リコリス・リコイル/their other story 作:秋乃楓
「れ、レナが消えたぁ!?何でまた突然...あー、うん、解った……気を付けて帰っといでー。」
千束は朝から大きな声で電話をしていた。相手は病院へ向かった筈のたきなで、千束の代わりに彼女を迎えに行った。だが、病室にはレナの姿は無く、看護師の話によれば今朝様子を見に行った時には既に彼女は居らず、窓が開け放たれた状態になっていた。
外には屋上からのパイプが下へと伸びている為、これを使って外へ出て行ってしまった可能性が高いとの事だった。
「うーん...何処行ったんだか...あ、ごめんなさい、まだ開店時間じゃ無くて......。」
入り口のドアのベルがカランカランと鳴る。入って来たのはレナだった。
「うぉおお!!?な、何でこんな所に...たきなが心配してたぞ?勝手に病院抜け出して......それとも早く千束さんに会いたくなっちゃったかぁ?」
ニコニコ笑いながら近寄るとレナは千束の前にコンバットナイフを突き付ける。
「......気安く呼ぶな!!」
いつものレナとはまるで雰囲気が違う。殺意と憎しみの籠った様な目で此方を見ている。何かしただろうか?思い当たる節は千束には無かった。
「ちょいちょい...いきなり人にそんなヤバいモノ向けるなよなぁ...?頼むからさぁ......それ下ろそう?な?」
千束は苦笑いしながらナイフを下ろすように伝える。だが次の瞬間、レナは千束目掛けてナイフを振り翳して来る。
「うわぁあッッ!!?あっぶねぇ!!」
間一髪、避けると風切り音と共に千束の着物の一部が切れてしまう。
どうやら、切れ味はかなり良いらしい。
「ちょっと、止めなって!!軽いケガじゃ済まないんだから!!」
千束はナイフを何とか奪う手立てを練るものの、その間もナイフによる斬撃が何度も繰り出される。
「千束...朝から五月蝿いぞ?ボクは眠たいんだよぅ......。」
クルミが戸を開けて此方を見ている。
この状況下で此方に来られるのは非常にマズい。
「クルミ!危ないから奥引っ込んどいて!!」
千束が大声で叫ぶとナイフによる突きが掠り、左腕から出血してしまう。
「痛ぁッ...千束さんケガしちゃったじゃん...痛ぇなぁ......!!」
左腕を抑えながらレナを見つめる。だがその表情には謝罪の色等、微塵もない。
「......私は錦木千束の命が欲しい。お前を殺したら次は井ノ上たきなを殺す。」
レナはナイフを構え、千束を睨み付ける。今度こそ仕留めるという殺気が店内を包み始める。
「れ、レナぁ......危ないからナイフ捨てた方が良いぞ?」
奥から震えたクルミが呟く
だが聞く耳は持たず、そのまま千束と睨み合っている。
「...いい加減にしないと本気で怒るよ?」
千束はレナを睨み付けると反撃のタイミングを測っていた。そして再びナイフを振り下ろして来ると、それを後ろへ後退して避ける。そしてカウンターの椅子を一つ取ると、2つ目の斬撃を椅子の足で受け止める。硬い金属音と共にナイフと椅子の足が競り合う。
「ッ...小癪(こしゃく)な真似を......!!」
レナはナイフを引っ込め、今度は右足による蹴りを放つ。椅子の足ごと千束は押されると壁際へ追い込まれてしまう。
「不味いかも......ッ!」
椅子を投げ捨てた時、少し目を逸らした途端に千束の首辺り目掛けて蹴りが飛んでくる。それを負傷した左腕で受け止めると千束は右手をレナの喉元目掛けて繰り出す。それが直撃し、レナはふらつく。
「はぁ...はぁ......!朝の運動はこれでお終い...!!さぁ、解ったならそれをこっちに寄越して...!!」
千束は右手の指をクイクイと動かし、ナイフを渡す様に促す。だがレナは聞こうとはしない。
「今度こそ...ッ!!?」
切り掛かろうとした時、腕に拘束様のワイヤーが絡み付く。振り向くとたきなが居た。
「千束!大丈夫ですか!?ッ......何故こんな事を!」
レナを睨み付けると今度はたきなが割って入る。走りながら繰り出された、たきなの右手の拳を受け流し、避けるとレナはワイヤーを外そうとしながら玄関から外へと逃げて行った。
「逃がさない...ッ!?」
追い掛けようとした途端、千束に腕を引っ張られて止められてしまう。
「何故止めるんですか!?私や千束を襲って来て...現に千束が怪我までしているのに......!!」
たきなは納得がいかない様子で千束の方を睨み付けているが、千束は首を横に振った。その後、転がっている椅子や、床に飛沫した血を拭き取ると千束の傷の手当をする事に。
幸い、傷は浅かった為か出血量は多くなかった。
「サンキュー、たきな。あー...本当に殺されるかと思った...。また格闘技術上がってんなぁ......。」
座敷へ座ると千束は天井を見上げていた。下手をすれば先程の騒ぎで殺されていたかも知らないのに。
「ちょっと、感心している場合ですか!?私が間に合ったから良かったものの、もし何かあったら...!」
たきなは思わず声を上げてしまう
余程、千束が心配だったらしい。
「やはり...私達はあの子と会うべきでも、組むべきでも無かった。最初から断れば良かった...なのに千束が承諾するからこんな事になってるんですよ!?解ってるんですか!?」
思わず怒鳴り声を上げてレナと組むべきでは無かったとまで口にしてしまう。
「あんましガーガー怒るとシワ増えっぞ?組むべきでも、会うべきでも無かったって言うのは流石に言い過ぎだよ...良くある話じゃん?飼い犬に手を噛まれるって奴だよ......。」
千束は、裏切られたというショックよりもレナの事を気に掛けている様子だった。
「甘過ぎます...千束はレナと会ってからずっと!いつも傍に居るじゃないですか......私の事はもう用済みって事ですか?要らないならそう言って下さい...私もその後の事とか考えますから......!!」
思わず本音を口にしてしまうと、千束は何も言わずにたきなを抱き締める。
「そっか...そう見られちゃってたのか...気づかなかった、それは謝る。何か似てるんだよねぇ、初めて此処に来た時のたきなと。何て言うか......雰囲気が?」
背中をポンポンと優しく叩く。
「昔は私のやる事に色々ケチ付けてたでしょ?やり方が気に入らないとか、何で殺さないのー?とかさぁ。同じ事をレナも言ってたよ...。たきなもレナと同じ位、私にとって大切な相棒って事に変わりは無いよ。だから何処にも行かなくていい。」
そう言い聞かせると千束は、たきなからゆっくり離れる。そしてたきなはじっと千束を見ていた。
「......なら、条件があります。千束の誠意を示して下さい。」
突然、誠意を示せと言われると千束は目を丸くしてしまう。
「え...は?誠意って......何ですか?たきなさーん......?」
首を傾げると千束はじっと、たきなを見ている。
「ち、ち、ち、チュー......をして下さい!!」
たきなは言葉を詰まらせながら千束を見ている。何処か照れているのか顔が赤い。
「あー、なぁんだ、チューかぁ......ってえええ!!!?ちょいちょいちょいちょい!?な、な、な、何でそうなるのさぁ!?」
千束は思わず耳を疑う。
チューをしろと言われたらしい
この状況下で無茶な事を提案されてしまった。
「それが私からの条件です...!これからも、私の事を相棒とするのなら......覚悟を、誠意を見せて下さい!」
プルプルと手が震えている。たきなは千束をじーっと見つめている。
「うぅ...あぁーもう!!解ったよぅ!ほら、目を瞑れ!」
千束も顔を真っ赤にしながら呟くと
たきなは目を閉じた。
そしてそのまま千束を待っている様子。
「すぅー...はぁー...!落ち着け、落ち着け...落ち着け私ぃ......!」
千束は少したきなと距離を詰める。
ゴクリと唾を飲み込むと顔を近付けてくる。
「い、いくぞぉ...マジでチュー...しちゃうかんなぁ......!」
千束は呟くと、たきなは頷く。そしてそのまま2人は唇を重ねた。
「おぉーい、大丈夫だったか...?」
クルミの声がすると咄嗟に我に返り、千束は口を離すも、足が痺れ、ふらついてしまい、たきなを押し倒してしまう。
「お...お取り込み中だったか?すまんかったな......!何も見てないぞ!うん!何も!」
クルミはそのまま固まっている。
「だ、だ、大丈夫...です......。」
千束は思わず敬語で話し、当のたきなは千束の真下で固まって声を失っていた。
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丁度同じ頃、街ではリコリコから逃げたレナが1人さ迷っていた。
「......ターゲットの殺害に失敗、次の指示を乞う。」
インカムで通信をすると直ぐに通話が始まる。
「やはりお前でも一筋縄じゃ行かねぇか...まぁいい。今から指示を出してやるから、そこのビルの画面を見てろ。」
通信相手の神代はそう話すと、途端に映像が切り替わる。そこに映ったのは神代本人の素顔。
「この国に住む愚かで平和ボケした国民の皆さん。こんにちは......俺の名前は神代。神に代わり、国を裁く者という意味を持っている...。一部じゃ嘗てのテロリスト、真島の再来とも言われているらしいがそんな事はどーでもいい...。俺はな、この国を自分の手で裁くつもりだ...不平に隠蔽された真実全てを今度こそ明るみにする為にな!!お前達は何も知らないだろう?裏で年間3000人以上もの行方不明者が出ているのに国はそれを公にしようとはしない!!それは何故か?DAっていう悪どい連中がひた隠しにしているからさ......。」
神代は淡々と演説を続けて行く。
ビルの広告用のモニター、家電量販店のテレビ、家庭にあるテレビ、それぞれに神代の顔が映されると演説が流されていく。まるで真島の時の手口と同じ様に。
「お前達は何も知らねぇんだ......可哀想になぁ?同情するぜ...真実を知りたければ、武器を取って抗え!!連中は自分達に都合の悪い事は全て消しちまうぞ?この国の真実を知らないでお前達は死んでいくのか?戦え!!真実を知りたければ!!」
そう叫ぶと映像が途絶えてしまう。
画面にはこのままお待ち下さいと表示されていた。再び映像が切り替わると今度は地図が表示される。要所には赤い点でマーキングが施されていた。
「その為の武器と弾は既にばら撒いてある。それを拾って戦え...。なぁに、簡単なゲームだ。ルールは簡単、やるか、やられるかだ!!」
そう言い残すと映像が再び途切れた。周囲ではざわめきが起こり始める。
レナの元にも再び通信が入り、彼女はそれに応じる。
「武器の場所は地図に出した通り...恐らく、DAは間違い無くリコリスを現場へ差し向けるだろう。そこでだ・・・お前にはリコリスを足止めして貰う。何だったら殺しちまっても構わねぇ......。」
通信が切れるとレナは端末に指示されたポイントへ向かう。神代の予想した通り、サードリコリスらが市民らの追跡を始めていた。再び神代による映像が流される。
「...言い忘れてたが武器を取った瞬間、お前らはリコリスの標的にされる。白、赤、青...制服を着た連中こそがお前達の戦う相手、リコリスだ......覚えておけよ?」
すると既に武器を取った男とサードリコリス2人が揉め合いになっていた。銃を捨てろと言う方と銃を捨てずに2人へ向ける男。その瞬間、銃声が響くと1人のサードリコリスが倒れ、直後にリコリスが発砲した為に男が力無く倒れた。
途端に周囲からは悲鳴が上がる。
街中は少しずつだがパニック状態へ突入して行ったのだった。
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DA内部でも対処し切れない事態に襲われていた。相次ぐ通報、増える犠牲者。真島の時と似た状況が再び作り出されていく。高性能AI、ラジアータが乗っ取られていないのが唯一の救いだろう。
「事態の収集を最優先!割ける部隊は武器の確保に向かわせろ!!仮に市民へ銃を向けられても発砲は許可出来ない!!絶対に撃つな!」
楠木の指示と共にその場に居る職員らが慌ただしく相次いで対応していた。
だが1人の叫び声で状況は一変してしまう。
「ら、ラジアータが......謎の不正アクセスにより防御層突破されました......!」
真島の時に起こったハッキング。それは天才ハッカーを自称するロボ太によるものであり、彼によりラジアータを乗っ取られてしまった経緯が有る。だが今回は何かが違う様子だった。
以前の様な手口とは全く異なっている。
「馬鹿な!?対策した筈だぞ...何故そう簡単に......!!」
楠木は焦りと共に対策を考え始める。
現場のリコリスからは相次いで対応を求む通信が入り続けていたが、途中からは途絶してしまった。
こうして再びDAは真島の時と同じ様で異なる事例に苛まれてしまう。
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その頃、百合達の班も現場へ駆け付けていた。神代の居た場所を突き止める為に特例で指示を受けていたのだ。
「真島の時と同じなら...神代も延空木に居る筈!総員、突入!!」
サード、セカンドリコリス合わせて8人、自身の隊4人の合わせて12人で延空木へ突入し神代の確保へと向かう。
指示は楠木を通し、彼女の秘書による物。
「真島の時より酷いッスよこれ......!」
沙華は階段を登りながら思わず口にする。この付近でも銃声が聞こえて来る。
「...此方、チームアルファ。現在外の非常階段から向かっています。神代が居るのはフロアの何階でしょうか?」
突入前、百合は通信が途絶えた事を知らされた事から携帯による通話で連絡を取っていた。
「通報が有ったのは確か、フロアの10階でしたよね?」
椿が横から口を挟む。百合は一旦通信を終えるとスマホをしまった。
「そうよ。けど、此処みたいに人が多い場所から放送するかしら......。」
百合は疑問に思いながら階段を再び登り始めると6階辺りで立ち止まった。
「此処から中へ入ります、もし奴がエレベーターから降りてきたら発砲し対象の確保、抵抗した場合は射殺。良いわね?」
残りのサード、セカンドリコリスには他の出入り口を確保させ、自分達は待機。
百合達は小型のサブマシンガン、MP5Aクルツをそれぞれ装備し待つ。そしてエレベーターが6階へ差し掛かると緊張感が一気に高まる。そしてエレベーターのドアが開くと中には誰も居ない。
「え...?まさかエレベーターじゃない!?」
アテが外れてしまった。すると、サードリコリスの1人が百合の元へ駆け寄る。
「......ダメです、此方の方も居ませんでしたッッ!!」
首を横に振ると自分達が待機していた所にも来なかったらしい。
つまり、標的はこの上か或いは既に逃げたかの何方かだ。
「...これより、私達はエレベーターで最上階へ向かいます。貴女達は周囲をチェックしながら上がって!」
サードリコリスへ指示を出すと百合達はエレベーターで、サードとセカンドの編成隊は外部の階段で上がる様に指示を出した。
百合達は何としても神代を確保する為、最上階へと向かって行った。
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そして再びリコリコ。
先程のキス騒動で千束は未だ顔を真っ赤にしていた。その中で切り出したのはたきなから。
「千束...その......退いて貰えます?」
千束の真下からたきなの声がする
千束はゆっくりとたきなから離れると、彼女は身体を起こした。
「...千束の誠意、見せてもらいました...思ったより唇が柔らかかったです...あと、お菓子食べましたよね?何かしょっぱかったですけど......。」
たきなはじっと千束の方を見ている
実は戸棚にあったポテチをこっそり食べていた。
「え!?あ、ああーー...ごめん...なさい?初めてのキスがレモン味じゃ無くて...あは、あははははは......。」
千束は何とか平静を装っているが
誤魔化しは効かなそうだった。
「はぁ...それで、助けに行くんですか?行かないんですか?」
取り敢えず話題を切り替えると、たきなは千束の方を見つめる。どうやら覚悟は決まったらしい。
「行くに決まってるでしょー?ほっとく訳には行かないし、私の心がそうさせませんからねぇ?」
いひひひと笑うと千束は立ち上がり、履物を穿いた。そしてたきなの方を振り向く。
「んじゃ、力を貸してよ相棒!」
たきなへ手を差し出すと千束は微笑んだ。
「はいはい......無茶する千束をカバーするのは私の役目、危ないもう1人の方も気遣うのも私の役目...そうでしょう?嫌って言ってもその気にさせる癖に。」
たきなは手を握ると立ち上がり、千束を見つめていた。
そして千束は着替えてくると意気込み、更衣室の方へと向かって行く。
すると、クルミが再び戸を開けて話し掛けて来た。
「...レナを探しに行くのか?なら、此処だと思うぞ。翡翠礼拝堂...。レナから聞いた事が有る。悩んだり、思い詰めたりしたら此処に来るんだとさ。」
ルミナの教団員も礼拝に訪れるとだけ一言付け加えると場所をタブレットの地図アプリで表示させる。
「礼拝堂...ですか。やはり元が宗教っぽいから......?」
たきなは首を傾げる。
だが、クルミは首を横に振った。
「いや、中のステンドグラスが綺麗なんだとさ...。それを見てると何か気持ちが楽になるんだと。」
ほら。とクルミがタブレットの画像で中のステンドグラスを見せる
確かに綺麗だった。
「成程......確かにこれは綺麗ですね。」
たきなも納得していた時、今度は千束が戻って来た。
「おっまたせーい!千束さん準備完了ぅ!!」
ビシッと敬礼すると自信満々な顔をしていた。そして3人で計画を進めていた時にカウンター側から声を掛けられる。
「千束......少し良いか?」
声を掛けてきたのはミカ。千束はそのまま2人から離れ、カウンターの奥にへ向かった
「どしたの先生?」
千束はミカと向き合う形で首を傾げている。すると、徐に取り出したのは1枚の写真だった。そこには彼と少女が写っていた。肩まで有る黒髪を後ろで小さく結んでいる。上は女性向けの黒いタンクトップ、下は迷彩柄のズボンを着ていた。
「今から10年も前の話だ...俺はシンジからある話を持ち掛けられた。千束、お前とは別の形でもう1人......殺しの才能を見出された子が居た。それがこの写真の子だ。その子を育てて、元居た場所に戻し組織のトップに置く...そうすれば彼女だけでも充分に人を殺せると踏んだらしい。リコリスと並び、それに続く組織の人間の育成......それがシンジの目的だった。俺は持てる技術全てを彼女に叩き込んだ。どんな状況下でも躊躇ったら死ぬ、決して弱みを見せるな、敵はお前を待ってくれない...ありとあらゆる言葉を彼女へ掛け続けた。そして彼女は笑ったり...仲間と関わる事もしなくなった......。組織に戻せば、きっと彼女は壊れてしまう...そう思った俺は無理に上に掛け合い、彼女をDAに残した。」
千束はミカの話の一言一句、聞き逃さずに聞いていた。自分以外に育成されたとなると心当たりが有るのが1人居た。
「まさか...先生の言ってるその子って......。」
千束が口を開きかけた時だった。
「...葉月玲奈。今は浅水レナ、それが彼女の全てだよ......言ってしまえば、シンジの置き土産さ。最初に此処へ来た時、俺はまさかと思った...俺は背負わせてしまったんだ。千束と同じ、殺しの運命を...だからあの子も解き放ってやって欲しい......。」
ミカはそう呟くと頭を下げる
千束も嘗て吉松により殺しの才能を見出され、彼とミカの手で生かされていた。
本来なら先天性の心臓病で亡くなっていた筈なのだが。
「...顔を上げてよ、先生!大丈夫だよ私達は先生のお陰で生きてる。だから必ず連れて帰って来るから...その時にまたちゃんと話せば良いでしょう?」
千束はミカの方を見ると微笑んでいた
そんな事を気にしていないと言わんばかりの笑顔で。どれだけ過酷な運命だろうと千束はそれに抗って来た。今度はレナ自身がそれに向き合う時が来た。それだけの事なのだ。
「...頼んだ、千束。後はお前達に任せる」
ミカは顔を上げ、千束の方を見る。そしてたきなから礼拝堂に向かうと聞いた事から車を用意しに向かった。
「そんじゃ、行きますかね......レナ救出作戦決行ッッ!!」
千束は戻って来るとガッツポーズをすると大声で叫んだ。
そして店の外へと出ると、用意された千束とたきなは車へ乗り込む。
「クルミ、後で何が起きてるか全部知らせてよねー?ミズキもヨロシクぅ!」
千束は助手席から顔を覗かせる
クルミは任せろと返事をするも、ミズキは何処か嫌な顔をしながら返事をした。
そして2人を乗せた車は礼拝堂へと向かって行った。
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車を走らせる事、約1時間
2人は礼拝堂へとたどり着いた。街から少し離れた場所。車で進める様な形では無い為、歩いて向かう事になる
「そんじゃ、先生!行ってきます!」
2人は車を降りると手入れされてはいるのだが荒っぽい道を進んで行く。
そして草木を掻き分けて少し大きめな礼拝堂へと辿り着いた。
「......随分と古っぽい建物ですね?写真で見た時はもう少し綺麗だった気がします」
たきなが外観を見回すと呟いた
確かに若干だが汚れていたりする。
「ちょいちょい、たきなぁ?それは失礼だってば......神サマに怒られんぞ?」
たきなを宥めると2人はドアの左右に背中を合わせる。そして合図と共に内部へと突入した。
内部は長めの椅子が左右に幾つか有り、奥にはステンドグラスが飾られている。
「これがステンドグラスかぁ?でっけぇなぁ・・・ウチにも欲しいなー、こんなの。」
「あんなの置けませんよ?しかもうちの予算じゃ買えませんし...買っても何処置くんですか......。」
千束、たきなが感心しながらまじまじとステンドグラスを見ていた。その時、後ろから足跡が聞こえて来る。
「...汝は自らの過ちを認め、女神である千束様の元へ帰ろうという気は有りますか?」
千束は振り向かずに呟く。
「お前の元へ帰る?......ふざけているのか?お前は今から私の手で殺されるのに。」
そこに居たのはレナだった。セカンドリコリスの制服では無く、上下黒い制服に赤いスカーフを胸元で巻いている。
髪は以前よりも伸びており、腰の辺りまで有った。先に振り向いた、たきなが銃を向けようとするも、千束がそれを制止する。
「殺されないよ、私は。キミを迎えに来ただけ......迷える子羊さんを。」
千束が振り向くと銃声と共に弾が放たれ、千束の左頬を弾が突き抜けた。
「...いい加減にしろ!!お前の戯れ言は聞き飽きた!!何も知らない癖に......偉そうに、ごちゃごちゃと!」
レナは歯を食い縛りながら千束を睨み付ける。その目は今にも千束を殺してやろうと言わんばかりの目だった。何故か先程からジワジワと頭が痛む。
「あのねぇ...何も知らないとでも思ってる?全部調べたよ、レナの過去も何もかも全て...。辛かった、痛かった...苦しかった......そう言う言葉を掛けても足りない位だったよ。私と同じで理不尽な運命を背負わされ、身勝手な理由に振り回されて、生かされてさ......。」
千束はゆっくりと段上から降り、そしてレナと向き合う形になった。
「でも...どう生きるか、どうしたいかは自分で選ぶ事は出来る。最初に会った時も言ったけど、私は自分のやりたい事を最優先して生きてる。それで空回りしたり、やり過ぎたりして怒られる事も沢山あるけど、私は今の生き方で後悔なんてしてない。だって自分の人生なんだもん、好きに生きて、好きにしたら良いと思う。たった一度の人生を誰かに決め付けられて、辛い事や悲しい事を押し付けられたまま生きるなんて悲し過ぎるでしょ?」
千束は銃をしまうとレナへ向けて片手を差し出した。
「レナの場合は...それに気付いてあげるべき人達に最初に出会えなかった。だから自分を必死に守ろうとして、嫌われたくないから他の人との関わりを避けて、常に一人ぼっちだった。本当は誰かに助けて欲しかった......でも、それがずっと言えなかった。けれど、これからは1人じゃない。私はね...キミに自由に生きて欲しいんだ。もっともっと、沢山色んな事を知って欲しい。もし、道を間違えても私や私の仲間がレナを助けてくれる。辛い時も、悲しい時も、嬉しい時も、ずっと一緒・・・。だからもう無理しなくていい、帰っておいで......。」
千束は敵意を一切見せない。それどころかレナを説得しようとしていた。
「ッ...どうして...どうしてそこまでして私に関わろうとする......!!お前は敵だッッ!!私の倒すべき...敵!」
頭を抑えながらレナは銃を向け続けるが
頭痛が先程から増してきたらしく、足元がふらつき始める。
「...私と、たきなの相棒。それがキミなんだよ。初めて会った時からそれは変わらない。DA所属のセカンドリコリスでもあり、リコリコ所属の浅水レナ...真面目で気が強いし、お説教長いし、何処か可愛げが無いけれど...。キミはもうこれ以上、教団の呪縛に囚われなくて良い......。もし、本当に帰りたいなら私の手を握って欲しい...初めて会った時みたいにさ。」
千束はただ手を差し出したまま。
気が付けばレナは、つうっと涙を流していた。温かい感情が胸の奥から込み上げてくる。包まれる様な温かい何かが。そして一緒だが倒れかけた時、全てが鮮明に思い出されていく。
「千束...さん......?」
レナは気が付くと千束の手を握っていた。ポカーンとした顔で千束を見つめていた時、いきなり抱き締められた。
「ちょっとッ...苦しいですッ...聞いてます!?千束さん......ッ!」
だが、千束は聞く耳を持たずにレナを抱きしめ続けていた。そして暫くしてから少し離れる。
「......お帰り。ホント、心配させやがってコノヤロー!!」
頭をワシャワシャと撫で回すと千束はイタズラっぽい笑顔を浮かべながらレナを見ていた。
「...2人とも、クルミからです。神代の居場所が解ったかもしれないって。一先ず、司令と連絡を取る手段を探さないと......。」
たきながインカムで連絡を取る最中、
千束はレナの方を見つめていた。
「なぁーあ、もう一つ確認なんだけど......私達が心掛けている事、なんだっけ?」
レナを見ながら千束は呟く。
「......命大事に。何か間違ってますか?」
レナは首を傾げながら千束を見ている。
「うん!やっぱり、いつものレナだ!!そんじゃあ、行きますかぁ!!」
2人の間に千束が入ると、それぞれに両腕を回しながら歩いて礼拝堂を後にする。外に止めていた車に2人で乗り込むと、連絡手段の確保の為に街中へと向かった。今起きている事の全てを終わらせる為に。