今世はベネリットグループの御曹司で、決闘委員会の筆頭で、ホルダーだった。……は? タヌキに気をつけろ……?   作:平積みされたディランザ

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現在放送している範囲(6話)まででプロットを練っているため、原作の進行に合わせて、舵の切り方は変えます。


第1話 魔女と花嫁と横恋慕さん

——敷かれたレールってのは、楽なモンだ。

 

そんな考えが俺の中で根付いたのはいつからだったろうか。

物心ついた時から……というのも随分と曖昧なものだが、おおよそ、初めてモビルスーツに乗った辺りから、だった気もする。

 

 

視界の端で大きく振れる、マゼンタに塗装された腕と、パルチザン。

ライフルに頼った攻撃など、所詮は脆い。

先ほどから目の前のモニターを通して映る相手の動きは一辺倒だ。

進路も予測できる上、俺とこいつの反応速度を持ってすれば、容易に躱せる。

何発か飛んでくるビームを、そうして避けつつ、相手の動きがある程度予測しやすいものである以上は、接近も、また容易だ。

 

脚部に搭載されたローラーを回して、大回りで接近し、リーチの長いパルチザンでまずは斬り込む。

 

当然、相手のモビルスーツとて、武装をおろそかにしているわけではない。

 

——ガキンッ!

 

ビーム兵器とビーム兵器。

触れた途端に、激しく火花が散る。

 

しかし、機体にダメージが行かずとも、ディランザ(こいつ)も、パルチザンも、十分に重量では勝っている。

相手機体がバランスを崩したのを狙うように、腰から肩口にかけて二撃目。そのまま三、四撃目と喰らわせてやり——一度防ぐための体勢を失って仕舞えば、もう終わりだ。

 

無防備になった相手機体へと、何度も、何度も攻撃を加え、大きく後ろによろけた隙。

見逃すわけもない。

 

——ズドンッ!

 

パルチザンがメインカメラを穿ち、身動きも取れなくなった状態で抜いた左手のトーチが、ブレードアンテナを斬り払う。

そのまま、重力に引かれるようにして相手機体はそのまま転倒し、ブレードアンテナを折った以上、決闘の勝者も決まった。

 

……正直、もう終わりにしても良いのだが……会社のために、箔をつけておく必要がある。

それに、ホルダーを維持し、トロフィー(花嫁)が、変わらず俺のものであることもアピールしなければなるまい。

 

「見たか、ミオリネ!」

 

——ミオリネ・レンブラン。

こちらを睨みつける白髪の少女の瞳は、相変わらず鋭く、反抗的で、今日も変わりない。

 

「このグエル・ジェタークの決闘を!」

 

しかし、構わない。別に彼女の態度が軟化せずとも、俺が欲しいのは地位だ。

そして、彼女も彼女とて、決闘の勝者——ホルダーへの景品に過ぎない。

この間も地球圏へと逃亡しようとしていたとは小耳に挟んでいたが、父親の取り決めには逆らえまい。

 

「——俺は、お前も会社も、全部手に入れてみせるぞ!」

 

そして、最後にもう一度声を張り上げ、精一杯に自身の存在を、周囲へとアピールする。

別に、彼女の好感度なぞ関係ない。

むしろ、内心、彼女のことが気に入らないのは確かなのだ。

 

大人しく言いなりになっておけば、将来はある程度の生活が保証されているはずだろうに。

 

わざわざ親に逆らって、今の生活を捨て去ったとして、どうするつもりなのだろう。

まさかテント暮らしというわけにもいくまい。お姫様には到底無理な話だ。

 

——本当に、根本からして俺とは違う。……理解できない。

 

「こいつは俺を笑ったんだ、花嫁に逃げられた男だってな!」

 

それに、決闘を吹っかけてきたこいつも変わりない。

 

なぜ、わざわざホルダーである俺に戦いを挑んでくる?

どうせ敗北した上で、自身の戦績とプライドに泥を塗るだけだろうに。

 

「……最っ低」

 

そう吐き捨て、彼女は立ち去っていく。

しかし、この学園では決闘が全てだ。

どんな捨て台詞を吐いたところで、親の取り決めも、学園の決まりも、ましてや、俺がホルダーだという事実も揺らがない。

 

……本当に、理解し難い女だ。

 

結局、今の俺はただのガキだ。親だろうが会社だろうが、ベネリットグループ御三家の御曹司という立場だろうが、縋れるものには縋らなきゃ、生きていくことすらままならない。

だからこそ、敷かれた道を直走り、虚勢を張ってでも、己の存在を誇示して。

そうして、今の今まで生きてきた。

 

パイロットスーツに刻まれた、ホルダーを示す黄色いマークは今日も健在だ。

 

それを誇示するように。俺はもう一度、機体の上で、胸を張って見せた。

 

◇ ◇ ◇

 

◇ ◇

 

 

「……また土いじりか」

 

—— トロフィー(ミオリネ)の脱出騒ぎが今後も続けば、面倒なことになる。

 

入れ知恵……というものか、ふと、同じ寮の連中から耳にしたのは、そんな話だった。

確かに、いくら俺のホルダーという立ち位置が揺らがずとも、彼女が消息を絶って仕舞えば、有耶無耶になってしまうだろう。

 

そんな考えから、訪れた彼女の寝床。

相変わらず菜園だの言って、地球の真似事をしている彼女の姿は不快極まりない。

 

「お前は、これから俺たちのジェターク寮で暮らすんだ。脱出騒ぎはもう懲り懲りだし——何より、お前の父親が決めたルールだからな」

「……父親が決めたら絶対? ……アンタはずっと——パパの言いなりだもんね?」

「——言いなりだあ? それの何が間違っている? そうしときゃあ、将来は保証されてるってのに——よおっ!」

 

——立場を弁えろ。

 

そんな念を込めて、手当たり次第、目についた植木鉢を殴り飛ばす。

地面に植物が転がり、割れた鉢から飛び出した土が、床を汚す。

 

「何すんのよっ!?」

 

しかし、彼女程度では抑止力にはなり得ない。

彼女のボディーガードですらも、この状況は静観しているわけだ。

もう味方はいるまい。

 

「——お前は、大人しく……俺のモノになればいいんだよ」

 

あくまでも高圧的に、こちらが上だと主張するようにして。

地面に座り込む彼女へと、そう言い放った時だった。

 

——パチンっ!

 

「いつっ!」

 

不意に、俺のケツ辺りに炸裂した平手打ち。

 

……流石にボディーガードも自分の仕事を思い出したってのか? さっきまで、あんなに無頓着だったってのに……。

 

相手の面を見てやろうと、振り向いた時だった。

 

「そ……そんなことしちゃ……ダ、ダメ……です……」

 

そこにいたのは、見覚えのない女だった。

赤毛に加えて黒いバンダナ。目の前で交差させた腕は震え、小動物のようなその容姿は、明らかに気が強いとも思えない。

 

「何だお前はあっ!」

 

その予感は的中し、顔を近づけ一度怒鳴ってみれば、彼女はすぐに近くにいた女生徒——ペトラの影へと隠れる。

 

「俺が誰だかわかってるのかっ!?」

 

思い返してみれば、先ほども決闘を前にして怖気付いていた女だ。

新入生なのだろうか。だったら尚更、俺の立場を認識させねば、と。そう問うた時だった。

 

「……よ、横恋慕……さん……?」

 

こともあろうにこの女が重ねてきたのは、さらに身の程を弁えない答えだった。

 

「俺はなあっ! ベネリットグループの御曹司で決闘委員会の筆頭で——現在のホルダーだっ!」

 

こいつもきっと、ミオリネと同類だ。

 

「……そ、それでも……悪いことは……悪い、です。……ミオリネさんに……謝って、ください……」

 

身の程を弁えず、自分より立場が上にいるはずの人間へも、立場を弁えない物言いを続けて……いや、ただ、無知なだけなのかもしれない。

だったら、ルールを教えてやらねば。

 

「——ここではな、何が善か悪かは決闘で決めるんだよ。それとも俺と決闘するか……?」

 

これで十分だろう。

いくら無知だとはいえ、ここまで教えてやれば、まさかこれ以上は抵抗するまい。

 

「……し、します」

 

……ましてや、決闘だなんて……

 

「あなたと決闘、します……っ!」

 

一瞬、俺は耳を疑った。

何を馬鹿なことを……あそこまで、自身の実力を誇示した後だというのに……こいつは、決闘する……と?

 

それほどまでに、自信があるのか……?

と彼女を見やれば、相変わらず震えている。

 

……いや、だとしても、俺には敵うはずがない。

 

結局、無知はどこまで行っても無知だ。

 

「……お前が負けたら、退学してもらうぞ」

 

だったら、それを修正して……ついでに、俺自身に箔もつけられる上、面倒なのを一人排除できれば、十分儲け物だ。

メリットは——十分にあるだろう。

 

「……やります……っ!」

 

相変わらず変わらない態度を尻目に、ふっとため息を吐く。

 

……合意は済んだ。

であれば、踏み台になってもらおう。

 

内心、そんなことを考えながら——俺は、決闘の手続きを始めるのだった。

 

◇ ◇ ◇

 

◇ ◇

 

 

「……何のつもりだ、ミオリネ」

 

決闘開始前の顔合わせ。

何故かモニターに映ったミオリネの顔に、思わずそんな言葉を漏らす。

 

道理で、このやたらと派手なトリコロールの機体も、動きがぎこちなかったわけだ。

 

経営科のお姫様が、まともに決闘できるはずもない。

 

「——これは、私のケンカよ……っ!」

 

変にプライドを見せつけようとして、そうやって立ち向かってくるから、尚更傷は目立つ。

 

「……立場を、わからせてやる」

 

であれば、それで構わない。

 

「勝敗は、モビルスーツの性能のみで決まらず——」

 

「操縦者の技のみで決まらず——」

 

「「——ただ、結果のみが真実!」」

 

 

『フィックス・リリース!』

 

 

決闘開始の宣言と共に、彼女はすぐさまライフルを抜き去る。

しかし——

 

「素人に、モビルスーツが扱えるかよぉっ!」

 

そう易々と扱えるモノなわけがない。

脚部に搭載されたローラーで地を駆け、放たれる弾丸を躱し。

一気に距離を詰め、肩部装甲を用いて一撃、喰らわせる。

 

「……身の程を知れ」

 

そのまま呆気なく転倒した機体にパルチザンを突きつけ、止めを刺そうとした時だった。

 

——ビー、ビー、ビー

 

けたたましくアラートが鳴り響き、突如として侵入者を示すメッセージがモニターに浮かび上がった。

 

しばらくして機体の外で響いたのは、揉めているかのような怒声。

 

何を言っているのかはあまり聞き取れないものだったが……通信が拾った最後の一言。

 

「……私とエアリアルは……あんなのに、負けませんっ!」

 

——あんなのだあ?

 

間違いなく、さっきの女だ。

無知もここまで行けばいっそ清々しいが……それよりも、今はただ腹立たしい。

 

「シャディクッ! 決闘相手の再変更を申請しろっ!」

 

決闘委員会へすぐさま指示を飛ばし、決闘相手を無知な女へと変更する。

これが通ってしまえば、やるべきことは一つだ。

 

「——田舎者の無知を……修正してやるッ!」

 

立ち上がる手前の機体へと、何度かビームライフルを放ちつつ、弾き飛ばした場所へと、すぐさま距離を詰める。

 

当てる——というよりは、牽制するための意図が強かったが、確かに一筋、放ったビームは相手機体へと真っ直ぐに伸びた。

 

——行ったか?

 

命中を確信した時だった。

一瞬で全身のビットが可変し、出来上がったシールド。

分散されたビームが周囲の地形を変え、激しい光芒が飛び散る。

 

——だが、防いだところで……

 

「……だったらぁッ!」

 

接近を続けつつ、ライフルを捨てる代わりにトーチを引き抜き——一気に接近戦へと、持ち込もうとした時だった。

 

突如、シールドが複数個のビットへと分散し——

 

直後に何が起きたのか、俺には理解できなかった。

 

ただ唐突に、視界を幾つもの閃光が駆け抜けて、けたたましく鳴り響くアラート。

刹那、激しい衝撃が俺を襲い——足を持っていかれたのか、激しく機体が揺れ、バランスが定まらなくなる。

強く制御バーを握り、何とか体制を保とうとしても間に合わず。

コクピットの壁に、ヘルメット越しであろうとも、頭を打ち付けた時だった。

 

 

—— GUND-ARM(ガンダム)

 

 

唐突にして、俺は目の前にある機体と、この状況が見覚えのあるものであることに気づいた。

 

……違う、この体は……『グエル・ジェターク』は……俺じゃない。

 

一瞬、妙な確信めいた思考が脳裏をよぎる。

それと同時に駆け抜けていく、幾重もの記憶。

こことは全然違う、地球で……日本とかいう国に生まれたのが、確か自分で……。

 

まるで走馬灯のように、幾つもの光景が浮かんでは消え——同時に、焼けるように頭が痛む。

 

「はぁ……はぁ……」

 

視界は、スローモーションに。呼吸は、次第に荒く。

 

——破天荒なことをしたって、結局無駄だったじゃないか。それで死んだんだから。

 

俺は、占いも、呪いも、オカルトチックなものを信じてきたことなんて、今まで一度もなかった。

 

……しかし、今なら間違いなく宣言できる。——“前世は存在していた”と。

 

何もかも無視して、やりたいことするために飛び出してって——一銭も無くなって。ヤケ酒した煽りで、そのまま死んで。

 

機体が転倒するまでの一瞬、垣間見たのはそんな人生。

 

そして……

 

 

——『機動戦士ガンダム 水星の魔女』

 

 

……この先の『グエル・ジェターク』と……この世界の未来を——“作品“として、確かに、前世の俺は知っていた。

 

 

抜かれたビームサーベル、飛び散る火花——そして、切り落とされたブレードアンテナ。

 

 

表示された勝者の名——『スレッタ・マーキュリー』。

 

もちろん、彼女のこともまた、今の俺は知っている。

 

 

——呪われた機体を——ガンダムを駆る魔女。

 

 

決闘で負けたことよりも、ホルダーと、トロフィーを譲ってしまったことよりも……。

 

 

垣間見た前世とやらの記憶と、魔女の姿が——脳裏を焼きついて、離れなかった。

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