何もかも失った少女が幻想郷で夢幻の幸せを見つける話 [完結]   作:抹茶だった

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9話 秘密

 

 

 

 紙に書かれた魔法陣に魔力を流しこむ。

 魔法陣の中に十分な量の魔力が入ると紙が仄かに光る。それを目安に魔力の供給を止め、紙を瓶に詰める。

 これをひたすら繰り返していく。

 

 山のように積み上がる魔法陣の紙を見ると頭を抱えたくなる。でもこれを終わらせればきっと魔理沙様は喜んでくれる。

 今魔力を流し込んでいる魔法陣は、起動すると複数の星形弾を発射するようになっている。この魔法陣を起動するのはごく少量の魔力でできるため、ここぞという場面で大量の弾幕を展開しつつ、自分は別の魔法を使うことができる。

 

「アイ、ここいらでちょっと休もうぜ」

 

「うん」

 

 魔理沙様はそう言いつつも魔法陣とにらめっこしている。魔法の……いや、弾幕のこととなると本当に熱心な人だ。

 

「お茶淹れるね」

 

「ん」

 

 ミニ八卦炉に魔力を流し、ヤカンを火にかける。

 魔理沙様はすごい人だ。私がちょっと思いついただけのことを短期間で実用できるようにしてしまった。知識や経験の量が私なんかとは桁違いだ。

 命の恩人ということを抜きに来ても、彼女の手伝いができるのは光栄なことなんだと思う。

 ……あら、お湯が沸いたみたい。

 キノコ茶を淹れ、魔理沙様のそばに置く。

 

「淹れたよ」

 

「ありがとうな」

 

 私が椅子に座ると、魔理沙様は紙を置き、目頭を少し揉んだ。

 

「もっといい魔法陣を思いつきそうなんだが、なかなか難しいな」

 

「どんな魔法陣なの?」

 

「あれだ、これと同じ機能でもっと少ない線で書けるやつを考えている。このままじゃ魔法陣に流さないといけない魔力が多すぎる。これ以上機能を減らすわけにもいかないから――頭を使うしかないんだが」

 

「……難しいこと考えているんだね」

 

「そう、これが難しいんだ」

 

 魔理沙様はどこか誇らしげに言った。

 魔法陣を手に取って見てみる。アリスのところで勉強したおかげか、ところどころわかる部分がある。

 一つの魔法陣の中に魔力を貯めるための呪文と弾幕を放つための呪文が書いてあって、その二つが巧みに組み合わされている。

 

「何か分かるのか?」

 

「……さっぱり分からない」

 

 私がアリスのところで魔術の勉強をしたことを、魔理沙様は知らない。これを話せば魔理沙様の記憶を消したことがバレてしまうかもしれないからだ。

 今の私は1、2ヶ月ほどみっちり魔法の勉強をした関係で、初級くらいなら名乗れる魔法使いになっている。でも魔理沙様の記憶上では魔力の放出ができる程度の初心者でしかない。

 

 ……ああ、もどかしい! 全部話してしまいたい! 全てを明かして今できる知識の全てを使って魔理沙様をサポートしたい!

 

「魔力はまだ残っているか?」

 

「半分くらいかな。まだまだ余裕があるよ」

 

「それは頼もしい。この数をこなしてまだそれだけ魔力が残っているということは、アイは制御が上手いんだろうな。左腕の方はどうだ?」

 

「ちょっと痒いくらいかな」

 

 記憶魔法の勉強をしたとか、魔力の扱いが上手くなったとかは誤魔化せたけど、左腕がなくなったことは隠し用がなかった。

 

「魔理沙様の書き置きをちゃんと守っていたらこうならなかったのに……」

 

「魔法の森はわりと物騒だからな。特にあの異変の時は妖怪たちも興奮していた。……アイが生きていてよかったよ」

 

「つぎ紫さんに会ったら感謝しないと……」

 

「うへぇ、あいつにお礼か。あれに借りを作るのはちょっと癪だけどな」

 

 

 

「全く酷い言い草ね」

 

 

 

 ――隣にいつのまにか八雲紫が座っていた。

 

「えッ!?」

 

 思わず退いた。その勢いで椅子から転げ落ちた。

 

「相変わらず、可愛い反応をしてくれて嬉しいわ」

 

「急に出てこないでくれよ……いや、違うな。急じゃなくても出てこないでくれよ紫」

 

「こっちの白黒は冷たいわね。せっかくアイちゃんに関する大事な話をしに来たのに」

 

 私の……大事な話?

 八雲紫はおもむろに空中に穴を開け、そこからティーカップを取り出した。そこにポットからキノコ茶を淹れた。

 

「さて、じゃあまず、アイちゃんは人間ではないわ」

 

「お前……!」

 

「そう怒らないで。アイ――貴女は人間じゃない。生き霊という名の妖怪よ」

 

 ……生き霊? 私が……?

 

「……何言ってんだよ。アイは元は外界の人間だ。記憶こそないが、持ち合わせている常識や知識は外界のものだ」

 

「私の話とその話は矛盾しないわ。生き霊というのは生者から分離した魂が人の形になったもの――これが今回の問題の核になるのよ」

 

 八雲紫はティーカップに一度口をつけた。

 

「外界にいるアイちゃんの生き霊がここにいる貴女。そして、幻想郷は世界に忘れられた者の行き着く場所――貴女という外の世界で記憶されている人間がこの地に存在するのは、幻想郷に大きな負荷がかかるのよ」

 

 八雲紫は穏やかに微笑んだ。

 

「本格的に博麗大結界に影響があるまで、今日から2週間の猶予があるの。2週間でこの世界との別れをすませるといいわ」

 

 2週間? たったの?

 私は魔理沙様に何一つ恩返しができていないのに?

 もっと魔理沙様と一緒にいたいのに?

 

「そんなのって……ないよ。私ずっと幻想郷ですごしたい。魔理沙と魔法の勉強したい。魔理沙の役に……立ちたい」

 

「アイは勝手に幻想郷に連れてこられたせいで、右脚と左腕が無くなったんだ。それでも頑張って立ち直ってやりたいこと見つけて――そしたら今度は幻想郷から出ていけって言うのか⁉︎」

 

 魔理沙様は机に拳を叩きつけ、立ち上がった。その勢いで椅子が倒れる。

 しかし、八雲紫は穏やかな表情のまま言う。

 

「ええ、幻想郷は私にとって何よりも大事なものなんだから当然でしょう。ただ、一つ訂正があるわ」

 

 彼女は再びキノコ茶を一口飲んだ。

 

「生き霊は四肢の欠損なんてしてもそのうち治るの。正確には本体と同じ形に戻るの。つまり――貴女の手足が少ないのは、外界の本体が失ったものがそのまま反映されているだけよ」

 

 幻想郷に来る前から無かった……?

 いくら記憶喪失とはいえ、私は目が覚めた時に脚がないことを知らなかったんだけど。そんなことあるの……?

 

「加えて言うと、いま、外の世界では女子高生の脚が何者かによって切断されたという凄惨な事件で話が広がっているわ」

 

 ……切断された? 人に? 私の脚が?

 

「不本意だろうけど、貴女はいま有名人なの」

 

 外の世界という、私にとって心底どうでもいいものに足を引っ張られている。

 苛立ちすら感じる。

 言いたいことを言ったからか、八雲紫は飽きたように2週間後また来ると念押しして消えた。

 

 2週間……。たった2週間……。せっかくまた魔理沙様と一緒にいられるようになったのに、また離れることになる。それも今度別れたら金輪際会えない……。

 なんでこんな酷い目に合わないといけないの。

 私が何をしたって言うの?

 

「くよくよしても仕方ないぜ。どうするか考えよう」

 

「……私が幻想郷にこのまま居続けることはできない」

 

「ああ。幻想郷が消えるとなれば、紫や霊夢が黙っていないからな。無理矢理にでもアイを追い出そうとするな」

 

「私が沢山の人に記憶されているからこんなことに……」

 

 ……沢山の人に記憶されているから、問題なんだ。もしその記憶を全て消すことができたなら。

 でも私の使える魔法は一人一人にしか使えないし、そもそも外の世界に行かないといけない……。

 

「魔理沙、一度外の世界に行った後、戻ってくることはできないの?」

 

「……そう言う話は聞いたことがないな。そもそもアイは外の世界に行ったら身動きとれるのか?」

 

「それもそうだね……」

 

 魔法のない世界で右脚と左腕のない生活……。その状態じゃ幻想郷に行く方法が仮に分かったとしても実行できるかわからない……。

 

「アイが外の世界で認知されすぎているのがな。それをどうにかできればいいんだが……」

 

「それならさ――」

 

 記憶を消す魔法がある。そう言えばいい。だけど、そんな話をしたら、私がなぜその魔法を使えるのか絶対に聞かれる。魔理沙様の記憶を勝手に消したことを知られてしまう。

 そうなれば魔理沙様に嫌われてしまうかも。

 でもこんなとっておきの魔法があるのに、使わないなんて。たぶんこの魔法抜きでやるとなると相当難しくなる。

 言わなきゃ、言わなきゃ、言わなきゃ。

 

「アイ」

 

 魔理沙様は私の方に寄ってくると、そっと抱きしめてくれた。

 

 ……。私は魔理沙様の記憶を消す時に、何を見たんだ。彼女がどれだけ私のことを大切に思ってくれていたかを忘れたの?

 魔理沙様はきっと私のことを突き放したりしない。精一杯謝ればきっと許してくれる。

 彼女は情に厚い、私の命の恩人なのだから。

 

 だから、言おう。

 

「魔理沙」

 

「どうした?」

 

「私ね、記憶を消す魔法が使える」

 

 

 

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