何もかも失った少女が幻想郷で夢幻の幸せを見つける話 [完結]   作:抹茶だった

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3話 死ぬ理由

 

 

 

 

 

 

 八角形の箱を片手で持って空に向け、魔力の循環に意識を集中する。

 並行して周囲の魔力を吸い上げて体の隅々まで魔力を満たす。

 

 熱い。

 体という器から魔力が溢れてしまいそう。でも、まだ止めない。

 昨日よりも……前回よりも一滴でも多く魔力を集める。

 

 マリサに渡されたこの八角形の箱こと、ミニ八卦炉は魔力を吸い上げてレーザーとして放出できる装置らしい。ただ、厄介なのが設定した火力に応じた量の魔力を術者から吸い上げてしまうこと。

――つまり、身の丈に合わない火力を扱うと、魔力を吸われすぎて死ぬ、らしい。

 

 

「集中した方が良いぜ。魔力を散らしすぎると八卦炉が吸い尽くしちまうぞ」

 

 マリサの言葉を聞き、気を引き締める。

 魔力は十分満ちた。

 ミニ八卦炉に魔力を少し注ぎ、起動させる。

 

「――ッ」

 

 全身の熱が一瞬にして全て右腕から吸い上げられ――それは光の束となって空へと放たれた。

 轟音と共に、右手が燃えているかのように熱くなり、森が揺れ、鳥が一斉に飛び立つ。

 

 

 やばい、テンション上がる。

 私の好きなキャラクターの得意技と似たことができるからすごく楽しい。

 でも、これやると毎回貧血みたいになって、足元がおぼつかなくなる――。

 

「おっと、また限界ギリギリまでやったのか」

 

 そう、倒れかけてもマリサが受け止めてくれる。もし彼女が男だったら私はすでに恋に落ちてると思う。

 

「データがとれて、こっちとしては願ったり叶ったりなんだが……もっと自分を大事にした方が良いぜ?」

 

 小説の真似をしてるだけでマリサの役に立てて、その後介抱までしてもらえる――最高の人生だ。死ぬ理由が見つからない。

 

「私、役に立ててる?」

 

 幻想郷では弾幕ごっこというのが最近流行ってて、マリサはスペルカードという必殺技みたいなのを研究しているらしい。

 魔力を効率よく使って、力に特化したスペルカードを作りたいみたい。

 

「ああ。一人暮らしじゃぶっ倒れるまで魔法をパなすなんてできないからな。アイが手伝ってくれて本当に助かるぜ」

 

 マリサに抱えられると、揺れと魔力切れの眠気が噛み合って非常に心地よく意識を落とすことができる――。

 

「――そうだ、お礼も兼ねてアリスに会いにいくか」

 

 ――アリス? その声に体が熱くなる……が、魔力切れというのは抗えないもので、だんだん瞼が重くなってきて――。

 

 

 

 

   〇 〇 〇

 

 

 

 

 一学期の修了式を終えて小学校から帰ってくると、家の鍵は閉まったままだった。

 お父さんは仕事だし、お母さんに何か伝えられているわけでもなかった。

 仕方なく、植木鉢の下から取った鍵で家に入る。

 

 部屋の明かりはついていた。テレビもついてる。テーブルには食べかけのパスタが残されてた。

 

 いつもならお母さんがお夕飯の用意をする時間になっても、部屋には私以外誰もいなかった。

 夏休みの宿題をして、借りた本を読んで1時間――誰も帰ってこない。私の部屋にも、お母さんたちの寝室にも書き置きはない。

 

 テレビを見ていてもお菓子を食べていても、しきりに時計を確認する。針はゆっくりとしか進まない。

 遊んでても気分が乗らない、退屈だけど宿題を進める。

 

 

 

 気がついたら寝ていた。つまらなすぎたからかな。

 外はもう暗くなってきていた。

 だけど誰も帰ってこない。いつもならもうお父さんが帰ってくる時間なのに。

 

 寂しくてもお腹は空いて、お菓子の封を切った。いつもなら途中で食べるのを止められるのに、誰にもいないから何も言われない。

 

 その日は、いくら待ってもお母さんもお父さんも帰ってこなかった。

 

 どれだけの間一人で過ごしたかは覚えてない。ただ、だいぶ待ってからお爺ちゃんが焦った様子で家に来たのは覚えている。

 

 

 

   〇 〇 〇

 

 

 

 

 

 また寝ちゃったか。

 ベッド出て片脚で立ち上がる。

 最近になってようやく立てるようになった。体に肉もついてきた。――このペースで太るのはまずいのでは。今はまだ、やや細めの範疇だけど、これは気をつけないとあっという間にぽっちゃりになってしまう。

 運動も兼ねて、片足で移動する練習でもするか――と意気込んで違和感に気づく。人の気配がしない。

 

「マリサ――いないの?」

 

 マリサさん……どこ? あぁ、そうだ。アリスとかいうのに会いに行くって言ってたような。

 これじゃ家の周りを散歩できない。掃除で時間を潰そうにも、散らかった部屋を片付けるなとも言われてる。

 仕方なく、ベッドのすぐ側に掛けてある(ただのえだ)で体を支え、本棚へと寄る。

 

「表紙が読めない……」

 

 読める文字が無さすぎて内容すら分からない。読めないってことは魔法について書いてあるのかな。きっとね。

 ……これなら読めるか。

 表紙には『魔法の森のキノコ』とある。あんまり興味はないけど、読んでみたら案外面白いのかもしれない。

 

「……これって」

 

 著者名には魔理沙と書いてあった。マリサさんの名前ってこう書くんだ。というか本とか書くんだ。意外。

 ページを捲ると、イラストと文字でキノコの説明がされていた。見た目や生えてる場所、毒性に味まで一つ一つ詳しく描かれている。

 シイタケとかしめじみたいな聞き馴染みのあるのから、ネムリタケやネズキノコみたいなファンタジックなキノコまである。

 こうやってみると、キノコって大体毒を持ってるのね。いくつかは覚えておいた方が良さそう……。

 

「アイ! 起きてるか‼︎」

 

「ひゃ」

 

 驚いた拍子に杖が滑り、顔から床へと突っ込んだ。

 

「おいおい、大丈夫か?」

 

 魔理沙の手を借りて立ち上がる。私、転んでばっかりね。

 

「ありがとう、魔理沙。……足一本にはやっぱり慣れないね」

 

「そう思ってるだろうって、今日は用事を持ってきた――研究の礼も兼ねて、義足を作らないか?」

 

 義足? 突然のことで話についていけない。歩けるようになるってこと? そうなれば魔理沙さんの役に立てる?

 

「善は急げ、だ! アリスんとこに早く行こうぜ!」

 

「え」

 

 返事をする前に、魔理沙さんに軽々と抱えられる。相変わらず、すごい力……。かっこいい。

 玄関から出ると、箒が何処からか飛んできた。魔理沙さんは私を抱えたままそれに飛び乗った。

 

「怖くないか?」

 

「魔理沙となら、もう大丈夫」

 

「いつか自立してくれ?」

 

 木よりも高く飛び上がると、森の上を――思いの外ゆっくりと飛び始めた。自転車くらいの速さだ。

 風が気持ちいい。森の匂いがする。

 

「今日はよく晴れてるし、風も気持ちいし、最高の飛行日和だな。こんな日は――最高速度を出すに限るぜ!」

 

 私を抱く手が強くなる。さっきまで聞こえていた小鳥の鳴き声は、風を切る音で塗りつぶされた。木々が高速で視界に入っては消え去っていく。

 

「ひ……ひんっ」

 

 生きた心地がしない。体にかかる風圧が、今の速度を分からせてくる。もし箒から落ちたら――死ぬのでは⁉︎

 

「おうおう掴む力が強すぎるぜ? ちょっと痛いぞー」

 

 そんなこと言われても怖くて離せない。心の中で謝りながら、変わらず魔理沙さんに抱きつき続け――

 

 

 

 

 

 

 ――体感3時間くらいだろうか? お日様の位置は全く変わってない気もする。私が死の淵を見ていたから長く感じただけで、そんなに時間は経ってないのかもしれない。

 

「ふぅーー。やっと着いた。ほら、力を緩めてくれー」

 

「はぃ……」

 

 やっと地面に足がつく……。やっぱり空より地べたの方が性に合ってる。地に足がついていると落ち着くね。たとえ片方でも。

 顔を上げると、木造の小屋があった。庭まである。花壇もある。隅々まで手入れが行き届いていると印象に残る外観だ。あと、見間違いでなければ――

 

「人形が飛んでる?」

 

「アリスは人形使いだしな。そりゃ人形くらい飛んでるだろ」

 

 タネも仕掛けもわからないけど、確かに人形が庭の花に水をやったり、枯れ葉を箒で払ったりしている。これがスマートホームか。魔法の力ってすごーい。

 魔理沙さんが近くにあった枝を拾い、それを渡してくれた。

 

「さ、行くぞ」

 

 枝を杖がわりにして入口へと歩く。そうすると、付近にいた人形たちが一斉に私を見た。

 値踏みをするような視線がとても居心地悪い。そんなに珍しい格好してるかな。私が勘違いしているだけでもしかして歓迎? そんなわけないか。特に理由もなく他人を歓迎する人なんているわけないし。

 

「アリスー戻ったぞー」

 

「お邪魔します……」

 

 返事も聞かずに家に入る魔理沙に着いていく。幻想郷に来てから二軒目のお宅訪問だ。

 ……なんだが、暮らしの丁寧さを感じるな。玄関にある小物や飾りがとってもお洒落できれいに整頓されている。こういうとこに住んでいる人がYouTubeにモーニングルーティンをあげてるんだと思う。

 

 リビングにはお人形さんみたいな、金髪の女性がいた。青色のワンピースに白いブランケットを羽織っている。古めかしくて重厚感のある家に、物憂げな表情で本を読む少女――そう思うと、とても絵になりそう。

 ただ、そのエモい感じを掻き消す、大量にある人形。存在感がすごい。赤ん坊くらいあるやつから、手のひらに乗るような大きさまで、控えめに見積もっても数百はある動かない人形。あと、それとは別に窓掃除とか人形の手入れをする、動く人形。

 

「すご……」

 

 これが畏怖か。

 

「アリス、アイを連れてきたぜ」

 

「戻ったのね。……早速、この子の義足を作ってあげるわ」

 

 アリスはこちらを一瞥すると、私に無数の人形がまとわりついてきた。

 

「動かないで」

 

 身動きを禁止するその声はとても冷たい。もしかして私嫌われている? 初対面なのに。またなんかやっちゃったか。

 

 人形は巻き尺で私の身長や脚の長さを測り始めた。採寸するなら言ってくれたらいいのに。お腹引っ込めとこ。

 

「ちょっと右腕を出してもらっても良いかしら」

 

「はい」

 

 やっぱり声が冷たいな。こういう人なのかな。アリスは私の腕を軽く掴むと魔力を流し込んできた。冷ややかな水のような魔力が私の体を隈なく巡る――。

 水が私の全身に行き渡ると、アリスは手を離した。

 

「魔理沙、先払いしてもらったところ悪いのだけど、この子の義足は作ることができないわ」

 

 アリスはそう言ってため息をついた。魔理沙さんはそこに詰め寄る。

 

「……なんでだ? 話が違ってくるぜ。それは食い逃げみたいなもんだぜ」

 

「私から本を6冊も『借りてる』身分でそんなこと言われたくないわ。今回に関しては……。そうね、この子がただの外来人なら義足を作るくらい、なんてことはなかったのよ」

 

 アリスは私の瞳の奥を透かすようにこっちを見て――告げた。

 

「――あなた、人間じゃないわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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