リコリス・リコイル/their other story 作:秋乃楓
ー昨夜の事件から翌日ー
レナは執務室へ呼び出されていた
呼び出された理由は昨夜の金品窃盗事件に絡む事、そして彼等もまた銃器の横流しや密売に関与している可能性が有った事。そして何よりDA本部の指示を待たず独断で先行し仲間の命を危険に晒した事。何れも昨夜、あの時間帯に起きた出来事だらけだ
「呼び出された理由は解っているな?昨夜、お前達のチームが貨物船襲撃事件の犯人達のアジトへ突入。その際犯人の1人が近くに居た春川を人質に取り、此方を脅して来た。此処までは有っているか?」
赤い髪でマッシュルームヘアの女性が淡々と書かれた事を読み上げる
この人が楠木司令。DAの東京市部の司令官
「はい。間違いは有りません」
レナはそう言われると静かに頷く
「それに対し此方の指示を待たず、お前は自分の銃で犯人の銃に目掛けて発砲し無力化・・・更に春川を跳ね除けた挙句、その場で犯人を射殺した。何故、此方の指示を待たずに動いた?夏野には此方の指示を待てと伝えていた。それなのにだ・・・どういうつもりだ?」
じろりと両目が此方をジロジロと見る
「あの状況下で本部の指示を待てば応援を呼ばれる可能性が有りました。銃を狙って撃ったのは無力化を優先した為です」
自分のした判断を淡々と告げる。
銃だけ弾き飛ばせれば人質を助けられた事も、もし指示を待っていれば相手は携帯で応援を呼ぶ可能性も有った事も全て
「成程・・・お前は自分の腕を過信し過ぎている。少しは考えなかったのか?お前の撃った弾が春川に当たるかもしれなかった事を。今回は運が良かっただけだ・・・仮に当たっていた場合、お前はどうしていた?本部の指示を待たず、独断で動き・・・そして仲間を死なせた。こういう結末も十分に考えられただろうな」
楠木は表情1つ変えずに話を続ける
「お前が射殺した相手は銃器密売の疑いも有った・・・奴は我々が追っていた取り引き相手とも接触していた可能性が高く、以前からマークしていたが・・・死人に口なし。夏野には必要な情報を聞き出せと指示していたが・・・それもお前のせいで無駄になったという訳だ」
ペンを置き、今度は別の書類を持つと再び口を開いた
「・・・お前は今日付で転属だ。自らの腕前を過信し、チームワークを乱す存在を我がDAには置いておけない。転属先は追って伝える。次の指示を待て」
転属。その言葉が意味するのは文字通り、自分だけが他の場所へ飛ばされるという事
つまり、元いたチームから外されるという事だ
「転属・・・何故ですか!?自分は人命を最優先に行動しただけで・・・!」
納得が行かない。あの時、ああしなければ何が起こったかは解らない
本部の指示を待っていても拉致が開かないから動いた、それで人質にされた仲間は助かった。何も問題は無い
「人命を最優先に行動し、仲間を殺し掛け・・・取り引きと関係の有った相手をリーダーの指示無しに無断で射殺した。それだけで十分な理由だと私は思うが・・・違うか?浅水。お前は本部の指示、そしてチームのリーダーの指示すら遮っている・・・未だ足りないなら私が教えてやろうか?」
あの時、夏野が何か言おうとした時
レナは既に男の頭へ目掛けて向けた銃の引き金を引いていた。
乾いた音共に薬莢が1つ転がり、そして男は悲鳴を上げることなく床へ倒れた
それが何だったのかは解らない。「待って」だったのか、「撃たないで」だったのかも
「ッ・・・解りました・・・。」
レナは一言、解ったと告げては拳を強く握り締めた。自分の行動が正しいと思うのは自分だけなのだと
「転属先で学ぶ事だ・・・少し問題が有る奴だが、色々と参考になる所も有るだろう。」
楠木はそうレナへ告げると話を打ち切り、部屋を出るように促す。
レナは踵を返すと一言「失礼しました」とだけ話すと部屋を後にし廊下を歩いて自室に戻った
「どうして私が転属なんか・・・」
誰も居らず、暗い部屋の中で自分のベットの上で呟いた。
チームワークという言葉は嫌という程聞かされた様な気がする
1人の行動が全てを台無しにする
身勝手な行動は死を招き、仲間を危険に晒す。なら、今回の様なケースの場合だったらどうなる?自分が動かなければ、
誰かが動かなければ間違い無く最悪の事態も考えられた。しかし全ては過ぎた事。今更どう考えようが、どう思おうが事は過ぎている。自分の独断で人質が助かったが取り引きや本来の目的そのものは水の泡と消えてしまったのだから。
「大人しく受け入れるしかない・・・。頭で考えても答えは何も変わらない」
ベットから身体を起こすと自分の下着、歯ブラシやコップ等の物から様々な荷物を1つのケースへ押し込む
少し大きめの黒いスーツケース。年頃の女の子が持つ様なデザインではないが
「これで良し・・・と。後は弾薬とそれから・・・」
一通り荷造りを済ませてから
その日は軽めの食事だけを取り、いつもと同じ時間帯に就寝した
ー更に翌日。
転属先の書かれた紙、場所の記載された地図を自室で本部の職員から受け取る。
「・・・確認しました、ありがとうございます」
レナは書類を受け取るとスーツケースを片手に部屋を後にする。
自分の荷物だけが無い上に、此処へはもう二度と帰ってくる事は無いだろう
廊下で他のリコリスとすれ違う度にヒソヒソと話し込まれたり、此方をチラチラ見て何かを言っているのは目に見えて解っていた
この間の件である事は間違いないのだから。
本部を出て駐車場へ来ると今度は車に乗せられ、本部から遠く離れた辺りで降ろされた
約1時間半。そこから先は地図の通りに行けば着けるとの事だった
走り去る職員の車を背にレナはスーツケース片手に歩みを進める
チームメイトは誰1人として見送りには来なかった。それもそのはず、良い意味での転属では無いからだ。
リコリスにとって憧れの場所こそが本部。レナもまた、この本部に居られる事が誇りであった。少なくとも転属を言い渡される昨日迄は・・・。
そして降ろされた場所から更に1時間程歩くと転属先へと辿り着く
だが、何か変だ。どう見てもおかしい
地図通りに歩いて来たが辿り着いたのは喫茶店。
「本当に此処?・・・どう見ても喫茶店だけど」
店の明かりは点いている
未だ少なからず、客は居る様にも見えるが
まさか転属先の書類を間違ったのか?
そう一抹の不安が頭を過ぎった
「ありがとうございやしたー!また来て下さいねー!!待ってますからー!」
店のドアが空くと着物姿の金髪の女の子が客を見送っている。片方の髪は赤いリボンで結んでいる。
明るく、手を振り続けると客の姿が見えなくなってから此方を見る
「あれぇ?リコリスだ・・・どしたの?迷子?それともサボり?良くないなぁ、その歳で仕事サボっちゃイカンよ?キミぃ」
じーっと観察するように身体を見られる
頭の先から足のつま先、そして持ってる荷物まで。レナは恐る恐る口を開く
「あ、あの・・・リコリコは此処で合ってますか?それと・・・」
最後まで言いかけた時だった
「あーッ!?まさかキミか!?さっき電話あった問題児って!しかも、たきなと同じセカンドの子!!うっはぁー!!可愛いなぁ〜!髪の毛とか、お人形さんみたいじゃん!!オマケに目の色も綺麗だしぃ〜!」
目をキラキラさせながら微笑まれる
そしてすっごく喜んでいるのが解った
少し間を置いてから少女は此方に向き直る
「ようこそ、喫茶リコリコへ!私の名前は錦木千束!!たきなって子が私の相棒なんだけど・・・今日からキミも私の相棒だ、よろしくね!」
にぃっと微笑まれ、手を差し出された
自ずとその手を握り返す
「浅水レナです・・・。セカンドとして精一杯、努めさせて頂きますので宜しくお願いします・・・」
緊張しながらも握手を交わす。
そして手を握られたまま、転属先の喫茶店へと入っていった