原作を知らないまま主人公になった男   作:来栖未西

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流れるままに

 

 

 航海士。

 

 海賊として、いやこの世界で海に出ようというなら航海士は船員として必要不可欠だ。それならば目の前の泥棒だという彼女がきっと俺の仲間になるのだろう。

 

 何故盗みを働くのか聞いてみたがはぐらかされた。しかしどうやら海賊相手を専門にした泥棒だそうだ。

 

 なるほど。いかにも仲間になりそうな人物像だ。

 

 試しに海賊に誘ってみるが拒否された。その時の彼女は笑っているようでもあったが、心の底からの深い拒絶があったのを感じた。海賊が心底嫌いなようだ。

 

 俺に彼女の心を溶かすことができるだろうか。仲間になってもらえるだろうか。そもそもゾロもあんな誘い方でよかったのだろうか。

 

 ーーおい、仲間になれ。俺は海賊王になる

 ーー俺の状態が分かんねえのか

 ーーここに海軍から拝借してきた三本の刀がある

 ーーそれは俺のだ!

 ーーそうか、もう一度言うぞ。俺の仲間になれ。

 ーー脅しじゃねえか

 

 ーーだが面白いじゃねえか、乗った。

 

 こんな誘い方が今後も通じるのか?

 

 しかしあの島であれ以上の出来事は起こらなかった。俺にはあれ以上の誘い方が思いつかなかった。

 

 深く考えても仕方がないか。

 

 グランドラインに入るために最低限必要なのは船、海図、航海士の三つだ。この島では幸運なことにその海図を持った海賊に出合った。

 

 だから安心する。この幸運は俺ではなくアイツのモノだ。この幸運が続く限り俺の選択も間違っていないと分かる。同じ道を辿れている。

 

 今後俺はさらに強くなる必要がある。ただ恐らく東の海で出会う敵を倒したところで修行にもならない。きっとアイツも東の海では仲間をかき集めるだけで、すぐにグランドラインに入ったはずだ。

 

 だからあんまり手を出さないことにした。できるだけゾロやこれから味方になる人が強くなるように動く方が今後のためだ。

 

 世界一の剣豪になるのだと彼は言う。いずれはそうなのかもしれない。しかし今の彼は井の中の蛙もいいところ。強者との経験が圧倒的に不足している。あとはそもそもグランドラインでは必須ともいえるあの技術を知らないのだろう。

 

 ーー覇気。

 

この世界では上のレベルにいくほどこの練度が上がっていく。本当に大事なのは武術や能力なんかではなく、この覇気だ。

 

 もうこれ以上後悔しないように、救うべき人間が死なないように、俺はガープに強くなる方法を聞いた。

 

 最初にガープの爺さんに疑問を抱いたのは俺に打撃を与えられていることに気づいたときだ。まるでゴムのような性質を持ってしまったこの身体は、単純に殴る蹴るなんかの攻撃は効かない。

 

 そこで悪魔の実を食べた能力者に対する、特殊な力が存在するんじゃないかと思った。だから爺さんの拳はそういう類のものだと予想した。

 

 それを伝えると驚いた顔をされたが、すぐに「流石はわしの孫じゃ」と言っていた。

 

 見聞色、武装色、この2種類に加えて、覇王色。前二つは鍛えたらどうにかなるらしいが、三つ目は完全な才能らしい。

 

 なら大丈夫だ。俺は使える。

 俺は俺(ルフィ)を信頼している。この類のものをアイツが使えないわけがない。

 

 それから海に出る今まではひたすらに覇気を鍛える修行を積むことに集中した。今では覇王色以外は十分に使える。だがそれでも爺さんには遠く及ばない。まだまだ力が足りない。

 

 だがあの時、最後に爺さんはこう言った。

 

 ーーそうじゃ、覇気は悪魔の実を凌駕する。

 ーーだが今までお前に覇気なんぞ使ったことはないわ。

 ーー愛は届くんじゃ。




ガープが言う覇気をも凌駕する「愛」は誰に向けられたものか。
この世界で俺に向けられる好意は誰のものか。
果たしてこの世界で「俺」に向かって話している人がいるのか。

全てはアイツのものなのに。
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