ゴッド・オブ・ウォー《オラリオ》   作:スパルタ人

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評価、お気に入り、感想、本当にありがとうございます。ここすき機能も含めて励みになってますので、これからも応援よろしくお願いします。

また空白期間が長くなってしまいました。二章は一章より簡潔にする予定です。




鼠のサポーター

 

 路地裏から急に飛び出してきたのは、ボロボロで汚れたフードを被った小柄な人物だった。

 そのまま走り去ろうとして、運悪く僕の足に引っかかって転んだその人に、僕は慌てて駆け寄る。

 

「すみませんっ、大丈夫ですか!?」

 

「ううぅ……」

 

 フードの中を覗いてみると、神様より全体的に幼い顔つきと、大きくてつぶらな瞳が目を引いた。

 小さくか細い身体つきから、ライラさんと同じ小人族(パルゥム)の女性だと分かる。彼女の二つ名に引っ張られてか、目の前の少女にも鼠――というよりか栗鼠――のような印象を僕は受けた。

 

「へへへ……追い付いたぞ、テメェっ!」

 

 すると、彼女の後ろを追うようにして、息を荒らげた中年の獣人の男がやって来た。

 血走った瞳で欲望に塗れたような下卑た笑いを顔に貼り付けている獣人の怒号に、小人族の女の子がひどく怯えるのを見た僕は、反射的にその子の前に立った。

 

「あぁ? 何すんだ、小僧。そこを退け」

 

「貴方こそ、この子に何をする気ですか?」

 

「うるせぇ、部外者は黙ってろ! 用があるのは後ろの小人族だよっ! 退かねえとそいつごと斬っちまうぞ!?」

 

 唾を飛ばす男の剣幕は凄まじい。

 確かに僕は事情を知らない部外者だが、この獣人が小人族の女の子に酷いことをしようとしているのは分かった。

 だったら当然、助けるに決まっているだろう。

 

「止めてください……! 相手は女の子ですよ!?」

 

「知った事か! この小僧……マジで殺されてぇのかっ!?」

 

 説得が通じず、それどころか逆上した男はついに腰に差していた剣を抜く。それを見て不味いと思った僕も、咄嗟に背中のベルトに差した《神様の双剣》を抜いた。

 柄頭の鎖が音を立てて僕の腕に巻き付いていく様子に、目の前の男と後ろの女の子から息を呑む音が聞こえる。

 

「へ、へへ……。よさそうな剣持ってんじゃねぇか。おい、それを俺に渡すんなら、そのガキと一緒に見逃してやってもいいぞ?」

 

「断るっ!」

 

 大切な剣を値踏みされた事で、思わず御爺上の口癖が出てしまう。それに、僕が女の子の前から退くつもりも決してない。

 そして、業を煮やした男がついに剣を振り上げると、僕も覚悟を決めてそれに対抗しようと双剣を構える。

 

「――待ちなさい。この街中で、刃傷沙汰を起こすつもりか?」

 

 男の剣が僕へと振り下ろされる直前、力強く凛とした声がこの場に割って入った。

 僕と男は同時に声のした方向を見ると、そこには見知った覆面をした金髪のエルフの姿が。

 その女性を見て、僕は思わず声を漏らす。

 

「リ、リューさん……」

 

「【疾風】……【アストレア・ファミリア】……っ!」

 

 よほど後ろ暗い事があるのか、エルフの素性に気づいた男は逃げるように――いや、事実逃げ去っていった。

 僕は《神様の双剣》を鞘へと戻す。伴って、腕に巻き付いていた鎖も解けた。

 殺し合いにならなかった事に安堵しながら、覆面を脱いで近づいてくるリューさんに僕はお礼を述べる。

 

「あの獣人、以前どこかで……」

 

「リューさん! ありがとうございます、お陰で助かりました……」

 

 モンスターではなく、同じ人間との実戦なんて御爺上以外では僕は未経験だ。人を傷つける事への恐れもあって、散々な結果になっていたかも知れない。

 リューさんは男が逃げ去っていた方角から視線を僕に向け、そして嘆息する。

 

「当然の事をしたまでです。しかしクラネルさん、冒険者同士の諍いはなるべく避けて下さい……。シルの将来の伴侶となる貴方に何かあれば、彼女をひどく悲しませてしまう事になる」

 

 うーん、この人は何を言ってるんだ? シルさんは確か僕の事をからかっているだけでは……。

 

「それより、何でリューさんがこんなに所に?」

 

「ダンジョンからの帰りです。十八階層のリヴィラに野暮用があったので……。すみません、これ以上は……」

 

「あっ! いえいえ、言えないなら結構ですよ! すみませんでした!」

 

【アストレア・ファミリア】の一員として都市中を飛び回る彼女なら、僕のような一介の冒険者には及びもつかない事の一つや二つ抱えていてもおかしくない。

 真面目な気質故にリューさんを困らせてしまった事に、僕は慌てて謝った。

 

「ところで、クラネルさんは何故あの男と?」

 

「えっと、この女の子が……あれ?」

 

「? 誰もいませんが」

 

 いつの間にか僕の後ろにいた女の子は忽然と姿を消していた。

 リューさんも見ていないのか、首を傾げるばかりだ。

 僕たちが剣を抜いたのを見て、怖くなって逃げ出してしまったのだろうか。

 

 仕方無しに、リューさんにお礼を言って僕はその場を後にした。

 

 

 Ω

 

 

 翌日の朝、ベルは昨日購入した鎧とエイナから貰った円盾を装備して、本拠の姿見の前で立っていた。

 

「……よしっ!」

 

 白に近い鉄色のライトアーマーはまるで自重を感じさせず、戦闘で動きに支障をきたすことは無いだろう。

 緑玉色の輝きを放つ円盾も、プロテクターの状態で綺麗に腕に収まっている。

 背中に背負った《炉神の双剣(ブレイズ・オブ・へスティア)》と合わせて、自分もようやく義母達と同じ一端の冒険者になれたような気がして、ベルはしばらくの間感慨に耽っていた。

 

「じゃあ、行ってきます」

 

「ふぁ〜〜い。いってらっしゃ〜~い……」

 

 まだ寝ぼけているヘスティアに別れを告げてから、新装備に身を包んだ少年は本拠を後にする。

《炉神の双剣》の借金を返すためにも、今日も半日中はダンジョンに潜っているつもりだ。

 いつものように『バベル』の前に設けられた中央広場まで歩いてきた所で、自分らしき人物を呼ぶ声を聞いた。

 

「お兄さん、お兄さん。白い髪のお兄さん」

 

「下ですよ、下」という耳朶をくすぐる声に従って下を見ると。ベルの目下にはぎょっとするような大きさのバックを持った、小さな女の子が立っていた。

 

()()()()()。お兄さん。突然ですが、サポーターなんて探してませんか?」

 

 見た目からして確かにサポーターである事が分かるが、汚れたフードから覗く栗色の髪などに強い既視感を呼び起こされたベルは、大きく目を見張る。

 すると少女はニッコリと愛嬌のある――そしてどこか翳りもある――笑みを浮かべた。

 

「君は……」

 

「よければこの私――リリルカ・アーデを連れて行ってくれませんか?」

 

『リリルカ・アーデ』――そう名乗った少女の顔を見て、ベルはさらに瞠目する。

 昨日路地裏で出会った栗鼠のような少女、それにそっくりだったからだ。

 しかし少女の方はベルの顔を忘れているのか、まるで初対面かのように接してくる。

 

「混乱してるんですか? 今の状況は簡単ですよ。お溢れに預かりたい貧乏なサポーターが、自分を売り込みに来てるんです」

 

「そ、そうじゃなくて……僕たち、昨日会わなかった?」

 

 あの小人族の子、と続けた所で、リリは「小人族? リリは犬人ですが?」とフードを脱いで可愛らしい獣人の耳を晒した。

 

「あれぇ……?」

 

「で、リリを連れてってくれるんですか? くれないんですか?」

 

 ひとまず人違いであると分かったが、ベルは考え込んだ。

 最近エイナからは早くパーティを組め、と催促され続けていたベルにとっては正に渡りに船だったが、ここですぐに飛びつくほどおめでたくは無かった。

 

「でも、僕、他派閥の冒険者だよ? なんでわざわざ僕に?」

 

「リリは見ての通りちっこくて弱いので……。だから【ファミリア】内でも邪魔者扱いされてて、誰も仲間に入れてくれないんですよ」

 

「えっ……」

 

 さらに、本拠にも寝泊まりは愚か居場所も無いと聞いたベルは、自分の知る【ファミリア】との違いに思わず面食らう。

 

 ベルにとっての【ファミリア】とは、自身が失った『家族』と同義であり、祖父が紹介してくれた主神ヘスティアはまさにそれに当て嵌まる。

 たった二人しかいない【ファミリア】だが、その間には決して気休め等ではない確かな絆が存在すると思っているし、苦楽を共にする生涯の関係の筈だとベルは信じていた。

 

 もし、家族を傷つけ奪っていく者がいるならば、ベルはそれに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――。

 ましてや、自分たちが蔑ろにするなど絶対にあり得ない事である。

 

(なんだ、それ……)

 

 いくら【ファミリア】が千差万別とはいえ、ベルの胸中に怒りと哀しみが広がる。そして、動揺。自分の価値観がひっくり返され、目眩までしてきた。

 

「リリのいる【ソーマ・ファミリア】は諸事情あって半解体状態でして。だから、派閥間のいざこざとかは気にする必要は無いかと。それに、主神様もリリ達には無関心極まりないですし……」

 

「まだワインの神様の方がマシなくらいです」と、困惑するベルを見てリリは渋っていると勘違いしたのか、補足説明を付け加える。

 とりあえず、ベルは頭を切り替えて、当初の目的に意識を集中する事にした。

 

「良いですよ。じゃあ、契約金とかは……」

 

「ありがとうございます! でも、今日はお試しという事ですので、ダンジョンの収入の三割恵んで頂ければリリは飛び上がってしまうほど嬉しいです」

 

「えぇっ、それだけ? もっとちゃんと……」

 

 それから暫くの間、ベルとリリは報酬について揉めに揉める事となったのは言うまでもない。

 

 

 Ω

 

 

 ベルが魔石の採集場所に選んだのは七階層と、初めて進出する八、九階層。

 キラーアントを始めた同じモンスターと似たような地形が続くこの三つの階層だが、その先の十階層では大きく様変わりする。

 

 七階層に着くまでの道中に出現するモンスターたちを手に持った《炉神の双剣》で切り払いながら、ベルはリリを伴ってダンジョンの中を進む。

 

「じゃあ、リリさんはもう何年もサポーターをしてるの?」

 

「リリで結構ですよ、ベル様、冒険者様なんですから。まあ、リリは貧弱すぎてサポーターをやるしか無かったのですが」

 

 見た目は十歳ほどの少女だが、リリのサポーター歴は長い。

 加えて、リリは生まれも育ちもオラリオであるらしく、ここに来て半月もしないベルの知らない情報も持っていた。

 ひょっとしてリリは自分より年上なのでは、という疑念がベルの頭を過ぎったが、女性に年齢について聞くのは禁忌(タブー)であると身を持って知っている(ゴスペルパンチ)ため、口を噤む。

 

「じゃあリリさ――リリは、『アルフィア』と『ザルド』って冒険者は知ってる?」

 

「『アルフィア』と『ザルド』ですか……? 申し訳ありません。そのようなお方に、心当たりは……」

 

 リリの答えに、ベルは「そっか……」と気落ちして肩を落とす。

 

「ご友人ですか? それともご家族ですか?」 

 

「僕の義母(はは)義叔父(おじ)だよ。二人とももう亡くなってるけど、昔はオラリオで冒険者をやってたらしいんだ」

 

 昔からサポーター業をやっているリリなら、冒険者であった亡くなった家族の事を知っているのではと、ベルは期待を抱いていた。

 ベルが遠くの村からオラリオに来た理由には、消えた二人の足跡を追いたかったというのもある。

 

「けどあの二人、ここでだいぶやばい事をやっちゃったみたいで……。だから僕のおじう……祖父に、絶対に二人の事を聞いて回らないようにって言われててさ」

 

「つ、追放されたって事ですか……」

 

「そ、そうなるのかなぁ……」とベルは苦笑するが、リリの顔は蒼くなった。

 来て日が浅いベルは知らないが、冒険者が都市から追放される理由は限られてくる。派閥争いに敗北した者達か、都市の治安を乱すような事をした犯罪者かのどちらかだ。

 ベルの口上からでは後者であるとリリには思えたが、そうだった場合、少年にいらぬ火の粉が降りかかる可能性は大いにある。

 そして、物思いに耽るように、ベルはダンジョンの天井を見上げた。

 

「……ダンジョンに潜る度に思うんだ。滅茶苦茶強かったあの二人も、最初はまずここを通ってきたんだって。だから、僕もつい口が滑っちゃったのかも」

 

「そんなにお強い方々だったんですか?」

 

「うん、凄く強かったし、多分第一級冒険者だったんじゃないかな。義母は短文詠唱の魔法一発で家を何度もぶっ壊してたし、義伯父はそれに毎回耐えてたくらいなんだ」

 

 機嫌を悪くした義母が魔法を放ち、好々翁の祖父と巻き添えを食らった家と義叔父が吹っ飛ばされる。

 食卓につくもう一人の巌のような祖父は範囲内にいても直撃したところで泰然としており、ベルはいつもその祖父の後ろに隠れ震えながら嵐が過ぎ去るのを待っていた。

 

「お、お似合いのお二人ではありませんか……色々な意味で」

 

「でも、全然そんな空気にならなかったんだ。不思議だよねぇ」

 

 化物がいる環境に幼い頃から身を置いていたベルに、リリは驚愕する。そして何とか絞り出されたような謝辞に、少年は天然で的外れな応答をした。

 

 

 

 

 断続的に続く鋭い風切り音。耳元で釣り独楽のように回転する双剣がモンスターを切り裂いていく。繋がっている鎖が絡みついた腕を、ベルはさらに大きく振るう。

 

「はあぁぁっ!」

 

 キラーアントの相手はもはや手慣れたものだった。接近されないうちに横薙ぎにして《炉神の双剣(ブレイズ・オブ・へスティア)》を振るえば、囲まれる事はまずない。

 加えて、今はモンスターが来る方角を示してくれるリリがいたため、元より早かった殲滅スピードはさらに早まった。

 

「ベル様、右後ろからも二匹来てますよ!」

 

「っ!」

 

 やや離れた安全地帯から届く声に従って、双剣を鎖を使って引き戻し、振り向き様に接近したモンスターたちを纏めて斬る。

 塵となっていく二匹を最後に、キラーアントの群れは全滅した。これでもう厄介な群れを呼ばれる事は無い。

 さらに、リリの声が轟いた。

 

「真上からパープル・モスです!」

 

 今度は大型の紫の蛾が、上空からベルへ奇襲攻撃を行おうとする。しかしそれを待ち構えていたベルは、冷静に片方の剣を空に(なげう)ち、パープル・モスの胴体を串刺しにして絶命させた。

 最後のモンスターが塵と化した事でダンジョンの一帯に静寂が広がり、ベルは背中に剣をしまって満足げな顔を作る。

 

「――うん! やっぱり、パーティだとスムーズに戦えるね」

 

「えへへ……。リリも魔石集め以外にもお役に立てて嬉しいです」

 

 照れ笑いするリリに、ベルは改めてパーティの重要性というものを思い知らされる。

 ヘスティアから与えられた炎の加護は何度も発動できるものではなく、せいぜい一日に3回が限度。今回はそれを使うまでもなくモンスターを殲滅できた事からも、言うまでもなくソロよりも効率は上がっていた。

 

「しかし、ベル様のその双剣……何で鎖が付いてるのかと思えば、そのような使い方をするとは」

 

「あ、やっぱりリリもそう思う?」とベルは言うが、実際に始めて《炉神の双剣》を振るう所を見せられた時のリリの表情は驚愕に染まっていた。

 フレイル型のモーニングスターや極東に伝わる鎖鎌と言った武器と似ているが、広範囲かつ高速殲滅が可能なこの双剣は、様々な冒険者の武器を見てきたリリも初めて見るものらしい。

 

「僕も最初に渡された時は困惑しちゃったから。神様の話だと、これには原型があるらしいんだけど……」

 

 ヘスティアに初めて《炉神の双剣》を渡された時、女神の言葉とシルバーバックの動きまで参考にして編み出した戦法。

 

 ――近づかれる前に全員殺れ。

 

 これが正解、というかこれしか無いだろうとベルは思った。ていうか、これを作った鍛冶神(ヘファイ(エ)ストス)と原型の使い手は、何を考えてこのような武器を作ったのかと聞きたくなった。

 

 しかし実際、このセオリーを忠実に守った結果、ベルはモンスターに攻撃を受けるどころか近づかれる機会も減った(そのせいで耐久が上がらない)。

 鎖は自由に動かせるためベル本人にぶつかる心配も殆ど無く。エイナには悪いが、防具や盾が本格的に必要となってくるのは十階層からになるとベルは思っている。

 

「けど、こんなんじゃあ僕、本当に強くなれないよなぁ。今は身の丈に合って無いっていうか」

 

「いえいえ! 武器を使いこなすのも業です! それに翻弄されず、御せるようになればそれは立派なベル様の力ですよ!」

 

「そうかなぁ?」

 

 ベル本人は知らぬ事だが、《炉神の双剣》は渡された時点でLV.2か3相当のモンスター――食人花――を倒している。つまり、成長する武器であるにも関わらず、最初期の状態でも持ち主の力を超えるポテンシャルを秘めているのは事実だ(その分、得られる【上位経験値(エクセリア)】も低い)。

 

 一方で、【ステイタス】の力を以ってしても、時折ベルはこの双剣に腕を持っていかれそうになる事がある。鎖を振り回している最中も重量と遠心力に振り回され、敏捷を活かした戦いが強みのはずが、身動きが出来なくなってしまう。

 己の剣でたたらを踏みそうになるのは情けない事だと悩み、ベルは日々剣の振り方についての試行錯誤を繰り返していた。

 

 余談だが、いつの間にか『力』のアビリティが『敏捷』に次いで凄まじい伸びを見せており、その練習量は如実に現れている。

 

「……ですが、鎖といい剣と言い、確かに凄まじい武器ですね」

 

 リリの視線がベルの背中の武器へと向けられる。その瞳が怪しく光っている事に、ベルは気づかない。

 

「一体、どうやって手に入れたのですか? 失礼ですが、ベル様の仰る通り駆け出しにしては……」

 

 ああ、とベルは相槌を打ってリリの疑問に答えた。

 

「これは僕の神様がヘファイストス様に直々に頼んで、借金までして特別に作って貰った『特殊武装(スペリオルズ)』? なんだ。だから僕の【ファミリア】は借金漬けで……」

 

「へえ、ぇ……。それはお優しい神様ですね」

 

「うん。僕と新しい家族になってくれた、とても大切な人なんだ」

 

 けど無茶するよね、と困り果てながらも喜色を浮かべるベルに、リリは不自然な相槌を打つ。

 

「いいなぁ……」

 

「え?」

 

「あ、な、何でもないです! さぁ、早いとこ魔石を集めましょうっ! 他の冒険者に横取りされる前にっ!」

 

 思わず漏れ出た羨望はベルには届かなかった。

 リリは慌てて話を切り替え、モンスターの死骸から魔石集めを始める。

 その最中もちらちらと、リリはベルの背中の双剣を見やってはため息を吐いていた事も、ベルが気づく事はなかった。

 

 全ての魔石を集め終えてから、二人は地上へと帰還する。

 普段の何倍もの魔石をゲットした事でベルは換金所に来るまでほくほく顔であったが、反対にリリの顔は何故か曇っていた。

 

「リリ、報酬の話なんだけど……」

 

「あっ、はい、ベル様」

 

「こんなに沢山稼いだのは初めてだよ! リリのお陰だ! さっそく二人で分けよう!」

 

 換金を終え、渡された大量の金貨を分けようと、リリに見せるベル。

 その言葉にリリはひどく驚いたような顔をし、ベルは首を傾げた。

 

「どうしたの?」

 

「あ、いえ、ありがとうございます……」

 

「じゃあ、はい」

 

「ちょっ、こんなにたくさん……!」

 

 ぽんと掌に渡された袋の重さは、優に今日の稼ぎの半分ほど。つまり、ベルは一端のサポーターに報酬を山分けした事になる。

 一割、いやその僅かでも貰えれば良い方と思っていたところ。大金を渡してきた事に、リリは戸惑いを見せる。

 

「あ、あの、ベル様? 非常に有り難いのですが、独り占めしようとか思わないんですか?」

 

「え、何で? リリと一緒じゃなかったら、こんなに沢山集まらなかったんだし」

 

「だって、借金が……!」

 

 ベルにとっても勿論、借金で働き漬けなヘスティアを一刻も早く重労働から解放したいという思いもあって、ダンジョンで得た収入はとても大事なものだ。

 しかし、協力して得た金を全部独り占めするような行為は、自分の主神が最も嫌っている事だと分かっていた。

 

「それは僕の【ファミリア】の問題だから、リリは全然気にしなくて大丈夫だよ。それに、リリが頑張って稼いだお金でもあるんだから、独り占めなんかしたら悪いでしょ?」

 

「…………」

 

 リリは視線を金貨の入った袋から上――ベルの方へと向けると、少年は人好きのする笑みを浮かべた。

 

「明日もよろしく、リリ」

 

「……へんな人」

 

 そう言ってニッコリと笑うベルに、リリは表情を隠すためにフードをさらに深く被った。

 

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