リコリス・リコイル/their other story   作:秋乃楓

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ー事件から約1ヶ月後。ー

 

いつもと変わらない朝がやってきた。

窓の外では小鳥がさえずり、木々の葉は風に靡いている。今日も慌ただしくスーツ姿の人達が駅や街中を行き交い、学生達が友達と話しながら歩いたり、自転車が通ったり、車が道路を行き交ったりと何も変わらない一日が始まった。

外は快晴、この日は雲一つない澄んだ青空だった。

 

「ん…ッ…んん……?」

黒い髪の少女はベットの上でゆっくりと瞼を開く。薄らと、そして鮮明に辺りの景色が解る様になる。桃色のカーテンで仕切られた一角は彼女が横たわるベットがあり、右には薄型テレビの置かれた台。そして目の前には折り畳まれた白いテーブル。

彼女は水色の病衣を服の代わりに纏っている。

頭や左肩には包帯を、左足にも同じ様に包帯を巻いていた。左右の足の所々にも手当された箇所が幾つか。

眠そうにウトウトしているとカーテンがゆっくり開かれる。

 

「おっ、やぁっと起きたか?ずっと寝たままだと思って心配してたんだぞ?一応退院出来るけど当分は車椅子生活だって。全く、無茶しちゃってさぁ…。」

 

赤い制服を着た子が彼女へ話し掛けてくる。彼女の名前は錦木千束。この子のアルバイト先の先輩に当たる。

性格は何処かおちゃらけている他、マイペースでいつも笑っている。座右の銘は自分のやりたいこと最・優・先!らしい。

 

「着替えさせてあげるから、ちょっと待っててよ…。」

 

千束は彼女の病衣を脱がせると私服を着せていく。下着姿の彼女の身体には包帯やガーゼが巻かれていた。例の事件で彼女の身体は大きく傷付いてしまったのだ。そして千束は器用に服を着せていく。

 

「……すいません、ありがとうございます。」

 

ボソッと少女は呟いた。そして用意していた服へ着替え終わると今度は髪を整え始める。

 

「良いよ、平気平気!さぁーて、退院時の髪型何にする?ツインテ?ポニテ?それともぉ…三つ編み?」

 

ニコニコしながら千束は少女の髪の毛を櫛で梳かしていく。

 

「お任せします…。」

 

少女は呟いた。そして千束は手を止め、ゴムを取り出すと髪を結んでいく。

 

「じゃあツインテにしよう!あまり見た事無かったからなー♪ レナのツインテール!」

 

そう、レナは生きていた。とは言え重傷で運び込まれ、生死の境をさ迷っていた。刺傷や銃創の他にアザや打撲、肋骨のヒビの他に擦過傷が幾つも有った。

幸い脳には異常は見られなかったが、後一歩遅ければ間違い無く死んでいたとの事だった。

 

「うっし、出来た!どう?自信作なんだけど!」

 

鏡をカバンから取り出すと彼女の顔の前へ広げる。レナの長い髪は綺麗にツインテールで結ばれていた。結び目には青いリボンが付けられている。

 

「可愛い…。」

 

レナはボソッと呟いた。まじまじと鏡を見ている。

 

「じゃあ、そろそろ行こっか?ほれ!乗って、乗って!」

 

千束はレナから離れ、車椅子を持って来ると彼女の手を引きながらそこへ座らせる。そして忘れ物の有無を確認し、千束はカバンをレナの膝に置くとそのまま病室を後にした。

 

「うちの連れがお世話になりましたー!また何か有れば宜しくお願いしますね!」

 

千束は受付の人に対して、にこやかに挨拶すると車椅子を押しながら病院の外へと向かう。カラカラと車椅子に揺られながらレナは外の景色を見ていた。

 

「…良く頑張ったよ。私とたきな抜きで彼処までさ…。でもまぁ上からのお達しでリコリスのライセンスは今月一杯は使えないけどね。その間にリハビリとかして備えとこうか?いつでも付き合うぜぃ?」

 

ニコニコしながら車椅子を押し、千束は歩いて行く。レナのライセンス停止の知らせはついこの前、店に電話で来たばかり。それは突然の事だった。

 

「そうですね…腕が鈍ったりするのは良くないですし、早く歩ける様にならないと……。」

 

レナも同じ事を考えていた。

ライセンス停止という事もあり、どうしても期間が空いてしまう。復帰は恐らく来月になるとの事だがそれに間に合わせる必要が有った。

 

「たきなも待ってる。自分にも出来る事が有れば言って欲しいってさ!だから安心して良いよ、面倒も私が見てあげるし!私が忙しい時は、たきなも手伝ってくれるって。」

 

レナの乗った車椅子を押しながら路地を歩いて行く。そして暫く歩くと見慣れた店へと辿り着いた。

 

「ほい、着いた!1名様ごあんなーい!」

 

店のドアを開けると早速、迎え入れられる。常連客から「お帰りなさい」とか「久しぶり」とか色々声を掛けられた。

少しの間だが店内で話し続ける事になった。その後は邪魔にならない様、閉店まで奥の部屋でクルミと共に座布団に座りながらゲームをしていた。

 

「いやぁー!レナ強くなったな…前よりスコア超えてるぞ?千束もたきなも超えられるかもなぁ…。」

 

クルミはニヤニヤ笑っている

何より帰って来たのが嬉しかった様だ。

すると、たきなが部屋へ入って来た。

 

「レナ、リハビリの計画を立てましょう?計画的に進めれば間に合う筈ですから!」

 

ニコニコしながら紙とペンを持って来る。そして2人で話し合いながらリハビリの計画を立てていった。

 

「れぇええなぁ!!聞いてくれよぉおおう…!」

 

たきなが去ってから来たのはミズキ。

どう見ても酒に寄っている。何でも出合い系で知り合ったイケメンな男にフラれたとか何とか。沢山、愚痴を聞かされるとレナは何とか宥めていた。

何方が大人なのかは傍から見ると瞭然なのだが。

 

レナは何気無い会話やこうしたやり取りは嫌いでは無かった。本部に居た頃は作戦前のブリーフィング位は何度もやった。だが、「今日の天気は晴れだから出掛けられる」とか「お昼ご飯は何にする?」とか「一緒に遊ぼう」とか、そういった些細な会話はした事が無かった。寧ろ少なかったと言える。ここ最近、漸くその様なやり取りもする様になった。

 

「おおーい、そろそろ帰っぞー?」

 

戸を開けると千束が入って来る。

そしてレナは千束に抱き抱えられ、部屋から出ると車椅子に載せられる。

 

「…自分の足で歩ける距離でもこうしないとダメなんて…早く歩ける様にならないと。」

 

レナは再び車椅子に座ると本音を漏らす。そして車椅子を押されながら店の外へと出た。そしてたきなと別れると千束と共に歩いていく。

 

「まぁ、気難しく考えなくて良いと思うよ?お医者さんもリハビリすれば歩ける様になるって言ってたし?」

 

ニコニコしながら千束は話し掛けた

とは言え、リハビリを終えても完全に復活するには多少時間は掛かってしまうとも添えた。

 

「はい。あの、千束さん。私…守れたんですよね?当たり前の日常を…誰かの明日を……。」

 

気になっていた事を呟いた。

あの日から自分の中で引っ掛かっていた事を。このケガはテロリストの兄の凶行を自分の手で阻止した際に出来た傷そのもの。本来なら歳頃の女の子が負う様なケガでは無い。

 

「うん、ちゃんと守れたと思うよ?レナは勝った。自分の生まれた意味とか価値とか…後は色々?だから誇っても良い。他の人が何て言おうと私は、私達は絶対に賛同する。でもまぁ…無茶し過ぎなのは良くないと思うけどね?」

 

千束は立ち止まるとそう話した。

血の繋がらない兄、妹の対峙。

 

千束には姉も居なければ兄も弟も妹も居ない。だからレナの事を理解するのに時間は掛かってしまった。それでも彼女は最後まで向き合った。仲間と共に。

 

「そうですか…良かった。やっと私も誰かの役に立つ事が出来ました…。兄は私の事をずっと妬んでいた。才能という言葉に振り回されて…悩んで、苦しんで。でも、私は気付けなかった…。私のせいで誰かが苦しんでいる事に……。」

 

レナは自分の拳を強く握り締める。

才能を買われてリコリスになった自分

才能という言葉に振り回され、犯罪へ走ってしまった兄。

兄の心を救えなかったのが心残りだった。

 

「…今は考えなくて良い。思い詰めて、苦しくなったって良い事なんて無いよ?それに…才能をどう使うかはその人次第。幸せにするか、それとも不幸にするか。自分だけ幸せなら良いのか、それとも自分も皆も幸せにしたいのか。それはレナ自身が決める事。それだけは私に決められない…貴女自身がこれから探して見つけるしか無いよ。」

 

再び歩き出すとセーフハウスへ辿り着く。ちょっと苦労したがレナと共に普段の部屋に入り、一通り過ごした後に一日を終えた。

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翌日からレナのリハビリが病院で始まった。1日、また1日と少しずつ歩く距離を少しずつ増やしたりしながら。

 

「少しずつですが、慣らして行きましょうか。転びそうになったら、私の腕に掴まって貰って大丈夫ですから。」

 

病院以外では、たきなに付き添って貰いながら近所の公園でも練習を積む。

そして約3週間程で歩ける様になった

 

「いひひ、身体もちゃぁーんと動かしてないと鈍っちゃうからねぇ?鍛えておかないとさ!」

 

歩ける様になった後は千束と共に店の地下で射撃訓練に励む。最初は殆ど当たらなかったが、此方は直ぐに当てられる様になっていった。水に使ってしまったレナの愛銃は部品の総取り換えにより、発砲出来るまでには直っていた。これも見えないサポートによる賜物であった。

 

ー1週間後ー

レナは未だ完全とは言えないが歩いたり走ったりは勿論、射撃の腕も殆ど元に戻った。そして千束と共にDAの本部へ電車で向かっていた。楠木から呼び出しが有った為、こうして電車に乗っている。

 

「ねぇねぇ、お弁当食べる?さっき買ってきたんだけどさー?美味ひいぞー?」

 

千束はレナの前で「頂きます!」と一声出してから駅弁を食べ始める。

片やレナは書類を確認していた

 

「食べながら話さないで下さいよ…それに、私は大丈夫ですから。」

 

チラッと千束の方を見ると美味しそうにモグモグと口を動かしながら弁当を食べている。レナはライセンスに関する書類を眺めていた。

 

「ふぃいー、ご馳走様でした!いやぁー、電車の中で食べるお弁当は美味しいなぁー!レナもそう気難しくすんなって、ほれ!飴ちゃんあげる!」

 

お茶を飲むと一息ついた。千束は悪魔で付き添い、旅行気分なのは仕方ない事だ。

 

「ありがとうございます。いつもこんな感じなのですか?たきなさんとも。」

 

飴を受け取るとポケットへしまう。

何気なく問い掛けるとレナはカバンからお茶の入ったペットボトルを取り出し、首を傾げる。

 

「んんー?そうだねぇ、こんな感じだったかなぁ…もうちっと色々話したりしてたかもなー?」

 

うーんと悩むと千束は考えている様子だった。

 

「あ、そろそろ着きますよ。降りないと…。」

 

千束が悩んでるのを他所にレナはお茶を少し飲んでからペットボトルをカバンへしまうと、本部の有る場所の駅で電車を降りた。そして2人は駅から改札を抜け、送迎用の車でDA本部へ向かったのだった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

2人は本部に着くと駐車場から歩いて建物の中へ。慣れた足取りで階段を上がり、通路を進むと執務室へ辿り着く。

ドアを数回ノックすると中から「入れ」と返答が来る。そして2人は中へ入った

 

「錦木千束、浅水レナ。現着しましたっと!」

 

2人は執務室へ入ると頭を下げた。

目の前には机越しに椅子へ腰掛けた楠木が居る。そしてゆっくり立ち上がると2人を見据えていた。

 

「ご苦労だったな…早速だが、本題に入る。そこの椅子へ座れ。」

 

2人は指示された通り、ソファへ腰掛ける。そして楠木もテーブルを挟んだ向かいのソファへと座った。

 

「……それで、何ですか?レナのライセンスの話だと思ってたんですけど?」

 

千束から話を切り出す。そして楠木は秘書の女性から書類を受け取るとテーブルへ置いた。

 

「先ずは…ライセンスに関する内容、及び詳細は此処に書いてあるから読んでおく事だ。浅水…本日からリコリスとしての活動を許可する。」

 

表情1つ変えずに淡々と話し続ける。

今日からレナはリコリスとしての活動再開が可能となった。だが何か気掛かりだった。

 

「そしてもう1つ。今回の事件の黒幕である神代とお前は血の繋がらない兄妹関係に有るそうだな?何故今まで黙っていた?」

 

じっと楠木はレナの方を見ている。その目は何かを見通している様にも思えた。

 

「その事は私にも解りませんでした。神代本人が交渉作戦の時に初めて口にしたので、まさかとは思っていましたが……報告が遅れて申し訳ございませんでした。」

 

レナは少し間を開けるも、事情を説明してから頭を下げた。

 

「楠木さんも、お固いですよねぇ?今更ほじくり出すなんて…それに、この子の移送の話はルミナ教団の過激派とDAの上層部……さらにアラン機関も関与してたって話じゃないですか?レナを責めても何も出ないと思いますけどぉ?」

 

千束が横から口を挟んだ。

若干、嫌味っぽい感じで喋る。

 

「…千束、お前には聞いていない。余計な口を挟むな。」

 

ジロっと千束の方を見つめると千束は嫌そうな顔で目を逸らした。

 

「ルミナ教団とDAの上層部は孤児を引き取って戦闘員としての育成を共同して行っていた事は我々も知らなかった。無論、お前がその1人だという事も私の耳には入って来ていない…恐らく上が隠蔽していたのは間違い無く事実だろう。老人達は都合の悪い事はどんな事だろうと捻じ曲げて隠そうとするからな・・・皮肉な事にそれで組織の秩序が保たれるのだからまた何とも言い難い。」

 

楠木は今回の事、そしてレナの過去の事を自分なりに分析し2人に伝えた。

 

「そして…今回の件は世間一般へ流すべきでは無いと判断した。真島の時と同様、公表はしない。神代もまた行方を晦ましている。ラジアータや我々の監視網を突破してな。」

 

結局、今回の事件の事は全て世間には公表されない事になった。粗を拾えばDAにも非が有る事や責任問題の追求にもなりかねないと判断したからだ。

 

「だってさ。真島の時と同じ、つまりレナのお兄さんも逃げてるって事。生きてればまた会えるかもね。」

 

千束はニコニコと笑っていた。

だが、楠木の話はそれだけでは終わらない様子だった

 

「…浅水、お前だけ未だ話が有る。千束は席を外せ」

 

楠木は千束を見ると部屋から出る様に伝える。だが千束は納得していない様子だった

 

「ええー!?私を抜きにして内緒話!?ちょっと、ちょっと、それは無いんじゃないですか!?楠木さぁーん?聞いてますぅー?」

 

千束は不服そうな顔をするも、さっさと出て行けという視線を送られてしまう。

 

「…はいはい、邪魔者は出て行きますよぅ!」

 

千束は察するとその場で立ち上がり、歩いて出口まで向かうとそのまま部屋を後にした。そしてレナと楠木、秘書の女性だけがその場に残される形になる。

 

「お前を呼び出した本当の理由を未だ話してなかったな…ライセンスの停止は教団とDA側の相応の判断として行ったまでの事。お前達は色々知り過ぎた。知らなくていい部分も含めて。これからは教団の人間がお前達を消しに来るかもしれない……。」

 

じっと楠木はレナを見つめる。

確かに彼女と彼女の仲間達は知り過ぎた。レナの悲惨な過去も含めて何もかも。

 

「つまり、私は組織の危険分子。そういう事ですか?」

 

レナは徐に口を開く。教団から見ればレナは消したい程に厄介な存在なのは変わりは無い。そして下手に手を出せば余計な揉め事を増やし兼ねない。だからこそDA本部は彼女のライセンスを一時的に止めたのだ。

 

「ああ、簡潔的に言えばそういう事だ。そしてもう1つ。浅水レナ、お前にはDA本部への転属を命ずる…。詳細は追って連絡する、以上だ。帰っていいぞ。」

 

淡々と話すと楠木は立ち上がり、自分の机の方へ戻って行く。だがレナも咄嗟に立ち上がると楠木の方へ叫んだ。

 

「え…?ちょっと待って下さい、どういう事ですか!?いきなり本部に転属しろだなんて…私は納得出来ませんッ!!」

 

納得出来ないのも無理は無い

いきなり転属と言われれば誰だってそうなる。特にレナの場合は2度目の転属指令だった。

 

「納得する、しないの問題では無い…これは命令だ。異議、反論は認めない。」

 

楠木は振り向かずに呟く。その様子をレナは拳を強く握り締めながら見ていた。

これ以上、この人と話しても埒は開かない。何をどうしても結果は変わらないだろう。

 

「転属理由を…お聞かせ願えますか?」

 

レナは呟く。横に居た女性がこれ以上の質問は止せと止めに入る。だが、彼女の問いかけに対して楠木は答えた。

 

「…組織の安全の為だ。それ以外に何が有る?それに、これはお前の為でもある。もう充分だ、話は終わりにしよう。私も予定が詰まっているのでな。」

 

楠木がそう言うと秘書の女性はレナの手を引き、執務室から出る様に促す。そしてレナは部屋を去った。

 

「おっ、戻ってきたなぁ!ねぇ、楠木さんと何の話してたの?」

 

千束が手をブンブン振りながら此方を見ている。レナが近寄ると共に出口へ歩き出す。

 

「事件の事とリコリスの活動に関する話です…。後は何気ない世間話ですよ。」

 

レナは少し間を開けるも、微笑みながら千束と会話を続ける。自分が転属になった事は店へ戻るの帰路の間、そして店へ戻ってからも自分からは言い出せなかった。賑やかな雰囲気を見れば見るほど余計に別れが惜しくなってしまう。

それはリコリスの仕事でもそうだった。

 

「うっし、じゃあレナの復帰だから気を引き締めて行こう!」

 

「はい。取引の場所はこの建物の中です…千束は正面、私とレナは左右からカバーします……ちょっと、レナ?…話聞いてます?」

 

ぼーっとレナは外を見ていた。そして我に返るとたきなの方を向き直る。

 

「あ、ごめんなさい…聞いてますよ? 」

 

レナは謝ると、たきなが少し不思議そうな顔をする。そして突入するタイミングを見計らってからドアを蹴破り、中へ突入する。

 

「うぉっ!?何だ!?」

 

物音に対して近くに居た男が動揺する。そして周りの連中もそれに気付くとナイフやバットを構える。人数は、ざっと5人。

 

「人質返してもらおっかなー?居るんでしょ?この部屋の奥にさぁ?」

 

千束はニコニコしながらフロアの真ん中の男を見つめる。そして辺りを見回している。

 

「ガキの癖に…偉そうにしやがって!やっちまえ!!」

 

1人がバットを千束へ振り翳すと千束はそれを避け、いつの間にか抜いた銃で男の腹部へ目掛けて数発程、発砲。

男は苦悶の顔をしながら床へ倒れる。

 

「な!?銃は卑怯だろぉ!?」

 

1人が声を上げた。だが後から入ったレナとたきなも銃を向けている。レナが右側を、たきなが左側という形で千束を中心に固まる。銃声を聞いたのか、更に人数が増えていく。5人から12人へ、1人倒れているので合わせて数は11人。

 

「おっほぉー、何処に居たんだよ…こんなに沢山……。」

 

千束は辺りを見回す。バットやらナイフ、チェーンにメリケンサック…凶器のオンパレードだった。

男達の顔はニヤニヤと下衆な笑みを含めて笑っている。

 

「へっへっへっ……ヒーローごっこなんざするからこういう目に遭うんだよ!!身体に教え込んでやれ!!」

 

リーダー格の男が叫ぶと3人へ男達が襲い掛かって来る。

 

「いーい?命大事にだからね!!やり過ぎないでよ?」

 

千束が確認すると2人は頷き、戦闘態勢へ突入する。辺りには銃声と男達の怒号が飛び交う。

 

「そこッ!!」

 

たきなが発砲し、男らの急所を外す形で撃ち抜いていく。その狙いは的確であり外すこと無く次々と発砲する。

 

「てめぇッ…ぐはぁッ!!?」

 

たきなをバットで殴ろうとした途端に男が横へ吹き飛ぶ。強烈な飛び蹴りが炸裂したらしい。

 

「バットやらナイフやら……振り回す方が余程、危ないと思いますけどね? 」

 

レナは男を見下ろすと拘束銃で縛り上げる。そして別の男がレナへ襲い掛かると、レナはそれを避けて肩を撃ち抜いた。

 

「いってぇええ!!?」

 

男の悲鳴が響き渡るとその場に倒れて悶えて苦しんでいた。そして戦闘が続き、11人居た仲間の数は既に約1名、リーダー格の男を抜かすと全滅していた。

 

「さぁて、残るはお兄さんだけですが・・・どーしますか?」

 

千束はニコニコしながら男を見つめる。

そして後の2人も千束の左右から銃を向け、様子を伺っていた。

 

「クソッ!!おい…動くと此奴を此処で殺すぞ!?あァ!?」

 

奥から人質にしていた女性を引き摺り出すと3人の前へ連れ出す。そして彼女の喉元へナイフの刃を突き付け、脅しを掛けた。女性は千束達より歳上なのは解るが。

 

「出た出た…ドラマとか映画のワンシーンでよく見るパティーン……。」

 

千束は状況を見つつ、何とかしようと考えている。もし下手に刺激すれば女性は殺され、これ迄の事が全て水の泡になってしまうからだ。

 

「どうした?手も足も出ないか…ええ?」

 

男は勝ち誇った顔で3人を見ている。

千束は目でレナへ合図を送ると前出る。

 

「お?何だ?諦める気か?そうだ、大人しく降参しろ!!」

 

レナは銃を床へ捨てると、それを足で蹴飛ばした。

 

「人質を離して…さもないと……!」

 

レナは呟く。だが男は応じる気が無さそうだった。

 

「さもないと?何だ、どうする気だ…ぁあッ!?」

 

レナはいつの間にか地面に伏せていた。

そして千束の放った弾がナイフを握っていた男の手首へ命中し、ナイフを落としてまう。すかさずレナは女性の元へ駆け寄ると女性と共に男から離れた。

 

「こんの……アマぁッ!!?」

 

男が叫ぼうとした途端に再び撃たれ、男は地面へと倒れた。

 

「これで一件落着っと。人質のおねーさんは大丈夫?」

 

レナの方へ声を掛ける。レナからは大丈夫だと返答が返って来た。

そして3人は人質を助けてから建物を後にし、無事に終わった事を千束が連絡する。こうしてレナの復帰直後の仕事は幕を閉じた。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

任務終了後、3人は歩きながら帰路へ着く。その最中にレナは1人立ち止まった。

 

「あはは、でさぁー…ん?どした、レナ…何か忘れ物でもした?」

 

笑いながら話していた千束はレナの方を振り向く。それに釣られてたきなも振り向いた。

 

「何か変ですよ?本部から戻って来てから、落ち着きが無いというか…さっきも上の空でしたし……司令に何か言われました?」

 

たきなもずっと彼女の事を気にかけていた。そしてレナの方を見ながら首を傾げている。

 

「解ったぁ!たーぶーんー、お腹空いてるとか?そうでしょ?」

 

 

「千束じゃ無いんですからそれは有り得ないのでは?…話してみて下さい、私も気になります。足が痛むとか、具合が悪いとか……ですか?」

 

2人はレナの方を見たまま。そしてレナは口を開いた。

 

「いえ。実は、本部へ転属になりました 。近い内に向こうへ戻ります。司令からの指示なので、私にはどうする事も出来ません。ですからお2人には、皆さんには心から感謝しています。今までお世話になりました……。」

 

レナは頭を下げた。本部への転属を2人や皆に言うか否か、それだけがずっと引っ掛かっていた。あの時みたいに何も言わずに別れを告げるよりはマシだと思ったのだ。

 

「転属!?そんな唐突な話が…。」

 

たきなもそれを聞いて固まってしまう。

レナと知り合ったのが、ついこの間の様に感じられる。しかし紛れも無く事実なのはたきなにも解っていた。

 

「…楠木さんとそんな事話してたんだ。そっか、良かったじゃん、おめでとう!DAのリコリスに戻れるんだもん、嬉しいに決まってる!そうでしょ?」

 

千束は何かを言い掛けたがそれを押し殺し、レナへ素直な感想と気持ちを述べる。彼女は笑っていた。まるで自分の事の様に嬉しそうに。

 

「え?あ、はい…。ありがとうございます…すいません、ずっと黙ってて……。」

 

「いーの、いーの!私に気使ってたんでしょ?んもぉー!そんな事しなくて良いよ、私達3人の仲だろぉ?遠慮しなくていいって!」

 

「そ、そうですよ!私達らしくありません、こういう…しんみりした感じは。そうですよね?千束!」

 

レナは予想外の返事が来た事もあり、驚いていた。そして詳しい事は明日の朝にでも話して欲しいと言われると千束とたきなと共に歩いて行く。

珍しくたきながセーフハウスまで見送りに来ると、そこで別れた。そしてまた一日が終わる。

 

ゆっくりと確実に別れの時が少しずつだが近付いていた。

 

 

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