洋館少女の暮らしぶり   作:あるいてごろりと

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スペンサー卿

重い足取りのままスペンサー卿の大豪邸を訪れた私。

シンプルだがお金持ちのシンプルゆえに高いであろう扉を前にして私は帰りたくなった。

母はニコニコしている。これからのパーティーが楽しみなのだろうか。

緊張しているのか、貼り付けたような笑顔にも見れる。

周囲から怖がられないか、あの表情。

父はずっとはぁはぁと言っている。何に興奮しているのか知らないがやめてほしい。

正直隣に立つのも嫌である。

 

扉が開くと初老の男性が現れた。

恐らく執事長であろう。

後ろには若いメイドと執事が首を垂れる。

 

「ようこそいらっしゃいました。秋も深まり本日は風がやや強く冷え込むでしょう。どうぞ中へ入り暖をお取りください。」

 

「はぁはぁ・・・、本日は招待はぁ・・・、頂きありが・・・はぁはぁ・・・とうございますはぁ。」

 

「・・・・・・。」

 

執事長は微笑んではいたが、この沈黙の間は父のことを気の毒な人だと考えている時間に違いない。私が恥ずかしい。

母は父の背中をさすっている。優しいけど甘やかしすぎ。

何で父は走ってもないのにこんなに息が荒いんだ。

体が原因でなければ、何かを考えているからだろう。

・・・やめよう。

 

執事長に案内されたのは、入り口すぐのホールと客室であった。

主への挨拶は今すぐでなくて構わないそうだ。

その間に一度身体を休めてください、とのことだった。

早くも病人扱いだ。

 

父はポケットからおもむろに錠剤を取り出しそれを飲んだ。

私は興味本位で聞いた。

 

「なにそれ?」

 

「バファ〇ン」

 

「頭痛?それとも熱でもあったの?」

 

父でも体調不良を起こすのが意外だったが、私はこれを好機と捉えた。

父の看病を理由に帰ろう。

私には私専用のふかふかベッドが待っている。

今日ははよう寝たいのだ。

もっともその理由の大半が父なのだが・・・。

今ばかりは感謝しよう。

 

だが、私の予想に反した返答を父がしてきた。

 

「いや、半分のやさしさの効能ってどんなんだろうと思って。」

 

知るもんかい。

そんなチープな考えで医学の結晶を飲まないでほしい。

 

「あら、あなた。私の優しさじゃ足りないんですか?」

 

母がバファ〇ンに嫉妬しかけている。

 

「いや、君には到底及ばないよ。これは私には必要ないようだ。

困ったモノにあげるとしよう。」

 

惚気た空間から早くでたいと考えていたところで、コンコンと扉がノックされた。

 

「どうぞ。」

 

父が答えた。

 

ガチャリと開いた扉の奥には、男性の老人が立っていた。

足が良くないのか杖をついている。

老人は私たちの姿を見ると口元に笑みを浮かべた。

 

「よくぞ来られた、トレヴァー君。

顔を会わせるのは建築相談の時以来だろうか。あれから君の手で作り上げた家で悠々自適な生活をさせてもらっているよ。

執事長からお加減が優れないとうかがったのだが、具合はいかがだろうか。」

 

老人は父に愛想よく笑顔を振りまいている。

それにしても、パーティーを開いておいて悠々自適とは大富豪の感覚はよく分からない。

 

「これはスペンサー卿。こちらから挨拶に行けずに申し訳ない。

具合のほどは先ほど薬を塗って問題なくなりました。」

 

どうやら屋敷の主が来たようだ。父は普通の人のように振舞っている。

あと、飲み薬だったよね?

 

「ふむ。私の知り合いの名医に来てもらおうかとも思ったのだがそれは何より・・・しかし、我々の再会に水を差すようなマネをした敵はどんな輩なのかね?」

 

スペンサー卿は軽くおどけたような表情で質問をした。

 

「水虫です。」

 

父は屈託のない笑顔で答えた。

途端に空気が冷え込む。

スペンサー卿以前に実の父の感性が私には分からなかった。

私が沈黙の中で天を仰いでいると、突然静寂がかき消された。

 

「くっく・・・、ハハハハハ!

能ある鷹は爪を隠すとは君のような人を差す言葉なのだろうな。

いやはや、私の要望を全て叶えてくれた設計者の言葉とは思えないよ。

いや、失礼。今の発言に侮べつの意はない。

むしろ君の能力を理解する数少ないであろう関係者であることを光栄に思うよ。

さぁ、パーティーはもう直に始まる。

君たちにも是非とも楽しんでもらおう。」

 

最後の言葉を言う時に、スペンサー卿は私と母にウインクをした。

涙が出そうになった。

何か大きな試練を乗り越えたことで心が打ち震えたために出た涙だ。

スペンサー卿の寛容さには敬意を表しよう。

私はこのパーティーを素敵な老人のために満喫することを決めた。

 

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