何もかも失った少女が幻想郷で夢幻の幸せを見つける話 [完結]   作:抹茶だった

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11話

 

 

 

 縁側に腰掛けて緑茶を啜っていると、背後で空気がねじれるような感覚がした。揺れたわけでもないのに湯呑みの中に波紋ができた。

 ――胡散臭い気配。あいつが来たのね。

 無視して緑茶を飲み干し、追加の茶を少し淹れると、その湯呑みをひったくられた。

 

「……何よ」

 

「ずいぶんご挨拶ね。お客様はもてなすものよ?」

 

 もてなしてほしいのなら、せめて玄関から入ってきてほしいわね。ついでにお賽銭も入れて。

 

「……紫、あんた何か企んでいるでしょ」

 

「言いがかりは良くないわ〜霊夢?」

 

 急須を置き、気になっている話題について言うと、はぐらかされた。

 最近、結界の様子がおかしい。――いや、最近というのは語弊があるわね。2ヶ月ほど前から僅かに綻んでいたのが収まることなく、悪化し続けている、というのが正しい。

 外の世界の品がよく流れ込んでくるようになったし、妖精をやたら見るし……。

 これ以上放置するのは流石に後が面倒になる。

 

「あんたもそろそろ歳なのね。世代交代を考えるべきよ」

 

「辛辣ねぇ。今はただ時機じゃないだけよ」

 

 時機を待ちたいなら時間潰しに茶菓子でも持ってこればいいのに。

 

「これ以上やると私が仕事が増えるじゃない」

 

「境内の掃除よりは刺激的でしょう。感謝しなさい」

 

 睨みつけてやろうとしたけど、もうそこには空の湯呑みしかなかった。

 ……何の情報も増やさずに、お茶だけ飲みやがって。

 

「はぁ……お茶もただじゃないのに」

 

 次に魔理沙が来た時に集らないとね。緑茶ほどじゃないけど、あいつの作るキノコ茶もなかなかのものだし――。

 

「そういえば最近来てないわね、あいつ」

 

 

 

   〇 〇 〇

 

 

 体の魔力の流れに意識を向ける。

 青い光の流れを順に追っていくと、一部が漏れているのが感じ取れる。漏れている先を慎重に辿っていく――

 

「……はぁ、また途切れた」

 

 集中が切れると、森のざわめきがやたら大きく聞こえた。

 だめだ、成果が得られない。

 魔理沙様が言うには、外の世界に対して魔法を使うとき、外の世界にある私の体というのは良い中継地点になるらしい。

 魔法はやろうと思えば手以外からも出すことができる。例えば目とか、口からレーザーを出すとかね。

 その延長線上として、生身の私の体が使えるんだけど……。

 これがほんとうまくいかない。

 悩んでいると、背後から枝葉を踏む音が聞こえた。

 振り返ると、肩についた葉を払いながら、魔理沙様が歩いてきていた。

 

「うまくいかないか。理論上じゃそんなに難しいことではないんだけどな」

 

 人払いの魔法を使っているとはいえ、これだけ時間戻らなかったから、心配させたかな。

 

「どれだけ慎重にやっても、途中で壁みたいなのにぶつかって集中が切れるんだよね」

 

「外の世界に干渉するのは、一筋縄じゃいかないってことか」

 

 今日も進展はなかった。

 帰り道を低速で飛びながら考える。

 幻想郷と外の世界は思っている以上に分厚い隔たりがあるみたい。

 そう易々とは繋がったりはしない――。

 

「幻想郷に来ることはあっさりできたのに……」

 

「基本的には一方通行だしな。出る時は霊夢や紫に結界を緩めてもらう必要がある――あっ」

 

 ……もしかして希望が見えた?

 

「紫に頼んで結界を緩めさせて、それからならアイの魔法が使えるんじゃないか?」

 

「……本当だ。それなら可能性あるかも」

 

 それなら後は『私に関する記憶を消す魔法』を用意して、外の世界の――日本の大部分を覆える規模で発動できるように準備すればいいのか。

 無理かも。

 魔法は複雑な術式を広範囲でやろうとすると、とんでもない量の魔力を使う。今の私じゃ記憶を改変するなら、相手の近くまで行かないといけないし、それをしたところで数人分しか記憶を消せない。

 

「どう考えても魔力が足りない……」

 

「魔力か。魔法陣を書くくらいじゃ補えないよな」

 

「……うん」

 

 私が残り10日間精一杯魔力の準備をしたところでまず足りない。

 やっぱり諦めるしかないのかな……。

 

「……。いや、私に妙案がある。要するに大量の魔力を用意できて、決行日に結界を緩めれば良いんだろ?」

 

 魔理沙様は歯を出して笑った。

 

「私に任せておけ!」

 

「ありがとう、魔理沙」

 

 ……魔理沙様は本当にすごい人だ。私はきっと一生彼女を尊敬し続けることになる。私のような突然降って湧いた他人にここまでしてくれる面倒見の良さ……感謝しても仕切れない。

 

「あー。私に任せておけとは言ったが、家に戻ったらちょっと作って欲しい魔法陣があるんだよな」

 

「そうなんだ。どういう魔法?」

 

「『10日後に祭りがある』っていう偽の記憶を植え付ける魔法だ」

 

「偽の記憶を植え付ける?」

 

 一瞬、冗談かと思った。でも魔理沙様の顔は冗談を言う時のそれではなかった。どういう目的があるんだろ。

 顔に出ていたのか、魔理沙様はいたずらっ子のような笑みを浮かべて話し出した。

 

「簡単な話さ。大量の魔力を集めるなら、大量に術師を用意すればいいわけだ」

 

「それでお祭りをするっていう嘘で人を集めるんだね」

 

「そうだ。それで、そいつらから多少魔力を借りて――アイの魔法の燃料にするんだ」

 

 なるほど――幻想郷の人たちから魔力を奪って使うことになるのか。

 その方法ならもしかすれば魔力が足りるかもしれない。

 

「いろんな人から魔力を奪うことになるけど……大丈夫なの?」

 

「大丈夫だ。死なない程度に調整するからな。なんだ、これから大勢の記憶を消そうとしてる割に常識的な面があるんだな」

 

「……そ、そうかな?」

 

「まぁアイに関する記憶しか消さないなら、ほとんどの奴にとっては何も変わらないか」

 

 飛んでいるうちに魔理沙様の家が見えてきた。

 

「……そういえば、本当に消しちまって大丈夫なのか?」

 

「何が?」

 

「アイに関する記憶だ。いくらアイが記憶喪失だからって、家族とか友達から忘れられるっていうのは寂しくないか?」

 

「……別にいいよ。たぶん私、そんなに大切にされていないから」

 

 もしも外の世界で私のことを大切にしてくれる人がいたならば、私は脚を切り落とそうなんて絶対にしていない。

 きちんと愛されて育ってたら、あんな歪んだ贈り物は思いつかない。

 

 

「そっか。なら、なおさら幻想郷に残らないといけないな」

 

 魔理沙様の横顔は今までにみたことがないくらい真剣だった。

 

「……そうだ、結界の方はどうするの? いくら死なない程度とはいえ、魔力を人々からかき集めるような方法を取ると、八雲紫は協力してくれないんじゃない?」

 

 幻想郷を我が子のように愛でている彼女なら、住民に対して仇なす行動も良しとしない。

 

「紫の協力は必要ない。結界のことは私に任せておけ。とっておきの魔法が用意するからな」

 

 玄関のドアを開け、中に入る。

 この計画が失敗すれば、私は幻想郷から追い出され、きっと二度と戻ってくることはできない。

 魔理沙様は魔力と結界の問題を必ず解消してくれる。最終的には私の魔法が成功するかにかかっている。

 

 残りの期間、死に物狂いで鍛えないとね。

 

 

 

 

 

 

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