リコリス・リコイル/their other story 作:秋乃楓
駅から電車を乗り継ぎ、更にそこから指定の車で山奥へ。
DA。正式名称、Direct-Attackの本拠地は
完全に都会から離れた山奥にあり
人が1人立ち入れる様な場所では無い。
厳重なセキュリティゲートを抜けた先で無ければ辿り着く事が出来ない。
「・・・よりによってライセンスの更新期限が間近だったなんて」
電車に乗りながらレナは呟くと、外を見ていた。
平日という事も有りながら車内は混んでいる。向かう先はDA本部
リコリスとしてのライセンスが切れかけていたのだ。
更新しなければ、リコリスとしての活動は認められない
「また彼処に戻るの・・・嫌なんだけど」
自分の事は恐らく既に知り渡っているだろう。指示を無視して滅茶苦茶をやったリコリスだという事が。
仮にもし、未だDAに居たら自分は順調にやれていただろうか?
DAの指示が正しい事だと信じ、忠実に任務をこなす事で日本の治安維持に貢献する。そして日本は今日も平和ですと政治家や他のトップが語るのを何処かで知る。リコリスは日本の治安を裏で護るエージェントと言えば聞こえが良いが、例えるなら命令を中実に実行する機械やプログラムと同じだ。
そうこう考えている内に指定の駅で電車が止まり、レナは鞄を担ぐと降りる。
駅のホームを抜けて外に出ると、そこからは職員の車で本部へと向かった。
一言も会話を交わす事もなく、車は山奥にあるDA本部へと到着した
「・・・さっさと更新して帰ろ。長居はしたくない」
建物の中へ入ると、数人のリコリスとすれ違う。
彼女達は此方を見るとヒソヒソと話をしていた
「あの子でしょ?命令違反したリコリスって。」
「どの面下げて戻って来たのかしら?」
「まさにリコリスの恥晒しって感じ?ふふ・・・」
少なくとも自分の事だと言うのは解った。やはり予想通り、噂は絶えなかったらしい
「あの、ライセンスの更新に来ました。名前は浅水レナと言います。歳は15歳で・・・」
受け付けで色々と職員へ話す
慣れた手つきで色々済ませると、指定した場所へ向かう様に言われる。
「ありがとう・・・ございます」
レナは書類を受け取り、頭を下げると
射撃場へ向かった。
「先ずは射撃か・・・」
上から覗ける様になっている射撃場には既に3人程が待機していた。
「・・・こんなの、やる必要無いのに」
開始の音声と共に人型の的が数個出て来る。
レナはゴーグルを着用し、自身の銃を取り出すと的へ目掛けて発砲した。
サイト無しでも撃てる位には上達し、更にリロード速度も以前より上がっていた。的確に的を射抜くと終了の音声が流れ、的が格納された。
「次行こ・・・」
レナは射撃場を後にすると、書類を見つめる。
そして別の施設へ歩みを進めると、元チームメイトと遭遇した
「・・・久しぶりね。浅水さん」
ファーストの赤い制服に身を包む茶髪の少女。彼女こそがリーダーの夏野百合。
「・・・お久しぶりです」
レナは必要最低限の言葉を交わす。
「此処に来たのはライセンスの更新?・・そうね、今頃の時期だと大体の子は更新だから」
百合は彼女の書類を見ると更新へ来たのだと察したらしい。
「済ませたら直ぐに帰ります」
レナは更新を終わらせたら、直ぐに此処から立ち去ると話す
「・・・そう。貴女が居なくなってから、チームは前より良く回っているわ。上から苦言を零される事も無くなったし」
百合は現在のチームの状態を話し出す。
レナが居た頃は多少の無茶が多く、小言を言われる事もあったが今ではそれもゼロになった事。
連携も上手く取れるようになったらしい。
「そうですか・・・良かったですね・・・」
レナは百合からの報告を聞いて
何処か胸が痛かった。
チームは自分が抜けてから上手く行っているという事実、そして本当にもう自分は何処にも居場所は無いという事。
そう思い、少し表情を曇らせていた時
「百合さーん、次の作戦ですけど・・・あれ?誰です、この人?」
百合の方へレナと同じく青い制服を着た少女が近寄る。桃色の髪で、何処か髪型も男っぽい雰囲気がある
「ああ、この子?貴女が入る前に居た浅水さん」
百合はレナの方へ片手を向けた
「浅見・・・ああ、例の命令違反したリコリスですか?自分の自信だけ過信して、一切仲間の事を顧みない酷いセカンドだって。オマケに、以前もチームから外されまくってたお払い箱だって有名な!知ってますか?百合さん、この人のあだ名!」
ケラケラと少女は笑っている。
「キリングドール(殺戮人形)ですよ?アンタは敵さえ殺せればそれで良い。仲間とか、チームだとかそんなのは興味無いんだろ?お前と組んだ奴は皆、不幸になる・・・専らの噂ですよ。だから追い出して正解ですよ、百合さん」
ニヤニヤしながら嘲笑うと、レナを馬鹿にした。
それを聞いた周りのリコリスもクスクスと笑いながら通り過ぎて行く
「ちょっと、沙華!そんな言い方は・・・!」
慌てて百合は止めようとする。
だが、沙華という少女は更に続ける
「いいか、人形?お前の居場所は此処じゃない。お前の来る所じゃない。何だったらアタシが代わりにライセンス返しておいてやろうか?イヤになってリコリス辞めましたーって伝えといてやるからさ。それとも悔しかったらアタシとやり合ってみるか?ん?」
顔を近付け、レナをじーっと見ては
更に罵詈雑言を投げ付けた
レナは拳を握り締めるも、何も言い返さなかった。
「いい加減にしなさいッ!!行くわよ、沙華!」
グイッと沙華の服の袖を掴むと百合は引き離そうとする
「・・・いいですよ。貴女とやり合っても」
レナは呟くと沙華の方を見据える
その目はいつもと変わらないが、何処か違った様子だった。
「そう来なくっちゃな・・・アタシが勝ったらリコリスを辞めろよ。制服も何もかも全部此処に置いてけよな」
じっと沙華はレナを見つめる
「私は負ける気は有りませんので」
そう言い返すと、沙華は指定した時刻へ模擬戦場へ来る様にレナへ促した。
検査を終えてからでも丁度いい頃だろう
負ければリコリスを辞める
大層な賭けをしてしまったと思いつつも、残りの検査を終えるとレナは自然と広場へ向かった。
大きな噴水のある広場。そこはリコリスなら誰でも知っている場所
上は階層になっており、そこに此処のリコリス達が済む部屋が並んでいる
「皆の憧れの場所・・・けど、もう戻れない・・・」
この噴水を見ると自分がした事を改めて考えさせられる。
つい、この間までは此処に居た
自分は友達と呼べる人は殆ど居なかったが、何度か此処へ足を運んだ事がある。
そしてレナは噴水近くのベンチへ腰掛けた。
書類を傍らに置くと、ふとある事を思い出した
本部へ来る前に千束が何かを渡してきたのを覚えていた
『ほれ、可愛いお嬢さんにはコレをあげよう。決して電車で開けるなよ?向こうの本部で開けるんだぞ?』
と念押しまでされた代物
カバンから箱を取り出すとその場で開ける
「これって・・・」
入っていたのは花柄のスマホケース。
普段のレナはカバーを付けず、スマホを使っていた。
飽くまで連絡用の端末だから、そこまで意識はしてなかったが
ケースを取り出すと、内側にメモ書きが入っていた。
そこには
[笑って!]
と大きく一言、書かれていた
辛い時も、悲しい時も、苦しい時も。
笑えば大抵の事は何とかなる
そう言いたかったのだろう
「ふふッ・・・千束さんらしい・・・。でも、ありがとう・・・」
深呼吸し、未だぎこち無いが笑ってみせる。その顔は何処か明るかった
そして沙華との約束の時間。レナはケースを自分のスマホへ嵌め、ポケットへしまうと箱をカバンの中へ入れ、模擬戦場へ向かった。
模擬戦場。そこはリコリスが様々な自体を想定し、訓練を行う場所
随所に部屋が有ったり、上に入り組んだ通路が有る等。
障害物もそこらに置かれている
「ルールは1体1。本来ならファーストを入れた2対2で行うが、アタシが頼んで特別に許可して貰った。感謝しろよな?」
ゴーグルを付けた沙華はレナを見つめる
どうせ、アタシが勝つとでも言いたそうな顔をしている
「・・・よろしくお願いします」
レナはゴーグルを付け、頭を下げると
お互いに背を向けながら下がっていく
[お互い、準備は出来たわね?本物の戦闘だと思って戦う事。それじゃあ、模擬戦開始!]
百合がアナウンスを流す。
ブザーが鳴ると模擬戦が始まった
「へへッ、先手必勝!」
沙華は物陰から飛び出すと辺りを見回しながら探し始めた
「お人形ちゃんは何処かなぁ?怯えて隠れてるのかなぁ?」
小馬鹿にしながら周囲を警戒する。
煽るとそれに便乗し外に出てくるかもしれない。怒らせれば冷静さを掻き、そこを狙えば一気に仕留められる。
すると、通路のドラム缶がコロンと倒れた
「見つけた・・・ッ!!」
沙華は走り出すとドラム缶が転がった箇所へ向かう。しかし、そこにレナの姿は無い
「ちぃッ・・・ダミーかよ!」
ドラム缶を蹴飛ばすと再び辺りを見回す。だが、レナの姿は無い
「まさか、ずっと隠れてるつもりか?腰抜けめ・・・!」
舌打ちをして振り向いた時
パァン!!と乾いた音が響く
沙華の左肩に青い塗料が付着した
「なぁ・・・ッ!?何処から!?」
レナが潜んでいたのはL字通路へ差し掛かる辺りの部屋。そこは沙華が既に通り過ぎた場所だったのだ
ドラム缶に関しては予め、倒れ易い様にワイヤーで細工を施していた。
距離も近い事から、あとはワイヤーを引けば勝手に倒れる様に。
「けど、今ので位置は割れた!今度こそッ!!」
沙華は開いたドアの方へ向かうと室内へ発砲する
だが、壁には赤い塗料が付着していただけ。
「此処じゃ無い!?ちょこまか逃げやがって・・・正々堂々と戦え!」
沙華は辺りを必死に見回している
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丁度その頃、模擬戦の様子を上層部も見ていた
「・・・沙華、相当苛立ってますね」
横にいたスーツ姿の女性が話しかける
「ああ。腕は立つが、事を急ぎ過ぎるのが奴の短所・・・本人は真正面からの戦いを好むが、実際はそうとは限らん」
楠木はモニターを見ながら呟く
「でも、レナの方は・・・」
女性はモニターを見ると、顔色1つ変えないレナの様子を見ていた
「殺戮人形・・・。一部のリコリスの間ではそう呼ばれているが、その所以は先程のトラップを使った戦法にある。爆発物を使うトラップというよりも相手を油断させる事が最大の狙い。百合のチームに居た時も、奴は後方を担っていた。そして今と同じ様に、様々なトラップを作って相手を誘い込む・・・」
楠木は映像を見ながら少し笑った
「人形というよりは死神・・・だな。オマケに動きも以前より良くなっている・・・」
「この模擬戦、どっちが勝ちますか?」
女性は楠木へ問い掛ける
少し考えてから結論を出した
「・・・レナが勝つだろうな」
このまま2人は引き続き、映像を見続けていた
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ーその頃。
模擬戦もいよいよ佳境に入る。
あれから沙華は左肩以外にも
右足に1発、腹部へ1発とペイント弾を喰らっていた。
突如として予期せぬ場所から自分の方へ弾が飛んで来る。
自分の方がどう見ても上なのに、自分の方がアイツより強いのに
その焦燥感だけが沙華を駆り立てていた
「クソッ・・・嘗めやがって!」
見回すと自分の正面に、突如現れたレナが立っていた
「へへッ、お得意のトラップはもう終わりか?散々、弄びやがって・・・!!」
睨み付けると沙華は怒りに任せて銃口を向ける。しかし、レナは何故か両手を上げている
「おいおい、まさか降参か?今更、そんなの許す訳ねぇだろうが!!」
沙華はレナへ容赦無く発砲する。
しかし、レナは銃を落とすと同時に床へ倒れ、再び銃をキャッチすると沙華へ素早く発砲した
[そこまで!模擬戦終了です。勝者は浅水レナ!]
ブザーが鳴ると模擬戦が終了した
戦闘の結果、レナは被弾無し。
沙華は肩、足、腹部へそれぞれ弾を喰らっていた
模擬戦を見たリコリス達はザワついていた。誰もが沙華が勝つと予想していたのだから。
「くそッ・・・何で!」
沙華は納得行かないのか苛立っていた
「お疲れ様、2人とも」
百合が模擬戦場へ入って来る
汚れた沙華を見ると宥める様に接していた
「百合さん!卑怯ですよ、アイツ!正々堂々やり合わないで、こんな手ばっかり!!」
遂には百合へ不満を口にし始める。
「敵が正々堂々と真正面から挑んで来るとは限らない・・・そういう事よ。良い勉強になったじゃない?実戦なら貴女はもう死んでいる」
百合は沙華の不満を受け流すと、そう答えた。
そしてレナの方へ目線を向ける
「・・・今回の模擬戦でやっと解った。貴女がバックアップしてくれるから私達は気にせず戦える。敵の数も貴女がトラップを仕掛けて嵌める事で数が減る。遅くなったけど、その・・・ありがとう」
百合は手を差し伸べる
その手をレナもまた、そっと握り返した。
「あの時、勝手な真似をしてごめんなさい・・・。どうしても、カスミを助けたかったからあんな真似を・・・」
漸く自分の中で、つっかえていた物が取れた気がした。
理由を言わぬまま、此処を去ってしまった事。
ごめんなさいと面と向かって言えなかった事。
そして何より、自分の事をチームから離して考えていた為、仲間の事を信じられなかった事。
でも、それ等を漸く言う事が出来た
更新もそうだが此処へ来た意味は有ったかもしれない。
3人は模擬戦場から出ると沙華だけは制服を洗いに向かう。
百合はレナと共に受付まで付き合うと
彼女がライセンスを受け取るまで見守っていた。
「それじゃ、私は此処までだから。向こうでも元気でね」
百合は玄関で立ち止まるとレナへ手を振る
「はい。夏野さんもお元気で 」
レナは頷き、頭を下げた
「あの、カスミの事は・・・」
顔を上げると先程の事を思い出す
自分が身勝手な真似をした理由。
全てはカスミを助ける為だった事
けど、今更明かしても何か変わるのだろうか?それは定かでは無いが
「大丈夫、本人にも伝えておく。まぁ・・・どう言うか解らないけど」
百合は本人へ伝えておくとだけ言い残し、お互いにその場で別れる。
外へ出るとレナは来た時と同じで職員の車に乗り込み、再び駅まで送って貰った。
そして電車へ乗り込む
気が付けば、もう夕方だ
日が傾き始めている
ボーッとしながら外の景色を眺めていると、スマホへ通知が届く
相手は千束からだった
[更新、終わったー?皆がレナの事待ってるぞ!ケーキも料理も有るから、寄り道しないで帰って来いよー!]
そこには可愛らしいスタンプと
その場で撮ったのか全員の写真とケーキやら何やら、料理の写真も。
すっかり、レナは忘れていた。
今日は自分の誕生日
リコリスには明確な誕生日という物が無いが、自分が入所した日が誕生日となる。
今日がレナの誕生日だった
少し考えてから、文章を打ち込んでいく
[直ぐ帰ります]
一言、そう返すと何処か嬉しそうな顔をしながら帰路へついた。