何もかも失った少女が幻想郷で夢幻の幸せを見つける話 [完結]   作:抹茶だった

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 もしかしたらちょっとグロいかもしれないです。


5話 左腕

 

 

 

 

 飛行の制御ができるようになってから、精力的に魔理沙様の手伝いができるようになった。移動は一人でできるし、魔力の扱いも上達したからね。

 

 魔理沙様が求めるのはあらゆる敵を正面から倒す力。

 弾幕はパワー。

 耐久(力比べ)回避(逃げ)の二択を強者へと投げかけることにカタルシスを感じるという。

 

「なぁアイー」

 

「どうしたの?」

 

「どうやればもっと良くなると思う?」

 

 魔理沙様はジレンマにぶつかっていた。

 魔理沙様はレイムという女に勝ちたいらしい。だけど、その女の使う霊力の壁は、ある程度魔力を圧縮――レーザーの太さを細くしないと貫けない。だけどレーザーを細くするのは派手じゃないからつまらないらしい。

 

 

「あらかじめ毒を盛る? そうすれば硬い壁なんか出せなくなるよ」

 

「殺し合いをするわけじゃないのぜ」

 

「力を使い切らせて、避けられない状態に追い込んでから撃つとか?」

 

「なるほどな」

 

 必中無敵貫通……みたいな。単純に魔力量を増やすのもいい……そうだ。

 

「私の魔力を全部吸い上げれば、魔理沙が一人で撃つよりも大きな魔力を扱えるよ」

 

「そうかもしれないが、全部なんて吸い上げたらアイに負担がかかりすぎちまう。もっと自分を大切にしてくれ? ……アイの発想は私にはないものだから、それだけでも助かってるんだぜ」

 

 魔理沙様はそう言って本を取った。

 

「良かったらこれで魔法について勉強しないか? やれることが増えるのは面白いし、私としては優秀な助手ができるから一石二鳥だろ?」

 

「やります!」

 

 魔理沙様の役に立てるなんて素晴らしい。めっちゃがんばろう。ついでに魔法も楽しんどこう。

 早速本を開き――以前に勝手に本を開いた時のことを思い出す。

 魔理沙様から賜ったこの本――これは私の知らない言語で書かれている。つまり全く読めない。

 私が困った顔をしていたからか、魔理沙様は私の手を取り、本に乗せて言う。

 

「試しに魔力を本に流し込んでみろ。……少しずつだぞ?」

 

 言われた通り魔力を流し込んでみる。いつもは右手に溜めてから放出しているけど、今回は魔力を溜めずにそのまま流す。

 やがて、本が輝き始め、文字が書き変わっていく。

 

「魔法について書かれた本は魔力を流し込まないと読めないんだ」

 

 つまり独学じゃあゼロから魔法の勉強は全くできないんだね。魔法について勉強するために魔法の知識がいる。これ知ってる、お金を稼ぐ勉強をするためにお金がいるやつ。クソゲー感ある。

 今、元の世界に帰ったらこの場所(魔理沙様との同棲)との落差ですぐに自殺しちゃいそう。というかとっくにしてて、幻想郷に来れたのかもね。

 

「その本に書いてあるのは火、水、風、土――四属性の魔法についてだ。大抵の魔法はその本の内容を発展させたものだから、めっちゃ重要だぜ!」

 

「魔力が火や水に変わるの?」

 

「ああ。魔法陣を書いたり詠唱して魔力を放出すればいける」

 

 とてもファンタジーを感じる。魔法の勉強をして、魔理沙様の役に立って、魔理沙様はレイムを打倒する――。

 

「そういえば霊力ってなに?」

 

「あー、魔力とは使い方が違うだけで、ほとんど変わらない。妖力とか神力とか色々あるけど全部似たようなもんだ」

 

「そうなんだ」

 

 神力ってたぶん神様関係だよね。じゃあ妖力は妖怪――なら霊力は幽霊? つまり――? 

 

「レイムって幽霊なの?」

 

「ピンピンしてるよ。……霊力は人間が使う力であって、幽霊とは関係ないぞ」

 

 違ったか。幽霊なら塩かけてやろうと思ってたんだけどな。

 地道に魔法の勉強するしかないか。とはいえ、単にレーザーの火力を上げるのにはかなり時間がかかりそう。単純に使う魔力量を増やすだけだと負担が増えるし……。

 

「魔力ってどこかに溜めとけないの?」

 

「私自身以外だと……こういうマジックアイテムとかにはある意味溜められるな」

 

 魔理沙様は缶を取り出した。それを外へ向けると、星型の弾がたくさん飛び出した。

 

「魔法陣に魔力をあらかじめある程度流しておけば、発動する時の魔力の消費を最低限にできるぜ。私の大魔力を密閉できる容器がないから、必殺技には使えないけどな。」

 

「魔法陣に流した魔力を戦闘中に回収すれば、好きな時に大きな魔力が使えるんじゃない?」

 

「さっきも言ったが、外部から魔力を吸収するのはコスパが悪いんだ。例え自分の魔力でもそれは同じ。覆水盆に返らずってやつだぜ」

 

 ……? 魔力って外から吸収するのはコスパ悪いの? 魔理沙様ごそう言うなら間違いないか。

 

 あっ。

 

「そういうやつたくさん作って、レーザーと一緒に全弾放出したら?」

 

「――アイ」

 

 魔理沙様はその場で立ち上がり、私に思いっきり顔を近づけ――⁉︎

 あ、無理。赤スパ投げなきゃ。肝臓売ってお金作らなきゃ。

 失ってた記憶の一部が掘り起こされたよ。これが推しのガチ恋距離か。なにこの近さ。

 めちゃやば。

 エモ

 よき

 尊

 

 

「素晴らしいぜ! 最高の案だ。それ採用――って、アイ?」

 

 

 

   〇 〇 〇

 

 

 

 高校に上がる頃には、流石にママとの距離感を掴めるようになっていた。

 必要な物とかお小遣いはくれるけど、雑談とかはしてくれない。

 生活環境はどうにかしてくれる。他は不干渉。話しかけてもほぼ無反応だから気がつけば、私も挨拶と連絡くらいしかしなくなった。

 

 この人はきっと、私がどこかに行ってしまっても涙一つ流さない。

 お母さんが愛していたのはお父さんであって、私ではなかったというのをようやく理解できた。

 

 だからか、私は――

 

 

 

 

「え、めっちゃ料理得意やん」

 

「うん。家でよくやってたからね」

 

 初披露の特技を褒められるの気持ちいい。承認欲求が満たされるな。

 わざわざ手間のかかる料理を作った甲斐がある。

 

「すげえな。俺も料理が上手くなればこのレベルが毎日食えるってことか!」

 

 美味しそうに食べてくれるの嬉しいな。うちの母とは大違いだ。

 ……こんなに喜んでくれるなら、他の料理も食べてみてほしいな。

 

「数年も続ければ誰でも上手くなるよ。よかったら、しばらくの間晩御飯だけでも作ってあげようか?」

 

「いいのか⁉︎ ……いや、流石に悪いよ」

 

「気にしないで。最近読みたい本がなくて暇なの」

 

「でも帰るの遅くなるだろ。親になんか言われるんじゃねえの?」

 

「大丈夫。――あなたと同じで一人暮らしみたいなものだから」

 

 

 

 

 ――気がつけば、私を必要としてくれる場所に入り浸るようになっていた。

 

 

 

   〇 〇 〇

 

 

 

 

 

 

 ……夕方?

 幻想郷に来てからというもの、変な時間にばかり寝たり起きたりしてる。もしかして幻想郷に来る前も昼夜逆転の自堕落女だったのかな。

 

 ……風景が妙に赤いな。夕方かと思ったけど、それとも違う気がする。

 

「赤い……霧?」

 

 窓から空を見ると、真っ赤なモヤで覆われていた。こんな天気明らかにおかしい。一目でわかる異常事態――

 

「……これがもしかして『異変』なの?」

 

 魔理沙様に弾幕ごっこのルールを教えてもらったときに聞いたっけ。妖怪がたまに起こす、幻想郷を揺るがす大事件――異変。

 とは言え、今起きてるのは空が目に悪そうな色をしていることと、薄暗いくらいで実害はそうでもないんじゃ。もしかして吸うと体に悪かったりするのかな。或いは動物が凶暴になるとか。

 

「魔理沙様は……異変を解決しに行ったのかな」

 

 魔理沙様はレイムに弾幕ごっこで勝つことと、先に異変を解決することに執着していた。彼女は活動的な人だから、すでに向かっている気がする。

 

「私は家に篭っていようかな」

 

 そんなこと思いながら踵を返そうとした時、気のせいだろうか。

 木の影に、うずくまる金髪が見えた気がする。

 

「……魔理沙様? いや色が微妙に違う気がする」

 

 確信は持てない。

 違ったら――いや、違わなかったら笑えない。

 ゆっくりと飛行して近づいてみる。

 

「魔理沙?」 

 

 ……案の定魔理沙様ではないな。子供かな。金髪のボブで、赤いリボンをつけた、洋装の少女。

 ……死んでないよね? あちこち服は破けているけど、息はしているみたい。寝てるのかな。運んであげるか。

 

「あなたは誰?」

 

「ひゃっ」

 

 手を伸ばした瞬間、顔がこっちを向いた。起きてたのか。驚かさないでほしい。

 

「ねぇ」

 

「ん?」

 

「あなたは食べても良い人類?」

 

 こちらを見る少女の瞳孔が、爬虫類みたいに細められた。

 少女の一言を聞いた瞬間、全身が粟立つ。

 

「え、あ」

 

 どうして。

 自分よりずっと小さい少女が、立ちくらみそうなくらい怖い。

 ――こんな見た目で人間を食べる妖怪?

 逃げなきゃいけないのに、気がついたら私は尻餅をついていた。

 もっと化け物みたいな見た目なら反射的に逃げてたのに。

 ただの可憐な少女から、触れそうなほどの殺意を浴びせられて、体が動かない。

 

「やだ……殺さないで」

 

 心臓がうるさい。なんでこんなに怖いの。見た目はただの子供なのに。

 おかしい。不自然。不条理。体に異変が起きている。

 

「殺さない程度に食べたら良いんだね」

 

 少女は目にも止まらぬ速さで近づいてきて、私の肩を掴んだ。

 

「私はルーミア。約束通りお姉さんのことは殺さないけど――味見させてね♡」

 

 今はない足を食べられた記憶のせい? それとも肌を撫でる妖力が、私の魔力とは桁違いだから? 私の肩を掴む手が、少女の見た目からは想像できないくらい強いから?

 

 いや。

 いや。

 こんなとこで、いや。

 やっと魔理沙様に恩返しができそうなのに。

 

「いただきまーす♡」

 

 ルーミアは私を押し倒し、突き飛ばそうと咄嗟に出した右手を――噛みちぎった。

 痛ッ痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いッ⁉︎

 指が2本欠けた。信じられない量の血が出てる。ピンク色と白色が欠けたところから見える。激痛が激痛が。――。

 

「なんか味が薄いね」

 

「――ッああああああああああああああああ‼︎」

 

 ルーミアは深々と前腕を噛み千切った。

 皮膚が破れ筋肉が千切れ骨が砕け腕がふにゃりと曲がり右手の先の痛みが絶たれ新しい激痛が生まれ自分の喉から到底聞いたことない声量で絶叫が溢れた。

 痛い。痛い。痛い。こんな苦痛――

 

「やっ、ややめて――」

 

「まだまだお姉さん死なないでしょ? 次は左腕ね♡」

 

「いッッッ――――‼︎」

 

 全身でめちゃめちゃに暴れてるけど、ルーミアは跨ったままびくともしない。ルーミアは口の周りを真っ赤に汚したまま、私の左腕に食いついた。

 痛いなんてもんじゃない。せめて失神できたらいいのに、いっそ死ねれば――

 

「死に、だぐ、ないぃ」

 

「もちろん殺さないよ」

 

 左手が指先からどんどん減っていく。きゅうりでも齧るみたいに食べられていく。両腕の機能が欠ける。これじゃあまた魔理沙様の迷惑になる。生活ができなくなる。いっそ殺してほしいとさえ思う。でも死にたくない。これからやっと恩返しができるのに。

 

「やだやだやだやだやだやだやだやだ」

 

 骨が砕ける音と振動が伝わってくるたびに気が狂いそう。筋繊維が切れるたびに悲鳴が出る。皮膚がちぎれるたびに死にたくなる。でもでもでもでも――

 

「左腕は美味しいね!」

 

 どうしてか、痛みがなくなってきた。

 もう右手は動かない。左腕は肘までしかない。

 どうにかしなきゃ。魔力を吸って体を巡らせて左腕に集めて――

 ルーミアは、私を殺さない程度に食べようとしてるからか、右腕に興味を移した。

 落ち着いて最大威力を左腕に集める。……不思議といつもよりたくさん集められる。限界まで我慢しないと。

 ルーミアは私の右肩を抑え、そのまま右腕を引きちぎった。目の前で私についてた腕から皮膚が剥がして、くちゃくちゃと咀嚼しはじめる。

 私の魔力でも、最大火力で放出すればこの子を吹き飛ばすくらいはできるはず――

 

「――何をやろうとしているの」

 

 ルーミアはそう言って私の首元に顔を近づけ、何かを勢いよく噛みちぎった。

 血が噴水みたいに真上に上がり、視界を赤く染めていく。

 

「ひゅー」

 

 声が出ない。

 

「ひゅーっひゅーっ」

 

 口から息が出ない。

 

「ごめんね、約束破っちゃった」

 

「かふっ」

 

 くちに、ちがたまってる。

 

「どうしたのお姉さん、顔色が悪いよ? なんてねっ」

 

 たすけ

 

 て

 まり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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