には長い坂。それはこの学校で彼が直面する困難を表しているのだろうか。
坂を登りきると、そこにはごくごく普通の高校が現れた。
しかしそこで、僕は思わず顔をしかめた。
「学校案内と書いてある名前が違うんだが......」
学校案内のパンフレットには目の前の高校と全く違う名前が。
だが、何度見ても学校の入り口はここを指している。
「おかしいな...どこが違うんだ?」
僕は途方にくれる。そういえば、さっきから新入生の姿も一切ない。
初手からこんなに迷うなんて幸先が悪すぎる。そう思いながらとりあえず目の前の学校の門をくぐろうとすると、
「違うわ!そっちじゃないわよ!!」
「!?!?」
突然横から鋭い声が響いた。横には誰もいなかったはずなのに...
「びっくりした...」
心臓が止まるかと思った。まじで。声のした方を見ると、赤と白の巫女服を来た少女が手を腰に当ててこちらを睨んでいた。
「全く、みーんな入口に気づかないんだから...」
「入口?」
「あんた新入生よね?神皇高校の。」
僕の言葉をガン無視し、紅白の少女はこちらをじろじろみる。
「そうです...」
少女の剣幕に押され、上手く言葉が出てこない。何者なんだこの人...
「もうみんなあなたを待ってるわよ、あなたが1番最後。早くついてきなさい。」
少女は学校の看板のすぐ横にある植え込みの中に入っていった。そして、目の前の細い木を指さして、
「あなたがこの学校の証明書を持っているなら、この木のうろにそれを当てなさい。そしたら入れるわ。」
「え?」
「何呆けてんのよ、早くしなさい!」
僕は慌てて証明書を取り出す。本当に何を言っt...
僕の思考はそこで停止した。木のうろに証明書をあてると、体が引っ張られ、僕はさっきの学校の何十倍もあるであろう巨大な学校の前に立っていた。自分で言っていても何が起こっているかわからない。
「だーかーらー!遅刻って言ってるでしょ!早くしなさいよ!!」
後から来た紅白少女は僕を突き飛ばす。体が1mほど前に吹き飛ばされた。なんて力だよ。
「わ、わかったよ...」
僕はまだ脳処理もツッコミも追いつかない体に鞭を打って走り出した。桜舞い散る学校の中庭を。
「.......なーんか、ひっかかるわねぇ...」
紅白の少女のつぶやきも、彼には聞こえていなかった。
「はぁ、はぁ....」
こんなに走ったのはいつぶりだろう。いや、【能力】を使えばいいのだろうが、ここで使って捕まったらあまりにも馬鹿すぎる。なので僕は、何年ぶりか分からないくらいに本気で走っていた。のだが....
「......大講堂どこだよ...」
パンフレットには入学式を大講堂で行う、と書いてあったのだが、どこにあるのか全く分からない。
まずこの学校広すぎる、覚えるよりも卒業の方が早そうだ。
闇雲に走り回っていると、廊下の奥に、誰かが居るのが見えた。そいつは、どこかぼんやりとした足取りで廊下の奥を曲がって行ってしまった。入学式の開始時間はとっくに過ぎていた。藁にもすがる思いで僕は、曲がって行ったそいつを追いかけた。
そして、追いついて肩を掴むと、
「あ、あの!大講堂ってどこかわかる?」
「きゃっ!?」
その少女は驚いて悲鳴をあげた。
「び、びっくりしたぁ......って、え?」
「ん?」
その少女は唖然とした顔で僕を見つめる。僕と同い年くらいだろうか。緑色っぽい服を着ていたが、何よりも驚いたのは、胸元にある閉じた瞳だった。
そしてその少女はさらに近づいてくる。
え、ちょ、近くない?え?近くない...?
「いや、近い近い!!」
「あなた、私が見えるの?」
「は?見える?いや、見える...けど...」
するとその少女は目を輝かせた。
「えーほんと!?すごいすごい!!」
さらに距離を縮めてくる。
「ちょ、近いって!!」
「いいじゃんいいじゃん!!初めて私が見える人に出会えたんだから!この学校ってやっぱりすごい!!」
僕を置いてきぼりにして1人で騒ぐ少女。
追いかけなければよかったかな....
とりあえず僕は、忘れかけそうになっていたやばいことを話す。
「入学式、始まってから結構経つけど...」
「え!?」
その少女はびっくりしたように当たりを見渡す。
「また、【能力】が...」
「なるほどね」
その言葉で僕は全てを納得する。そういう【能力】なのだ。なぜならここは、そういう所だから。
「と、とりあえず大講堂までわかんないんだっけ?ついてきて!私の名前は古明地こいし。よろしくね!!」
「あ、あぁ..,」
元気にまくしたてるこいしという少女に僕はまた置いてかれそうになる。
「あなた、名前は?」
「奏多、だ。よろしく」
「わかった!奏多、着いてきて!!」
少女は走り出した。
「ま、待ってくれ!!」
僕は何も考える間もなく、走り出した彼女についていった。
初日から大変なことになってしまった、と思いながら。