洋館少女の暮らしぶり   作:あるいてごろりと

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ジョージ視点 ~慟哭~

ジョニー・ディアスが死んだ。

昨日まではあんなに元気でいた彼がこの世からいなくなった。

私は突然のことに困惑してしまう。

どうして?何があった?

考えようとしても、それ以上の思考が深まらない。

たまらず、ケリーと連絡を取ろうとするが出なかった。

次にアンブレラ社に連絡をする。

若い女性が上品な口調で応対した。

 

「はい、こちらアンブレラ社です。」

 

「ケリー・ファブロンは本日、出勤でしょうか?」

 

「お客様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

 

「失礼しました。ジョージ・トレヴァーと言います。」

 

「ジョージ・トレヴァー様ですね。確認いたしますので、少々お待ちください。」

 

しばらくして女性の口から出た言葉を私はすぐには理解出来なかった。

 

「お待たせいたしました。申し訳ありませんが、ケリー・ファブロンという方は弊社には登録されておりません。」

 

「・・・すみませんが、言っている意味が良く・・・。」

 

「ですから、ケリー・ファブロンという方は弊社では雇用されておりません。名前はお間違いないでしょうか?」

 

女性はやや苛立ちを感じる声だった。

ケリーがアンブレラ社で働いてない?

意味がわからない。ケリーが嘘をついていたというのか。

じゃあ、なんでジョニーは何も言わなかったんだ?

社員証や名刺を見たわけではないが、彼らの仕事の話はアンブレラ社に勤めているものだと信じられる内容だった。

彼らがアンブレラ社のロビーに向かう姿を見送ったことだってある。

これは夢なのだろうか。ジョニーが死んだことも・・・ケリーのことも・・・全部・・・。

正常性バイアスがかかり、今日の出来事に対して現実味を感じなくなってきている。

一時的に気持ちが安らぐが、あまり長いこと今と向き合わないのも良くはない。

今日は有給を取ろうと思ったが、最近消化しすぎてもう残っていなかった。

 

「あのー、トレヴァー様?」

 

受話口から受付の女性が声をかけてくる。

長く考えすぎてしまったようだ。

 

「すみません、自分の勘違いでした。失礼します。」

 

受話器を戻して台所に向かい、お湯を沸かす。

コーヒーを飲んで落ち着こう。

恐らくだが、今の自分の顔は青ざめていることだろう。

幸い、リサは学校に早々と向かったし、ジェシカも今頃はゴミ収集場で近所の奥様方と井戸端会議をしている時間だ。

1人の時間が欲しくなるなんて、結婚してからは想像もしなかった。

早くこの問題に整理をつけたいと、強く願った。

 

ペーパードリップ式のコーヒー豆の上からお湯を注ぐ。

購入時にはすでに粉砕されている安価な市販品だが、芳醇で香ばしい香りが少しばかり気持ちを穏やかにしてくれた。

 

仕事が終わり帰宅したら、夕食後にでも寝室で考えよう。

ジェシカとは同じベッドで寝ている。

場合によっては、今日にでもジェシカに友人の死を話さないといけないかもしれない。

これは遅かれ早かれのことで、いつかは話さないといけないことである。

ジェシカに隠し事をしたくないからだ。

 

テレビに目を向けると新しくニュースが入り、ジョニーは他殺の可能性があるという情報をキャスターが語った。

勘弁してくれ。

私は、味の無いコーヒーを胃に流し込んだ。

 

 

建築事務所でぼんやりとしたまま仕事をしていると、固定電話のベルが鳴った。

相手は洋館建設をしている現場監督だった。

今日は洋館建築が完成を迎える竣工日であった。

どうやら仕上がったので、一緒に確認をしたいとのこと。

二つ返事で承諾し、車を洋館へと走らせた。

 

洋館に着くと現場監督と数人の職人が出迎えてくれた。

設計者と職人はなかなか馬が合わない関係も少なくはないらしいが、今の私達にそういった空気感はなかった。

これも現場監督と切磋琢磨したおかげだろう。

若い頃はクライアントの提案を鵜吞みにした私に対し、当時中堅社員であった彼から暴言ともとれる文句を言われるときもあったし、それに加えて1mほどの角材が飛んできたこともあった。

それでもお互いの考えを吐露しあった結果、信頼と呼べるような関係を作ることができた。

 

そんな彼でも今回ばかりは私に対して不服そうな顔を見せた。

クライアントが誰かは彼も知っている。

文句を言ってこないのは、私に対して理解を示してくれているからだろう。

 

洋館の内外、それと地下の施設を確認していたら夕方近くになった。

扉一つ開けるのに、手間を要する仕掛けを解かないといけないのが多々あったためだ。

 

現場監督は別れ際に、

 

「もうこういう仕事はしたくねぇな。」

 

と苦笑いで言っていた。

 

私もです、と返して彼とは別れた。

 

その日は家族で夕食を取った。

 

娘は妻に学校での話をし、私は彼氏はできたのかと言いスルーされる。

普段と変わりない日常風景だが、ジェシカは食後私に聞いてきた。

 

「様子がいつもと違うけど、何かあったの?」

 

私は何と答えてよいかすぐには考えつかなかった。

リサが見ている前だし、友人の死の話は避けるべきだろう。

そういえば、リサに以前かっこつけて有給休暇についての話をしたことがあったな。

私はしょんぼりとした顔でジェシカの質問に答えた。

 

「有給休暇が飾りじゃないことを職人達に言ったら怒られた・・・。俺悪くないのに・・・。」

 

私を包む暖かい空気が一瞬で冷え込んだ気がした。

リサは、気のせいかもしれないがゴミをみるような目をしている。

ジェシカを見ると、笑顔だった。

怖い。これ怒っている時の表情だ。

ジェシカは笑顔のまま口を開いた。

 

「それはあなたが悪いです。リサ、カウントお願い。」

 

突如、ジェシカは私に襲い掛かり、どこで身に着けたのかコブラツイストを一瞬でかけてきた。

あばらがきしむ感覚がある。めっちゃ痛い。

リサは床を力いっぱい叩く。

 

「ワン!ツー! 外れた!? ワン!ツー! 外れた!?」

 

外れてない。父さんさっきからピクリとも動けていない。

それと愛する妻と娘よ、カウントとるのは抑え込みのときだ。

リサはこれを十五回は繰り返し、私の意識が朦朧としたところで制裁は終わりを迎えた。

 

温かいシャワーを浴び、傷んだ筋肉を癒した後にジェシカと寝室に入った。

この頃には、ジェシカの機嫌はすっかり元通りとなっていた。

ベッドに入り、おやすみと言い合い電気を消す。

ジェシカは、あっという間に眠った。

 

今日は何だか疲れる1日であった。

今すぐにでも眠りにつけそうだが、少しだけ事件について整理しようと思う。

ジョニーはなぜ殺されたのか、他殺が本当ならば誰によるものなのか。

これはすぐに解決できることではない。

 

ケリーについてはどうだろうか。

アンブレラ社に行けば、何かわかるかな。

しかし、今朝の受付嬢とのやりとりを思うと取り合ってもらえる気がしない。

ケリーという人物が会社にはいないと言われれば、身を引く他にないだろう。

それ以上は、警察でも呼ばれるかもしれない。

家族に迷惑をかけるようなことはしたくない。

お前は生きてくれているだろうか。

結局、考えたところで何も進まなかった。

 

明日はクライアントのスペンサー卿の自宅に、洋館が完成した報告の電話を入れる予定だ。

出来れば、それでアンブレラ社とは関わりを最後にしたい。

まぶたが次第に重たくなってくる。

私はそれに身を任せて、深い眠りについた。

 

 

深夜の時間帯に、ジェシカの泣き声で目を覚ました。

彼女は私のパジャマの胸元の部分を掴み、声を上げて泣いていた。

妻のこういった姿は見たことがない。一体なんだというのだろうか。

私は彼女の背中に手を回し、さすって落ち着くように声を掛ける。

 

この間に何故か私は、

 

リサが起きてこないだろうか?まぁあの子はかなり寝つきの良い子だからそれは無いか。

 

などと悠長なことを考えていた。

しばらくすると、ジェシカは泣き止み始めた。

肩を掴み、彼女の顔を確認すると目を腫らしていた。

 

「一体、何があったんだい?」

 

私が聞くと、彼女は再び涙をぽろぽろとこぼしながら言った。

 

「ジョージ。洋館に行かないで!リサが・・・リサがとんでもない姿に変えられてしまう!」

 

私はジェシカの発言に思考が追いつかなかった。

 

 

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