リコリス・リコイル/their other story 作:秋乃楓
2人は互いに睨み合っていた。
片方はナイフ、片方は銃をそれぞれお互いに向けながら。2人は親は違えども兄妹だった。
兄は引き取られた先の施設で用済みだの、役立たずだの、酷い言葉を浴びせられては死に物狂いで努力を重ねて生きてきた。全ては自分を認めず、自らを貶した連中へ復讐する為。歪んだ世界を自らの手で壊す為。
妹は兄と違った。才能を見出され、その才能を生かすために病を治され、大人達によって殺戮を繰り返すだけの存在として育てられた。そして別の施設へ移送され、今度は世の中の為にという最もな理由を付けられて殺しの才能をより磨かれた。人らしい感情を全て押し殺して。
ーそして2人は出会ってしまった。片方は犯人、もう片方は捕らえる者としてー
「お前を映像で見た時、まさかとは思った。目の色が変わっていた事は知らなかったが、まさか生きてたとはなァ?お前は当に用済みとして消されたと思っていたが…まさか、こんな偶然が有るとは思わなかったぜ……!」
「私も驚いている。お前という存在が私の兄だった事…、同じ場所で育った事も……!」
未だ、互いに睨み合う状態が続いていた。
そしてガシャンという音と共に枠に残っていた少量のガラス片が落ちると、それを皮切りに2人は動き出した。
神代がサブマシンガンを発砲すると、レナは射線から身体を避け、ナイフを振り翳す。それを銃器本体で受け止め、再びギリギリと互いに睨み合う。油断すれば刺されるし、撃たれるだろう。
ナイフを力任せに振り払い、神代はレナの突き出したナイフを避ける。レナは神代の右腕を左脇へ抑え込み、発砲を阻止する。
「お前はオレには勝てねぇ…そろそろ理解したらどうだァ?あぁんッ!!?」
「…生憎、私は諦めが悪い!!お前を地面に跪かせるまで抗ってやるッッ!!」
2人が距離を取った途端に神代の背面から銃声が響き渡り、神代の間を弾がすり抜けた。弾は壁に当たると赤い硝煙が上がる。
「ちッ……邪魔しやがって!」
神代は会議室へ飛び込むと後方の様子を確認し始める。レナも後方の入口から会議室へ戻ると転がっていた自分の銃を拾い、弾を装填し直すとしゃがみ込む。
「レナぁ!何処に居るのぉ!?居るなら返事して!!」
廊下から千束の声がする。どうやら助けに来てくれたらしい。レナは神代に悟られぬ様に片手を廊下へ突き出し、懐中電灯をチカチカと点滅させた。ナイフは足元に置いている。
「…レナ、そこに居るの!?」
千束は懐中電灯の光を見つけるとレナの方へ歩こうとする。だがたきなに止められていた。
「千束!罠かもしれませんッ!此処へ来るまでにもトラップが沢山有ったじゃないですか!!向こうは用意周到、下手に手を出せば此方が危険です!」
たきなは千束を止めるとその場に立ち止まった。事実、廊下には何ヶ所かトラップが仕掛けられていた。何れも爆発物系の物や、引っ掛かると相手に向けて刃物が飛んで来る物も有った程。
「くっそー…どうすれば…!」
千束は、たきなと共にその場へ立ち止まる事しか出来なかった。助けたい相手は直ぐ近くに居るのに、何も出来ない。
ただ見守る事しか出来なかった。
「お仲間が来てくれたらしいな…何だったら助けを呼んだらどうだァ?勝てません、助けて下さーい!ってなァ!」
ゲラゲラとバカにした様子でレナを挑発する。神代は廊下に張り巡らせたトラップで彼女の仲間達を吹き飛ばす算段だったらしい。だが、レナはトラップを仕掛けたり、逆に解除するという事も教えられていた為か彼女には通じなかった。
「……誰が。お前こそ呼んだらどうだ?仮に呼んだとしても私が相手になってやる。」
レナは呟くと懐中電灯を消し、床に落とした。頭を出せば狙い撃ちにされるのは間違い無い。恐らく次の動きで全てが決まるだろう。
「ぶっ殺してやる…今度こそ確実に……ッ! 」
先に動いたのは神代。空になったマガジンを投げつけ、弾を素早く装填し発砲して来る。銃撃音と共に弾が幾つも放たれた。そしてレナも立ち上がり数発程、発砲した。直後、神代がその場にふらついて倒れる。彼女の撃った弾が両肩や左足へ着弾したらしい
「はぁ…はぁ…ッ……!」
レナも呼吸を荒くしながらその場に再び座り込んだ。それは一か八かの賭けだった。マガジンを投げ付けて来た時、それを合図にしリロードするタイミングと共に撃った。下手をすれば間違い無く死んでいただろう
「終わった…これで……!」
レナは椅子と机を押し退け、神代へ近寄るとカバンから拘束銃を取り出し、彼へ向ける。そして数発、発砲すると彼を縛り上げた。
「…ふぅ。」
レナは安堵すると廊下へ出て歩く。自分が来た通路を進みながら戻ると途中で千束達と合流した
「良かったぁ、生きてる…!けどボロボロじゃん、大丈夫?あー…また足やら手やら沢山切ってるなぁ……。」
痕が残るだの何だの心配している千束を横に、たきなの方を見ると彼女も安堵したのか小さく頷き、微笑んだ。そして百合達の元へ戻ったは良いが、百合から説教を少し受けた後に先程は開かなかったが、無理にこじ開けた痕跡の有るドアから7人は出て歩き、エレベーターへ向かう。沙華は椿とカスミに肩を貸してもらいながらという状態だった。
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「こちらチームアルファ…神代を確保。最上階の会議室にて拘束してあるとの事。繰り返します、神代を確保しました!」
百合はインカムで話しを続けていた。
そしてエレベーターが到着するとそれに乗り込み、1階を目指す。
「…なぁレナ、結局分かり合えたの?アイツとさ。」
エレベーターへ乗り込むと千束はボソッと呟いた。そしてエレベーターは下へと移動し始める。
「いえ…ダメでした。私という存在が神代にとって恨みや妬む対象でしか無かった…恐らく、もう形だけでしか…。」
レナは俯いていた。その声は何処か寂しげな感じでは有ったが、仕方の無い事なのだと自分に言い聞かせながら。
「そっか…でもまぁ、大丈夫だよ。レナには私達が付いてるから、絶対に1人にはさせない。」
千束は微笑むとレナを自分の方へ引き寄せた。少しの間だがこうして居た方が彼女も落ち着くと思ったのだ。
「それに、私も居ます。だから貴女は絶対に一人じゃない…此処に居る全員が貴女の事を気にしてくれる。だから、気を落とさなくても大丈夫です。」
たきなもボソッと呟くとレナの片手を握り締めた。あまりこういうセリフは言わないのだが、千束と永らく居ると自然にこういう事を言うようになった気がする。
「…はい、ありがとうございます。私は……。」
レナが何か言いかけた時、エレベーターが止まってしまう。そしてドアが勝手に開いた。
「え…どうして……ッ?」
百合はモニターに表示されている階数を見つめる。30階と記載されており、パネルを見る限りその階は第1展望室と書かれている。つまり、40階は第2展望室という事。30階は延空木とほぼ変わらない高さという事で有名だった。
「何だよー、また故障かぁ!?ほんっとにもー…確か、ここ建てたばっかでしょうに……!」
千束がボヤきながら外へ行こうとした時、レナは千束の袖を掴み制止させる。
そしてカツン、カツンという音を聞いたレナはエレベーターの中から飛び出すと付近に有った非常ボタンを押し、無理矢理閉じさせた。それは誰かが故意に止めたとしか思えない程、巧妙だった。
「…1階には行かないで、成る可く最寄りの階でエレベーターから降りて階段を使って下さい!!その後は…お願いします!」
そしてエレベーターはレナを残して下の階へ降りて行った。ドンドンと千束がドアを叩いているのを振り向かずに聞いていた。
「気付いたか?オレが来る事に。」
そして叩く音が遠ざかるとやがて止まった。男の声が近くで響いたと思えば、男は階段の近くで付近で立ち止まる。そこに居たのは自分が捕らえた筈の相手。
「神代…ッッ!!」
レナは神代を睨み付ける。
だが先程、間違い無く肩を撃ち抜いて無力化した筈。それなのに何故此処に居るのか?確かにワイヤーで拘束した筈なのだが。
「何で動けるのか…そういう顔をしているなァ?しっかしまぁ、三城のオッサンには感謝してるぜ…こんなスゲー奴を持ってるとは思わなかったからな……。」
神代はニヤニヤ笑いながら被弾した肩を見せる。黒いインナーを着ている様で、そこには少し焦げた痕が残っていただけだった。
「まさか防弾ジャケット!?いつの間に…!」
レナは驚いた様子で見ていた。撃ち抜いた方の足も問題無く動いている辺りを見ると上下とも着用しているとしか思えない。
「第2ラウンドを始める前に少し話をしようぜ。此処から生きて出られるのは一人だけ…オレかお前か。それしかねぇ……。ほらよ、喉乾いてんだろ?」
神代はレナへ缶に入ったジュースを投げ渡す。千束が飲んでいた物とは違うが、メーカーは同じ。ラベルにはフルーツジュースと書いてある。
「……話す事なんか無い。そう言った」
レナはジュースを持ったまま呟いた。
「知ってるよ。なぁ、いつからリコリスになった?」
ぶっきらぼうに話し掛けてくる。
先程とは違う様な雰囲気で
「移送されてから直ぐ。後から名前も変えて貰った。他の子と差別化を図る為だって言われて。」
レナは呟くと自然に話していた
ジュースの缶を指でなぞりながら。
「三城のオッサンは教えてくれなかったな・・・お前が移送されたって事以外は何も。全て上しか知らねぇの一点張りだった…なぁ、さっきのヤツらはお前の友達か?」
ボソッと呟くと手にしていた缶コーヒーを飲んだ。
「友達とか仲間とか元々興味は無かった。死んでしまえば皆、居なくなるだけ。でも気が付いたら私は馴染んでしまっていた。本部に居た、嘗ての仲間達だけじゃなくて、転属先の人達とも。だから、失うのが怖くなった。」
レナは呟く、そして缶のフタを開けると1口飲んだ。
「そうか…そりゃオレも同じだ。元は1人だったのに気が付けば仲間が出来ちまってた……だが、アイツらと仲が良ければ良い程、失った時の感情はデカい・・・。お前の仲間達によって殺されたヤツらだって居る。最も、全員死んだワケじゃねぇけど…。」
神代はコーヒーの缶のラベルを見ていた。ラベルにはReaderと書かれている。
「もしも…教団に預けられなかったら……私達はこんな事にはなら無かった?普通の兄妹として生きて居られた?」
レナは溜め込んでいた事を口にした。
ずっとずっと気になっていた事を。
「どうだろうな…親の顔をそもそも知らねぇから解らねぇ。けど、オレはお前の事を初めて見た時に思った事は有る…1つはオレは一人じゃないって事。もう1つは目が見えねぇなら、オレがお前の目になってやる……そして、いつか治せるなら目を治してやりたい。そう思った。それだけだ。」
神代は目を逸らすと先程迄の口調とは異なる言い方でレナへ言葉を投げ掛けた。
「そう、それだけでも聞けて良かった。皆、優しい人達ばっかりだ……初めて会った私を相棒って呼んで、仲良くしてくれた人。私を頼りにしている、貴女は決して一人じゃないって言ってくれた人。みんな私に手を差し伸べてくれた…ずっと、ずっと一人だったから、余計に嬉しかった……ッ。」
レナは缶を少し握り締める。そしてポロポロと涙を零すと肩を震わせていた。
「…けど、結局はこうなっちまった。お前が光ならオレは闇だ。オレは大勢の人間の命を奪い、そして危険に晒した。オレはお前の全てが憎かった。妬ましかった……。才能だけで全てが左右される位ならこんな世界、壊れちまえば良いと思った。だから決着を付ける必要が有る…何方の意見が正しいかを決める為にな。それがテロリストの宿命だからさ。」
神代は中身を飲み干すと缶を置いた。
そして懐から銃を取り出す。それは先程迄、使っていたサブマシンガンでは無い。取り出したのはSOCOM-MK23。銃身下部にLAMが付いた銃。サイレンサーは付いていない。
「さぁ…今度こそ終わりにしようぜ玲奈。いや、レナ……!」
神代は立ち上がるとレナへ銃を向ける。
「解った、もう終わりにしよう…お兄ちゃん……!」
レナも缶の中身を飲み干し、床へ置くと神代へと銃を向けた。
そして2人は互いを見ながら歩き始め、向き合うと先にレナが撃ちながら走り、間合いを詰めようとする。
だが、それを神代が避けるとそこから互いに譲らず、交戦状態へ突入した。
レナが右足による蹴りを繰り出したかと思えばそれを片手で受け流し、神代が発砲。放たれた弾をレナは咄嗟に下ろしたカバンで防ぐ。
そして今度は神代がレナをカバンごと蹴るとレナは後ろへ仰け反って倒れてしまう。そこへ追い討ちを掛け、発砲した
「いッ!?…うぅッッ……!!」
カバンを突き出すが直後に弾かれ、無防備になると今度はレナへ覆い被さり、腰から引き抜いたナイフを振り翳す。
振り翳した一撃を避け、左腕で神代の両腕を押し止める。
そして何とか抜け出したレナは距離を取るも、神代は素早く発砲し、レナの左足を撃ち抜いた。
「くぅぁッ!?くぅ…ッ……!」
血が辺りへ飛沫する。レナも辛うじて応戦するが狙いが定まらず弾は当たらない。
「これで終わりだ……お前の負けだよ。」
神代はレナへ歩み寄ると彼女の左肩を蹴飛ばし、突き倒す。だがレナは飛び掛ると自分へ向けられた銃を掴み、睨み付けるとそれを奪おうとする。
「ッ…まだだ…まだ終わりじゃない!!」
そして痛みを堪えながら立ち上がり、何とか無力化させようとし張合いを続ける。
「無駄だ!これ以上、お前に何が出来るッッ!!」
レナは引き金へ無理に自分の指を押し込ませ、そして在らぬ方向へ発砲させると放たれた弾が消火システムに辺り、水が噴き出す。更に数発引き金を無理に引かせ、窓ガラスや近くのソファへ命中すると弾を消費させていく。
「未だやれる…私は未だ……!!」
2人へ目掛けて頭上から水が降り掛かると、濡れながらもレナは抵抗を続けていた。
「いい加減に…ッッ!!」
神代はレナの右頬を殴り、彼女を無理に突き飛ばす。それでもレナは離そうとしない。追い討ちを掛け、今度は頭突きを食らわせると漸く離れた。レナは蹲るものの、ゆっくりその場へ立ち上がる。
「ふぅッ…ふぅッ……!!」
殴られた事で口の中を切ったらしく、血の味が広がる。不快感から床へ唾を吐き捨てると、その色は真っ赤だった。歳頃の女の子とは思えない程、傷付きボロボロになっている。本当は痛くて、泣きたくて、辛い。
それでも終わらない。何方かが倒れる迄は。
「実弾はもう無い…後は……コレだけ…!」
レナはカバンの下部から予備のマガジンを取り出し、装填。その弾はミカから渡されていた物。但し、有るのは今入れた1本と予備の2本を合わせた三本のみ。使い所を誤れば待つのは死だ。
「へへ、もう打つ手も尽きたか?なら終わりにしようぜ……ッッ!!」
ずぶ濡れになった前髪を神代が掻き分ける。そして右手に銃を、左手にナイフを持ったままレナへと襲い掛かった。
「お願い…当たってッッ……!!」
レナは必死の思いで発砲する。そして銃声と共に着弾すると青い硝煙が立ち上った。
「ぐぉおッッ!?まだそんな小細工が……ッ!!」
神代は苦痛で立ち止まるも、再びレナの方へ襲い掛かろうと試みる。だが、立て続けに腹部や足へ弾を撃ち込まれると膝を地面へと着いてしまう。
「クソがッ…!!こんなのにオレがやられる訳……ぐはぁあッッ!!?」
立ち上がろうとした途端、右手に被弾し銃を落としてしまう。
「今度こそ…終わり……これで終わり!!」
「終わりだとォ……?ふざけんじゃねぇッッーー!!!」
レナは、じっと神代を睨み付ける。だが向こうも執念で立ち上がると走り出し、左手のナイフを振り翳す。そして銃声が数発響き渡り、2人は密着する形になった。
「いぃッ!?あッ…ああッッ……!!?」
レナの左肩にナイフが突き刺さっていた。そこからドクドクと血が流れ、制服を汚していく。一方の神代は意識を辛うじて保っている様に見える。非殺傷弾と言えど威力は高い。それを何発も食らっても尚、意識を保っていられるのが不思議な位。そして神代はレナから離れると後退り、逃げようと試みる
「勝った…今度こそオレの…勝ちだ…ッ……!」
激痛に苛まれながらもフラフラと歩く。
漸く自分の復讐を果たせたと思えば嬉しいが。才能を持った妹を殺せたのだから喜ぶべきなのは解っている。だが今はこの場から逃げるべきだ。本能がそうしろと言っている。
「……言った筈。今度こそ絶対に終わらせるって。」
レナの声が聞こえた。あの状態では動ける訳が無い。それなのに何故…。
「ハッタリか?驚かせやがッ……ぐはぁあッ!?」
1発の銃声が響くと左肩へ激痛が走り、仰け反ってしまう。
「私は…自分という人間の…存在を…証明する為に……運命と向き合って…抗って来た…!例えそれが… リスクの有る危険な事だって解っていても…私は……私は、自分の生きる意味が…欲しいッッ!!だから……私は…生きて、生き延びて…探し続ける…! 皆と……一緒にッッーー!!」
レナは間違い無く動けない筈。それなのに彼女は立ち上がっている。
そして顔を上げた時、彼女の目は間違い無くあの時に見た目で神代を見つめていた。しかもあの時以上に殺意に満ちた目だった。
「クソッ…クソぉおおッッー!!何でだ!?このオレが…震えてる!?ふざけんなッ!!アイツは…アイツは……!!」
神代は無理に走ろうとする。だが、1発、また1発と弾を撃ち込まれてしまう。だが自分は未だ負けてはいないと言い聞かせ、レナへ掴み掛かる。
「倒れろッ…倒れろッ……倒れろぉおおッッ!!」
何発も発砲するが遂に弾切れを起こしてしまい、近付いてきた神代に首を片手で捕まれ、破損した展望室のガラス窓へ追いやられる。そこから風が吹き込み、2人の髪が靡いている。
「此奴ッ…さっさと、くたばれぇええッッ!!」
神代が大きく叫ぶと同時にレナは躓き、ガラスの窓へ背中から落下してしまう。それはレナにとって最後の賭けだった
「お前も……私と一緒に……来いッッ!!」
神代の服の袖を掴み、互いに下へ落下。
下手をすれば地面に激突して互いに死ぬ事になる。だが展望室の真下に有るプールへ落下。例えるならマンション二階分の高さになる。落下した先はプール付きのバーだった様で、プール自体も人が数人程入っても大丈夫な広さだった。
「げほッ、げほッ…ぷはぁッ!?やった……の?」
レナは、ずぶ濡れで咳き込むと何とかプールサイドに上がる。水を滴らせながら振り向くと、握っていた銃のマガジンを捨てた。
振り向くと後ろに神代の姿は無かった。確かにあの時、袖を掴んで共に落とした筈だったのだが。しかし、もうこれ以上身体は動かせない。様子を確認する事も出来ない。身体に力が入らない。意識がぼうっとする。そしてそのままパタリと倒れ、レナはその場で意識を失ってしまった。まるで疲れた子供が眠る様に。
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数時間後。事件そのものは解決した。
だがこの事件で多くのサードリコリスが死亡したのは明確だった。その中には市民も含まれていた。
それでもこの事実は報道される事は無く
DA、及びそれに関わる組織等の間で隠蔽される事になった。
特に今回の事件はルミナ教団とDA上層部の人間が一部関与していた事も内部で問題となった。
教団出身の幼い子供をDAへ輸送し、戦闘技術を更に向上させ秘密裏に偽装した書類の元、教団へ再度送り直す。この書類が有ればその子は肩書き上リコリスとなるのだ。後はマーダーライセンスを与えれば済むという構図になる。
こうした問題も組織内部のみで明るみにされ、関与した人間の殆どが権限により解雇される事になった。
そして問題がもう1つ。
それは今回のテロの首謀者、神代がリコリコ所属のリコリス、浅水レナ(16)と書類上、兄妹関係にあった事。彼女の処分に関する問題が浮き彫りにされた。
テロリストの関係者をリコリスとして認めて良いのか、ライセンスを剥奪すべきでは無いのかと会議では揉めに揉めたらしい。
彼女もまたDA上層部、教団、アラン機関が関与し生まれた存在である事が何よりも問題視されていた。
審議の結果は1ヶ月後。それ迄はリコリスとしての活動を一切禁ずるという判断の元に会議は終息へ向かった。
一部の人間は皮肉を込めてレナの事を悪魔の子だとか、吉松の忘れ形見だのと散々罵って呼んでいたらしい。
こうして神に代わり国を裁こうとした者の起こした事件は教団の上層部や一般市民、DAらを震撼させる形で幕を閉じた。首謀者である神代の行方を掴めぬまま……。