僕はこいしについて行き、やっと大講堂に付いた。中では誰かが話しているようだ。
僕達はこっそり入って行くつもりだったのだが....
バァァァン!!!
ドアの閉会音はそれを許してくれなかった。中にいた人々はほぼ全員がこちらを見つめ、ステージで話していた人も話をやめ、こちらを見る。
「あー....その、すいません....。」
絶対零度を思わせる冷たく静かな空気の中、僕は指定されていた席に座る。こいしもこの近くに座った。
数秒の身が震える気まずさの後、咳払いが響いた。
「ごほん、遅刻者は後で残ってください。話を再開します。」
僕は気が遠くなりそうになるのを必死で抑え、壇上の黄色い髪に狐の尾を持つ人の話を聞いていた。...人?人では無いな、あれは狐か?
「...この学校は、能力者の育成だけではなく、社会に健全に溶け込めるようにみなさんを指導して行きます。皆さんがしっかりと勉学に励み、立派な【能力者】となれることを願っています。」
一瞬で理解ができた。こいつは学校特有の話が長いタイプのめんどくさいやつだ。遅刻してきた意味があったな、と思いつつ周りを見渡すと、みんな、藍、と名乗った狐が話終わる頃にはぐったりとした表情を浮かべていた。
「それではここからは校長先生にお話をいただきます。」
嘘だろ....まだあるのかよ....
静まり返った大講堂に幾人かのため息が響く。どうやらこの絶望感は僕だけではないようだ。
「は〜い♪みなさんこんにちは♪」
「!?」
僕らの絶望は壇上に出てきた金髪にドレスを来た女の人によって破られた。そいつは恐ろっしくフレンドリーな口調で話し始めた。
「この学校の校長の八雲紫ですわ♪神皇学園は、先程藍からも説明があったように、【能力者】が集う場所ですわ♪【能力者】は、前々から一般人からの迫害にあってきました♪人類と【能力者】の共存を目標に、これからも頑張っていきましょう♪他にも分からないことがあったらなんでも聞いてね♪」
「......」
僕らは八雲紫と名乗った校長の話を呆然と聞いていた。さっきの八雲藍?だったか、とは同じ苗字なのにどうしてこうも違うのか。2人とも癖が強いところだけは一緒だが...
「あ、そうそう♪この学校は私が結界で囲んであるから、人は出られないし入れないようになっているわぁ♪もし外に出るのなら校門から素直に出るように♪以上です♪」
...結界。きっと、そういう【能力】なのだろう。結界を操るとか、そういう【能力】だとしたら、それは汎用性がありそうだな....
などと考えていると、壇上には別の人が上がっていた。白髪の髪をかなり長く伸ばした人だった。
「私は藤原妹紅だ。入学式が終わったあと、能力審査を行う。私と永琳先生が先導するからついて行くように。」
...能力審査、何をされるんだろうか。一般人のように薬とかを打ち込んでこなければいいけど...
すると壇上にまた狐が上がってきて、
「...これで、入学式を終わります。生徒の皆様、これから新しい道が・・・」
「終わるって言ったのにまだ話すのか....」
僕はそう呟くと、周りも俯いてため息をついたり顔をおおったりしながら狐の長い長い語りを聞くのだった。
入学式もやっと終わり、僕もみんなについて行こうとしたのだが、
思い出してしまった。
「そういえば残れって言われなかったっけ...」
「そうよ、早くこっち来なさい!」
現れたのは紅白の巫女服少女だった。こちらを睨みつけている。
「全く、遅刻したと思ったら何してたのよ!おかげで始まるのも終わるのも遅くなっちゃったじゃない!!」
「いや、その、本当に申し訳ないです...」
「わかったなら早くついてきなさい。紫...校長先生が呼んでるわ。」
これ以上逆らうと吹き飛ばされそうな勢いだったので、僕は大人しく彼女について行くことにする。それにしても彼女はどんな役割なんだろうか....
彼女について行くと、何も無い壁の前で立ち止まり、そこをトントンと2回叩いた。
大丈夫かこの巫女。気でも触れたのか?
「あの、何してるんですk...」
その瞬間僕は空いた口がふさがらなくなった。目の前に真っ黒い空間が開いたのだ。
「は?」
「は?じゃないわよ。早く入りなさい。」
「あっ...え?」
「あぁもう!じれったいわね!!早く行きなさいよ!!!」
巫女服は僕を突き飛ばす。僕はその空間に押されるようにして入り、
「いった....」
腰をしたたかに打って地面に転がった。
僕は数秒痛みに呻いていたが、当たりを見渡す。すると、
「いらっしゃい♪奏多君♪」
目の前に先程八雲紫、と名乗った女の人が座っていた。
「全く、もう少し静かに入ることは出来ないんですか?遅刻者の分際で調子に乗りすぎです。」
「まぁまぁ藍♪そんな固いこと言わないの♪」
「ですが...」
「大丈夫よ♪奏多くん、立てる?あなたのお友達も見てるわよ♪」
「え?」
横を見ると、
「奏多...大丈夫??」
こいしが可哀想なものを見る目でみていた。やめろ。僕もやりたくて転がってるんじゃないんだ。
「はぁ、ちょっと強く押しすぎたかしらね。」
すると、僕を押した巫女服が現れた。
「霊夢、連れてきてくれてありがと♪」
「全く、こんな遅刻者風情に構っていていいの?」
遅刻しただけで分際とか風情とか当たりが強すぎないか?何もかもパンフレットの作りが悪いだろ..,
言っただけで吹き飛ばされそうな文句は心の中にしまい、僕は立ち上がった。
「ええ、今回の入学者の中で一番興味がある子なの♪」
「こんなどんくさそうな顔してるのに?」
酷い。あまりにも酷い。僕は遅刻しただけ、遅刻しただけだ。僕は霊夢、と呼ばれた少女を睨みつけるが、彼女はお構いなく僕をディスり続けた。
「こいし、ほんとにこの人で合っているの?」
すると、こいしの横にたっていたピンクの髪の少女がこいしに話しかける。
「うん...この人だよ、お姉ちゃん」
「はぁ...」
お姉ちゃん?このピンク髪はこいしの姉のようだ。なるほど、よく見てみれば胸元に目が..,え?目が開いてるけど、これ大丈夫なのか?第3の目ってやつなのかな...
「全く、どうでもいいことばかり考えているのね。これは第3の目なんかじゃないわ」
「え?」
今、考えたことが口に出ていた?そんなまさか...
「はぁ...バカバカしい反応だわ。私は【心を読む程度の能力】よ。」
「なるほど...」
どうやら【能力】のようだ。それにしてもそれ結構チートじゃね? 色々言いたいことはあるが、とりあえず1番気になっていたことを聞いてみる。
「こいしさんの目は閉じているけど、それはどういうことなんですか?」
「私はね!心は読めないよ!かわりに、【無意識を操る程度の能力】を持ってるよー!」
「無意識?」
「それについては私から説明するわ」
校長先生が口を開く。真面目な口調は初めて聞いたので少し面白い。
「彼女はまだ【能力】を上手く扱えないの。だから、彼女が【能力】を発動している時、ほかの人々は彼女を見ることが出来ないのよ。また、こいしちゃんは【能力】発動時に無意識で動き回る癖があってね...」
色んなことの辻褄があった。放浪癖、とでも言うべきか。ほかの人には見えない状態で本人ですらも無意識で勝手に行くのだろう。
「だから、普段は古明地さとり...こいしちゃんのお姉さんに一緒にいてもらっていたんだけどね....目を離した隙に...って感じかしらね」
「はぁ...」
それは姉の負担も大変なものだろう。当のこいし本人はにこにこしてとても元気そうなのだが。
「あれ?」
そこで疑問が生じた。
「でも、僕は見えてましたよ?」
「そう。話の本題はそこよ。あなたはこいしちゃんを見ることが出来る。【能力】のせいかしら?」
「いや、違うと思います...僕の能力はもっとこう、肉体的なものなので...」
「あら、じゃあなんで見えるのかしら。不思議ねぇ...」
そこで静寂が漂った。僕にも一切見当がつかない。でも、確かにあの時、こいしを僕は目視し、肩に触れ、喋った。
「わかりません...ごめんなさい」
「いえ、謝ることではないわ。それよりもあなたにお願いをしたいのよ♪」
「え?」
校長先生は急に元気な様子で僕にこう告げた。
「奏多君。あなたをこれから、あなたをこいしちゃんの見守り役に任命するわ♪」
「え?」
今なんて?見守り役?
「えぇ、姉のさとりちゃんも、ずっとこいしちゃんを見ている訳にはいかないの。こいしちゃんも今年1年生で、お姉さんとは別の授業を受けなくてはならない。そんな時、こいしちゃんの【能力】をかいくぐれるあなたが来たんですわ♪」
「はぁ...」
「こんなにどんくさい人だとは思いませんでしたけどね。」
さとりさんが冷たく突き放す。
「えーでも!奏多はとっても面白いんだよ!?」
こいし、それは褒めてないぞ。むしろ貶しているに近いんだが...
「と、に、か、く♪あなたはこれからこいしちゃんがどこかに行かないように見守って、一緒に行動すること♪」
「はい...」
いいえ、とは言えない言外の圧が校長先生にはあった。
「よろしくね!奏多!!」
「あぁ...」
「こいしに変な真似をしてみなさい。あなたの首が飛ぶわ。」
さとりさんは相変わらず氷の目でこちらを睨みつけている。変なことを考えただけで心を読まれ、殺されるだろう。
「いい返事ね♪じゃああなた達はとりあえず能力審査に合流しなさい♪そこのスキマを通れば直接会場に行けるわ♪」
「はい...」
「はーーい!!」
後ろの壁にはまた黒い空間が口を開けていた。何度通ろうともこの空間は慣れなさそうだ。そう思っていると、
「ほら!奏多!いくよーー!!」
突然こいしが僕の手を掴む。
「ちょ、あ、きょ、距離感!距離感バグってるって!!」
「ふふ♪お似合いね♪」
「ほら!早く!!」
僕はこいしに引っ張られるままに駆け出し、スキマをくぐり抜けるのだった。