ゴッド・オブ・ウォー《オラリオ》   作:スパルタ人

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エイナさんを今まで出してなかった事に気づいた今日この頃。
でも、ベル君のヒロインって、結局あの牛(ry


神たちの思惑

 

「ベル君、最近元気ないね?」

 

「え……?」

 

『神の宴』から二日が経った頃。

 いつものようにダンジョンから地上に帰還し、ギルドで魔石の換金を行っている最中、ベルは眼鏡をかけたハーフエルフの受付嬢から心配そうに声をかけられた。

 

 エイナ・チュール。ベルの担当アドバイザーで、何かと気にかけてくれる姉のような存在である。

 自分の祖父とはまた違った観点からアドバイスをくれるため、ベル自身も彼女の事を非常に信頼していた。

 

「そ、そうですか……?」

 

「うん。ここのところずっと浮かない顔してるし、ダンジョンの到達階層だって更新してないから」

 

 まぁ、今までが破竹の勢いが過ぎたんだけどね、とエイナはたった半月で6階層まで潜った新米冒険者の少年に笑いかける。

 最初こそ少年の【ステイタス】の虚偽を疑ったが、毎回無傷で生きて帰ってくるベルにエイナは何度も驚かされていた。まぁ、今も危なかっしい所は多々あるのだが。

 

「実は……神様がここのところ家を空けていて」

 

「神ヘスティアが?」

 

 真っ黒なツインテールを揺らしている幼女神を思い浮かべるエイナ。

 主神が居なければ【ステイタス】を更新することもできない事から、安全を期してベルは6階層に留まっていた。

 これも、ベルがもう無茶をしないというヘスティアとの約束を守るためである。

 

「『神の宴』に行くと言ってから帰ってきてなくて、連絡も下さらないし、無事なら良いんですけど……」

 

「あの女神様に放浪癖なんてあるとは思えないけど……」

 

 退屈嫌いの神の放浪癖など、珍しい事ではない。

 しかし、ヘスティアという女神はオラリオでは働き者の神として知られている。その神が、果たして眷族も仕事も放ったらかしてどこかに行くだろうか、とエイナは訝しんだ。

 

「もし、心配なら、ギルドから捜索願いも出せるけど?」

 

「い、いえ、そこまでしていただく必要は……」

 

 もしヘスティアに何かあれば、主神を失った事で少年の『恩恵』も失われるはずである。

 しかしそのような事は起きてはいないため、とりあえず命は無事な事は確かだった。

 

「すみません……。ありがとうございます、エイナさん」

 

 そう言って無理やり微笑んだベルに、エイナの心が痛んだ。

 いつも明るく、冒険心溢れる少年が、このような悲壮な笑顔を作るのを見るのは初めてだった。

 

(神様……。どこに行ったんだろう……)

 

 ベルは主神であるヘスティアを家族として深く敬愛している。

 オラリオに来て始めて『家族』になってくれて、まるで失った母親のように接してくれた、炉の女神を。

 そのヘスティアが理由も告げず帰ってこなくなった事に、二人の家族が消えた七年前の出来事がベルの脳裏に蘇っていた。

 

「……ねぇ、ベル君。一回、ダンジョンに潜るのをお休みしたら?」

 

「え?」

 

 唐突なエイナの提案に、キョトンとした顔になるベル。

 

「ここのところずっとダンジョンに潜ってたしさ。ほら、明日は『怪物祭』があるでしょ? 大通りで出店もたくさんあるから、誰かを誘って行ってみたら?」

 

『怪物祭』。オラリオに来てまだ日が浅いベルにとっては初耳だったが、エイナが説明してくれる。

 

「年に一度、オラリオで開かれる、【ガネーシャ・ファミリア】主催の催しでね。円形闘技場(アンフィテアトルム)を丸一日使って、あの凶暴な怪物を調教して従わせるのが目玉なんだ」

 

 まぁ私は当日スタッフの仕事があるんだけど、と苦笑いするエイナ。

 あの恐ろしいモンスターを地上に連れてきて調教するという事に、ベルは困惑したような顔を作る。

 

「か、怪物を調教って、危なくないんですか?」 

 

「まぁ、調教の技術自体は確立してるし……。でも、私としては万が一市井の中にモンスターが解き放たれた場合を考えると、どうしても反対しちゃうかな。そもそもこれ自体が市民のガス抜きとして数年前に始まった催しだったし……」

 

 エイナが眉間にシワを寄せる。エルフの血が流れているからか、真面目で誠実な性格をしている彼女は自身が所属する組織にも厳しい目を向けていた。

 すると、ベルからの視線に気づくと、慌てて手を振った。

 

「あ! でも警備は厳重だし、【アストレア・ファミリア】も協力してくれるから、もしモンスターが逃げてもすぐ対処してくれると思うよ!?」

 

 心配させまいとしてくれるエイナを見て、ベルは思わず笑顔が溢れる。

 落ち込んでいる自分を見兼ね、面倒見のいい彼女が何とかして自分を元気づけようとしてくれているのは分かっていた。

 

「分かりました、ありがとうございます」

 

 エイナに礼を言い、換金済の袋を受け取ってベルはギルドを後にした。

 本拠への道すがら、ベルはエイナの言っていた『怪物祭』について考える。

 田舎暮らしだった故に祭りなどの行事には縁遠く、折角のエイナからの勧めもあって、既にベルは『怪物祭』に行く気でいた。

 

(でも、誰を誘えば……)

 

 一人で行くのは少し寂しい気もするが、主神のヘスティアが明日までに本拠に帰ってくるかは不明だ。

 他に誘うような人物もいないので、祭りの屋台を冷やかすだけにするのも面白いかもしれないと結論づけた。

 

 そして、ベルが今朝シルにもらったバスケットを返すために『豊穣の女主人』の両扉を開くと、それを待ち構えていたかのようにその人物が急接近した。

 

「あっ、ベルさん!」

 

「シルさん?」

 

 店に入ってきたベルに接近してきた薄鈍色の髪の美少女、シルは、ベルの方へと近づいてその手を握る。

 その後ろでは、女将のミア・グランドが疲れ切った顔で、そして何故か同情が混じったような目線でこちらを見ていた。

 呆気に取られる少年の口から疑問の声が漏れるより先に、シルは真っ直ぐにベルの目を見て言い放つ。

 

「明日の『怪物祭』、私と一緒に行きませんか?」

 

 

 Ω

 

 

「…………で、いつまでそうしてる訳?」

 

「……………」

 

 同時刻。【ヘファイストス・ファミリア】の数ある店舗の内の一つ、その三階の執務室でヘファイストスはペンを走らせている。

 本来なら構成員以外は何人も立ち入れないのだが、彼女の紅い瞳の先には、地面に張り付いた黒い球体があった。

 

「私、これでも忙しいんだけど?」

 

「…………」

 

 何を言っても押し黙ったまま頑なにその姿勢を崩さないヘスティアに、ヘファイストスはため息をつく。

 

 二日前の『神の宴』で最初にヘスティアから依頼――懇願された時、ヘファイストスは即座に断った。

 単にヘスティアを甘やかしたくなかったからではなく、その内容があの『ブレイズ・オブ・カオス』を打ってくれというものだったからだ。

 正確には、『打ち直す』のが正しいのだが。

 

「それが一体何なのか、貴方も分かっているでしょう?」

 

 極東の武神から教わった土下座を二日間も続けているヘスティアの真横に置かれた、白布で厳重に巻かれた物体にヘファイストスは目線を動かす。

 今や中身はただの鉄塊でしかないが、その原型が何だったかを鍛冶神は嫌というほど知っていた。

 

 ブレイズ・オブ・カオス。

 神々の言葉で『原初(カオス)』の名を持ちながら『災禍(カオス)』の名も冠する、戦神クレイトスの双剣。

災禍(さいか)双剣(そうけん)】の異名も有する、天界で最も多くの神を殺しただろう神創武器である。

 そのため、同じリヴァイアサンが下界で圧倒的な知名度を誇っているのに対して、天界に限ってはこのブレイズ・オブ・カオスの名の方が轟いていた。

 

「もし他の神たちがこれを見たら、絶対に気を失うわよ」

 

 天界時代、かつてゴッドスレイヤーとして大神(ゼウス)にオリンポスへと招かれたクレイトスは、この双剣を使って悪神や邪神、その遣いの魔獣たちを尽く殺戮せしめた。

 結果としてクレイトスは、オリンポスの審判で下界へ追放されたのだが、それは単に躊躇なく悪神を殺す彼の無慈悲さを恐れたからでは無い。

 

 神が放つ神威のように、その身体に染み付いた『血』の匂いが。

 これまで彼が殺めてきただろう夥しい『同族の血』が、それを感じ取れる神たちを恐怖へと突き落としたのだ。

 

 オリンポスに招かれる以前で、一体いつ、どこで、どれほどの数の神を殺したのかは不明だが。

 初めてクレイトスを一目見た時、その中に『自分と似た』気配を感じて、死が目前に迫ってきたようにぞっとしたのをヘファイストスはよく覚えている。

 ヘルメスやアポロンなど、他のオリンポスの神たちも同じだったという。

 神々は本能的にクレイトスに恐怖を抱くのだ。

 

 最初は恐れから『十二神』に祀り上げられ、それでも堪えられず追放の処遇を与えられた事に、ヘファイストスも思うところが無い訳ではない。

 しかし、クレイトスがあのまま天界で野放しになっているのを静観できるかと言えば、同じ『十二神』であったヘファイストスは首を横に振る。

 悪神たちによる騒動は収まったが、今度はその悪神たちより恐れられるクレイトスによる『狂乱』が、オリンポスで起こりかねなかったからだ。

 いくつかの奸計と早計があったとは言え、追放はオリンポスの神々の総意でもあった。至らぬ所の申し訳なさがあったとはいえ、ヘファイストスもまたそれに首を縦に振った一柱であった。

 

「まさかまたこれを目にする事になるとね……」

 

 そして、また白布へ視線を向ける。

 ブレイズ・オブ・カオスを今の『鉄塊』に変えたのは、他でもないヘファイストスである。

 

 クレイトスを追放する際、そのまま下界に解き放つには危険過ぎるとして、大神の命令で『炎』を抜き取ったのだ。

 ただの鉄塊と化した後のブレイズ・オブ・カオスはヘファイストスの手元からいつの間にか消えていたが、それを神友であるヘスティアが所持していたとは思いもしなかった。

 

「まず、聞かせて。これはどうやって手に入れたの?」

 

「クレイトス……ベル君の祖父から……」

 

「祖父、ね……」

 

 天界を追放されてからのクレイトスの行方も知れなかったが、まさか戦いから一線を引き『人』として生きていたとは。戦神からの復讐を恐れ、下界に降りなかった神が聞けばどんな顔をするだろうか。

 ヘスティアがヘファイストスに自身の眷族についての詳細を隠していたのも納得である。

 

 ロキがベル・クラネルに目をつけているのもそれが関係しているのかも知れない。何故か彼女は、ずっと前までクレイトスの所在を聞き回っていたのだ。

 そして、ヘファイストスの口調が詰問するものに変わる。

 

「まさか『神殺し』の武器を私に打たせるように、クレイトスから頼まれたの?」

 

「それは違う!」

 

 肯定した場合、ヘファイストスはヘスティアとのこれまでの縁の一切合切を断つつもりでさえいた。

 だがヘスティアはがばっと張り付いていた頭を上げて否定し、そして必死に訴える。

 

「これはボクの判断だ! クレイトスは手紙で『任せる』としか書いていないし、ベル君もクレイトスとこの武器に関しては何も知らない!」

 

 ヘスティアの判断に『任せる』と。

 戦神の言葉に鍛冶神は目を細める。

 天界でヘスティアやアストレアなど僅かな神は彼を庇っていたが、当のクレイトスが全く神意を明かさない事に、ヘファイストスは不信感を募らせる。

 

「じゃあ教えて、貴方は何をしたいの? クレイトスが関与してないのなら、なんでこれを私のところに持ってきたの?」

 

 天界でも神匠と謳われるほどの鍛治の腕を持つヘファイストスは、大神も全幅の信頼を寄せている自身の鍛治の腕に誇りを抱いていた。

 いかな事情があれど、それが『神殺し』を打つ為に使われるくらいなら、この手を自分で切り落とした方がマシだと思っている。

 

「あの子の力になりたいんだ……!」

 

 するとヘスティアはまた頭を地につけ、腹の底から絞り出すように声を漏らした。

 

「いま、あの子は変わろうとしているっ! 『理想』のために、『約束』のために高く険しい道のりを走り出そうとしている! だから、欲しい! あの子の助けとなる力が、あの子の道を切り拓ける武器がっ!」

 

 視線はずっと床に縫い付けたまま、ヘスティアは目前の神へ思いを吐露する。

 包み隠さず、自分という存在をぶつけるために。それは信頼を勝ち取るための儀式であった。

 

「君がこれを打つのを嫌がるのは分かっている! だけど、これからのベル君のためにも武器が必要になるんだ!」

 

 早すぎるその成長の助けになるには、並の武器では足りない。それこそ風化し屑鉄と化した『神殺し』で、新たな武器を作り出すくらいはしなければ。

 ベルの成長のためならと、神友であるヘファイストスに罵られ絶交を告げられる覚悟をもって、ヘスティアは頼み込んだ。

 

「『神殺し』には使わない! ううん、ボクが絶対に使わせたりはしない……! だから、頼むっ、ヘファイストス!」

 

 鍛冶神が厭う『神殺し』に利用しない事を目の前で誓って、最後に絞り出すように声を出す。

 

「何もできないのは、もう嫌なんだよ……!」

 

 強い覚悟と弱々しさが入り混じったその言葉は、ヘファイストスを動かすに足りた。

 また甘やかしてしまうなと思いつつ、ヘスティアの眷族を思う熱意には答えてあげたかった。

 

「……分かったわよ、作ってあげる」

 

「! いいのかい!?」

 

 もう一度ばっと頭を上げるヘスティアに、ヘファイストスはため息を交じえて言った。

 

「私が頷かなきゃ、あんた梃子でも動かないでしょうが」

 

「ありがとう! ヘファイストス!」

 

 にぱっと破顔するヘスティア。

 一応依頼という形なので、代金はちゃんと払うようにと忠告すると、その笑顔に若干罅が入ったものの、ヘスティアは承諾した。

 そしてヘファイストスは、ヘスティアの隣にあった、ブレイズ・オブ・カオスだった鉄塊が包まれた白布を手に取る。

 

「……まぁ、私もずっと、この武器を壊した事に思うところが無かった訳じゃないしね」

 

『神殺し』には用いられたが、出自も製作者も不明の業物としか結論付けられなかったこの武器を鉄塊にしたのは勿体無い事であったと、一人の鍛治師としてヘファイストスは思っていた。

 鍛治師による幾度もの加工と、施された装飾などその武器の全ても失わせてしまったのだ。

 そして不意に訪れた、二度とないチャンスに柄にもなく血が騒いでいる事に、自分もまたとある眷族と同じ、どうしようもない鍛冶狂いなのだと思い知らされてしまう。

 

「とりあえず、これは鋳潰して……『神殺し』をそのまま練磨するのは流石に縁起悪いしね……。どうせなら、これには生まれ変わってもらいましょう」

 

 これから作るのは決して、神々を恐慌させる『神殺し』などではない。

 使い手の体格、得物、成長に合わせて、ブレイズ・オブ・カオスを【新生】させる。

 

 三千年の時を経て風化したとはいえ元が神創武器であるため、神匠としてではなく『神の力(アルカナム)』を使えない人の身である今の自分で、一体どれほどのモノが出来るのかはヘファイストスでさえ予想できない。

 だが、やるからには全力で最高のモノを作り出す。半端なモノを作ってしまえば、それこそ【鍛冶神(ヘファイストス)】の名折れである。

 

「これからやる作業、あんたも手伝いなさいよ? 代金分、今からしっかりと働いてもらうから」

 

「わ、分かってるよ」

 

 土下座の体制から久し振りに立ち上がってふらつくヘスティアを後目に、ヘファイストスは紅緋の(ハンマー)を手に持ち、過去の自分の作品を参照しながら思案する。

 駆け出しの冒険者に持たせる、神創武器を素材とした一級品装備。

 その無理難題を叶えるために。

 

 

 Ω

 

 

 とあるカフェの二階にあるテラスから、紺色のローブで身を覆うその人物は、建物に面した人々でごった返す大通りを俯瞰していた。

 只人、獣人、エルフ、ドワーフ……その一人一人の『魂』の色を退屈そうに、そしてその中から何かを探すようにして見ているのは、美の女神フレイヤである。

 

「よぉ、待ったか?」

 

「いいえ、少し前に来たばかりよ」

 

 するとそこに、朱色の髪を後ろで結わえた、だらしない男性のような服装の女神、ロキがやってきた。

 ロキはフレイヤと同じテーブルに彼女と向かい合うように座ると、彼女に断りを入れてから朝食を頼んだ。

 

「それで、貴方の後ろにいるその子はいつ紹介してくれるの?」

 

「なんや、紹介がいるんか」

 

 ロキは一人ではなく、眷族である【剣姫】、アイズ・ヴァレンシュタインを伴ってこの店に来ていた。

 フレイヤもふと目を細めてしまうような美しさを持つ金髪金瞳の少女は、対面の美神に向かって丁寧に一礼する。

 

「ふふふ……可愛いわね。ええ、ロキがこの子に入れ込む理由も分かるわ」

 

「せやろ? うちのお気に入りの子やで!」

 

「貴方も下界に来て変わったわねぇ」

 

 そう言って優雅に笑うフレイヤ。

 今日の『怪物祭』のために連れてきたアイズを自分の隣に座らせると、ロキも照れくさそうに笑う。

 旧知の仲だから成立するてらいのない会話だが、続くフレイヤの言葉にその安穏とした空気は唐突に終わりを告げた。

 

「ほんと。あの(ひと)にずっと引っ付いていた貴方からは想像もできないわ」

 

「……………」

 

「…………?」

 

 何かの琴線に触れたようにロキの動きが停止する。

 対するフレイヤの様子は変わらず、指でカップを弄びながら話を切り出した。

 

「……で? なんで私をここに呼びだしたのか訳を聞きたいのだけれど?」

 

「とぼけんなや、あほぅ」

 

 二人の間で剣呑な空気が流れる。

 滅多に見せない真剣な顔を作るロキに、アイズは自然と身構えてしまう。

 

「何をやらかす気や」

 

「何のことかしら?」

 

 詰問する口調にも平然としているフレイヤ。

 しかしロキはそれに苛立った様子も無く、ただ淡々と問い詰めていく。

 

「最近動き過ぎやろ。『神の宴』なんて興味ない言う取ったのに急に顔出すわ、情報収集には余念は無いわ……何を企んどる?」

 

「企むだなんて、人聞きの悪いこと言わないで?」

 

「とぼけんなや」

 

 この神が動いて碌な事になった試しがない――天界でも知った仲である故に、ロキはフレイヤへ敵意の眼差しを向ける。

 こちらに面倒が及べば叩き潰すぞ、と言外に告げるように。

 射殺すような視線にも、フレイヤは超然と微笑むだけ。

 いつの間にか店は三人だけの貸し切り状態になっていた。

 

 永劫に続くと思われたその最中――ロキががくんと脱力する。

 

「男か」

 

 どこか確信めいた口調と共に、店内の雰囲気が一気に平常に戻った。

 女神は何も答えないが、逆にそれが答えになっているようなものである。

 

「またか……? また男なんか? お前さぁ」

 

「あれは本当に悪いと思ってるわよ。さっきのは魔が差して意地悪しただけ。もうしないわ」

 

 テーブルに額がくっつくまで項垂れて、呆れ果てるロキ。それを見て、フレイヤはちょっとだけ申し訳無さそうにしていた。

 とある嫌な出来事を思い出してしまったせいで、ロキの気分は最低辺にまで落ちる。

 そして右手の薬指に嵌められた()()()()に触れながら、起き上がったロキはうんざりした顔を作る。

 

「今度は誰や? どこの眷族の子が欲しくなったんや?」

 

 フレイヤは多情――つまるところ男癖が悪い。

 その対象は神も人も問わずだがもっぱら下界の子供たちで、その魔性の『美』を用いて自身が気に入った男を魅了して惹き込むのだ。

 天界でもフレイヤ絡みの事件はだいたい大騒動に発展し、それはロキにも深いトラウマを植え付けていた。

 

「この色ボケ女神……年がら年中盛りおって」

 

「あら心外。分別くらいはあるわよ」

 

 抜かせ、とロキが吐き捨てる。

 どうせ今回も他のファミリアの眷族が目について、欲しくなってしまったのだろう、とロキは当たりをつけた。

 

「で? どんな男なんや?」

 

 ロキが特徴を聞くのは野次馬根性からではなく、その子供に何かあったら自分が話くらいは聞いてやろうという、享楽主義の神にしては真っ当な親心からによるものである。

 仮に名前を聞いても絶対に明かさないだろうと分かった上でだ。

 

 するとフレイヤはロキから視線を外し、再び窓ガラスの向こうの大通りに目を移して、またその中にいる誰かを探す。

 

「……強くはないわ。でも、傷ついて、泣いても、絶対に立ち上がって。『理想』のために走り続けられる頑張り屋さんな、そんな子」

 

 でも、と細い唇が震える。

 

「不思議なの、燃えているのよ。見ているこっちまで熱くなって、目を覆ってしまうほど、白熱している魂」

 

 フレイヤの声に熱が籠もる。

 

「綺麗だった。透き通っていた。けどね、同時に真っ白に燃えているの。……あんなの見たこと無かったわ」

 

 だから目を奪われた、惚れてしまった、自分だけのものにしたくなった、と。

 いつもと一味違った様子に、ロキは心底面倒くさいとため息をついて、目をつけられた冒険者に内心で合掌を作る。

 

「見つけたのは本当に偶然。そう、あれは――」

 

 ふと、窓の外に向けていたフレイヤの銀の視線が、人混みの中を駆ける『真っ白な』頭を見つけた。

 ――次の瞬間、フレイヤは椅子から立ち上がった。

 

「ごめんなさい。これから約束があるの」

 

「はあっ?」

 

「また今度会いましょう?」と笑顔で言って、ぽかんとするロキを置いて颯爽と去っていくフレイヤ。

 その場にはロキとアイズの二人が残された。

 

「……なんや、あいつ? 急に立ち上がって」

 

 ふと、ロキは自身の隣にいたアイズもまた、フレイヤと同じく外の方に視線を向けていたのに気づく。

 彼女の金の瞳もまた、奇しくも美の女神の銀の瞳と同じく、見覚えのある白い頭を追っていた。

 

 

 




《ブレイズ・オブ・カオス》
・神創武器。
・別世界の冥府で打たれた、炎を宿した刃。
・鎖は契約の証。
・破壊は不可能。

《リヴァイアサン》
・別世界のとあるドワーフの名匠の兄弟が、巨人族の【英雄】のために送った戦斧。
・クレイトスの妻フェイの形見。
・刃先に冷氷を纏わせる。
・持ち主の元に必ず帰還する。
・破壊は不可能。というよりも許されない。
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