リコリス・リコイル/their other story   作:秋乃楓

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22_botched doll

作戦内容のブリーフィングを行う為、レナは本部にある大型の会場に居た。

その場にはサードリコリスやセカンド、ファーストといった面々も見受けられる。そして作戦の説明が始められた。

 

「今回、我々が最重要ターゲットとする男は神代。年齢及び出生は全て不詳とされている。そして奴の裏には数多の武器商人やテロリスト達が関与しているとの噂も有る...。そして今回、神代は我々に対して挑発する様な形で犯行を予告して来た。場所は最近、新設された東京クリエイティブタワー。その中にある40階展望ホールにて話し合いに応じろという物だ。このクリエイティブタワー内部には商業施設を始めとする多くの店が入っており、家族連れ等で賑わっている。相手はテロリストだ、爆弾を使用する可能性も充分に有り得る・・・常に周囲を警戒せよ。話し合いにはセカンドの浅水レナを向かわせ、護衛として夏野百合率いるアルファを配備させる。40階から上の上層階にはオフィスが有る...万が一の事も考えられる為、ブラボー、チャーリー、はオフィス層を。デルタ、エコー、及びその他リコリスは40階から下を警護せよ。我々は如何なる事態であろうと、真島の時と同じ轍を踏む訳には行かない......緊張感を常に持って対応せよ!!」

 

楠木は淡々と説明を続けた。そして説明後は全員が立ち上がり敬礼と返事を行った。

 

「...浅水さん、大丈夫?顔色悪そうだったから気になって......。」

 

ブリーフィングを終えた所に百合が駆け寄る。レナも交渉役として選ばれた事が余計にプレッシャーだったのか体調が優れないように見えたらしい。

 

「大丈夫です...緊張してるだけですから。」

 

そこへ元居たチームのメンバーも集まって来た。白髪の子が春川カスミ、そして彼女の横に居るのが柊木椿。

そしてレナの後を埋める形で編入して来た秋山沙華。

 

「...これで揃ったわね。作戦は司令から聞いての通り。」

 

百合は再び資料を取り出すと軽く説明をする。

 

「ま、神代ぶっ倒して手柄を立てられればそれで良いですよ...アタシは。誰かさんがヘマやらかさなければそれで良いんで。」

 

沙華は出世の事しか頭にないらしい

レナがヘマさえしなければそれで良いらしいが。

 

「......目の前の手柄に気を取られてアッサリ死なないで下さいね。」

 

レナは百合の方を向いたまま呟く。

沙華は納得してない顔をしていた

 

「まぁまぁ...折角揃ったんだから2人とも仲良くしよう?な?」

 

椿は2人の合間に入ると喧嘩しそうな雰囲気を何とか打ち消した。喧嘩こそ以前は無かったが、沙華とレナの件は百合から事前に聞いていたのだった。

 

「いい?悪魔で目的は交渉なのよ?変に相手を殺して手柄を立てようとしたり、勝手に動いて現場を混乱させたりしない事!良いわね?」

 

まるで母親の様な雰囲気で2人へ釘を刺すと2人は素直に返事をする。

唯一、カスミだけは会話に加わらずに頷いており、時折レナの方を気に掛けている様子だった。

その後、レナ達はDAが用意した大型バスでタワーへ向かうと少し離れた駐車場へ到着。全員がそれぞれ再度作戦を確認した後、配置へ付く。

 

「アルファチーム、これより展望ホールへ向かいます。通信良好、問題有りませんどうぞ。」

 

百合はインカムで楠木と通信を取ると

指示を仰ぐ。そして百合達はタワーの中へ入り、エレベーターで展望ホールへ向かった。

 

「...レナ、本当に大丈夫?」

 

エレベーターの中でカスミが口を開く。

無理も無い、展望ホールの先はレナ1人で行くしかない。悪魔で彼女達が待機するのは大扉の外なのだから。

 

「大丈夫。心配してくれてありがとう...。」

 

レナはカスミの方を見ると呟く。

だが未だ何処か心配そうだった

 

「あの時、私がドジ踏んじゃって...それで......。」

 

たどたどしい言葉だが何かを伝えようとする。だが、レナはカスミの前へ来ると肩へ手を置いた。

 

「私が勝手にやった。だからカスミは何も悪くない。」

 

首を横へ振ると彼女の事を気に掛けたのか、そっと微笑んでみせた。

 

「うっわ...マジで高いなぁ...。電波塔が可愛く見える......。」

 

椿は外を見ると電波塔よりも高い位置に居ることを知り、少し驚いていた。

この建物からなら景色は割りと綺麗だが、高所恐怖症の人間であれば間違い無く立っては居られないだろう。

 

「......そろそろ着くわ。みんな、気を引き締めて。」

 

百合はエレベーターの階数を見ると呟く。そして目的の階へ到着するとエレベーターから降りた。

 

「この先に...アイツが...!」

 

レナは拳を握り締め、そしてゆっくりとドアの方へ向かう。辺りは不気味な位に静かだった。

 

「目的は悪魔で交渉...だから、向こうが手を出すまでは成る可く会話を続けて。良いわね?」

 

百合が声を掛けるとレナは小さく頷く。そして中から死角となる位置にレナを除いた4人が配置へ付く。

 

「...アルファチーム、浅水です。これよりターゲットと接触します。」

 

レナは通信を終え、ドアを開けると中へ入った。中は望遠鏡や街のミニチュアが有る他、壁には宣伝用のポスターやマスコットキャラクターの写真が貼られている。

 

「今の所...異常は有りません。更に進みます。」

 

少し進むとレナは立ち止まった。銀髪、赤目で背の高い男。間違い無く神代本人だった。

 

「よう、ちゃんと時間通りに来たな...感心感心。まぁ座れよ......。」

 

神代はレナに対しソファへ座る様に促す。そして2人は向き合う形でテーブルを挟んで座った。

 

「...話とは何だ?それに私を指名するなんて。」

 

レナから話し始める。だが当の本人は気楽な様子だ。いきなり立ち上がると自販機へ向かい、2人分の飲み物を購入し戻って来た。

 

「まぁまぁ、待ってろって。安心しろ、毒は入ってねぇ...。飲みたきゃ飲めばいい......。」

 

神代はテーブルへコーヒーとオレンジジュースをそれぞれ置くと再び腰掛けた。

 

 

「テロリストとは思えない...随分と気楽だな。」

 

レナはじっと神代を見つめる。

予め、本部から聞かされていた通りに話を進める形になると話題を切り出した。

 

「お前の目的は何だ?金か?」

 

レナは真っ直ぐと神代を見る。

だが神代自体は口角の片方を釣り上げながら話を切り出した。

 

「オレの目的か?...決まってる、お前達DAをぶっ潰すのさ。金なんざどうでもいい...オレはこの国を裁くのさ。オレ自身の手でな......。

 

国を裁く。以前にも聞いた事のあるセリフだった。確かに、この国では行方不明者数やそれに関係する事柄は全てリコリスによる物。表向きにはされる事は無い。

 

「...成程、それでお前は真島と関係は有るのか?もしそうなら、真島が隠していた銃器の行方は何処だ?」

 

レナは更に切り出す。真島と関係が有れば、残りの行方不明の銃器の所在も知っている可能性は高い。

此処で聞き出せれば残りの銃器の発見も時間の問題なのだが。

 

「真島?ああ...知ってるよ、オレは真島に鍛えられたからなぁ...。お前達をぶっ殺す方法も、国をぶっ壊す方法も何もかも聞いてる...だが、真島は行方を眩ませちまった。奴が唯一恐れたリコリス......そいつに負けたのさ。武器の所在は俺も知らねぇなぁ?」

 

神代は淡々と話を続けた。

恐らく、真島が負けたのは千束で間違い無い。旧電波塔での決戦、そして新造された延空木での2度目の決戦。何れも千束が勝っている。そして次の話を切り出そうとした時だった。

 

「......なぁ、お前ばかり質問してるのは不公平だよなぁ?次はオレから質問させてもらおうか?」

 

神代はコーヒーの缶のタブを開け、中身を口へ含むとそれを飲み込む。

そして神代は話を始めた。

 

「先ずは1つ目...お前の生まれは何処だ?」

 

レナの方を見つめる。だが、現在の彼女の籍はDAになっている。

 

「...DA。生まれた時から両親は居ない、DAで育ってリコリスとして教育された。」

 

レナは神代を見ながら質問に応じる

だが当の本人は納得が行っていないらしい。

 

「ほぅ......?じゃあ2つ目だ。お前は人の命を奪う事に躊躇いは感じるのか?」

 

神代は手にしていたコーヒーの缶を置く。そして再びレナを見据える 。

 

「...私は今迄、人の命を奪う事には躊躇いは無かった。敵とみなせば容赦無く消す。それがリコリスの役目だから......だけど今は違う。私は例え敵で有っても決して命は奪わない。」

 

レナは神代の方を見つめると話し出す。

千束の影響で不殺を徹底している事を素直に明かした。

 

「3つ目...最初の質問と似ているが、お前は人殺しの道具として育てられ、教育された。アラン機関とルミナ教団が結託し行われたプログラム、使徒育成計画。その中の数少ない生き残り...それがお前だろう?」

 

神代はじっとレナを見つめる。だが、レナには何の事だか解らなかった。

 

「...使徒育成計画?どういう事だ?そんなの知らない...それに身に覚えが無い......。」

 

レナは神代に向かってそう呟いた。

 

「知らないだと?......そうは言わせねぇぞ。お前の両目は元々、失明寸前だった。それをアラン機関が介入して最新鋭の手術を行ったのさ...。全ては神に仕える使徒を抜粋する為の駒としてお前を生かす為さ...。お前達の役割は救済という名前の殺人を行う事...例えそれがどんな相手であろうと...。教団員の出した命令に忠実に従い、ひたすらに殺戮を繰り返す...それがお前達、使徒として選ばれた人間の役目なのさ。」

 

神代はレナへ再び投げ掛ける。自分が生かされている理由、そして自分の中の欠けていた記憶の一部分。それが1つ、あらぬ形で埋まってしまった。

そして神代はさらに続けた。

 

「それに、お前の生まれはDAじゃねぇ...。ルミナ教団そのもの。孤児として拾われ、両目の手術の末、教団の使徒になる為に洗脳に近い教育を施された...。そしてアランのお偉いさんがお前を更なる凶器へと育て上げる為にDAへ編入させた......それがお前だよ、葉月玲奈。いや、今は浅水レナ...か?」

 

神代はニヤリと笑う。レナは動揺しているのか目を逸らしていた。自分の役割、使命。それを言われ続けていたが漸くその意味も解った。自分の役目は教団の使徒として無差別に殺戮を行う事、そして全ては自分達の才能を見出したアラン機関への奉仕の為。

 

「どうだ、納得行ったか?これがお前という人間だよ...。お前という存在が選ばれる迄、どれだけ大勢の子供達が犠牲になっただろうなぁ?役に立たなければ殺され、訓練について行け無ければ殺され...、12人の使徒が選ばれる迄、それの繰り返しさ。可哀想になぁ?お前は人殺しの道具...言ってしまえば都合のいい人形なのさ...。お前は自分の中の殺戮衝動を押し殺しているにしか過ぎない......。教団だけじゃなく、お前はDAで何をされたんだ?教えてくれよ......お人形ちゃんよォ?」

 

神代が挑発的な行動を取るとレナはその場で立ち上がり、神代を睨み付ける。その目は動揺しているのと同時に殺意を感じられる程の視線だった。

 

「おーおー、怖いなぁ?どうする、止められてんだろ?オレを撃てば交渉は決裂するが...どうすんだァ?」

 

神代はニヤニヤと笑いながらレナを見つめている。インカムには楠木から交渉を続けろと指示が入る。だが、突如として何者かに通信が掻き消されてしまった。

 

[おい、聞こえているか?浅水レナ...。初めましてだな。僕はドルフィ...、お前にいたぶられた奴等の代表として来てやった。いいか、今から言う事を大人しく聞けよ?連中には交渉が決裂したと伝えろ。そして武器とカバンを捨てろ......もし応じなければ、どうなるか解ってるな?]

 

インカムから聞こえるのは少し高めの男の声。近くのテレビが勝手に点くとイルカのマークが映像として出力され、そこにフロアの地図が映し出される。そして各階の所々に赤い点が表示されていた。

恐らく爆弾の位置で間違いは無いだろう。

 

「ッ...卑怯者め......!!」

 

レナは歯を食い縛るとソファから右側の通路へと移動し、神代の斜め前へ立つ。

そしてレナはカバンを下ろすと見せ掛けて銃を即座に引き抜いて発砲した。

 

「いぃいッッッーー!!?」

 

だが、直後にレナは悲鳴を上げてその場へ膝を付いてしまう。左足の太腿から彼女の手を伝って血が滴り落ちる。

 

「...そんな事だろうと思ったぜ?予測済みなんだよ、お前の動きは全てな?」

 

いつ引き抜いたのか解らないが、神代は座ったまま銃を握っていた。その手には小型拳銃と呼ばれるタイプの物で、銃口から硝煙が上がっている。

 

「...大人しく従った方が身の為だと思うが、どう思う?なぁ?」

 

神代はレナを蹴飛ばし、倒れた際に彼女が被弾した箇所を足で踏み躙る。レナは苦痛の表情を浮かべながら睨み付けた。

 

「いッ!?あがッ...ぐぅッ...!!」

 

通信も途絶、更に不幸な事に仲間へ助けが呼べないという事。

恐らく通信が途絶した段階で何かしらの動きが有って良いのだが、その様子すら感じられない。

 

「大人しく銃とカバンを捨てろ......こんな所で死にたくねぇだろ?なぁ?お人形ちゃんよォ?」

 

足を退け、今度はレナの髪を片手で掴むと顔を近づける。だがレナは苦痛の顔で睨み付けると神代へ向かって唾を吐き捨てた。直後、神代は手を離すと今度は腹部へ強く蹴りを打ち込んで来た。

 

「うぐぅッ!!?ごほッ、ごほッ...はぁ...はぁ...ッ......。」

 

腹部を蹴られた事で強い痛みに襲われるも、何とかレナは耐えていた。

 

「悪魔でそれには応じねぇ...ってか?良いねぇ!!なら・・・此処でぶっ殺してやろうか?仲間が次にお前の事を見るのは葬式って訳だ...。悔しいか?何か言ってみたらどうだ?あァ?」

 

神代はレナを見下ろし、完全に敵意を剥き出しにしている。要求に応じなければこの場で殺す。だが応じたとしても間違い無く殺されるだろう。

 

「ッ・・・!!」

 

レナは止むを得ず、這いつくばった状態からカバンの肩紐をそれぞれ外し、カバンをあらぬ方向へ投げ捨てた。

 

「ふふ...それで良い。お利口さんだなァ?お前は昔からそうだった...常に職員連中から好かれていた。何をするにも素直で助かるって......。そうやって色々、素直に聞き入れて来たからお前はこうなったんだろ?玲奈......。」

 

神代はレナ本人をまるで最初から知っている素振りを見せる。先程の話だけでは無い。レナは違和感を感じていた。

 

「何故...私の事を......そこまで知っている...!お前は...何者だ......ッ!?」

 

レナの問い掛けに対し、神代は片方の口角を釣り上げてニィッと笑う。

 

「オレか?...お前の兄さんだよ。ま、血が繋がってる訳じゃねぇが...。目の色が変わったと三城のオッサンから聞いていたが、まさか本当だったとはなァ......?しかし苦労するよなぁ?出来の悪い義妹を持つとよォ?」

 

予想外の答えが返ってきた。目の前で自分を殺そうとしているのは血の繋がりが無い義兄という事。

 

「お前が私の義理の兄...?そんな事は...有り得ないッッ......! なら...何故、どうして...今になって......ッ!」

 

レナの中に動揺が広がる。そんな事は今迄、聞いた事が無かった

恐らくレナが忘れていただけかもしれない。

 

「恐らく、お前がDAへ送られる前に教団によって記憶処理されたんだろうなァ...。都合の悪い事は消され、DAへ送り込まれた......そういう事になる。オレが何故、お前だけ指名したと思う?兄妹水入らずで話したかったのさ...交渉なんざ端からどうでもいい。それらしい理由さえ付けちまえばテメェらはその要求を呑むだろ?」

 

最初から神代は交渉する気は無かった。

こうしてレナと会い、そして教団の方針、やり方に背く出来損ないの義妹を消す為に此処に居るのだ。

 

「つまり...本部と交渉というのは...最初から全て嘘......!?」

 

レナは神代を見つめる。だがショックからか両手が震えていた。DA側がレナの事情を知っているかは不明なのだが、彼女を招集し、交渉役としたのは単に利用する為だったのか?これまで片時だったが、信頼していた組織に自分は騙されていたのか?それだけが解らなかった。

すると突如として回線が開き、楠木の声が聞こえて来る。何があったのか此方へ聞こうとしている

それに対し、レナは切り出した。

 

「...司令、交渉は決裂しました!向こうの罠ですッ!!速やかに全員をビルから撤収させ......きゃああッッ!!?」

 

発砲音と共に右肩を撃ち抜かれ、レナは苦痛の顔を浮かべながら叫びにならない声を上げて蹲っている。

 

「おいおい、それはルール違反だぜ?玲奈...。お前は交渉が決裂したとそのまま伝えれば良いだけなのによォ......?」

 

神代はレナからインカムを奪うと話し始めた。

 

「よう、聞こえるか?DAのお偉いさん方...オレがお前達の探してる神代だよ。真島の後を継ぐ者......。一部じゃそう呼ばれてるらしいが、オレにはそんなモノ興味は無い。どうする?交渉役のお嬢ちゃん、このまま血流して死んじまうぞ?」

 

神代は楠木とインカムを通して何かを話している。そして通話を終えるとインカムを投げ捨てた

 

「...DAのお偉いさん方はお前を見捨てるってさ。可哀想になァ?同情するぜ?」

 

レナを見下ろすと神代は彼女へ銃を突き付ける。その表情は不気味だが笑っている様にも見えた。

 

「これでお別れだな...最後だからお前に教えといてやるよ。オレはお前達DAの存在、そしてリコリスという存在を全て世間へ明るみにする...。まぁ、リコリスは全員射殺してやるけどな......その記念すべき第1号がお前って訳だ。光栄に思えよ?」

 

しゃがむと、レナの眉間に銃を突き付けた神代はじっと彼女の目を見つめる。

このままでは間違いなく殺される。

 

誰も助けになんて来ない。此処で1人寂しく死ぬ。だが、仲間が無事ならそれでも良い。恐らく上から指示が出されて全員引き上げただろう。死ぬのは私だけ。

これが私の最後。何だったらちゃんとしたお別れを言うべきだったかもしれない。レナの脳裏をそんな考えが過ぎる。

 

死ぬのはあっという間、痛みが一瞬走ってそこから訪れるのは無だ。

 

「...死ね!!玲奈ァ!!!」

 

1発の銃声が響き渡る。だが、レナはまだ生きている。神代が手を抑えてレナから飛び退いていた。

 

「動かないでッ...!!」

 

そこに居たのはカスミだった。

銃だけを狙って弾き飛ばしたらしい

どうやら、撤収したかと思ったが百合の班だけは残っていたのだ。

 

「......形勢逆転ね。悪いけど、貴方は袋のネズミ。逃げられないわよ!!」

 

百合は銃を向けながら神代を睨み付けていた。残りの椿と沙華は出口を確保している。

 

「へぇ...そうかい。だったら、ビル諸共お前らを吹き飛ばしてやるッッ!!」

 

小型のリモコンを上着のポケットから取り出そうとした途端にレナが無理やり神代に組み付く。そして左手でリモコンを弾き飛ばした。

 

「この野郎ッッ......!!」

 

レナを殴り飛ばし距離を取ると離れのリモコンを取ろうとする。だが、カスミがリモコンを撃ち抜き破壊しそれを阻止した。

 

「大丈夫、レナぁッ...!?」

 

慌てて駆け寄るとレナを庇い、カスミは神代へ銃を向け続ける。

 

「成程...ここ迄か......。じゃあな玲奈!!また会いに来てやるから覚えとけよ......!」

 

神代はビルのメンテナンス用通路へ走り、そこから飛び降りた。そしてパラシュートの様な物を開くとそのまま下の方へ消えていったのだ。

 

「くそッ......逃げられた!!」

 

後を追いかけて行った百合も数発、発砲したのだが当たらなかったらしい。

 

「ねぇ、レナ!?しっかりして!レナ!もう大丈夫だから、お願い...返事をして!レナぁッッ!!」

 

カスミの必死の叫び声で百合は我に返ると咄嗟に室内へ戻る。レナはカスミに支えられたまま気を失っていた。結局、神代との交渉は向こう側から一方的に決裂。オマケに交渉役は命に関わる重傷を負わされるという形で幕を閉じた。

 

「本部、救護班を早く寄越して下さい!!左足と右肩を撃たれてます!何とか止血してますが......中々、血が止まらなくて...ッッ!椿、もっとガーゼ寄越して!!早く!!沙華も手伝って!!」

 

百合とカスミはエレベーターまでレナを運ぶと椿、沙華がそれぞれ守りを固めながら乗り込む。その間も必死に止血処理が進められ、1階へ辿り着くとレナはそのまま担架に乗せられ、救急車で病院へと搬送されて行く。

 

搬送されてから即座に治療が行われると、撃たれた左足の方は弾が抜けていた。だが、右肩は弾が残っていたらしく、即座に摘出手術が施された。

 

全ての治療を終えた後、レナは病院の集中治療室にて呼吸器を付けたまま眠っていた。外から付き添いに来た百合がガラス越しに見ていた。

 

「どうしてッ......!」

 

やるせない思いしかなかった。本部は

神代1人に対してレナを交渉役として付けただけ。まるでこうなる事を予め知っていた様に。

 

「一瞬だけど通信にノイズが走った...司令からの指示が掻き消され、少ししてから元に戻ったけど、あの間は何?」

 

本来ならラジアータからの通信が途絶える事は無い。間違い無く、それは有り得ないのだ。だが楠木から突入の指示が下ったのはその少し間が空いてから後。

先発としてカスミが突入した頃には既にレナは血を流し床に倒れていた。

 

「......何があったの」

 

ふと横から話し掛けられる。そこに居たのは紛れも無く千束だった

作戦終了後に状況が解ったらしく、こうして駆け付けてきた。

 

「至近距離で撃たれた事による多量出血...、右肩と左足太腿に銃創、後は打撲痕が数箇所......。」

 

千束は無言で百合へ近寄ると胸倉を掴みあげる。

 

「そんな事聞いてない!!何でこんな事になったかって聞いてんだよッッ!!」

 

千束は迫る勢いで問い詰めた。

百合の事は知っているし、何だったら優秀なファーストでもある。

彼女が付いて居ながらもレナが重傷を負っていた事が何より気掛かりだった。

 

「作戦だったの...本部が立案した交渉作戦。私達はそれに従っただけ......。」

 

百合は千束の手を解くと事の詳細を全て話した。神代相手に交渉作戦を実行した事も、通信障害により楠木との連絡が途絶え、突入が遅れた事も全て。

 

「はぁ!?1人でテロリストと交渉なんて馬鹿げてるじゃん...!!何でまたこんな無茶な事を......!!」

 

千束も頭を抱えていた。これ以上、百合を責めても拉致は開かない

そして通信障害に関しては以前にも似たような事をたきなが経験していた為、話聞いただけで解っていた。

 

「あん時から学習してねぇーな...ったくもう!!」

 

千束は集中治療室のガラスへ両手の拳を打ち付ける。悔しい、やり切れない思いで押し潰されそうになっていた。

千束達に出来るのはレナの回復をただ祈るのみ。それしか出来ない自分がただ無力でしか無いと痛感させられた。

 

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