せっかく美少女になったのだからとヤケになって裸になった。 驚く程に興奮できなかった。
いそいそと服を着直し、僕は憤慨した。
「戻れないじゃないか!」
僕以外誰もいない部屋で叫んでも、僕以外に届くはずもない。 せっかく魔王城からこっそりくすねた極上の魔石だったというのに、床に砕け散ったソレからはもうカスみたいな魔力しか感じ取れなかった。
さて、どうすれば元の姿に戻れるのだろうか。
日の暮れかけた窓の外であほうとカラスが鳴く。 それが無性に腹立たしかった。
世界から魔王の脅威が去り、世界は嘗ての繁栄を取り戻しつつあった。 ひっきりなしに街に出入りしていた兵士たちは王宮へと戻り、鎌や斧も魔物を狩るためではなく、本来の目的を果たす為に構えられるようになった。
未だに魔王の残党らしき魔物が目撃されることもあるが、そのいずれも小規模で、発見され次第派遣された兵士や猟師に退治された。
かの魔王を討伐した勇者一行も誰一人欠けることなく帰国し、各々復興に尽力してくれている。 人々が魔族への対策で心を通わせた結果、以前よりも団結力も上がった。 概ね世界は人類にとって良い方向へと進んでいた。
そんな平和を感受しながら国を救った勇者アルフは、相棒とも、親友とも呼べる仲間の元へ向かい歩みを進めていた。
「ゼスタの奴、ほっておくとずっと研究だ、新魔法だって家に篭るんだもんなぁ。 アイツにも手伝ってもらわないと忙しくてたまんないよ、まったく」
勇者はひどく疲れていた。 理由は明白、復興作業として彼方此方に駆り出され、こき使われているからだ。 あのバカ王にはいずれ天罰を下さねばならないと彼は心に誓っていた。
そんな生活で溜まりに溜まった愚痴を吐き出すついで、上述の通りにあの出不精の魔法使いにも復興作業に出張ってもらおうというのが彼の目的である。
見晴らしのいい小高い丘の上に彼の自宅はある。 既に夕暮れ時ではあったが、子供の頃から通い慣れたその家に彼はノックも無しに入り込んだ。
「ゼスター! 家に篭ってばっかりじゃ体に毒だぞー!」
彼がこうして上がりこめば、喧しい奴めと笑いながらゼスタは現れる。 そう、あの魔王討伐への旅の始まりもこうだった。
彼らにとっていつものやりとり。 その筈であった。
「ゼスター? いないのか?」
あの研究の虫が珍しい。 そうアルフが思った直後、とてつも無い悪寒が彼の身体を貫いた。
瞬時に壁を破って家を飛び出し、臨戦体制を整える。
「な、何だっ!? この悍ましい魔力は!?」
あの魔王と同等かそれ以上に禍々しい気配。 そして殴りつけられるかの様に伝わる凄まじい魔力。 なぜこんな近くに来るまで気づかなかったのか、明らかな異常事態が起こっていた。
そうして警戒を続けていた彼の前に、優雅な仕草と共に一人の美しい少女が現れた。
「……何者だ」
アルフには一目で分かった。 眼前の奴は化け物だ、と。 それもあの魔王と比べ物にならぬほどの。
それでもやるしか無い、何故なら彼は勇者だからだ。 化け物に対して構えをとった。
「そんなの気にしなくていいわ。 さて、私は行くから、付いてこないでね」
「貴様、ふざけているのか…… ゼスタは、この家の家主をどうした!」
「……さあ? 消えちゃったわ、こんな風に」
そう少女が答えた瞬間にはもう彼の目の前から少女は居なくなっていた。 恐らくは魔法の類であろうが、アルフにはそれが発動した瞬間すら確認する事が出来なかったのである。
「き、消えた…… くそっ! ゼスタ、ゼスタァァァッ!!」
再び家へと飛び込み親友の姿を探すもそこには誰も居なかった。 彼の研究室には微かにだが、未だ禍々しい魔力を放つ魔石の残骸が散らばっているばかりであった。
人里離れた山の中。
悍ましい魔力を持った少女は一人、木に寄りかかって胸を撫で下ろしていた。
「っぶねー、アルフに魔石をパクってきたのバレる所だった」
少女、改めゼスタである。
時を少し遡る事としよう。
「何者だ……」
急にやってきたアルフに僕は尋ねられた。
え、てかなに、怖い。 なんでコイツいきなり家ぶっ壊してんの?
文句の一つも言いたいけども、まさか馬鹿正直に『魔王城から黙ってパクった魔石で実験してたら暴走して姿が変わっちゃったぜ!』なんて言えるはずもない。
このクソ真面目な勇者様の事だ、嫌になるくらいのお説教を喰らうに決まっている。
したらば、僕が取るべく行動はただ一つ!
「そんなの気にしなくていいわ。 さて、私は行くから、付いてこないでね」
取り敢えず他人のフリして誤魔化して、この場から逃げ出そう。 幸い僕だと言う事に気がついていないし、ついてくるなんて事もあるまい。
「貴様、ふざけているのか…… ゼスタは、この家の家主をどうした!」
ヤバい。 なんか知らんがメチャクチャ切れてる。
アルフさんや、その構えは魔物に対して使うものですぞ! こんないたいけな少女に向けるんじゃあありません!
なんてふざけてる余裕も無さそうだ、今にも突撃してきそうな気配を感じる。
「さ、……さあ? 消えちゃったわ、こんな風に」
そう言って僕は迷彩魔法を発動させた。
ただ単に姿と魔力を隠すだけのこけ脅しの魔法だが、長ったらしい詠唱も必要なく使える為結構便利なのだ。 発動中はその場から動けないし、維持してるだけで馬鹿みたいに魔力を待っていかれるけど。 完成させたのは最近だし、アルフにもこの新魔法を完成させた事は伝えていない。
「き、消えた…… くそっ! ゼスタ、ゼスタァァァッ!!」
故に上手くいった。
僕の姿が見えなくなったアルフは壊れた僕の家へと突撃していく。
今のうちに遠くへ逃げよう。
一応、迷彩魔法を発動したままで瞬間移動の魔法を詠唱していく。 これまた馬鹿みたいに魔力を消耗するし、集中しないと正確な場所まで行けないからあまり使いたくはないけど、とにかくこの場から一度逃げ出したい。
僕はそうして魔法を唱えた。
「全く! 散々な一日だよ! 結局、変身魔法は失敗。 元に戻れないし! アルフの馬鹿は家ぶっ壊しやがったし!」
しかしながら意味が分からない。 いきなり家を壊したのもそうだけど、どうしてあんなに敵意をぶつけてきたのだろうか?
家に入ってきた時の声の調子はいつも通りだったし……
僕を探していたみたいだったけども、何かしてしまったのだろうか? そんな怒られるような事、バレないようにしかしていない筈なのになあ。
日がどっぷりと落ちて辺りが暗くなっていく。 家には、帰れない。 まだアルフがいる可能性がある。
「畜生、今日は野宿するしかないか…… あーあ、目が覚めたら元の姿に戻ってないかなあー」
誰に言うでもなく独りごちる。 旅を終えて以来、久々の落ち葉のベッドはやはり最悪の寝心地であった。
視点コロコロ変わって我ながら読みにくいなあと。
のんびり更新していきますよー
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