その様は、言葉にするのならば『嵐』であった。
それも降るのは血の雨、流されるのは肉片や臓物。パニックホラーも真っ青な光景である。
常人だろうと、鬼殺隊員だろうと、柱であろうと。その戦いを目で追う事は不可能だったろう。
瞬きの間に視界を埋めるほど殺到する血刃が飛び、それが一太刀で両断され、斬り合いで数百の火花が散る。片や鬼の体をも豆腐のように斬る斬撃を被弾しながら超速再生し、片や欠損や体を回る毒をリセットしながら刀を振るう。とてもでは無いが正気の沙汰では無い攻防が目にも止まらぬ速さで繰り広げられていた。
最早どっちの血なのか分からない程に混ざりあった周辺の血の海、体に被っている血も同様だ。赤黒い衣を纏いながら狂気に満ちた笑みで殺しあっている。
だがやはり、互いが高い不死性を持っているので決定打が無い。どちらも即座に再生して行く為、全く終わりが来ない。
手が切れようと、足が取れようと、首が飛ぼうと、臓器が出ようと、目が破裂しようと、耳が削げようと、指がもげようと、筋繊維が断裂しようと、骨が砕け断たれようと。血で血を洗い、肉と骨で身を清める。
両者全く気にする素振りもなく、ただひたすらに斬り合う。たまたま大振りの攻撃がぶつかると一度競り合い、互いに距離を取ると同時に地面へと足を強く叩きつける。
するとクロの周囲の血が全て刀に変わり、妓夫太郎へと殺到し逆に妓夫太郎の周りの血は全て血刃に変わり、クロへと殺到する。それが互いの技を相殺し、砕け散った血と鉄の中再び両者は高速で斬り合い始める。
この世のものとは思えない超常の戦いであった。
「はは、ハハハハハ!!ここまでたァ思って無かったぜ妓夫太郎!!」
「テメェこそ出来るじゃねぇか!今までとは桁違いだァ!!」
大口開いて、互いに血飛沫を上げながら笑い合う2人。未だかつて無い高揚感に身を任せ、はち切れんほどの暴力に身を投じていく。
「初めてだ!こんなに楽しいのは!!いいなぁ!本気で殺し合うってのは!!」
「全くだぜぇ!!」
「「ギャハハハハハッッ!!!!」」
斬撃と血と臓物のシャワーが2人の心と結界内を満たしていく。クロの斬撃が妓夫太郎の首を断ち切るが、
「平目流瞬間お刺身五枚おろしィ!!」
「当たるかァ!『禍血鎌』ァ!」
「顔面セーフ!オラオラオラァ!!」
「ガアァァアァ!!」
クロの5連撃を鎌で全て受け流し、クロスさせた鎌でクロを4等分しようとするが頭の刀で受ける。少しの間拮抗したが直ぐに両者距離を取ると直ぐに突っ込み血みどろの斬り合いに身を投じる。
そして一瞬の隙をついてクロの側頭部を蹴り飛ばした妓夫太郎はパンッと両手を合わせてから大きく振りかぶってブオンッと音が鳴るほど力強く振った。
「行くぜ梅ェ!」
『愛別離苦』
ギュオッッ!!
そう叫ぶ妓夫太郎の体から《帯のような血の刃》が超高速で何十本も飛び出し、クロに襲いかかる。それは彼の妹である堕姫、いや梅の技であり彼が自身の血で再現した兄妹の合わせ技であった。加えて妓夫太郎の現状底無しの力、凄まじいまでの血の圧縮によりその刃はクロの刀でも切断出来ないほどの硬度と鋭さを誇っている。
そんな物が人間の反射神経を超えた速さでクロに迫る。
「最強兄妹ぃぃぃ・・・ファイヤー!!!」
「ハッハァ!その力、正しく愛だ!!抱き締めたいなぁガン○ム!!」
「どちらさんだァ!?」
それを空中で身をひねり、まるで踊る様にヒラヒラと躱しながら妓夫太郎に接近・・・などと、無粋な事はせずにその身に真正面から全ての帯を受けてバラバラになる。その後も戻ってきた帯に再び斬られ、どんどん細かくなるクロだったが、左腕の刀が勢い良く伸びて妓夫太郎の背後に突き刺さった。
「来いよ」
「行くぜハニー」
今なお切り刻まれながら突き刺した刀を縮める勢いで妓夫太郎に向かって流れ星のように突っ込むクロの左腕、それを起点に再生する肉体、そしてコートの中から発射された無数の小刀が避けない妓夫太郎を貫く。針鼠のようになった彼を突っ込んできた勢いのまま頭の刀で頭突きして2人揃って吹っ飛んでいった。
「アァァイ!!」
「ウラアアアア!!!」
ごちゃごちゃと絡まって転がりながら斬り合い殴り合う2人。妓夫太郎の腹から頭の刀を引っこ抜こうとギコギコと動かすクロだったが、その体に逃がすかと言わんばかりに血帯びが絡み付く。これまでとは違う拘束による動きの制限、これがぶっ刺さりクロは動きを封じられてしまった。
「血縛!」
「う、ぎ、動けねぇ〜!!」
悪魔と言えど身体構造は人間と同じ。肉体を再生できると言えど自切できないよう得物ごと捕まえてしまえば脱出の術は無い。蜘蛛の巣にかかった餌の如くグルグル巻にされるのみである。
まぁそれも、普通ならばの話。この男は普通じゃない。
「ご、おぶ、おえぇえぇぇ”ぇ”ッ!!」
クロが無数の血帯びの中で嘔吐くと口と腹から無数の刀が溢れ出て、血帯びの中を満たし始める。ブチブチと血帯びと自分を千切ながら刀が押し出てくる様は正にホラー。無論、それを黙って見てる妓夫太郎では無い。
「圧縮圧縮猛毒圧縮ゥ・・・!」
血帯びを重ねて拘束時間を少しでも増やしながら、鎌に毒を集中させていく。猛毒に猛毒を重ね、更に効力を増やしていく。クロの拘束が限界を向かえる頃、鎌から滴る毒は地面すら溶解させ、体に付着すれば即座に溶かされる程強力な猛毒と化していた。
「ハッハァ!これで終わりかァ!!??」
「どうでしょう!!」
そして帯から抜け出してきたクロに対してその猛毒を振るう。本能的にその危険性を察知したクロだったがもはや回避は不可能。猛毒の斬撃は吸い込まれるようにクロの右足を捉え、その付け根からあっという間に溶かしてしまった。
「おぎゃあぁぁぁー!?」
今までにない激痛。これにはクロも思わず絶叫。傷口から侵略するかの如く毒が回り、どんどんクロの体が崩壊していく。しかしそれを良しとするはずも無く、これは
「流石に効いたかァッ!?」
「うるせー効果抜群だよ言わせんなパンナコッタ!」
「ならおかわりやるよォ!」
「させるか!指切りげんまん嘘ついたら刀500万本の刑ィィィィッッ!!!」
「お兄ちゃんの底力ァァァアッ!!!」
先程吐いた刀達を操り、妓夫太郎へと殺到させる。雨霰の如く迫る刃の壁に彼は妹から借り受けた技で対抗する。猛毒を付与した血帯は次々刀を溶かし、切り裂き、クロへの道を作り出す。刀の壁にぽっかりと空いた穴の先に標的を定め、鎌に流していた猛毒を両手の平を合わせた中に凝縮し、構える。
「あぁん!?」
「これが兄妹の力だぁぁ!!」
『葬毒』
ピンッ
指と指の僅かな隙間から空へ溢れるように射出されたそれは静かにクロの目の前まで飛んでいき・・・
ズパァンッ!!
「おぉ?あ、ぎ、ガガガァアァァガァァァァッッ!!??」
散弾が放たれるが如く、急激に膨張し破裂したそれは細い帯のような軌跡を何本もクロの体へ叩き込み、その体を急速に蝕んでいった。
「いぎぎ・・・!?こ、れはヤバいな!!」
爛れるどころかすぐ様溶け消え落ちていく肉体に流石のクロも危機感を覚えたのか頭だけは守り、自切して難を逃れようとする。しかし、その先にあったのは両の手を合わせ、圧縮した血液を発射せんとする妓夫太郎の姿。
「仇殺し いきまぁす!」
「あ、ちょっとタンマ・・・」
ビィィィーーーッ!!
妓夫太郎の手の先から放たれたのは先程とは違い、ビームのように細く持続的な血線の葬毒。点の攻撃なので範囲は狭いが高威力で速度が早いそれは散弾状の葬毒の約3倍。溶け消え落ちるクロも避ける暇なくその頭部を葬毒に貫かれ、即座に毒が周り肉体が崩れ落ちていった。
しかし
「どんまい!」
心臓を起点として新たな肉体を生成していたクロは一瞬前まで自分だった皮を破り捨て出来たてホヤホヤの全快状態で妓夫太郎へ飛び付き、刀を口から喉へと突っ込んだ。
「ゴックンしてね!!吐いちゃやーよ!!」
「アガガギギャアガァァァッ!!??」
体内で無限増殖する刀により、妓夫太郎の肉体は内側から切り刻まれていく。ご丁寧に逃がさないよう足を妓夫太郎腹に差し込んで固定している。体中から剣山のように刀を生やした妓夫太郎はフラリと倒れかけたがすぐさま息を吹き返し、体内の刀を全て猛毒で溶かしそのままその毒を竜巻のようにしてクロへとぶつけた。
「薄味だなァオイッ!!」
『
「ひどぉい!!」
ドロドロに溶けてべしゃりと地面に落ちるがくり抜いて無事だった眼球から叩き付けて遊ぶおもちゃみたいに直ぐに元通りになるクロ。
これほどの攻防を経ても彼らの体は尽きること無く、この戦いに終わりが見えることも無い。しかし妓夫太郎には自壊というタイムリミットが迫っている。
「・・・埒が明かねぇなァ」
「ま、互いに不死身だしな。ドロドロにもならぁよ。」
先程までの殺伐さはどこへやら、そう言って互いにため息を吐いてどーしたもんかと困り果てる。そうこうしている間にも体が徐々に崩れていく妓夫太郎。これならばこのままズルズル戦い続ければ妓夫太郎は自滅しクロの勝ちは確定する。
───────だがそれは、雑魚の思考だ。
千日手同士で決着が付かないというのならば。互いが互いに同じ事を考えたのかニヤ〜ッと笑みを深めると深く腰を落とした。
「男と男の戦い」
「決着の付け方なんざ決まってるわな」
「たった一撃」
「されど一撃」
そこにあるのは日本男児の魂、そして男の美学
どんな事象もこの美学の前にはその足を止め、見守るしかない
それで得られるのは魂の決着
不死身だろうが関係無い。勝利を刻むか、敗北に沈むか、二つに一つ。言うに及ばず語るに能わず、太古の昔より遺伝子にすら刻まれたドシンプルな方法。
即ち、一撃決着
「刀の悪魔、サムライソードマン。推して参る。」
「世界一美しく可愛い妹を殺した愚かな兄、妓夫太郎。取り立てるぜ、その命をな。」
名乗り、構え、睨み合う。
片や愛を背負い、片や狂気に嗤う。鬼と悪魔、人外同士だが愛を知り勇を尊び心を語る者達。殺し合いの中で血と肉以上に通じあっていた彼らは目の前にいる相手に友情に近い何かを感じ合う。
憎むべき妹の仇であると同時に、己に妹の名を思い出させ呪縛を振り払い兄として蘇らせた男。
つまらない鬼から始まり、妹の死をキッカケに人間賛歌を宿した高潔な男。
こいつに敗れるのならばそれもいいと、心のどこかで湧き上がるそれに蓋をして殺意を研ぎ意識を集中させる。
今行くか、いやまだか。いや今か。
両者の得物が逸る気持ちを表すように僅かに震える。その微振動が空気を伝わり、彼らの頭上にあった血の太陽からほんの一雫の赤い粒を落とした。
一秒にも満たない速さで空気を割いて落ちるそれは、しかし極限集中状態の彼らにとっては悠久の時が過ぎるかの如く長い間宙から地面への空中旅行を楽しんでるとすら感じた。
長い長い旅はやがて終わりを迎え、同じく赤い地面へ溶け込むように落ちて・・・
───────ピチョン
「ダァアァアアァァアァァァアッッ!!!」
「チェェストォオォォオォォォォッッ!!!」
一刀 人斬り
ガキィィンッッ!!
最大強化ドーピングによる限界を超えた身体能力で毒鎌を振り、切り捨てる事に特化した人外の高速飛び込みで刀を振るう。
目にも止まらぬ、認識すら出来ない程一瞬の交差。
瞬きの間にも満たない僅かな時間ですれ違い、互いに背中を向ける形で停止する両者。一度の甲高い音の後は一切の音が鳴らず、不自然な静寂が辺りを包み込む。
静寂と共に、あれだけ嵐のように暴れ回っていた彼らも動かない。武器を振り抜いた状態で静止し、最期の一撃の余韻を味わっている。
ビキッ
そして静寂を切り裂いたのは妓夫太郎、の武器である鎌であった。大きく入った亀裂は直ぐに全体へと伝わっていき、バキャンッとこれまた大きな音を立てて粉々に砕け散る。
それを握っていた、今は空を握る妓夫太郎の手も鎌と同じようにみるみる崩れていく。ドーピングの効果が切れ、代償の取り立てが始まったのだ。
「・・・終わり、か。中々どうして、名残惜しいじゃねぇか。」
崩壊する己の肉体を見てそう呟く妓夫太郎。そんな彼にクロは笑いながら話しかける。
「ハハハ!死に際なんてだいたいそうさ!全てが愛おしく、だからこそ無念が残るのだ!だがいい、それでこそ人間だ、人間の死に方だ。醜く生き長らえ憎悪しか残さん怪物とは違う。誇れ妓夫太郎、お前は兄として戦い、人として死ぬのだから。」
「ああ・・・そうだな、そうかもな。うん、良かった。恥も悔いもあれど、梅に顔向けできるくらいには、なったかな・・・」
「何を言う、お前は立派にやり遂げた。笑えよ、笑って胸を張って逝け妓夫太郎。」
心からの賞賛、それを伝えた後にクロの体に大きく切り傷が走り・・・
血の雨を降らせ、膝を折り倒れ伏す。
「お前の勝ちだ」
「・・・・・・そうかぁ」
1つ、笑みを残して妓夫太郎は崩れ去った。晴れやかな、曇りの無い、初春のような表情を残して。鬼の最後とは思えないほどに、穏やかな終わりを迎えたのだ。
彼魂はきっと地獄へ落ちるだろう。しかし、それでも彼は孤独では無い。浄土への道を捨ててでも、兄の背中の温もりを選ぶたった一人の愛しき妹がいる。全てのしがらみから解き放たれた彼らは長い年月をかけて再び現世へ戻るだろう。何の変哲もない、ただの人間の兄妹として。
「あばよ、妓夫太郎」
肩から腰にかけて、大きな切り傷をあえて治さず。この地に降りて3人目の友との思い出として刻み付けた。
悪魔は笑う、心地いい思い出の中で。悪魔は笑う、喪った友への哀愁を胸に。
そして日が沈み、熱という華が咲く遊郭に久しく鬼のいない夜が来た。長い長い支配の終幕であった。
その後、炭治郎は上弦の血液を入手し人化の薬の研究を大幅に進める事となる。だが妓夫太郎へ放った一撃が思いの外刀へ多大な負荷をかけていたようで戦いが終わってから見るとズタボロボンボンになってしまっていた。
役満放銃顔面蒼白印の炭治郎はガタガタと震えながら鋼鐵塚への謝罪と慰安も兼ねて刀鍛冶の里へと向かう事となった。ちなみにクロ無断でついてく。可愛そ。
隠達が後片付けに奮闘している中、ボーッと倒れ込んだまま夜空を見上げているクロに宇隨が歩み寄ってくる。それに気づいたクロは目線だけを動かしてにへらと笑い、彼に話しかけた。
「おー、お祭り男。どーよ、奥さん方は元気だったかい?」
「・・・まぁ、おかげさんでな。」
「そーかい、正直死んだもんだと思ってたけど僥倖だったな〜。あ!これ本人には内緒な!」
「言ってんだよ本人に」
クロの本音にビキビキと血管を浮き立たせる宇隨だったが、コイツはこういうやつだと深呼吸して気を沈め、彼の隣に座り込む。
「助かったよ、ぶっちゃけ派手にな。お前の事はまだ信頼してねぇが、その強さは信用出来る。親方様への忠誠も本物らしいしな。」
「忠誠じゃなくて友情、心の友、Best Friendです〜」
「べす・・・?横文字使うな分かりずれぇ」
唐突な流暢な英語に困惑する宇隨、しかし少しするとフッと笑を零しクロと同じ夜空を見上げた。
「全員五体満足で帰れたのはお前のおかげだ。感謝するぜ、クロ。」
いきなり素直に感謝の言葉を伝えてきた宇隨に目をぱちくりとさせ、ニヤリと笑って揶揄うように肩を竦めた。
「へっ、おうおう感謝しなよ。悪魔に過剰労働させたんだからな、高くつくぜぇ〜
「ッ!・・・ああ派手に期待してな。俺のツテでとっておきの甘味を用意してやっからよ。」
「マジかよ!や〜ん!天元ちゃんだーい好き!!チュッチュッ」
「やめろ!キメェ!!引っ付いてくんなマジで!おい誰かコイツひっぺがしてくれ!派手に!!」
宇隨の感謝の品に感激したクロはいきなり抱きつき、頬にキスをしようと唇を窄めて気持ち悪いキス音を鳴らす。その顔面を掴んで全力で離そうとする宇隨。
「うわっ何やってんだあんたら・・・」
「取っ組み合いか!喧嘩か!混ぜろ!俺様が最強だ!」
「さむらゐそうどまんさん!無事だったんですね!良かった!あれ、お二人共にいつの間にそんな仲良くなったんです?」
「どう見たらそうなんだ!?」
もつれ合っていると三馬鹿がやってきて2人の状態に善逸はドン引きし、伊之助は喧嘩と勘違いして混ざろうとして殴りかかってきたので軟体で抜け出せないチョークスリーパーで返り討ちにする。炭治郎はキョトンとして少しズレた解釈をしていたが宇隨に突っ込まれた。
「照れちゃってもう。可愛いんだから。」
「やめろ!」
「ケッケッケッ、んじゃ私ちゃん先に帰ってるぜ。かがやんが待ってるかんよ。」
「おうおう!さっさと帰れ派手クソ野郎!帰り道でうんこ踏め!」
パタパタと手を振って大股で帰るクロに罵倒を浴びせてクナイをぶん投げる宇隨。そんなギャグめいたやり取りの中で炭治郎の鼻はクロの感情をしっかりと感じ取っていた。
「さむらゐそうどまんさん・・・悲しんでる?」
背中に漂う哀愁、そして悲しみの臭い。彼と鬼の間に何があったのかは分からないが彼はきっと、大切な友を無くしてしまったのだろうと炭治郎は感じた。彼を怪物や鬼と同類などと言う人もいるが、俺たちと同じ心持った優しい人なのだとクロに対する信頼を深めた。やめとけ。
炭治郎達と別れたクロは遊郭を一望できる所まで来ると、手から生やした刀を地面にぶっ刺して墓標代わりにし、その下に大雑把に梅の花をぶっ刺す。
「おし、こんなもんでしょ。ダチの墓がねぇってものあれだしね。いい眺めだろ?遊郭一望できるぜ・・・あれ、別に思い入れがあるって訳じゃないんだっけ?まぁいいや。」
ポンポンと笑いながら墓を叩くクロ。
「んじゃ、私は行くわ。そっち行くまで首長くして待ってろよお兄ちゃん。ついでに妹。」
遊郭を眺めてフッと笑みをこぼした後にコートを翻して産屋敷邸へと帰って行った。彼が去った後には静かに佇む刀の墓標だけが残された。
きっと、この先クロ以外の者には見つからないだろうそれは確かに人として眠る兄妹が生きていた証拠。そして彼らを悼む者がいた事の証左。
人知れず静かに、二人に安らかな眠りを。
そして、叶うのならば平穏な来世を。
梅の花弁が、2つ。遊郭の空に舞い、消えていった。
「また会おう、いずれリンボで」
何だこの締めって思うでしょ、俺もソーナノ