ジェシカと私はリビングにいた。
あれから妻とゆっくり話をしようと思い、飲み物でも飲まないかと持ち掛けたのだ。
ジェシカは頷いてくれた。
ソファに座る彼女に温かいミルクを渡す。
話をするなら眠気を覚ますためにコーヒーの方が良かったかもしれない。
けれども、気持ちを落ち着けて眠くなるのならそれはそれでいいと思ったのだ。
話は進まないかもしれないが、それでもいい。
私のそんな考えを察してか、彼女は受け取ったマグカップの中身を見るとクスリと笑ってくれた。
「ありがとう。それと明日も仕事なのにごめんなさい。」
「構わないよ。ちょうど小腹がすいていたからね。夫婦水入らずの時間も欲しかったところだし。」
飲み物はついてるけどね、と言いかけて喉の奥に押し込める。
「それで何があったんだい?君があんなに取り乱すなんて初めて見たよ。」
「・・・恐ろしい夢を見たの。」
「夢?」
「ええ。あれはきっと夢。でもこのままではきっと・・・。」
ジェシカはそれが夢であってほしいかのように言った。
「洋館で何が起きるんだい?」
「私達はスペンサー卿に招かれて洋館に行くの。ただ、あなたは仕事が忙しくて数日遅れてくるのよ。
先に行った私とリサは・・・白衣の男達に拘束されるわ。」
白衣の男。頭に浮かぶのはアンブレラ社の研究員達だった。
彼らが洋館で俺らを待ち構えている?何のために?
その疑問はジェシカが次に語った言葉で答えを得られた。
「私たちは何かの薬を打たれるのよ。効果はよく分からないけれど、体調がずっと優れなかったわ。その間も私たちは狭い部屋に閉じ込められて研究員達にずっと監視されるわ。
私はリサと脱出を試みようとするのだけれども、すぐにまた捕まってしまう。
その後、私には研究価値が無くなったらしくて・・・殺されるわ。」
自然と拳に力が入る。
ジェシカとリサは薬の臨床試験を強制的におこなわれるらしい。
それで必要が無くなれば・・・。妻と娘を粗末にする外道達をどうにかしたくなる気持ちに駆られる。
「ジョージ、落ち着いて。これは現実に起こったことではない夢の話なの。・・・ごめんなさい、やっぱり寝覚めが悪くなるような話はするべきじゃなかったわ。」
「いや、すまない。・・・動揺してしまった。だけど、それほど大きな負担ならば・・・君の不安が少しでも晴れるのならば続きを聞かせてほしい。」
ジェシカは私の顔をジッと見て頷いた。
妻に見て取れるほど、私は表情に出ていたのだろうか。
私とジェシカはミルクを飲んで少し時間を置く。
「そこから先の記憶は断片的なものなの。映画のフィルムの一コマをいくつか見たようなね。
あなたが洋館にたどり着いたところ、あなたとスペンサー卿が話をしているところ、あなたも拘束されてしまうところ・・・あなたはそのまま洋館内で飢えてしまう・・・。そして、最後に私が見た夢に映されたものは・・・。」
ジェシカは目を閉じ、頭を垂れてマグカップを支える両腕の間に乗せる。
まるで何かに祈るかのように。
「・・・もはや人でない姿となったリサだったわ。顔には人の皮を被り、立ったままでも地に届くほどの長い腕・・・それでもあの子は呼ぶのよ。ママ、ママって・・・。あの子が幼い頃の呼び方でね・・・。そこだけは耳元で囁かれるように聞こえたわ。」
妻は肩を震わせていた。
私は彼女の持つマグカップを手に取りテーブルに移し、最愛の妻を胸の中へ抱き寄せる。
彼女に重くのしかかる悩みを、不安を、恐怖を全て抱えてあげられればと思いながら。
鼻をすするような音が聞こえる。
私は現実で起こったこれまでの事を振り返る。
異常なからくり仕掛けの洋館とその地下にある研究施設、アンブレラ社員であるジョニーの死と消えたケリー・・・。
根拠と呼べるほどではないかもしれないが、ジェシカが語った悲劇と結びつくものはある。
彼女の話は傍から聞けば、気の毒に思われるほどの突飛な内容だろう。
しかし、私にはそれが近いうちに実現されるのではないかという予感があった。
私は洋館やアンブレラ社と関わる大元の人物を頭に浮かべる。
あの男が、私の家族を壊そうというのか。
もしそのつもりならば、私は全力で家族を守るために動こう。
「ジェシカ。話してくれてありがとう。君の話、信じるよ。君とリサは必ず俺がそんな目には合わさせない。だから・・・君も一緒にリサを守ろう。」
最後の一言は妻を奮い立たせるために言った。
今ジェシカは泣き崩れたばかりなのに、やはり私は不器用である。
それでも私を見る彼女の目には、小さく希望の光を灯しているように見えた。
あの男は・・・、今はまだ1人の人間として接しよう。
けれど、尻尾は必ず掴んでやる。その時に私は容赦をしない。
あの男、スペンサーを・・・。