洋館少女の暮らしぶり   作:あるいてごろりと

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パーティー

時計は夜の時間帯を指していた。

案内された大広間では、すでにパーティーの準備は整っている。

壁の各所にかかるランタンには火がついていて、天井では大きなシャンデリアが煌々と光を灯していた。

室内は、まぶしくないほどの暖色系の明かりに満ちている。

 

テーブルクロスのかかった丸いテーブルが8つばかり一定の間隔で円を作るように配置されており、その上には一流シェフが腕を振るったであろう豪勢な料理が置かれていた。

 

各テーブル付近では、きれいなドレスやスーツを着た人々がそれぞれ周囲の人たちへ挨拶をしている。

恐らく高位の貴族階級の人たちなのだろう。

私が今まで経験してきたパーティーの中で間違いなく一番位が高い人たちが集まっている。

親戚やお友達感覚の挨拶は怪訝な顔をされないだろうか?

貴族の挨拶ってなに?思考がぐるぐるしてくる。

やっぱり帰りたくなってきた。

 

「今宵は洋館完成記念パーティー、言わばあなた方トレヴァー家も主役です。

どうぞリラックスしてお食事やご歓談をお楽しみください。」

 

ガチガチに固まっている私を気に掛けてか執事長が話しかけてきた。

素敵なダンディの心遣いに少しばかり気持ちが楽になる。

私が彼に少し頭を下げると、ニコリと笑顔を返してくれた。

この人レディの扱いに手慣れていることね。気を付けなくっちゃ。うふふ。

 

スペンサー卿は貴族を前にしても明朗快活な挨拶をしており、パーティーは落ち着いた様子で始まった。

 

それにしても貴族様は光りたい人ばかりなのだろうか。

キラキラして人が眩しい。

2000年ぐらい前なら皆神様扱いをされていただろう。

頭からつま先までいくらのものを身につけているのだろうか。

人柄はまだ分からないが、資産だけで考えてもお近づきになりたくなる。

彼らが札束ではたいてくるのなら喜んでこの頬を差し出そう。

 

「コンクリート打ち放しの大広間ってなんか雰囲気暗くなるよな~。」

 

父がなんかケチをつけている。

 

「ちょっとお父さん。人ん家に文句言わないでよ。」

 

「でもさ、リサ。崖際にお城のような家を建てたいなんて幼稚じゃない?

 嵐が来たら減速する前に直にぶつかってくるだろうし、崖崩れが起きれば大豪邸が一発おじゃんだし。」

 

「そうかもしれないけど。それなら今後も関係を続けていくためにも、設計者としてアドバイスをした方がいいんじゃないの?」

 

「洋館とは別でこっちの邸宅は人様が設計したものだから変に口をはさめないんだよ。完成したものに今更、って話だしな。

それに貴族として名高いスペンサー卿の要望だぞ?

俺が口なんか挟めばアメリカ合衆国では暮らせなくなるぞ。

毎日ジャム無し乾パンの生活になってもいいのか?」

 

「自分に正直なお父さん大好き。いつも働いてくれてありがとう。」

 

「そんなほめんなよ。ほめても小遣いぐらいしか出ないぞ。」

 

ちょろいもんである。

意図しない所でお小遣いをもらう約束もできた。

帰ったらそのお小遣いで新しいキャンバスでも買おう。

母と一緒に私たち2人の絵画を描こう。

しかし、家主相手に水虫発言できるメンタルの父ならちょっとぐらい何か言っても問題ないのではないだろうか。

もはやアレな人として見られているだろうし。

それとも貴族には何かしらの一面があるのかしら。

スペンサー卿にはどんな権力があるのだろうか、と思案していると父が声をかけられた。

 

「トレヴァー君。よく聞こえなかったが何か言ったかな?」

 

気づいたら私と父の背後にスペンサー卿が立っていた。

父は若干青ざめた顔をしていた。

この父親はまったく・・・。

 

「あー、あの。おトイレに行きたいなと思いまして。」

 

「ここを出て突き当りを右だよ。」

 

父は、ははぁーどうも、と言いながら急ぎ足で去っていった。

さっきまでの強がりはどこへやら。

 

「執事長。配膳が済んでからでいいからトレヴァー君の様子を見てくれないか。もしものことがないようにな。」

 

「かしこまりました。」

 

スペンサー卿が執事長に指示して、後を追わせようとしている。

もしもって水虫のことだろうか?

いや、そもそも水虫ではないだろうあの人。

何でもいいけど、どうかトイレにこもった父が腹下して執事長にご迷惑をおかけしませんように、と祈る。

 

「美味しそうな料理ねぇ~。」

 

母は大きなチキンを前にして感嘆の声を上げていた。

 

「何かお取りいたしましょうか。」

 

メイドが母に声をかける。

 

「あら、ありがとう。それじゃ、これとこれをお願いします。」

 

「かしこまりました。」

 

メイドが皿に料理を盛る間に母が私の所に来る。

 

「リサもいらっしゃい。滅多に食べれないから今のうちにたくさん食べましょう。」

 

「もうお母さん。あんまりはしゃがないでよ。」

 

私もこう言いながらよだれが垂れそうなのを必死にこらえていた。

 

 

あれから少しの時間が過ぎた。

執事長は父の様子を見に行ったようだ。

父はやっぱり用が足したかったのだろう。

 

一方、母とスペンサー卿はというと・・・

 

「うぇーい!のってるかーい!?」

 

「へーい!」

 

「今からシャンパンタワーすんぞー!」

 

「いぇーい!」

 

二人とも酔っていた。

早すぎる。

スペンサー卿の勢いに母が乗ってあげてるようにも見えるが、顔が真っ赤なところを見ると母も大分きているのだろう。

何も起きなきゃいいのだけれど。

 

スペンサー卿はメイドや執事に指示を出して、大広間の中央にシャンパンタワーを作らせる。

母が上からグラスに酒を注ぎたいと言い出す。

 

「やってくんねぇ!注いでくんねぇ!」

 

スペンサー卿もノリノリで譲っている。

 

「いっきま~す。」

 

母は脚立に上り、一番上のグラスにシャンパンをなみなみと注ぐ。

溢れたシャンパンは下のグラスに滴り落ち、それを何度も繰り返して最後まで到達させる。

周りから拍手喝采が起こった。

スペンサー卿も興奮気味に打ち鳴らしている。

母は片手を後頭部に回して、どーもどーもと言っている。

 

突如、母はバランスを崩した。

ハッとしたが、うまく体を動かしたため、脚立が倒れることもなく、母も落下することはなかった。

けれども、母が握っていたボトルが目の前のグラスにあたる。

 

ドンガラガッシャ―ンッ!!

 

部屋の真ん中のガラスでできた山が一気に崩れ大きな音が鳴り響く。

一斉にこだまする悲鳴。

駆けつける執事長。

青ざめた私。

 

覆水グラスに返らず

 

和やかな雰囲気のパーティーは、私の安穏たる生活と共に音を立てて幕を閉じた気がした。

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