リコリス・リコイル/their other story 作:秋乃楓
千束は病院に居た
あの後、たきなと路地で別れて1人で此処へ来たのだ。
面会時間終了迄はまだ時間が有る
受付だけを軽く済ませると、エレベーターで病室へと向かう
病室のドアをノックすると中から返事が聞こえ、それを合図にドアを開ける
「よっ、元気そうじゃん?」
千束は軽く手を振りながら中へ入る
「・・・ええ。お陰様で」
そこに居たのはレナだった
以前起きた事件において左肩を撃たれ、負傷し全治一ヶ月。その後は大事を取って入院する事になったのだ
千束はベッドから身体を起こしているレナの前へ立つ形になり
そのままレナを見ている
「珍しいですね・・こんな時間帯に。そういえば、たきなさんは?」
普段なら居る筈のたきなが居ない
それが気になっていた。
「・・・ああ、今日は忙しいってさ。だから此処には来れないよ」
千束は重い口を開く
その顔は何処か真剣だった
「葉月玲奈・・・この名前に心当たりは?」
千束はレナの方を見ながら呟く
すると、僅かながらだがレナの表情が変わった気がした
「ッ・・・何故そんな事を聞くのですか?」
レナは千束の方を向くと首を傾げる。
開口一番がそれだった
少し同様したのか、レナは自分の左腕を右手で握っている
「・・・隠さなくて良いよ、葉月玲奈さん。それがキミの本当の名前。違う?」
千束はピッと指をさした
浅見レナ、彼女こそが葉月玲奈かもしれない。レナが頷かず黙っている間、千束は更に続ける
「この前使ってたナイフのホルスター・・・教団の人に貰ったんでしょう?この鷲のマーク。これはルミナ教団って所のマークなんだってさ。知ってた?」
千束はレナの方へ歩みを進める
そして教団のマークの写真をスマホで見せた。
「見覚え、有るでしょ?無いとは言わせんぞー?大丈夫、誰もキミを責めたりしないから・・・」
レナの傍へ座ると千束は首を傾げる
その目は純粋にレナの方を向いていた
「・・・千束さんの言う通り、私が教団の施設に居た時に名乗っていたのが葉月玲奈という名前です。そのホルスターは昔、お世話になってた人に貰いました」
レナはゆっくりと口を開いた
隠し事をするつもりでは無かったらしいが、それでもいつかは話さなければならない時が来る事は解っていた
「でも、これ以上の事は何も覚えてません・・・。私が覚えているのはDAに入ってからの事です」
過去の詳細に関してはレナは覚えていなかった。僅かに覚えているのは幼少期にDAへ移送された事、それ以外は解らない
「なーんで黙ってたの?話しにくかったとか?まぁ・・・私もアランに助けられた身だからさぁ、何とも言えないけど・・・その目、前は見えなかったらしいじゃん?それが手術で見える様になった。場所や境遇は違うけど、私達・・・何か似てるよ。」
レナの目はアラン機関による高度な角膜移植を受けた事で視力が回復した。
そして千束の心臓もアラン機関が開発した最新型の人工心臓。お互い、不本意だがアラン機関により助けられている
「千束さんが機関に?・・・知らなかったです」
レナはキョトンとした顔で千束を見ている。初耳という顔だった。すると千束はレナの頭を自分の胸元へ引き寄せる
「私の心臓、普通の人の心臓じゃないんだ。元々治る筈のない病気で・・・本来ならとっくに死んでる。けれど、アラン機関のお陰で私はこうして生きてる。まぁ、ヤバかったのは心臓壊されて2ヶ月まで寿命縮まった事かなぁ・・・」
レナは千束の胸元へ耳を当てていた
だが、心音らしき物は聞こえない
普通の人間なら心音が聞こえるハズなのだがそれが聞こえて来ない
「けど・・・本当に聞こえないんですね、心音。」
レナはボソッと呟く
自分がリコリコへ来る前、千束もまた大変な思いをしていた事を知ったのだった。そして千束は再び口を開く
「まぁね・・・でも私は今もこうして生きてる。それで、レナはどうしたいの?過去を知る事は今の自分を苦しめるかもしれない。それでも知りたい?」
千束はレナを起こすと首を傾げる。
「・・・それでも、私は自分の過去を知りたいです。例えその先に何が待ち受けていても・・・私は受け入れます。葉月玲奈として、浅見レナとして。」
少し間が空くとレナは千束へ話す
教団に居た頃の過去を断片的にしか覚えていない為、自分が何者かなのさえも
確証が持てない。葉月玲奈という少女だった時はどういう子だったのか?それすらも自分は覚えていないに等しいのだ。
「・・・解った。明日、退院したら此処に行ってみて?それと・・・もしヤバかったら直ぐコールする事。私達が駆け付けるから。」
千束は懐からメモ用紙を取り出す。それをレナの右手へ握らせた
「教団に戻るか、リコリコへ戻るか。それはレナ自身が決める事。何方の選択肢を取っても誰も責めないし、文句を言ったりなんかしない・・・けどね、私もたきなも、お店の皆もレナの事が好き。皆、貴女に会えて良かったって思ってる・・・。勿論、一番嬉しいのは私だけど?あまり言わないけど・・・たきなもきっとそう思ってる。だから、安心して行ってらっしゃい」
千束はメモを握っているレナの片手を両手で掴むとそっと優しく握り締めた
そうこうしてると病院のアナウンスが鳴り、面会時間の終了が告げられる。
「そんじゃね、お休み・・・。ちゃんと歯磨いて寝ろよ?」
千束はベッドから立ち上がると、レナの頭を撫でてから病室を後にした
レナはその姿を見た後に普段通り、病院の消灯時間に併せて眠りについたのだった
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ー翌日ー
レナは病院の病室で着替えていた
切り裂かれたセカンドの制服は
新しい物を新調して貰い、カバンや弾、銃も全て看護師らの目を盗んでメンテナンスしていた事もあり状態は良好。
そして忘れ物の有無だけを確認すると病室を後にした。
「・・・お世話になりました 」
病院の外まで見送りに来た看護師2人に頭を下げ、見送られながら少し歩いてから病院近くの道でメモを取り出す。
そこには連絡先だけが記載されていた。
どうやら携帯電話の番号らしい
そこへ電話を掛けると予想外の人が電話へ応対する。
そして、レナは相手から指定された場所へと向かった。
呼び出されたのは今では営業が完全に終了し、閉店したビルの中。
嘗ては素行不良の若者らのたまり場とも言われたが現在ではそうでも無い。
中は至ってシンプルな構造で、二階建てで真っ直ぐに吹き抜け構造となっている。上への移動はエスカレーターか階段。エレベーターは有るが、今では可動すらしていない
「・・・何故こんな場所に」
レナは建物の中へ入り、歩いて行く。
暫く歩くと真ん中の辺りに男が1人腰掛けていた
「やぁ・・・来てくれて嬉しいよ。玲奈ちゃん」
スーツ姿の男は立ち上がると微笑む
その際、腹部を片手で少し摩っている様にも見えた
「三城さん・・・お久しぶりです」
レナは軽く頭を下げた
だがそれ以外の言葉が見つからない
「覚えているかい?此処はキミが初めて来た場所。施設では職員と担当の子の合意が有れば外出は出来る・・・そして目が治った時に来たいって言ったのが此処なんだよ」
三城という男はそう話した
当時はこの施設も賑わって居た事。
時間の許す限り、多くの店を巡り歩いた事も。
「まるで本当の親子みたいだった・・・手を繋ぎながら歩いて、お腹が空けば何処かで食事を取り、欲しい物が有れば買ってあげる・・・。僕はキミの笑顔が何より好きだった・・・けど、機関の言う事には逆らえなかった。我々、ルミナはアランと根強い関係にある。だから・・・」
話を聞いている限り、三城とレナは本当の親子の様な関係だったらしい。
だが、当のレナは覚えている箇所は断片的でしか無い為か頭を抱えている。
「・・・私をDAへ移送した。違いますか?」
レナは呟いた。
アラン機関と根強い関係性であるから、逆らえずにレナをDAへ移送したのかもしれない。レナはじっと三城を見つめている。
「違う!!私は・・・教団の指示に従っただけだ・・・!キミの目を治し、戦闘訓練を積ませ・・・そして更に磨きを掛けさせる為にキミをDAへ移送しろと。キミを殺人者へ仕立て上げる為に・・・!」
三城は訴え掛ける様な形でレナへ話した。全ては教団が指示した事だと。
感情を殺し、あらゆる危険分子を容赦無く始末し消す。その存在がリコリスであり、教団にとっては都合が良かった。
アラン機関を通じてDAと掛け合う形となり、葉月玲奈は浅見レナとして名前を変えて編入。そこでリコリスと成るべく、様々な技術を詰め込まれた。
そうして生まれたのが今のレナだった
「ッ・・・全ては機関と教団がやったという事ですか?狂ってる・・・!そうまでして誰かの命を奪いたいのですか!?私だけじゃない・・・他の子にも同じ事をしていたんじゃないんですか!?」
感情的になり、つい叫んでしまう
2人しか居ない空間にレナの叫び声が響き渡る。
「・・・他の子は使えなければ処分。教団が保護した恵まれない子の中でも才能が有る子を見付け、それを育てる。それはアランの望みでも有った・・・!そしてキミも本当なら消される筈だった!!だが・・・目を付けられたんだ。キミは目が見えない代わりに耳が良い・・・そして目を治してやれば、キミはもしかしたら才能が開花する・・・と」
三城は一連の経緯を全て説明した
目を治したのは全て自分達の為。
子供の純粋さを利用しているとしか思えなかった
「処分って・・・そんな・・・モルモットみたいな事を・・・どうしてそんな事をッッ・・・!!」
考えられなかった。信じたくなかった。
教団は自分だけではなく他の子にも同じ様に仕向けていたのだ。形は違えど、未だ見ぬ才能の為に。
そして使えなければ、命令に逆らえば、処分という名の殺戮を行う
「使えない子は皆、死んだよ・・・。キミの友達も既に殺されている。部屋に閉じ込められ、毒性のあるガスを流し込まれて死ぬか・・・或いは人気のない所で銃殺。その何れかが彼等、彼女等の運命・・・」
三城が最後の辺りを言い掛けた時、レナは銃を引き抜いていた。そして発砲音と共に近くの放置されたソファが撃ち抜かれる
「・・・それ以上喋るな、人殺し!!」
ギリっと歯を食い縛り、三城を睨み付ける。どれだけ理由を並べようが彼がやってる事は人殺しにしか過ぎない
「やはり・・・こうなるのか・・・!」
三城も懐から銃を取り出すとレナへ向ける。お互いに睨み合うとその場から動かない
「キミは感化され過ぎた・・・あのリコリス達に。感情を殺せと教えたのに、何故笑う?何故泣く?もうキミは用済みだよ・・・私が自ら裁きを加える・・・!」
三城は最初の態度とは裏腹に開き直った様子で銃を向けている
「・・・ッ!」
だが、レナは躊躇っていた
三城という男が居なければレナは消されていたかもしれない
それだけは事実だった。
「私が居なければキミは処分されていたんだぞ!?それとも・・・あの千束とか言うリコリスとの約束を破ってでも私を殺すか?彼女もバカだ・・・自分の才能の有り難さに気付いていない・・・!」
三城はバカにする様な言葉をレナへ投げ掛けた。その直後、放たれた弾が三城の頬を掠める
「千束さんを・・・千束を馬鹿にするなぁあッッッ!!!」
レナは怒りの余りに我を見失いつつ有った。
才能の為だけに大勢の命が彼等により奪われて来たのは事実。
だけどそれ以上に千束をバカにした事だけが許せない
彼女から全ての話を聞いた訳では無い。
けれど、彼女の過去や生い立ちはレナ以上に厳しい物だったのは彼女も解っていた。
才能を見出す為だけに犠牲になった子供達の上にレナは立っている。
自分の手は既に落ちない程の返り血で濡れているかもしれない。それらを明かさずとも千束はレナを受け入れてくれた。
「ふッ・・・やはり・・・キミは失敗作だな。だが、未だ何とかやり直せる・・・。そうだ、教団へ戻る気は無いか?機関を通じてキミをファーストにする事も出来るぞ?待遇も私や上層部と同じ扱いにしてやるから・・・!さぁ、銃を下ろすんだ・・・玲奈!」
三城は今更、教団へ戻る様にレナへ提案してきた。するとレナは銃を下ろした
「撃つ気が失せた・・・撃つだけ弾の無駄。そんなやり方で手に入れた地位なんて要らないし、興味なんて無い」
背を向けるとレナはそのまま歩き始める
分かり合えなかった。
分かり合おうとしても、向こうはレナを教団へ戻すか、或いは始末するかの2択しかない。全ては教団と機関のエゴに振り回されていたにしか過ぎない
「くそッ・・・!!」
レナへ向けて三城が引き金を弾いた時、薬莢が音を立てて転がる。
だが、倒れたのは三城だった。
足へ目掛けて放たれた一発の弾が命中、三城は苦しそうに呻いている
コンクリート片を踏んだ音をレナは聞き逃さなかった。構える時、足を踏み締める事でバランスを維持する。
そして振り向いた際に発砲したのだ
「・・・弾の無駄。そう言ったけれど、意味は有った・・・馬鹿な真似をするのを止められたから」
レナは構えていた銃を下ろし、片手でカバンから包帯と傷薬を取り出す。そして2つを三城へ投げた。
「ああ、手当は自分でお願いします。それと、これ返しておきますね」
レナはその後にナイフとホルスターを投げる。バサッという音と共に三城の近くへ落下する。
「お別れです、もう会う事は無いでしょう・・・。教団にも帰りません。私はDAのリコリス、浅見レナですから。ルミナ教団所属、葉月玲奈はたった今此処で死にました。それでは・・・Thank yo so far goodbye.」
レナはポケットから赤いリボンを取り出す。自分が幼少期に三城から貰った物。そのリボンさえもその場に有った細長い柱へ巻き付けた。まるで墓標の様にそれを巻くとその場を後にした
「・・・千束さん。結局、私は分かり合えませんでした。でも受け入れて生きて行きます。私の望んだ結末だから」
そのままレナは帰路へ着いた。
俯きながらでは有るが、後悔はしていなかった。自分の存在を証明出来たから、自分には大切な人達が居るから。
それだけで充分だったのだ
そして、ある店の前で歩みを止める
「ッ・・・」
ドアノブを回すのが何故か気が引けた。
普段から何気なくやっている事なのに
だけどその日は怖かった。それでもドアノブを握り締め、ドアを開けた
「いらっしゃいまっせー・・・って、うぉおお!?レナじゃん!どした!?何で此処に・・・ 」
千束が驚いている
ジロジロと見ながら病院から抜け出した?とか何とか色々言っているが
「・・・今日が退院の日だって千束、言ってませんでしたっけ?」
同じく近寄って来た、たきなも此方を見ていた
「あ!あー・・・ごめん、ごめん、忘れてたわ!!じゃあ・・・早速、おっかえりぃ!!」
むぎゅううっと抱き締められる
千束は笑いながらレナへ頬擦りしている。
「ほら、たきなも!早く!」
グイッと手を引かれると同じ様に密着して来る
「ちょっと、千束ぉッ!?何するんですか・・・もう!」
仲良く3人密着する形になる
「・・・お帰り。帰って来るって信じてたよ」
千束は少し離れるとレナを見つめる
だが、レナは直後に泣き出してしまう
「た・・・ただいま・・・ッ」
目を擦りながら返事をする
今まで溜め込んで来た感情が溢れてしまったらしい
「あー!千束、泣かせましたね?可哀想に・・・」
たきなの方へ引き寄せられると此方からも抱き締められる
「・・・お帰りなさい」
そう声を掛けられた。そして、頭を撫でられる。
「ちょいちょいちょい!?私、泣かせてませんけどぉ!?ねーぇ、私、何もしてないよねぇ?そうだよねぇ、レナぁ?」
笑顔で両手を擦りながら近寄ると見つめている。
「・・・目にゴミが入っただけです!」
泣きながらレナはそう返した
でも、2人は見透かしている様で暫くは2人に抱き締められたままだった。
ー私の帰る場所は此処。此処には優しくて暖かい人達が居る。そこが私の居場所だから。ー