リコリス・リコイル/their other story 作:秋乃楓
ー私は産まれた時から教団に居た訳じゃない。実の父親から常日頃、暴力を振るわれ、父親の機嫌が悪い日は特に殴られたり、蹴られたりの繰り返し。
アザや打撲、擦り傷や切り傷は増える一方。
このままでは何れ自分も殺されると思った母は私を連れて教団へ連れて行った。
その日から、そこが私の居場所となった。私の感情は既にこの時から死んでいたのかもしれない。笑ったり、泣いたり、怒ったり、人間らしい感情は既に無かった。
ある日、私は教団の人に聞いた。どうすれば要らないモノを消せるのかと。そうしたら、その人は教えてくれた
殺してしまえばいい……と。
その人は私に銃の撃ち方を教えてくれた。教会のお祈りの時間が終わった時、皆との食事が終わった時、毎日こっそりと。
そして私は教会の人に許可を貰い、一時的に家へ戻った。そこには暴力を振るう対象を私から母へ変えた父の姿が有った。
帰ってきた途端、直ぐに解った。父は私の事を受け入れるつもりは無かったらしい。
リビングの奥に居た母の顔は頬にアザが有り、腕や足にもケガをしている様子だった。最後に有った時と比べて弱々しく見えた。頬を抑えながら座り込んでいる。父は私へ拳を振り下ろした途端、1発の乾いた音と共に後ろへ下がっていた。赤い液体が父の腹部を伝い、足元へ垂れている。父は待ってくれ、殺さないでくれ、止めろ、止めなさいと叫んでいる。気が付いたら私は銃を握り締めていた。
私にとって要らないモノは父。
優しくしてくれた事なんて無かった。
他の家族が羨ましかった。肩車をしてもらったり、楽しそうに話たり、家族でご飯を食べたり、ゲームをして遊んだり、何処かへ出掛けたり…。
けど私は、私の家族は違った。
理不尽な事で殴られたり、蹴られたり、罵声を浴びせられたり等。常に命の危険に晒されていた。食事が出ない時も有った。
だからもう終わりにする。もうこの人は私のパパじゃない…。
直後に銃声が数発、部屋の中に響く。
父は倒れて動かなくなった
それでも撃ち続ける。気が付けば弾倉は空になっていた
既に父だったモノは動かない。銃声に紛れて助けてくれという声が聞こえた気がする。だが、それが本当なのかは解らない。目の前に横たわるのは身体に数箇所、穴の空いた肉塊。そして私の服や顔は返り血で汚れている。
そして私は震えている母を残し、家を後にした。
それから暫く経った後、私は目の前に居る同い歳の子と戦っている。
勝てば生き残り
負ければ死ぬ
有るのはたったそれだけだ。
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「いい加減、諦めたら?無意味だってこんなの!」
千束は銃の引き金を引いて発砲する。
だが、由紀那は素早く物陰へ隠れると右腕だけを突き出して発砲して来た。
「諦める?ふん…誰がッ!」
物陰から叫ぶと空になったマガジンを捨て、予備のマガジンを差し込んでリロード。仕掛けるなら今だろうが、向こうも何して来るか解らない
なら、確実に殺す為の手立てを考える。
右足太腿のホルスターにあるコイツを使おう。由紀那はそう思うとホルスターから刃の湾曲したナイフを取り出す。カランビットナイフと呼ばれるそれは通常のナイフとは大きく異なっている。今までも近接戦ではコレを多用して来た。
最大の特徴はなんと言っても曲がっている刃にある。刃が食い込めば力を入れるだけでバックリと大きな傷を生み出せる。首や胸へ突き立てれば確実に仕留められる。
「……ふふッ、覚悟ッッ!!」
由紀那は物陰から飛び出ると銃を向けるフリをして左手のナイフを千束へ振り翳した。
「ちょいちょいちょい!?今度はナイフかぁ!?あっぶねぇなぁ!!?」
連続してナイフで切り裂くが、尽く千束はそれを避ける。だが次第に壁際へ追い込まれて行ってしまう。
「逃げ場は無い…今度こそ終わりよッッ!!」
由紀那は勢い良くナイフを千束へ振り翳す。だが千束はそれを屈んで避け、咄嗟に自分から見て左側へ飛び退けた。
「まるでネズミじゃない。ちょこちょこ逃げ回って…鬱陶しい!!」
ナイフを持ったまま銃を発砲し、千束を狙う。千束はそれを避け、屈んだまま反撃という形で発砲すると由紀那の腹部へ命中。そこに畳み掛ける様に連続して発砲した。
「あぐぅうッッ…!?成程…、硬質ゴム弾か…。ふふ、あはははは!!!面白いじゃない…此処が私の…居場所、命のやり取りをする場こそが…私の居場所……ッ!!」
由紀那は肩で息をしながら千束を睨み付ける。苦労が掛る獲物ほど、仕留めた時の喜びが大きい。
だから止められないのだ、殺しは。それこそが快感で生き甲斐なのだから。
「やっぱりアンタは狂ってるッッ!!そんなの可笑しいって…!!」
千束は由紀那を貴女からアンタへと敬称を変え、睨み付ける。先に走り出した由紀那がナイフを千束目掛けて振り翳すと千束も素早く立ち上がり、彼女の左腕を握り締め、そしてお互いに向き合う姿勢へと変わる。
「…この距離なら絶対に外さない…今度こそ殺すッッ!!」
「あーーそうですかぁ!!それはお互い様でしょうが!!」
直後、均衡が破られると千束の右足太腿を由紀那が撃ち抜いた。そしてふらつくと同時に千束は素早く由紀那の腹部へ銃口を突き付けると数発撃ち込む。倒れる前に由紀那がナイフを無理矢理、千束へ振り翳そうと目論むも千束が由紀那を跳ね除けた事でそれは避けられてしまう。そしてお互いに地面へ倒れた。
「くッ…まだよ……まだ…うぐぅッッ!!?」
仰向けで倒れた由紀那は起き上がろうとするも、右足に次いで左足をそれぞれ撃たれ、その場に倒れてしまう。同じく仰向けで倒れた千束は右腕だけで由紀那へ発砲していたのだ。
「やらせるかっつーの…!!あー、クソッ…足めっっちゃ痛いじゃん……ッッ!!」
腹部、胸、右肩、左肩と狙いが付けられる限りで千束は由紀那の身体を撃つ。そして限界を迎えた由紀那は再び倒れ込んでしまった。
「私の…負け……か。」
身体のあちこちが痛い。少し身体に力を入れようとしただけで痛む程。
勝てなかった、殺せなかった。
それだけが胸に残ってしまった。
「…負けてもアンタは死なないよ。私がそうせたから。私は誰も殺さない、誰も死んで欲しくない。」
千束は隣で同じ様に倒れたまま話す。
身体を起こすとカバンから包帯を取り出し、手当すると撃たれた足を自分で縛った。
「貴女は眩し過ぎる位、明るい…それ故に例えどんな悪だろうと霞んでしまう。貴女は猛毒と同じ…。誰かと触れ合えば、その人は貴女をいつの間にか受け入れてしまっている……。」
由紀那は身体を起こし、壁へ寄り掛かると銃とナイフをそれぞれ隣へ置いた。
「毒ねぇ。私にはそんな気は無いけどなぁ……そのが困ってたら手を差し伸べて、助けてあげる。ただそれだけなんだけど…しかしタフだねぇ、死ぬ程痛い弾を何発も喰らってんのにさぁ……。」
千束は包帯や傷薬をカバンへしまうと同じ様に壁へ寄り掛かっていた。
「…それで、これからどうすんの?私との決着も付いたし。目的は果たされたでしょうに。」
「さぁね…未だ何も考えて無い。独断行動、作戦への支障…私は恐らく殺される。教団は、ロベリアは規律を重視するから…。」
組織へ戻ったら殺される、逃げ回ってもいつかは殺される。それが由紀那の宿命だった。自分も教団の駒の1つでしかない事は解り切っていた。
「そっか…。うっし!ならウチの頼れるけどコワイ人に話してみっか……!」
千束は立ち上がると背伸びをする。
撃たれた箇所が痛むものの、歩けない訳では無い。
「…無駄よ、きっと断られる!!下手をすれば貴女だって…!それにそう簡単に上手く行かない…教団は絶対に貴女を殺そうとする……!」
由紀那は無駄だと解っていた
だが、それでも千束は絶対に諦めない様子だった。
「そーれーでーもー!!私は私のやりたい事を最・優・先!!だから、もう少し待ってて…必ず終わらせるから。これが私のやりたい事!それなら文句無いでしょ?」
千束は動くなよと伝え、拘束銃を発砲しワイヤーで身体を縛った。
「後で回収班寄越すからなー!」
千束が階段の方へ向かう最中に叫ぶ。
「…ホント、バカね。でもありがとう、私はもう誰も殺さなくて良いかもしれない……。」
由紀那は目を閉じ、疲れたのかそのまま眠ってしまった。
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「千束!大丈夫ですか!?そのケガ…また無茶して!!ホントにもう…!でも無事で良かった…。」
非常階段からたきなが降りてくる。
息を切らしてる所を見ると、どうやら大急ぎで来たらしい。
「おう、生きてるぜぃ?千束さんタフだからな!」
にぃっと笑うも、やはり痛いのかちょっとふらついてしまう。
「ほら…肩貸してあげますから、行きましょう?」
そっと、たきなは千束へ肩を貸すと2人で非常階段で上へと上がって行く。
カツン、カツンと1歩ずつ足を進める度に外の景色がどんどん下に見え始める。
「…千束は私の事をどう思ってますか?こんな事を聞く様な事態では無いと思ってますが…どうしても知りたくて。」
階段を登りながら突如として切り出された。
「何だよ、急に。どうかしたの?どう思ってるかなんて決まってるでしょ?大切な私の相棒だって事に変わりは無いし、いきなり突き放したりなんて事はしないよ。これからも、この先も、ずーっと一緒!」
顔を覗き込むと千束は微笑む。
出会った時から今日まで、ずっと一緒に過ごして来た。その間は本当に色々な事が有った。それら全ては明確に覚えている。
「そうですか…それだけでも聞けて良かったです。急ぎましょう、レナ達が待ってます!」
たきなは何処か安堵した様子を見せると千束と2人でレナ達の居る40階を目指す。
一刻でも早く合流する為に。┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
その頃、レナ達はタワーの40階を過ぎ
潜伏先と思われる45階へ来ていた
最上階まで残り5階なのだが、恐らく神代の仲間が居るのは間違い無い。
「……アクシデントは有ったけど、此処から先は何が有るか解らない。だから気を引き締めて!」
百合は4人へ声を掛けると扉の前へ待機する。そしてレナが扉を少し開き、そこへスモークグレネードを投げ込むと中で騒ぎになった。
「突入ッッ!!」
百合の叫びと共に全員がドアを開け、雪崩込む。銃声と悲鳴が響き渡ると少ししてから辺りが静まり返る。そして廊下を走って行く。だが、突如として通路の横から現れたテロリストらに発見されてしまう。
「ちッ…此処は自分が引き受ける!おらおらァ、掛かって来いよォ!!」
沙華は通路の壁を背にすると発砲し、次々に薙ぎ倒して行く。
「百合さんッッ!!1人そっち行きました!!」
1人が沙華を無理矢理、振り切りると百合へ近付く
「…邪魔だって言ってんのよ!!」
百合は男の繰り出した拳を避け、素早く急所へ弾を撃ち込む。男は力無く、その場へ倒れ込んだ。
そして長い廊下を抜け、そこから階段を上へ掛け上る。当然、階段にテロリスト達は待ち構えている。
「今度は私が…ッ!」
カスミはレナへ合図しそれにレナが答える。先にカスミが発砲し、それを皮切りに再び銃撃戦が展開される。
レナは連中の足を狙い発砲、ふらつかせた所をカスミが仕留める形で倒していく。事実、レナが抜ける前はカスミとはこういった連携を行っていた事も有る程。
「うぉぉッ!?」
「このガキ…ぃッ!?」
階段に居た連中も気がつけば残り3人。
「この野郎…!!?」
そう叫ぶ前に男がばたりと倒れる
「私の事も、忘れてもらっちゃ困るんだよなぁ…♪」
椿は2人の後ろでニヤリと笑った。そして残りの2人もあっという間に鎮圧してしまう。
「よし、行きましょう! 」
百合は扉を蹴破り、更に上へ進む。
そして最上階である50階へ差し掛かると、室内へ入る為の扉がそこに有る。
此処から先はメンテナンスエリア及び会議室が有るエリアで、先程から百合達が抜けて来た階はオフィス等が入っている。そして重い扉を開き、廊下を歩いて行く。中は物音すらしない所か明かりは1つも点いていない。
「…誰も居ませんね。」
カスミは見回す。そして小型の懐中電灯を取り出すと辺りを照らしていく。
「ん…?おっとっと……!」
沙華が何かに躓いた時、金属片が転がる音がする。
「はッ!?不味いッ…早く防御体勢を!!」
レナは微かな音を聞き逃さなかった。そして彼女が叫ぶと同時に爆発し、辺りの壁が吹き飛ぶ。そして火災報知器が鳴り響くとスプリンクラーによる放水が始まる。
「ワイヤートラップ…こんな場所に!?」
百合は辺りを見回す。スプリンクラーによる放水や火災報知器の音は鳴り止まない。
「痛たたッ、畜生ッ…やってくれる……!」
沙華は直撃こそ免れたが、腹部を抑えており、出血しているのが解る。
一旦後退する事にしドアノブへ手を掛けるもドアは開かない。
「百合さん、ドアが…ドアが開きませんッ!!」
カスミはノブを何度も捻るが開かない。扉は引いても押しても開く気配が無い。
「退いて!クソッ…何で!?」
百合はカスミを押し退け、ドアノブを捻ったり、ドアへタックルするもビクともしない。
「…私が行きます。百合さん達は退路の確保と沙華さんをお願いします。」
レナは前へ出ると装備を確認し、歩き始める。
「ダメよ、行ったら貴女も沙華の二の舞を踏むだけ!!勝手な行動は許しませんッッ!!戻りなさい!」
百合は叫んで制止しようとする。
するとレナは立ち止まり、振り向かずに答えた。
「…私はもう貴女達の元へは帰りません。今までありがとうございました……百合さん、椿、カスミ。そして沙華さん。」
レナはそう呟くと彼女達を残して1人、暗闇の中へ消えて行った。
仕掛けられたトラップの位置や場所を把握しながら奥へ進む。そして中央会議室と記載された表札の有る部屋へ辿り着くとドアをゆっくり開いた。中は会議室という名前に相応しく、広い。机が円形上に置かれており、椅子も同じ様に沿って綺麗に並べられている。近くには椅子の予備が纏められていたり、発言台が部屋の奥の右隅に有る。
「…よう、待ってたぜ?玲奈。」
パチパチと拍手する音と、聞き覚えのある声。レナから見て部屋の奥に居たのは椅子に座る一人の男。ゆっくりと椅子を回転させて振り向き、そこに座っていた。
「神代…ッ!」
レナは銃を向け、睨み付ける。だが未だに仕掛ける様子は無い。すると神代はゆっくり立ち上がり、レナへ近寄って行く。
「まぁまぁ…落ち着けよ。先ずは話をしようぜ?オレとお前の生い立ちの話をな……。」
レナへ銃を向けられたまま、神代は彼女を見据えている。だが警戒するに越したことはない。
「話…?私がお前と兄妹関係という事か?」
レナは呟くと首を傾げる。
そして神代は頷くとそのまま話し始めた。
「今から10年前の話だ。オレとお前が未だ教団に居た頃…、お前に会うまでオレは常に1人だった。才能が無いオレは所謂、不用品そのもの。どれだけ訓練を受けようが何をしようが棄てられるのは目に見えていた…だがある時、三城のオッサンに連れられて部屋へ向かった。そこに居たのは未だ小さかったお前そのもの。そしてその時に言われたのさ…キミと、あの子は兄妹だと。オレがお前を守ってやれってな。詳しい事は教えてくれなかったが間違いは無いと…そしてお前は後に行われた両目の手術で視力を取り戻した。だが、待っていたのは地獄だった。アランの連中はお前を使徒育成計画の一部に組み込み、有能な殺人マシーンとして育て上げた。一方のオレはお前と真逆で処分される事になった…お前の代わりなら幾らでも居る、お前より妹の方が優れている……。そう言った罵声で罵られながら、教団の手でオレは殺された筈だった。だが、生きていた…偶然にもな。そしてオレは自分の理不尽な運命を呪った…才能を持つ人間全てを憎み、そしてソイツらを全て殺す事にしたのさ!!オレには才能が無いと貶し、バカにした連中を!!」
神代は立ち上がると銃を取り出す。
そしてレナの方へ銃を向ける。形から見るとサブマシンガンなのは間違い無い。
「それが凶行へ走った理由?…一方的な逆恨みで大勢の人間の命を危険に晒し、その上で未だ何か企んでいるの!?」
レナは歯を食い縛ると神代に対する怒りを強く覚えた。そして硬直状態が続く。
「さぁ、どうだろうなぁ…? 兄妹と言えど、オレとお前は血が繋がっていない…それに、お互いルミナによって育てられたんだ…無論、殺し方も全て同じって訳だッッ!!」
神代は突如として発砲する。レナは咄嗟に近くの物陰へ飛び込むと様子を伺っていた。銃声が響き渡り、辺りに薬莢の散らばる音や硝煙の匂いが立ち込めた。
「オレはお前が憎い!!才能を持たねぇ人間が、どれだけ辛い思いをするかお前には解らねぇだろう!?才能を見出され、特別扱いされて来たお前には!!」
神代が叫んだ途端、物陰からレナが発砲する。しかし神代はそれを躱すと再び発砲、レナの背面にあった窓ガラスが砕け散った。
「そんなつもりは無い!!私は…私は教団の操り人形だった!才能を持っていてもそれを大人に利用され、正しいと思い込まされて過ごして来た!!特別扱いなんてされた覚えは私には無い!!」
レナは力の限り叫ぶ。そして飛び出すと間合いを詰めて右足で蹴りを放ち、神代へ一撃を与えた。だが直後に右足を掴まれると振り払われてしまう。そして今度は神代がレナへ蹴りを放ち、彼女の脇腹を蹴り飛ばした。
「ぐあぁ……ッッ!?」
蹴られるとレナは床へ倒れると、そこに追い討ちを掛ける様に再びサブマシンガンが火を噴く。銃声と共に床へ穴が空いていく。何とか身体を必死に転がし、それを避けると寝たままの姿勢からレナが再度発砲、だが弾は神代へは当たらずに彼のコートの端を掠めただけだった。
「そんなのはお前の思い過ごしだ!!使徒育成計画も結局は失敗した。オレが潰したからなァ!そして三城のオッサンも……オレが殺したぁあッッ!!」
空のマガジンを投げ捨て、素早く装填すると再びレナ目掛けて発砲。
レナは身体を起こし、発砲するも弾が直後に切れてしまいマガジンを交換しようとする。だがその隙を逃さず、神代はレナへ接近し彼女を左手で殴り飛ばす。銃が在らぬ方向へ飛び、レナは椅子の固められている場所へ突っ込んでしまった。
「いッッ…くぅッ……!」
銃と予備のマガジンを見失ったレナは何とか立ち上がり、神代を見据えた。頭を強く打ったらしく、頭痛がする。直後、神代はレナの足元へホルスターに入ったナイフを投げて渡してくる。
「使えよ。あの時みたいに、見せてくれよ…?あの目を!オレはもう1回見てみたいんだ!!本気のお前を殺してこそオレは生きてる甲斐が有る!!」
神代は笑っている。
俺はお前に何をされても死なないという得意気な自信も含まれているだろう。
それに、今の自分は丸腰同然。
真面に素手でやり合っても勝ち目は無い。
なら、期待に応えてやる。
今から此奴を
目の前に居る此奴を
リコリコ所属のリコリスとして
私が自らの手で
ーー殺す。
レナは足元に投げられたナイフを拾い、ホルスターから刃を抜き去ると右手に握り締め、それを横一線に振り翳す。神代はそれを避け、髪の毛がパラパラと散ると、ニヤニヤ笑っていた。
そして何度も連続して切り裂こうとするが何れも避けられてしまう。
「どうした、どうした?お前の力はそんなもんかァ!?」
神代はレナ目掛けて再び発砲する。
射線上に自分が重ならない様、レナは身を躱しながら神代へと切り掛かった。
「黙れ…黙れぇええッッ!!」
レナは一喝し、騒ぎでズレてしまった椅子の1つを踏み台にして飛び上がると首元へ鋭い回し蹴りを放つ。だがそれも虚しく防がれてしまう。
「へへ、惜しかったなァ!!」
神代はレナの足を掴むと会議室の外へ投げ飛ばす。廊下側の窓ガラスへ直撃するとガシャンという大きな音を立ててガラスと共にレナは倒れ込んだ。
「……オレの才能は元から有った訳じゃねぇ。自分で勝ち取ったのさ。天性で持ってるお前には凡人の気持ちなんざ解らねぇだろうけどなァァ!!」
神代はドアを蹴破り、近寄るとレナの方を見つめる。レナはガラスにぶつかった事によって額も併せて切った様で血が垂れていた。黒いタイツは数箇所裂けており、そこから見えている肌は切り傷だらけ。
「くッ…あッ……はぁ、はぁ…ッッ……!」
レナは身体を何とか起こそうとするも、背中を強く打ったせいか息が真面に出来ない。
「ほら、立てよ…もっと遊ぼうぜ?玲奈ァ…?」
神代はレナへ近寄ると銃口を向ける。
その顔は狂気に満ちていた。
赤い目は爛々と輝き、こちらを見下ろしている。自分で殺した獲物を喰らおうとする獣と同じ様に歯を剥き出しにして。
「ッ……!!」
レナは辛うじて意識を保っていた。
そしてガラスを踏み締めながら立ち上がり、パラパラと音と共にガラス片が零れ落ちる。額の左側を切ったせいで血がつうっとレナの顔をへ伝い落ち、それがまるで涙の様にも見えた。
蹴られた事で脇腹も痛む上、両足も擦り傷や切り傷が多い。それでも戦わねばならない。
ーこれ以上、此奴の好きにさせてはいけない。ー
それだけがレナを立たせている理由だった。そして神代の方を見据える
立ち上がる時に拾ったナイフを彼へと向けたまま。
「クク……その目だ、その目が見たかった!!」
神代は笑いながらレナを見ている。
あの時、映像を通して何度も見た彼女の目。それは殺意に満ちた目付きそのものだった。数多もの人間を消してきた、歳頃の少女には似合わない殺意の込められた眼差し。それが神代の望むモノだった 。
「……次で終わらせてやる。お前の最後だ。」
「私もそう思っていた所。お前を消して全て終わらせる……この馬鹿げた事件を私の手でッ!!」
2人はその場で睨み合いを続けている。
こんな形で出会って無ければ、銃器や刃物を握らされる様な環境で育って無ければ、こうはなら無かったかもしれない。
血の繋がりは定かでは無いが、兄と妹の2人が殺し合う。例えそれが残酷な結末になろうとも誰にも止める事は出来ない。