"時に我々はこの船で旅をする。運河と海が続く限り何処までも。"
-氏名不詳-
私は誰で、何の為に、どうやってこの地に流れ、どうしてこのような生き地獄を味わっているのか。
私は誰だったか……思い出せない。どこから来たのか……それもわからない。わかっているのはたまに落ちてくるスポットライトの光に照らされてはいけないこと。嫌な予感しかしない。
私が流れ着いたのはどれほど前だったか……数時間前だったかもしれないし、数ヶ月前、数年前だったかもしれない。日時の記録はつけていない。どうせ独りだ。わからなくたって困らない。
まっさらな記憶にわずかにこびりついた父親像。母親と、父親。明確に愛し合っていた。多分。
今日も舗装路を歩く。過去に誰かが敷いたカーペットの上を歩くというのはそう心地の良いものではない。ひびが入るだけならとかく、落石、倒木、土砂崩れ。障害物はとても多い。
どっこいしょと呟きつつ丸太を転がす作業にももう慣れた。
そういえば数日前か、数週間前か、少女が廃墟の培養ポッドに入ってた。コールドスリープ状態で最低限の電力によって生かされているみたいだった。
私に彼女を起こす術はないし、わざわざ起こす理由もない。しかし、殺す理由もない。生命維持装置をわざわざ止める理由もないとなると……放置するしかない。さらば名前も知らない少女。
川は今日も赤い。まるで血液のようだと例える人もいるかも知れないが、血液よりは明るい色だと思う。ここに居るのは私だけだが。
見渡す限り赤色一色の海。波も生物すらも見えない。
食料自給率は不明。野菜が育つまでの間は木の実を食べ、缶詰を開ける。野菜が育ったら乾燥させ、保存食にしてゆっくり食べる。魚や肉の類いは期待できないから缶詰を開けて食べるしかない。川が赤くなければ……あるいは……
今日は身の回りを整えることにした。別に綺麗好きなわけではない。廃墟の瓦礫を取り除くくらいである。
「こんにちはー?」
白くて丸っこい流線型のボディを持つ人工知能搭載型セントリータレット……?みたいな機械を見つけた。正面に立つと撃ちたくなくても撃ちたくなるらしいので正面には飛び出ないようにしないと。
「わわ!離してください!」
持ち上げてみると意外と軽い。背の高さは自分の身長と同じくらいとはいえもっと重いと思っていた。
電源供給はコードか内蔵バッテリーで行うと思っていたけれど、この廃墟に置いてある限り自分で電源を供給できるみたいである。でなければここに動物の集合墓地ができるのは不自然であろう。
廃墟にはAperture Laboratoryと書いてある看板がかかっていた。
記憶を辿ろうとするも……毎回のように空虚にたどり着くかプロテクトの妨害によって辿るに辿れない。
「起動完了!」
激しい銃声。
「イターイ!」
メラメラと燃える音と、爆発。
足音。複数の二足歩行者が近づいている。タレットは壊れた。この二足歩行者はこの状況で私の味方になってくれるような存在だとは思えない。しかし、打つ手もない。降るか、戦うか。降るか、戦うか。
『ターゲットを発見、捕縛します。』
『捕縛してどうする。まずは保護だろ。』
女声、男声……二人居るな。そして……後ろ!?いつの間に!?
『あー……焦らないで。手を頭の上にー、ゆーーくり、振り返ってー。』
『申し訳ないが、貴女には御同行願いたい。』
細長い胴体と細い四肢を持つロボットに、丸っこい胴体に細い四肢の付いたロボットが私を見つめていた。攻撃の意志は感じない。
AtlasとP-body。
ふむふむ……設計上はアダムとイブか。
A『貴女には我々の手伝いをお願いしたい。』
A『生存者を起こさなければならない。』
『生存者?』
P『貴女が数ヶ月前に発見した生存者等です。』
P『報酬は食料、この施設の技術の提供……くらいしかできませんが……』
……やるしかないのでしょう?とばかりに頷いてみせる。
A『……引き受けて頂けるのなら。』
やりましょう……生きている人たちのために。
朧げな記憶には人のためになることを行えとあった。この場合の人はロボットであってもいいだろう。
青色や紫色に光る楕円と、黄色や赤色に光る楕円。彼らはこの楕円をポータルと呼ぶ。青色は紫色と繋がり、黄色は赤色と、どういう原理か分からないが繋がっている。
いくつもの障壁を解放し、時には死にかけ、途中でタレットの攻撃を落ちていたハートマークの描かれた立方体……コンパニオンキューブというらしい……で防ぎながら突破、そして……
『お帰りなさい。Aperture Science コンピューター制御Enrichment Centerへようこそ。…………ブルー、彼女は?』
A『保護しました。協力的な生存者です。』
『山の名前を付けられておきながらなぜこんなにも小さいのです?』
P『彼女は元は保護された個体です。』
『なるほど……貴女にはお願いがあります。』
『先程の皮肉に関してはお忘れ頂けますか?そして、生存者の救出と、攻撃を仕掛けている敵性勢力の排除をお願いしたいのです。』
私に言いますか?それ。やりますけど。
目の前の天井からぶら下がっていて、喋るごとに動いて揺れる丸みを帯びた機械の集合体とでも言うべきものを見上げながら思う。なるほど……これは組織の長とも言えるな。
『では……ブルー、彼女に装備を。オレンジ、防御システムの設置をよろしく願います。』
A『移動しましょう。こちらへ。』
青色の透明な壁を通過してついていく。
A『ナロードナヤ級重航空戦艦一番艦、"ナロードナヤ"……貴女の装備……正確には艤装はこちらに。』
辿り着いたのはクレーンとロボットアームが壁と天井を埋め尽くす部屋。床には四角い水溜り。外に繋がっているせいか、水は非常に汚い。
A『連装100cm四段階展開型電磁加速式投射砲、|50cm液体装薬式速射単装砲……そして装甲化飛行甲板、浮航用歩行補助ユニットが貴女の装備となります。』
主にレールガンが私の兵装であると。主砲は右肩に載せて、通常は左肩にかけて折り畳み状態にする……展開時は一度上に向けて、頭の上を通し、砲身を展開することになっているのだとか。何秒かかるのだろうか。副砲は副砲で小銃のようになっていて、連射が可能らしい。蜘蛛の巣状の照準器と二脚もついているから対空射撃もできるのだろう。多分。
主砲の口径が1mとは言うものの、小さくされているのか実寸は20cm程度のように見える。これでいて威力は維持されているのだろう?
飛行甲板は装甲化されて、計算上は50cmクラス迄であれば問題なく耐えられるらしい。
ATLASの説明によると私自身、非常に頑丈にできているらしく、飛行甲板以上に強固であったという。私の意識のない内に試したのか?
装備している機体は旧式、いやほぼ骨董品だというが……プロペラの無い飛行機なんて初めて見た。……まあ、記憶にないだけかもしれないが。
A『戦略爆撃機Tu-16、戦略迎撃機Tu-128、戦略迎撃機Su-15が支給されます。いずれもまだ無人なので飛べないですが。』
戦略規模のものばかり支給されるのね。それも使いにくい迎撃機とセットで。
A『ちなみに艤装は自分の意志で展開、格納が選択できる。やってみてくれ。』
えー……と、こうしてこうすると……
ガチャ、グイーーン、ガキーンガーンゴーン、ガチャッ……そんな感じの音を出しつつ主砲が展開される。うーん……時間かかるし、右側が全く見えないね……そして副砲は……おっと、小銃、いや?機関銃かな?の形をした状態で右手に。ハンドルを掴んだ状態で現れるのね。飛行甲板は左腕に……いや、両腕の上腕部に。床スレスレまで。まるで盾のように。まあ実質、盾か。
A『まずは水上歩行に慣れていただいて。』
汚い水に足を踏み入れるのは少し抵抗があるがやるしかないだろう。
おお……濡れない。私は浮かんでいる。
A『歩いてみてください。』
では失礼して……おぉ……
A『次は滑ってみましょう。』
滑る?
A『前方に重心を移して。』
おおおおお……
A『停止は逆方向に重心を。』
急には止まれない。
A『射撃は単純で、主砲は眼鏡に表示される"アパチャーサイエンス超高速弾道計算機能付き照準器"と敵の像を重ねて右手を強く握りながら発射と唱えてください。副砲は左側面にアパチャーサイエンス対空照準器、上面にアパチャーサイエンス超高精度望遠照準器が装備されています。直接照準で狙ってください。引き金を引けば弾が出ます。』
マガジンは右脇に
Atlasの要請に従いログの記録を一時停止。
稚拙な文章ですがここまで読んでくださりありがとうございます。
遅筆ですが、どうかよろしくお願いいたします。