リコリス・リコイル/their other story 作:秋乃楓
「お前の役割を果たせ」
数日前、アグレッサーという男に言われたこの言葉だけがレナの中でずっと引っ掛かっていた。彼が言うにはレナは他の人間とは違う事、そして殺しの才能を与えられて育ったという事。
「私は一体・・・ッ」
風呂から上がるとベッドの上で下着姿のまま、寝転びながら考えていた。
過去の記憶は思い出せる範囲で思い出したのだが、DAに来る以前の事は全く解らない。何一つ解らぬまま、レナは天井をぼーっと眺めていた
ふと、ある事に気付く。そういえば数日前に三城から貰った箱。アレは結局何だったのだろうか?色々有ったせいで、すっかり忘れていた
「そう言えば・・・確かこの辺に・・・っと」
ベッドから身体を起こすとクローゼットの中を探る。そして貰った箱を見付けるとベッドの上へそれを置き、自分もその前へ腰掛ける。
綺麗な赤い色をした箱。テープで止めてある気配は無い
「お菓子か何か?・・・それだったら皆で分ければ良いや」
そんな淡い期待をしながら箱を開ける
だが、入っていたのはお菓子では無い。
中に入っていた物、それは持ち手に鷲のマークが刻印されたナイフ。刀身はこの前のナイフより少し長く、刃が細長い。
専用のホルスターが付属しており、このナイフ自体も合わせて2本。
そしてメモ書きには
[自分の使命を、存在の証明を]
そう、一言記載されていた。
レナは三城の顔を思い出すと複雑な気分だった
彼が笑顔で渡してきた物がこのナイフ。
そしてメモ書きに記載されていた言葉の意味。彼が何かを知っていると思うと気が気では居られなかった
「これ、そんな格好で居ると風邪引くぞ?」
千束が後ろからタオルを掛けてくる
そう言えば寝間着を着ていなかった
「ああ、ごめんなさい・・・すっかり忘れてました 」
千束の方を向くと素直に謝る
だが、ナイフの事やメモ書きの事を話す訳には行かず、箱へ戻した
「それ・・・結局何だったの?私も気になってたんだよねぇ」
千束が箱へ手を伸ばそうとする
だが、レナはそれを片手で遮った
「た、唯のネックレスでした・・・けど何処か子供っぽくて・・・だから見ないで下さい、恥ずかしいので」
あははと、さり気なく笑って誤魔化そうとする。そして箱を後ろへ隠す
「えー?そうなの?良いじゃん、可愛くてさー!てか、髪もちゃんと乾かさないとダメだぞ?レナぁ」
ふと髪が濡れていた事に気付いた千束は
立ち上がると洗面所へドライヤーを取りに行き、直ぐに戻って来る。そしてドライヤーでレナの長い髪を乾かし始める。
「髪も綺麗なんだからさぁ、もっと色々やってみたら?何だったら私が髪型変えてあげようか?」
ニコニコしながらレナの髪を乾かす
その様子は歳の離れた妹の面倒を見る姉の様にも見えた
「考えておきます。・・・変なのでなければ、私は構いません」
髪を乾かしてもらいながらも、やはり思うのは自分が何者か、という事。
過去の自分に何があって今こうして生きているのか
それだけがどうしても解らない
「ほいっ、終わったよ。これで綺麗な髪の毛は千束さんの手で保たれました!」
ドライヤーを止めると千束は慣れた手付きで片付けていく。そして再び立ち上がるとドライヤーを定位置に戻しに行った
「やっぱり・・・アイツに直接聞いた方が良いのかな。本来ならその方が手っ取り早い・・・けれど、仮に接触したとして私は本当に過去の自分を受け入れられる?ただでさえ未だ解らないのに」
考えれば考える程、過ぎるのは自分という人間の過去の話ばかり。
もし仮に全て解ったとして、正気で居られるだろうか?
もし、受け入れたら壊れてしまいそうなきがしてならない。
あの仮面の男は全てを知っている。
何れ機会が有れば全てを聞き出せば良いだけの事。
「・・・寝るよ、ほら」
何かを悟ったのか、戻ってきた千束は
前へ立っている。
「考え事したって疲れるだけだよ。あの時、何言われたか解らないけれど。考えたって仕方ない事だって有る。だから今は一旦ストップで」
そう言うとレナへ抱き着く形で押し倒す。千束の柔らかい胸が自分の胸と重なる
「で、でも・・・私は・・・ッ」
千束の顔を覗き込むと彼女は首を横に振るとそのままレナを抱き締めていた。
丁度、顔が胸の谷間へ当たる
「何も考えなくていい・・・落ち着いて、ゆっくり呼吸すれば良い・・・」
耳元で囁かれ、言われた通りにすると
少しずつ眠気が増してくる
その間、千束はレナの背中を優しく摩っている
「肌、スベスベだねぇ・・・色も白くて綺麗。気付かなかったなぁ・・・一緒にお風呂入るまで解らなかったよ。本当に可愛い・・・あまり言い過ぎるとたきなが嫉妬するかなぁ」
千束はレナの腕や背中を見ながら呟く。
そして片手で布団を肩まで被せていく
当の本人は安心したのか既に眠っていた
「おやすみ・・・レナ。また明日ね」
千束は一旦離れ、ベッドから降りると部屋の明かりを消しに行く。戻った後は再度、レナへ寄り添いながら眠った。
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ー翌日ー
レナだけが先に目を覚ますと寝ている千束を他所に1人で支度を始める。
色々考えた結果、解ったのはアグレッサー本人と接触するという事だった。
肝心な居場所こそ掴めていないが、それでも探すしかない
「・・・ごめんなさい、千束さん」
着替え終わり、装備を整えると寝ている千束に頭を下げる。そして昨日の赤い箱を開け、ナイフ2本を専用のホルスターへしまうとそれを左足の太ももに巻いてから部屋を後にした。
未だ外は日が登りかけている
時刻は午前5:30。街は静まり返っている。レナは千束のセーフハウスから離れるとゆっくり歩みを進めていく
そしてスマホを取り出すと連絡を取る。
「んにゃあ・・・?おう、レナか・・・どしたぁ?こんな朝早く・・・」
クルミが電話に応対すると凄い眠たそうな声で喋る。
「ボクは朝が苦手なんだ・・・ふぁあ、要件は手短に頼むぞー・・・」
本当に眠たそうな声で喋っている
「例の男・・・アグレッサーは今何処に? 」
レナは居場所を突き止めるべく、クルミへ連絡したのだ
「今更・・・あの事件の事を蒸し返すのか?第一、千束やミカの許可をだな・・・」
クルミがそう言い掛けた時
「・・・早めにお願いします、私には時間が無い!」
急に声を荒らげると電話の向こうのクルミも驚いたのか、うわぁ!?と声を漏らす
「解ったよ、怒鳴らなくても良いだろ・・・調べるから待ってろ・・・んーと、どれどれ・・・解ったよ、アイツは港の廃倉庫に居るらしい。この辺のカメラを確認したら、奴が出入りしてる映像が有ったから間違いないだろうさ・・・っておーい、もしもーし?切りやがった・・・まぁいいや・・・寝よ。( ˘ω˘ ) スヤァ…」
レナとの通話を終えたクルミは何処か不思議そうにしながら再び眠りについた
「・・・港の廃倉庫」
レナは呟くと倉庫まで走り出す
この辺りからかなり離れてはいるが
大体、1時間半位で着ける。市街地を抜けて更に奥へ進み、道中までは歩いたり立ち止まったりしつつ目的地へ向かった。そしてクルミから聞いた通り、倉庫周辺へ辿り着くと辺りを見回して警戒しながら歩く。
「この辺りに奴が・・・」
レナはカバンから銃を引き抜き、セーフティを外すと1つの大きな倉庫へ辿り着いた。やたら年季が入っているせいか外壁は黒ずんでいる。
「此処にアイツが・・・!!」
中へ入ると銃を向けながら奥へ進む
だが誰も居ない。有るのは古い木箱や使わなくなった廃材だけで、屋根は天井の一部が取れてしまっている。
人が住めるとは到底思えないが
こんな所に奴は居るのだろうか?
そう思いながら立ち止まった時
「・・・客人か?珍しい。しかもあの時のリコリスとはな」
後ろから機械音地味た声が響く。
咄嗟に振り向くと入口付近に人影が有った。見覚えのあるドクロの仮面、全身を覆う黒いローブを着込んだ男。アグレッサー本人で間違いないだろう
「此処へ来たという事は・・・そうか、知りに来たのか?真実を」
不気味な機械音の笑い声が響く。
レナはその間も銃口を向けたまま、話を聞いている
「お前は何者だ?お前は私の何を知っている?お前の言う役割とは、使命とは何だ?」
睨み付けると指先を引き金へ宛てがう
「おいおい、一度に聞かれても答えられると思うのか?オレは神様じゃない・・・」
アグレッサーはゆっくりと此方へ近寄る
そしてレナの前で止まった
「良いだろう、順を追って答えてやろう。・・・先ずはオレが何者か。オレは神が与える神罰の代行者であり、裁きを下す者・・・」
レナの前でアグレッサーは語り始める。
自身は神の代わりに裁きを下す者
そう名乗った。まるでそれが当然かの様に
「そして次に・・・オレがお前の何を知っているか。正直、初めてお前を見た時には驚いたよ・・・あの大人しくて人見知りだったお前が楽しそうに仲間達と歩いている姿を見た時は。いつもお前は人形で遊んでいた・・・そして話し相手も人形だった。役員が取り上げようとすると泣き付いて人形から手を離さない。だから常にお前は人形を肌身離さず持っていた・・・」
そう言われた時、レナの頭が少し痛みだした。微かだが夢で見た事がある。
それは誰かに何かを取り上げられようとした時、胸が締め付けられる位悲しかったという夢。
そしてその内容はアグレッサーが話した物とどこか似ている。
「そして最後・・・お前の役割について。お前の役割、それは人殺しを受け入れる事・・・。この国ではお前の様なリコリスが治安を維持し、均衡を保っている。お前も知る様に犯罪者を片っ端から消す事でその平和を維持しているのだ・・・。しかしお前は何故、命を奪わない?どれも急所を外して体術か拘束銃で仕留める・・・。お前は人殺しをする為に才能を磨かれたに過ぎない・・・そんなオモチャは捨てろ。与えられた自分の使命を全うしろ」
アグレッサーは一通り話し終えると
レナの方を見ながら呟く。武器を抜く気配も見せず、ただ淡々と全てを明かした。そして再び話し始める
「お前のその目は神からの授かり物・・・本来なら病で失明し、お前は用済みとして処分されていた。だがお前は神により救われたのだ・・・神はお前に人殺しをさせる事を望んでおられる。運命を受け入れ、使命を全うせよ・・・」
顔を近付けるとレナの目を覗き込む。
そのドクロの目は赤く輝いており、見れば見る程に引き込まれそうになる
「私は・・・人殺しをする為の・・・道具・・・?」
たどたどしい言葉でレナは呟いた。
自分の過去は大まかではあるが、この男から語られた。しかし思い返せば思い返す程信じられなくなる。
全て嘘だ、デマカセだと言い聞かせられる程簡単に割り切れる物じゃない。男から目を逸らすが、次第に呼吸が乱れ始め、気が付けば銃を下ろしていた。
「嘘だ・・・嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だッッ!!こんなのデタラメだ!!私はDAのリコリスとして育てられた・・・そんな話、信じられるもんか!」
首を横に振り、頭を片手で抑えながら後退る。取り乱したせいか整っていた長い髪が揺れてボサボサになってしまう
誰もそんな事を教えてくれなかった。自分が人殺しの道具としてDAに移送される前に教えこまれた事なんて聞いた事が無い。
「嘘では無い・・・もっと詳細を知りたければオレと共に来るが良い。お前の過去の記録は全て保管してある。」
アグレッサーは手を伸ばす
その直後、ポケットにあるレナのスマホが3回程振動した。
自分の記憶の事で何も考えられない
ましてや電話に出る事も。
ゆっくりとレナは右手を差し出そうとする
まるで操り人形の様に。その直後、一発の銃声が倉庫内に響き渡った
「動くな!!」
たきなが発砲したのだ。だが、現在地は彼女だけじゃなく千束にすら知らせていない。何故此処に居るのだろう?
そう思った時、レナはその場からアグレッサーと距離を取る。
「ふん・・・まぁいい、何れお前とはまた会う事になる。楽しみにしているよ・・・」
アグレッサーの周辺から煙が立ち込める。どうやら煙幕を炊いたらしい
「くそッ、逃げるな!このッッ!!」
たきなは煙の中に発砲するが、命中した様な音はしない。煙が晴れた時にはアグレッサーの姿は無かった
「・・・くそッ、逃げられた!」
たきなは銃を下ろすとレナへ近寄る
その様子は何処か普段と違った
そして彼女の前へ立つと何も言わずに彼女の右頬を強く叩いた
「どうしてこんなバカな真似をしたんですか!?千束や皆がどれだけ心配したと思ってるんですか!!自分から敵に接触するなんて・・・ッッ!!」
たきなは怒りの余り、感情を露わにする。自分の拳を強く握り締めているのは見て取れる
レナは打たれた頬を抑えながら彼女の顔を見上げる
その表情は、どう見ても怒っていた。
「ごめん・・・なさい・・・ッ」
掠れそうな声で呟くと嗚咽混じりの声で謝った。
「・・・帰りましょう。」
たきなは一言、そう呟くとレナを助けた事を報告すると2人は廃倉庫を後にする。リコリコへ戻った後は当然、こっ酷く叱られた。だがレナは何故だかそれが嬉しく感じられた。彼女は自分の事を心配してくれている人が居る事を漸く気付く事が出来たから。しかし、自分の抱えている事は明かさなかった。というより、明かせなかったという言い方の方が正しい。もし知られれば、この繋がりが、この関係性が、壊れてしまうのが何より怖かったから。
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ーその日の夜ー
「なぁ、何時になったら動けるんだよ・・・ええ?」
1人の男が薄暗い部屋の中で机に足を載せながらスマホを片手に呟く。その様子は何処か苛立っていた。
傍らには3枚の写真が無造作に置かれている。
1枚は千束と思われる写真
もう1枚はたきなと思われる写真
そしてもう1枚はレナと思われる写真
この写真の奴らこそ、自身の計画にとって最も邪魔になる存在である事は明白だった。
特にこの赤いリコリス、錦木千束というリコリスはヤバいのは知られていた。
嘗て起こった旧電波塔での事件
テロリストらとリコリスとの壮絶な戦いの末、あの塔は折られたらしい。
そんな中、居たのが錦木千束だったのだ。生き残った奴の話だと未だ幼さが残った子供だったらしい。
「未だどいつもこいつもガキじゃねぇか・・・そんな奴等がこの国の平和を護ってるとはねぇ・・・」
この前、自分が駅で遭遇したアイツらもリコリスなのは解っていた。
だがアイツらよりヤバいのが居る。そう思うと余計に楽しみが増すという物だ
「でもまぁ、誰も俺の計画は止められねぇ・・・。この国の最期だ・・・ククク」
電話を切ってスマホを置くと、不気味に笑う。
「さぁて、このまま待ってられねぇから俺は勝手に動くか・・・!!大規模な戦争って奴を始めようぜ・・・?偽りの平和なんざぶっ壊してやんよ!!」
仲間から神代と呼ばれているこの男。彼が3人の敵として、DAの敵として立ちはだかるのは恐らく時間の問題だった。