リコリス・リコイル/their other story 作:秋乃楓
ー翌日ー
レナはセーフハウスのベットで目を覚ますと横にはヨダレを垂らしながら寝ている千束の姿があった。
この姿を見る事が出来るのも残り僅かでしかない
「千束さん、そろそろ起きないと遅刻しますよ?」
ゆさゆさと身体を揺さぶると千束を起こす。そして起こしてからは2人で朝食を取り、いつも通り店へ。普段通りと変わらない日常がそこには有った。
「それを向こうのテーブルにお願いします。あとそれ終わったら其方のお客さんに、おしぼりとお茶を…。」
たきなに指示され、レナは快く引き受けると任された通りに仕事を熟す。その手つきは入って来た時よりサマになっていた。
「レナ、上手くなったよなぁ?前なんてお茶運ぶのも大変そうだったのにさぁ。」
カウンターへ戻ってきた千束がたきなの横から見守る。
「オーダーもちゃんと取れる様になりましたしね…私も助かってます。忙しい時はレジもやってくれるから尚更です。」
たきなも頷くとレナの事をカウンターから同じ様に見守っていた。
その姿はまるで親が子を見守る様に見える。
「レナが笑って此処から去れる様にしないとね…。あ、寂しくても泣くなよ?」
「泣きませんよ。とは言え…そういう自信は有りませんけど。千束こそ、大泣きとかしないで下さいね? 」
そんな会話を千束とたきなは少しの間、続けていた。すると会話を止めた千束はある物を探しにカウンター奥の部屋へと行く。
「先生?ボイスレコーダーって有ったっけ?」
千束が押し入れを探しながら声を掛ける。するとカウンター近くから「しまっているとすればそこら辺だろう」という返答が返ってきた。
「うっし、あったあったー♪まだ動くかなぁ…コレ 。」
千束はボイスレコーダーを持ちながら戻って来た。そして何かを思い付いた様子だった。
「ボイスレコーダー……でしたっけ?何故そんな物を?」
たきなは食器を洗いながら呟く。このご時世、スマホの録音機能が有ればボイスレコーダーは不要になるがどうやら違うらしい。
「まぁまぁ、見てなって。千束さんがとぉーっておきのサプライズをしてみせますよ♪ちょっち皆に協力して貰うけどね…いひひひ♪」
千束は嬉しそうに笑いながら仕事へと戻って行った。たきなは何をするのか解らず、そのまま洗い物の続きを始めた。
そして今日もまたリコリスとしての仕事が入る。
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仕事内容は取引現場を抑える事。
これもまた犯罪を未然に防ぐリコリスとしての仕事でもある
場所は店から徒歩で大体30分位の小さなビルの中。
「取引ねぇ…クスリ?それともお金?」
千束とレナ、たきなは歩きながら現場へ向かう。千束はどうも取引の内容が気になるらしい
「何れにせよ、リコリスとして見逃せませんからね。あ、着きましたよ」
たきなは取引の場所を指さすと立ち止まる。本当にこんな場所で取引するのかと言わんばかりの静かな場所。階段を上がり、取引現場とされるフロアへ向かう。
「……確かに居ますね、中に3人。どうします?」
レナはいつの間にか部屋の入口近くから中を見ていた。1人が辺りをキョロキョロと警戒している。
「んー…3人なら1人でやっちゃえるかぁ。レナ、私ら援護するから中にGo!」
千束はクイッと人差し指を前方へと向けた。
「了解しました。では……!」
「ちょい待ち、ちょい待ち!!大事な事忘れんなよー?」
「解ってます。命大事に、ですよね?」
レナはボソッと呟く。そして千束は頷き、親指をグッと立てた。
レナはカバンの右側から銃を取り出し、セーフティを外すと中へ突入する。
「その場から全員動くな!!」
3人へ銃を向け、辺りを見回す
男らはレナを見るや否や驚いた様子で見ている。
「取引していた物は何……金か?銃器か?薬物か?」
問い掛けるも返答は無い。そして1人がポケットからこっそりナイフを取り出し、叫びながらレナへ突進する。
「うらぁあああ!!!」
その動きは到底、扱いに慣れている様には見えない。レナは突進を避けると男の右腕に銃の下部をぶつけてナイフを落下させる。そして驚いている所へ腹部に蹴りを喰らわせる。
「ぐはぁああッッーー!!?」
男はその場へ倒れると動かなくなった。
「安心しろ、殺してない。大人しく渡した方が身の為だと思うけど……?」
レナはじろりと残りの2人を見つめる。
そして1人が茶色い袋に入った物をレナへ渡して来た
「元から…あ、アンタに渡せってさ!おい、早く逃げんぞ!!」
1人が肩を叩くともう1人も走って逃げる。元からレナへ渡せという意味が解らない
「待て!未だ話は……ッ!!?」
袋の中からカチカチと音がする。まさかという物が脳裏を過ぎった。
「ちょいちょい、レナぁ!取り逃したらダメでしょー?!」
入口辺りへ来た男2人を捕らえた千束が叫ぶ。だが、レナはそれ所では無い
「2人とも逃げて下さいッッ!!早く!!」
レナは大声で叫ぶと入口近くに居た2人は男らをそれぞれ引っ張り、その場を離れる。
「窓が開かない……ッ!!?」
止むを得ずレナは窓ガラスへ発砲し
、残りのガラスを払い除ける。そして茶色い袋を外から投げ捨てた。
「レナぁッ!!伏せてぇえッ!!!」
直後にたきなが叫ぶと駆け寄り、レナが伏せる。そして袋へ目掛けて数発ほど発砲すると空中で凄まじい音を立てながら爆発した。
「うっひゃあ……マジな爆弾かよ…!?」
千束はひょっこりと顔を覗かせる。
幸い、此方側にケガは無い。
「ッ……!」
レナは楠木の言葉の意味を思い出していた。
「お前は教団から狙われている。」
身を持ってそれを今、実感させられた。
たまたま今回狙われたのか?或いは計画性が有ったのか。それは解らない
「レナ、帰りましょう?少なくとも彼等は死んでません。形はどうあれ、命は護れてますよ。」
たきなに自分の右肩へポンと手を置かれ、それに対し小さく頷く。
3人はビルを後にし、再び店へと戻って行った。┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「そんじゃあ!レナの本部復帰を祝ってぇえ!カンパーイ!!」
店へ戻ってから、レナの本部復帰という事で勝手にパーティが開かれる。これもまた千束が主催していた物。
「すいません、わざわざこんな事まで…。」
レナはコップを片手に座っていた。本日の主役と書かれたタスキを掛けながら。
「別に気にしなくて良いよ?ほれ、遠慮せず食え!飲め!これも美味しいよ?これも!あー、これと、あとこれも!」
千束は笑いながらレナへ食べ物を渡して来る。肉類やら何やら色々、皿に載せて。
「千束、幾ら何でも取りすぎです!健康診断もそうですけど、体型維持に引っ掛かりますよ?」
それを見ていた、たきなが千束の横から声を掛ける
「ええー?良いじゃん、若い内しかこういう油っこいの食べられないんだぞぅ?そういう、たきなもちゃっかり色々取ってるじゃんよぅ?」
「う…い、良いじゃないですか!私だって食べたい時は有ります…!」
「いひひひ、素直じゃないねぇ〜?」
その様子は普段よりも賑やかだった。
皆で飲んだり騒いだり、ゲームをしたりと楽しい時間はあっという間に過ぎて行った。
「…レナ、ちょっと良い?」
千束はレナへ声を掛け、2人は店の外へ出て行った。
「何ですか?改まって……。」
2人は店の近くのベンチへ座る。
そして話し始めた。
「覚えてる?初めてうちに来た時の事。凄かったなぁ…今とは大違いだったもん。何聞いても知らないとか、興味無いとかの一点張りでさぁ……。」
千束はレナと初めて会った時の事を話し始めた。
「仕方ないじゃないですか。あまり歳頃の子の趣味とかは興味無いですし……。」
レナはそう言われると恥ずかしそうにしながら目を逸らしている。
当初は割りと千束に食って掛かったりしていた。
「でもさぁ、だいぶ変わったよね?私が色々連れ回したり、教えたりしてさぁ。」
「…楽しかったです、経験した事が無かった事ばかりだったので。本当にありがとうございました。」
「おう…改まって言われると恥ずかしいなぁ……えへへへ♪」
千束はニコニコしながら頭を掻いている。するとたきなも外へ出て来るとベンチへ座る。
「2人とも、私も忘れて貰っては困ります。…先ずはお疲れ様でした。」
たきなはレナへ頭を下げると微笑んだ。
そして3人が揃う事になる。
「私も初めて貴女が来た時は驚きました。今迄は千束と2人きりでしたから余計に。」
たきなもまた初めて会った時の事を話し始める。
「最初見た時、貴女は私と何処か似てると思いました。此処のお店の雰囲気とかそういうのに中々馴染めず、特に千束のテンションに付いて行けるかとか色々。でも、私と同じで気付いたら貴女も慣れていった。一緒に仕事したり、話したりするのが楽しくなって…出来ればもっと一緒に居たかったけれど、残念ですね……。」
たきなも少し寂しそうな顔をする。
あまり見たことの無い顔だった
「私も同じ気持ちです。もっと色んな話をしたかった。たきなさんは真面目で、もっと固い人かと思ってましたけど…本当は優しくて誰よりも真っ直ぐな人。千束さんが気に入る理由も解る気がします。」
レナはたきなとも話を続ける。とは言え、千束は自分が放ったらかしにされてるに気付くと2人へ絡んで来る
「んもぉー!!千束さんを無視して話すんなよぉーう!私だって居るんだからなぁ!?」
笑いながら2人へ近寄る。そして終始、出会った時の話やこれ迄の思い出を話していた。そして終わり際に千束はレナへ小さな箱を渡す。
「これ、レナにあげる!但し、向こう戻ってから開ける事!いい?間違っても帰り道とかで開けんなよ?千束さんとの約束!」
グイッとレナの手に箱を握らせる。そしてクルミが3人を呼びに来ると再び店内へと戻って行った。店内の片付けを済ませると最後に写真を全員で撮影。真ん中にレナを立たせてそこに集まるという形で。千束はウキウキしながら最後に3人だけの自撮り写真を撮ると自慢げに見せびらかし、はしゃいでいた。
そして店を後にし、セーフハウスへレナと共に帰宅する。そして着替えてからソファへ腰掛けると寄り添いながら映画を見ていた。
「…明日には帰っちゃうんだっけ? 」
「ええ、明日のお昼頃の電車で。」
「そっかぁ…寂しくなるなぁ。此処も、たきなが偶に来る位だからさ…それ以外は私だけだし……。」
千束はポリポリとテーブルの上に有るポテトチップスを食べる。あれだけ夕飯を食べていたのに、まだ食べている千束には驚きを隠せない。
「…今日の仕事で解りました、私はあの日からずっと危険分子なんだって事が。意図しなくても誰かに狙われている事には変わりは無いんです。一緒に居れば皆さんを危険な目に……。」
そう言いかけた時に口を指先で塞がれる。
「それ以上は言わないお約束。せーっかく笑ってお別れ出来るのに、しんみりしたって仕方ないでしょ?だから、あまりネガティブになるのはダーメ♪もっと気楽にしなよ、その方が良く似合う!」
千束はレナの口へ、細長い棒状のチョコ菓子を入れる。それをレナはポリポリ食べ始めた。
「そうですね……解りました。」
「ん、それで宜しい!」
にぃっと笑うと千束はレナの頭を撫でる。そして気が付けばレナは千束に寄り掛かりながら眠ってしまっていた。
「あーあ、寝ちゃったか…。お休み……相棒。」
テレビのリモコンを取ると映像を消し、レナをソファへ寝かせると布団を掛ける。そして自分はベットへ向かい、そのまま眠りについた。
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ー翌朝ー
レナは千束の部屋に置いていた服や荷物をスーツケースに詰めていた。
そして洗面具を詰め終わるとスーツケースのチャックを閉める。
「忘れ物なーい?大丈夫?」
千束がハシゴの上から声を掛ける。そして大丈夫だと返答するとスーツケースを千束へ渡す。そしてレナも後に続いてハシゴを上がると玄関へ向かった。
そしてドアから外へ出ると千束はドアに鍵を掛ける。そして階段を利用して下まで降りる。
「電車の時間までうちに居れば良いよ。そしたら一緒に駅まで送ってくから!」
2人は歩きながら店へと向かう。いつもと変わらない日常がそこには有った。
「おっはようございまーす!可愛い可愛い千束さんとレナが来ましたよぉーん!」
ドアを開けると中へ入る。
「うっわ、来たよ五月蝿いの……お前、もう少しボリューム下げられねぇの?」
ミズキは両耳を抑えて少し引いた様な目で見ている。
「朝から元気な挨拶はキホンでしょーが!!五月蝿くないわい!ねぇー?たきなぁ!」
ニコニコしながら、たきなへ視線をやる。
「元気なのは良いですけど、千束の場合は元気過ぎるかと。」
キッパリと真顔で告げられた。
「それがリコリコの看板アイドル、千束さんの取り柄でしょー?」
朝からワイワイ、ガヤガヤしている
と開店の準備をしろと声を掛けられた。
そしてレナは午前中まで勤務する事にし、その間は普段と変わらない形で接客や洗い物等の仕事に励んだ。そして気が付けば程よい時間帯になっていた。
「レナぁ、そろそろ電車の時間でしょ?送ってくから支度、支度!たきな、悪いけど店番お願いねー!」
グイグイと背中を押して台所から更衣室へと向かわせる。
そして数分後にレナが普段の服に着替えて出て来きた。
「お待たせしました…あの、短い間でしたがお世話になりました。また遊びに来ます……それではお元気で!」
レナは店の入口へ来ると頭を下げた。
そして千束と共に店を後にするとスーツケースを引きながら駅の方へ歩いて向かう。
「また遊びに来なよ、待ってるからさ。それと、レナの着物はそのまま残しておくね。また来た時に困らないでしょ?」
千束は歩きながらレナへ話し掛けた。
駅までの道のりが短く感じる。普段より長いのだが、あっという間に広間へ着いてしまう。
「ありがとうございます。…千束さん、今までお世話になりました。たきなさんにも宜しくお願いします。」
レナは立ち止まると千束へ頭を下げた。
「おう。まぁ…その内また何処かで会えるでしょ?だから、さよならは言わないよ……キミに会えて良かった。」
千束は片手を差し伸べる。そしてレナはその手を握り締めた。
「私も貴女という人に会えて良かったです。だから、また何処かで。」
2人は握手を交わすとレナだけが歩いて改札口へと向かって行った。その背中は何処か寂しそうにも見えた。千束は彼女が見えなくなるまで、ずっと改札近くに立っていた。
「じゃあね……ってうぉい!?どうしたぁ、たきなぁ!?え、ええ…めっちゃ汗だくじゃんよ!?」
振り向くといつの間にかたきなが後ろに居た。
「彼女は……レナは何処に!?」
肩を掴むと息を切らしていた。どうやら走って来たらしい。
「か、改札に行ったけど……もう抜けたんじゃないのかなぁ?」
千束は何とかたきなを落ち着かせる。だがたきなは改札方面へ走って行く。
「……レナ!レナぁ!!」
たきなは必死に叫びながら走って行く。そして千束もその後を追い掛ける。そしてベンチへ腰掛けているレナを見つけた。
「居た…!」
たきなは息を切らしながらレナを見つめていた。
「あれ……たきなさん!?どうしたんですか!?」
立ち上がった途端、いきなり抱き締められた。そのままレナは固まっている。
「あの……?」
思わずレナは問い掛けた。
そしてたきなは口を開く
「ちゃんと…言えなかったから…伝えに来ました!!また、遊びに来て下さいね…それと…私も貴女が相棒で良かった……だから…もっと一緒に…ッ!」
服の袖を強く握り締める。何処か震えてる様にも見えた。
「ほぉーら、たきな!笑って笑って!」
千束は頷きながら2人を抱き締めるとその場で少しの間、別れを惜しんだ。
「……じゃあそろそろ行きます。ありがとうございました。」
レナは改札を抜けた先で振り返ると、立ち止まって見送る2人へ頭を下げる。
千束は手を振り、たきなも軽くだが手を振っていた。そして2人も背を向けて改札から離れて行く
「行っちゃったね…。」
「ええ、行っちゃいましたね」
「これからは前と同じで2人きり。お店とか、リコリスの仕事も…。」
「そうですね……物足りない感じがすると思いますけど、これからも私が傍に居ますから。」
「お、言うねぇ?たきなとずーっと一緒なら私も安泰かなー?」
「何ですかそれ…でも、私は千束と一緒に居られて嬉しいですよ。だから、これからもずっと傍に居ます。」
「なぁんだよぅ、改まってさぁ!レナが居なくなってから変だぞ?たきなぁ?」
「何でも有りません!ほら、早く帰りましょう?店長に任せっきりですから早く戻らないと…!」
「ちょいちょい、なに照れてんの?気になるなぁ。んじゃ、店に戻るか!」
2人はレナを見送った後、普段通りの日常へと戻って行った。
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「浅水レナ、転属先より戻りました。」
あれから約3時間経った後、レナはDA本部にある執務室に居た。
目の前に居る楠木へ挨拶すると頭を下げる。
「ご苦労だった。明日から夏野らのチームへ合流し普段通り任務に当たってもらう。疲れたろう、今日は戻って休め。」
「……ありがとうございます。では。」
レナと楠木は必要な会話だけを済ませ、レナは部屋を後にする。
そして寮にある自分の部屋へ戻った。
荷物はスーツケースに入ったまま、洗面具等の日用品だけを取り出すと定位置へ。そしてそれ以外の物はケースにしまったまま。
時計を見ると本来なら店の片付けをしている時間帯だった。目を閉じればその光景が直ぐ目に浮かぶ。
「自分の過去を知らなければ…お兄ちゃんと出会わなければ…良かったのかな……。」
リコリコに転属してから自分の過去を色々と知ってしまった。そのせいで周りを危険な目に晒してしまう危険性から今回の転属が決まった。
とは言え、考えられるのはDA本部の組織としての威厳を保つ為だろう。
都合の悪い事は隠してしまえば良いのだから
「いけない…色々考えれば考える程、思い出しちゃう……。」
頭を横に振り、何とか気持ちに整理を付けると再びスーツケースから私服や荷物を取り出していく。千束に買って貰った服、千束がくれたキーホルダー、たきながくれた髪留めや鏡。どれも彼女にとって宝物。此処に居たら間違いなく得られなかった。次に出て来たのはクルミがくれたゲームソフト数本。とは言え、本体が無いので遊べないが。お店の皆がそれぞれくれた物を取り出してみる。
「あとコレは……普通に食べよう。」
ミズキから貰ったのは酒のつまみ。当然、未成年だから酒は飲めないのでおやつに食べることにした。
「これは普段でも使えるかな?」
ミカから貰ったのは黒いマグカップ。
コーヒーや紅茶を入れるのには最適だろう。そんなこんなで荷物を全て取り出すとベットの上に並べていく。
お摘みはお菓子類の方へ、キーホルダー類は机の上に、鏡と髪留めは棚へしまう。マグカップは台所の棚へ置いた。
「レナ……お帰り。」
ドアが開くとカスミが立っていた。
部屋割りを急遽変えたのでカスミと相部屋になったのだ。
「ただいま…カスミ。その、また宜しく……。」
レナはベットから降りて立ち上がると頭を下げる。そして部屋へ入って来たカスミはレナの手を握り締めた
「うん。…此方こそ、宜しくね?」
頭を上げると同時にカスミは微笑むとレナの方を見ていた。
そしてレナを抱き締めてくる
「か、カスミ!?何…どうかした?」
抱き着いてきたカスミを受け止めながらレナは背中を撫でる。こんな事になったのは初めてだった。今までは必要最低限な会話しかした事は無かったものの、ケガによる一時的な昏睡状態になる前に話した時に距離が近くなった位だ。
「ずっとレナと一緒に居られる…良かった……。」
だが、心做しか彼女にとってレナは大切な人か或いはそれ以上の存在に見えているのかもしれない。
「解ったから、離れて欲しい。こういうのは余り慣れてないから…。」
レナはカスミから少し離れる。そしてカスミはある事に気付いた。
「前々から言おうかって思ってたけど、レナって髪結ぶんだね…知らなかった。」
というのも割りと前までレナは髪を結ばなかった。リコリコへ転属してからは千束が毎日家を出る前に結んでくれていた。ポニーテールだったり、ツインテールだったり、サイドテールやツーサイドアップが主体。それに本人の趣味と自分の意見が合えば髪型も異なる。たきなと同じ結び方になった時も有る程。
「転属先の人がやってくれてた。私がやった訳じゃない。」
呟くとベットに腰掛けた。今迄とは違ってこれからは千束が居ない、勿論たきなも居ない。だから髪も自分で結ぶ必要が有る。
「じゃあ代わりに私がやってあげる。多少は出来ると思う…だからもう、何処にも行かないで。ずっと私の傍に居て…あの時、レナが無理にでも助けてくれたから私は此処に居る。そうじゃなかったら間違い無く死んでた。ずっと言えなかったの…私は……私はレナの事が好き…!!」
カスミは彼女の前で大胆にも言い放った。それは恐らく彼女の本心だろう。
自分のせいでレナが転属になったから、それだけが彼女を苦しめていた。
そして戻ってきた今、余計に離したくないという強い思いだけが残っている。
「それはどういう事?友達という意味の好きって……事?」
レナは首を傾げる。突然好きと言われても意味が解らない。
「鈍いよ、レナは。でもそこが良いの…そういう事を何も知らない方がレナは可愛い。」
カスミは微笑むとレナをベットへ押し倒した。そして顔を近づけていく。
「こういう事はしなかったの?向こうの人と…。」
レナへ問い掛けると彼女は無理にでも起きようとする。だが手首を抑えられている為か中々起き上がれない。レナはカスミが少なくともこんな事をする人では無いと思っていた為か余計に困惑してしまう。
「してない!カスミ、退いてよ。お願いだから!」
カスミはそっとレナから離れる。下手をすれば嫌われてしまう。そう思ったのか何処か申し訳なさそうな顔をしていた。
「ごめんね?でも私がレナを好きなのは覚えておいて欲しいなって。」
「ッ…だからってこういう事をするの?」
「今度は私がレナを守ってあげる…貴女から離れたく無いの。だから…つい……。」
「解った。もうお風呂入って寝よう?話なら明日でも聞くから。私、疲れてるの……。」
身体を起こすと、レナは何処か不審な気持ちを抱きながらカスミから離れる。
そして支度すると1人、風呂場へ向かった。
千束の時に無かった違和感…それがレナを取り巻いていた。友達以上の何か…それが果たして何を意味するのか?レナは風呂へ入ってからも、ずっと考えてしまっていた。
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ーその日の夜。ー
レナは中々寝付けなかった。
普段なら千束と一緒にソファで映画を見ている時間帯だったから余計に。
本部の規則は割りと厳しめで、就寝時間も決められている。なので夜更かしなど以ての外だ
「カスミは寝てる。此処の暮らしに慣れてるからか……。」
レナはベットから身体を起こす。そしてある事を思い出した。千束が自分にくれた謎の箱。それを取りにベットから降りると机の方へ近寄った。そして箱を持ち、再びベットへ。
そして中身を開けてみるとボイスレコーダー、そしてイヤホンが入っていた。
メモ書きには此処を押したらダメとか使い方がちゃんと書かれている。
「……?音楽でも入れてるとか?」
レナはイヤホンをボイスレコーダーへ挿し、両耳に付ける。そして再生ボタンを押した。
[あーあーあー、テステステス!録音できてんのかなぁ?これ…まぁいいや。コホン!えーっと、どうも!錦木千束でーす!今コレを聞いているという事は今頃寂しくて私の事思い出しちゃってるのかなぁー?と思って録音してみました!多分、今頃は本部に着いてる頃だと思うけど…もし違ったらごめんなさい。これから話すのは私が貴女と出会った事と皆が貴女の事をどう思ってるか。それを一言一句、逃さず録音しました。聞いて下さい!]
紛れも無く、声の持ち主は千束の声だった。そして少し間が空くと再び再生が始まる。
[先ずは…たきなから!ちょいちょい、逃げんなってばぁ!直ぐ終わるから!ほらほらー、話してみ?]
[え、ええ?こういうの初めてですけど…では。えー、改めまして。井ノ上たきなです。初めて貴女と会った時…私は正直、自分と似た何かを感じました。貴女も私と同じで真面目過ぎて色々突っかかったりする所も私にそっくりでした。けど、貴女が本当は優しい人だというのは知ってました。私や千束の事を常に考えてくれて、何か有れば自分がフォローする。貴女は私達の最高の相棒でした。ではまた何処かで……。]
そう言い残すと音声が途切れた。
そして再び千束の声に切り替わる
[えーっと、次はミズキ!]
[ええ!?アタシ!?話す事なんて…何、いい男でも紹介してくれんの?それなら張り切っちゃおうかなぁー?]
[そんなワケ無いでしょー?レナが転属で居なくなるから、それで皆の声入れてんの!酒臭っ!?まーた昼間から酒飲んでるなぁ!?この酔っ払い!]
[ちッ!まぁ良いけどさ。元気に頑張んなよー?気張りすぎんなー……これで良い?]
[うっわ、軽る!!もう少し気持ち込めらんないかな?だから婚期逃すんだよ……。]
[何か言ったかコラぁあ!!?婚期は関係ないでしょーが婚期は!!]
[あー!はいはい!次!次!]
[待てコラぁ!まだ話は終わってねぇーって…!]
音が再び途切れる。
そしてまた切り替わった
[ふぃー…危なかったぁ。ホントさぁ、やんなっちゃうよね……色々ギリギリな人は。次はクルミと先生ー!先ずはクルミから!その次は先生!]
[んえ!?ええーっとぉ…レナ、またゲームしような!ボドゲも色々用意しとくからなー!]
[こういうのは慣れてないが…その、なんだ……いつでも遊びに来なさい。その時はコーヒーをご馳走するよ。]
再び音声が切り替わる。
[えーっと、最後に私から。…先ずは今までありがとうね。キミと居られて、ほんっとーに楽しかったよ?まぁ…最初はギクシャクしてたかもだけど、それからはずっと楽しかった。お店で働いてても、何処へ出掛けてもレナと一緒だったから、居なくなると思うと寂しいなぁ…。でも私の相棒っていうのはこれからも、この先もずっと変わらないよ?安心してね!また何処かで会ったらその時は、たーっくさんお話しようね?そんじゃ、まーたねー!バイバーイ!]
最後の音声と共にメッセージは終了する。レナはボイスレコーダーを握り締めながら俯いていた。
今すぐにでも戻りたいという気持ちを必死に堪える。それでも自然に溢れてくる涙は止められなかった。生まれて初めてDA以外で出来た自分の居場所。レナは1人で声を押し殺しながら静かに泣いていた。そして泣き疲れた後、彼女はイヤホンの付いたボイスレコーダーを傍らに置くと朝まで眠った。