リコリス・リコイル/their other story   作:秋乃楓

9 / 30
09_things that were forgotten

ー今から約10年前ー

ある教会では身寄りの無い子供達を保護し、そこで食事や様々な物を提供していた。虐待、両親の蒸発、捨て子。そういった様々な事情を抱えた子達を引き取って自主的に世話をしていたのだ

 

そんな中、1人で人形遊びをする女の子が居た。少し長い黒い髪で赤い瞳の女の子。立ち上がれば髪は背中の中程まで有る

しかし何か様子が違った

目が余り見えていないのだ。自分から近い距離の物は霞んで見える位だが、遠くの物はボヤけて見えている

当然だが、食事も難しい為に職員が彼女に寄り添う形で補助に入っていた

 

「おはよう、〇〇〇ちゃん。気分はどうだい?」

 

男性に、そう呼ばれた少女は小さく頷く

男性は彼女の頭を撫でながら優しく微笑む。そして男性の横に別の男の人が立っていた

紺色のスーツ姿の男。金髪の髪をオールバックにし、左胸にはフクロウのバッジ

 

「初めまして・・・私は吉松。〇〇〇ちゃん、キミの目の事なんだが・・・ドナーが見つかったよ。来月の半ばにある手術をすれば良くなるからね・・・」

 

吉松という男は少女の両肩に手を起き、微笑んだ。そして職員の男に指示を出すと去っていった

 

それから1ヶ月後、少女は角膜移植手術により視力は回復。最新鋭の技術により行われた手術は術後の回復も早かった。

ただ、手術の影響で目の色が赤から青へ変わってはしまったが。

 

容態が回復した後、少女に待っていたのは教会のもう1つの顔。それは教団側が選択した子供へ銃や刃物の扱いを含むありとあらゆる殺傷技術を教え込むという物。選抜者はAPOSTLEと呼ばれる

無論、選ばれなかった他の子達は知りもしない事だ。

そして脱落すれば待つのは死。

 

更に数年後、少女はとある山奥にある施設に居た

 

「・・・この子が例の子か?」

 

黒人の男性が少女を見ているが何処か不思議そうな顔をしていた

歳の割には何かが違う。

 

「ああ。この子には殺人・・・特に暗殺技術の才能を与えよう・・・そうすれば如何なる相手だろうと容赦無く彼女が消すだろうさ。こんな子供相手に武器を持った大人がやられるんだから、腰を抜かすぞ?」

 

吉松は笑っている

その表情は何処か狂気に満ちていた

 

「俺はリコリス達の教官だが、聞いた事無いぞ?そんな事は・・・ましてや暗殺専門だなんて・・・」

 

黒人の男は戸惑っている様子だった

 

「なに、リコリスなど替えが沢山居るだろう?この子がダメなら他の子をまた教育し指導すればいい・・・それに戦場の中で死ねれば彼女も本望だろうさ。彼女は自分の親だった人間に捨てられ、教会で保護され、我々の手でこうして生きている・・・。手術も私とお前、三城の意思で行った事じゃないか・・・では、頼んだよ、ミカ」

 

吉松はそう言うと少女を撫でてから立ち去った。それから、この少女はミカという男の元でリコリスとしてありとあらゆる学問や知識、更に銃火器の扱い等の様々な分野の物を学んでいく事になる。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

下着やら何やらで色々有った次の日の事。今日は今朝からリコリスとしての仕事が入っていた為、店はお休み

内容は至ってシンプルだった。

荷物を指定場所へ届けるという物で、荷物と思われるジュラルミンケースには何が入っているのかは解らない。

そしてその荷物の持ち主の護衛。

しかも、護衛対象は元社長で企業自体はテレビのCMでも流れる程に有名。

本来なら社長と秘書が荷物を持って行くハズだったのだが、殺人予告とも思える脅迫状が届いた事から此処に依頼してきたという事だった。

 

3人は既にそれぞれ、分担を予め決めていた。千束、たきなは護衛対象の警護、レナは不審人物の警戒。

上空からはクルミがドローンで3人のサポート。

それ程、荷物は重要な物らしい

そしてもう1つ。警戒すべき対象、それはアグレッサーと呼ばれる者。

直訳すると侵略者という名なのだが、社長の話では脅迫状を送って来たのも彼だという。

 

そしてその社長の名前は浅倉秀一、年齢は50代。指定場所というのは彼の自宅から割りと離れた場所にある施設。

その施設は彼の持つ会社の1つであり、大きなビル。その中にある会社へ届けるという物だった

 

「よし、じゃあ行きましょうか。浅倉さん!」

 

千束はニコッと笑うと外へ出ようとする

 

「大丈夫なのか?こんな子供たちに護らせて・・・」

 

浅倉は何処か心配そうにしている

それもそのハズ、どう見ても3人は学生だからだ。こんな連中に自分の命を預けられるだろうか?

 

「大丈夫です、どうかご安心を。私達が護りますから」

 

たきなは浅倉を安心させ、浅倉もまた心配だが取り敢えず頷くと千束と共に別手配された車へ乗り込む。運転はミズキが担当する事になっている。

助手席にレナ、後ろの席には真ん中に浅倉、右に千束、左にたきなという配置で。

 

リコリコから離れ、一般道を走行する。

目的地まですんなりと辿り着けるとは思っていないが。やがて車は道なりに進むと一般道からバイパスへ移行する。

 

「・・・今の所は大丈夫だけど、どうやってお越しになるのやら」

 

千束は窓の外を眺めている

 

「ええ。車で襲って来る可能性も考えられますね・・・」

 

レナは車のミラーを見ながら呟く

何かが追い掛けて来たりする気配は無いが

 

「・・・!?千束、あれ!」

 

たきなは後部座席から振り向くと

此方を追跡するドローンが飛んでいる。

予めクルミの飛ばすドローンの色は解っていたのだがどう見ても違う。

クルミのは黄色、飛んでいるのは青だ

 

「レナ、後方にドローン!撃っちゃって!」

 

千束は合図を出す

 

「解りましたッ・・・!」

 

レナはサイレンサーの付いた銃を取り出し、助手席の窓から身を乗り出す。

そして狙いを定めるとドローン目掛け発砲した。弾が命中し、ドローンが落下すると草むらへ堕ちていく

だが、これを皮切りに後方からワゴン車が3台此方へ目掛けて走って来る

 

「今度は後方からワゴン車が来ます!」

 

レナは身を乗り出したまま中の千束へ知らせる。

 

「レナはこのまま応戦!タイヤだけ狙って!ミズキ、もっと飛ばして!」

 

バイパスは空いている為、多少の速度を上げても問題は無いが

 

「これ以上は無理だっつーの!下手にスピード出したらヤバいってば!」

 

ミズキの言う通り、飛ばし過ぎるとどうなるか解らない。オマケに横から車が来れば此方は全員あの世行きだからだ

 

「ッ・・・!!」

 

その間にもレナはワゴン車の前輪部へ目掛けて発砲する。1台のタイヤに命中するとスリップを引き起こし、後方へ下がっていく。だが、残りの2台は本車の横側へつこうとして来る

 

「準備はいい?たきな!」

 

千束は合図をする

 

「ええ!」

 

たきなもそれに答える

 

「「せーーのッッ!!」」

 

互いに左右の窓を開けると運転席へ発砲し、ワゴン車のコントロールを失わせる。そしてバイパスの壁に1台が、もう1台は中央分離帯の付近へ激突する

 

「これで一安心・・・」

 

窓を閉め、千束はふぃーっと一息ついた。しかし新手は直ぐに此方へやって来る。そして破裂音と共に此方の車が大きく傾いた

 

「嘘!?タイヤをやられた!?何だよ、何処から!?」

 

ミズキは車を何とか持たせようと必死になっている。その間も敵による射撃は止まず、それどころか増している。

 

「スナイパーなんて居ない筈なのに・・・!」

 

たきなも外を見回す

そんな中、何かを発見する。黒いオートバイに乗るドクロの仮面をした人物

 

「まさか・・・あれがアグレッサー!? 」

 

その直後、仮面の男はバイクから立ち上がるとスナイパーライフルの銃口を向け、再度発砲する。

直後、右側のミラーが音を立てて割れたかと思えば今度は車の後方部へ着弾し鈍い音が響く。たきなが代わりに身を乗り出して発砲するものの、場所が不安定な状態で撃っても弾は当たらない

 

「このままじゃ埒が開かないッ・・・!! 」

 

このまま行けば全員が死ぬ。

どの道、生きては帰れないのは目に見えているが。

 

「車を捨てて行くしかない・・・!」

 

千束は歯を食い縛ると車を捨てる事に決めたらしく、プランの変更を提案する。

 

「けど、どうすんだよ!?目的地まで多少なりとも距離有るぞ!?」

 

ミズキはカーナビを見ながら叫ぶ。

この位置からだと未だ、目的地まで距離が有り過ぎる。オマケに今居るのはバイパスなので下手に降りられない。

 

「何とか持たせて!!バイパス降りてからなら大丈夫だと思う!」

 

千束は何か考えが有るのか、ミズキへそう促した。タイヤは残り3つ、車の車体は既に弾痕だらけ。ミラーも右側が破損し、後部座席のガラスも衝撃で破損したらしい。幸い、浅倉は伏せさせていた事から無事では有るが。

たきな、レナがそれぞれ代わる代わるで応戦する。更に去り際に千束が外へ発煙弾を投げつけ、その隙にバイパスを降りると近くの高架下へ車を乗り捨てる。

此処からは徒歩で行くしかない

 

「あーあ・・・これ修理費たっけぇぞー?」

 

ミズキは車から降りると様子を伺う。

もはやボロボロだ

 

「私達はこのまま浅倉さんと向かうから、ミズキは先生とクルミに連絡して。さ、2人とも行くよ! 」

 

千束はトランクからケースを取り出し、それを持つと歩き始める。

浅倉の左右をたきな、千束がそれぞれ固めながら前進し、レナは常に辺りを警戒しつつ進む。

いつ何処から敵が来るかは解らない事には変わらないのだ。

 

「クルミ、目的地までどれくらい?」

 

千束はインカムへ話し掛ける

 

[そこの路地を進んでから更に奥へ・・・大体、早くても50分は掛かる]

 

成る可く安全なルートを選択している為か時間が掛かってしまうのは仕方ない事だ。ターゲットの安全が最優先なのは変わりない

 

「了解・・・追っ手は来てる?」

 

続いて敵の数や状況を聞いてみる

 

[今の所は・・・いや、1人向かってる。例のドクロ仮面だ!千束!走れ!!]

 

クルミはインカムへ向けて叫ぶ

 

「解った、サンキュー。浅倉さん・・・少し走りますよ?大丈夫、必ず護りますから!」

 

浅倉と共に走り出すとクルミの指示を受けながら安全なルートを走る。

追い付かれないように必死に。そして辛うじて目的のビルまで後少しという所まで差し掛かったその時

 

「此処までだ。大人しくケースを渡してもらう 」

 

機械音の様な奇妙な声と共にバイクから降りた男が立ちはだかる。ドクロの仮面、そして頭や身体を覆う黒いローブ。右手にはアサルトライフルを持っている

 

「・・・アグレッサー!」

 

千束は銃を向ける。此奴は先回りしていたのだ。何処からか此方のルートを知り、そして最短ルートで此処まで来た。それだけは間違いない

 

「その男は抹殺対象・・・大人しく渡すのならお前達には手は出さない。」

 

アグレッサーは片方の手を差し伸べる。

手も白い走行で覆われており、爪のような物まで付いている。

 

「寝言は寝て言ったら?コスプレ仮面さん!」

 

千束は数発、発砲する。だが何か様子が可笑しい

 

「・・・非殺傷弾か。成程、お前が電波塔のリコリスだな?」

 

赤い噴煙が立ち上るものの、アグレッサーは動じていない。本来の人間なら呻き声と共に倒れるハズなのだが

 

「おいおい・・・マジかよ・・・」

 

その様子を見た千束は目で2人へ合図する。此処は私が引き受けるからと

 

「・・・レナ、ケースちゃんと届けろよ?」

 

千束がポイっと後ろへ投げたケースをレナが受け取る

 

「千束さん、上で待ってます」

 

そうレナは呟く。そして、たきなとレナの2人は浅倉と共に走り始める

 

「行かせるか!」

 

アグレッサーは追い掛けようとするが

千束が前へ立ちはだかる。

 

「行かせないっつーの!」

 

走り出すと千束が接近し、再び発砲する。今度は至近距離から。だが何かに遮られている様で噴煙だけが上がる

 

「お前が1番厄介なのは知っている・・・だから、対策させてもらった」

 

千束が撃った箇所のローブには穴が空いている。そしてそこから見えたのは黒いプレートだった

 

「ちょいちょいちょい・・・コイツはヤベーんじゃねぇの?よりによって私対策とか・・・!根っからのファンか!?」

 

千束は思わず舌を出した。

身体がダメなら、他箇所を狙うしかない。

 

「・・・今度は此方から行かせてもらう!」

 

考え事をしている千束を他所に、アグレッサーは走り出すと千束へ向けて発砲する。気が付けば小型の自動小銃へ切り替えていた。

 

「くッ!此奴・・・何なの!?」

 

千束は放って来た弾を避けながら応戦、

そして少し下がって此方も発砲し応戦を繰り返す。此方の動きすら読んでる様な気がしてならない

 

「この程度か?リコリス!!」

 

今度は蹴りを放って来ると、それを脇腹に受けてしまい千束は倒れる。

 

「いっつー・・・やるじゃん・・・!」

 

千束はゆっくり立ち上がる。だが

 

「お前の相手をしている程、暇では無い・・・!」

 

アグレッサーは千束の近くにある、本来の目的地のビルの3階へ右腕のワイヤーを放つとそこへ一気に飛び上がった。

 

「マジかよ・・・ッ!あんなの何処に隠してたの!? 」

 

千束は身体を起こすとビルの中へ入って行く。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

ーその頃ー

 

ビルの中の階段。エレベーターは万が一の為に備えて使わず、目的のフロアである8階迄は階段を伝って行く事に。

とはいえ、年配の浅倉にとって階段はキツイのは目に見えている

なので休みながら進む事になった

 

「此方たきな、例の仮面の男は未だ来てません。それに・・・変です、誰も追って来ないなんて」

 

今居るフロアは5階、あと3階で辿り着ける。たきなはクルミとのやり取りを続ける

 

[アイツ、千束を退いて一気に3階へ向かった。今は3階をしらみ潰し探してる・・・不味い・・・急げ、たきな!追い付かれる!!]

 

クルミは声を上げ、警告を促す

 

「解りました。急ぎましょう!」

 

2人の方を向いたその時、爆発音と共に3階の階段のドアが吹き飛んだ。煙の中から仮面の男の赤い目が不気味に光る

 

「くッ・・・!」

 

たきなは場所を悟られぬ様、敢えて発砲せずにレナと共に浅倉に肩を貸しながら階段を駆け上がる。

そして漸く目的のフロアへ辿り着き、ドアを開く。未だ仮面の男には追い付かれていないらしい

そのまま浅倉を遮蔽物の有る場所で休ませる事にした。

 

「目的のフロアへ到着しました。護衛対象を安全な場所へ移動させます」

 

たきなが連絡を取りつつ、レナは浅倉を護りながらフロア内を見回す

 

「浅倉さん、ケースはどの部屋に?」

 

たきなが振り向く。

後は本人とケースを届ければミッションは終わるのだが、ケースを届ける所。

即ち彼の子会社が何処なのかは知らされていなかった

 

「あ、ああ・・・そこの通路を曲がった所だよ 」

 

浅倉は指さす

 

「行きましょう。レナは浅倉さんを」

 

たきなは指示を出し、立ち上がると浅倉はレナの付き添いの元で歩き始める

そして指定された場所まで到達。

会社の入口のドアを開けた時だった

銃声が響き渡る。咄嗟にレナがカバンを突き出した際に出るエアバッグにより無事ではあったが

 

「遅かったじゃないか・・・青のリコリス。それに社長さん」

 

アグレッサーは既に会社の中に居た。しかも中央を陣取る様に。

社員らは予め浅倉が避難こそさせておいたが、既にデスクやその辺は滅茶苦茶になっていた。

 

「アグレッサー・・・!」

 

たきなとレナが銃を向けるも、動じる気配は無い。

 

「お務めご苦労だったな・・・」

 

アグレッサーが呟いた途端

 

「う、動くな!!」

 

浅倉はレナへ銃を向ける

 

「なッ・・・何してるんですか!?浅倉さんッ!?」

 

咄嗟に振り向く。銃を握る浅倉の手は震えていた

 

「全てはお前達を誘き出す為にオレと此奴が芝居をしたのさ・・・お前らが大切に守り抜いて来たケースも中身はカラ。オマケに位置が解っていたのも、此奴に持たせた発信機による物・・・」

 

たきなが持ってきたジュラルミンケースを開けてみる。出てきたのは紙の束のみ。それ以外は何も無い

 

「つまり最初から騙していた・・・?」

 

たきなの目付きが変わる。

浅倉は仮面の男のグルで、利用されていただけなのかも定かではないが

 

「ち、違うんだ!私は・・・私は・・・!」

 

浅倉が何かを言おうとした途端、アグレッサーは再び発砲する

 

「ッ・・・危ない!」

 

レナが浅倉を突き飛ばし、床へ倒させる。その際、引き金を誤って引いたらしいがセーフティーを外してなかった事が幸いし、無事だった。

 

「事情は後で聞かせて貰います。今は此奴を退けないと!」

 

たきながレナへ話し掛けると

頷いたレナはゆっくりとデスクを死角にしながらアグレッサーの左側へ移動を始める。

 

「ッ・・・!!」

 

先に撃ったのはたきな

一発目は間違い無く、アグレッサーの足へ撃ったが何かに弾かれる

 

「弾が弾かれた!?」

 

たきなは右に移動すると再び発砲する。

しかし、金属音と共に弾が弾かれると軌道を変えた弾が天井のスプリンクラーに

命中して水が滴り落ちる。

 

「ふふ・・・流石だな。噂通りのスーツだ・・・これなら・・・ッ!?」

 

何かが腰の辺りに押し付けられる

 

「・・・動くな、下手に動けば死ぬぞ」

 

レナが殺意の混じった声で話すと仮面の男を睨みつける。

しかし、動じる気配は無い

 

「ふふふ・・・そうか・・・、成程。運命の巡り合わせに感謝しなければな・・・」

 

仮面の男は笑い出すと即座にレナの方へ振り向き、彼女の片腕を掴むとたきなの方へ銃口を向けると引き金を引かせる。危険と判断した、たきなは身をかがめる。

 

「少し・・・付き合ってもらおうか?」

 

そう言うと仮面の男はレナを蹴り飛ばし、彼が入って来た方向へ逃げる

 

「くそッ・・・逃がすもんかッ!!」

 

レナは身体を起こすと走ろうとする。

たきなへ目をやると構わず行ってと促され、頷いたレナは男の後を追い掛ける

男は屋上に逃げたらしく、ドアが空きっぱなしになっていた。

警戒しながら屋上へ足を踏み入れると仮面の男は堂々と立っていた

 

「観念しろ・・・もう逃げ場は無い」

 

レナは銃口を向けると睨みつける

 

「逃げる?ふふ・・・逃げる必要なんて無い。キミと話がしたくてね・・・」

 

仮面の男は機械音の混ざった声で呟く

 

「お前と話す事なんて何一つ無い。大人しく投降するなら命だけは助けてやる・・・どうする?」

 

レナは耳を傾けず、そのまま銃口を向けている。

 

「命を助けるだと?ふッ・・・馬鹿な事を言う。いつからキミは変わったんだ?命は助けるモノじゃない・・・奪うモノだと教えたはずだが?」

 

仮面の男はそうレナへ伝える

まるで何かを知っている様に

 

「・・・ふざけるな!!そんなのはお前の理屈だろう?命はそう簡単に奪って良いモノじゃない!!」

 

歯を食い縛ると銃を持つ手に力が入る

戯言を並べる此奴が許せない

 

「いや、違う・・・キミは人を殺める為に産まれてきた。本来ならキミは此処に居ない筈の人間だった・・・だが、それを救済したのはオレ達だ。その制服もその銃も、本来ならキミは得る事が出来なかったのだから・・・」

 

男の言い方は、まるでレナの事を知り尽くしている様な言い方にしか取れない

だが、レナは自分の意思でリコリスになったとそう信じている。そして色々有ったものの、今の生活がとても楽しい。それだは変わらず、唯一の支えでも有った

 

「黙れ!!それ以上、喋るなぁあッッ!!」

 

そう言った時、既に引き金を引いていた。だが弾は男の顔の横をすり抜ける

 

「動揺しているな?本来なら確実に狙えた筈だが・・・。自分の与えられた役割を果たせ・・・それがキミの使命であり、我々の望みそのもの・・・キミは忘れてしまったのか?あのリコリス達に感化され、気が付けばキミは感情や愛情を得ていた。命を護るだと?笑わせるな。救世主にでもなったつもりか?バカバカしい・・・」

 

男はレナの足元へナイフを投げて渡す

 

「・・・銃を捨てて、それで立ち向かって来い。そうすれば思い出すだろう、キミが誰で、何者で、その与えられた使命さえも・・・」

 

男は指先を数回、折り曲げると挑発する。レナは銃を落とし、ナイフを拾うと男の方へ向ける。刃渡り15cmのコンバットナイフは太陽の光により刃の黒い部分がチカチカと光る

 

「ッ・・・!!」

 

レナは走り出すと男へ向かって刃物を振り翳す。だが、男はそれを避け、同じ様にナイフを引き抜くと刃を受け止める

 

「ふふ・・・ははははッッ!!それで良い!その目だ!!やはりキミだったんだな・・・これで確信が持てた・・・!!」

 

ギリギリと互いの刃が競り合う

少しでも力負けすれば斬られるのは明確だろう

 

「ぐッ・・・ふぅッ、ふぅッッ・・・!! 」

 

レナは怒りの余り、まるで鬼の様な形相で男の方を睨みつける。その直後、男からナイフを振り払うとレナに目掛けて横へ振り翳す。レナは身体を仰け反らせ、それを避けるのだが、その際に髪がサラサラと何本か落下すると、そのままレナは後ろへ下がった。

 

「もっと、もっと見せてくれ・・・キミの力はこんなモノじゃない・・・!」

 

その瞬間。レナの中で何かがキレた

それが何なのかは解らない

途端に湧き上がる殺意。この男は生かしておけば何れ、再び私の前へ立ち塞がる。ならどうする?消してしまえば良い・・・、今回の全ての原因はコイツだ。

コイツさえ殺せればそれで良い・・・

 

「あぁあああッッッーーー!!!」

 

レナは叫ぶと再びナイフを振り翳し、男へと斬り掛かる。それを男は受け流すと互いの刃が交錯し金属音と金属音が周囲に響き渡る。

そして遂に男のナイフを弾き飛ばし、追い打ちと言わんばかりに更に首目掛けて蹴りを加える。

男は蹴られると、地面へ倒れる。そしてそのまま馬乗りになるとナイフを振り翳す。

銃弾が弾かれた時に心臓は狙えないと解った。なら、コイツの喉元を狙えば仕留められる。そう思うとナイフを振り翳した

 

だが、レナのナイフは弾かれては離れに落下。手には痺れだけが残っている

 

「・・・何やってんの。人殺ししちゃダメだって言ったじゃん」

 

気が付けば千束が此方へ銃口を向けている

 

「くそッ・・・またお前か・・・!」

 

男は千束の方を向くとまた邪魔をしに来たと言わんばかりの声で叫ぶ。そしてレナを押し退けると銃を引き抜こうとする

 

「うちの可愛いセカンドに変な事させんなっつーの!」

 

その直後に数発、千束の銃で弾が腹部に撃ち込まれるのだがそれでも尚、立ち上がる。男はフラフラと歩くと屋上から飛び降りた

 

「やっぱり・・・ダメだったか。衝撃は伝わってるから結構痛い筈なんだけど」

 

千束は男が飛び降りた方を見に行くも、何処にも姿は無かった

そしてレナの居た方へ戻って来る

 

「・・・その手は血で染める手なんかじゃないよ。誰かと手を繋ぐ為の手でもあり、誰かを救う手でもある。それをどう生かすも殺すも、全てはレナ次第。キミは自由で良いんだよ。何者にも縛られなくて良い・・・例え自分の過去に何が有っても。これからもっと好きに生きればいい」

 

千束はレナへ寄り添った後、インカムで報告を入れる。任務後に解ったのだが、結局全てはアグレッサーと浅倉による共同による犯行だったらしい。

8階のフロアにあるという浅倉の子会社自体は本物だったが。

浅倉自体に金銭絡みでの良くない噂が有り、そこへ漬け込んで行われたという見解だった。その後、浅倉は全ての事を素直に認めると謝罪した後に去っていった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

ー翌日ー

 

「ええーー!!?あの社長さん何もくれなかったの!?あんだけ色々やらかしたのに!?」

 

千束が店の中で叫んだ

どうやら色々と納得いってないらしい

 

「それ昨日も言ってましたよね?見返りは無理ですよ、千束。お礼は私が断っておきましたからキッパリ諦めて下さい」

 

どうやらこれ以上、関わるのは面倒だと判断したらしい

 

「うっへぇ〜、マジかよぅ・・・社長だから期待したのにぃ・・・」

 

すると外の掃除をしていたレナが店の中へ入って来る

 

「此処に来る時、宅配便の人から荷物を預かって来ました。浅倉さんからです」

 

そっとカウンターへ荷物を置く

大きめの箱だった

 

「うっほほーい!ほらぁ!やっぱり何かあったじゃん!!ほらほら!開けよ、開けよ!」

 

ウッキウキで千束が箱を開ける

そこにはメロンが3つ。

 

「うっはぁああ!!!メロンだぁ!!!」

 

千束は目をキラキラ輝かせている

 

「これって高い奴ですよね・・・」

 

たきなが横から見ている

間違い無く高そうな奴なのは解る

 

「・・・これは取っておきましょう」

 

喜んで跳ねてる千束を横に箱をどかそうとする

 

「ええ!?何言ってんの、コレはお昼のデザートにすんの!!」

 

グイッと箱を引き寄せる

 

「ダメです!どうせ全部食べる気でしょう!?解ってますからね!」

 

再び箱が、 たきなの方へ引き寄せられる

 

「ダーメ、食べるの!食べたい!食べたい!たーべーたーい!!」

 

千束が駄々を捏ねる

 

「子供ですか!まったく・・・」

 

箱を取り上げると台所の方へ持っていく

 

「たきなのケチんぼ・・・良いもん、レナと何か食べに行くから!行こ!」

 

グイッとレナの手を引く

 

「え?あ、ちょッ・・・!?」

 

そのままレナは引き摺られて行く

 

「へぇ・・・ならメロン食べちゃいますからね?千束!それより未だ頼んだ仕事終わらせてないですよね?」

 

ギロっと台所の方から鋭い視線で睨まれる

 

「うぐッ・・・」

 

レナの手を引く千束の足が止まる

 

「仕事しないなら千束の分のメロンは抜きです!!」

 

そこへ追い打ちを掛けられる

 

「嘘だろぉおお!!!?仕事ちゃんとしますからメロン抜きは止めてくれよぉお!!頼むよぉ、たぁきいなぁ〜!!」

 

パッとレナの手を離すと、たきなへ泣き付こうとする。それをレナは近くで見守っていた。いつもの事だと思いながら

 

こうして、今日も騒がしい様な一日が過ぎていくのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。